一九三八年十月
確認事項。
ポーランド。
テシェン地域を取得。
国内反応。
歓迎。
軍事的評価。
一定の成果。
経済的評価。
価値あり。
外交的評価。
複雑。
結論。
得た。
だからこそ、
次を見る。
「国内では評判がいい」
ポーランド軍将校が言った。
ユダヤ人実業家は新聞をめくった。
「当然でしょう」
「当然か」
「長年の問題です」
元白軍将校が横から言った。
「人間は、取った土地より取れたことを喜ぶ」
ポーランド軍将校が眉をひそめた。
「また嫌な言い方をする」
「間違っているか」
「……完全には」
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ワルシャワでは、
成功と見る者が多かった。
長く争われた地域。
ポーランド人住民。
鉄道。
工業。
炭鉱。
国境。
説明できる理由はいくつもある。
そして何より、
実際に国境が動いた。
自国に有利な方向へ。
それは政治的には強い。
元白軍将校はそのことを否定しなかった。
だから余計に、
彼は地図を畳まなかった。
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「何を見ている」
ポーランド軍将校が聞く。
「ドイツ」
「またか」
「まただ」
「今はこっちの話だ」
「だから見ている」
元白軍将校は鉛筆を置いた。
「チェコスロヴァキアが弱くなった」
「そうだ」
「誰が一番得をした」
部屋が静かになった。
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ポーランド軍将校が答える。
「ドイツ」
「どの程度」
「それは軍が見る」
「お前も軍だろう」
「言える範囲がある」
「では言える範囲で」
ポーランド軍将校は少し考えた。
「国境が有利になった」
「他には」
「工業力」
元ドイツ軍技術者が顔を上げた。
「そこだ」
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ズデーテン地方。
単なる山地でも、
単なる国境でもなかった。
工場。
設備。
技術。
交通。
防御施設。
元ドイツ軍技術者は資料を見ながら言った。
「土地を取っただけではない」
「知っている」
ポーランド軍将校が答える。
「工場も入る」
「人も」
「設備も」
「そして」
技術者は地図を見る。
「次に何か作る時、前より楽になる」
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ユダヤ人実業家が帳簿を出した。
「工作機械の取引価格がまた動いています」
「上がった?」
「品目によります」
「理由は」
「需要。移転。先行き不安」
「チェコ側企業は」
「契約の見直しが増えています」
「ドイツ側は」
「買います」
「何を」
「設備も。会社も。権利も」
ポーランド軍将校が嫌そうな顔をした。
「早いな」
実業家は答えた。
「国境変更は、安売りの季節になることがあります」
元白軍将校が言った。
「嫌な商売人だな」
「私は買っていません」
「だからまだいい」
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元独立運動家は、
別の数字を持ってきた。
「人が動いている」
「どちらへ」
「両方」
「両方?」
「残る者。出る者。戻る者。逃げる者」
簡単ではない。
ポーランド側へ来る人間。
チェコ側へ行く人間。
ドイツ支配下へ入りたくない者。
逆に、新しい状況を歓迎する者。
家族だけ動かす者。
仕事だけ残す者。
元独立運動家が言った。
「国境線が一つ動くたび、生活が何百本も動く」
ポーランド軍将校が答えた。
「何百どころではないだろう」
「だから面倒なんだ」
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WILK自身も、
テシェン地域で仕事を増やすことになった。
鉄道。
修理。
物流。
倉庫。
食料。
機械。
「儲かるな」
ポーランド軍将校が言った。
ユダヤ人実業家は答えた。
「儲かります」
元白軍将校が見る。
「嫌そうだな」
「儲かること自体は嫌ではありません」
「では」
「儲かった理由は記録しておきます」
「国境が動いたから?」
「はい」
「それでいい」
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元ドイツ軍技術者は、
現地工場から来た設備一覧を見ていた。
「これ、古いな」
「使える?」
「使える」
「新しい設備に換える?」
「急ぐな」
「なぜ」
「動いているからだ」
「でも効率が」
「またそれか」
技術者は書類を叩いた。
「国境が変わった翌月に工場を止めるな」
「改善は?」
「後だ」
「いつ」
「人が落ち着いてから」
元独立運動家が少し笑った。
「珍しく人が先だな」
「最近うるさいから覚えた」
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社内には、
成功を喜ぶ空気もあった。
社員の中には地域出身者もいる。
親族がいる者。
昔の話を聞いて育った者。
「戻った」
そう言う者もいた。
元白軍将校は、
その言葉を否定しなかった。
ただ、
同じ食堂で別の社員が、
「切り離された」
と言っているのも聞いた。
彼はどちらにも何も言わなかった。
夜。
ポーランド軍将校が聞いた。
「黙っていたな」
「何を言えばいい」
「どちらが正しいか」
「両方、自分の話をしている」
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「国としては一つの結論が必要だ」
「会社は国ではない」
「だから逃げる?」
「違う」
元白軍将校は答えた。
「会社は、同じ工場で二人とも働かせればいい」
それが、
WILKにできることだった。
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数日後。
国外支部からまた報告。
フランス。
チェコ系技術者追加採用。
英国。
家族受入。
ルーマニア。
一時滞在者増加。
ポーランド軍将校が言った。
「テシェンを取ったのに、国外への人員移動は止めないのか」
元独立運動家は答えた。
「なぜ止める」
「国境問題が一つ解決した」
元白軍将校が言う。
「一つだ」
「ポーランドは強くなった」
「少しな」
「なら」
「世界も変わった」
そこで会話は止まった。
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WILKの国外赴任者数は、
十月も増えた。
速度は、
九月ほどではない。
だが止めない。
英国。
フランス。
ルーマニア。
ポルトガル。
遠方拠点。
家族も。
元ドイツ軍技術者が聞いた。
「国内の技術者が薄くなりすぎないか」
元独立運動家が答える。
「育成を早める」
「簡単に言うな」
「世界に言え」
技術者は黙った。
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若い技師が、
初めて主任になった。
三十歳。
本来ならまだ先だった。
元ドイツ軍技術者が横に立つ。
「できるか」
「分かりません」
「いい」
「いいんですか」
「できると言う奴よりいい」
「失敗したら」
「直せ」
「大きな失敗なら」
「俺を呼べ」
若い技師が少し安心した。
元ドイツ軍技術者は続けた。
「ただし、いつまでも呼ぶな」
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ポーランド軍将校も、
若い連絡担当へ仕事を渡した。
「これを軍側へ」
「私が?」
「そうだ」
「説明も?」
「そうだ」
「あなたは」
「別の会議」
「失敗したら」
「報告しろ」
「怒りますか」
「内容による」
「怖いですね」
「俺も怖い」
最近、
五人全員が少しずつ仕事を渡し始めていた。
本人たちは、
まだ後継者とは呼ばなかった。
だが、
世界の速度が、
人を育てる速度まで上げていた。
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元白軍将校のところへ、
チェコスロヴァキアから手紙。
以前の元軍人。
妻。
プラハ。
息子。
フランス。
娘婿。
工場に残留。
本人。
まだ国内。
文章。
「国は残った」
その一行の後。
「ただし、前より小さい」
元白軍将校は、
長く読んでいた。
ポーランド軍将校が聞く。
「何と返す」
「何も」
「なぜ」
「今は向こうが書きたい時だ」
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別の手紙。
ドイツ側。
「戦争が避けられた」
喜び。
「これで落ち着くだろう」
期待。
さらに別。
フランス。
「もう戦争はないだろう」
さらに。
英国。
「平和が保たれた」
元白軍将校は束を机に置いた。
「皆、休みたいんだな」
ポーランド軍将校が言った。
「悪いか」
「悪くない」
「なら休ませろ」
「世界が休むならな」
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その日の午後。
ユダヤ人実業家が新しい報告を持ってきた。
「ドイツ側の工作機械発注が減っていません」
「平和になったのに?」
ポーランド軍将校が聞く。
「平和になったから工場を止める理由はありません」
「軍需?」
「民需も混ざっています」
元白軍将校が言った。
「結局分からんか」
「はい」
「いい」
「何が」
「安心できない理由を、無理に一つにするな」
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五人会議。
議題。
十月以降の方針。
ポーランド軍将校が言った。
「国内では、今回を外交的成果と見る声が強い」
元白軍将校。
「そうだろうな」
「軍も一定の成果と見る」
「そうだろう」
「経済も」
ユダヤ人実業家。
「価値はあります」
「なら」
軍将校は五人を見る。
「少しくらい喜んでもいいだろ」
沈黙。
元独立運動家が言った。
「喜べばいい」
「本当に?」
「社員で現地出身の奴もいる」
元ドイツ軍技術者。
「工場も増える」
ユダヤ人実業家。
「取引も」
元白軍将校も頷いた。
「喜べ」
ポーランド軍将校が少し笑った。
「気味が悪いな」
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元白軍将校が続けた。
「ただし」
「ほら来た」
「地図を畳むな」
笑いが消えた。
「なぜ」
「勝った時が一番畳みたくなる」
「勝った?」
「そう感じている時だ」
元白軍将校はドイツを指した。
「向こうもそうかもしれん」
次にハンガリー。
「こっちも動く」
ルーマニア。
ソ連。
英国。
フランス。
全部を見る。
「一つ得たから、世界が止まるわけじゃない」
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ユダヤ人実業家が地図の脇に、
新しい数字を書いた。
国外社員。
国外家族。
国外資産。
国外図面。
国外契約。
全部、
少しずつ増えている。
ポーランド軍将校が言った。
「成果があったのに、前より国外へ出してるな」
元独立運動家が答えた。
「成果があったから止める理由にはならない」
「国を信用していないように見えるぞ」
元白軍将校が言った。
「国を信用することと」
一拍。
「世界を信用することは違う」
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十月。
新しいポーランド領には、
新しい標識が立った。
役所が動いた。
軍が入った。
鉄道が走った。
W式台車も走った。
工場も動いた。
商売も始まった。
それは、
現実だった。
同時に、
そのすぐ隣では、
チェコスロヴァキアが、
以前より小さな国として残っていた。
さらにその周囲で、
他の国々も次を見ていた。
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WILKは、
成功を否定しなかった。
利益も数えた。
仕事も増やした。
新しい地域へ人も送った。
しかし、
一つだけしなかった。
これで終わった。
そうは書かなかった。
会議記録の最後。
元白軍将校が書いた。
勝った時ほど、
地図を畳むな。
その下に、
ポーランド軍将校が追記した。
勝ったかどうかも、
まだ決めるな。