WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――WILK・商務部雑記
一九三八年十一月

ドイツ方面。

移動商人への締め付け。

増加。

ロマ。

シンティ。

その他、

当局が同様に扱う者。

登録。

移動制限。

逮捕。

確認例あり。

対応。

関係者確認。

なお、

確認を始めた理由。

担当役員が、

ふと思い出したため。


第147話 そういえば、あいつらはどこにいる

 

ユダヤ人実業家は、

 

報告書を途中まで読んで、

 

手を止めた。

 

「……そういえば」

 

若い商務担当が顔を上げる。

 

「はい」

 

「彼らはどうしています」

 

「誰です?」

 

「酒の」

 

「酒?」

 

「いや」

 

少し考える。

 

「馬も扱っていた」

 

「馬?」

 

「金物も」

 

「どこの会社です?」

 

「会社ではありません」

 

さらに考える。

 

「市場に来る人たちです」

 

若い担当者の顔が、

 

ますます分からなくなった。

 

---

 

元白軍将校が、

 

向かいから言った。

 

「誰の話だ」

 

「昔から付き合いのあるロマやシンティです」

 

「ああ」

 

こちらはすぐ通じた。

 

「最近見たか」

 

実業家が聞く。

 

「俺が?」

 

「手紙でも」

 

「ない」

 

「そうですか」

 

また報告書を見る。

 

ドイツ。

 

旧オーストリア。

 

登録。

 

取締り。

 

移動。

 

警察。

 

そこまで読んで、

 

もう一度言った。

 

「……あの人たち、大丈夫なんでしょうか」

 

---

 

これは、

 

WILKとしては珍しい始まりだった。

 

計画ではない。

 

情勢分析でもない。

 

軍からの要求でもない。

 

ただ、

 

一人の男が、

 

昔の知人を思い出した。

 

それだけだった。

 

---

 

ユダヤ人実業家には、

 

昔から妙に広い人脈があった。

 

銀行家。

 

港湾業者。

 

商社。

 

ユダヤ系商人。

 

鉄道関係者。

 

倉庫業者。

 

船会社。

 

そして、

 

どこの分類にも綺麗に入らない人々。

 

市場から市場へ。

 

町から町へ。

 

国境から国境へ。

 

馬を売る。

 

金物を直す。

 

布を扱う。

 

酒を買う。

 

酒を売る。

 

楽器を運ぶ。

 

車輪を直す。

 

季節が変われば、

 

別の場所にいる。

 

WILKがまだ小さかった頃から、

 

そういう人間がいた。

 

---

 

「名簿は」

 

実業家が聞いた。

 

若い担当者が答える。

 

「ありません」

 

「取引記録」

 

「それなら」

 

「出してください」

 

「どの年代です」

 

実業家は少し考えた。

 

「全部」

 

「全部?」

 

「古いものから」

 

「かなりありますよ」

 

「知っています」

 

---

 

帳簿が出された。

 

一九二〇年代。

 

酒。

 

食料。

 

部品。

 

雑貨。

 

輸送。

 

少額取引。

 

現金。

 

物々交換に近いものまであった。

 

若い商務担当が言った。

 

「これ、名前が一定していません」

 

「そういう人もいます」

 

「姓が違う」

 

「親族でしょう」

 

「同一人物かも」

 

「でしょうね」

 

「どうやって追うんです?」

 

実業家は帳簿を見る。

 

「知っている人間に聞きます」

 

「誰です」

 

「酒部門」

 

---

 

酒部門。

 

ポーランド軍将校がそれを聞いて、

 

嫌な顔をした。

 

「また酒か」

 

元白軍将校が聞く。

 

「酒に何か恨みがあるのか」

 

「この会社で酒が出てくると、だいたい話が増える」

 

「飛行機会社なのにな」

 

「それだ」

 

---

 

酒部門の古参が呼ばれた。

 

男は、

 

帳簿を見るなり言った。

 

「ああ、この一家」

 

実業家が聞く。

 

「知っていますか」

 

「最近来ましたよ」

 

「いつ」

 

「夏だったかな」

 

「今年?」

 

「はい」

 

実業家が止まった。

 

「どこから」

 

「前はオーストリア方面だったと思います」

 

「今は?」

 

「チェコの方を回ってるとか」

 

「家族は」

 

「一緒じゃないですかね」

 

「確認してください」

 

男が首を傾げる。

 

「何かありました?」

 

「それを確認しています」

 

---

 

次。

 

別の一家。

 

「これは?」

 

「去年フランスへ」

 

「なぜ」

 

「商売でしょう」

 

「誰か紹介した?」

 

「うちだったかな」

 

帳簿を調べる。

 

「ああ、フランス支部の倉庫に話を通してますね」

 

実業家が見る。

 

「誰が」

 

「前の担当」

 

「理由は」

 

「……酒?」

 

「酒?」

 

「向こうで売りたいって」

 

実業家は、

 

しばらく黙った。

 

---

 

三件目。

 

ドイツ。

 

「これは」

 

「春に出てます」

 

「どこへ」

 

「ベルギーだったか、フランスだったか」

 

「なぜ」

 

古参は考える。

 

「ああ」

 

思い出した。

 

「濁り果実酒です」

 

部屋が静かになった。

 

---

 

実業家が聞いた。

 

「何です?」

 

古参が逆に聞いた。

 

「何がです?」

 

「今、何と言いました」

 

「濁り果実酒」

 

「それは商品ですか」

 

「商品でもあります」

 

「でも?」

 

「昔からあるでしょう」

 

元白軍将校が、

 

少し顔を上げた。

 

---

 

濁り果実酒。

 

視界不良。

 

WILK酒部門が、

 

まだ会社の規模も小さかった頃から使っていた名前。

 

実業家が言った。

 

「その意味で?」

 

「どの意味です?」

 

「視界不良」

 

「そうですよ」

 

「なぜ彼らが使う」

 

古参が、

 

本気で不思議そうな顔をした。

 

「昔から使ってますよ」

 

---

 

沈黙。

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「待て」

 

「はい」

 

「いつから」

 

「いつからと言われても」

 

「最初から?」

 

「かなり昔からですね」

 

「誰が教えた」

 

「教えたというか」

 

酒部門の古参は首を傾げた。

 

「一緒に付けてましたし」

 

実業家が止まった。

 

「一緒に?」

 

「はい」

 

---

 

元白軍将校が笑いかけて、

 

やめた。

 

「話が増えたな」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「だから酒は嫌なんだ」

 

---

 

さらに調べた。

 

昔の一覧。

 

果汁。

 

飛行中止。

 

果実酒。

 

問題なし。

 

低酒精果実酒。

 

高度不足。

 

炭酸果汁。

 

機関不調。

 

果実飲料。

 

酒精混入。

 

乾燥果実酒。

 

乾燥注意。

 

濁り果実酒。

 

視界不良。

 

香草果実酒。

 

バードストライク。

 

香辛果実酒。

 

ハードランディング。

 

蒸留酒。

 

緊急脱出。

 

ユダヤ人実業家は、

 

その紙を久しぶりに見た。

 

「まだ全部あるんですか」

 

古参が答える。

 

「あります」

 

「蒸留酒も?」

 

「もちろん」

 

「増えていない?」

 

「増えてますよ」

 

「……増えてる?」

 

「商品が増えましたから」

 

---

 

別の帳簿が出た。

 

林檎酒。

 

横風。

 

蜂蜜酒。

 

追い風。

 

発泡果実酒。

 

乱気流。

 

濃縮果汁。

 

過積載。

 

熟成果実酒。

 

長時間待機。

 

苦味酒。

 

着陸地不良。

 

甘味酒。

 

補給良好。

 

冷果汁。

 

着氷。

 

温果汁。

 

発動機過熱。

 

樽熟成酒。

 

長距離飛行。

 

薬草酒。

 

負傷者あり。

 

さらに、

 

二度蒸留酒。

 

即時退避。

 

ポーランド軍将校が、

 

一覧を途中まで読んで言った。

 

「誰がこんなに増やした」

 

古参は答えた。

 

「皆です」

 

「皆?」

 

「酒部門も。取引先も。常連も」

 

「勝手に?」

 

「名前なんてそんなものでしょう」

 

---

 

実業家が、

 

二度蒸留酒を指した。

 

「これは誰が」

 

「さあ」

 

「商品名でしょう」

 

「はい」

 

「誰かが決めたでしょう」

 

「たぶん」

 

古い記録をめくる。

 

「……これ、向こうが先かもしれませんね」

 

「向こう?」

 

「シンティの連中」

 

「なぜ」

 

「強い酒を二回蒸留したとか何とかで」

 

「それで即時退避?」

 

「荷物を二回積み直すくらいなら、さっさと出ろとか」

 

元白軍将校が言った。

 

「意味が分からん」

 

酒部門の古参が答えた。

 

「酒の名前ですから」

 

「もっと分からん」

 

---

 

しかし、

 

実業家だけは笑わなかった。

 

彼は、

 

別の帳簿を持ってこさせた。

 

今年。

 

各地から届いた注文。

 

問い合わせ。

 

私信。

 

紹介状。

 

短い電報。

 

酒部門を経由したもの。

 

商務部を経由したもの。

 

ただの世間話として残されたもの。

 

一枚ずつ。

 

並べた。

 

---

 

一九三八年一月。

 

果実酒。

 

問題なし。

 

二月。

 

果実酒。

 

追い風。

 

濁り果実酒。

 

三月。

 

旧オーストリア方面。

 

低酒精果実酒。

 

濁り果実酒。

 

四月。

 

炭酸果汁。

 

五月。

 

濁り果実酒。

 

六月。

 

香辛果実酒。

 

七月。

 

炭酸果汁。

 

香辛果実酒。

 

八月。

 

蒸留酒。

 

九月。

 

濁り果実酒。

 

蒸留酒。

 

十月。

 

香辛果実酒。

 

蒸留酒。

 

十一月。

 

二度蒸留酒。

 

---

 

実業家が聞いた。

 

「これは全部、酒の注文ですか」

 

古参は、

 

一覧を見る。

 

「違いますね」

 

「なぜ分かる」

 

「量が書いてない」

 

「他には」

 

「送り先もない」

 

「では」

 

「状況連絡でしょう」

 

ポーランド軍将校が聞いた。

 

「状況連絡?」

 

古参は平然と答える。

 

「旅の」

 

---

 

元白軍将校が椅子を引いた。

 

「詳しく」

 

「詳しくと言われても」

 

「濁り果実酒」

 

「様子が分からない」

 

「炭酸果汁」

 

「移動手段がおかしい」

 

「香辛果実酒」

 

「通れるけど酷い目に遭う」

 

「蒸留酒」

 

古参は、

 

そこで初めて少し黙った。

 

「出る」

 

「どこへ」

 

「その場所から」

 

「二度蒸留酒」

 

「すぐ出る」

 

「荷物は」

 

「持てるなら」

 

「持てなければ」

 

「置く」

 

---

 

部屋から、

 

音が消えた。

 

---

 

ユダヤ人実業家が聞いた。

 

「誰が指示しています」

 

「誰も」

 

「では誰が蒸留酒と判断する」

 

「その場にいる人でしょう」

 

「情報を集約する場所は」

 

「ないと思います」

 

「本部は」

 

「ないです」

 

「責任者」

 

「いません」

 

「ではどうして」

 

実業家は、

 

一覧を指した。

 

「これが十年以上続いている」

 

古参は、

 

少し困った顔をした。

 

「便利だからでは?」

 

---

 

元白軍将校が、

 

小さく息を吐いた。

 

「強いな」

 

ポーランド軍将校が聞く。

 

「何が」

 

「組織がない」

 

「組織がないのに?」

 

「だからだ」

 

「どういう意味だ」

 

「頭を切れない」

 

---

 

実業家は、

 

最初に調べようとした知人たちへ戻った。

 

一人。

 

無事。

 

二人目。

 

無事。

 

三人目。

 

国外。

 

四人目。

 

移動済み。

 

五人目。

 

家族だけフランス。

 

六人目。

 

所在不明。

 

七人目。

 

ルーマニア方面。

 

八人目。

 

チェコスロヴァキア。

 

「妙ですね」

 

若い担当者が言った。

 

「何が」

 

「思ったより無事です」

 

実業家は答えなかった。

 

---

 

さらに一人ずつ確認した。

 

「なぜ移動した」

 

濁り果実酒。

 

「なぜフランスへ」

 

香辛果実酒。

 

「なぜ家族だけ先に」

 

低酒精果実酒。

 

「なぜ商売を畳んだ」

 

蒸留酒。

 

偶然ではなかった。

 

少なくとも、

 

全部は。

 

---

 

ユダヤ人実業家は、

 

椅子へ深く座った。

 

元白軍将校が聞いた。

 

「どうした」

 

「私は」

 

実業家は、

 

少し笑った。

 

「運が良いと思っていました」

 

「誰が」

 

「彼らが」

 

「違った?」

 

「ええ」

 

昔の酒類一覧を見る。

 

「危なくなるたびに、少しずつ動いていた」

 

---

 

元独立運動家が、

 

遅れて部屋へ入ってきた。

 

「何をしている」

 

ポーランド軍将校が答えた。

 

「酒の話だ」

 

「帰る」

 

「待て」

 

「今度は何だ」

 

元白軍将校が言った。

 

「人の話になった」

 

元独立運動家は戻ってきた。

 

「なら聞く」

 

---

 

説明。

 

昔の酒名。

 

旅商人。

 

ロマ。

 

シンティ。

 

十年以上。

 

自然に増えた言葉。

 

警戒。

 

移動。

 

そして、

 

最近増えている蒸留酒。

 

元独立運動家は、

 

最初に聞いた。

 

「家族単位か」

 

実業家が答える。

 

「多くは」

 

「子供も」

 

「いるでしょう」

 

「老人」

 

「いるでしょう」

 

「国外へ出た者は」

 

「調査中」

 

「WILK拠点を使った?」

 

「一部」

 

「使っていない者は」

 

「もっと多い」

 

元独立運動家が頷いた。

 

「それでいい」

 

---

 

元ドイツ軍技術者も呼ばれた。

 

話を聞き、

 

酒名一覧を見る。

 

「くだらん」

 

全員が彼を見る。

 

「名前が」

 

技術者は続けた。

 

「仕組みは悪くない」

 

「褒めてる?」

 

元独立運動家が聞く。

 

「名前がくだらん」

 

「酒部門に言え」

 

「お前の会社だろ」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「お前の会社でもある」

 

---

 

元ドイツ軍技術者は、

 

一覧の一つを指した。

 

「機関不調」

 

「炭酸果汁です」

 

酒部門。

 

「交通障害?」

 

「そう使う者もいます」

 

「視界不良」

 

「濁り果実酒」

 

「情報不明」

 

「はい」

 

「ハードランディング」

 

「香辛果実酒」

 

「通行困難。損失覚悟」

 

「緊急脱出」

 

「蒸留酒」

 

「即時退避」

 

「二度蒸留酒」

 

技術者は嫌そうに言った。

 

「誰だ追加した奴」

 

古参。

 

「たぶんシンティの人たちです」

 

「……本人たちか」

 

「はい」

 

「なら文句は言えんな」

 

---

 

そこで、

 

ユダヤ人実業家が一つ気づいた。

 

「待ってください」

 

帳簿を戻る。

 

「最近の名称」

 

「はい」

 

「彼らが知っています」

 

古参が言った。

 

「当然でしょう」

 

「なぜ当然なんです」

 

「来ますから」

 

「どこへ」

 

「酒部門に」

 

「今も?」

 

「今も」

 

「命名にも?」

 

「たまに」

 

---

 

また、

 

沈黙。

 

実業家は、

 

本当に知らなかった。

 

自分が昔つないだ人々。

 

会社が大きくなり、

 

部門が増え、

 

担当者が変わり、

 

役員が全部を見ることはできなくなった。

 

しかし、

 

彼らは消えていなかった。

 

普通に酒を買い。

 

普通に売り。

 

普通に名前を付け。

 

普通にその言葉を持ち帰っていた。

 

十年以上。

 

---

 

元白軍将校が笑った。

 

今度は、

 

少しだけ。

 

「お前、会社を把握してないな」

 

実業家が答える。

 

「もう無理ですよ」

 

「創業者だろ」

 

「会社が大きすぎます」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「安心した」

 

「何がです」

 

「俺だけじゃなかった」

 

---

 

だが、

 

笑いは長く続かなかった。

 

若い商務担当が、

 

新しい紙を持ってきた。

 

「追加です」

 

実業家が受け取る。

 

ドイツ方面。

 

一件。

 

旧オーストリア方面。

 

二件。

 

国境地域。

 

一件。

 

表記。

 

濁り果実酒。

 

香辛果実酒。

 

そして、

 

蒸留酒。

 

二度蒸留酒。

 

---

 

実業家が聞いた。

 

「いつ」

 

「今朝」

 

「誰から」

 

「昔の取引先経由です」

 

「人数は」

 

「書いてありません」

 

元独立運動家が言った。

 

「調べろ」

 

実業家が止めた。

 

「待ってください」

 

全員を見る。

 

「先に一つ確認します」

 

---

 

酒部門の古参へ。

 

「この連絡」

 

紙を渡す。

 

「彼らの使い方なら、どういう意味です」

 

男は読んだ。

 

先ほどまで、

 

昔話をしていた顔が変わった。

 

「これは」

 

「はい」

 

「急いだ方がいいです」

 

「どのくらい」

 

「今日」

 

---

 

元白軍将校が、

 

地図を広げた。

 

「出口は」

 

ユダヤ人実業家が答える。

 

「あります」

 

「何本」

 

「調べます」

 

元独立運動家。

 

「住宅」

 

「押さえます」

 

元ドイツ軍技術者。

 

「仕事」

 

「後で」

 

技術者は頷いた。

 

「それでいい」

 

ポーランド軍将校が聞いた。

 

「誰を出す」

 

実業家は、

 

紙を見る。

 

「まだ分かりません」

 

「名前も?」

 

「分かりません」

 

「人数も?」

 

「分かりません」

 

「では何が分かる」

 

実業家は答えた。

 

「誰かが」

 

一度、

 

言葉を切った。

 

「蒸留酒と判断した」

 

---

 

それで十分だった。

 

---

 

一九三八年十一月。

 

WILKは、

 

新しい情報網を発見した。

 

正確には、

 

新しくなかった。

 

十年以上前から存在していた。

 

本部なし。

 

責任者なし。

 

名簿なし。

 

規約なし。

 

酒の名前だけ。

 

そして、

 

それを作ったのは、

 

WILKだけではなかった。

 

商人。

 

旅人。

 

ロマ。

 

シンティ。

 

酒部門の社員。

 

名前を面白がった者。

 

便利だから使った者。

 

危険だから伝えた者。

 

誰か一人が作ったわけではない。

 

だから、

 

誰も全体を知らなかった。

 

---

 

ユダヤ人実業家は、

 

その夜、

 

古い酒類表を机に残した。

 

果実酒。

 

問題なし。

 

濁り果実酒。

 

視界不良。

 

香辛果実酒。

 

ハードランディング。

 

蒸留酒。

 

緊急脱出。

 

そして、

 

後から増えた。

 

二度蒸留酒。

 

即時退避。

 

彼は、

 

最後の二行を長く見た。

 

---

 

会議記録。

 

ユダヤ人実業家。

 

知人の所在確認を開始。

 

結果。

 

想定以上に国外移動済み。

 

理由。

 

調査継続。

 

補足。

 

酒類名称による連絡網の存在を確認。

 

元白軍将校が、

 

その下に書いた。

 

「存在を確認」ではない。

 

実業家が見る。

 

「では?」

 

元白軍将校は書き直した。

 

酒類名称による連絡網が、

 

ずっと存在していたことを、

 

ようやく我々が確認した。

 

そして最後。

 

ユダヤ人実業家が追記した。

 

蒸留酒が増えている。

 

理由を、

 

明日までに調べる。

 

 

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