WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――ポーランド陸軍航空部・Tur試作機第一回重量審査記録
一九二一年

設計時想定重量に対し、試作機は三百八十六キログラム超過した。

主な増加理由は以下の通り。

主翼桁補強。
操縦索二重化。
燃料系統左右独立。
操縦席および燃料タンク周辺の装甲。
平坦貨物床。
担架固定具。
交換式後席装備。
大型車輪。
半引込式脚。

軍側は軽量化を要求した。

製造側は各装備について個別に必要性を説明した。

結果として、取り外しが決定された物は以下の一項のみ。

操縦席後方の書類入れ。

削減重量、二・四キログラム。

軍側は、これを軽量化とは認めていない。


第15話 野牛は軽くならない

「重い」

 

 ポーランド軍将校が言った。

 

 誰も答えなかった。

 

 作業場の中央には、Tur試作機の骨組みが置かれている。

 

 まだ布も張られていない。

 

 発動機も仮載せ。

 

 武装なし。

 

 燃料なし。

 

 それでも既に重かった。

 

 軍将校は手元の計算書をもう一度見る。

 

「予定より三百八十六キロ重い」

 

 元ドイツ帝国軍技師が図面から顔を上げた。

 

「まだ確定ではない」

 

「さらに増えるという意味か」

 

「布、塗料、配線、計器、武装が残っている」

 

「なぜ落ち着いて言える!」

 

 元白軍将校は、主翼付根の補強材を叩かずに眺めていた。

 

「丈夫になった」

 

「重くなったのだ!」

 

「折れるよりよい」

 

「またそれか!」

 

 元独立運動家は、胴体内部の平らな床へ木箱を置いてみる。

 

「荷物は積みやすい」

 

「軍用機だぞ」

 

「弾薬も無線機も負傷者も積む」

 

「だから重量が増えた!」

 

 実業家は帳簿へ数字を書き込んだ。

 

「価格も増えます」

 

「嬉しそうに言うな」

 

「材料を使った分です」

 

「軍が全部払うと思うなよ」

 

「契約書には仕様変更分を協議すると」

 

「協議だ。支払い確約ではない」

 

「では今、協議しましょう」

 

「重量の話をしている!」

 

     ◇

 

 Turは、最初から頑丈に作られていた。

 

 戦争中、WILK機は壊れた。

 

 主翼を撃たれた。

 

 脚を折った。

 

 操縦索を切られた。

 

 燃料配管から漏れた。

 

 貨物床が割れた。

 

 現地で穴を開けられ、金具を増やされ、別の機体の部品を付けられた。

 

 その度に修理した。

 

 そして修理記録は、すべてTurへ反映された。

 

「主翼桁は二本で足りる」

 

 軍の計算担当者が言った。

 

「三本入っている」

 

「一本は予備だ」

 

 元白軍将校が答えた。

 

「飛行中に交換できないだろう」

 

「一本が傷んでも残りで持つ」

 

 元ドイツ技師が補足する。

 

「外翼部は二本。中央部のみ三本だ」

 

「それでも重い」

 

「主翼付根を失えば機体全体を失う」

 

「戦闘機ではないぞ」

 

「低空で使う」

 

「なら撃たれる」

 

「だから強くした」

 

 計算担当者は軍将校を見る。

 

「議論が円を描いています」

 

「この会社では普通だ」

 

     ◇

 

 操縦索は二重だった。

 

 昇降舵。

 

 方向舵。

 

 補助翼。

 

 主要な操作系統には、可能な限り別経路の索が通されている。

 

 軍将校が胴体内部を見る。

 

「一本で動くのか」

 

「動く」

 

 技師が答える。

 

「ならもう一本を外せ」

 

「一本が切れたら」

 

「切れないようにする」

 

「弾は切れる場所を選ばない」

 

「装甲板を」

 

「全体には張れない」

 

「なら索を二本」

 

 軍将校はしばらく考えた。

 

「次だ」

 

「外さないのか」

 

 元白軍将校が聞く。

 

「必要だ!」

 

「重量は」

 

「分かっている!」

 

     ◇

 

 燃料系統も左右で独立していた。

 

 左右の発動機。

 

 左右の燃料タンク。

 

 左右の配管。

 

 切替弁。

 

 緊急遮断。

 

 片側のタンクが撃たれても、もう片側から供給できる。

 

「配管を共通化すれば軽くなる」

 

 軍の計算担当者が言った。

 

 元ドイツ技師は首を振る。

 

「一か所の損傷で両方止まる」

 

「切替弁を使う」

 

「弁までの配管が共通になる」

 

「装甲する」

 

「配管全体へ?」

 

「一部だけ」

 

「なら残りが切れる」

 

 軍将校が苛立った声を出す。

 

「全部必要と言うつもりか」

 

「必要な物を入れた結果がこれだ」

 

「軽くするのが設計者だろう!」

 

「壊れない範囲でだ!」

 

 元白軍将校が言う。

 

「燃料がなくなれば軽くなる」

 

「飛行中に減る重量を計算へ入れるな!」

 

     ◇

 

 次は装甲だった。

 

 Turは重装甲機ではない。

 

 装甲は限られている。

 

 操縦席の背後。

 

 座席下。

 

 燃料タンク前方。

 

 発動機下部の一部。

 

 操縦索が集中する場所。

 

 すべてを守ることはできない。

 

 だから、生きて帰るために必要な場所だけを守った。

 

 軍将校は操縦席後方の装甲板を指さす。

 

「これは厚すぎる」

 

 元白軍将校が答える。

 

「後ろから撃たれる」

 

「前を向いて飛べ」

 

「敵機は後ろから来る」

 

「後方機銃がある」

 

「撃ち漏らす」

 

「装甲があっても貫通する」

 

「小銃弾なら防げる」

 

 元ドイツ技師が試験板を見せた。

 

 弾痕。

 

 へこみ。

 

 裏面には亀裂なし。

 

「実射したのか」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「軍の試験場で」

 

「聞いていない」

 

「大尉が許可した」

 

 軍将校が大尉を見る。

 

「必要だった」

 

「なぜ私を通さない!」

 

「あなたは反対する」

 

「だから通せ!」

 

 実業家が試験板を眺める。

 

「展示に使えますね」

 

「何の展示だ」

 

「防弾性能の証明です」

 

「まだ機体が飛んでいない!」

 

     ◇

 

 大車輪も問題だった。

 

 一号機の頃から、WILKは大きな車輪を好んだ。

 

 泥。

 

 雪。

 

 草地。

 

 穴。

 

 壊れた滑走路。

 

 大きな車輪は、それらへ強い。

 

 だが空では抵抗になる。

 

 重い。

 

 遅い。

 

 Turでは半引込式が採用された。

 

 脚柱の一部を主翼下へ引き上げる。

 

 車輪の半分は外へ残る。

 

「全部しまえないのか」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「できる」

 

 技師が答える。

 

「なら、なぜ半分」

 

「完全引込式は重く、複雑になる」

 

「半分でも装置は必要だろう」

 

「小さくて済む」

 

「速度はどれほど上がる」

 

「計算上、少し」

 

「少しのために重くしたのか!」

 

「脚を出したままよりは速い」

 

 白軍将校が言う。

 

「故障しても車輪が出ている」

 

「腹で降りる時に役立つ」

 

「また墜落前提か!」

 

「不時着だ」

 

「言い換えるな!」

 

 独立運動家は半分露出した車輪を見る。

 

「泥が詰まらないか」

 

「詰まる可能性はある」

 

「洗いやすく」

 

「覆いを外せるようにする」

 

「現場で?」

 

「工具二本で」

 

 白軍将校が満足そうに頷く。

 

「前線でもできる」

 

 技師は否定しなかった。

 

 もう諦めていた。

 

     ◇

 

 軽量化会議は、午後まで続いた。

 

 軍側が一つずつ外す物を提案する。

 

 WILK側が必要性を説明する。

 

 そして外せなくなる。

 

「航法机」

 

「偵察地図を広げる」

 

「膝の上で」

 

「揺れる」

 

「小さく」

 

「既に小さい」

 

「外せ」

 

「爆撃照準にも使う」

 

「残す」

 

 次。

 

「地図棚」

 

「複数地域の地図を積む」

 

「一航路分だけ」

 

「予定外の任務が入る」

 

「入れるな」

 

「前線は入れる」

 

「……残す」

 

 次。

 

「担架固定具」

 

「負傷者を運ぶ」

 

「専用救急機へ任せろ」

 

「専用機がない」

 

「作る予定は」

 

「予算次第」

 

「……残す」

 

 次。

 

「貨物床補強」

 

「弾薬箱を積む」

 

「積載制限を守れ」

 

「前線は守らない」

 

「軍規で守らせる」

 

 元白軍将校が笑った。

 

 軍将校は彼を睨む。

 

「笑うな」

 

「戦争中の記録がある」

 

「何キロ超過した」

 

 実業家が帳簿を見る。

 

「最大で四百三十キログラム」

 

「誰が許可した!」

 

「現地指揮官」

 

「どの部隊だ!」

 

「複数です」

 

 軍将校は椅子へ座り込んだ。

 

「床は残せ」

 

     ◇

 

 ようやく外せそうな物が見つかった。

 

 操縦席後方の書類入れ。

 

 木製。

 

 蓋付き。

 

 地図、飛行日誌、命令書を入れる。

 

 重量二・四キログラム。

 

「これを外す」

 

 軍将校が言った。

 

 元ドイツ技師は少し考える。

 

「命令書はどこへ」

 

「航法員が持つ」

 

「航法員が負傷したら」

 

「操縦士が取る」

 

「どこから」

 

「服の中へ入れておけ」

 

 元白軍将校が言う。

 

「汗で濡れる」

 

「油紙で包め」

 

 元独立運動家が続ける。

 

「荷物室へ固定箱を」

 

「外した意味がない!」

 

 軍将校が叫ぶ。

 

 実業家は計算する。

 

「二・四キログラム削減」

 

「三百八十六キロ超過のうち?」

 

「二・四です」

 

「誤差ではないか」

 

「軽量化です」

 

「認めん!」

 

 元ドイツ技師が書類入れを持ち上げる。

 

「これ自体は便利だ」

 

「戻すな!」

 

「外すと決まった」

 

 白軍将校が言う。

 

「別売りにするか」

 

 実業家が顔を上げた。

 

「よい案です」

 

「聞くな!」

 

     ◇

 

 夕方。

 

 議論は部品ではなく、機体全体へ戻った。

 

「翼を小さく」

 

 軍側計算担当者が提案する。

 

「低速性能が落ちる」

 

 技師が答える。

 

「速度は上がる」

 

「短距離離着陸ができなくなる」

 

「滑走路を整備する」

 

「前線で?」

 

「できる限り」

 

「できない時に使う機体だ」

 

 軍将校は大尉を見る。

 

「現場はどうだ」

 

 大尉は即答した。

 

「翼は大きい方がよい」

 

「速度は」

 

「敵戦闘機からは、今の速度でも逃げられない」

 

「諦めるな」

 

「なら低く飛び、短い場所へ降りる方が生存率は高い」

 

 元白軍将校が頷く。

 

「地形へ隠れる」

 

「だから遅いままにするのか」

 

「仕事をする速度だ」

 

 軍将校は図面を見る。

 

 速い機体ではない。

 

 美しい機体でもない。

 

 大きな翼。

 

 太い脚。

 

 広い胴体。

 

 左右の発動機。

 

 戦闘機の鋭さではなく、荷車や農耕用の獣に近い。

 

「野牛か」

 

 軍将校が呟いた。

 

 元ドイツ技師は聞こえないふりをした。

 

     ◇

 

 軽量化会議の結果。

 

 主翼桁は残った。

 

 操縦索二重化も。

 

 左右独立燃料系統も。

 

 装甲も。

 

 大車輪も。

 

 平坦床も。

 

 担架固定具も。

 

 航法机も。

 

 観測窓も。

 

 交換式後席設備も。

 

 外されたのは書類入れだけだった。

 

 軍将校は最終表を見る。

 

「ほとんど変わっていない」

 

「配置を見直した」

 

 技師が答える。

 

「何が軽くなった」

 

「配線を短くして七キロ」

 

「他には」

 

「座席枠を変更して十二キロ」

 

「他」

 

「尾部骨組みを再設計して十八キロ」

 

「合計は」

 

「三十九・四キロ」

 

「まだ三百キロ以上重い!」

 

「発動機出力を上げる」

 

 小屋が静かになった。

 

 軍将校は、ゆっくり技師を見る。

 

「軽くする話をしていた」

 

「限界だ」

 

「だから強い発動機を?」

 

「候補がある」

 

「何基」

 

「二基」

 

「同型か」

 

「同型だ」

 

 軍将校は目を見開いた。

 

「本当に?」

 

 元白軍将校も驚いた。

 

「動くのか」

 

「軍の倉庫にある」

 

 大尉が答える。

 

「試験用に貸与できる」

 

「両方とも?」

 

「両方」

 

「部品は」

 

「少ない」

 

 元ドイツ技師の顔が曇る。

 

「どこかに問題があると思った」

 

「出力は十分だ」

 

「重量は」

 

「今の候補より一基四十キロ重い」

 

 軍将校は立ち上がった。

 

「さらに八十キロ増えるではないか!」

 

「出力も増える」

 

「重量超過を出力で押し切るな!」

 

 元白軍将校が言う。

 

「飛べばよい」

 

「お前は今日一日黙っていろ!」

 

     ◇

 

 翌日。

 

 強力な発動機二基が工房へ運び込まれた。

 

 一号機に使われた物より大きい。

 

 重い。

 

 だが同型で、状態もよい。

 

 元ドイツ技師は、発動機を前にして不機嫌そうだった。

 

「大きすぎる」

 

 元白軍将校が言う。

 

「強い」

 

「燃料を食う」

 

「速く飛べる」

 

「航続が減る」

 

「燃料を増やす」

 

「また重くなる!」

 

 軍将校は二人の間へ入った。

 

「一度載せて試す」

 

 技師が彼を見る。

 

「認めるのか」

 

「他に発動機がない」

 

「また最初と同じだな」

 

 独立運動家が言った。

 

 最初の郵便機。

 

 左右で違う発動機。

 

 今度の軍用機。

 

 同じ型だが重すぎる発動機。

 

 条件はよくなった。

 

 悩み方は変わっていない。

 

     ◇

 

 発動機を仮搭載したTurは、さらに野牛らしくなった。

 

 大きな発動機覆い。

 

 太い主翼。

 

 低い胴体。

 

 大車輪。

 

 軍将校は機体の正面へ立った。

 

「重そうだ」

 

「重い」

 

 技師が答える。

 

「飛ぶのか」

 

「計算上は」

 

「その言葉をまた聞くとは思わなかった」

 

「今回は余裕がある」

 

「どれほど」

 

「離陸可能重量まで、百二十キロ」

 

 実業家が聞いた。

 

「装備込みで?」

 

 技師は黙った。

 

「武装は」

 

 軍将校が聞く。

 

 黙る。

 

「燃料は」

 

 黙る。

 

「乗員は」

 

 黙る。

 

「余裕がないではないか!」

 

「発動機を回して実測する!」

 

 技師が怒鳴った。

 

「計算だけでは確定しない!」

 

 元白軍将校が満足そうに言う。

 

「飛ばせば分かる」

 

「お前に賛成しているわけではない!」

 

     ◇

 

 最初の地上運転。

 

 左右の発動機が始動する。

 

 今までのWILK機より、明らかに音が大きい。

 

 小屋の窓が震える。

 

 屋根の雪が落ちる。

 

 近所の鶏が一斉に逃げる。

 

 牧草地の牛まで遠ざかった。

 

 軍将校が耳を塞ぐ。

 

「うるさい!」

 

「出力がある!」

 

 元白軍将校が叫び返す。

 

「会話できん!」

 

「飛行中はもっと聞こえん!」

 

「改善しろ!」

 

 技師は計器を見ていた。

 

 油圧。

 

 回転数。

 

 温度。

 

 振動。

 

 主翼付根。

 

 発動機架。

 

 大きな機体が、その場で前へ進もうとする。

 

 車輪止めが軋む。

 

「止め具を増やせ!」

 

 独立運動家が叫ぶ。

 

「持たない!」

 

 白軍将校と職人たちが綱を引く。

 

 発動機出力が上がる。

 

 Turはまだ翼に揚力を受けていない。

 

 それでも、地上に置いておくのが難しいほど力強かった。

 

 技師が手を上げる。

 

「出力を落とせ!」

 

 発動機音が低くなる。

 

 やがて停止。

 

 静かになった後も、全員の耳には音が残っていた。

 

「どうだ」

 

 軍将校が尋ねる。

 

 技師は試験記録を見る。

 

「推力は足りる」

 

「飛ぶか」

 

「飛ぶ」

 

「本当に?」

 

「飛ばす」

 

 その言葉に、誰も冗談を返さなかった。

 

     ◇

 

 実業家は、新しい重量表を帳簿へ貼った。

 

当初計画重量。

 

現在重量。

 

超過分。

 

強化発動機による許容増加。

 

 数字の横へ、元独立運動家が書き込む。

 

野牛は軽くならない。

 

 元ドイツ技師が見つける。

 

「帳簿へ落書きするな」

 

「事実だ」

 

「軽量化は続ける」

 

「どこを削る」

 

「無駄を」

 

 軍将校が聞いた。

 

「無駄は見つかったか」

 

 技師は、外された書類入れを見る。

 

「二・四キロ」

 

「それだけか」

 

「今のところ」

 

 元白軍将校が言う。

 

「操縦士を軽くする」

 

 全員が彼を見る。

 

「食事を減らす」

 

 実業家が首を振る。

 

「飛行手当へ食事が含まれています」

 

「そこか」

 

 軍将校が言った。

 

「軍人の体重を設計条件にするな!」

 

     ◇

 

 試作機完成予定は、二週間後に設定された。

 

 その間に布を張る。

 

 配線。

 

 燃料系統。

 

 装甲。

 

 武装。

 

 計器。

 

 交換式後席。

 

 観測窓。

 

 爆弾架。

 

 そして、地上試験。

 

 まだ仕事は山ほどある。

 

 軍将校は完成予定表を見た。

 

「二週間でできるか」

 

 元ドイツ技師が答える。

 

「まともにやれば三週間」

 

「軍は二週間だと」

 

「軍が作るのか」

 

「前金を出した」

 

「時間は買えん」

 

 実業家が言う。

 

「残業代を出せば、ある程度は」

 

「人間を壊すな」

 

 独立運動家が答えた。

 

「交代でやる」

 

「人が足りません」

 

「雇う」

 

「金は」

 

「軍から取る」

 

 全員が軍将校を見る。

 

「なぜ私を見る」

 

「監督担当でしょう」

 

「便利な時だけ軍人扱いするな!」

 

     ◇

 

 その夜。

 

 作業場には灯りが残っていた。

 

 職人たちが主翼へ布を張る。

 

 技師が発動機架を確認。

 

 白軍将校が脚の緊急解除装置を試す。

 

 独立運動家が夜食を運ぶ。

 

 実業家が費用を書き、軍将校が仕様変更書へ署名する。

 

 Turは少しずつ、骨組みから航空機になっていく。

 

 重い。

 

 高い。

 

 複雑。

 

 要求を減らせば軽くなる。

 

 だが減らせる物はなかった。

 

 全部、戦場で一度は必要になった物だった。

 

 誰かが撃たれたから装甲が付いた。

 

 索が切れたから二重になった。

 

 燃料が漏れたから左右独立になった。

 

 脚が折れたから太くなった。

 

 機体が落ちたから分解回収できるようになった。

 

 負傷者を置いて帰れなかったから、担架固定具が残った。

 

 重さの一つ一つに、帰ってこられなかったかもしれない記録がある。

 

 軍将校は、完成途中の機体を見上げた。

 

「軽くはならんな」

 

 元ドイツ技師は図面から顔を上げなかった。

 

「必要な重さだ」

 

「飛べればな」

 

「飛ばす」

 

 作業場の外では、風が吹いていた。

 

 大きな主翼の布が、まだ固定されていない端で小さく鳴る。

 

 野牛はまだ地上にいた。

 

 だが、地面へ留めておくには、既に十分すぎるほどの力を持っていた。

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