一九三八年十二月
確認事項。
今年。
オーストリア。
消滅。
チェコスロヴァキア。
領土縮小。
ポーランド。
領土拡大。
ハンガリー。
領土拡大。
ドイツ。
拡大。
迫害。
強化。
国外移動。
増加。
WILK。
国外支部。
拡大。
国内余力。
低下。
結論。
来年。
未定。
「地図を新しくしますか」
若い職員が聞いた。
ポーランド軍将校は、
壁を見た。
今年だけで、
何度も貼り替えた。
三月。
九月。
十月。
十一月。
十二月。
同じ欧州。
違う線。
「必要だな」
「一九三九年版を」
ポーランド軍将校は、
少し考えた。
「作るな」
若い職員が止まった。
「え?」
「今年の最新を作れ」
「来年用では」
「来年になってから考える」
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元白軍将校が、
横から言った。
「学んだな」
「うるさい」
「去年なら作っていた」
「去年は地図が一年持った」
「今年は?」
ポーランド軍将校が答える。
「三か月持てば長い」
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一九三八年。
WILKは、
地図を大量に保存した。
古いからではない。
古くなった速度を、
残すためだった。
春。
夏。
秋。
冬。
一枚ずつ並べれば、
一年の間に、
欧州がどれほど動いたかが見える。
元独立運動家が、
地図を見て言った。
「人間の方が多く動いたな」
ユダヤ人実業家が答えた。
「数字を出しますか」
「出せる?」
「概算なら」
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国外配置。
社員。
増加。
家族。
増加。
一時滞在。
増加。
取引先関係者。
増加。
紹介者経由。
増加。
ロマ。
シンティ。
ユダヤ人。
その他。
分類。
しない。
人数。
数える。
元独立運動家が言った。
「今年何人出した」
実業家は帳簿をめくった。
「正式赴任だけなら」
「それじゃない」
「一時移動も含める?」
「含める」
「家族」
「含める」
「子供」
「含める」
「老人」
「含める」
「紹介者」
「含める」
ポーランド軍将校が言った。
「会社の人事集計じゃなくなってるぞ」
元独立運動家が答えた。
「今年はそうだ」
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概算。
数百。
誰も、
すぐには口を開かなかった。
若い経理担当が言った。
「多いですね」
ユダヤ人実業家。
「多いです」
「社員は」
「その一部」
「残りは」
「家族と、その周囲」
ポーランド軍将校が一覧を見る。
「八歳」
「家族です」
「六歳」
「家族です」
「一歳」
「家族です」
「職種欄が空白だぞ」
元独立運動家が言った。
「赤ん坊に何を書けと」
少しだけ、
笑いが出た。
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老人。
七十三歳。
職種。
なし。
ポーランド軍将校が言った。
「これも」
「家族」
「仕事は」
「しない」
「会社が面倒を見る?」
「家族が見る」
「住宅は会社」
「最初は」
「食事」
「最初は」
「医療」
「必要なら」
軍将校が一覧を閉じた。
「もう何の会社だ」
元ドイツ軍技術者が言った。
「飛行機を作っている」
「その逃げ道、まだ使うのか」
「飛行機は作っている」
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実際。
飛行機は、
作っていた。
Bizon。
新造。
減少。
修理。
増加。
改修。
増加。
Tur。
新造。
少数。
修理。
増加。
最新規格改修。
増加。
可動機。
確保。
元ドイツ軍技術者が言った。
「航空部隊側は今のところ足りている」
ポーランド軍将校が答える。
「軍需側にはまだ文句を言われている」
「新造数を見るからだ」
「もう聞いた」
「理解したか」
「理解したから余計腹が立つ」
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だが、
予備は減った。
予備発動機。
減少。
国内熟練工。
減少。
空いていた住宅。
使った。
また増やした。
輸送枠。
使った。
また押さえた。
国外資金。
使った。
また送った。
WILKは、
余裕を使いながら、
余裕を作り直していた。
その繰り返し。
元白軍将校が言った。
「息をしてるみたいだな」
ユダヤ人実業家が聞く。
「何が」
「会社が」
「吸って」
国外から資金。
人。
情報。
「吐いて」
人。
金。
図面。
治具。
「止まったら」
ポーランド軍将校が言った。
「嫌な例えをするな」
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年末。
国外支部から、
報告が届いた。
英国。
受入能力。
増。
フランス。
増。
ルーマニア。
増。
ポルトガル。
少数ながら増。
本社なし運転。
試験開始。
元白軍将校が聞いた。
「試したか」
ユダヤ人実業家が答える。
「英国で」
「何を」
「本社への問い合わせを、意図的に一部止めました」
ポーランド軍将校が顔を上げた。
「何?」
「三日」
「本社は知っていた?」
「はい」
「支部は」
「いいえ」
「性格悪いな」
「試験です」
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英国支部。
本社へ問い合わせ。
返事。
なし。
一日。
二日。
三日。
現地責任者。
規程通り。
日常決裁拡大。
住宅契約。
現地採用。
小規模部品購入。
実施。
四日目。
本社。
「確認した」
英国支部から返電。
「遅い」
ポーランド軍将校が笑った。
「怒ってるぞ」
実業家が答えた。
「正しい反応です」
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フランスでも。
ルーマニアでも。
順番に試す。
本社から、
返事が来ない。
その時。
何をする。
誰が決める。
何まで決める。
誰へ報告する。
「意外と動くな」
ポーランド軍将校が言った。
元白軍将校。
「意外とは何だ」
「本社がいなくても」
全員が、
少しだけ黙った。
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元白軍将校が言った。
「それでいい」
「いいのか?」
軍将校。
「会社の本社だぞ」
「だからだ」
「?」
「本社がいなくても動くなら」
少し間。
「本社は、少し安心して壊れられる」
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笑えなかった。
元白軍将校自身も、
笑わなかった。
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元ドイツ軍技術者が、
別の表を出した。
国外技術能力。
Bizon。
基本修理。
英国。
可能。
フランス。
可能。
ルーマニア。
一部可能。
Tur。
修理。
複数拠点。
可能。
発動機。
全分解。
限定。
部分修理。
複数。
部品製作。
簡易。
複数。
「まだ足りない」
技術者が言った。
ポーランド軍将校が聞く。
「何が」
「全部」
「全部?」
「本社工場を失ったら」
指で表をなぞる。
「この穴が大きい」
「埋める?」
「埋める」
「いつまで」
技術者は答えた。
「できるだけ早く」
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それでも。
すべてを国外へ複製することはできない。
大型工作機械。
特殊設備。
熟練。
時間。
金。
元ドイツ軍技術者は、
以前なら、
完全な複製を目指したかもしれない。
今は違う。
「全部いらん」
若い技師が驚いた。
「え?」
「最低限でいい」
「何ができれば」
「壊れたものを直せる」
「新造は」
「後」
「完全な工場は」
「後」
「では」
「再開できればいい」
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それが、
今年最後の大きな変化だった。
WILKは、
完全な避難先を作ることを、
諦め始めた。
代わりに。
再開地点。
一台。
一人。
一枚。
一つ。
そこから、
増やせる状態。
元白軍将校が言った。
「種だな」
元ドイツ軍技術者。
「今さらか」
「農夫も送った」
「鍬も」
「では」
「次は」
技術者が少し考える。
「冬を越せるか」
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酒類部門。
年末集計。
果実酒。
増。
蜂蜜酒。
増。
熟成果実酒。
増。
普通の商品として。
同時に。
濁り果実酒。
減少。
香辛果実酒。
減少。
蒸留酒。
減少。
二度蒸留酒。
少数。
危険が消えたわけではない。
だが、
十一月の異常な集中からは落ち着いた。
ユダヤ人実業家が、
表を見る。
「果実酒が増えています」
酒部門の古参が言った。
「年末ですから」
「本物の?」
「本物の酒です」
実業家は少し笑った。
「良かった」
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その日の夕方。
五人。
今年最後の定例会議。
ポーランド軍将校が言った。
「総括するか」
元白軍将校。
「嫌だ」
「なぜ」
「長い」
「今年一年だぞ」
「今年は長い」
「それ、九月にも言ってたな」
「今も長い」
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元独立運動家。
「人は出した」
ユダヤ人実業家。
「金も」
元ドイツ軍技術者。
「技術も」
ポーランド軍将校。
「国内戦力はまだある」
元白軍将校。
「道もまだ開いている」
その言葉に、
少し空気が止まった。
「まだ」
だった。
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ポーランド軍将校が、
春の地図を壁から外した。
オーストリアがある。
チェコスロヴァキアも、
以前の形。
ポーランドも、
以前の形。
ハンガリーも。
「捨てるか」
若い職員が聞いた。
元白軍将校が答えた。
「残せ」
「もう使えません」
「知っている」
「なら」
「今年、どれだけ世界が変わったか分かる」
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地図は、
丸められた。
日付。
記入。
一九三八年一月。
その隣。
三月。
九月。
十月。
十一月。
十二月。
全部、
保存。
ポーランド軍将校が、
最新地図を見た。
「来年は」
誰も答えなかった。
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来年。
一九三九年。
まだ、
何も決まっていない。
戦争が来るか。
来ないか。
どこから。
いつ。
誰と。
分からない。
だから。
来年の地図を、
今年のうちに作ることはできなかった。
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ただ。
WILKは、
来年の地図が変わっても、
動けるようにしていた。
本社が返事をしなくても。
工場が欠けても。
人が移動しても。
住所が変わっても。
新造機が減っても。
Bizonは飛ぶ。
Turも飛ぶ。
国外支部も動く。
酒の名前も、
誰かから誰かへ渡る。
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会議記録。
一九三八年。
国外配置。
大幅増。
国外受入能力。
増。
本社権限。
分散開始。
国内生産効率。
低下。
航空部隊可動機数。
現時点。
必要数確保。
危険連絡。
継続。
欧州情勢。
不安定。
翌年度方針。
未定。
若い書記が聞いた。
「未定でいいんですか」
ポーランド軍将校が答えた。
「今年学んだ」
「何を」
軍将校は、
丸められた地図を見る。
「来年の地図を」
少し間を置いた。
「今年のうちに作るな」
元白軍将校が、
その下に一行だけ加えた。
ただし。
変わっても動けるようにしておけ。