一九三九年三月三十一日
確認事項。
英国。
ポーランド独立に対する保証を表明。
フランス。
同様の立場を表明。
ポーランド。
受諾。
戦争。
なし。
同盟国。
あり。
距離。
変化なし。
鉄道距離。
変化なし。
海上距離。
変化なし。
ドイツ国境。
変化なし。
結論。
保証は、
重要。
ただし。
保証書に、
師団は収納できない。
三月三十一日。
英国首相ネヴィル・チェンバレンは、
下院で声明を出した。
ポーランドの独立が明白に脅かされ、
ポーランド政府が武力で抵抗することを重大と判断した場合。
英国は、
可能な限りの支援を与える。
フランス政府も、
同じ立場にある。
英国によるこの保証表明は三月三十一日に行われ、その後四月六日の英波共同声明で相互的な協力方針が確認されることになる。
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WILK本社。
午後。
ポーランド軍将校が、
新聞を持って入ってきた。
珍しく。
少し、
明るい顔だった。
「英国が来た」
元白軍将校が、
机から顔を上げた。
「どこへ」
軍将校が止まった。
「……そういう意味ではない」
「ならまだ来ていない」
「保証だ」
「読んだ」
「フランスもだ」
「知っている」
「少しは安心しろ」
元白軍将校は、
地図を見た。
「英国は」
指。
海の向こう。
「ここ」
次。
フランス。
「ここ」
次。
ドイツ。
「ここ」
最後。
ポーランド。
「ここ」
軍将校は、
嫌な顔をした。
「分かっている」
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ユダヤ人実業家が、
新聞を受け取った。
「良いことです」
軍将校が彼を見る。
「お前は普通に言えるのか」
「良いことは良いことです」
「なら」
「ですが」
「やはり来たか」
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実業家は、
別の紙を広げた。
英国。
港。
鉄道。
海運。
保険。
貨物。
フランス。
鉄道。
軍需契約。
信用。
輸送。
「保証が出た結果」
軍将校が聞く。
「何か変わる?」
「市場は変わります」
「軍事は」
「私は商人です」
「逃げるな」
「専門外です」
元白軍将校が言った。
「距離は変わらん」
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元ドイツ軍技術者も、
地図を見た。
「工場も増えない」
軍将校。
「今すぐはな」
「発動機も」
「増えない」
「燃料も」
「増えない」
「Bizonも」
「それはお前が作れ」
「人を抜いている」
「お前が抜いたんだ!」
「承認しただろう」
「必要だった!」
「なら仕方ない」
「なぜ俺が責められている!」
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元独立運動家が、
新聞を読んだ。
「英国支部へ人を増やせるか」
軍将校が振り向く。
「今その話か」
「今だからだ」
「保証を受けた話だぞ」
「英国との往来が太くなるなら使える」
ユダヤ人実業家が頷く。
「確認します」
軍将校は、
額を押さえた。
「お前たちは外交上の安心材料まで物流表にするのか」
元白軍将校。
「安心は運べん」
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その日の会議。
議題。
英国保証。
ところが。
十分後。
港湾使用。
十五分後。
船腹。
二十分後。
英国支部住宅。
三十分後。
航空部品保管。
四十分後。
児童教育。
五十分後。
医療契約。
ポーランド軍将校が、
机を叩いた。
「保証の話はどこへ行った!」
ユダヤ人実業家が答えた。
「利用しています」
「何を!」
「保証によって変わる可能性のある環境を」
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軍将校は、
反論しようとした。
やめた。
正しいところが、
腹立たしかった。
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午後三時。
軍側から、
追加説明。
外交的保証は、
重要。
抑止効果。
期待。
独波交渉。
継続。
国防準備。
強化。
ただし。
即時戦争。
意味せず。
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元白軍将校が、
その最後を指した。
「ここだ」
「何が」
「まだ戦争ではない」
軍将校が答えた。
「そうだ」
「なら人を出せる」
「またそれか!」
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また。
それだった。
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三月十五日。
チェコスロヴァキア消滅。
その後、
二週間。
WILKの国外移動は、
止まらなかった。
むしろ。
少し増えた。
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英国。
発動機整備。
二名。
家族。
七名。
精密加工。
一名。
妻。
一名。
子。
二名。
教育。
一名。
単身。
倉庫。
三名。
うち二名。
新規採用。
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フランス。
工具。
二名。
食品。
一名。
事務。
一名。
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ポルトガル。
商務。
二名。
港湾。
一名。
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ルーマニア。
整備。
三名。
鉄道・倉庫。
二名。
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国内。
人が減る。
また。
若い者が上がる。
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Bizon組立班。
熟練工。
一人。
英国へ。
班長が怒った。
「またか!」
元ドイツ軍技術者。
「まただ」
「あと何人抜く」
「必要なだけ」
「Bizonを作る気があるのか」
「ある」
「なら人を残せ!」
「飛べるBizonはいくつある」
班長は、
答えた。
必要数。
ある。
「修理待ちは」
増えている。
「新造待ちは」
増えている。
「なら余裕はない!」
技術者が答えた。
「そうだ」
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班長は、
一瞬。
言葉を失った。
「分かっていてやるのか」
「分かっているからやる」
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新造機。
未来の戦力。
国外へ出す熟練工。
さらに先の戦力。
どちらを取る。
どちらも。
は、
できない。
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元ドイツ軍技術者は、
Bizonの生産計画に、
赤線を引いた。
新造。
さらに一機。
後ろへ。
代わりに。
改修。
二機。
前へ。
修理。
三機。
優先。
班長が聞いた。
「新しいのを作らないのか」
「作る」
「遅れるぞ」
「遅らせる」
「軍が」
ポーランド軍将校が、
後ろから答えた。
「俺が怒られる」
班長が振り返った。
軍将校は続ける。
「もう慣れた」
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その日。
航空部。
会議。
調達担当。
怒る。
予想通り。
「また納入予定が後ろへ?」
「はい」
「英国が保証を出した直後だぞ!」
「はい」
「戦備を強化する時だ!」
「はい」
「ならなぜ新造数を減らす!」
軍将校は、
紙を出した。
Bizon。
可動数。
要求以上。
Tur。
可動数。
要求以上。
改修終了予定。
追加。
修理復帰予定。
追加。
「飛べる数は減らしていません」
「新造機は?」
「減ります」
「将来は?」
軍将校は、
止まった。
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答えは、
二つあった。
国内だけを見るなら。
悪化。
会社全体を見るなら。
分散。
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「将来の話をしている!」
調達担当が言った。
軍将校は答えた。
「だからです」
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自分で言って、
嫌になった。
完全に、
WILKの言い方だった。
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夜。
五人。
また会議。
今度は。
保証の意味。
真面目に。
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ポーランド軍将校。
「英国とフランスが動く」
元白軍将校。
「いつ」
「戦争になれば」
「いつ戦力が届く」
「それは」
「どこへ」
「……」
「どうやって」
「分かっている!」
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軍将校が、
声を荒げた。
珍しく。
元白軍将校は、
黙った。
軍将校は続けた。
「分かっている」
「英国軍が明日ワルシャワへ来るわけじゃない」
「フランス軍がドイツを一日で越えるわけでもない」
「だが」
地図を叩く。
「一国で戦うのと同じではない」
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誰も否定しなかった。
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ユダヤ人実業家が言った。
「だから重要です」
軍将校。
「そうだ」
「ですが」
「分かっている」
「まだ何も言っていません」
「距離だろ」
「はい」
「分かっている!」
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少し。
笑った。
ほんの少し。
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元独立運動家が言った。
「保証があるなら」
軍将校。
「また国外配置か」
「違う」
「何だ」
「逃げた後も戦争が続く可能性が高くなる」
部屋が、
静かになった。
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それまで。
WILKが考えていたのは。
ポーランド国内が危険になった場合。
人を出す。
会社を残す。
仕事を続ける。
だった。
だが。
英国。
フランス。
保証。
もし。
戦争になれば。
それは、
ポーランドだけの戦争で終わらない可能性がある。
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元ドイツ軍技術者が言った。
「国外工場で軍需を続ける?」
ポーランド軍将校が、
彼を見る。
「……必要になるかもしれない」
「誰のために」
「ポーランド軍」
「国内が使えなければ」
「国外部隊」
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初めて。
その言葉が出た。
国外部隊。
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まだ。
存在しない。
まだ。
必要とも決まっていない。
まだ。
ポーランド軍は、
ポーランドにいる。
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だが。
机の上に。
一行。
増えた。
国外におけるポーランド軍航空部隊への支援可能性。
検討。
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元白軍将校が言った。
「早いな」
軍将校が答えた。
「早すぎる」
「消すか」
長い沈黙。
「……消さない」
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若い書記が、
その一行へ線を引いた。
未決。
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次。
国外支部の仕事が、
もう一つ増えた。
単なる避難先。
ではない。
単なる再建地点。
でもない。
必要なら。
戦争を続ける場所。
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ユダヤ人実業家が聞いた。
「英国支部の航空燃料契約を増やしますか」
軍将校が言った。
「まだ要らん」
元ドイツ軍技術者。
「発動機部品は」
「少し」
「弾薬規格」
「待て」
「十一粍」
「待て!」
元白軍将校。
「待っていいものを決めろと言った」
軍将校が、
彼を睨んだ。
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そして。
十分後。
十一粍弾薬について、
国外調達可能性調査。
決定。
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軍将校。
「作るな」
実業家。
「調べるだけです」
「買うな」
「調べるだけです」
「契約するな」
「調べるだけです」
元白軍将校。
「安ければ?」
「買うな!」
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少し。
WILKらしさが、
戻った。
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三月三十一日。
夜。
英国から、
WILK支部電報。
保証声明。
現地報道。
大。
ポーランド関係。
問い合わせ増加。
現地社員。
士気。
上昇。
追加。
空室。
四。
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元独立運動家が、
最後を見る。
「四」
「はい」
「維持」
ユダヤ人実業家。
「維持します」
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ポーランド軍将校が、
新聞を折った。
「保証が出たのに」
元白軍将校。
「出たからだ」
「何が」
「時間を使え」
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軍将校は、
窓を見る。
夜。
工場。
灯り。
格納庫。
Tur。
Bizon。
鉄道。
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英国は、
遠い。
フランスも、
遠い。
だが。
一人ではない。
それも、
事実。
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WILKは、
どちらも記録した。
安心できる理由。
安心してはいけない理由。
同じ紙に。
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一九三九年三月三十一日。
ポーランドは、
保証を得た。
その保証は、
価値があった。
だからこそ。
WILKは、
それを奇跡として数えなかった。
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保証は、
国境を守る約束にはなる。
だが。
距離を、
一キロも縮めない。
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そして。
距離があるなら。
その間を埋めるものを、
平時のうちに置いておく。
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人。
図面。
工具。
金。
住宅。
倉庫。
航空部品。
そして。
まだ紙の上にしか存在しない、
国外で戦い続ける可能性。