WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――WILK国内人員配置再編会議記録
一九三九年六月

確認事項。

国外移転。

継続。

熟練者。

国外配置増加。

国内航空機可動数。

維持。

国内生産効率。

低下。

国内若年工員比率。

上昇。

国内各工程。

熟練者依存。

依然として存在。

問題。

人を国外へ出すことに成功しても、

国内工場が、

一人抜けるたび止まるなら、

移転そのものが限界に達する。

追加問題。

国外へ出られない者。

出ない者。

最後まで国内に必要な者。

存在。

結論。

逃がす者に仕事を持たせろ。

残す者には、

一人で仕事を抱えさせるな。



第165話 残る者にも、次を教えろ

 

六月。

 

朝。

 

WILKの工場。

 

以前より。

 

若かった。

 

---

 

二十歳。

 

十九歳。

 

二十三歳。

 

十八歳。

 

工員。

 

見習い。

 

補助。

 

検査助手。

 

---

 

以前なら。

 

熟練工の後ろで。

 

材料を運んでいた者が。

 

今。

 

旋盤の前にいた。

 

---

 

以前なら。

 

工具を渡していた者が。

 

今。

 

工程票を読んでいた。

 

---

 

以前なら。

 

Bizonの脚を。

 

横から見ていた者が。

 

今。

 

自分で。

 

測っている。

 

---

 

そして。

 

間違えた。

 

---

 

「止めろ!」

 

---

 

工場。

 

声。

 

---

 

若い工員。

 

手を離す。

 

部品。

 

机。

 

元ドイツ軍技術者が。

 

歩いてくる。

 

---

 

「どこ」

 

若い工員。

 

「ここです」

 

「何が」

 

「寸法」

 

「いくつ」

 

「規定より〇・四」

 

---

 

技術者。

 

測る。

 

もう一度。

 

---

 

「駄目」

 

若い工員。

 

顔を伏せる。

 

「すみません」

 

「何が」

 

「失敗しました」

 

「だから止めた」

 

---

 

若い工員。

 

顔を上げる。

 

---

 

技術者は。

 

不良品を。

 

机の上へ置いた。

 

---

 

「捨てる」

 

「はい」

 

「次」

 

---

 

若い工員。

 

少し驚く。

 

---

 

「次?」

 

「もう一個作れ」

 

---

 

それだけ。

 

---

 

昔なら。

 

横にいた。

 

五十歳の熟練工が。

 

途中で止めただろう。

 

---

 

今。

 

その熟練工は。

 

フランスにいる。

 

---

 

だから。

 

失敗する。

 

---

 

平時に。

 

---

 

一個。

 

材料を。

 

失う。

 

---

 

その代わり。

 

一人。

 

できる者が。

 

増える。

 

---

 

元ドイツ軍技術者は。

 

その日の午後。

 

黒板へ。

 

大きく書いた。

 

---

 

失敗を禁止するな。

 

---

 

工場長が。

 

嫌な顔をした。

 

「品質管理の会社が書く言葉じゃない」

 

技術者。

 

「続きがある」

 

---

 

下。

 

---

 

同じ失敗を、二度させるな。

 

---

 

工場長。

 

「それなら」

 

「いい?」

 

「まだ嫌です」

 

---

 

六月。

 

WILK国内工場。

 

教育時間。

 

増加。

 

---

 

生産時間。

 

減少。

 

---

 

工場長から。

 

苦情。

 

---

 

航空機一機当たり。

 

工数。

 

増。

 

---

 

若年工員による。

 

手戻り。

 

増。

 

---

 

検査落ち。

 

増。

 

---

 

元ドイツ軍技術者。

 

回答。

 

許容。

 

---

 

工場長。

 

再照会。

 

どこまで。

 

---

 

回答。

 

---

 

航空機可動数要求を割らない範囲。

 

---

 

また。

 

そこだった。

 

---

 

新造数。

 

落ちる。

 

---

 

だが。

 

Tur。

 

戻る。

 

---

 

Bizon。

 

戻る。

 

---

 

軍が必要とする。

 

飛べる機体。

 

まだ。

 

ある。

 

---

 

なら。

 

その余裕を。

 

今。

 

教育へ使う。

 

---

 

ポーランド軍将校が。

 

報告を見る。

 

「本当にぎりぎりだな」

 

技術者。

 

「ぎりぎりではない」

 

「どこが」

 

「まだ余裕がある」

 

「どれ」

 

「失敗できる」

 

---

 

軍将校が。

 

黙った。

 

---

 

元白軍将校が言った。

 

「それは余裕だ」

 

---

 

誰も。

 

笑わなかった。

 

---

 

六月中旬。

 

整備部門。

 

Tur。

 

一機。

 

主脚。

 

不具合。

 

---

 

古参整備員。

 

不在。

 

英国。

 

---

 

若手。

 

三名。

 

担当。

 

---

 

取り外す。

 

---

 

調べる。

 

---

 

工程票。

 

読む。

 

---

 

過去の修理記録。

 

読む。

 

---

 

部品番号。

 

照合。

 

---

 

交換。

 

---

 

取り付け。

 

---

 

作動。

 

---

 

遅い。

 

---

 

一日。

 

余計にかかる。

 

---

 

翌日。

 

試験。

 

---

 

正常。

 

---

 

航空隊へ。

 

返却。

 

---

 

報告書。

 

所要時間。

 

従来比。

 

一・六倍。

 

---

 

元ドイツ軍技術者。

 

余白へ。

 

書く。

 

---

 

三人ができるようになった。

 

---

 

軍将校。

 

それを見る。

 

「機体一機に一日余計にかかったぞ」

 

「そうだ」

 

「戦時なら困る」

 

「だから今やった」

 

---

 

また。

 

平時に失敗する。

 

平時に遅れる。

 

平時に困る。

 

---

 

戦争になる前に。

 

---

 

六月。

 

国外配置。

 

まだ。

 

続く。

 

---

 

だが。

 

以前より。

 

難しくなった。

 

---

 

国外へ出したい。

 

熟練工。

 

---

 

その下。

 

若手。

 

まだ育っていない。

 

---

 

なら。

 

出せない。

 

---

 

元独立運動家。

 

人事表を見る。

 

「この人」

 

航空機構造。

 

熟練。

 

英国候補。

 

延期。

 

---

 

「なぜ」

 

人事担当。

 

「代替者が未完成です」

 

「どれくらい」

 

「一か月」

 

「本人には?」

 

「伝えてあります」

 

---

 

元独立運動家。

 

少し。

 

止まる。

 

---

 

危険だから。

 

出したい。

 

---

 

だが。

 

会社を動かすため。

 

残ってもらう。

 

---

 

それは。

 

これまで。

 

WILKが避けようとしてきたことだった。

 

---

 

本人を。

 

呼ぶ。

 

---

 

四十五歳。

 

構造工。

 

妻。

 

娘。

 

息子。

 

---

 

元独立運動家。

 

「予定が延びます」

 

男。

 

「どれくらい」

 

「一か月」

 

「理由」

 

「後任」

 

---

 

男。

 

少し。

 

笑う。

 

「育ってませんか」

 

「まだ」

 

「私が教える?」

 

「頼みたい」

 

---

 

男は。

 

考えた。

 

---

 

「家族だけ先に出せますか」

 

---

 

元独立運動家が。

 

顔を上げた。

 

---

 

「できます」

 

「なら」

 

「家族を先に」

 

「私は一か月残る」

 

---

 

紙。

 

書き換える。

 

---

 

本人。

 

国内。

 

---

 

家族。

 

フランス。

 

先行。

 

---

 

人事担当。

 

確認。

 

「本人同意」

 

---

 

元独立運動家。

 

「書け」

 

---

 

家族。

 

列車。

 

出発。

 

---

 

男。

 

駅へ。

 

見送り。

 

---

 

娘。

 

十四歳。

 

窓。

 

父を見る。

 

---

 

「来月?」

 

---

 

男。

 

答える。

 

---

 

「来月」

 

---

 

列車。

 

動く。

 

---

 

男。

 

手を振る。

 

---

 

最後まで。

 

---

 

翌朝。

 

工場。

 

---

 

若手。

 

二人。

 

待っている。

 

---

 

男。

 

言う。

 

---

 

「今日は桁から」

 

---

 

教育。

 

開始。

 

---

 

六月後半。

 

同じことが。

 

増えた。

 

---

 

本人。

 

残る。

 

家族。

 

先に出す。

 

---

 

本人。

 

先に出る。

 

家族。

 

後から。

 

---

 

夫。

 

残る。

 

妻。

 

出る。

 

---

 

妻。

 

WILK社員。

 

先に出る。

 

夫。

 

別会社勤務。

 

残る。

 

---

 

一枚の人事表では。

 

扱えない。

 

---

 

だから。

 

WILKは。

 

家族単位の。

 

移動記録を。

 

別にした。

 

---

 

ただし。

 

理由。

 

書かない。

 

---

 

行先。

 

連絡先。

 

合流予定。

 

のみ。

 

---

 

元独立運動家が。

 

言った。

 

「離れた家族は優先して追え」

 

人事担当。

 

「何を」

 

「合流」

 

---

 

国外支部へ。

 

新指示。

 

---

 

家族分離状態。

 

毎週確認。

 

---

 

本人所在地。

 

確認。

 

---

 

家族所在地。

 

確認。

 

---

 

合流可能経路。

 

確認。

 

---

 

ただし。

 

危険理由。

 

記録せず。

 

---

 

人事担当が。

 

尋ねた。

 

「もし連絡が切れたら」

 

元独立運動家。

 

止まる。

 

---

 

「切れた日を書く」

 

---

 

それ以上は。

 

言わなかった。

 

---

 

同じ頃。

 

元ドイツ軍技術者は。

 

別の分離をしていた。

 

---

 

仕事。

 

---

 

一人。

 

全部。

 

できる。

 

---

 

それを。

 

分ける。

 

---

 

Bizon。

 

発動機交換。

 

---

 

以前。

 

主任。

 

一人。

 

最終判断。

 

---

 

変更。

 

---

 

取り外し判定。

 

一人。

 

---

 

交換工程確認。

 

一人。

 

---

 

試運転判定。

 

一人。

 

---

 

最終承認。

 

二名。

 

---

 

工場長。

 

「遅くなる」

 

技術者。

 

「なる」

 

「責任が散る」

 

「違う」

 

「何が」

 

「知識を散らす」

 

---

 

責任は。

 

記録する。

 

---

 

知識は。

 

増やす。

 

---

 

一人が。

 

いなくなっても。

 

---

 

全部。

 

消えない。

 

---

 

それが。

 

狙い。

 

---

 

元白軍将校が。

 

工程表を見る。

 

「捕まっても同じだな」

 

---

 

部屋。

 

一瞬。

 

止まる。

 

---

 

技術者が。

 

彼を見る。

 

「何が」

 

「一人捕まっても」

 

指。

 

工程。

 

「全部は知らん」

 

---

 

ポーランド軍将校が。

 

低い声で言った。

 

「その目的でやるな」

 

元白軍将校。

 

「目的ではない」

 

「なら」

 

「結果だ」

 

---

 

誰も。

 

続けなかった。

 

---

 

一人の死。

 

一人の病気。

 

一人の退職。

 

一人の国外赴任。

 

---

 

そのために。

 

作ってきた仕組み。

 

---

 

占領。

 

という言葉を。

 

まだ。

 

会社の正式文書へ。

 

書いてはいない。

 

---

 

だが。

 

同じ仕組みは。

 

そこでも。

 

働く。

 

---

 

嫌なほど。

 

---

 

六月末。

 

WILK社内技能表。

 

更新。

 

---

 

一工程。

 

最低。

 

二名。

 

---

 

重要工程。

 

最低。

 

三名。

 

---

 

検査。

 

複数化。

 

---

 

承認。

 

代行者設定。

 

---

 

国外。

 

一名以上。

 

可能なら。

 

配置。

 

---

 

軍将校が見る。

 

「欲張りだ」

 

技術者。

 

「全部できていない」

 

「だから欲張りだ」

 

---

 

実際。

 

不足。

 

多い。

 

---

 

Bizon。

 

最新電装。

 

国外経験者。

 

少。

 

---

 

十一粍武装調整。

 

一部拠点。

 

不足。

 

---

 

発動機。

 

特定型。

 

国内依存。

 

---

 

大型治具。

 

国内。

 

---

 

特殊材料。

 

供給元。

 

限定。

 

---

 

完璧。

 

ではない。

 

---

 

WILKは。

 

完璧を。

 

諦めた。

 

---

 

代わりに。

 

一個ずつ。

 

穴を。

 

減らした。

 

---

 

そして。

 

別の会議。

 

---

 

創業者五名。

 

代替。

 

---

 

前月。

 

退避荷物。

 

決めた。

 

---

 

今月。

 

もし。

 

五人のうち。

 

一人が。

 

明日。

 

いなくなったら。

 

---

 

誰が。

 

仕事をする。

 

---

 

ポーランド軍将校。

 

「嫌な会議だな」

 

元白軍将校。

 

「今月何回目だ」

 

「数えてない」

 

---

 

黒板。

 

---

 

元白軍将校。

 

運用。

 

危機対応。

 

現場判断。

 

---

 

代替。

 

三名。

 

---

 

元ドイツ軍技術者。

 

設計。

 

規格。

 

工作機械。

 

---

 

代替。

 

四名。

 

---

 

ユダヤ人実業家。

 

資金。

 

契約。

 

海外。

 

---

 

代替。

 

複数支部。

 

---

 

元独立運動家。

 

人事。

 

住宅。

 

教育。

 

家族。

 

---

 

代替。

 

国内二名。

 

国外二名。

 

---

 

ポーランド軍将校。

 

軍窓口。

 

調整。

 

---

 

代替。

 

---

 

空欄。

 

---

 

軍将校。

 

「これは俺には決められん」

 

元白軍将校。

 

「軍が決める」

 

「そうだ」

 

「頼め」

 

「嫌だ」

 

---

 

全員。

 

見る。

 

---

 

軍将校。

 

「分かった!」

 

---

 

軍へ。

 

文書。

 

---

 

WILK社との軍事連絡について、

 

現担当者不在時の。

 

代替連絡将校指定を要請。

 

---

 

理由。

 

業務継続。

 

---

 

占領。

 

なし。

 

---

 

戦死。

 

なし。

 

---

 

撤退。

 

なし。

 

---

 

ただ。

 

業務継続。

 

---

 

数日後。

 

回答。

 

---

 

代替将校。

 

二名。

 

指定。

 

---

 

軍将校が。

 

紙を持って。

 

会議室へ。

 

---

 

「これで満足か」

 

元白軍将校。

 

「三人になったな」

 

「俺を含めるな」

 

「含める」

 

---

 

若い書記が。

 

五人の代替表へ。

 

最後の欄。

 

埋めた。

 

---

 

その瞬間。

 

五人全員。

 

いなくても。

 

完全ではないが。

 

WILKは。

 

動ける形になった。

 

---

 

元独立運動家が。

 

表を見る。

 

---

 

「嫌だな」

 

実業家。

 

「何が」

 

「うまくいっている」

 

---

 

少し。

 

笑った。

 

---

 

それが。

 

一番。

 

嫌だった。

 

---

 

六月最後の日。

 

工場。

 

夕方。

 

---

 

構造工。

 

四十五歳。

 

一か月。

 

若手二人へ。

 

教えた。

 

---

 

試験。

 

---

 

一人。

 

桁。

 

合格。

 

---

 

一人。

 

接合。

 

合格。

 

---

 

検査。

 

古参。

 

確認。

 

---

 

問題なし。

 

---

 

元ドイツ軍技術者。

 

署名。

 

---

 

構造工。

 

工具箱。

 

閉じる。

 

---

 

翌朝。

 

フランスへ。

 

出発。

 

---

 

駅。

 

今度は。

 

一人。

 

---

 

家族。

 

向こう。

 

---

 

若手二人。

 

見送り。

 

---

 

片方が言った。

 

「戻ってきますよね」

 

---

 

男。

 

少し。

 

考える。

 

---

 

「お前らが仕事を覚えたから」

 

---

 

笑う。

 

---

 

「戻ってこなくても、工場は動く」

 

---

 

若手。

 

困った顔。

 

---

 

男。

 

続ける。

 

---

 

「だから覚えさせた」

 

---

 

列車。

 

出る。

 

---

 

若手二人。

 

残る。

 

---

 

翌朝。

 

工場へ。

 

来る。

 

---

 

男が。

 

いた場所。

 

空いている。

 

---

 

だが。

 

仕事は。

 

止まらない。

 

---

 

一九三九年六月。

 

WILKは。

 

人を国外へ出しながら。

 

国内へ。

 

穴を残さないようにした。

 

---

 

完全には。

 

できなかった。

 

---

 

一人しか知らない仕事。

 

まだある。

 

---

 

一台しかない機械。

 

まだある。

 

---

 

一か所しかない設備。

 

まだある。

 

---

 

だから。

 

一つずつ。

 

減らした。

 

---

 

人を守るために。

 

人を抜く。

 

---

 

工場を守るために。

 

残った人へ。

 

仕事を渡す。

 

---

 

そして。

 

五人自身の仕事まで。

 

他人へ。

 

渡し始めた。

 

---

 

それは。

 

退職準備ではなかった。

 

---

 

敗北準備とも。

 

呼ばなかった。

 

---

 

ただ。

 

会社が。

 

誰か一人の存在を。

 

必要条件にしないための。

 

いつもの仕事だった。

 

---

 

ただし。

 

今年は。

 

その理由が。

 

いつもより。

 

少しだけ。

 

重かった。

 

 

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