一九二一年
本試験は、Tur試作一号機の主要防護箇所について、小銃弾および機関銃弾に対する耐性を確認するものである。
試験対象は以下の通り。
操縦席正面下部。
操縦席背面。
座席下部。
燃料タンク周辺。
操縦索集中部。
発動機下部および油系統。
製造側は、実機へ直接射撃する前に、同一材料および同一構造による試験体を使用することを要求した。
軍側はこれを承認した。
なお、試験当日、前線経験者より、
「実際には正面だけでなく、横からも後ろからも下からも撃たれる」
との意見が出された。
その結果、試験項目は当初予定の三倍に増加した。
製造側は発言者を試験場から退去させるよう求めたが、発言者はWILK共同経営者であったため、退去措置は実施されていない。
「撃つのか」
ポーランド軍将校は、試験場に並べられた鋼板を見た。
「撃つ」
陸軍大尉が答える。
「本当に?」
「耐弾試験だからな」
「分かっている」
軍将校は、その奥に置かれたTur試作一号機を見る。
「実機には撃たないな」
「今日は試験体だけだ」
「今日は?」
「結果がよければ、実機と同じ接合部でも確認する」
「なぜ完成したばかりの機体を撃つ!」
「戦場でも撃たれる」
「敵に任せろ!」
「敵は弾種も距離も報告してくれない」
元ドイツ帝国軍技師が横から言った。
「実機へ撃つ必要はない。同じ構造を作ればよい」
「接合部まで同じにできるか」
「できる」
「なら作れ」
「その費用は軍が出せ」
実業家が即座に帳簿を開いた。
「材料費、加工費、試験後廃棄費」
「まだ作ると決めただけだ!」
軍将校が叫ぶ。
「契約は決まる前に確認するものです」
「そうだが、今は早い!」
元白軍将校は、並べられた鋼板の一枚を持ち上げた。
「軽い」
「比較用の薄板だ」
技師が答える。
「これでは抜ける」
「だから撃つ」
「厚くすればよい」
「重くなる」
「貫通するよりよい」
軍将校は額を押さえた。
「もう始まったぞ」
◇
試験場には、さまざまな防護構造が並べられていた。
薄い鋼板。
厚い鋼板。
二枚重ね。
間に空間を設けたもの。
木材と鋼板を組み合わせたもの。
斜めに取り付けたもの。
布張り外皮、木枠、空間、装甲板、座席を順に並べた実機構造の模擬体。
操縦席背面を想定した箱。
座席下部を模した床。
燃料タンク周辺を再現した枠。
機首正面下部へ入れる予定の斜面装甲。
元独立運動家は、最後の一つを覗き込んだ。
「小さいな」
「必要な範囲だけ守る」
技師が答える。
「機首全体を覆わないのか」
「覆えば前が見えない」
Turは双発機である。
左右の発動機は主翼上に離れて配置され、操縦席正面を塞いでいない。
そのため機首中央から前方は、単発機より広く見渡せる。
偵察。
照準。
低空飛行。
着陸地点の確認。
その視界はTurの長所だった。
同時に、操縦席正面を発動機が盾にしてくれるわけでもない。
「正面から撃たれたら」
軍将校が尋ねる。
「操縦士の胸から下を、斜面板で守る」
「頭は」
「小さな防弾板と風防枠」
「それだけか」
「大きくすれば視界を失う」
元白軍将校が機首を見た。
「左右の発動機は守ってくれない」
「位置が外だからな」
技師が答える。
「なら正面装甲を厚く」
「機首が重くなる」
「帰れなければ意味がない」
「前が見えなくても帰れない」
軍将校は図面を見る。
「つまり、全面防御はしない」
「できない」
「操縦士の脚、腹、胸下部だけ」
「それと計器板の裏側」
「頭は」
「小さな板」
「不安だな」
「空を飛ぶこと自体が不安だ」
「設計者が言うな」
◇
人間の代わりには、藁人形が用意された。
古い軍服を着せられている。
白軍将校が胸を押した。
「柔らかすぎる」
「人間も柔らかい」
軍将校が答える。
「骨がない」
「破片の広がりを見るだけだ」
「豚肉を吊るせば」
全員が白軍将校を見る。
「何だ」
「何を考えている」
「骨と肉がある」
「食料を撃つな!」
「試験後に煮れば」
「食えるか!」
実業家が少し考えた。
「破片部分を除いて長時間煮込めば」
「検討するな!」
元独立運動家が藁人形の後ろへ木板を置いた。
「これで、抜けた弾がどこまで行くか分かる」
「それでよい」
技師が頷く。
「最初からそれで済む話だ!」
◇
最初の射撃は、小銃だった。
距離百メートル。
正面。
軍で一般的に使われる弾薬。
射手が伏せる。
標的は比較用の薄い鋼板。
「射撃開始!」
銃声。
鋼板が揺れる。
中央に穴。
裏側へ金属片。
元ドイツ技師がすぐに駆け寄った。
「貫通」
「見れば分かる」
軍将校が言う。
「これは採用しない」
「ならなぜ撃った」
「比較基準だ」
次。
少し厚い板。
銃声。
板がへこむ。
裏側が盛り上がる。
だが弾は抜けない。
「止まった」
大尉が言う。
白軍将校が裏側を触った。
「へこみが大きい」
「貫通していない」
「背中へ直接当たれば骨が折れる」
「なら板と座席を離す」
技師が答えた。
「何センチ」
「試す」
◇
操縦席背面を想定した試験体。
装甲板と藁人形の距離を変える。
十センチ。
二十センチ。
三十センチ。
一発目。
装甲板がへこむ。
板の裏から小さな金属片。
十センチ後方の藁人形へ食い込む。
「近すぎる」
技師が記録する。
二十センチ。
破片は届くが、勢いは落ちる。
三十センチ。
藁人形へ届く破片は少ない。
「二十五センチ以上」
「その空間は何に使う」
独立運動家が尋ねる。
「何にも使わない」
「工具を入れられる」
「入れるな」
「非常食」
「入れるな!」
実業家が言った。
「書類入れなら薄い物を」
軍将校が振り返る。
「外した書類入れを戻す気か!」
「空間の有効利用です」
「被弾時に潰れる!」
「重要書類は油紙で」
「書類の心配をする前に人間を守れ!」
白軍将校は空間を眺めていた。
「水袋なら」
「何に使う」
「破片を止める」
技師が少し考えた。
「試験価値はある」
軍将校が耳を疑った。
「お前まで何を言い出す」
「水の層が破片を減速させるかもしれない」
「機体へ水袋を積むのか」
「試すだけだ」
「その言葉から何度、装備が増えたと思っている!」
◇
水袋は破裂した。
装甲板は弾を止めた。
だが裏面のへこみが水袋を押し潰した。
水が飛び散る。
藁人形が濡れる。
白軍将校は満足そうに見た。
「破片は減った」
「冬なら乗員が凍える」
軍将校が答える。
「水は積まない」
技師が記録した。
衝撃吸収効果は限定的。
破損時に機内を濡らすため不採用。
実業家が言う。
「消火用水を兼ねれば」
「黙れ!」
◇
次は斜面装甲だった。
同じ厚さの板でも、角度を付ければ弾が滑る可能性がある。
機首正面下部。
操縦席背面。
燃料タンク前方。
どこにどの角度で置けるか。
十度。
二十度。
三十度。
一発目。
弾は板へ食い込む。
二発目。
角度を増やす。
弾が横へ逸れる。
三発目。
さらに傾ける。
表面を削り、跳ねた。
「有効だ」
大尉が言う。
「角度を取れれば」
技師が答える。
軍将校が機首正面下部の模擬構造を見る。
「操縦席前の板を傾ける」
「操縦士の膝前から計器板下へ」
「視界は」
「目線より下へ収める」
「観測窓は」
「中央下部を避ける」
「左右の機銃は」
「その外側だ。干渉しない」
元独立運動家が言った。
「全部を一枚で覆わないのか」
「中央の観測部、左右の武装部、操縦席正面を分ける」
「一枚の方が丈夫では」
「重くなる。整備もしにくい」
白軍将校が言う。
「壊れた板だけ交換できる」
「そうだ」
技師が答えた。
全員が彼を見る。
「何だ」
「前線交換を認めたな」
「同じ規格の板と工具がある場合だ!」
軍将校が笑った。
「条件付きでも進歩だ」
◇
正面防護の試験体へ、実際の操縦席に近い形で藁人形を置いた。
足。
腹。
胸。
頭。
正面下部には斜面装甲。
胸より上は小型の防弾板。
その間には風防を想定した透明板の代用品。
「頭をもっと守れないか」
軍将校が尋ねる。
「防弾板を大きくすれば前方視界が減る」
技師が答える。
「少し左右へ広げる」
「側面視界が減る」
「上へ」
「照準器にかかる」
「では厚く」
「重くなる」
「何もできんではないか」
「守る範囲と見る範囲を決める」
元独立運動家が言った。
「正面から撃たれても、敵を見つけられなければ避けられない」
「見えることも防御か」
軍将校が聞く。
「撃たれない場所へ飛ぶには必要だ」
技師が答えた。
射撃。
弾は斜面板へ当たり、下へ逸れた。
藁人形の脚へ小さな破片。
致命傷ではない。
二発目。
小型防弾板の端。
弾が板を削り、横へ。
藁人形の肩へ破片。
三発目。
板と板の隙間。
弾が計器板模擬材を抜き、胸へ届いた。
全員が黙った。
「隙間が弱い」
大尉が言う。
「重ね幅を増やす」
技師がすぐに答える。
「視界は」
「ほとんど変わらない」
「重量は」
「少し」
「今日もそれか」
◇
燃料タンク防護試験では、空気が少し変わった。
戦争中、燃料系統の損傷は何度も起きた。
主翼内のタンク。
発動機までの配管。
切替弁。
油系統。
弾が入れば漏れる。
霧状になれば燃える。
双発機でも、火が主翼へ回れば帰れない。
模擬タンクには水が入れられた。
実際の燃料では危険すぎる。
前方に装甲板。
下部にも薄い板。
側面は木と布。
「正面だけか」
白軍将校が尋ねる。
「前方と下方を優先する」
技師が答える。
「横から撃たれる」
「分かっている」
「後ろからも」
「分かっている!」
「上から」
「もう言うな!」
大尉が戦時中の被弾記録を広げる。
一号機。
二号機。
三号機。
どこに弾が当たったか。
前方。
側方。
下方。
後方。
「低空飛行では下からの被弾が多い」
大尉が言った。
「発動機下面とタンク下面を守る」
軍将校が答える。
「重量が増える」
技師が言う。
「燃えるよりよい」
一瞬、全員が黙った。
元白軍将校が軍将校を見る。
「同じことを言った」
「必要だからだ!」
「伝染したな」
「黙れ!」
◇
模擬燃料タンクへ射撃。
一発目。
前方装甲。
貫通なし。
タンク無事。
二発目。
装甲板の端。
弾が滑り、側面へ入り込む。
木枠を抜き、タンクへ穴。
水が噴き出す。
「板の端を広げる」
技師が言う。
「重くなる」
軍将校が答える。
「必要な重さだ」
「先に言うな!」
次は下方。
板なし。
簡単に貫通。
薄板あり。
弾は止まった。
だが固定ボルトの頭が内側へ飛ぶ。
藁人形代わりの木板へ刺さった。
「固定具が弾になる」
独立運動家が破片を拾う。
「頭を低くする」
「外側から留める」
「交換が難しい」
白軍将校が言う。
「前線で交換する」
「工場でだ」
「被弾したまま前線にいる場合は」
「撤退してから直せ!」
「撤退中に必要になる」
「また最悪の状況だけを持ち出す!」
技師は固定方法を見直した。
「外板側へ平たい頭。内側は破片受けを付ける」
「重くなる」
軍将校が言う。
「言うな」
「お前が毎回増やすからだ!」
◇
左右の発動機下部も試験対象だった。
Turの発動機は主翼上の左右にある。
操縦席正面を守る盾ではない。
だが地上から見れば大きな標的だった。
特に低空攻撃時、下面は撃たれやすい。
「発動機全体を装甲できないか」
大尉が尋ねる。
「重すぎる」
技師が答える。
「重要箇所だけ」
「どこだ」
「油槽、油配管、点火系の一部」
「気筒は」
「守れない」
「撃たれたら」
「片方を止める」
軍将校が言った。
「もう片方で帰る」
元白軍将校が頷く。
「だから双発だ」
技師は図面を指した。
「双発は弾を防ぐためではない」
「分かっている」
「片方を失っても帰るためだ」
軍将校は左右の発動機を見た。
「操縦席正面を守らない代わりに、二つあるわけではない」
「違う」
「一つ壊れても残る」
「そうだ」
「なら発動機装甲は、壊れないためではなく」
「致命的な壊れ方を減らす」
大尉がまとめた。
「油が噴き、火が出る壊れ方を避ける」
「気筒が一つ止まる程度なら」
「止めて帰る」
元白軍将校が言う。
「片方が焼けても切り離す」
「燃える前に止めろ」
技師が訂正した。
◇
昼食は、試験場の隅で取った。
黒パン。
スープ。
少量の肉。
そして、Turの飛行試験で作られたバター。
軍将校はパンへ塗られた白い塊を見る。
「まだ残っていたのか」
「塩を多くして保存しました」
実業家が答える。
大尉が一枚受け取る。
「うまい」
「今日は売るなよ」
「試験関係者への配給です」
「試食記録は」
「取ります」
「取るな!」
白軍将校は試験片を椅子代わりにしようとした。
技師が止める。
「座るな」
「もう撃った板だ」
「裏面変形を測る」
「表側は空いている」
「油を付けるな!」
軍将校は試験表を見た。
「予定の半分も終わっていない」
「項目が増えた」
大尉が答える。
「誰のせいだ」
全員が白軍将校を見る。
「私だけではない」
「横、後ろ、下、上と言った」
「実際に撃たれる」
「正しいから余計に腹立たしい」
◇
午後は機関銃弾だった。
小銃弾より威力が高い。
薄い板は簡単に抜ける。
厚い板も、距離と角度によっては貫通した。
背面板。
座席下。
機首正面下部。
燃料タンク防護。
どれも、一発なら止められる場合がある。
二発。
三発。
同じ場所へ重なれば、耐えられない。
鋼板の裏から破片が飛ぶ。
藁人形の胸へ刺さる。
軍将校の顔から、朝の軽さが消えた。
「これでは足りない」
「全部を防ぐのは無理だ」
技師が答える。
「なら操縦士だけでも」
「守る順番を決める」
技師はTurの断面図を広げた。
「正面下部」
「背面」
「座席下」
「燃料タンク」
「操縦索集中部」
「左右発動機の油系統」
「頭部は小型防弾板」
「側面は」
軍将校が尋ねる。
「限定的だ」
「もっと広く」
「視界と重量を失う」
「後席は」
「背面板と旋回機銃架の防盾」
「観測員の正面は」
「操縦士の座席と装甲板が一部守る」
白軍将校が言った。
「人間を装甲に数えるな」
「座席と板だ!」
独立運動家は図面を見る。
「全部を守れないなら、壊れても残るようにする」
「そうだ」
技師が答える。
「片方の発動機」
「残りで帰る」
「操縦索」
「二重化」
「燃料配管」
「左右独立」
「装甲板」
「交換式」
「乗員は」
軍将校が聞いた。
「生きて帰る」
技師は短く答えた。
◇
最後に、実機構造を再現した大型試験体へ撃った。
前方。
側方。
後方。
下方。
布張り外皮。
木枠。
空間。
装甲。
座席。
藁人形。
正面から一発。
弾は機首下部の斜面板へ当たり、横へ逸れる。
小さな破片が計器板模擬材へ。
藁人形は無事。
二発目。
装甲板の端。
固定部がへこむ。
破片が藁人形の脚へ。
三発目。
板と観測窓の境界。
弾が木枠を抜き、胸へ届いた。
「境界部を補強」
技師がすぐに記録する。
背面から。
一発目。
装甲板が止める。
二発目。
少し離れた位置。
止まる。
三発目。
最初の弾痕に近い。
板が割れ、貫通。
藁人形の背中へ。
誰も話さなかった。
「同じ場所へ続けて受ければ持たない」
技師が言う。
「一発なら」
軍将校が聞く。
「帰れる可能性が上がる」
「二発なら」
「場所による」
「三発」
「帰れないかもしれない」
元独立運動家が藁人形を見る。
「一発受けたと分かったら帰る」
「飛行中に分かるか」
大尉が尋ねる。
「大きな弾なら」
「小さな破片だけなら」
技師は少し考えた。
「内側に白い薄板を置く」
「何のために」
「破片が飛べば跡が残る」
「飛行中に見えるか」
「後席から確認できる場所なら」
「操縦席背面装甲に付ける」
「点検にも使える」
実業家が言った。
「交換時期を判断できます」
「今度は商売ではないな」
「維持費も重要です」
「やはり商売だった」
◇
試験終了後。
Tur試作一号機の防護配置は見直された。
操縦席正面下部に、斜面装甲。
計器板裏へ、破片防止板。
風防下端へ、小型防弾板。
操縦席背面へ、厚い装甲板。
座席下部へ、薄い防護板。
燃料タンク前方および下部へ、交換式装甲。
操縦索集中部へ、箱状防護。
左右発動機下部には、油系統を守る限定装甲。
すべてを覆ってはいない。
機首中央の視界は残した。
観測窓も。
写真機の視野も。
左右の固定機関銃を置く空間も。
発動機は左右に離れたまま。
一方が撃たれても、もう一方で帰るために。
「合計四十九キロ増加」
軍将校が新しい重量表を見た。
「試験結果だ」
技師が答える。
「最大速度は」
「少し落ちる」
「上昇力も」
「少し」
「その“少し”で何キロ増えた」
「四十九」
「数字にすると少しではない!」
「生存率は上がる」
「どれほど」
「実戦でしか分からない」
「撃たれてからでなければ分からんのか」
「だから撃たれる前に考えた」
元独立運動家が言った。
「よい言葉だ」
実業家が帳簿へ書こうとする。
軍将校が止めた。
「社是にするな」
「設計方針に使えます」
元白軍将校が頷く。
「撃たれてから考えるな」
元ドイツ技師も、しばらくして頷いた。
「壊れてからでは遅い部分もある」
「壊れてから直す会社ではなかったか」
軍将校が尋ねる。
「直せる場所は直す」
技師が答えた。
「直せない壊れ方を減らす」
◇
翌週。
Turは追加装甲を付けて、再び飛んだ。
重くなった。
離陸滑走は伸びた。
上昇も鈍くなった。
操縦桿も、以前より重い。
だが機首正面の視界は失われていない。
軍将校は操縦席から前を見る。
牧草地。
遠くの森。
着陸予定地点。
左右の発動機は視界の端にある。
中央は開けている。
「見えるか」
後席の技師が尋ねる。
「見える」
「正面板は邪魔か」
「足元は少し狭い」
「視界は」
「問題ない」
「重量は感じるか」
「かなり」
「装甲を外すか」
軍将校は、目の前の小さな防弾板を見る。
背中の後ろにある厚い板。
足元。
床下。
左右の発動機。
「外さない」
「重いぞ」
「必要な重さだ」
後席で技師が少し笑った。
「言うようになったな」
「お前たちが何度も言うからだ」
◇
再飛行は無事に終わった。
脚は下りた。
着陸も真っすぐ。
干し草山へは入らない。
軍将校が機体から降りると、白軍将校が尋ねた。
「正面から撃たれたら」
「小銃弾一発なら、たぶん帰れる」
「機関銃なら」
「場所による」
「発動機を一つ失ったら」
「もう一つで帰る」
「両方なら」
「降りる」
「どこへ」
「大車輪が役に立つ場所へだ!」
元独立運動家が笑った。
「よい機体になった」
元ドイツ技師は、既に装甲板の固定部を点検している。
「まだ試作だ」
「いつ完成する」
「改良が終わったら」
軍将校が言う。
「それは永遠に終わらんぞ」
◇
陸軍航空部へ提出された最終報告には、こう記された。
Tur試作一号機は、限定的な装甲防護を有する。
機首正面視界、観測能力および低空運用能力を維持するため、全面装甲は採用しない。
操縦席正面下部、背面、座席下部、燃料系統、操縦索集中部および発動機油系統を優先して防護する。
左右の発動機は操縦席正面を防護するものではない。
一方の発動機を失った場合にも、残る一基で帰還するための冗長性である。
本防護は、被弾後の任務継続を保証するものではない。
乗員を生存させ、機体を帰還させ、修理可能な状態へ持ち帰るための防護である。
実業家は、その写しを帳簿へ挟んだ。
その下へ、二行だけ書き足した。
すべてを防ぐ機体ではない。
一つ壊れても、残った物で帰る機体である。
軍将校が読んだ。
「少し格好を付けすぎではないか」
「設計の目的です」
「まだ戦場へ出ていない」
「戦場へ出る前に決めるから意味があります」
元独立運動家が言う。
「撃たれてから考えるな」
元白軍将校が続けた。
「落ちてから作り直すな」
元ドイツ技師は顔を上げた。
「落ちても直せるようには作る」
「そこだけは譲らんのだな」
「当然だ」
◇
作業場の外で、Turの二基の発動機が回り始めた。
機首中央の前方視界。
正面下部の斜面装甲。
背中を守る厚い板。
足元を守る床。
左右に離れた発動機。
二重化された操縦索。
左右独立の燃料系統。
撃たれないためではない。
撃たれても、すべてを一度に失わないため。
野牛は、弾を跳ね返す怪物ではなかった。
傷を負っても、残った脚と肺で帰る獣だった。