WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――ポーランド陸軍航空部・Tur試作一号機兵装試験報告
一九二一年

前方固定機関銃二挺。
後方旋回機関銃一挺。
小型爆弾六発。
写真機一台。
無線機一式。

上記装備を搭載し、模擬地上目標への攻撃、航空偵察、写真撮影および無線報告を実施した。

前方機関銃および爆撃の命中率は、軍側期待値を下回った。

しかし、模擬砲兵陣地の要員は機銃掃射および爆撃を避けるため、全員が遮蔽物へ退避した。
その間、砲撃作業は停止している。

製造側は、

「目標を破壊できなくとも、その仕事を止めることはできる」

と評価した。

航空部は、命中率の不足を運用上の利点だけで覆い隠さないよう注意した。


第18話 当たらなくても役に立つ

「機首中央へ一挺では駄目なのか」

 

 ポーランド軍将校が尋ねた。

 

 Tur試作一号機の機首は、双発機らしく前方へ開けている。

 

 左右の発動機は主翼に付いている。

 

 単発機のように、機首中央を発動機とプロペラが塞いではいない。

 

 正面には操縦士の視界があり、その下には観測窓がある。

 

 軍将校の疑問は、もっともだった。

 

「置ける」

 

 元ドイツ帝国軍技師が答えた。

 

「なら、なぜ左右へ二挺だ」

 

「中央は見るために使う」

 

「銃を置いても前は見えるだろう」

 

「銃身だけならな」

 

 技師は機首の断面図を広げた。

 

「機関部、給弾路、弾薬箱、点検口が要る。中央下部には観測窓。前下方へ向ける写真機の空間もある」

 

「少し上へ」

 

「照準器と視界を邪魔する」

 

「下へ」

 

「観測窓を塞ぐ」

 

「横へ」

 

「だから左右に置いた」

 

 軍将校は図面を見た。

 

 沈黙。

 

 元白軍将校が言った。

 

「最初からそう言えばよい」

 

「最初から図面に描いてある!」

 

「図面は話さない」

 

「読め!」

 

     ◇

 

 前方固定機関銃二挺は、機首左右の胴体側面へ配置された。

 

 左右の発動機より内側。

 

 プロペラの回転面からも外れている。

 

 したがって、プロペラの間を撃つための同調装置は必要ない。

 

 構造は単純になる。

 

 ただし、左右の機関銃は離れている。

 

 そのまま真っすぐ撃てば、弾道も離れたままだ。

 

「射線を二百五十メートル先で寄せる」

 

 陸軍大尉が説明した。

 

「一点に集めるのか」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「完全には集めない」

 

 元ドイツ技師が答えた。

 

「なぜ」

 

「地上目標は一点ではない」

 

 元独立運動家が、地面へ二本の棒を置いた。

 

 左右の機銃。

 

 前方へ伸びる射線。

 

 二百五十メートル付近で近づき、その先でまた離れる。

 

「機関銃陣地、馬車、砲兵、人間。一か所だけへ集めるより、少し幅があった方が頭を上げにくい」

 

「だが車両を狙うなら、狭い方がよい」

 

 大尉が言った。

 

「だから二百五十メートル付近では十分に近づける」

 

 軍将校は棒の先を見る。

 

「調整距離を変えられるか」

 

「できる」

 

「前線で?」

 

 元白軍将校が尋ねた。

 

「測定器具と記録があれば」

 

「腕力で少し曲げれば」

 

「絶対にするな!」

 

「だが早い」

 

「左右を別の方向へ曲げる未来しか見えん!」

 

 実業家が口を挟んだ。

 

「専用調整器具を販売すれば」

 

「今は黙れ!」

 

     ◇

 

 Turの兵装試験は、最初から装備が多かった。

 

 前方固定機関銃二挺。

 

 後方旋回機関銃一挺。

 

 小型爆弾六発。

 

 写真機。

 

 無線機。

 

 地図机。

 

 観測窓。

 

 爆撃照準器。

 

「一つずつ試す」

 

 元ドイツ技師が言った。

 

「最後には全部載せた状態でも確認する」

 

 大尉が答えた。

 

「最後にな」

 

「試験場の使用期限が短い」

 

「延長しろ」

 

「金がない」

 

 実業家が帳簿から顔を上げる。

 

「試験場は一日単位の料金ですか」

 

「そうだ」

 

「では、まとめて行いましょう」

 

 軍将校が振り返った。

 

「技師ではなく、お前が折れるのか!」

 

「費用が減ります」

 

「事故が起きれば増えるぞ」

 

「事故が起きない範囲で」

 

「その範囲を調べるのが試験だ!」

 

 元独立運動家は、後席の周囲へ装備を並べていた。

 

 旋回機銃。

 

 写真機。

 

 無線機。

 

 地図。

 

 爆弾投下装置。

 

「これを一人で全部使うのか」

 

「使う」

 

 大尉が答えた。

 

「腕が何本要る」

 

「二本だ」

 

 元白軍将校が言う。

 

「足でも操作すればよい」

 

「何を」

 

「無線の送信鍵」

 

「採用しない」

 

 技師が即答した。

 

「まだ試していない」

 

「試すな」

 

     ◇

 

 後席へ実際に座ると、問題はすぐに分かった。

 

 狭い。

 

 前を向けば、地図と写真機を扱える。

 

 下を向けば、観測窓から爆撃照準。

 

 横を向けば、無線機。

 

 後ろを向けば、旋回機銃。

 

 すべてを同時には使えない。

 

「座席を回す」

 

 大尉が回転座席の留め具を外した。

 

 座席が後ろへ向く。

 

 膝が無線機へ当たった。

 

「狭い」

 

「設計時から分かっていた」

 

 技師が答える。

 

「無線機を上へ」

 

「後方機銃の旋回を邪魔する」

 

「下へ」

 

「足が入らない」

 

「前へ」

 

「操縦士の背中だ」

 

「貨物室へ」

 

「操作できない」

 

 軍将校が言った。

 

「観測員を二人にすればよい」

 

「座席がない」

 

「増やせ」

 

「重量も増える」

 

「一人ではできないのだろう」

 

「任務ごとに装備を減らす」

 

 大尉が首を振る。

 

「偵察中に敵機が来る」

 

「後方機銃は要る」

 

「撮影した情報を送る」

 

「無線も要る」

 

「写真も撮る」

 

「爆撃する可能性もある」

 

 軍将校は両手を広げた。

 

「だから結局、全部載せるのではないか!」

 

 技師は冷静だった。

 

「載せることと、同時に使うことは違う」

 

     ◇

 

 解決策は、装備の位置だけではなかった。

 

 操作の順番を決めた。

 

 偵察中は前向き。

 

 地図確認。

 

 写真撮影。

 

 無線報告。

 

 敵機を発見したら、座席を回して後方機銃。

 

 地上攻撃時は観測窓を使い、爆弾を投下。

 

「座席を回している間に敵機が来る」

 

 元独立運動家が言った。

 

「早く回す」

 

「地図が落ちる」

 

「留め具を付ける」

 

「写真乾板が割れる」

 

「箱へ固定する」

 

「無線の線が絡む」

 

「床へ通す」

 

 元ドイツ技師は、次々と図面へ線を加えた。

 

 回転座席。

 

 地図留め。

 

 折り畳み式写真機架。

 

 無線配線保護管。

 

 弾薬箱の位置変更。

 

「また重くなる」

 

 軍将校が言う。

 

「少し」

 

「その言葉を重量単位として禁止したい」

 

 実業家が尋ねた。

 

「交換式装備として別価格にできますか」

 

「できる」

 

 技師が答えた。

 

「答えるな!」

 

     ◇

 

 最初は前方機関銃の地上射撃だった。

 

 Turは試験場の端へ固定される。

 

 大きな車輪へ止め具。

 

 主脚へ綱。

 

 尾部にも固定索。

 

 発動機は止めたまま。

 

 機首を標的へ向ける。

 

 二百五十メートル先には大きな白布。

 

 中央に黒い円。

 

「操縦席から撃つ」

 

 大尉が言った。

 

「なぜまた私だ」

 

 軍将校が操縦席へ乗る。

 

「固定機銃は操縦士が使う」

 

「試験射手を乗せればよい」

 

「照準器と操縦席の位置関係も見る」

 

「機体は飛んでいないぞ」

 

「だからまず地上で試す」

 

 元白軍将校が固定索を見る。

 

「反動で動くかもしれん」

 

「動かないよう固定した」

 

「外れれば」

 

「不吉なことを言うな!」

 

     ◇

 

 右機銃。

 

 短い連射。

 

 機体が震える。

 

 標的右側へ弾痕。

 

 次に左。

 

 標的左側。

 

「遠い」

 

 軍将校が言った。

 

「予定より広い」

 

 元ドイツ技師は機銃架を確認する。

 

「架台が少したわんでいる」

 

「撃っただけでか」

 

「反動は繰り返しかかる」

 

「補強するか」

 

「その前に調整する」

 

 元白軍将校が機銃架を掴んだ。

 

「これを少し内へ」

 

「触るな!」

 

「曲げれば早い」

 

「照準調整を腕力で行うな!」

 

 右を調整。

 

 左を調整。

 

 再射撃。

 

 今度は近づいた。

 

 だが左右の高さが違う。

 

「右が低い」

 

「架台の座面だ」

 

「削るか」

 

「薄板を挟む」

 

「木片で」

 

「金属板だ!」

 

 何度かの調整後。

 

 左右の射線は二百五十メートル付近で、黒い円の左右へまとまった。

 

 完全に一点ではない。

 

 人間数人分ほどの幅を残している。

 

「これでよい」

 

 大尉が言った。

 

「敵機を狙うには広くないか」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「地上攻撃用だ」

 

「敵機へ撃てないのか」

 

「撃てる。命中しにくいだけだ」

 

「正直だな」

 

「Turは戦闘機ではない」

 

 元白軍将校が言う。

 

「敵機が前にいれば、二挺とも撃てる」

 

「それを戦術と呼ぶな」

 

     ◇

 

 後方機関銃の射界確認。

 

 大尉が後席へ座る。

 

 旋回機銃を右へ。

 

 左へ。

 

 上へ。

 

 斜め下へ。

 

 左右の発動機方向へ向けると、制限具が止めた。

 

「この先へ動かない」

 

「自機を撃たないためだ」

 

 技師が答える。

 

 Turは双発機である。

 

 機首前方は開いている。

 

 だが後席から見れば、左右前方には主翼上の発動機と、回転するプロペラがある。

 

 後方には尾翼。

 

 旋回機銃を自由に振り回せば、自分の機体を撃ちかねない。

 

「敵機が発動機の向こうにいたら」

 

 元白軍将校が尋ねた。

 

「機体を旋回させる」

 

 軍将校が答える。

 

「操縦士が気づかなければ」

 

「観測員が叫ぶ」

 

「発動機音で聞こえなければ」

 

「もっと叫べ!」

 

 元独立運動家が言った。

 

「操縦士の肩を突く棒を」

 

「付けない!」

 

「では足で蹴る」

 

「どちらも駄目だ!」

 

     ◇

 

 後方射撃の地上試験は、低速滑走しながら行われた。

 

 標的は機体の斜め後方。

 

 Turが牧草地をゆっくり走る。

 

 大尉が機銃を構える。

 

 短い連射。

 

 弾は標的の周囲へ散った。

 

「揺れる!」

 

「空ではもっと揺れる!」

 

 軍将校が前席から叫ぶ。

 

「先に言え!」

 

「分かるだろう!」

 

 二度目。

 

 数発が標的へ命中。

 

 だが機銃を追うと、無線機の受話器が肩へ当たる。

 

「無線が邪魔だ!」

 

「受話器を固定しろ!」

 

「片手が塞がっている!」

 

「肩と頭で挟め!」

 

 元白軍将校が地上から叫ぶ。

 

「歯で噛め!」

 

「お前は黙っていろ!」

 

     ◇

 

 無線機も、飛行中は問題が多かった。

 

 発動機音。

 

 風。

 

 振動。

 

 点火系から入る雑音。

 

 送信はできる。

 

 だが聞き取りにくい。

 

「こちらTur一。試験場、聞こえるか」

 

 大尉が送信する。

 

 受話器から雑音。

 

……Tur……場……聞……。

 

「繰り返す。こちらTur一」

 

……繰……せ……。

 

「聞こえているのか!」

 

 軍将校が振り返りかける。

 

「前を向け!」

 

 大尉が叫ぶ。

 

「何と言った!」

 

「前を向け!」

 

「近いのだから直接言え!」

 

「今言った!」

 

 地上の技師は受信記録を取っていた。

 

「雑音が多い」

 

 白軍将校が受信機の横で言う。

 

「もっと大声で話せばよい」

 

「無線は声量だけの問題ではない」

 

「聞こえないなら大きくする」

 

「単純すぎる!」

 

 しかし操縦士と観測員が声を大きくすると、多少は聞き取りやすくなった。

 

 技師は不本意そうに記録した。

 

送話者に明瞭かつ大きな発声を訓練すること。

 

     ◇

 

 本格的な兵装試験の日。

 

 Turへ、すべての装備が積まれた。

 

 前方固定機関銃二挺。

 

 後方旋回機関銃一挺。

 

 弾薬。

 

 小型爆弾六発。

 

 写真機。

 

 無線機。

 

 燃料。

 

 乗員二名。

 

 緊急工具。

 

 機体は重かった。

 

「離陸できるのか」

 

 軍将校が重量表を見る。

 

「できる」

 

 技師が答えた。

 

「計算上は、と言わないのか」

 

「地上滑走試験をした」

 

「なら安心か」

 

「滑走路が乾いていれば」

 

 全員が地面を見る。

 

 前日の雨。

 

 牧草地は少し湿っている。

 

「延期するか」

 

 大尉が言った。

 

 実業家が試験場使用予定表を見る。

 

「次の空きは十日後です」

 

 軍将校が操縦席へ乗った。

 

「飛ばす」

 

「判断が早いな」

 

「十日分の費用を聞いた後ではな!」

 

     ◇

 

 Turは長く走った。

 

 重い。

 

 車輪が湿った地面へ沈む。

 

 二基の発動機は力強く回る。

 

 だが速度がなかなか上がらない。

 

「まだか!」

 

 軍将校が叫ぶ。

 

「速度不足!」

 

 後席の大尉が計器を見る。

 

 牧草地の端が近づく。

 

「上がれ!」

 

「まだ早い!」

 

「柵がある!」

 

「あの柵は外せと言っただろう!」

 

「農場主が戻した!」

 

 軍将校が操縦桿を引く。

 

 大きな主翼が機体を持ち上げる。

 

 大車輪が最後に草をかすめた。

 

 柵の上を、ぎりぎり越える。

 

 農場主が下から叫んだ。

 

「今度は壊すなよ!」

 

「聞こえん!」

 

「なら返事をするな!」

 

     ◇

 

 最初の任務は偵察。

 

 演習地の外周を飛ぶ。

 

 大尉は前向き。

 

 写真機を展開。

 

 地図を見る。

 

「道路を撮る」

 

「右へ傾ける」

 

「少し!」

 

「数字で言え!」

 

「写真機を見ている!」

 

「なら操縦士を信じろ!」

 

「もう少し右!」

 

「どちらだ!」

 

「今度は戻せ!」

 

「注文が多い!」

 

 写真撮影。

 

 乾板交換。

 

 無線で報告。

 

「模擬砲兵陣地を確認」

 

……砲兵……確認……。

 

「座標を送る」

 

 地図を見る。

 

 送信鍵。

 

 写真機が膝へ当たる。

 

 地図留めが外れかける。

 

「狭い!」

 

「設計中に言え!」

 

「実際に使って初めて分かる!」

 

「だから試験だ!」

 

     ◇

 

 模擬砲兵陣地が見えた。

 

 木製の大砲。

 

 荷車。

 

 白布で示された塹壕。

 

 砲兵役の兵士たちは、砲弾を運ぶ動作をしている。

 

 もちろん実弾の射線からは離れている。

 

 合図があれば遮蔽物へ退避する。

 

「機銃掃射へ入る」

 

 軍将校が高度を下げる。

 

「射撃開始、五百メートル」

 

 大尉が距離を読む。

 

「まだ遠い」

 

「四百」

 

 機首中央の視界は広い。

 

 左右に発動機は見える。

 

 だが正面を塞ぐ物はない。

 

 照準器の先へ、模擬砲兵陣地が入る。

 

「三百!」

 

 軍将校が引き金を握る。

 

 左右の機関銃が同時に発射。

 

 Turが細かく震えた。

 

 曳光弾が地上へ伸びる。

 

 最初の連射は陣地の手前。

 

「短い!」

 

 大尉が叫ぶ。

 

「機首を上げる!」

 

 二度目。

 

 弾は砲の左右へ散る。

 

 兵士役が一斉に遮蔽物へ飛び込んだ。

 

「当たっていない!」

 

「全員伏せた!」

 

「目標は砲だ!」

 

「砲も撃てなくなった!」

 

 Turは陣地上空を通過。

 

 軍将校は機体を引き起こす。

 

「もう一度入る」

 

「今度は二百五十から!」

 

「低すぎないか」

 

「機銃の調整距離だ!」

 

「調整した本人が言うな!」

 

     ◇

 

 二度目の進入。

 

 照準器へ木製砲を入れる。

 

 射撃。

 

 左右の弾道が近づき、砲の周囲を叩く。

 

 数発が木製砲へ命中。

 

 砲身役の丸太が削れる。

 

 車輪が一つ割れた。

 

「命中!」

 

 大尉が叫ぶ。

 

「何発中だ!」

 

「今は数えるな!」

 

「試験だぞ!」

 

「地上から数えている!」

 

 Turは陣地の上を通り過ぎる。

 

 兵士役はまだ伏せている。

 

 模擬砲は一門だけ破損。

 

 だが陣地全体の作業は止まった。

 

     ◇

 

 次は爆撃。

 

 小型爆弾六発。

 

 二発ずつ、三回。

 

 高度三百メートル。

 

 大尉は座席を前へ戻す。

 

 床の観測窓を覗く。

 

「一番、二番爆弾」

 

「安全装置解除」

 

「左へ少し」

 

 軍将校が修正。

 

「戻せ!」

 

「どちらだ!」

 

「行きすぎた!」

 

「先に言え!」

 

「今!」

 

 投下。

 

 二発が機体から離れる。

 

 一発は陣地の外。

 

 一発は荷車の近く。

 

 爆発。

 

 土煙。

 

 荷車が横倒しになる。

 

「一発有効!」

 

「直撃ではない!」

 

「運べなくなった!」

 

「模擬荷車だ!」

 

     ◇

 

 二回目。

 

 風を補正。

 

 観測窓の目盛りへ目標を合わせる。

 

「今!」

 

 二発。

 

 一発は木製砲の間。

 

 もう一発は塹壕の端。

 

 爆発。

 

 遮蔽物から出ようとしていた兵士役が、再び伏せる。

 

「また作業が止まった」

 

 大尉が言う。

 

「試験手順上、退避している」

 

「実戦でも爆弾が落ちている間は退避する!」

 

「当たらなくても?」

 

「次は当たるかもしれない!」

 

 軍将校は少し黙った。

 

「確かにな」

 

「何が」

 

「当たらなくても、そこに居続けるのは嫌だ」

 

「ようやく分かったか」

 

「郵便機で爆弾を落とした時は、落とすだけで精一杯だった」

 

「あの時は照準器すらなかった」

 

     ◇

 

 三回目。

 

 高度を少し下げる。

 

 最後の二発。

 

「目標中央」

 

「速度維持」

 

「右へ少し」

 

「これでどうだ」

 

「今!」

 

 爆弾が落ちる。

 

 一発は木製砲のすぐ横。

 

 爆風で砲身役の丸太が外れた。

 

 もう一発は大きく外れ、畑の端へ穴を開ける。

 

「一門撃破!」

 

「木製だ!」

 

「本物でも近ければ壊れる!」

 

「たぶんな!」

 

「たぶんと言うな!」

 

 Turが上昇する。

 

 地上の兵士役は、すぐには遮蔽物から出なかった。

 

 試験監督官が旗を振る。

 

 ようやく立ち上がる。

 

 作業停止時間。

 

 四分十七秒。

 

 破損した模擬砲は一門。

 

 だが陣地全体の作業は、機銃掃射と爆撃のたびに止まった。

 

     ◇

 

 後方機銃の空中射撃には、本来、曳航標的を使う予定だった。

 

 別の軍用機が標的を引く。

 

 そのはずだった。

 

 だが相手機は来なかった。

 

「発動機故障だそうだ」

 

 大尉が無線報告を聞く。

 

 軍将校は即答した。

 

「中止」

 

「地上標的へ後方から撃てないか」

 

「尾を振りながらか」

 

「旋回すれば」

 

「操縦と照準を同時に合わせるのか」

 

「試す価値はある」

 

「今日は帰る!」

 

 大尉は不満そうに後方機銃を左右へ動かした。

 

 遠くに別の連絡機が見える。

 

「射界確認」

 

「撃つなよ」

 

「安全装置は入っている」

 

「弾も抜け!」

 

「敵機役として追えないか」

 

「相手に知らせず模擬戦を始めるな!」

 

     ◇

 

 Turは全装備を積んだまま着陸した。

 

 大きな翼。

 

 低速安定性。

 

 太い大車輪。

 

 接地後の制動距離は長い。

 

 だが機体は真っすぐ走った。

 

 干し草山にも、柵にも入らない。

 

 停止。

 

 発動機が止まる。

 

 地上の技師がすぐ機体へ走り寄る。

 

「前方機銃架」

 

「異常なし」

 

 大尉が答える。

 

「二番爆弾架」

 

「投下時に少し引っかかった」

 

「変形している」

 

「弾薬箱は」

 

「固定具が緩んだ」

 

「後席は」

 

「狭い」

 

「知っている」

 

「写真機を使うと無線が邪魔だ」

 

「知っている」

 

「機銃へ向くと地図が落ちる」

 

「留め具を付けた」

 

「留め方が悪かった」

 

「誰が留めた」

 

「私だ」

 

「ならお前が悪い!」

 

 大尉は少し考えた。

 

「もっと大きな留め具を付けてくれ」

 

「すぐ機体のせいに戻すな!」

 

     ◇

 

 模擬砲兵役を務めた兵士たちからも、報告が集められた。

 

機銃弾の多くは外れた。

ただし射撃中に頭を上げることは困難だった。

 

爆弾の直撃は少ない。

どこへ落ちるか予測できないため、陣地全体が退避した。

 

爆撃終了後も、二度目の進入を警戒し、すぐには作業へ戻れなかった。

 

模擬砲の損害は限定的。

砲撃作業の停止時間は大きい。

 

 軍将校は報告を読む。

 

「命中率は低い」

 

 大尉が答える。

 

「訓練と照準器改良が必要だ」

 

「だが陣地は止まった」

 

「攻撃中はな」

 

「四分十七秒」

 

「その時間があれば、味方歩兵は前進できる」

 

 元独立運動家が言った。

 

「敵を壊すことだけが仕事ではない」

 

「敵の仕事を止める」

 

 元白軍将校も頷く。

 

「頭を下げさせれば、その間は撃ってこない」

 

 元ドイツ技師は射撃記録を確認していた。

 

「それでも当てた方がよい」

 

「当然だ」

 

 軍将校が答える。

 

「命中率不足を戦術的成功だけで誤魔化すな」

 

 実業家が帳簿へ何かを書いた。

 

「何を書いている」

 

「運用上の利点です」

 

 軍将校が覗く。

 

目標破壊に至らない場合でも、反復攻撃により敵の活動を妨害できる。

 

「少し格好よく書きすぎだ」

 

「軍の報告書向けです」

 

「販売資料向けでは」

 

「両方です」

 

     ◇

 

 問題は弾薬消費だった。

 

 前方機銃二挺。

 

 後方機銃一挺。

 

 短時間の試験だけで、大量の弾を使った。

 

「これだけ撃ったのか」

 

 軍将校が記録を見る。

 

「弾を当てるには撃つ必要がある」

 

 大尉が答える。

 

 元白軍将校が言った。

 

「搭載弾数を増やす」

 

 技師が睨む。

 

「重くなる」

 

「爆弾を減らす」

 

「任務による」

 

「写真機を降ろす」

 

「偵察できない」

 

「無線を降ろす」

 

「報告できない」

 

「観測員の食料を」

 

「人間を軽量化するな!」

 

 実業家が口を挟んだ。

 

「任務ごとに装備量を変えるべきです」

 

 全員が彼を見る。

 

「偵察なら、写真機、無線機、増加燃料」

 

「攻撃なら、爆弾と弾薬」

 

「連絡なら、武装を減らして貨物」

 

「救急なら、担架と医薬品」

 

 軍将校が眉をひそめる。

 

「別の機体を何種類も作るのか」

 

「機体そのものは共通です」

 

 元ドイツ技師が図面を取った。

 

「固定点を共通化する」

 

「弾薬箱、写真機、無線機、担架枠を交換式に」

 

「換装時間は」

 

 大尉が聞く。

 

「整備班が慣れれば数時間」

 

「前線で?」

 

 元白軍将校が尋ねる。

 

 技師は一瞬黙った。

 

「設備があれば」

 

「できるな」

 

「作業記録を取ればだ!」

 

 軍将校が笑った。

 

「最後の条件だけは絶対に外さないな」

 

     ◇

 

 Tur最初の派生型が、紙の上で生まれた。

 

Tur-A

偵察・連絡型。

写真機、無線機、増加燃料を搭載。

 

Tur-B

軽爆撃・地上攻撃型。

爆弾搭載量および前方機銃弾薬を増加。

 

Tur-C

救急・軽輸送型。

担架二床、医薬品収納、武装縮小。

 

 軍将校は一覧を見た。

 

「試作一機から、もう三種類か」

 

 実業家が答える。

 

「基本機体は共通です」

 

「装備は別売り」

 

「はい」

 

「嬉しそうだな」

 

「生産効率も上がります」

 

 元独立運動家はC型の図面を見る。

 

「担架二床」

 

「軍要求は一床だった」

 

 技師が答える。

 

「二床入る」

 

「なら四床も」

 

「入れない!」

 

「緊急時だけ」

 

「二段にする気だな!」

 

 白軍将校が倉庫の方を見る。

 

「以前の固定具が残っている」

 

「捨てろ!」

 

     ◇

 

 夕方。

 

 前方機関銃架は再調整された。

 

 固定部を補強。

 

 照準器の目盛りを追加。

 

 爆撃照準線には、高度と速度の目安を書き込む。

 

 後席の地図留めは大きく。

 

 無線機の受話器は、肩へ固定できるように変更。

 

「これなら両手が空く」

 

 大尉が試す。

 

「聞こえるか」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「少し」

 

「機銃を撃ちながら報告できる?」

 

「たぶん」

 

「何を言う」

 

「敵機が来た、と」

 

「それは直接叫べ!」

 

 元独立運動家は、試験中に撮影された写真を見ていた。

 

 爆発。

 

 土煙。

 

 伏せる兵士。

 

 放置された模擬砲。

 

 実際の弾痕は少ない。

 

 だが陣地全体が止まっている。

 

「大きな野牛が頭上へ来れば、誰でも伏せるな」

 

「野牛は飛ばない」

 

 技師が答える。

 

「これは飛ぶ」

 

「比喩を事実として返すな」

 

     ◇

 

 陸軍航空部の評価は慎重だった。

 

Turは戦闘機としては鈍重である。

 

純粋な爆撃機としては搭載量が少ない。

 

偵察機としては大型であり、発見されやすい。

 

しかし低速安定性、不整地運用能力、装備換装性、限定装甲および双発による帰還性は良好である。

 

本機は単一任務における最良機ではない。

 

複数任務を、同一機体、同一部隊、同一整備体系で遂行できる点に価値を有する。

 

 軍将校は最後まで読んだ。

 

「褒められているのか」

 

 大尉が答える。

 

「軍の報告書としては、かなり」

 

「最良ではない、と書いてある」

 

「全部で二番か三番なら、前線では便利だ」

 

 元白軍将校が頷く。

 

「一番の機体が来なければ、一番になる」

 

「嫌な現実だな」

 

 元独立運動家が言った。

 

「必要な場所へ行ける機体が、よい機体だ」

 

 元ドイツ技師は、まだ前方機銃架の計算を続けている。

 

「当たる方がよい」

 

「それも必要だ」

 

     ◇

 

 実業家は試験結果を帳簿へまとめた。

 

前方固定機銃、射線調整および架台補強を要す。

 

機首中央視界は良好。

観測、照準、写真撮影に有効。

 

後方旋回機銃、射界良好。発動機、プロペラおよび尾翼による死角あり。

 

爆撃精度、改善余地大。

 

無線通信、雑音対策および発声訓練を要す。

 

写真撮影、実用可能。

 

模擬砲兵陣地は攻撃中、作業を停止。

 

 最後に一行。

 

当たらない場合も、何も起こらないわけではない。

 

 軍将校が読んだ。

 

「言い訳に見える」

 

「消しますか」

 

 軍将校は、模擬陣地の写真を見た。

 

 土煙。

 

 伏せる兵士。

 

 撃てない砲。

 

「いや。残せ」

 

     ◇

 

 夜。

 

 作業場の壁には、Tur-A、B、Cの装備図が並んだ。

 

 同じ機体。

 

 違う仕事。

 

 写真機を積む野牛。

 

 爆弾を積む野牛。

 

 担架を積む野牛。

 

 軍将校は三枚を見比べた。

 

「全部作るのか」

 

 実業家が答える。

 

「軍が買えば」

 

「試験用として一式ずつ求めるかもしれん」

 

「喜んで」

 

「別料金だな」

 

「当然です」

 

 元独立運動家が尋ねる。

 

「郵便型は」

 

「A型で軍用郵便を運べる」

 

「パン樽は」

 

 元白軍将校が答えた。

 

「C型の貨物固定具へ載る」

 

 軍将校は頭を抱えた。

 

「結局、何を作ってもパンを積むのだな」

 

「重量に余裕があれば」

 

「その余裕を残しておけ!」

 

 元ドイツ技師が図面から顔を上げる。

 

「余裕とは、必要な物を積むためにある」

 

「お前まで言うのか」

 

「ただし重量制限内でだ」

 

 それが、この会社で成立しうる最も厳しい妥協だった。

 

 Turは、敵を必ず倒す機体ではない。

 

 爆弾が外れることもある。

 

 機銃弾が土を叩くだけのこともある。

 

 だが、正面の広い視界で目標を見つける。

 

 左右二挺の機銃で頭を下げさせる。

 

 爆弾で砲兵を遮蔽物へ追い込む。

 

 写真を撮る。

 

 無線で味方へ知らせる。

 

 その間に、味方の歩兵が動く。

 

 負傷者が運ばれる。

 

 誰かが帰る。

 

 破壊できなくとも、止めることはできる。

 

 止められれば、その数分で救われる者がいる。

 

 WILKにとって、それで十分に兵器を作る理由になった。

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