前日反撃によって確保した村落および道路分岐点は、夜間を通じて保持。
別方面でも小規模反撃に成功し、一部地域において敵先遣部隊の前進を阻止。
航空部隊は引き続き分散拠点から活動。
補給状態は依然不安定であるものの、前線への航空輸送によって一部不足を補完。
ただし、北方および南西方面では友軍部隊の後退が継続。
局地戦果と戦線全体の移動を混同しないこと。
一九三九年九月七日。
朝。
昨日奪い返した村では、まだポーランド国旗が役場の二階に掛かっていた。
きれいな旗ではない。
端は少し裂けている。
誰かが泥のついた手で持ったため、白地にも茶色い汚れが残っていた。
それでも、朝日に照らされれば赤と白はよく見えた。
村の西側では、夜明け前から兵士たちが陣地を掘っている。昨日の戦闘で壊れた塀を使い、土を盛り、道路脇に機関銃位置を作っていた。
W印の猫車が何台も動いている。
一台は弾薬。
一台は土。
もう一台は水と工具。
昨日までなら誰かが「WILKのやつ」と呼んでいたが、今ではもう説明もいらなかった。
若い兵士が猫車を押しながら言った。
「昨日取った村なのに、もう今日の朝からこんなに掘るんですね」
隣を歩いていた伍長が答えた。
「取ったから掘るんだ」
「また来ますかね」
「来る」
「そんな即答します?」
伍長は西を見た。
「向こうからしたら、ここを取られたままにする理由がない」
兵士は少しだけ嫌な顔をした。
「じゃあ昨日の勝ちは」
「昨日の勝ちだ」
「今日には関係ない?」
「ある。昨日勝ったから、今日はここから始められる」
兵士はその言葉を少し考えた。
後ろから別の兵士が叫ぶ。
「猫車止めるな! 弾持ってけ!」
二人はすぐ仕事へ戻った。
村を取ったからといって、休めるわけではない。
むしろ、取った瞬間から守る仕事が始まる。
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役場の一室。
大隊長は新しい戦況図を見ていた。
昨日まで赤鉛筆で書き込んでいた線が、また少し変わっている。
副官が一枚ずつ報告を読み上げる。
「北側の連隊は夜間に後退」
大隊長が地図を見る。
「どこまで」
地名を聞く。
鉛筆を動かす。
「南西」
「こちらも一部後退。道路一本を放棄」
大隊長はまた線を引く。
その後。
別の紙。
「昨日の反撃地点は保持」
「ここだな」
「はい」
さらに。
「別方面で敵先遣部隊を押し返しています」
大隊長が顔を上げた。
「成功?」
「少なくとも現時点では」
若い少尉が部屋へ入ってきた。
昨日、追撃しようとして止められた男だった。
「また勝ってる場所がありますね」
大隊長が地図から目を離さず答える。
「ある」
少尉は少し笑った。
「昨日だけじゃなかった」
「そうだ」
「このまま」
大隊長がそこで顔を上げた。
少尉は言葉を止める。
大隊長は少し考えた。
昨日なら、すぐに「ここではな」と但し書きを付けていたかもしれない。
今日は違った。
「このまま、今日も勝てればいい」
少尉が少し驚く。
「珍しいですね」
「何が」
「先に悪い話をしない」
大隊長は地図へ戻る。
「悪い話は地図が勝手にしてくる」
少尉も地図を見る。
昨日勝った村。
今日も保持。
別の場所でも敵を押し返した。
その一方。
戦線全体では、少しずつ東へ線が動いている。
少尉が何か言いかけたが、大隊長が先に言った。
「今はここの話をしろ」
「はい」
「西側の敵は」
「昨日より増えています」
「砲兵は」
「来ています」
「なら今日は簡単じゃない」
少尉は頷いた。
「でも守ります」
「そのために昨日取った」
そこで二人は、戦況図の全体から村へ視線を戻した。
今ここで必要なのは、国全体を一枚の地図で嘆くことではない。
今日一日。
この村を持たせることだった。
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午前九時過ぎ。
ドイツ軍の砲撃が始まった。
昨日とは違う。
今日は砲兵が揃っている。
村の西端へ砲弾が落ち、道路脇の建物が崩れた。
兵士たちは塹壕へ伏せる。
若い兵士が耳を押さえながら叫ぶ。
「昨日より多い!」
伍長が顔を上げないまま答える。
「向こうも昨日より準備してる!」
「昨日負けたから?」
「取り返したいんだろ!」
砲撃。
止まる。
少し。
また始まる。
今度は村の南側。
ドイツ軍は昨日の失敗を繰り返さない。
正面だけではなく、南側にも圧力をかける。
歩兵も急がない。
砲撃が続く間に近づき、機関銃位置を増やしている。
ポーランド側の兵士が覗く。
「昨日より慎重です」
伍長も見る。
「向こうも馬鹿じゃない」
「嫌ですね」
「当然だ」
戦争は。
片方だけが学ぶものではない。
ポーランド側が前へ出すぎないことを覚えれば。
ドイツ側も、通信と補給を待ってから攻めることを覚える。
だから。
昨日の勝ち方が。
今日も同じように通用するとは限らない。
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その頃。
数十キロ離れた別の場所。
ポーランド軍の小部隊が、逆にドイツ軍へ仕掛けていた。
こちらには大きな村もない。
あるのは道路と小さな林。
ドイツ軍の先遣部隊が前へ出ている。
後方の車列はまだ追いついていない。
ポーランド側の指揮官は、昨日の報告を読んでいた。
敵が前へ出すぎた時。
そこだけを叩く。
長く追わない。
道路を少しだけ使えなくする。
それで十分。
「砲兵は三分」
副官が聞き返す。
「三分だけですか」
「それ以上撃てない」
「攻撃は」
「三分後に出る」
短い砲撃。
その直後。
歩兵が林から出る。
ドイツ側は反応する。
機関銃。
小銃。
しっかり撃ってくる。
簡単には崩れない。
ただ。
その後ろ。
道路。
Bizonが低空から入った。
一度だけ。
通信車らしい車両。
牽引車。
狙う。
前方四門。
短い射撃。
車列の一部が止まる。
Bizonはすぐに離脱する。
追わない。
二撃目もない。
地上のポーランド兵が前へ出る。
ドイツ兵は一度下がる。
さらに。
もう少し。
道路の分岐点まで。
そこでポーランド側指揮官が止めた。
副官が言う。
「まだ行けます」
「行かん」
「敵、崩れてます」
「だから行かん」
副官が不満そうな顔をする。
指揮官は西を見る。
「昨日の村の報告を読んだだろ」
「はい」
「勝った後に止まれたから、まだ持ってる」
副官は少し黙る。
「こっちも同じ?」
「同じ」
攻撃は止まった。
道路を押さえる。
負傷者を運ぶ。
弾薬を集める。
敵が戻ってくる前に位置を作る。
ほんの小さな反撃。
地図の上では、鉛筆で点を一つ動かす程度。
それでも。
そこにいる兵士には。
今日の勝ちだった。
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昼前。
例の農場飛行場。
Turが一機。
荷を積んでいた。
弾薬。
医療品。
無線部品。
パン生地入り樽。
そして。
小さな袋。
老人がそれを見つけた。
「今度は何だ」
整備兵が答える。
「砂糖です」
老人が少し驚く。
「砂糖?」
「前線の病院向け」
「飛行機で?」
「道路が詰まってます」
老人はTurを見る。
「本当に荷車になったな」
操縦士が風防から顔を出す。
「聞こえてます」
老人は平然としている。
「事実だろ」
「昨日から正式に呼ばれ始めてるんですよ」
「何が」
「飛ぶ荷車」
老人は少し考えた。
「いい名前だ」
操縦士が顔をしかめる。
「整備兵もそう言いました」
「なら皆正しい」
「WILK本社だけ嫌がってます」
老人が笑った。
「会社は客の付けた名前に勝てん」
整備兵が横から言う。
「前線は客なんですかね」
「金払ってないな」
「じゃあもっと勝てませんね」
発動機が回る。
Turは草地を走る。
その機体が浮くまで、老人はいつものように地面を見ていた。
飛び上がった後。
ようやく空を見る。
「今日は真っすぐ帰れよ」
誰にも聞こえない声だった。
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午後。
昨日の村。
ドイツ軍の再攻撃は本格化していた。
砲撃。
歩兵。
機関銃。
今度は連携も良い。
ポーランド側も撃ち返す。
一時間。
二時間。
村の西側。
塀。
畑。
道路。
何度も兵士が動く。
若い少尉は役場と前線を往復していた。
「南が押されてます!」
大隊長がすぐ聞く。
「どれくらい」
「農家二軒分」
「まだ戻せる?」
「予備を入れれば」
大隊長は地図を見る。
北側。
まだ持っている。
正面。
持っている。
南。
少し危ない。
「第三中隊から一個小隊だけ回せ」
少尉が聞く。
「一個だけ?」
「全部入れたら次がない」
少尉はすぐ走った。
外。
機関銃。
爆発。
負傷兵。
猫車がまた動いている。
一台。
負傷者を運ぶ。
別の一台。
弾薬。
その横。
昨日鹵獲したMG34。
ポーランド兵が撃っている。
弾。
短い。
だが。
効いている。
ドイツ側。
進む。
止まる。
また進む。
午後二時頃。
上空。
発動機音。
兵士が空を見る。
Tur。
一機。
低い。
「飛ぶ荷車!」
誰かが叫ぶ。
今度は。
荷物を落とす。
小さな箱。
袋。
その後。
Tur。
前線上空へは。
行かない。
敵戦闘機が見える。
遠い。
操縦士はすぐ向きを変える。
兵士が見上げる。
「行っちゃった」
伍長が言う。
「それでいい」
「撃ってくれません?」
「弾持ってきた。それで十分だ」
前線。
弾薬箱。
開く。
機関銃班へ回す。
医療品。
救護所。
無線部品。
通信班。
その一つ一つが。
すぐ。
使われる。
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午後三時過ぎ。
ドイツ軍の攻撃が止まった。
完全な撤退ではない。
一度距離を取っただけ。
砲兵もまだいる。
歩兵もいる。
再び来る可能性は高い。
それでも。
村は残った。
若い兵士が塹壕の中で座り込んだ。
伍長も横へ座る。
兵士が聞く。
「今日も勝ちですか」
伍長は水を飲む。
「今日が終わってから聞け」
「昨日もそんなこと言われました」
「誰に」
「少尉」
伍長が少し笑う。
「なら少尉に聞け」
その少尉は、少し離れた場所で大隊長へ報告していた。
「南側、元の位置まで戻しました」
「損害は」
数字。
大隊長が顔をしかめる。
「多いな」
「はい」
「敵は」
「西へ一度下がりました」
「追うな」
少尉が少し笑った。
「もう分かってます」
「ならいい」
少尉は少し迷ってから聞いた。
「これで二日持ちました」
「ああ」
「明日も?」
大隊長は西を見る。
煙。
遠く。
動く車両。
ドイツ軍はまだいる。
「明日は明日だ」
少尉が苦笑する。
「またそれですか」
「便利だぞ」
「昨日は俺に言いました」
「使えるものは使え」
少尉は笑った。
それから。
二人とも。
村を見る。
国旗。
まだある。
昨日と同じ場所。
少し破れている。
それでも。
まだ。
役場に掛かっている。
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その頃。
ドイツ軍側。
昨日村を失った中隊長は、今日の攻撃が失敗した報告をしていた。
連隊本部の参謀が地図を見る。
「こちらの砲兵は揃っていた」
「はい」
「補給も昨日より良かった」
「はい」
「それでも取れない?」
中隊長は少し考えた。
「昨日より敵の準備も良かった」
「航空支援は」
「敵機が補給を行っています」
「攻撃も?」
「今日は一度、遠くで確認しただけです」
参謀が顔を上げる。
「それなら航空機が原因ではない」
「原因は一つではありません」
中隊長は昨日から何度もそれを考えていた。
ポーランド軍の砲撃。
歩兵の反撃。
道路。
通信。
航空攻撃。
補給。
農場飛行場。
一つだけなら。
対処できる。
全部。
少しずつ。
邪魔。
参謀は地図を見る。
「明日また攻撃する」
中隊長は黙って頷いた。
命令としては正しい。
村を放置すれば。
道路分岐点を使えない。
後続部隊の動きにも影響する。
だから。
取り返す。
そのために。
また砲弾を使う。
また燃料を使う。
また負傷者が出る。
また時間を使う。
昨日。
ポーランド軍が一度勝った。
その勝利を消すために。
ドイツ軍は。
二日目の仕事を。
始めている。
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夕方。
WILK本社。
今日の戦況報告が届いていた。
元独立運動家が紙を読む。
「昨日の村、まだ持ってる」
ポーランド軍将校が地図を確認する。
「ああ」
「別の場所でも反撃成功」
「小さいがな」
元白軍将校が聞く。
「小さくても勝ち?」
ポーランド軍将校は少しだけ笑った。
「勝ちだ」
「慣れてきたな」
「何に」
「勝ったって言うのに」
元独立運動家が笑う。
「昨日教育したからな」
元ドイツ軍技術者は別の報告を見ていた。
「Turの稼働数、昨日より一機増えてる」
ポーランド軍将校が見る。
「修理戻り?」
「ああ。昨日夜まで止めてた機体が二機戻った。代わりに一機重損」
ユダヤ人実業家が聞く。
「差し引き一機?」
「そうだ」
「珍しく増えた」
元ドイツ軍技術者は少し不満そうな顔をした。
「珍しくとは何だ」
「戦争中だぞ」
「直せるものを直してるだけだ」
元白軍将校が言った。
「それができるなら、今日はいい日だ」
ポーランド軍将校が一枚の紙を見た。
「航空輸送も増えた」
「何を運んでる」
「弾薬、医療品、無線、食料。あと砂糖」
元白軍将校が顔を上げる。
「砂糖?」
元独立運動家が笑った。
「病院向け」
元白軍将校は少し考えた。
「戦争中に飛行機で砂糖運ぶ会社になったか」
元ドイツ軍技術者が答える。
「必要なら運ぶ」
「Tur作った時、そうなると思った?」
「思うわけないだろ」
「俺もだ」
ユダヤ人実業家が資料を閉じた。
「でも運べる」
元ドイツ軍技術者は頷いた。
「運べる」
それで。
話は終わった。
---
少し後。
ポーランド軍将校が大きな戦況図の前へ立った。
今日の報告を反映する。
一つ。
昨日の村。
保持。
印をそのまま残す。
別の場所。
反撃成功。
小さく線を西へ戻す。
元白軍将校がそれを見ている。
「今日は増えた場所もあるな」
「ああ」
ポーランド軍将校は次の報告を見る。
北。
一部後退。
線を東へ。
南西。
また。
東へ。
元白軍将校は何も言わなくなった。
ポーランド軍将校も。
説明しない。
地図上では。
勝った場所。
確かにある。
二日連続で守った村もある。
敵を押し返した道路もある。
今日。
修理から戻ったTurもある。
農場飛行場も。
まだ動いている。
だから。
希望を持つ理由も。
確かにある。
その横で。
鉛筆の線だけは。
別の場所で。
少しずつ。
動いていく。
元独立運動家が地図の前へ来た。
「昨日より」
ポーランド軍将校が顔を上げる。
元独立運動家は最後まで言わなかった。
代わりに。
昨日守った村を指した。
「ここ、まだある」
「ああ」
「明日も?」
ポーランド軍将校は少し考えた。
「守る」
その答えだけ。
返した。
---
夜。
村。
役場の二階。
若い少尉が破れた国旗を外していた。
兵士が下から聞く。
「何してるんです」
「直す」
「外すんですか」
「端が裂けてる」
「明日また上げる?」
少尉は旗を腕に抱えた。
「上げる」
「絶対?」
少尉は少し笑った。
「明日の朝、ここにいればな」
兵士が顔をしかめる。
「またそういう言い方する」
少尉は階段を降りた。
「じゃあ言い直す」
兵士が待つ。
「明日の朝も上げる」
今度は。
兵士が笑った。
「それでいいです」
役場の一室では、針と糸を持った兵士が旗の端を縫い始める。
外では。
猫車がまだ動いている。
負傷者を運ぶ。
弾薬を運ぶ。
土を運ぶ。
少し離れた場所では、明日の砲撃に備えて兵士が壕を深くしている。
西。
遠く。
ドイツ軍の車両の音。
聞こえる。
それでも。
今夜。
村はまだ。
ポーランド側だった。
若い少尉は縫い直される旗を見ながら、炊事班から受け取ったパンを食べた。
明日のことは。
まだ。
誰にも分からない。
ただ。
朝になったら。
また旗を上げる。
それだけは。
決めていた。