WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――ポーランド軍某軍集団司令部 九月九日作戦命令抜粋

敵主力の一部は、前進速度を優先した結果として側面の防護が薄くなっている。

我が軍は、残存兵力を分散して各地の損失を埋めるのではなく、攻撃可能な地域へ一時的に集中する。

目的は敵主力の完全撃破ではない。

敵先遣部隊を後退させ、その後方交通および指揮系統に混乱を生じさせ、友軍部隊の再編および撤収に必要な時間を確保する。

航空部隊は常設飛行場への帰還を求めず、各分散拠点から可能な範囲で支援すること。

攻撃開始後も、追撃によって部隊を分散させない。

獲得した時間を、次の戦闘に使用すること。


第185話 反撃

 

一九三九年九月九日。

 

夜明け前。

 

ポーランド軍の野戦司令部では、ランプの下に広げられた地図がほとんど机を埋め尽くしていた。

 

ここ数日の地図には、嫌になるほど東へ動いた線がある。赤鉛筆で引き直した場所も多く、昨日まで友軍がいた町の上へ、今日は敵軍を示す印が置かれている。

 

だが、その夜に将校たちが見ていたのは、後退線ではなかった。

 

ドイツ軍の突出部。

 

前進した部隊と、その後ろを結ぶ道路。

 

補給線。

 

隣接師団との間隔。

 

これまでの戦闘で報告された交通の遅れ。

 

そして、ポーランド側にまだ残っている部隊。

 

参謀長が地図の一点を指した。

 

「こちらの敵先遣部隊は昨日まで前進を続けていますが、後方が追いついていません。捕虜の証言と航空偵察も一致しています」

 

軍司令官が尋ねた。

 

「戦車は」

 

「います。ただし、前へ出ている数と補給車列の位置が噛み合っていない。燃料が切れているわけではありませんが、自由に動かせる状態でもないと思われます」

 

別の参謀が資料を差し出す。

 

「道路上の混雑も続いています。昨日午後には、TurとBizonが少なくとも三か所で車列へ攻撃を行いました。被害そのものは大きくありませんが、敵部隊の到着時刻がずれています」

 

司令官は資料を読んだ。

 

「空軍が勝っているわけではないな」

 

「もちろんです。ドイツ空軍は依然として優勢です」

 

「なら、空がこちらのものだと思って計画するな」

 

「はい」

 

司令官は地図へ視線を戻した。

 

ポーランド軍は各地で後退している。

 

損失も出ている。

 

通信が途切れた部隊もある。

 

だから普通なら、残った兵力を穴埋めに使いたくなる。

 

後退している場所へ一個連隊。

 

危ない道路へ一個大隊。

 

突破されそうな地点へ砲兵。

 

そうやって少しずつ撒けば、見かけ上は戦線を埋められる。

 

だが。

 

それをやれば。

 

どこにも、敵を押し返せるだけの力が残らない。

 

司令官は鉛筆を持った。

 

「ここへ集める」

 

参謀長が確認する。

 

「攻撃ですか」

 

「ああ」

 

「守備に回した方が安全な部隊もあります」

 

「安全に後退して、最後まで一度も殴り返さないのか」

 

参謀長は黙った。

 

司令官は怒っているわけではなかった。

 

むしろ冷静だった。

 

「敵は前へ出ている。それだけなら強みだ。だが前へ出た分だけ、横も後ろも伸びる。全部の場所で敵が強いわけじゃない」

 

「成功すれば」

 

「時間が買える」

 

「失敗すれば」

 

司令官は地図上の自軍部隊を見る。

 

「失う」

 

参謀長は少し息を吐いた。

 

「かなり大きな賭けです」

 

「戦争が始まってから、小さな賭けだけで済んだ日があったか」

 

誰も答えなかった。

 

司令官は攻撃地点をもう一度確認した。

 

「ただし追いすぎるな。敵を退かせたら、道路と村を取って止まれ。敵の奥まで入り込んで、こちらが補給を失ったら何をしているか分からん」

 

ここ数日の戦闘で覚えたことだった。

 

勝った後に止まる。

 

それは臆病ではない。

 

次の勝負をするための判断だった。

 

---

 

同じ夜。

 

例の農場飛行場では、いつもより多くの機体が静かに待っていた。

 

P.11。

 

Tur。

 

Bizon。

 

どれも新品ではない。

 

翼に補修跡がある。

 

胴体に新しく塞いだ穴もある。

 

昨日まで別の農場にいた機体も混ざっていた。

 

整備兵が夜通し作業している。

 

発動機を交換した機体。

 

無線を直した機体。

 

脚を補修した機体。

 

前方火器の確認を終えた機体。

 

老人はランタンを持ちながら草地を歩いていた。

 

若い航空士官が追いつく。

 

「今日は多いですね」

 

老人は機体ではなく地面を見たまま答えた。

 

「昨日まで別のところにいた奴が来たんだろ」

 

「そうです」

 

「ここで全部飛ばすのか」

 

「全部ではありません」

 

老人がようやく顔を上げた。

 

「それならいい」

 

航空士官が少し笑う。

 

「あなたまでそう言いますか」

 

「何を」

 

「全部使うなって」

 

老人は足元を踏む。

 

土の硬さを確かめる。

 

「全部使ったら明日はどうする」

 

それはWILK本社で何年も言われてきた言葉と、ほとんど同じだった。

 

航空士官は少し黙った。

 

老人はそれに気づかず、別の場所へ歩いていく。

 

「こっちは使うな。昨日の雨で下がまだ柔らかい」

 

「南側は」

 

「使える。ただし大型の奴は端まで走らせろ」

 

「Turですね」

 

「荷車の方だ」

 

航空士官が苦笑した。

 

「もう完全にその名前なんですね」

 

老人は振り返りもしなかった。

 

「荷物運ぶ飛行機を荷車と呼んで何が悪い」

 

少し離れた場所で、Turの操縦士が聞いていた。

 

「悪くはないですけど、せめて飛ぶ荷車でお願いします!」

 

老人が大声で返した。

 

「飛ぶのは見れば分かる!」

 

整備兵の何人かが笑った。

 

戦争九日目。

 

誰も余裕があるわけではない。

 

ただ、笑える時に笑わなければ、朝まで身体が持たない。

 

---

 

夜明け。

 

ポーランド軍砲兵が射撃を始めた。

 

長い準備砲撃ではなかった。

 

弾薬は有限。

 

位置を晒せば、ドイツ空軍にも見つかる。

 

だから時間を決める。

 

目標も絞る。

 

道路。

 

通信拠点。

 

敵歩兵が固まっている場所。

 

確認された砲兵陣地。

 

最初の砲弾が落ちた時、前線のドイツ兵は昨日までのような牽制射撃だと思った。

 

二発。

 

三発。

 

少し間を置いて別方向。

 

そこで下士官が気づいた。

 

「これは違うぞ」

 

前方の林からポーランド歩兵が出た。

 

一か所ではない。

 

別の畑からも。

 

道路脇の低地からも。

 

昨日まで防御していた側が、今日は前へ来る。

 

ドイツ軍の機関銃が撃ち始めた。

 

ポーランド歩兵が伏せる。

 

止まる。

 

だが戻らない。

 

砲撃が次の位置へ移る。

 

歩兵がまた進む。

 

一人のドイツ兵が叫ぶ。

 

「攻撃だ!」

 

下士官が怒鳴る。

 

「見れば分かる! 弾を運べ!」

 

通信兵が後方へ連絡する。

 

増援。

 

砲兵。

 

航空支援。

 

必要。

 

だが。

 

返答が遅い。

 

昨日。

 

通信車が移動した。

 

別の回線へ切り替えている。

 

司令部そのものも前進に合わせて位置を変えていた。

 

何も機能していないわけではない。

 

ただ、すべてが同じ瞬間に最適な場所へ存在しているわけでもなかった。

 

---

 

午前六時過ぎ。

 

Bizon四機が低空で西へ向かっていた。

 

普段より多い。

 

それでも編隊としては小さい。

 

後席の一人が前方を見る。

 

「道路が見えます」

 

操縦士が答える。

 

「先頭じゃないぞ」

 

「分かってます」

 

道路上にはドイツ軍の車両。

 

装甲車。

 

トラック。

 

牽引車。

 

後方には戦車もいる。

 

Bizonの狙いは戦車ではない。

 

進撃部隊と後方をつなぐもの。

 

先頭機が目標を選ぶ。

 

道路分岐。

 

通信車。

 

その近くに燃料車。

 

「一番機、通信。二番機、後方車列。三番四番は対空を見ろ」

 

一機目が降りる。

 

十一ミリ四門。

 

短い射撃。

 

通信車周辺が跳ねる。

 

二機目。

 

少し後ろへ。

 

トラックが道路脇へ逃げる。

 

三機目と四機目は地上射撃の濃い場所を避け、必要以上に攻撃へ入らない。

 

その瞬間。

 

後席が叫んだ。

 

「戦闘機!」

 

Bf109。

 

上から来る。

 

先頭機の操縦士はすぐ判断した。

 

「終わり。帰る」

 

目の前にはまだ撃てる車列がある。

 

二撃目もできるかもしれない。

 

だが。

 

やらない。

 

Bizon四機は低空へ降りながら離脱する。

 

一機のBf109が追う。

 

後席十一ミリが射撃。

 

ドイツ戦闘機は真後ろを避ける。

 

もう一機が前へ回ろうとする。

 

Bizonは旋回戦に入らない。

 

戦うのではなく。

 

逃げる。

 

一番機の後席が叫ぶ。

 

「一機、正面へ!」

 

操縦士は前を見る。

 

Bf109が向きを合わせようとしている。

 

逃げ道が狭い。

 

「一回だけ撃つ!」

 

Bizonの前方四門が火を噴く。

 

Bf109は正面に長く残らず横へ抜ける。

 

その隙に四機はさらに東へ距離を稼いだ。

 

一機も落としていない。

 

撃墜戦果もない。

 

だが。

 

道路では。

 

通信車が止まった。

 

車列が一度散った。

 

燃料車も位置を変えた。

 

それだけで。

 

前線へ届くものが少し遅れる。

 

そして。

 

四機とも。

 

帰った。

 

---

 

午前七時。

 

ポーランド軍の攻撃は、一部で予想以上に進んでいた。

 

敵先遣部隊の一つが後退する。

 

別の場所では、ドイツ軍歩兵が村から押し出された。

 

さらに一か所。

 

道路分岐。

 

ポーランド側が取る。

 

若い少尉が走りながら大隊長へ報告する。

 

「敵が西へ下がっています!」

 

大隊長が双眼鏡を覗く。

 

確かに。

 

道路上。

 

ドイツ兵。

 

後退。

 

装甲車も一台。

 

向きを変えている。

 

少尉が息を弾ませる。

 

「追えます」

 

大隊長はすぐ答えた。

 

「道路まで」

 

「まだ向こうが崩れてます」

 

「道路までだ」

 

「今ならもっと」

 

大隊長は双眼鏡を下ろした。

 

「九日前から何を見てきた」

 

少尉が黙る。

 

「前へ出て、補給を待たず、隣と離れて、そこを叩かれたのは誰だ」

 

「ドイツ軍です」

 

「次は俺たちがやるのか」

 

少尉はすぐ首を振った。

 

「やりません」

 

「なら止まれ」

 

命令が伝わる。

 

歩兵が道路分岐へ入る。

 

そこで陣地作り。

 

猫車がすぐに弾薬を運ぶ。

 

工兵が道路上の障害を確認する。

 

通信兵が無線を開く。

 

衛生兵が負傷者を集める。

 

勝った直後。

 

次にやることが。

 

少しずつ。

 

決まってきていた。

 

---

 

同じ頃。

 

別のポーランド部隊。

 

こちらはそれほど上手くいっていなかった。

 

ドイツ軍の砲兵が早く反応した。

 

機関銃陣地も強い。

 

一度前へ出た歩兵が畑の中で止められている。

 

中隊長は地面へ伏せながら伝令へ叫んだ。

 

「右へ回れないか」

 

「右は敵機関銃!」

 

「左は」

 

「開けすぎです!」

 

その上。

 

航空機の音。

 

兵士たちが空を見る。

 

Ju 87。

 

護衛戦闘機もいる。

 

中隊長が顔をしかめた。

 

「来たか」

 

サイレン。

 

降下。

 

ポーランド兵が地面へ伏せる。

 

爆弾。

 

土。

 

煙。

 

叫び。

 

攻撃は。

 

当然。

 

全部成功するわけではない。

 

別の場所で勝っているからといって。

 

ここでも勝てるわけではない。

 

それでも。

 

中隊長は撤退を急がなかった。

 

攻撃目標を変える。

 

敵陣を取るのではなく。

 

敵をここへ縛る。

 

それでいい。

 

「前へ行くな!」

 

部下が驚く。

 

「攻撃中止ですか!」

 

「ここで撃て! 敵を動かすな!」

 

別方面。

 

味方が進んでいる。

 

なら。

 

こちらが敵兵を引きつけているだけでも。

 

意味がある。

 

勝利とは。

 

必ずしも。

 

全員が前へ進むことではなかった。

 

---

 

午前八時過ぎ。

 

ドイツ軍の師団司令部。

 

戦況報告が次々と入っていた。

 

「○○村、敵反撃」

 

「道路分岐点、後退」

 

「前衛部隊、一部連絡途絶」

 

「ポーランド軍航空機、補給路を攻撃」

 

「敵砲兵活動活発」

 

参謀が地図へ印を増やす。

 

師団長が聞いた。

 

「規模は」

 

「複数地点です」

 

「局地反撃か」

 

参謀が少し迷った。

 

「最初はそう思いました」

 

「今は」

 

「少なくとも、一個大隊や一個連隊だけの独立した動きではありません」

 

師団長が地図へ近づく。

 

ポーランド軍の攻撃方向。

 

複数。

 

それぞれ。

 

完全には連続していない。

 

だが。

 

同じ時間帯。

 

同じ突出部へ。

 

圧力。

 

「予備は」

 

「一部を前へ出しました」

 

「戦車は」

 

「再配置中です」

 

「空軍支援」

 

「要請済み」

 

「いつ来る」

 

参謀は答えにくそうにした。

 

「他方面からも要請が出ています」

 

師団長が顔を上げる。

 

「ポーランド軍はもう崩れているんじゃなかったのか」

 

誰も答えない。

 

崩れている部隊もある。

 

後退している部隊もある。

 

指揮を失った部隊もある。

 

それは本当。

 

同時に。

 

今。

 

別の場所で。

 

組織的な反撃をしている。

 

それも本当。

 

師団長は地図を見る。

 

「前衛を無理に残すな。包まれる前に一度下げろ」

 

参謀が確認する。

 

「道路を捨てますか」

 

「取り返せる。部隊を失うな」

 

その判断は。

 

正しい。

 

ドイツ軍も。

 

生き残るために。

 

下がる。

 

午前九時。

 

その命令によって。

 

さらに一つ。

 

ポーランド側の旗が。

 

西へ動いた。

 

---

 

その報告を受け取ったポーランド軍司令部では。

 

最初。

 

誰も。

 

すぐには喜ばなかった。

 

参謀が読み上げる。

 

「敵一部後退。道路分岐点を確保」

 

別。

 

「村落奪回」

 

さらに。

 

「敵前衛部隊が西へ後退中」

 

司令官が地図を見る。

 

「確認は」

 

「複数部隊から一致しています」

 

「敵の罠では」

 

「現時点では、その兆候なし」

 

参謀長が少し息を吐いた。

 

「通りました」

 

司令官はまだ地図を見ている。

 

「まだだ」

 

「ですが」

 

「敵の主力は残っている」

 

参謀長が頷く。

 

「はい」

 

「なら第二段階へ」

 

「追撃?」

 

司令官が顔を上げる。

 

「違う」

 

地図上。

 

取った村。

 

道路。

 

橋。

 

「止まる」

 

参謀長が少し笑った。

 

「現場でも止まれと言っています」

 

「本当に止まるか」

 

「九日も戦えば、多少は覚えます」

 

司令官も。

 

少し。

 

笑った。

 

「なら我々も覚えたことにしよう」

 

それから。

 

次の命令。

 

砲兵を前へ出しすぎない。

 

燃料を先に運ぶ。

 

負傷者を後ろへ送る。

 

通信線を直す。

 

道路を確保する。

 

予備を残す。

 

攻撃が成功した瞬間から。

 

守る準備。

 

その日の午前。

 

ポーランド軍は。

 

久しぶりに。

 

自分たちが動かした線を。

 

地図へ描いた。

 

---

 

昼。

 

例の農場へ。

 

Bizonが戻ってきた。

 

一機。

 

二機。

 

三機。

 

四機。

 

老人が草地の端で数える。

 

整備兵が手を振る。

 

一番機。

 

着陸。

 

二番機。

 

続く。

 

三番機。

 

少し胴体に穴。

 

四番機。

 

後席銃の周辺。

 

弾痕。

 

それでも。

 

四機とも。

 

降りる。

 

操縦士が風防を開けた。

 

整備兵が駆け寄る。

 

「何した」

 

「道路一回」

 

「戦闘機は」

 

「来た」

 

「戦った?」

 

「逃げた」

 

整備兵は即答した。

 

「よし」

 

操縦士が降りる。

 

「褒められた」

 

「当たり前のことやっただけだ」

 

老人が横から言う。

 

「当たり前に帰ってくるのが一番難しいんだろ」

 

整備兵が少し止まった。

 

「爺さん、たまにいいこと言うな」

 

老人が怒る。

 

「たまにとは何だ!」

 

操縦士が笑いながら機体を見る。

 

「もう一回飛べます?」

 

整備兵はすぐには答えない。

 

被弾箇所。

 

燃料。

 

発動機。

 

脚。

 

見る。

 

「二機はいける。二機は休ませる」

 

操縦士が聞く。

 

「午後も要請来てます」

 

「だから二機出せるって言ってる」

 

「四機じゃ」

 

整備兵が顔を上げた。

 

「全部使うな」

 

老人も隣で頷く。

 

操縦士は二人を見比べた。

 

「どっちがWILKの人間か分からなくなってきたな」

 

老人が即答する。

 

「俺は農民だ」

 

「飛行場の管理人みたいになってますけど」

 

「農場だ」

 

「戦闘機四機いますよ」

 

「農場だ」

 

「爆弾穴もありますよ」

 

「農場だ」

 

そこは。

 

今日も。

 

農場だった。

 

そして。

 

今日も。

 

航空基地だった。

 

---

 

午後。

 

ドイツ軍は反撃を始めた。

 

戦車。

 

歩兵。

 

砲兵。

 

さらに航空支援。

 

午前の混乱から立ち直り始めている。

 

ポーランド側が取った村の一つへ。

 

戦車が近づく。

 

兵士が塹壕から見る。

 

「来た」

 

伍長も見る。

 

「見えてる」

 

「多いですね」

 

「数えるな」

 

「怖くなります?」

 

「数えても減らん」

 

ポーランド側の対戦車火器。

 

砲兵。

 

使う。

 

戦車一両。

 

止まる。

 

別。

 

進む。

 

歩兵。

 

その後ろ。

 

ドイツ軍は強い。

 

午前に下がったからといって。

 

壊れたわけではない。

 

だから。

 

ポーランド兵も。

 

今度は守る。

 

撃つ。

 

下がる。

 

位置を変える。

 

また撃つ。

 

一つの村を。

 

午前に取って。

 

午後に守る。

 

夕方まで。

 

何度も。

 

位置。

 

変わる。

 

ドイツ軍の戦車が村端まで来る。

 

ポーランド側。

 

一度。

 

奥へ下がる。

 

そこへ。

 

Tur。

 

二機。

 

低空。

 

来る。

 

戦車には。

 

行かない。

 

後ろ。

 

歩兵輸送車。

 

砲兵牽引車。

 

道路。

 

一機目。

 

一回。

 

撃つ。

 

二機目。

 

別の場所。

 

撃つ。

 

地上から。

 

機関銃。

 

対空砲。

 

上がる。

 

Tur。

 

戻らない。

 

一撃。

 

離脱。

 

その瞬間。

 

ドイツ歩兵の前進が。

 

少し。

 

止まる。

 

ほんの。

 

数分。

 

その数分で。

 

ポーランド側。

 

予備。

 

入る。

 

弾薬。

 

猫車。

 

来る。

 

負傷者。

 

後ろへ。

 

運ばれる。

 

午後五時。

 

村。

 

まだ。

 

ポーランド側。

 

---

 

その頃。

 

別方面。

 

午前に前進したポーランド部隊では。

 

指揮官が撤退を命じていた。

 

副官が驚いた。

 

「敵に押されてません」

 

「北が止まった」

 

「ここはまだ持てます」

 

「持てるから下がる」

 

副官は地図を見る。

 

隣接部隊。

 

距離。

 

開き始めている。

 

「包囲ですか」

 

「その前に戻る」

 

「せっかく取った道路を」

 

指揮官は西を見る。

 

朝。

 

自分たちが押し返した場所。

 

死んだ兵士もいる。

 

負傷者もいる。

 

取り返した土地。

 

捨てたくはない。

 

だが。

 

そこへ執着して。

 

部隊全部を失えば。

 

朝の勝利まで。

 

意味を失う。

 

「今日取った分を全部持って帰れると思うな」

 

副官が少し悔しそうにした。

 

「では何を持って帰ります」

 

指揮官は周囲を見る。

 

兵士。

 

武器。

 

負傷者。

 

捕虜。

 

鹵獲した地図。

 

敵の通信記録。

 

そして。

 

数時間。

 

敵を止めた。

 

その時間。

 

「部隊だ」

 

副官が顔を上げる。

 

「人間を持って帰る」

 

それで。

 

撤収。

 

始まる。

 

負けて。

 

下がる。

 

だけではない。

 

勝って。

 

下がる。

 

ことも。

 

覚え始めていた。

 

---

 

夕方。

 

ドイツ軍師団司令部。

 

地図。

 

午前より。

 

少し。

 

西へ。

 

押し戻されている。

 

参謀が報告する。

 

「一部地域では再攻撃により位置を回復」

 

師団長が頷く。

 

「他は」

 

「まだポーランド軍側」

 

「道路」

 

「一本は使用不能。別の一本は混雑」

 

「補給」

 

「再編中です」

 

「損害」

 

数字。

 

師団長が顔をしかめる。

 

壊滅。

 

ではない。

 

戦争を続けられないほどでもない。

 

だが。

 

予定より。

 

多い。

 

そして。

 

時間。

 

使った。

 

師団長は明日の予定を見る。

 

本来。

 

明日には。

 

もっと東。

 

さらに先。

 

そこへ行く計画だった。

 

「修正しろ」

 

参謀が聞く。

 

「何を」

 

「予定表だ」

 

「何日」

 

師団長は地図を見る。

 

「まず明日を消せ」

 

参謀が鉛筆を取る。

 

その時。

 

別の連絡。

 

「隣接師団からです」

 

「何だ」

 

「そちらもポーランド軍の反撃を受けています」

 

師団長が顔を上げた。

 

少し。

 

沈黙。

 

「規模は」

 

「確認中」

 

師団長は椅子へ座った。

 

朝。

 

局地反撃だと思った。

 

昼。

 

複数地点。

 

夕方。

 

隣の師団。

 

それでも。

 

戦争全体では。

 

ドイツ軍が前へ進んでいる。

 

だが。

 

今日は。

 

一部の地図を。

 

戻さなければならない。

 

師団長は参謀へ言った。

 

「上へ報告しろ」

 

「内容は」

 

「ポーランド軍は、まだ組織的反撃能力を保持している」

 

参謀が書く。

 

「他には」

 

師団長は少し考えた。

 

「敵航空活動も継続。飛行場破壊による完全な活動停止は確認できず」

 

「農場拠点」

 

「それも入れろ」

 

参謀が書く。

 

師団長は窓の外を見る。

 

遠く。

 

砲声。

 

まだ。

 

続いている。

 

---

 

夜。

 

ポーランド軍司令部。

 

戦況図。

 

朝とは。

 

違う。

 

一部。

 

西へ。

 

戻った。

 

村。

 

道路。

 

分岐。

 

橋。

 

大きな距離ではない。

 

国境まで戻したわけでもない。

 

ドイツ軍を壊滅させたわけでもない。

 

だが。

 

自分たちが。

 

動かした線。

 

参謀長が地図を見る。

 

「夕方までに確認できた範囲で、複数地点を保持しています」

 

司令官が聞く。

 

「敵の反撃」

 

「続いています。一部は放棄しました」

 

「予定通りか」

 

「はい。前へ出すぎた部隊は戻しています」

 

司令官は少し頷く。

 

「損害は」

 

数字。

 

顔。

 

曇る。

 

勝った。

 

だから。

 

損害がないわけではない。

 

多くの兵士。

 

今日。

 

戻らない。

 

それでも。

 

攻撃。

 

成立。

 

敵。

 

後退。

 

道路。

 

止まる。

 

時間。

 

買えた。

 

参謀長が別の紙を差し出した。

 

「後方では、撤収部隊の再編が進んでいます」

 

司令官が読む。

 

今日の反撃。

 

そのためでもあった。

 

前線で一歩押す。

 

後ろで。

 

別の部隊。

 

整える。

 

負傷者。

 

送る。

 

弾薬。

 

動かす。

 

列車。

 

出す。

 

家族。

 

移す。

 

一日。

 

増える。

 

司令官が地図を見る。

 

「明日もやれるか」

 

参謀長は少し考えた。

 

「同じ規模は難しいです」

 

「小さくても」

 

「できます」

 

司令官が頷く。

 

「なら明日も戦える」

 

参謀長はその言葉を聞いて。

 

少し。

 

笑った。

 

「この章の題みたいですね」

 

司令官が怪訝な顔をする。

 

「何の話だ」

 

「何でもありません」

 

---

 

同じ夜。

 

WILK本社。

 

電話が鳴る。

 

元独立運動家が取る。

 

聞く。

 

「分かった」

 

受話器を置く。

 

元白軍将校が聞いた。

 

「何だ」

 

「反撃成功」

 

ポーランド軍将校がすぐ顔を上げる。

 

「どこ」

 

地名。

 

地図。

 

確認。

 

元白軍将校が近づく。

 

「朝の場所?」

 

「ああ」

 

「まだ持ってる?」

 

「一部は」

 

元ドイツ軍技術者が別の紙を見る。

 

「Bizon四機、全部帰還」

 

「Turは」

 

「二機出て二機帰った。一機被弾」

 

ユダヤ人実業家が聞く。

 

「修理は」

 

「明日見ないと分からん」

 

元独立運動家が少し笑う。

 

「今日くらい喜べ」

 

元ドイツ軍技術者は顔をしかめた。

 

「喜んで直るなら喜ぶ」

 

元白軍将校が椅子へ座る。

 

「村も取った。道路も取った。飛行機も帰った」

 

ポーランド軍将校が地図を見ながら言う。

 

「全部じゃない」

 

「分かってる」

 

「他では下がってる」

 

「それも分かってる」

 

元白軍将校は地図の一地点を指した。

 

「でもここは、朝より西だ」

 

ポーランド軍将校は。

 

少し。

 

黙った。

 

それから。

 

頷いた。

 

「ああ」

 

元独立運動家が言う。

 

「昨日の村もまだ持ってる」

 

「ああ」

 

「別の場所でも勝った」

 

「ああ」

 

ユダヤ人実業家が少し笑った。

 

「お前、今日は但し書きしないのか」

 

ポーランド軍将校も。

 

ほんの少し。

 

笑う。

 

「今日はもう十分した」

 

その部屋で。

 

久しぶりに。

 

誰も。

 

すぐ次の悪い報告を口にしなかった。

 

地図には。

 

まだ。

 

ポーランド軍が。

 

西へ押した線が。

 

残っていた。

 

---

 

夜遅く。

 

昨日から守っている村。

 

役場の二階。

 

昨日縫い直した国旗が。

 

今日も。

 

掛かっている。

 

若い少尉が外を見る。

 

兵士が隣へ来る。

 

「少尉」

 

「何だ」

 

「今日、別のところでも勝ったらしいですよ」

 

「ああ」

 

「知ってたんですか」

 

「さっき聞いた」

 

兵士は少し嬉しそうに西を見る。

 

「じゃあ、本当に押し返してる?」

 

少尉はすぐには答えなかった。

 

昨日までなら。

 

ここでは。

 

とか。

 

局地的には。

 

とか。

 

明日は分からない。

 

とか。

 

言ったかもしれない。

 

もちろん。

 

全部。

 

正しい。

 

今日も。

 

ドイツ軍は別の場所で進んでいる。

 

後退しているポーランド部隊もある。

 

戦況図を全部見れば。

 

楽観できるものではない。

 

それでも。

 

目の前の兵士は。

 

今日。

 

一日。

 

戦った。

 

朝から砲撃を受け。

 

村を守り。

 

負傷した仲間を運び。

 

それでも。

 

まだ。

 

ここにいる。

 

少尉は答えた。

 

「今日は押し返した」

 

兵士の顔が明るくなる。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「明日も?」

 

少尉は少し笑った。

 

「明日も押せればな」

 

兵士も笑う。

 

「じゃあ押しましょう」

 

「簡単に言うな」

 

「でも今日できた」

 

少尉は何も言い返さなかった。

 

遠くで。

 

Turの発動機音が聞こえる。

 

夜間飛行。

 

連絡か。

 

負傷者搬送か。

 

何を運んでいるのか。

 

ここからは分からない。

 

兵士が空を見る。

 

「飛ぶ荷車もまだ飛んでる」

 

少尉も音を聞いた。

 

「そうだな」

 

「じゃあ、まだいけますよ」

 

少尉は。

 

その言葉を。

 

否定しなかった。

 

役場の二階から見える西の空は暗い。

 

その向こうには。

 

まだ。

 

ドイツ軍がいる。

 

それでも。

 

今日。

 

少しだけ。

 

遠くなった場所もあった。

 

翌朝。

 

また戦う。

 

そのために。

 

兵士たちは眠った。

 

国旗は。

 

夜の間も。

 

役場の上にあった。

 

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