一九二二年
量産開始後、以下の不一致が確認された。
主脚固定穴、最大四ミリ偏位。
操縦索案内輪、左右で部品形状相違。
発動機架補助材、三種類混在。
後席回転座席、六号機のみ逆方向へ回転。
製造責任者は、
「同じ図面から作ったとは思えない」
と発言した。
現場責任者は、
「同じ用途には使える」
と回答した。
軍監督官は、用途ではなく部品を同じにするよう命じた。
なお、六号機の座席は右回りでも左回りでも後方を向けるため、現場からは改修不要との意見が出された。
却下された。
「二号機へ付かない」
元ドイツ帝国軍技師が言った。
作業場の中央には、量産第一号機から外された右主脚が置かれている。
その隣には、量産第二号機の胴体と主翼。
「何が」
ポーランド軍将校が尋ねた。
「脚が」
「同じ機体だろう」
「同じ図面だ」
「なら付くだろう」
「付かない」
「なぜだ!」
元白軍将校が脚を持ち上げた。
「穴が少し違う」
「少しとは」
「四ミリ」
軍将校は一瞬黙った。
「削れば付くのでは」
元ドイツ技師がゆっくり振り返った。
「今、何と言った」
「いや」
「削れば、と言ったな」
「現場ではよくある」
「量産機だ!」
「四ミリだぞ」
「十二機全部で四ミリずつ違えば、交換部品が十二種類になる!」
元独立運動家が、穴を覗き込む。
「両方を少し広げれば」
「お前まで言うな!」
実業家は帳簿へ記録した。
主脚取付部、再加工。
「費用へ入れるのか」
軍将校が尋ねる。
「当然です」
「不良を作ったのはそちらだぞ」
「工程改善費です」
「言い換えるな!」
◇
これまでのWILK機は、一機ずつ作られていた。
木材を切る。
鋼管を曲げる。
現物へ合わせる。
合わなければ削る。
穴がずれれば開け直す。
左右で形が違っても、その機体が飛べばよい。
だが量産機は違う。
一号機の脚が二号機へ付く。
二号機の舵が三号機へ付く。
三号機の発動機覆いを四号機へ使える。
軍はそれを求めた。
WILKも、それが必要だと理解していた。
理解していた。
できているとは限らなかった。
「なぜ四ミリずれた」
技師が脚班の職人へ尋ねる。
「木型へ合わせました」
「どの木型だ」
「脚班の木型です」
「原型は」
「試作機の右脚」
「左脚は」
「左脚用があります」
「同じではないのか」
「少し違います」
技師は目を閉じた。
「誰が作った」
元白軍将校が手を挙げた。
「戦争中に」
「なぜ量産へ使った!」
「丈夫だった」
「寸法の話をしている!」
「丈夫さも寸法の一つだ」
「違う!」
◇
工房内の木型と治具が、すべて集められた。
主翼桁用。
肋骨用。
胴体枠用。
脚用。
尾翼用。
発動機架用。
似た物がいくつもある。
「これは何だ」
技師が二つの胴体枠用治具を示した。
見た目はほぼ同じ。
「一号治具と二号治具」
職人が答える。
「違いは」
「二号の方が作業しやすい」
「寸法は」
「ほぼ同じ」
「“ほぼ”を禁止する!」
軍将校が言った。
「何ミリ違う」
「場所によります」
「それを聞いている!」
元独立運動家は三つ目を見つけた。
「これは」
「修理用」
「何が違う」
「少し広い」
元ドイツ技師の顔から血の気が引いた。
「全部壊せ」
作業場が静かになった。
元白軍将校が聞き返す。
「治具を?」
「不統一の物を全部だ」
「使える」
「使えるから残る!」
「もったいない」
「間違った部品を十二機分作る方がもったいない!」
実業家が恐る恐る尋ねた。
「薪として売れますか」
「売るな!」
「燃やすのですか」
「他の機体用に再利用される可能性を消せ!」
軍将校が感心したように言う。
「徹底しているな」
「お前たちが削ればよいと言うからだ!」
◇
新しい原型が作られた。
鋼製の基準尺。
金属製の穴位置板。
左右共通の測定具。
一つの原型から、複数の治具を作る。
治具そのものにも番号を付ける。
T-A1-WR-01
右主翼基準治具一号。
T-A1-LG-C
主脚中央固定穴確認板。
T-A1-FR-04
胴体第四隔壁原型。
元白軍将校が札を読む。
「長い」
「間違えないためだ」
技師が答えた。
「右主翼一号でよい」
「別の機体が増えたら混ざる」
「色を塗る」
「色は剥げる!」
元独立運動家が提案する。
「形も変えるか」
「何を」
「右用は丸い札。左用は三角」
技師が少し考えた。
「文字が読めない者にも分かる」
実業家が頷く。
「採用しましょう」
軍将校が驚く。
「すんなり決まったな」
「よい案だからだ」
元白軍将校が言う。
「では攻撃型は赤」
「塗装の話へ戻すな!」
◇
部品番号制度も始まった。
これまでも修理記録用の札はあった。
だが量産では、さらに細かくなった。
ボルト。
金具。
索案内輪。
軸受。
固定爪。
座席留め具。
すべてに番号。
「この小さな金具にもか」
軍将校が尋ねる。
「同じように見えて厚さが違う」
技師が答える。
「一つに統一すれば」
「荷重が違う」
「なら二種類」
「今は四種類ある」
「なぜ!」
元白軍将校が一つを指した。
「これは現場で厚くした」
「これは」
「軽量化で薄くした」
「これは」
「材料が足りなかった」
「最後は?」
「最初の形」
技師は四つを机へ並べた。
「最初の形へ戻す」
「厚い方が丈夫だ」
「重い」
「薄い方は軽い」
「曲がる」
「では中間」
「それが最初の形だ!」
◇
最初の工程監査は、三日で終わる予定だった。
一週間かかった。
不一致は百四十七件。
重大なもの、十二件。
飛行には影響しないが交換性を損なうもの、六十八件。
記録だけが違うもの、四十三件。
誰も理由を説明できないもの、二十四件。
「最後の二十四件は何だ」
軍将校が尋ねる。
技師が一覧を読む。
「五号機の貨物床だけ、釘の本数が多い」
「丈夫だ」
白軍将校が言う。
「なぜ増やした」
「余った」
「余ったから機体へ打つな!」
「次」
「七号機の後席足掛けが二センチ低い」
独立運動家が答える。
「小柄な職人が付けた」
「職人の身長で寸法を決めるな!」
「次」
「六号機の回転座席が逆方向へ回る」
軍将校が聞いた。
「後ろは向けるのか」
「向ける」
「なら問題ないのでは」
技師が机を叩いた。
「操作手順が逆になる!」
「右へ回すか左へ回すかだけだろう」
「緊急時に迷う!」
元白軍将校が実際に座席を回した。
「どちらでも早い方へ回せばよい」
「量産機へ自由を持ち込むな!」
◇
六号機の座席は、正しい方向へ改修された。
職人たちは残念そうだった。
「右回りの方が使いやすい」
「誰に」
「私に」
「お前は観測員ではない!」
大尉が試しに座る。
左回り。
後方へ。
機銃位置へ。
「こちらの方が無線線へ絡まない」
技師が頷く。
「だから統一した」
軍将校が尋ねる。
「右回りでは」
「膝が無線機へ当たる」
「前の試験で当たっていたな」
「六号機の職人が、それを避けようとして逆へした」
元独立運動家が言った。
「改善では」
「勝手に変えるな!」
「だがよくなっている」
技師は一瞬黙った。
全員が彼を見る。
「何だ」
「採用するか」
軍将校が聞く。
「全機を右回りへするのか」
「いや」
「では」
「無線機の位置を変える」
「結局、六号機の工夫を使うのだな」
「記録して図面へ反映するなら改善だ!」
白軍将校が笑った。
「勝手にやった後で記録すれば」
「順番が違う!」
◇
発動機問題も続いていた。
完成品十八基。
後送予定六基。
到着なし。
十八基のうち二基は、油圧が安定しない。
一基は点火装置が別型。
一基は輸送中に発動機架固定部が曲がっていた。
「使用可能は十四基」
技師が言った。
「七機分か」
軍将校が答える。
「十二機作る注文だぞ」
「機体は作れる」
「飛べない機体を並べるのか」
実業家が言った。
「軍へ部分納入を提案します」
「何機」
「まず六機」
「十四基なら七機では」
「二基は予備にします」
元白軍将校が反対する。
「七機飛ばした方がよい」
「一機壊れたら全体が止まる」
技師が答える。
「予備は必要だ」
「壊れた発動機を直す」
「直している間に飛ぶ予備だ!」
軍将校が珍しく頷いた。
「二基残せ」
白軍将校が二人を見る。
「慎重になったな」
「お前と長くいるからだ!」
◇
軍との交渉。
六機先行納入。
残り六機は発動機到着後。
装備はA型三式、B型二式、C型二式を先に納める。
「機体は六機なのに装備は七式?」
航空部の会計官が尋ねた。
実業家が答える。
「交換して使います」
「余る装備が出る」
「換装中でも別任務用装備を整備できます」
「一機に一式ではないのか」
「それでは多用途機の意味がありません」
会計官は契約書を見た。
「機体と装備を別に買う」
「はい」
「地上換装荷車も別」
「はい」
「専用工具も」
「はい」
「訓練用模型も」
「必要です」
軍将校が横で小声を出した。
「全部別料金だな」
「契約を明確にしているだけです」
「軍が気づく前に増やしたのでは」
「必要な物を列挙しました」
会計官は十数頁ある付属品一覧を見た。
「航空機を買うだけでは飛ばないのか」
元ドイツ技師が答える。
「燃料も人員も整備も必要だ」
「それは軍で用意する」
「工具規格が違えば直せない」
「工具まで会社指定か」
「ボルトを丸められたくない」
元白軍将校が言う。
「金槌でも回せる」
「黙れ!」
◇
先行六機の完成検査が始まった。
重量。
重心。
操縦索張力。
脚作動。
燃料漏れ。
発動機回転。
無線。
機銃架。
装備固定点。
一号機。
合格。
二号機。
右燃料計が動かない。
「叩けば動く」
整備兵が言った。
「交換」
技師が答える。
「飛行中も叩ける」
「交換!」
三号機。
左脚の格納が遅い。
「二秒差」
軍将校が言う。
「許容範囲は」
「一秒以内」
「二秒くらい」
「左右差が大きいと機体が振られる」
「調整だ」
四号機。
後席座席留め具が固い。
「力を入れれば外れる」
大尉が言う。
「緊急時に外れない」
「油を差す」
「原因を調べてからだ」
五号機。
貨物床の釘が多い。
「抜くのか」
独立運動家が尋ねる。
「規格外だ」
「抜けば穴が残る」
「床板を交換」
「丈夫なのに」
「同じにする!」
六号機。
座席は正しい方向へ回った。
全員が拍手した。
技師が睨む。
「何だ」
「そこまで心配だった」
◇
飛行検査は、一機ずつ行われた。
量産第一号機。
離陸。
旋回。
片発模擬。
脚格納。
着陸。
問題なし。
二号機。
少し左へ取られる。
方向舵調整。
三号機。
振動あり。
右プロペラの釣り合い不良。
交換。
四号機。
無線雑音大。
点火線の遮蔽不足。
修正。
五号機。
操縦が重い。
操縦索張力が高すぎる。
調整。
六号機。
何も起きなかった。
着陸後、軍将校は操縦席から降りた。
「六号機、異常なし」
作業場から歓声が上がった。
元ドイツ技師は記録表を見る。
「まだ分解後点検がある」
「今日くらい喜べ!」
「異常がないことを確認してからだ」
元白軍将校が言う。
「異常が見つからなければ、見落としを探す」
「それが検査だ!」
◇
六機すべての検査が終わるまで、さらに十二日かかった。
納期は過ぎていた。
軍将校は日程表を見る。
「五日遅れ」
実業家が答える。
「当初より改善されています」
「何が」
「一機目の試作には数か月かかりました」
「比較対象がおかしい」
「六機を同じ仕様で完成させました」
元ドイツ技師が訂正する。
「ほぼ同じだ」
軍将校が顔をしかめた。
「まだ違うのか」
「発動機補機が二種類」
「それは支給品だろう」
「だから機体側の接続部を二仕様にした」
「同じにできなかったのか」
「変換部品を使えば同じになる」
「なら使え」
「重量が増える」
全員が沈黙した。
軍将校は深呼吸する。
「どれほど」
「一機あたり三・六キロ」
「付けろ」
「よいのか」
「交換性のために必要な重さだ!」
元白軍将校が笑った。
「完全にこちら側だな」
「誰のせいだ!」
◇
納入の日。
六機のTur A.1が、草地へ並んだ。
同じ形。
同じ翼。
同じ大車輪。
同じ狼の印。
機体番号だけが違う。
01
02
03
04
05
06
町の人々も見に来た。
機体を作った職人たち。
布を張った者。
鋼管を曲げた者。
穴を測った者。
座席を逆に付け、後に無線機配置を改善した者。
軍将校は六機を見渡した。
「本当に同じに見える」
元ドイツ技師が答える。
「見えるだけでは駄目だ」
「今は褒めている」
「部品も同じだ」
「なら少し喜べ」
「残り六機がある」
実業家は納入書へ署名する。
「前金から残金へ移ります」
「そこだけは嬉しそうだな」
「会社が続きますから」
◇
軍の受領飛行隊が到着した。
操縦士六名。
観測員六名。
整備兵。
彼らは機体を見て、まず大きさに驚いた。
「これが多用途機か」
「重そうだ」
「脚が太い」
「機首はよく見えるな」
「発動機が二つある」
「片方が止まっても帰れる」
WILK側の軍将校が言った。
若い操縦士が尋ねる。
「本当に?」
「条件次第だ」
「広告では帰れると」
全員が実業家を見る。
「帰還可能性を高める、と記載しています」
「小さな文字でな!」
◇
引き渡し訓練が始まった。
操縦。
発動機始動。
片発飛行。
半引込脚。
装備換装。
燃料系統切替。
非常時手順。
若い操縦士が脚レバーを見た。
「格納状態でも車輪が半分出るのですね」
「故障しても着陸できる」
技師が答える。
「抵抗になります」
「完全引込式より遅い」
「なぜ完全に入れないのです」
軍将校が先に答えた。
「重く、複雑になり、壊れた時に全部出なくなるからだ」
技師が彼を見る。
「何だ」
「説明できるようになった」
「何度聞かされたと思う!」
別の操縦士が観測窓を覗く。
「前下方がよく見える」
「そこから爆撃照準も写真撮影もできる」
大尉が説明する。
「郵便物も落とせる」
元独立運動家が付け足した。
「軍用機です」
「命令書も郵便だ」
「違います!」
◇
装備換装訓練。
A型からC型へ。
写真機を外す。
無線機を簡略型へ。
弾薬箱を降ろす。
担架枠を取り付ける。
工具荷車には、必要な物が一式で積まれている。
作業札。
部品番号。
順番。
締付確認。
「一時間五十二分」
技師が時計を見る。
「速い」
整備班長が答える。
「手順が分かりやすい」
「記録は」
「取りました」
「締付印は」
「ここに」
元白軍将校が不満そうに言う。
「もっと急げる」
「急がなくてよい」
技師が答える。
「戦場では」
「今の手順を守って一時間五十二分だ。勝手に省けば後で落ちる」
「落ちても直せる」
「落とすな!」
◇
引き渡し直前。
若い整備兵が、六機の発動機覆いを開けた。
一号機の部品を外す。
二号機へ持っていく。
取り付ける。
何の加工もなく付いた。
「入った」
整備兵が言う。
元ドイツ技師は無言で確認する。
穴位置。
配管。
固定具。
すべて合う。
「付いたな」
軍将校が言った。
「図面通りだからだ」
「喜べ」
「当然のことだ」
「その当然を作るのに何週間かかった!」
作業場から拍手が起きた。
今度は技師も止めなかった。
◇
六機は順に離陸した。
一号機。
二号機。
三号機。
四号機。
五号機。
六号機。
草地から同じ方向へ走り、同じように浮く。
空で編隊を作る。
完全に同じではない。
発動機の音にわずかな差。
操縦感覚にも少しずつ個体差。
だが同じ手順で飛び、同じ部品で直せる。
WILKにとって、それは初めての景色だった。
元独立運動家が空を見上げる。
「六機もいる」
「残り六機」
技師が答える。
「今日は六機を見ろ」
軍将校が言う。
「明日から残りだ」
実業家は受領書を胸へしまった。
「次の発動機が到着すれば」
元白軍将校が尋ねる。
「到着予定は」
「未定です」
軍将校が空から視線を外した。
「最後までそれか!」
◇
その日の夕方。
工房には、六機分の空いた場所ができた。
広い。
静か。
だが奥では、既に七号機から十二号機までの胴体が並んでいる。
発動機のない機体。
翼を持ち、脚を持ち、操縦席を持つ。
飛ぶために必要な最後の二基だけがない。
元白軍将校は七号機を見た。
「一号機から借りれば」
元ドイツ技師が振り向く。
「納入した機体を戻す気か!」
「予備発動機が二基ある」
「それは故障時の予備だ!」
「一機だけ飛ばせる」
「六機目が来るまで予備がなくなる!」
「飛ばない六機より、飛ぶ一機」
「その一機が壊れれば全部止まる!」
軍将校が二人の間へ入った。
「待て」
「何だ」
「発動機が来るまで、できる仕事をする」
「何を」
「装備を作る。部品を揃える。訓練用機材を作る」
実業家が加えた。
「民間注文も受けます」
全員が彼を見る。
「軍の量産が止まっている間に、工房を遊ばせる理由はありません」
「何を作る」
元独立運動家が尋ねる。
実業家は、作業場の隅へ置かれた牛乳缶を見た。
軍将校が先に言った。
「飛行機を作れ」
「もちろんです」
「牛乳の話ではないな」
「まだ何も言っていません」
「その顔は考えている!」
六機の野牛は、軍へ渡った。
残る六機は、発動機を待っていた。
同じ物を十二機作る。
言葉にすれば、それだけだった。
だが同じ穴を開けること。
同じ向きへ座席を回すこと。
同じ部品を別の機体へ付けられること。
その一つ一つが、WILKにとっては新しい発明だった。
そして発動機が来るまでの間。
この会社が、おとなしく待つはずもなかった。