WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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『一九三九年九月下旬・国外移動車列記録』

国外移動開始後、車列は南西方向へ移動。

車両数については記録に差異あり。

出発時十五台。

翌日十七台。

国境到着時十九台。

なお、WILKが購入した車両は十一台である。

残りについては、

「勝手についてきた」

と記録されている。


第201話 また国境

 

 

「止まれ!」

 

先頭車が止まった。

 

二台目も止まる。

 

三台目。

 

四台目。

 

その後ろ。

 

その後ろ。

 

さらに後ろ。

 

馬車。

 

自転車。

 

乗用車。

 

トラック。

 

またトラック。

 

最後尾が止まるまで、かなり時間がかかった。

 

元金持ちは車から降りた。

 

前を見る。

 

柵。

 

詰所。

 

兵士。

 

旗。

 

そして国境。

 

しばらく無言。

 

若いWILK社員が隣へ来た。

 

「国境ですね」

 

元金持ち:

 

「見れば分かる」

 

「昨日越えたばかりなのに」

 

「知っている」

 

「また越えるんですね」

 

「知っている!」

 

元白軍将校が先頭車から降りる。

 

「騒ぐな」

 

元金持ちは振り返った。

 

「お前な」

 

「何だ」

 

「昨日、“国外へ出た”と言ったよな」

 

「出た」

 

「今日また国境なんだが」

 

「国は一つじゃない」

 

「そういう問題じゃない!」

 

赤軍兵だった元部下が荷台から顔を出す。

 

「英国までまだ遠いですから」

 

元金持ち:

 

「分かってる!」

 

若い社員:

 

「何個くらい越えるんでしょうね」

 

元金持ち:

 

「数えるな」

 

「どうして」

 

「嫌になる」

 

---

 

国境警備の兵士が歩いてきた。

 

先頭車を見る。

 

次の車を見る。

 

さらに後ろを見る。

 

まだ続いている。

 

兵士の眉が上がった。

 

元白軍将校が書類を持って前へ出る。

 

兵士が聞いた。

 

「これは何だ」

 

元白軍将校:

 

「車列だ」

 

兵士は後ろを見る。

 

「それは分かる」

 

若い社員が小声で言った。

 

「みんな同じこと言いますね」

 

元金持ち:

 

「黙ってろ」

 

兵士:

 

「どこの車列だ」

 

元白軍将校は少し考えた。

 

「いろいろだ」

 

兵士の眉がさらに上がった。

 

「いろいろ?」

 

「ポーランド人が多い」

 

「多い?」

 

「赤軍だった者もいる」

 

兵士が固まった。

 

元金持ちが元白軍将校の袖を引いた。

 

「最初から全部言うな」

 

「聞かれた」

 

「言い方がある!」

 

赤軍兵だった元部下が自分から降りてくる。

 

「元です」

 

兵士:

 

「何が」

 

「赤軍」

 

兵士は元白軍将校を見る。

 

赤軍兵を見る。

 

その後ろのポーランド兵を見る。

 

さらに民間人を見る。

 

「……誰が責任者だ」

 

全員が元白軍将校を見た。

 

元白軍将校:

 

「俺を見るな」

 

元金持ち:

 

「お前だよ!」

 

---

 

書類確認が始まった。

 

最初は先頭車。

 

次に二台目。

 

三台目。

 

四台目。

 

五台目。

 

そこで担当者が気づいた。

 

「車両登録国が違う」

 

元金持ち:

 

「そうです」

 

「メーカーも違う」

 

「そうです」

 

「所有者も違う」

 

「そうです」

 

「この車は?」

 

「WILK」

 

「これは?」

 

「自前」

 

「これは?」

 

「途中参加」

 

「これは?」

 

元金持ちは帳簿を見る。

 

「……誰だ、十七号車」

 

後ろから声がした。

 

「私です!」

 

元金持ち:

 

「いつ入った!」

 

「今朝です!」

 

「聞いてない!」

 

元白軍将校:

 

「走れるならいい」

 

元金持ち:

 

「よくない!」

 

国境兵が頭を抱えた。

 

「十七号?」

 

元金持ち:

 

「こちらで勝手に振ってる番号です」

 

「公式では?」

 

「ありません」

 

「では何の番号だ」

 

「管理です」

 

兵士:

 

「誰が管理している」

 

元金持ちは一瞬黙った。

 

若い社員が笑いをこらえる。

 

元金持ち:

 

「……私です」

 

元白軍将校:

 

「会計だ」

 

元金持ち:

 

「会計ではない!」

 

兵士:

 

「会計?」

 

「違う!」

 

---

 

さらに問題が出た。

 

人数だった。

 

担当者が聞く。

 

「何人いる」

 

元白軍将校:

 

「知らん」

 

元金持ち:

 

「百四十八」

 

元白軍将校が見る。

 

「増えたな」

 

元金持ち:

 

「今それを言うな!」

 

兵士:

 

「百四十八?」

 

「はい」

 

「昨日は?」

 

「百二十九」

 

兵士:

 

「十九人増えた?」

 

元金持ち:

 

「そういう計算になります」

 

「どこで」

 

元金持ちが後ろを見る。

 

「……道中で」

 

兵士:

 

「なぜ」

 

元金持ち:

 

「私も知りたい」

 

若い社員が言う。

 

「自前の車で後ろからついてくるんです」

 

「止めないのか」

 

元白軍将校:

 

「なぜ」

 

元金持ち:

 

「そこで疑問に思え!」

 

---

 

担当者は一人では処理できなくなった。

 

上官が呼ばれた。

 

上官も車列を見る。

 

書類を見る。

 

元白軍将校を見る。

 

元金持ちを見る。

 

また車列を見る。

 

「目的地は」

 

元白軍将校:

 

「英国」

 

上官:

 

「全員?」

 

元白軍将校:

 

「知らん」

 

元金持ち:

 

「そこは私も知らない」

 

「どういうことだ」

 

若い社員が説明する。

 

「フランスで降りる人もいます」

 

「軍へ戻る者も」

 

ポーランド兵が言う。

 

「親族を探す者も」

 

別の者が言う。

 

「港まで行きたい者も」

 

「途中まででいい者も」

 

上官が眉間を押さえた。

 

「つまり」

 

元白軍将校:

 

「西へ行く」

 

元金持ち:

 

「方角だけでまとめるな!」

 

---

 

検問所の脇では、待っている一行が勝手に昼食を始めていた。

 

パン。

 

チーズ。

 

干し肉。

 

子供たちは走り回っている。

 

馬に水をやる者。

 

車輪を見る者。

 

エンジンを点検する者。

 

ポーランド兵が交通整理。

 

赤軍だった者が最後尾を確認。

 

元税務官は元金持ちの帳簿を手伝っていた。

 

国境兵の一人がそれを見て言った。

 

「軍隊なのか?」

 

若い社員:

 

「違います」

 

「会社?」

 

「一部は」

 

「難民?」

 

「かなり」

 

「商隊?」

 

若い社員は少し考えた。

 

「それも少し」

 

兵士:

 

「結局何なんだ」

 

若い社員:

 

「移動中です」

 

元白軍将校の言葉が感染していた。

 

---

 

待つこと二時間。

 

上官が戻ってきた。

 

「条件付きで通す」

 

元金持ちが立つ。

 

「条件は?」

 

「車両を五台ずつ」

 

「分かりました」

 

「間隔を空ける」

 

「はい」

 

「武器は申告」

 

ポーランド兵たちが動く。

 

「軍人は別に確認」

 

「分かりました」

 

「赤軍の者は――」

 

赤軍兵だった元部下が手を挙げる。

 

「元です」

 

上官:

 

「分かっている」

 

「念のため」

 

「お前が一番ややこしい」

 

赤軍兵:

 

「よく言われます」

 

元白軍将校が小さく笑った。

 

赤軍兵が見る。

 

「何です」

 

「昔からだ」

 

「閣下に言われたくありません」

 

---

 

車列を五台ずつに分けることになった。

 

ところが、それだけで問題が起きた。

 

元金持ち:

 

「一号から五号!」

 

車が動く。

 

「六号から十号!」

 

動く。

 

「十一号から十五号!」

 

動く。

 

「十六号から――」

 

止まった。

 

「……十九号までだったな」

 

元税務官:

 

「二十号があります」

 

元金持ち:

 

「何?」

 

後ろを見る。

 

見覚えのない小型トラック。

 

荷台に家具。

 

鶏籠。

 

家族。

 

元金持ちが駆け寄る。

 

「誰だ!」

 

運転手:

 

「今朝の町からです」

 

「登録したか!」

 

「何に?」

 

「こっちに!」

 

「必要だったんですか?」

 

元金持ち:

 

「必要だ!」

 

元白軍将校が後ろから来る。

 

「何ができる」

 

元金持ち:

 

「今それを聞くな!」

 

運転手:

 

「家具職人です」

 

元白軍将校:

 

「使える」

 

元金持ち:

 

「採用するな!」

 

家具職人:

 

「採用?」

 

若い社員:

 

「気にしないでください」

 

---

 

結局、二十台になった。

 

国境を越える直前に一台増えた。

 

元金持ちは帳簿へ書き込む。

 

「二十号車。家具職人一家。五名」

 

若い社員:

 

「人数は?」

 

元金持ち:

 

「百五十三」

 

「増えましたね」

 

「言うな」

 

元白軍将校:

 

「増えたな」

 

元金持ち:

 

「お前も言うな!」

 

---

 

第一陣が国境へ入った。

 

書類確認。

 

通過。

 

第二陣。

 

通過。

 

第三陣。

 

少し時間がかかった。

 

ポーランド兵の書類。

 

武器。

 

目的地。

 

一人が聞かれる。

 

「どこへ行く」

 

「フランスへ。軍に戻ります」

 

国境兵がうなずいた。

 

次。

 

家族。

 

次。

 

老人。

 

次。

 

若い職人。

 

少しずつ通る。

 

今回は前回のように暗闇を歩く越境ではなかった。

 

門がある。

 

兵士がいる。

 

書類もある。

 

車もある。

 

そして待たされる。

 

元金持ちが言う。

 

「こっちの方が疲れるな」

 

若い社員:

 

「撃たれないだけいいでしょう」

 

「それはそうだ」

 

元白軍将校:

 

「次」

 

元金持ち:

 

「お前、検問官みたいになってるぞ」

 

---

 

最後の組。

 

元白軍将校。

 

元金持ち。

 

若い社員。

 

赤軍兵だった元部下。

 

元税務官。

 

そして二十号車。

 

国境兵が元白軍将校の書類を見る。

 

顔を見る。

 

「職業」

 

元白軍将校が少し考えた。

 

「会社員」

 

若い社員が吹き出した。

 

元金持ちも横を向いた。

 

国境兵:

 

「何だ」

 

元白軍将校:

 

「何でもない」

 

「役職は」

 

「創業者」

 

国境兵がまた顔を見る。

 

後ろの車列を見る。

 

「会社の出張か?」

 

元金持ちがとうとう笑った。

 

「そう見えるなら、そういうことにしてください」

 

国境兵は何も言わず、印を押した。

 

「行け」

 

元白軍将校:

 

「助かる」

 

---

 

車列が動き出す。

 

門を越える。

 

また国が変わった。

 

若い社員が窓から後ろを見る。

 

国境の旗が遠ざかる。

 

「二回目ですね」

 

元白軍将校:

 

「ああ」

 

「慣れました?」

 

「まだ二回だ」

 

元金持ちが後ろの車から叫ぶ。

 

「慣れたくない!」

 

赤軍兵だった元部下が笑う。

 

「あと何回でしょうな」

 

元金持ち:

 

「数えるな!」

 

若い社員:

 

「英国までなら――」

 

元金持ち:

 

「言うな!」

 

---

 

昼を過ぎると、道は少し広くなった。

 

車列も速度を上げる。

 

農村。

 

町。

 

橋。

 

また農村。

 

新しい国。

 

新しい標識。

 

新しい言葉。

 

元金持ちは帳簿の余白へ書く。

 

「通貨確認」

 

若い社員が見る。

 

「大変ですね」

 

「昨日までと金が違う」

 

「WILK払いは?」

 

「余計に面倒になる」

 

元白軍将校:

 

「払えればいい」

 

元金持ち:

 

「為替というものがある!」

 

赤軍兵:

 

「昔は金貨で楽でしたね」

 

元白軍将校:

 

「昔のことだ」

 

元金持ち:

 

「お前らだけ昔に戻れ!」

 

---

 

夕方。

 

一行は小さな町へ入った。

 

宿を探す。

 

燃料を探す。

 

食料。

 

修理工場。

 

そして元金持ちが車列を確認する。

 

「二十台」

 

若い社員:

 

「よかった。増えてない」

 

元金持ち:

 

「百五十三人」

 

「人数も?」

 

「変わってない」

 

二人とも少し安心した。

 

その時。

 

後ろからクラクション。

 

一台。

 

二台。

 

三台。

 

地元の乗用車と、小さな貨物車。

 

元金持ちは目を閉じた。

 

若い社員が言う。

 

「来ましたね」

 

「見るな」

 

「でも来てます」

 

元白軍将校が歩いていく。

 

元金持ち:

 

「待て!」

 

遅かった。

 

地元の男が車から降りる。

 

「西へ行くと聞いた」

 

元白軍将校:

 

「そうだ」

 

「ついて行きたい」

 

元金持ち:

 

「駄目だ!」

 

全員が元金持ちを見る。

 

元金持ちは息を整える。

 

「……まず名前」

 

若い社員が笑った。

 

「もう慣れましたね」

 

元金持ち:

 

「慣れてない!」

 

元白軍将校:

 

「何ができる」

 

元金持ち:

 

「お前も黙れ!」

 

二度目の国境を越えたその日の夕方。

 

車列は二十三台になった。

 

人数については。

 

元金持ちが、夕食後に数えることを拒否した。

 

 

 

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