『一九三九年九月下旬・国外移動車列記録』
国外移動開始後、車列は南西方向へ移動。
車両数については記録に差異あり。
出発時十五台。
翌日十七台。
国境到着時十九台。
なお、WILKが購入した車両は十一台である。
残りについては、
「勝手についてきた」
と記録されている。
「止まれ!」
先頭車が止まった。
二台目も止まる。
三台目。
四台目。
その後ろ。
その後ろ。
さらに後ろ。
馬車。
自転車。
乗用車。
トラック。
またトラック。
最後尾が止まるまで、かなり時間がかかった。
元金持ちは車から降りた。
前を見る。
柵。
詰所。
兵士。
旗。
そして国境。
しばらく無言。
若いWILK社員が隣へ来た。
「国境ですね」
元金持ち:
「見れば分かる」
「昨日越えたばかりなのに」
「知っている」
「また越えるんですね」
「知っている!」
元白軍将校が先頭車から降りる。
「騒ぐな」
元金持ちは振り返った。
「お前な」
「何だ」
「昨日、“国外へ出た”と言ったよな」
「出た」
「今日また国境なんだが」
「国は一つじゃない」
「そういう問題じゃない!」
赤軍兵だった元部下が荷台から顔を出す。
「英国までまだ遠いですから」
元金持ち:
「分かってる!」
若い社員:
「何個くらい越えるんでしょうね」
元金持ち:
「数えるな」
「どうして」
「嫌になる」
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国境警備の兵士が歩いてきた。
先頭車を見る。
次の車を見る。
さらに後ろを見る。
まだ続いている。
兵士の眉が上がった。
元白軍将校が書類を持って前へ出る。
兵士が聞いた。
「これは何だ」
元白軍将校:
「車列だ」
兵士は後ろを見る。
「それは分かる」
若い社員が小声で言った。
「みんな同じこと言いますね」
元金持ち:
「黙ってろ」
兵士:
「どこの車列だ」
元白軍将校は少し考えた。
「いろいろだ」
兵士の眉がさらに上がった。
「いろいろ?」
「ポーランド人が多い」
「多い?」
「赤軍だった者もいる」
兵士が固まった。
元金持ちが元白軍将校の袖を引いた。
「最初から全部言うな」
「聞かれた」
「言い方がある!」
赤軍兵だった元部下が自分から降りてくる。
「元です」
兵士:
「何が」
「赤軍」
兵士は元白軍将校を見る。
赤軍兵を見る。
その後ろのポーランド兵を見る。
さらに民間人を見る。
「……誰が責任者だ」
全員が元白軍将校を見た。
元白軍将校:
「俺を見るな」
元金持ち:
「お前だよ!」
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書類確認が始まった。
最初は先頭車。
次に二台目。
三台目。
四台目。
五台目。
そこで担当者が気づいた。
「車両登録国が違う」
元金持ち:
「そうです」
「メーカーも違う」
「そうです」
「所有者も違う」
「そうです」
「この車は?」
「WILK」
「これは?」
「自前」
「これは?」
「途中参加」
「これは?」
元金持ちは帳簿を見る。
「……誰だ、十七号車」
後ろから声がした。
「私です!」
元金持ち:
「いつ入った!」
「今朝です!」
「聞いてない!」
元白軍将校:
「走れるならいい」
元金持ち:
「よくない!」
国境兵が頭を抱えた。
「十七号?」
元金持ち:
「こちらで勝手に振ってる番号です」
「公式では?」
「ありません」
「では何の番号だ」
「管理です」
兵士:
「誰が管理している」
元金持ちは一瞬黙った。
若い社員が笑いをこらえる。
元金持ち:
「……私です」
元白軍将校:
「会計だ」
元金持ち:
「会計ではない!」
兵士:
「会計?」
「違う!」
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さらに問題が出た。
人数だった。
担当者が聞く。
「何人いる」
元白軍将校:
「知らん」
元金持ち:
「百四十八」
元白軍将校が見る。
「増えたな」
元金持ち:
「今それを言うな!」
兵士:
「百四十八?」
「はい」
「昨日は?」
「百二十九」
兵士:
「十九人増えた?」
元金持ち:
「そういう計算になります」
「どこで」
元金持ちが後ろを見る。
「……道中で」
兵士:
「なぜ」
元金持ち:
「私も知りたい」
若い社員が言う。
「自前の車で後ろからついてくるんです」
「止めないのか」
元白軍将校:
「なぜ」
元金持ち:
「そこで疑問に思え!」
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担当者は一人では処理できなくなった。
上官が呼ばれた。
上官も車列を見る。
書類を見る。
元白軍将校を見る。
元金持ちを見る。
また車列を見る。
「目的地は」
元白軍将校:
「英国」
上官:
「全員?」
元白軍将校:
「知らん」
元金持ち:
「そこは私も知らない」
「どういうことだ」
若い社員が説明する。
「フランスで降りる人もいます」
「軍へ戻る者も」
ポーランド兵が言う。
「親族を探す者も」
別の者が言う。
「港まで行きたい者も」
「途中まででいい者も」
上官が眉間を押さえた。
「つまり」
元白軍将校:
「西へ行く」
元金持ち:
「方角だけでまとめるな!」
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検問所の脇では、待っている一行が勝手に昼食を始めていた。
パン。
チーズ。
干し肉。
子供たちは走り回っている。
馬に水をやる者。
車輪を見る者。
エンジンを点検する者。
ポーランド兵が交通整理。
赤軍だった者が最後尾を確認。
元税務官は元金持ちの帳簿を手伝っていた。
国境兵の一人がそれを見て言った。
「軍隊なのか?」
若い社員:
「違います」
「会社?」
「一部は」
「難民?」
「かなり」
「商隊?」
若い社員は少し考えた。
「それも少し」
兵士:
「結局何なんだ」
若い社員:
「移動中です」
元白軍将校の言葉が感染していた。
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待つこと二時間。
上官が戻ってきた。
「条件付きで通す」
元金持ちが立つ。
「条件は?」
「車両を五台ずつ」
「分かりました」
「間隔を空ける」
「はい」
「武器は申告」
ポーランド兵たちが動く。
「軍人は別に確認」
「分かりました」
「赤軍の者は――」
赤軍兵だった元部下が手を挙げる。
「元です」
上官:
「分かっている」
「念のため」
「お前が一番ややこしい」
赤軍兵:
「よく言われます」
元白軍将校が小さく笑った。
赤軍兵が見る。
「何です」
「昔からだ」
「閣下に言われたくありません」
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車列を五台ずつに分けることになった。
ところが、それだけで問題が起きた。
元金持ち:
「一号から五号!」
車が動く。
「六号から十号!」
動く。
「十一号から十五号!」
動く。
「十六号から――」
止まった。
「……十九号までだったな」
元税務官:
「二十号があります」
元金持ち:
「何?」
後ろを見る。
見覚えのない小型トラック。
荷台に家具。
鶏籠。
家族。
元金持ちが駆け寄る。
「誰だ!」
運転手:
「今朝の町からです」
「登録したか!」
「何に?」
「こっちに!」
「必要だったんですか?」
元金持ち:
「必要だ!」
元白軍将校が後ろから来る。
「何ができる」
元金持ち:
「今それを聞くな!」
運転手:
「家具職人です」
元白軍将校:
「使える」
元金持ち:
「採用するな!」
家具職人:
「採用?」
若い社員:
「気にしないでください」
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結局、二十台になった。
国境を越える直前に一台増えた。
元金持ちは帳簿へ書き込む。
「二十号車。家具職人一家。五名」
若い社員:
「人数は?」
元金持ち:
「百五十三」
「増えましたね」
「言うな」
元白軍将校:
「増えたな」
元金持ち:
「お前も言うな!」
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第一陣が国境へ入った。
書類確認。
通過。
第二陣。
通過。
第三陣。
少し時間がかかった。
ポーランド兵の書類。
武器。
目的地。
一人が聞かれる。
「どこへ行く」
「フランスへ。軍に戻ります」
国境兵がうなずいた。
次。
家族。
次。
老人。
次。
若い職人。
少しずつ通る。
今回は前回のように暗闇を歩く越境ではなかった。
門がある。
兵士がいる。
書類もある。
車もある。
そして待たされる。
元金持ちが言う。
「こっちの方が疲れるな」
若い社員:
「撃たれないだけいいでしょう」
「それはそうだ」
元白軍将校:
「次」
元金持ち:
「お前、検問官みたいになってるぞ」
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最後の組。
元白軍将校。
元金持ち。
若い社員。
赤軍兵だった元部下。
元税務官。
そして二十号車。
国境兵が元白軍将校の書類を見る。
顔を見る。
「職業」
元白軍将校が少し考えた。
「会社員」
若い社員が吹き出した。
元金持ちも横を向いた。
国境兵:
「何だ」
元白軍将校:
「何でもない」
「役職は」
「創業者」
国境兵がまた顔を見る。
後ろの車列を見る。
「会社の出張か?」
元金持ちがとうとう笑った。
「そう見えるなら、そういうことにしてください」
国境兵は何も言わず、印を押した。
「行け」
元白軍将校:
「助かる」
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車列が動き出す。
門を越える。
また国が変わった。
若い社員が窓から後ろを見る。
国境の旗が遠ざかる。
「二回目ですね」
元白軍将校:
「ああ」
「慣れました?」
「まだ二回だ」
元金持ちが後ろの車から叫ぶ。
「慣れたくない!」
赤軍兵だった元部下が笑う。
「あと何回でしょうな」
元金持ち:
「数えるな!」
若い社員:
「英国までなら――」
元金持ち:
「言うな!」
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昼を過ぎると、道は少し広くなった。
車列も速度を上げる。
農村。
町。
橋。
また農村。
新しい国。
新しい標識。
新しい言葉。
元金持ちは帳簿の余白へ書く。
「通貨確認」
若い社員が見る。
「大変ですね」
「昨日までと金が違う」
「WILK払いは?」
「余計に面倒になる」
元白軍将校:
「払えればいい」
元金持ち:
「為替というものがある!」
赤軍兵:
「昔は金貨で楽でしたね」
元白軍将校:
「昔のことだ」
元金持ち:
「お前らだけ昔に戻れ!」
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夕方。
一行は小さな町へ入った。
宿を探す。
燃料を探す。
食料。
修理工場。
そして元金持ちが車列を確認する。
「二十台」
若い社員:
「よかった。増えてない」
元金持ち:
「百五十三人」
「人数も?」
「変わってない」
二人とも少し安心した。
その時。
後ろからクラクション。
一台。
二台。
三台。
地元の乗用車と、小さな貨物車。
元金持ちは目を閉じた。
若い社員が言う。
「来ましたね」
「見るな」
「でも来てます」
元白軍将校が歩いていく。
元金持ち:
「待て!」
遅かった。
地元の男が車から降りる。
「西へ行くと聞いた」
元白軍将校:
「そうだ」
「ついて行きたい」
元金持ち:
「駄目だ!」
全員が元金持ちを見る。
元金持ちは息を整える。
「……まず名前」
若い社員が笑った。
「もう慣れましたね」
元金持ち:
「慣れてない!」
元白軍将校:
「何ができる」
元金持ち:
「お前も黙れ!」
二度目の国境を越えたその日の夕方。
車列は二十三台になった。
人数については。
元金持ちが、夕食後に数えることを拒否した。