WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

211 / 211
『一九三九年秋・英国仮連絡所会議記録』

WILK創業者五名。

元白軍将校。

元ドイツ軍技術者。

ユダヤ人実業家。

元独立運動家。

ポーランド軍将校。

ポーランド戦役後、五名全員が同一地点に揃った最初の記録は、英国に所在した民家で確認されている。

なお、当該建物はWILK所有物ではない。

所有者によれば、

「そこは重要なので必ず書け」

とのことである。


第211話 五人、揃う

 

 

その日の朝。

 

元白軍将校の親族は、玄関に立っていた。

 

別に客を歓迎するためではない。

 

確認するためだった。

 

一台目。

 

車が停まる。

 

元ドイツ軍技術者が降りてきた。

 

鞄。

 

筒状にまとめた図面。

 

書類箱。

 

親族はその量を見る。

 

「宿泊ですか」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「会議だと聞いている」

 

親族は元白軍将校を見る。

 

「聞いてないぞ」

 

「今言った」

 

「事前連絡という言葉を覚えろ!」

 

元ドイツ軍技術者が二人を見比べた。

 

「……本当に親族なんだな」

 

親族:

 

「一緒にするな」

 

元白軍将校:

 

「似てるだろ」

 

「黙れ」

 

---

 

二台目。

 

元独立運動家。

 

一人ではない。

 

資料箱がある。

 

さらに資料箱。

 

そして人員票の束。

 

親族は嫌な予感がした。

 

「それは?」

 

元独立運動家:

 

「仕事だ」

 

「ここで?」

 

「会議室があると聞いた」

 

親族:

 

「ない」

 

元白軍将校:

 

「ある」

 

「ない!」

 

元独立運動家は屋敷を見る。

 

それから元白軍将校を見る。

 

「また他人の家を使ってるのか」

 

「ああ」

 

「昔から変わらんな」

 

親族が勢いよく振り返った。

 

「昔から!?」

 

元白軍将校:

 

「昔のことだ」

 

親族:

 

「今もやってる!」

 

---

 

三台目。

 

ポーランド軍将校。

 

軍服。

 

疲れていた。

 

目の下に隈がある。

 

だが立ち方だけは変わらない。

 

元白軍将校が玄関から出る。

 

二人はしばらく互いを見る。

 

ポーランド軍将校:

 

「着いたか」

 

「ああ」

 

「遅い」

 

「お前もな」

 

ポーランド軍将校は少し笑った。

 

「兵隊をまとめてた」

 

「何人」

 

「聞くな」

 

元白軍将校:

 

「増えたか」

 

「増えた」

 

「そうか」

 

親族が小声で言った。

 

「お前ら全員、なぜ人数が増えるんだ」

 

ポーランド軍将校:

 

「減った方ですよ」

 

「その基準を持ち込むな」

 

---

 

最後。

 

車ではなかった。

 

タクシーが二台。

 

荷物。

 

書類。

 

さらに書類。

 

ユダヤ人実業家が降りる。

 

親族が近づく。

 

「ようこそ」

 

実業家は親族へ深く頭を下げた。

 

「まず、謝罪を」

 

親族が少し驚く。

 

「何を?」

 

「こちらの創業者が、ご迷惑を」

 

元白軍将校:

 

「俺か」

 

ユダヤ人実業家:

 

「あなた以外に誰がいます」

 

元独立運動家:

 

「六十四人連れてきたと聞いた」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「連絡なしで」

 

ポーランド軍将校:

 

「会社にも翌日まで連絡なし」

 

四人が元白軍将校を見る。

 

元白軍将校:

 

「もう怒られた」

 

親族:

 

「足りん」

 

ユダヤ人実業家はもう一度親族へ向き直った。

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

元ドイツ軍技術者も頭を下げる。

 

元独立運動家も。

 

ポーランド軍将校も。

 

元白軍将校だけが立っている。

 

親族:

 

「お前もだ」

 

「俺も?」

 

「お前が原因だ!」

 

元白軍将校は仕方なさそうに頭を下げた。

 

「悪かった」

 

親族は少し黙った。

 

「……まあいい」

 

そして五人を見る。

 

「初めまして、になる方が多いな」

 

ユダヤ人実業家:

 

「WILK創業者の一人です」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「同じく」

 

元独立運動家:

 

「同じく」

 

ポーランド軍将校:

 

「同じく」

 

最後。

 

元白軍将校:

 

「親族だ」

 

親族:

 

「それは知ってる!」

 

---

 

茶が出た。

 

椅子も増えた。

 

親族本人の書斎だった部屋には、とうとう五人の創業者が揃った。

 

若いWILK社員。

 

元金持ち。

 

元税務官。

 

親族。

 

さらに数人。

 

机は完全に足りなかった。

 

親族が言う。

 

「その前に一つ決める」

 

ユダヤ人実業家:

 

「何でしょう」

 

「賃料だ」

 

元白軍将校:

 

「取るのか」

 

親族:

 

「取る!」

 

即答だった。

 

「電話を使う」

 

「書斎を使う」

 

「客が来る」

 

「郵便が来る」

 

「電報が来る」

 

「使用人が対応する」

 

「庭に車が停まる」

 

「しかも軍人と銀行家と技術者まで来る」

 

元独立運動家:

 

「それは払うべきだな」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「同意する」

 

ポーランド軍将校:

 

「当然だ」

 

ユダヤ人実業家はもう帳面を出していた。

 

「期間は?」

 

親族:

 

「そこまで長く使われる予定だったのか」

 

実業家:

 

「未定です」

 

「怖いことを言うな」

 

---

 

交渉が始まった。

 

部屋代。

 

電話代。

 

電報。

 

使用人の追加負担。

 

光熱。

 

来客対応。

 

保管場所。

 

庭の車両。

 

親族は思っていたより細かかった。

 

ユダヤ人実業家も細かかった。

 

元金持ちは横で数字を書き始めた。

 

親族:

 

「お前も参加するのか」

 

元金持ち:

 

「後で払うの私なので」

 

「会計なんだな」

 

「違います」

 

ユダヤ人実業家:

 

「会計です」

 

「違う!」

 

交渉は十五分続いた。

 

元白軍将校は途中から紅茶を飲んでいた。

 

親族:

 

「お前も何か言え」

 

「高い」

 

「お前が言うな!」

 

最終的には、

 

屋敷の一角。

 

書斎一室。

 

隣室。

 

電話設備。

 

一部倉庫。

 

会議時の食事。

 

来客対応。

 

以上についてWILKが定額を支払うことになった。

 

親族は書類を見る。

 

「安くないぞ」

 

ユダヤ人実業家:

 

「適正です」

 

元白軍将校:

 

「高い」

 

実業家:

 

「黙ってください」

 

---

 

契約書へ署名。

 

親族は満足そうに紙を受け取った。

 

「よし」

 

元白軍将校:

 

「これで正式に使えるな」

 

親族:

 

「期限付きだ」

 

「分かってる」

 

「早く別の事務所を探せ」

 

「探してる」

 

「誰が」

 

元金持ち:

 

「私が」

 

親族:

 

「やっぱり会計じゃないか」

 

元金持ち:

 

「不動産まで会計に入れるな!」

 

---

 

ようやく。

 

会議が始まった。

 

元金持ちが紙を置く。

 

「では」

 

五人が見る。

 

元金持ち:

 

「何で私が進行役なんだ」

 

ユダヤ人実業家:

 

「一番全体を把握しているからです」

 

「私は途中で拾われた人間だぞ」

 

元白軍将校:

 

「使える」

 

「その評価をやめろ」

 

元独立運動家:

 

「名簿をまとめたのも君だろう」

 

「必要だったからです」

 

ポーランド軍将校:

 

「支払い証書も」

 

「必要だったから!」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「では必要だから会議もまとめろ」

 

元金持ちは五人を見る。

 

誰も助けなかった。

 

「……分かったよ」

 

紙を一枚取った。

 

「まず英国政府とフランス政府から要求が来ています」

 

元独立運動家:

 

「それだ」

 

声が低かった。

 

若い社員が元金持ちを見る。

 

元金持ちも少し警戒する。

 

「読みます?」

 

「読め」

 

「航空機生産」

 

「うん」

 

「整備設備」

 

「うん」

 

「車両」

 

「うん」

 

「通信」

 

「うん」

 

「労働力供給」

 

元独立運動家:

 

「そこだ」

 

空気が変わった。

 

---

 

元独立運動家は人員票を机へ置いた。

 

「人を部品みたいに書くな」

 

元金持ち:

 

「政府文書なので」

 

「分かってる。だから腹が立つ」

 

もう一冊。

 

「フランス側は何人出せるか聞いてきた」

 

「はい」

 

「英国側も技術者を何人回せるか」

 

「はい」

 

元独立運動家は机を指で叩いた。

 

「何人出せるかじゃない」

 

誰も口を挟まなかった。

 

「どこなら暮らせるかだ」

 

ページを開く。

 

「ここに旋盤工がいる」

 

「妻がいる」

 

「子供が二人」

 

「一人は学校へ行く年齢だ」

 

「こっちの整備工は母親を扶養している」

 

「この農家は一家六人」

 

「人間を一人だけ工場へ送って、配置したことにするな」

 

フランス側要求書を持ち上げる。

 

「そして今度は避難民を工場へ入れろ?」

 

一度置く。

 

「入れる」

 

若い社員が少し驚いた。

 

元独立運動家:

 

「仕事は必要だ」

 

「工場も必要だ」

 

「だが、住む場所を用意しろ」

 

「学校を用意しろ」

 

「食わせろ」

 

「通わせろ」

 

「病人がいるなら診ろ」

 

「それをせずに、労働力だけ寄越せという話なら断れ」

 

ユダヤ人実業家:

 

「その条件で交渉しましょう」

 

元独立運動家:

 

「最初からそうしろ!」

 

実業家:

 

「あなたが来るのを待っていました」

 

元独立運動家は止まった。

 

「……わざとか」

 

「専門家に任せました」

 

「腹立つな、お前」

 

ユダヤ人実業家は笑った。

 

いつもの空気だった。

 

---

 

元金持ちが次へ進む。

 

「では人員配置については元独立運動家担当。住宅、学校、家族、医療、通勤を条件に政府と交渉」

 

書く。

 

元独立運動家:

 

「それでいい」

 

「次。航空機」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「持ってきた」

 

図面筒を机へ置いた。

 

一本。

 

二本。

 

三本。

 

親族が遠くから見る。

 

「その量、今日持ち帰るんだろうな」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「使うなら置く」

 

親族:

 

「置くな」

 

---

 

図面が広げられた。

 

双発機。

 

Bizon。

 

ただし従来型とは違う。

 

元白軍将校:

 

「いつ描いた」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「前から」

 

「何で」

 

「必要になると思った」

 

英国規格。

 

英国で調達可能なエンジン、計器、無線、車輪、電装。

 

別紙。

 

フランス規格。

 

フランスで調達可能なエンジン、計器、武装、車輪、無線。

 

元金持ちが眉を寄せた。

 

「戦争前から?」

 

「全部ではない」

 

元ドイツ軍技術者は図面を指した。

 

「基本ひな型だ」

 

「エンジン寸法が変わる」

 

「武装も」

 

「無線も」

 

「計器も」

 

「だが機体全体を最初から設計し直す必要はない」

 

ユダヤ人実業家:

 

「英国仕様とフランス仕様を?」

 

「作れる」

 

ポーランド軍将校:

 

「どれくらい早い」

 

「一から新型を作るより早い」

 

「試験は」

 

「当然必要だ」

 

元白軍将校:

 

「飛ぶか」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「飛ばす」

 

一瞬。

 

昔と同じだった。

 

---

 

元金持ちは別紙を作る。

 

「英国仕様、仮称Bull MkA」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「誰が決めた」

 

若い社員:

 

「もう呼ばれてます」

 

「勝手に」

 

「フランス仕様は?」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「まだ」

 

元白軍将校:

 

「Taureau」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「なぜフランス語」

 

「フランスだから」

 

「安直だ」

 

ポーランド軍将校:

 

「分かりやすい」

 

ユダヤ人実業家:

 

「契約書には便利です」

 

元ドイツ軍技術者はため息をついた。

 

「好きにしろ」

 

元金持ち:

 

「では仮称Taureau」

 

書いた。

 

こうして決まった。

 

---

 

次。

 

ポーランド軍将校。

 

彼は一冊の名簿を置いた。

 

厚かった。

 

元白軍将校:

 

「何だ」

 

「軍だ」

 

「見れば分かる」

 

「亡命できた人員」

 

別の紙。

 

「航空」

 

「陸軍」

 

「通信」

 

「輸送」

 

「整備」

 

「ばらばらだった」

 

元独立運動家:

 

「まとめたのか」

 

「途中まで」

 

「途中?」

 

ポーランド軍将校は疲れた顔で椅子にもたれた。

 

「人は逃げてくる」

 

「部隊番号が違う」

 

「上官がいない」

 

「装備もない」

 

「フランス側の指示も変わる」

 

「昨日まで歩兵だった人間が今日は輸送をやっている」

 

元白軍将校:

 

「いつものことだ」

 

ポーランド軍将校:

 

「お前のいつもと一緒にするな」

 

それでも。

 

名簿はあった。

 

誰がいる。

 

何ができる。

 

どこにいる。

 

何が足りない。

 

全部ではない。

 

だが再建を始められる程度には。

 

ポーランド軍将校:

 

「帰ってきたというより、ようやく渡せる形になった」

 

元金持ちが名簿を受け取る。

 

「軍側要求として別紙にします」

 

ポーランド軍将校:

 

「頼む」

 

「……頼むと言われた」

 

若い社員:

 

「仕事ですね」

 

元金持ち:

 

「増やすな」

 

---

 

そして。

 

ユダヤ人実業家。

 

全員が見る。

 

実業家は鞄を開いた。

 

元金持ち:

 

「何を買った」

 

ユダヤ人実業家:

 

「いくつか」

 

「具体的に」

 

「アメリカで農地」

 

「知ってる」

 

「工場」

 

「知ってる」

 

「倉庫」

 

「初耳だ」

 

「鉄道引込線のある土地」

 

「待て」

 

「アイルランドでも工場候補を」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「もう?」

 

「安かったので」

 

元金持ち:

 

「いくら使った」

 

ユダヤ人実業家:

 

「その話をするためにあなたがいます」

 

元金持ち:

 

「俺は何なんだ!」

 

元白軍将校:

 

「会計」

 

「違う!」

 

---

 

資料が出る。

 

米国東部。

 

五大湖。

 

中西部。

 

農地。

 

小規模工場。

 

倉庫。

 

食品加工設備。

 

修理可能な工作機械。

 

一部は契約済み。

 

一部は交渉中。

 

アイルランド側も、民需工場として使えそうな場所がいくつか。

 

元ドイツ軍技術者が資料を見る。

 

「この工場、設備が古い」

 

ユダヤ人実業家:

 

「直せる?」

 

「直せる」

 

「では問題ない」

 

「この旋盤は」

 

「安かった」

 

「これも直す必要がある」

 

「だから安かった」

 

元白軍将校:

 

「よかったな」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「仕事を増やすな」

 

---

 

元独立運動家は農地資料を見ていた。

 

「住宅は」

 

実業家:

 

「一部あり」

 

「家族何組入る」

 

「改修すれば増やせる」

 

「学校は」

 

「周辺を調査中」

 

「病院」

 

「そこも」

 

元独立運動家:

 

「農場だけ買って終わるな」

 

実業家:

 

「だからあなたに見せています」

 

元独立運動家はまた嫌そうな顔をした。

 

「全員、俺に仕事を持ってくるな」

 

元白軍将校:

 

「使えるからな」

 

「お前が言うな!」

 

五人全員が笑った。

 

そこだった。

 

戦争前。

 

ポーランドの会議室。

 

工場。

 

倉庫。

 

食堂。

 

何度もあった。

 

誰かが問題を持ってくる。

 

誰かが無茶を言う。

 

誰かが怒る。

 

誰かが数字を出す。

 

そして。

 

結局、仕事になる。

 

場所だけが違った。

 

---

 

親族は少し離れた自分の机で、その光景を見ていた。

 

さっきまで。

 

五人はそれぞれ別々の方向から来た。

 

一人は英国の技術。

 

一人は人間の生活。

 

一人は亡命軍。

 

一人は米国とアイルランドの資産。

 

一人は。

 

親族は元白軍将校を見る。

 

「お前は何を持ってきた」

 

元白軍将校:

 

「人」

 

「またか」

 

「道も」

 

「……まあ」

 

親族は紅茶を飲んだ。

 

「一番お前らしいな」

 

元白軍将校:

 

「そうか」

 

「褒めてはいない」

 

---

 

元金持ちは紙を増やしていた。

 

一枚目。

 

英国航空関係。

 

二枚目。

 

フランス航空関係。

 

三枚目。

 

亡命ポーランド軍支援。

 

四枚目。

 

難民・失業者配置。

 

五枚目。

 

米国資産。

 

六枚目。

 

アイルランド。

 

七枚目。

 

狼回廊支払い。

 

八枚目。

 

住宅。

 

九枚目。

 

銀行。

 

十枚目。

 

親族宅賃料。

 

元金持ち:

 

「……多い」

 

ユダヤ人実業家:

 

「よろしくお願いします」

 

「何を」

 

「会議結果を各部署へ」

 

「待て」

 

「英国側には英国側の要約」

 

「待て」

 

「フランス側にはフランス側」

 

「待て!」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「技術部門には部品規格だけ抜いてくれ」

 

元独立運動家:

 

「住宅部門には人員と家族構成」

 

ポーランド軍将校:

 

「軍側には航空機と輸送」

 

元白軍将校:

 

「現場には全部」

 

元金持ちは立ち上がった。

 

「お前ら!」

 

五人が見る。

 

「私は途中で拾われただけだぞ!」

 

元白軍将校:

 

「ああ」

 

「社員ですらなかった!」

 

ユダヤ人実業家:

 

「今は?」

 

元金持ち:

 

「……」

 

若い社員が小声で言った。

 

「社員ですね」

 

「黙れ!」

 

---

 

それでも。

 

元金持ちは座った。

 

紙を取った。

 

書いた。

 

『英国側会議結果』

 

次。

 

『フランス側会議結果』

 

次。

 

『軍関係』

 

次。

 

『人員配置』

 

元独立運動家が横から言う。

 

「家族単位を崩すなと入れておけ」

 

「もう書いた」

 

「学校も」

 

「書いた」

 

「住宅」

 

「書いた!」

 

元独立運動家が紙を見る。

 

少し黙る。

 

「……仕事が早いな」

 

元金持ち:

 

「だから仕事を増やすな」

 

---

 

夕方。

 

会議が終わる頃には。

 

屋敷の一室に。

 

英国で作る飛行機。

 

フランスで作る飛行機。

 

ポーランド軍の再編。

 

難民の住宅。

 

米国の農場。

 

米国の工場。

 

アイルランドの工場。

 

狼回廊。

 

銀行。

 

輸送。

 

全部が一つの机の上に載っていた。

 

親族が部屋へ入る。

 

「終わったか」

 

元金持ち:

 

「会議は」

 

「では帰るのか」

 

五人が互いを見る。

 

元ドイツ軍技術者:

 

「明日、英国側技術会議」

 

元独立運動家:

 

「フランス側と住宅の話をする」

 

ポーランド軍将校:

 

「軍へ戻る」

 

ユダヤ人実業家:

 

「銀行と米国へ電報」

 

元白軍将校:

 

「ここにいる」

 

親族:

 

「お前は出ろ」

 

「賃料払った」

 

親族が止まった。

 

元白軍将校:

 

「契約した」

 

親族は数秒黙った。

 

「……そこを使う知恵だけは回るんだな」

 

ユダヤ人実業家:

 

「契約は守ります」

 

親族:

 

「あなたは歓迎する」

 

元白軍将校:

 

「俺は」

 

「賃料分だけ歓迎する」

 

---

 

夜。

 

五人はもう一度だけ同じ机を囲んだ。

 

今度は書類を閉じていた。

 

長い間。

 

誰も五人揃っていなかった。

 

ポーランドは落ちた。

 

工場も失った。

 

人も失った。

 

機体も。

 

家も。

 

土地も。

 

それでも。

 

元ドイツ軍技術者:

 

「次はどこから始める」

 

ユダヤ人実業家:

 

「もう始まっています」

 

元独立運動家:

 

「人が先だ」

 

ポーランド軍将校:

 

「軍は待たないぞ」

 

元白軍将校:

 

「なら全部やる」

 

一瞬。

 

四人が元白軍将校を見る。

 

元独立運動家:

 

「簡単に言うな」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「昔からそうだ」

 

ユダヤ人実業家:

 

「ですが、結局そうなる」

 

ポーランド軍将校:

 

「いつものことだ」

 

そして。

 

五人は笑った。

 

ポーランドではなかった。

 

WILK本社でもなかった。

 

他人の屋敷だった。

 

それでも。

 

ようやく。

 

五人が揃った。

 

そして元金持ちは。

 

隣の机で。

 

その笑い声を聞きながら。

 

五人分の会議結果を。

 

十の部署向けに書き直していた。

 

「……絶対、給料上げてもらうからな」

 

誰も反対しなかった。

 

――了

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アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す(作者:駄文亭)(原作:ソードワールド1.0)

「誰がヲタクだって? 僕程度がヲタクを名乗れるか!」▼そう言い張る八坂鷹、十八歳。▼その正体は、『ソード・ワールドRPG完全版』のルールやモンスターデータを記憶している、拗らせまくった重度のTRPGゲーマーだった。▼仲間とのセッションを終えた帰り道、鷹はダンプカーに轢かれて死亡。死後の世界で出会ったのは、フォーセリアの創造神を名乗る謎のハムスターだった。▼知…


総合評価:1690/評価:8.08/連載:74話/更新日時:2026年09月25日(金) 12:32 小説情報

超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい(作者:正樹)(原作:ガンダム)

夢の中で『何か』と駄弁っていたら、夢で喋ってた厨設定盛り盛りで幼児転生させられていたので、世話になった人のためにも、せめてジオンにはマシな敗北をしてもらいたいと頑張る話。▼1年戦争編終わりました。▼現在グリプス戦役編です。▼注:主人公の設定について一点、万人には納得しがたい年齢設定がございます。この話を書くにあたっての大前提となっておりますので、読む際にはそ…


総合評価:51382/評価:8.61/連載:80話/更新日時:2026年09月17日(木) 11:00 小説情報

【書籍化】俺の切り札は光らない(作者:雨 唐衣)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 カードゲームが好きだ。▼ 集めて集めてうんざりしたカードの山の中で手に取った一枚に焦がれることもあった。▼ 何度も、何十も、何百回もスリーブが擦り切るまで回した果てに出来たプレイングに自分を褒めたくなったことこともあった。▼ 練り込まれたデッキには色んなものが入っている。▼ 揃えたカード資産の金額、ひらめきと考え抜いたゲームメイク、試行錯誤に費やした時間、…


総合評価:63235/評価:8.91/連載:120話/更新日時:2026年09月24日(木) 23:17 小説情報

普通に人体錬成しちゃった錬金術師(作者:ヤキブタアゴニスト)(原作:鋼の錬金術師)

母を蘇らせようとして、身体を失ったエドワードとアルフォンス。▼そんな二人の前に現れたのは、平然と人体錬成を成功させる国家錬金術師だった。▼「いいかい。真理だなんだがなくても、医学の知識がしっかりあれば人体くらい錬成できるんだよ」▼これは、賢者の石にも禁忌にも大してこだわらず、エルリック兄弟が人体錬成を勉強して家族を取り戻すまでの物語。▼数年前に途中まで書いて…


総合評価:21652/評価:8.68/完結:9話/更新日時:2026年08月28日(金) 16:56 小説情報


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