英国。
航空機試験。
生産調整。
金融。
契約。
軍需企業との折衝。
フランス。
航空機生産。
亡命ポーランド軍支援。
住宅。
人員配置。
輸送。
米国。
農場。
工場。
倉庫。
工作機械。
アイルランド。
農地。
民需工場。
食品加工設備。
以上。
当時、WILKの本社所在地について複数の記録が存在する。
しかし実務上。
その問いには、あまり意味がなかった。
フランス。
工場。
巨大な治具の上に、最初の主翼構造が載せられた。
新造。
Bizon系列。
フランス製部品。
フランス製エンジン。
フランス製計器。
フランス製無線。
フランス製武装。
だが。
構造を見れば。
WILKの人間には分かった。
古いBizonの血が流れている。
作業員が図面を見る。
技術者が治具を見る。
別の工場から部品が届く。
木箱。
金属箱。
包み。
番号。
検査。
記録。
一つ。
また一つ。
飛行機になっていく。
誰かが言った。
「始まったな」
返事はなかった。
全員、手が塞がっていた。
---
元ドイツ軍技術者は。
そこにはいなかった。
英国。
試験場。
彼はBull MkAの試験機の横にいた。
英国人技術者が報告書を持ってくる。
「最高速度」
元ドイツ軍技術者:
「後で」
「上昇率」
「後で」
「では何を」
彼はエンジンナセルの下へ頭を突っ込む。
「昨日の振動」
「測定値は許容範囲です」
「俺は気に入らない」
「数値上は」
「飛んでる時に嫌な音がする」
英国技術者:
「また音ですか」
「音は嘘をつかん」
工具を受け取る。
奥を見る。
「ここ」
英国技術者が覗く。
配管。
支持部。
わずかな擦れ。
相手は黙った。
元ドイツ軍技術者:
「直せる」
英国技術者:
「はい」
元ドイツ軍技術者:
「次」
「風洞です」
「模型は」
「用意してあります」
「予備は」
「二つ」
元ドイツ軍技術者は一度だけ止まった。
「……大国は金があるな」
英国技術者:
「また言ってる」
---
彼の息子は。
父親とは別の場所にいた。
フランス。
航空企業。
机には部品表。
「初期生産分、二十組」
企業側:
「可能です」
「翌月は」
数字が出る。
息子は書く。
「この材料が足りなくなった場合は」
「代替できます」
「公差は」
「少し変わる」
「少しでは困ります」
「では?」
「どこまでなら同一部品として扱えるか決めましょう」
別紙。
図面。
測定。
「こちらで治具を修正します」
企業側:
「WILKで?」
「共同で」
「費用は」
「契約担当へ」
「あなたは?」
「生産です」
「設計では?」
「父です」
「契約は?」
「実業家です」
相手が少し笑った。
「ではあなたは何を決める」
息子も部品表を見ながら答えた。
「作れるかどうかです」
---
その日の午後。
英国企業から電報。
別の部品。
供給量。
息子は返事を書く。
フランス側へ指示。
英国側へ変更通知。
WILK技術陣へ照会。
父親へ一枚だけ。
『変更可能か』
返事。
『可能。重量増加注意』
息子:
「それだけか」
隣の社員:
「いつもです」
「こっちは七社に説明するんだぞ」
社員:
「でも可能なんでしょう?」
息子は紙を見る。
「……可能だから困る」
---
ユダヤ人実業家は。
さらに別の場所にいた。
銀行。
机。
契約。
署名。
英国の資金。
フランスの支払い。
米国の工場取得。
アイルランドの土地交渉。
海運保険。
口座。
為替。
一族から届く報告。
英国担当。
米国担当。
フランス担当。
それぞれ別紙。
全体帳簿はない。
だが。
必要な数字は揃う。
親族の一人が聞いた。
「米国側の工場取得、予定より早く進んでいます」
実業家:
「設備は?」
「一部古いです」
「使える?」
「技術側へ照会済み」
「農地は」
「追加取得候補あり」
「住宅は?」
「元独立運動家側へ情報を送っています」
「アイルランドは」
「工場一件、追加交渉」
実業家は淡々と聞く。
そして。
一つずつ。
人へ返す。
「それはあなたが決めてください」
「これは英国担当へ」
「これは米国」
「それは私ではなく法律担当」
若い親族が少し戸惑う。
「ご自身で確認されないのですか」
「必要なら」
「でも」
実業家は顔を上げる。
「私一人で全部を見る形に戻してどうするんです」
相手は黙る。
「仕事を分けたでしょう」
「はい」
「なら任せます」
---
一方。
元独立運動家の机は。
紙で見えなくなっていた。
「増えた」
社員:
「何がです」
「全部だ」
住宅。
家族。
工場。
学校。
食堂。
診療。
通勤。
配給。
さらに。
フランス国内の失業者。
ポーランドからの避難民。
他国から流れてきた者。
工場へ入りたい者。
工場より農業へ向く者。
技術はないが働ける者。
技術はあるが家族の事情で移動できない者。
元独立運動家:
「工場は人を要求する」
「はい」
「軍も」
「はい」
「英国も」
「はい」
「米国は」
「農業経験者を」
「分かった」
紙をめくる。
「この家族は」
次女:
「フランス残留」
父親が顔を上げる。
娘がいた。
いつの間にか。
当たり前のように。
「理由は」
次女:
「父親が整備工」
「それだけ?」
「母親が縫製経験」
「それだけ?」
「長女が十四歳、次男が九歳」
父親は黙る。
次女:
「近くに学校がある」
「診療所も」
「住宅は四人家族用が空く」
元独立運動家:
「通勤」
「父親はバス」
「母親の仕事場は徒歩」
父親は紙を取る。
確認。
少し考える。
「よし」
次女:
「次」
父親が少しだけ見る。
「慣れてきたな」
「人が多いから」
「そういうものか」
「そういうもの」
妻に似た返しだった。
---
別の家族。
農業経験。
工場勤務経験なし。
子供。
祖母。
次女:
「米国候補」
元独立運動家:
「理由」
「全員で移れるなら」
「本人の希望は」
「聞いてある」
「住宅」
「農場側へ照会中」
「学校」
「実業家一族に確認中」
元独立運動家:
「まだ送るな」
「うん」
「全部揃ってから」
「分かってる」
父親は一度だけ頷いた。
もう。
「帰れ」
とは言わなくなっていた。
---
ポーランド軍将校は。
亡命軍の名簿を前にしていた。
飛行要員。
整備要員。
通信。
輸送。
武装。
地上勤務。
フランス側との編成調整。
部隊を作る。
人を戻す。
だが。
機体がない。
装備が足りない。
指揮系統も整理途中。
それでも。
ポーランド軍将校:
「Taureau初期生産分は」
部下:
「ポーランド側割当を協議中です」
「整備員は」
「旧Bizon経験者を中心に」
「新装備の教育」
「WILKとフランス側から講師を」
「操縦士」
「選定中」
「長男は」
部下が少し笑った。
「またWILKへ行っています」
ポーランド軍将校:
「何しに」
「フランス側の要求を」
「ああ」
少し間。
「使ってるな」
部下:
「かなり」
ポーランド軍将校:
「少尉だからな」
部下:
「階級は関係あります?」
「若い」
「もっと関係ないですよ」
---
その長男。
亡命ポーランド空軍少尉は。
今日も紙を持って歩いていた。
フランス空軍。
WILK技術部。
亡命ポーランド軍。
行って。
戻る。
また行く。
技術者の息子と廊下ですれ違う。
少尉:
「英国から返事来ました?」
「来ました」
「武装架は」
「いける」
「軍側へ持っていきます」
技術者の息子:
「今度は何を要求されてる?」
少尉:
「無線」
「また?」
「今度は配置」
「昨日決めた」
「軍が変えたがってる」
「何で」
「聞いてきます」
技術者の息子:
「お願いします」
少尉は歩き出す。
「私は伝書鳩ではありませんからね」
「知ってる」
「最近、誰も否定しなくなってきた」
---
元白軍将校は。
所在が安定しなかった。
英国。
フランス。
港。
駅。
倉庫。
輸送会社。
役所。
人。
ときどき。
どこにいるか誰も知らない。
ただし。
数日すれば報告が届く。
「車両二台確保」
「輸送経路変更」
「港湾倉庫一件使用可能」
「行き先未定者十二名、住宅側へ送付」
「元整備工三名発見」
「元通信兵一名」
「家族あり」
「次の便へ」
その横には。
最近。
別の字で追記が増えていた。
元白軍将校親族の第三男。
英国軍勤務。
一時的に元白軍将校へ同行。
当初の目的。
監視。
三男:
「今日はどこです」
元白軍将校:
「港」
「何の」
「荷物」
「何を」
「見れば分かる」
「そういう説明をやめてください」
---
港。
荷物を見る。
倉庫を見る。
管理人と話す。
三男は横で聞く。
元白軍将校:
「夜間は」
管理人が答える。
「搬入経路は」
答える。
「警備」
答える。
「予備の車両」
答える。
三男は途中から書き始めた。
元白軍将校:
「何してる」
「記録」
「覚えろ」
「記録もします」
「そうか」
次。
別の倉庫。
その次。
宿。
三男:
「これ、監視ですよね」
元白軍将校:
「誰の」
「あなたの」
「そうだったか」
「父に言われました」
「忘れてた」
「私は忘れてません!」
---
途中。
困っているポーランド人一家。
荷物。
母親。
子供。
老人。
元白軍将校が止まる。
三男:
「……」
元白軍将校:
「何だ」
「拾うんですか」
「行き先を聞くだけだ」
十分後。
車に乗っていた。
三男:
「拾いましたね」
「途中まで」
「拾いました」
「四人だけだ」
「人数の問題じゃない!」
元白軍将校:
「住宅側へ連絡しろ」
三男:
「私が?」
「電話使えるだろ」
「使えますけど」
「使えるな」
三男は目を閉じた。
またその言葉だった。
---
そして。
飛行機が作られ始めた。
フランス。
最初のTaureau。
胴体。
主翼。
エンジン。
配線。
計器。
脚。
装甲。
武装。
別々の企業が作ったものが。
一つの工場へ集まる。
WILKだけでは作っていない。
フランスだけでもない。
ポーランドだけでもない。
英国でも。
Bull MkAの試験結果が、生産図面へ落とされていく。
米国では。
買った工場に人が入る。
止まっていた工作機械が点検される。
農地では。
次の作付け計画。
アイルランドでは。
何を作らせても困らない工場へ改修する話が進む。
一つの場所に。
会社はなかった。
だが。
どこにも。
少しずつ会社があった。
---
ある日。
元白軍将校の親族宅。
親族は使用人から予定を聞いた。
「今日は?」
「若い方々が」
「誰の」
「WILK関係です」
親族は眉を寄せた。
「また政府か」
「いえ」
「企業?」
「違います」
「誰だ」
使用人は名前を並べた。
親族は途中で気づいた。
「……あいつらの子供たちか」
「ご親族もお一人」
「うちの三男か」
「はい」
親族は少し考える。
「何しに」
「顔合わせだそうです」
「誰が決めた」
「元金持ちさんが」
親族:
「最近あいつ、何でもやるな」
---
午後。
茶。
菓子。
五人。
正確には。
全員が同じ立場ではない。
元ドイツ軍技術者の息子。
元独立運動家の次女。
ポーランド軍将校の長男。
元白軍将校親族の第三男。
そして。
ユダヤ人実業家一族の、英国側業務を担当し始めた若い一人。
誰も創業者ではない。
誰も正式な後継者でもない。
そもそも。
一人はWILK社員ですらない。
ポーランド軍将校の長男は軍人だった。
第三男も英国軍に籍がある。
次女に至っては。
つい最近まで、
「手伝っているだけ」
だった。
---
最初。
妙に静かだった。
元金持ちが茶を配る。
「何か話せ」
第三男:
「なぜ私たちを集めたんです」
元金持ち:
「顔くらい知っておいた方がいいと思って」
技術者の息子:
「それだけ?」
「それだけ」
少尉:
「父たちは?」
「仕事」
次女:
「父も?」
「仕事」
実業家一族の若者:
「こちらもです」
元金持ち:
「だから若いのだけ」
少尉が周囲を見る。
「次の五人、ということですか」
即座だった。
技術者の息子:
「違う」
次女:
「違います」
第三男:
「私は親族に監視を頼まれただけです」
実業家一族:
「私は一族の英国担当の一人です」
少尉:
「私も軍人です」
元金持ち:
「全員よく否定するな」
---
茶。
少し静かになる。
最初に口を開いたのは技術者の息子。
「そちらは何を?」
次女:
「住宅」
「父親と同じ?」
「今は手伝い」
少尉:
「具体的には」
「家族をどこへ住ませるか」
第三男:
「それだけ?」
次女が第三男を見る。
「仕事」
「学校」
「病院」
「通勤」
「食事」
「家族構成」
「全部」
第三男:
「……多いですね」
次女:
「多いです」
---
技術者の息子:
「私は生産」
少尉:
「設計ではなく?」
「設計は父」
「では何を」
「会社を回って、部品を出してもらう」
「公差を揃える」
「治具を合わせる」
「材料が足りなければ代用品を探す」
「父が図面を変えたら謝りに行く」
次女:
「最後が一番多そう」
技術者の息子:
「一番多い」
---
少尉:
「私は空軍です」
元金持ち:
「伝書鳩」
「違います」
第三男が少し笑う。
少尉:
「笑わないでください」
「すみません」
「軍の要求をWILKへ」
「WILKの回答を軍へ」
「フランス側との調整」
「機体評価」
「訓練関係」
第三男:
「伝書鳩ですね」
少尉:
「あなたまで!」
---
第三男:
「私は」
少し困る。
「何なんでしょうね」
元金持ち:
「監視役」
「最初は」
「今は?」
第三男は紅茶を見る。
「元白軍将校について回ってます」
技術者の息子:
「何をするんです」
「港へ行く」
「倉庫を見る」
「車を探す」
「人を拾う」
少尉:
「人を拾う?」
「本当に拾うんですよ」
次女:
「こっちに送られてきます」
第三男が次女を見る。
「やっぱり」
「昨日も四人来た」
第三男:
「それです」
少尉:
「何が」
「四人拾いました」
「拾ったのは元白軍将校でしょう」
「私も車に乗せました」
少尉:
「共犯ですね」
第三男:
「やめてください」
---
実業家一族の若者:
「私は英国側」
元金持ち:
「銀行?」
「一部」
「保険」
「契約」
「企業支払い」
「一族内の連絡」
少尉:
「全部知っている?」
「いいえ」
「代表候補?」
「違います」
次女:
「では後継者では」
「ありません」
技術者の息子:
「全員違うと言ってる」
元金持ち:
「面白いな」
五人が見る。
「何が」
元金持ち:
「いや」
少し笑う。
「何でもない」
---
そのうち。
親の愚痴になった。
技術者の息子:
「父が朝に図面を変える」
少尉:
「うちは朝に命令が増えます」
次女:
「父は全部自分でやろうとする」
第三男:
「親族は人を拾う」
実業家一族:
「こちらは一族全員に仕事を振ります」
少尉:
「どこも似てますね」
次女:
「似てる?」
技術者の息子:
「迷惑の種類が違うだけでは」
全員少し考える。
第三男:
「それだ」
---
元金持ちは茶を飲みながら聞いていた。
次女が聞く。
「元金持ちさんは?」
「何が」
「何担当です」
元金持ち:
「会計ではない」
五人:
「会計でしょう」
揃った。
元金持ちは黙った。
「……初対面なのにそこだけ揃うな」
少尉:
「父から聞きました」
技術者の息子:
「父からも」
次女:
「うちも」
実業家一族:
「こちらは本人から」
第三男:
「この家で見てます」
元金持ち:
「包囲された」
---
しばらくして。
仕事の話へ戻った。
技術者の息子:
「Taureauの生産が増えたら、住宅もっと必要になります」
次女:
「人数を先にください」
「まだ決まってない」
「決まってから言われると遅い」
「企業側も確定しない」
「概算でいい」
息子は少し考える。
「分かった」
次女は紙を出す。
書く。
少尉:
「整備員も増える」
次女:
「何人」
「まだ」
次女が見る。
少尉:
「概算を出します」
「お願いします」
第三男:
「港から来る人間も」
次女:
「何人」
第三男:
「……今は分からない」
次女:
「あなたも概算」
「はい」
実業家一族:
「住宅費の予算はこちらへ」
次女:
「では後で」
元金持ちはその様子を見る。
茶会だった。
最初は。
---
十分後。
紙が出た。
二十分後。
地図が出た。
三十分後。
部品生産。
住宅。
軍要員。
輸送。
資金。
話がつながった。
元金持ち:
「おい」
五人:
「何です」
「茶会だぞ」
技術者の息子:
「分かってます」
「紙をしまえ」
次女:
「でも今決めた方が」
「親と同じこと言い始めたぞ」
五人が止まった。
誰も嬉しそうではなかった。
---
その時。
電話が鳴った。
使用人が呼びに来る。
「少尉殿」
少尉:
「私?」
「フランスから」
少尉が立つ。
「すみません」
電話へ。
次。
別の連絡。
技術者の息子へ。
英国企業。
生産数。
立つ。
次女にも。
新しい家族が到着。
実業家一族には銀行から。
第三男には。
元白軍将校から伝言。
『港へ来い』
第三男:
「……」
元金持ち:
「何だ」
「港」
「行くのか」
「行かないと何人増えるか分からないので」
少尉が戻ってくる。
「私はフランスへ」
技術者の息子:
「私は工場」
次女:
「住宅」
実業家一族:
「銀行」
五人とも立った。
茶は。
ほとんど残っていた。
---
玄関。
一人ずつ出ていく。
親族が廊下から見る。
「もう帰るのか」
第三男:
「仕事です」
「お前までWILKみたいなこと言うようになったな」
第三男:
「私は英国軍です」
「知ってる」
「では」
親族:
「気をつけろ」
第三男:
「何に」
親族は少し考えた。
「元白軍将校に」
「それは最初からです」
---
全員が出た。
静かになる。
元金持ちは茶器を片づける。
親族が部屋へ入る。
机には。
五人が残した紙。
生産予定。
住宅概算。
軍要員。
輸送。
資金。
親族:
「茶会だったんじゃないのか」
元金持ち:
「そのつもりでした」
「会議じゃないか」
「途中から」
親族は椅子を見る。
さっきまで。
若い五人が座っていた。
「今度は若いのまでここに集まるようになったか」
元金持ち:
「会社らしくなりましたね」
親族:
「ここは会社じゃない」
即答だった。
電話が鳴った。
使用人:
「WILK宛です」
親族は目を閉じた。
元金持ちは笑う。
「会社じゃないそうです」
親族:
「違う!」
---
その頃。
創業者五人は。
誰一人。
同じ場所にいなかった。
元ドイツ軍技術者は試験機のそばにいた。
ユダヤ人実業家は銀行と契約書の間にいた。
元独立運動家は家族票と住宅地図の前にいた。
ポーランド軍将校は亡命軍の名簿を見ていた。
元白軍将校は港にいた。
五人が同じ机を囲まなくても。
飛行機は作られた。
人は運ばれた。
家が用意された。
金は動いた。
軍は再編された。
そして。
その横には。
父親の図面を量産へ変える者。
生活を一つずつ置いていく者。
軍と会社の間を走る者。
国外の金と契約を分けて持つ者。
現場を歩きながら人と道を覚える者。
まだ誰も。
自分を後継者とは呼ばなかった。
呼ぶ必要もなかった。
会社は。
人が一人いなくても動くように作るものだった。
本社がなくても。
工場を失っても。
国境を越えても。
そして。
創業者がいつかいなくなっても。
動けるように。
WILKは。
もう一度。
会社になっていた。
場所ではなく。
人と。
仕事と。
そのつながりによって。