WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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『一九四〇年初頭・国外生産開始時点におけるWILK主要業務記録』

英国。

航空機試験。

生産調整。

金融。

契約。

軍需企業との折衝。

フランス。

航空機生産。

亡命ポーランド軍支援。

住宅。

人員配置。

輸送。

米国。

農場。

工場。

倉庫。

工作機械。

アイルランド。

農地。

民需工場。

食品加工設備。

以上。

当時、WILKの本社所在地について複数の記録が存在する。

しかし実務上。

その問いには、あまり意味がなかった。


第216話 同じ場所にいなくても

 

 

フランス。

 

工場。

 

巨大な治具の上に、最初の主翼構造が載せられた。

 

新造。

 

Bizon系列。

 

フランス製部品。

 

フランス製エンジン。

 

フランス製計器。

 

フランス製無線。

 

フランス製武装。

 

だが。

 

構造を見れば。

 

WILKの人間には分かった。

 

古いBizonの血が流れている。

 

作業員が図面を見る。

 

技術者が治具を見る。

 

別の工場から部品が届く。

 

木箱。

 

金属箱。

 

包み。

 

番号。

 

検査。

 

記録。

 

一つ。

 

また一つ。

 

飛行機になっていく。

 

誰かが言った。

 

「始まったな」

 

返事はなかった。

 

全員、手が塞がっていた。

 

---

 

元ドイツ軍技術者は。

 

そこにはいなかった。

 

英国。

 

試験場。

 

彼はBull MkAの試験機の横にいた。

 

英国人技術者が報告書を持ってくる。

 

「最高速度」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「後で」

 

「上昇率」

 

「後で」

 

「では何を」

 

彼はエンジンナセルの下へ頭を突っ込む。

 

「昨日の振動」

 

「測定値は許容範囲です」

 

「俺は気に入らない」

 

「数値上は」

 

「飛んでる時に嫌な音がする」

 

英国技術者:

 

「また音ですか」

 

「音は嘘をつかん」

 

工具を受け取る。

 

奥を見る。

 

「ここ」

 

英国技術者が覗く。

 

配管。

 

支持部。

 

わずかな擦れ。

 

相手は黙った。

 

元ドイツ軍技術者:

 

「直せる」

 

英国技術者:

 

「はい」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「次」

 

「風洞です」

 

「模型は」

 

「用意してあります」

 

「予備は」

 

「二つ」

 

元ドイツ軍技術者は一度だけ止まった。

 

「……大国は金があるな」

 

英国技術者:

 

「また言ってる」

 

---

 

彼の息子は。

 

父親とは別の場所にいた。

 

フランス。

 

航空企業。

 

机には部品表。

 

「初期生産分、二十組」

 

企業側:

 

「可能です」

 

「翌月は」

 

数字が出る。

 

息子は書く。

 

「この材料が足りなくなった場合は」

 

「代替できます」

 

「公差は」

 

「少し変わる」

 

「少しでは困ります」

 

「では?」

 

「どこまでなら同一部品として扱えるか決めましょう」

 

別紙。

 

図面。

 

測定。

 

「こちらで治具を修正します」

 

企業側:

 

「WILKで?」

 

「共同で」

 

「費用は」

 

「契約担当へ」

 

「あなたは?」

 

「生産です」

 

「設計では?」

 

「父です」

 

「契約は?」

 

「実業家です」

 

相手が少し笑った。

 

「ではあなたは何を決める」

 

息子も部品表を見ながら答えた。

 

「作れるかどうかです」

 

---

 

その日の午後。

 

英国企業から電報。

 

別の部品。

 

供給量。

 

息子は返事を書く。

 

フランス側へ指示。

 

英国側へ変更通知。

 

WILK技術陣へ照会。

 

父親へ一枚だけ。

 

『変更可能か』

 

返事。

 

『可能。重量増加注意』

 

息子:

 

「それだけか」

 

隣の社員:

 

「いつもです」

 

「こっちは七社に説明するんだぞ」

 

社員:

 

「でも可能なんでしょう?」

 

息子は紙を見る。

 

「……可能だから困る」

 

---

 

ユダヤ人実業家は。

 

さらに別の場所にいた。

 

銀行。

 

机。

 

契約。

 

署名。

 

英国の資金。

 

フランスの支払い。

 

米国の工場取得。

 

アイルランドの土地交渉。

 

海運保険。

 

口座。

 

為替。

 

一族から届く報告。

 

英国担当。

 

米国担当。

 

フランス担当。

 

それぞれ別紙。

 

全体帳簿はない。

 

だが。

 

必要な数字は揃う。

 

親族の一人が聞いた。

 

「米国側の工場取得、予定より早く進んでいます」

 

実業家:

 

「設備は?」

 

「一部古いです」

 

「使える?」

 

「技術側へ照会済み」

 

「農地は」

 

「追加取得候補あり」

 

「住宅は?」

 

「元独立運動家側へ情報を送っています」

 

「アイルランドは」

 

「工場一件、追加交渉」

 

実業家は淡々と聞く。

 

そして。

 

一つずつ。

 

人へ返す。

 

「それはあなたが決めてください」

 

「これは英国担当へ」

 

「これは米国」

 

「それは私ではなく法律担当」

 

若い親族が少し戸惑う。

 

「ご自身で確認されないのですか」

 

「必要なら」

 

「でも」

 

実業家は顔を上げる。

 

「私一人で全部を見る形に戻してどうするんです」

 

相手は黙る。

 

「仕事を分けたでしょう」

 

「はい」

 

「なら任せます」

 

---

 

一方。

 

元独立運動家の机は。

 

紙で見えなくなっていた。

 

「増えた」

 

社員:

 

「何がです」

 

「全部だ」

 

住宅。

 

家族。

 

工場。

 

学校。

 

食堂。

 

診療。

 

通勤。

 

配給。

 

さらに。

 

フランス国内の失業者。

 

ポーランドからの避難民。

 

他国から流れてきた者。

 

工場へ入りたい者。

 

工場より農業へ向く者。

 

技術はないが働ける者。

 

技術はあるが家族の事情で移動できない者。

 

元独立運動家:

 

「工場は人を要求する」

 

「はい」

 

「軍も」

 

「はい」

 

「英国も」

 

「はい」

 

「米国は」

 

「農業経験者を」

 

「分かった」

 

紙をめくる。

 

「この家族は」

 

次女:

 

「フランス残留」

 

父親が顔を上げる。

 

娘がいた。

 

いつの間にか。

 

当たり前のように。

 

「理由は」

 

次女:

 

「父親が整備工」

 

「それだけ?」

 

「母親が縫製経験」

 

「それだけ?」

 

「長女が十四歳、次男が九歳」

 

父親は黙る。

 

次女:

 

「近くに学校がある」

 

「診療所も」

 

「住宅は四人家族用が空く」

 

元独立運動家:

 

「通勤」

 

「父親はバス」

 

「母親の仕事場は徒歩」

 

父親は紙を取る。

 

確認。

 

少し考える。

 

「よし」

 

次女:

 

「次」

 

父親が少しだけ見る。

 

「慣れてきたな」

 

「人が多いから」

 

「そういうものか」

 

「そういうもの」

 

妻に似た返しだった。

 

---

 

別の家族。

 

農業経験。

 

工場勤務経験なし。

 

子供。

 

祖母。

 

次女:

 

「米国候補」

 

元独立運動家:

 

「理由」

 

「全員で移れるなら」

 

「本人の希望は」

 

「聞いてある」

 

「住宅」

 

「農場側へ照会中」

 

「学校」

 

「実業家一族に確認中」

 

元独立運動家:

 

「まだ送るな」

 

「うん」

 

「全部揃ってから」

 

「分かってる」

 

父親は一度だけ頷いた。

 

もう。

 

「帰れ」

 

とは言わなくなっていた。

 

---

 

ポーランド軍将校は。

 

亡命軍の名簿を前にしていた。

 

飛行要員。

 

整備要員。

 

通信。

 

輸送。

 

武装。

 

地上勤務。

 

フランス側との編成調整。

 

部隊を作る。

 

人を戻す。

 

だが。

 

機体がない。

 

装備が足りない。

 

指揮系統も整理途中。

 

それでも。

 

ポーランド軍将校:

 

「Taureau初期生産分は」

 

部下:

 

「ポーランド側割当を協議中です」

 

「整備員は」

 

「旧Bizon経験者を中心に」

 

「新装備の教育」

 

「WILKとフランス側から講師を」

 

「操縦士」

 

「選定中」

 

「長男は」

 

部下が少し笑った。

 

「またWILKへ行っています」

 

ポーランド軍将校:

 

「何しに」

 

「フランス側の要求を」

 

「ああ」

 

少し間。

 

「使ってるな」

 

部下:

 

「かなり」

 

ポーランド軍将校:

 

「少尉だからな」

 

部下:

 

「階級は関係あります?」

 

「若い」

 

「もっと関係ないですよ」

 

---

 

その長男。

 

亡命ポーランド空軍少尉は。

 

今日も紙を持って歩いていた。

 

フランス空軍。

 

WILK技術部。

 

亡命ポーランド軍。

 

行って。

 

戻る。

 

また行く。

 

技術者の息子と廊下ですれ違う。

 

少尉:

 

「英国から返事来ました?」

 

「来ました」

 

「武装架は」

 

「いける」

 

「軍側へ持っていきます」

 

技術者の息子:

 

「今度は何を要求されてる?」

 

少尉:

 

「無線」

 

「また?」

 

「今度は配置」

 

「昨日決めた」

 

「軍が変えたがってる」

 

「何で」

 

「聞いてきます」

 

技術者の息子:

 

「お願いします」

 

少尉は歩き出す。

 

「私は伝書鳩ではありませんからね」

 

「知ってる」

 

「最近、誰も否定しなくなってきた」

 

---

 

元白軍将校は。

 

所在が安定しなかった。

 

英国。

 

フランス。

 

港。

 

駅。

 

倉庫。

 

輸送会社。

 

役所。

 

人。

 

ときどき。

 

どこにいるか誰も知らない。

 

ただし。

 

数日すれば報告が届く。

 

「車両二台確保」

 

「輸送経路変更」

 

「港湾倉庫一件使用可能」

 

「行き先未定者十二名、住宅側へ送付」

 

「元整備工三名発見」

 

「元通信兵一名」

 

「家族あり」

 

「次の便へ」

 

その横には。

 

最近。

 

別の字で追記が増えていた。

 

元白軍将校親族の第三男。

 

英国軍勤務。

 

一時的に元白軍将校へ同行。

 

当初の目的。

 

監視。

 

三男:

 

「今日はどこです」

 

元白軍将校:

 

「港」

 

「何の」

 

「荷物」

 

「何を」

 

「見れば分かる」

 

「そういう説明をやめてください」

 

---

 

港。

 

荷物を見る。

 

倉庫を見る。

 

管理人と話す。

 

三男は横で聞く。

 

元白軍将校:

 

「夜間は」

 

管理人が答える。

 

「搬入経路は」

 

答える。

 

「警備」

 

答える。

 

「予備の車両」

 

答える。

 

三男は途中から書き始めた。

 

元白軍将校:

 

「何してる」

 

「記録」

 

「覚えろ」

 

「記録もします」

 

「そうか」

 

次。

 

別の倉庫。

 

その次。

 

宿。

 

三男:

 

「これ、監視ですよね」

 

元白軍将校:

 

「誰の」

 

「あなたの」

 

「そうだったか」

 

「父に言われました」

 

「忘れてた」

 

「私は忘れてません!」

 

---

 

途中。

 

困っているポーランド人一家。

 

荷物。

 

母親。

 

子供。

 

老人。

 

元白軍将校が止まる。

 

三男:

 

「……」

 

元白軍将校:

 

「何だ」

 

「拾うんですか」

 

「行き先を聞くだけだ」

 

十分後。

 

車に乗っていた。

 

三男:

 

「拾いましたね」

 

「途中まで」

 

「拾いました」

 

「四人だけだ」

 

「人数の問題じゃない!」

 

元白軍将校:

 

「住宅側へ連絡しろ」

 

三男:

 

「私が?」

 

「電話使えるだろ」

 

「使えますけど」

 

「使えるな」

 

三男は目を閉じた。

 

またその言葉だった。

 

---

 

そして。

 

飛行機が作られ始めた。

 

フランス。

 

最初のTaureau。

 

胴体。

 

主翼。

 

エンジン。

 

配線。

 

計器。

 

脚。

 

装甲。

 

武装。

 

別々の企業が作ったものが。

 

一つの工場へ集まる。

 

WILKだけでは作っていない。

 

フランスだけでもない。

 

ポーランドだけでもない。

 

英国でも。

 

Bull MkAの試験結果が、生産図面へ落とされていく。

 

米国では。

 

買った工場に人が入る。

 

止まっていた工作機械が点検される。

 

農地では。

 

次の作付け計画。

 

アイルランドでは。

 

何を作らせても困らない工場へ改修する話が進む。

 

一つの場所に。

 

会社はなかった。

 

だが。

 

どこにも。

 

少しずつ会社があった。

 

---

 

ある日。

 

元白軍将校の親族宅。

 

親族は使用人から予定を聞いた。

 

「今日は?」

 

「若い方々が」

 

「誰の」

 

「WILK関係です」

 

親族は眉を寄せた。

 

「また政府か」

 

「いえ」

 

「企業?」

 

「違います」

 

「誰だ」

 

使用人は名前を並べた。

 

親族は途中で気づいた。

 

「……あいつらの子供たちか」

 

「ご親族もお一人」

 

「うちの三男か」

 

「はい」

 

親族は少し考える。

 

「何しに」

 

「顔合わせだそうです」

 

「誰が決めた」

 

「元金持ちさんが」

 

親族:

 

「最近あいつ、何でもやるな」

 

---

 

午後。

 

茶。

 

菓子。

 

五人。

 

正確には。

 

全員が同じ立場ではない。

 

元ドイツ軍技術者の息子。

 

元独立運動家の次女。

 

ポーランド軍将校の長男。

 

元白軍将校親族の第三男。

 

そして。

 

ユダヤ人実業家一族の、英国側業務を担当し始めた若い一人。

 

誰も創業者ではない。

 

誰も正式な後継者でもない。

 

そもそも。

 

一人はWILK社員ですらない。

 

ポーランド軍将校の長男は軍人だった。

 

第三男も英国軍に籍がある。

 

次女に至っては。

 

つい最近まで、

 

「手伝っているだけ」

 

だった。

 

---

 

最初。

 

妙に静かだった。

 

元金持ちが茶を配る。

 

「何か話せ」

 

第三男:

 

「なぜ私たちを集めたんです」

 

元金持ち:

 

「顔くらい知っておいた方がいいと思って」

 

技術者の息子:

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

少尉:

 

「父たちは?」

 

「仕事」

 

次女:

 

「父も?」

 

「仕事」

 

実業家一族の若者:

 

「こちらもです」

 

元金持ち:

 

「だから若いのだけ」

 

少尉が周囲を見る。

 

「次の五人、ということですか」

 

即座だった。

 

技術者の息子:

 

「違う」

 

次女:

 

「違います」

 

第三男:

 

「私は親族に監視を頼まれただけです」

 

実業家一族:

 

「私は一族の英国担当の一人です」

 

少尉:

 

「私も軍人です」

 

元金持ち:

 

「全員よく否定するな」

 

---

 

茶。

 

少し静かになる。

 

最初に口を開いたのは技術者の息子。

 

「そちらは何を?」

 

次女:

 

「住宅」

 

「父親と同じ?」

 

「今は手伝い」

 

少尉:

 

「具体的には」

 

「家族をどこへ住ませるか」

 

第三男:

 

「それだけ?」

 

次女が第三男を見る。

 

「仕事」

 

「学校」

 

「病院」

 

「通勤」

 

「食事」

 

「家族構成」

 

「全部」

 

第三男:

 

「……多いですね」

 

次女:

 

「多いです」

 

---

 

技術者の息子:

 

「私は生産」

 

少尉:

 

「設計ではなく?」

 

「設計は父」

 

「では何を」

 

「会社を回って、部品を出してもらう」

 

「公差を揃える」

 

「治具を合わせる」

 

「材料が足りなければ代用品を探す」

 

「父が図面を変えたら謝りに行く」

 

次女:

 

「最後が一番多そう」

 

技術者の息子:

 

「一番多い」

 

---

 

少尉:

 

「私は空軍です」

 

元金持ち:

 

「伝書鳩」

 

「違います」

 

第三男が少し笑う。

 

少尉:

 

「笑わないでください」

 

「すみません」

 

「軍の要求をWILKへ」

 

「WILKの回答を軍へ」

 

「フランス側との調整」

 

「機体評価」

 

「訓練関係」

 

第三男:

 

「伝書鳩ですね」

 

少尉:

 

「あなたまで!」

 

---

 

第三男:

 

「私は」

 

少し困る。

 

「何なんでしょうね」

 

元金持ち:

 

「監視役」

 

「最初は」

 

「今は?」

 

第三男は紅茶を見る。

 

「元白軍将校について回ってます」

 

技術者の息子:

 

「何をするんです」

 

「港へ行く」

 

「倉庫を見る」

 

「車を探す」

 

「人を拾う」

 

少尉:

 

「人を拾う?」

 

「本当に拾うんですよ」

 

次女:

 

「こっちに送られてきます」

 

第三男が次女を見る。

 

「やっぱり」

 

「昨日も四人来た」

 

第三男:

 

「それです」

 

少尉:

 

「何が」

 

「四人拾いました」

 

「拾ったのは元白軍将校でしょう」

 

「私も車に乗せました」

 

少尉:

 

「共犯ですね」

 

第三男:

 

「やめてください」

 

---

 

実業家一族の若者:

 

「私は英国側」

 

元金持ち:

 

「銀行?」

 

「一部」

 

「保険」

 

「契約」

 

「企業支払い」

 

「一族内の連絡」

 

少尉:

 

「全部知っている?」

 

「いいえ」

 

「代表候補?」

 

「違います」

 

次女:

 

「では後継者では」

 

「ありません」

 

技術者の息子:

 

「全員違うと言ってる」

 

元金持ち:

 

「面白いな」

 

五人が見る。

 

「何が」

 

元金持ち:

 

「いや」

 

少し笑う。

 

「何でもない」

 

---

 

そのうち。

 

親の愚痴になった。

 

技術者の息子:

 

「父が朝に図面を変える」

 

少尉:

 

「うちは朝に命令が増えます」

 

次女:

 

「父は全部自分でやろうとする」

 

第三男:

 

「親族は人を拾う」

 

実業家一族:

 

「こちらは一族全員に仕事を振ります」

 

少尉:

 

「どこも似てますね」

 

次女:

 

「似てる?」

 

技術者の息子:

 

「迷惑の種類が違うだけでは」

 

全員少し考える。

 

第三男:

 

「それだ」

 

---

 

元金持ちは茶を飲みながら聞いていた。

 

次女が聞く。

 

「元金持ちさんは?」

 

「何が」

 

「何担当です」

 

元金持ち:

 

「会計ではない」

 

五人:

 

「会計でしょう」

 

揃った。

 

元金持ちは黙った。

 

「……初対面なのにそこだけ揃うな」

 

少尉:

 

「父から聞きました」

 

技術者の息子:

 

「父からも」

 

次女:

 

「うちも」

 

実業家一族:

 

「こちらは本人から」

 

第三男:

 

「この家で見てます」

 

元金持ち:

 

「包囲された」

 

---

 

しばらくして。

 

仕事の話へ戻った。

 

技術者の息子:

 

「Taureauの生産が増えたら、住宅もっと必要になります」

 

次女:

 

「人数を先にください」

 

「まだ決まってない」

 

「決まってから言われると遅い」

 

「企業側も確定しない」

 

「概算でいい」

 

息子は少し考える。

 

「分かった」

 

次女は紙を出す。

 

書く。

 

少尉:

 

「整備員も増える」

 

次女:

 

「何人」

 

「まだ」

 

次女が見る。

 

少尉:

 

「概算を出します」

 

「お願いします」

 

第三男:

 

「港から来る人間も」

 

次女:

 

「何人」

 

第三男:

 

「……今は分からない」

 

次女:

 

「あなたも概算」

 

「はい」

 

実業家一族:

 

「住宅費の予算はこちらへ」

 

次女:

 

「では後で」

 

元金持ちはその様子を見る。

 

茶会だった。

 

最初は。

 

---

 

十分後。

 

紙が出た。

 

二十分後。

 

地図が出た。

 

三十分後。

 

部品生産。

 

住宅。

 

軍要員。

 

輸送。

 

資金。

 

話がつながった。

 

元金持ち:

 

「おい」

 

五人:

 

「何です」

 

「茶会だぞ」

 

技術者の息子:

 

「分かってます」

 

「紙をしまえ」

 

次女:

 

「でも今決めた方が」

 

「親と同じこと言い始めたぞ」

 

五人が止まった。

 

誰も嬉しそうではなかった。

 

---

 

その時。

 

電話が鳴った。

 

使用人が呼びに来る。

 

「少尉殿」

 

少尉:

 

「私?」

 

「フランスから」

 

少尉が立つ。

 

「すみません」

 

電話へ。

 

次。

 

別の連絡。

 

技術者の息子へ。

 

英国企業。

 

生産数。

 

立つ。

 

次女にも。

 

新しい家族が到着。

 

実業家一族には銀行から。

 

第三男には。

 

元白軍将校から伝言。

 

『港へ来い』

 

第三男:

 

「……」

 

元金持ち:

 

「何だ」

 

「港」

 

「行くのか」

 

「行かないと何人増えるか分からないので」

 

少尉が戻ってくる。

 

「私はフランスへ」

 

技術者の息子:

 

「私は工場」

 

次女:

 

「住宅」

 

実業家一族:

 

「銀行」

 

五人とも立った。

 

茶は。

 

ほとんど残っていた。

 

---

 

玄関。

 

一人ずつ出ていく。

 

親族が廊下から見る。

 

「もう帰るのか」

 

第三男:

 

「仕事です」

 

「お前までWILKみたいなこと言うようになったな」

 

第三男:

 

「私は英国軍です」

 

「知ってる」

 

「では」

 

親族:

 

「気をつけろ」

 

第三男:

 

「何に」

 

親族は少し考えた。

 

「元白軍将校に」

 

「それは最初からです」

 

---

 

全員が出た。

 

静かになる。

 

元金持ちは茶器を片づける。

 

親族が部屋へ入る。

 

机には。

 

五人が残した紙。

 

生産予定。

 

住宅概算。

 

軍要員。

 

輸送。

 

資金。

 

親族:

 

「茶会だったんじゃないのか」

 

元金持ち:

 

「そのつもりでした」

 

「会議じゃないか」

 

「途中から」

 

親族は椅子を見る。

 

さっきまで。

 

若い五人が座っていた。

 

「今度は若いのまでここに集まるようになったか」

 

元金持ち:

 

「会社らしくなりましたね」

 

親族:

 

「ここは会社じゃない」

 

即答だった。

 

電話が鳴った。

 

使用人:

 

「WILK宛です」

 

親族は目を閉じた。

 

元金持ちは笑う。

 

「会社じゃないそうです」

 

親族:

 

「違う!」

 

---

 

その頃。

 

創業者五人は。

 

誰一人。

 

同じ場所にいなかった。

 

元ドイツ軍技術者は試験機のそばにいた。

 

ユダヤ人実業家は銀行と契約書の間にいた。

 

元独立運動家は家族票と住宅地図の前にいた。

 

ポーランド軍将校は亡命軍の名簿を見ていた。

 

元白軍将校は港にいた。

 

五人が同じ机を囲まなくても。

 

飛行機は作られた。

 

人は運ばれた。

 

家が用意された。

 

金は動いた。

 

軍は再編された。

 

そして。

 

その横には。

 

父親の図面を量産へ変える者。

 

生活を一つずつ置いていく者。

 

軍と会社の間を走る者。

 

国外の金と契約を分けて持つ者。

 

現場を歩きながら人と道を覚える者。

 

まだ誰も。

 

自分を後継者とは呼ばなかった。

 

呼ぶ必要もなかった。

 

会社は。

 

人が一人いなくても動くように作るものだった。

 

本社がなくても。

 

工場を失っても。

 

国境を越えても。

 

そして。

 

創業者がいつかいなくなっても。

 

動けるように。

 

WILKは。

 

もう一度。

 

会社になっていた。

 

場所ではなく。

 

人と。

 

仕事と。

 

そのつながりによって。

 

 

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