WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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『一九四〇年初頭・Taureau試験評価会議抜粋』

当初目的。

亡命ポーランド航空部隊向け現地生産機。

試験結果。

飛行可能。

既存フランス製発動機搭載可能。

既存フランス製無線機搭載可能。

既存フランス製計器類使用可能。

既存フランス製武装搭載可能。

既存フランス規格爆弾搭載可能。

国内企業による主要部品供給可能。

問題。

フランス空軍からも要求あり。

備考。

「ポーランド向けの予定だった」

との発言に対し、

「分かっている」

「それでも必要だ」

との回答あり。


第218話 フランスにも寄越せ

 

翌朝。

 

試験場。

 

Taureauはまた飛んでいた。

 

昨日より。

 

見ている人間が増えていた。

 

フランス空軍。

 

陸軍協同部隊。

 

航空省。

 

航空企業。

 

武装担当。

 

発動機担当。

 

そして。

 

現場の部隊から直接来た人間もいた。

 

元ドイツ軍技術者は。

 

格納庫の前で腕を組む。

 

「増えたな」

 

息子:

 

「評判が回りました」

 

ユダヤ人実業家:

 

「いいことです」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「試験機だぞ」

 

実業家:

 

「だから皆さん見に来たんでしょう」

 

「見世物じゃない」

 

「今日は半分そうです」

 

息子が言った。

 

父親が見る。

 

「お前まで言うか」

 

「もう諦めました」

 

---

 

最初に飛ぶフランス空軍操縦士は。

 

昨日とは別の男だった。

 

機体の周りを一周。

 

機首。

 

翼。

 

脚。

 

エンジン。

 

防弾板。

 

武装架。

 

爆弾架。

 

後方席。

 

じっと見る。

 

旧Bizon乗りが聞く。

 

「どうした」

 

フランス人操縦士:

 

「見ている」

 

「何を」

 

「普通に使えるかどうか」

 

旧乗り:

 

「普通?」

 

「うちには普通に使える機体が足りない」

 

元ドイツ軍技術者が少しだけ顔を向けた。

 

---

 

フランス人操縦士は続けた。

 

「速い機体はある」

 

「新しい機体もある」

 

「良い機体もある」

 

旧乗り:

 

「ならいいじゃないか」

 

フランス人は首を振った。

 

「足りない」

 

一言。

 

それだけだった。

 

「新しい機体が、一つの部隊には来る」

 

「隣には来ない」

 

「改修済みの機体が来る」

 

「その次には古い仕様が来る」

 

「予備機は旧式」

 

「部品が違う」

 

「無線が違う」

 

「武装が違う」

 

少し機体を叩く。

 

「だから聞いている」

 

「これは普通に使えるか」

 

旧Bizon乗りは答える。

 

「飛ぶ」

 

「撃てる」

 

「爆弾も積める」

 

「被弾しても帰ってくる可能性は高い」

 

フランス人:

 

「それで十分だ」

 

---

 

搭乗。

 

エンジン始動。

 

滑走。

 

離陸。

 

上昇。

 

低空飛行。

 

速度変化。

 

模擬攻撃。

 

機銃照準。

 

急な姿勢変更。

 

片発。

 

再加速。

 

着陸。

 

戻ってきた操縦士は。

 

降りるなり言った。

 

「速くはない」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「知ってる」

 

「重い」

 

「知ってる」

 

「戦闘機には勝てない」

 

「戦わせるな」

 

「でも」

 

フランス人は機体を見る。

 

「使える」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「何に」

 

「今必要なこと全部に」

 

---

 

近くにいたフランス陸軍協同部隊の将校が口を挟む。

 

「全部とは」

 

操縦士:

 

「偵察の護衛」

 

「車列攻撃」

 

「砲兵陣地」

 

「燃料」

 

「通信」

 

「小規模爆撃」

 

「地上部隊支援」

 

少し考えて。

 

「少なくとも、何もできないよりはいい」

 

将校:

 

「評価が低いな」

 

操縦士:

 

「逆です」

 

「今はそれが高い評価です」

 

---

 

二人目。

 

三人目。

 

また飛ぶ。

 

試験場は。

 

完全に見学会になっていた。

 

航空企業の人間が自社部品を探す。

 

「この計器はうちだ」

 

「発動機はこっち」

 

「車輪はうちの系列」

 

「無線もある」

 

元金持ちが横から見る。

 

「皆、自分の会社を探してますね」

 

ユダヤ人実業家:

 

「大事ですよ」

 

「何が」

 

「自分にも利益があると分かれば、協力は早い」

 

元金持ち:

 

「人間らしい」

 

実業家:

 

「会社らしい、です」

 

---

 

一方。

 

現場のフランス人たちは。

 

別のものを見ていた。

 

整備口。

 

部品交換。

 

脚。

 

発動機ナセル。

 

武装交換。

 

爆弾架。

 

ある整備下士官が聞く。

 

「このパネル、外すのに何分」

 

WILK整備員:

 

「慣れれば」

 

数字。

 

相手が眉を上げる。

 

「本当に?」

 

「やってみます?」

 

「頼む」

 

その場で。

 

外す。

 

中を見る。

 

フランス人整備員が手を入れる。

 

「奥まで見える」

 

「そういう設計です」

 

「なぜ」

 

「現場で直すから」

 

フランス人は少し笑う。

 

「うちにも必要だ」

 

---

 

別の整備員。

 

「このエンジン、専用品じゃないんだな」

 

「違います」

 

「計器も」

 

「フランス製」

 

「無線も」

 

「はい」

 

「車輪も」

 

「はい」

 

整備員は。

 

しばらく何も言わなかった。

 

そして。

 

「助かる」

 

それだけ言った。

 

WILK側の整備員が聞く。

 

「そんなに?」

 

相手は笑わなかった。

 

「部隊に違う機体が増えるたびに、必要な物も増える」

 

「予備部品」

 

「工具」

 

「説明書」

 

「癖」

 

「全部だ」

 

「だから」

 

機体を見る。

 

「知ってる物が入ってるだけで助かる」

 

---

 

午後。

 

武装試験。

 

20ミリ。

 

7.5ミリ。

 

爆弾架。

 

フランス規格爆弾。

 

元ドイツ軍技術者:

 

「最大搭載量だけ見るな」

 

フランス軍人:

 

「何キロ積める」

 

「かなり」

 

「では最大は」

 

「やめろ」

 

「なぜ」

 

「飛ばなくなる」

 

「飛行機なのに?」

 

「飛行機だからだ」

 

旧Bizon乗りが笑う。

 

「昔からです」

 

フランス軍人:

 

「どれくらいが実用的だ」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「任務による」

 

「車列攻撃」

 

「軽い爆弾を複数」

 

「倉庫」

 

「もう少し重く」

 

「橋」

 

「もっと重く」

 

「最大搭載は」

 

「書くだけなら書ける」

 

「使うな?」

 

「常用するな」

 

---

 

陸軍側将校が。

 

爆弾架を見る。

 

「これなら襲撃機として使える」

 

別の将校:

 

「Bréguetがある」

 

少し空気が変わった。

 

誰も否定しない。

 

Bréguetは良い。

 

速い。

 

新しい。

 

襲撃機として洗練されている。

 

だからこそ。

 

現場の一人が言った。

 

「何機ある」

 

沈黙。

 

「全部隊へ足りるか」

 

誰も答えない。

 

別の人間が口を開く。

 

「足りない」

 

---

 

さらに。

 

「新型戦闘機もある」

 

「足りない」

 

「新しい爆撃機もある」

 

「足りない」

 

「偵察機は」

 

「ある」

 

「十分か」

 

「任務による」

 

最後に。

 

一人が言った。

 

「我々には、優秀な機体がないわけじゃない」

 

少し間。

 

「必要な場所へ、必要な数がない」

 

それが。

 

現場側の不満だった。

 

---

 

旧Bizon乗りがTaureauを見る。

 

「こいつも数はないぞ」

 

フランス人:

 

「だから増やす」

 

「簡単に言うな」

 

「簡単じゃない」

 

「なら」

 

「それでも増やす」

 

少し強い声だった。

 

「性能表を眺めている暇はない」

 

「春になったら戦争は待ってくれない」

 

元白軍将校はいなかった。

 

だが。

 

もし聞いていたら。

 

たぶん。

 

同じことを言った。

 

---

 

午後の評価会議。

 

昨日より椅子が増えた。

 

軍。

 

政府。

 

企業。

 

亡命ポーランド側。

 

WILK。

 

元金持ちは。

 

紙を広げた。

 

昨日まで議題は。

 

「Taureauは使えるか」

 

だった。

 

今日は違う。

 

「何機作れるか」

 

になっていた。

 

---

 

航空省関係者:

 

「試験結果」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「まだ初期」

 

「飛行に重大な問題は」

 

「ない」

 

「武装」

 

「調整中」

 

「爆装」

 

「可能」

 

「片発」

 

「良好」

 

「整備」

 

「想定通り」

 

「国内部品」

 

息子:

 

「大部分使用可能」

 

「専用品は」

 

一覧。

 

少ない。

 

相手は紙を見る。

 

---

 

フランス空軍側将校:

 

「ポーランド向けは何機」

 

数字。

 

「その後は」

 

ポーランド側:

 

「追加を希望しています」

 

「分かっている」

 

フランス側将校が言う。

 

「我々も欲しい」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「昨日も聞いた」

 

「今日も言う」

 

「まだ試験中だ」

 

「だから試験しながら作れ」

 

「乱暴だな」

 

「現場はもっと乱暴だ」

 

---

 

別のフランス人将校が。

 

少し疲れた声で言った。

 

「我々には機体がある」

 

「ただし」

 

「古いものも多い」

 

「新しいものは来る」

 

「ただし足りない」

 

「良い機体はある」

 

「ただし全員には渡らない」

 

机を指で叩く。

 

「だから聞いている」

 

「Taureauは」

 

「最高の機体か?」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「違う」

 

「速いか」

 

「そこまで」

 

「爆弾を一番積めるか」

 

「違う」

 

「戦闘機に勝てるか」

 

「無理だ」

 

フランス将校:

 

「では」

 

少し笑った。

 

「今、作れるか」

 

息子:

 

「作れます」

 

「フランスの部品で」

 

「大部分」

 

「フランスの弾薬で」

 

「はい」

 

「フランスの爆弾で」

 

「はい」

 

「フランスの整備員が」

 

「教育すれば」

 

「なら」

 

一度。

 

部屋を見回す。

 

「寄越せ」

 

---

 

元ドイツ軍技術者:

 

「簡単に言うな」

 

「簡単だから言っているんじゃない」

 

フランス将校は。

 

真顔だった。

 

「他に待てるなら待つ」

 

「より速い機体を」

 

「より軽い機体を」

 

「より優秀な機体を」

 

「でも」

 

机の資料を叩く。

 

「我々が欲しいのは」

 

「来年の完璧な機体じゃない」

 

「今年飛ぶ機体だ」

 

部屋が静かになった。

 

---

 

ユダヤ人実業家が口を開く。

 

「では」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「何だ」

 

「商談を」

 

「やっぱりそうなるのか」

 

「当然です」

 

「何機」

 

フランス側が数字を出す。

 

元ドイツ軍技術者:

 

「多い」

 

「必要だからだ」

 

「発動機が足りない」

 

別の担当:

 

「調整する」

 

「武装は」

 

「割当を増やす」

 

「計器」

 

「企業側と協議」

 

息子が次々書く。

 

元ドイツ軍技術者は。

 

頭を抱えた。

 

「昨日まで一機だったんだぞ」

 

息子:

 

「今日から増やすんでしょう」

 

---

 

企業側も。

 

話に入る。

 

「うちの発動機を追加で出せる」

 

「この部品なら別工場へ回せる」

 

「板金は空きがある」

 

「車輪は増やせる」

 

「無線は優先順位次第」

 

ユダヤ人実業家:

 

「では皆さんに儲けてもらいましょう」

 

元金持ち:

 

「随分素直ですね」

 

「儲かる話は素直にするべきです」

 

企業側が笑う。

 

---

 

ポーランド側将校が聞く。

 

「こちらの分は減りませんね」

 

実業家:

 

「減らしません」

 

「では」

 

「生産を増やす」

 

「その分」

 

「フランス企業にも注文が増える」

 

フランス企業側:

 

「異論なし」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「お前ら急に仲がいいな」

 

実業家:

 

「共通の利益がありますから」

 

---

 

書類上。

 

区分が必要になった。

 

元金持ち:

 

「ポーランド向けとフランス向けを分けます?」

 

息子:

 

「装備差が出ます」

 

「なら」

 

紙に書く。

 

Taureau P。

 

Taureau F。

 

フランス側:

 

「P?」

 

「Polonais」

 

「Fは」

 

「Français」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「安直」

 

元金持ち:

 

「分かりやすい方がいいでしょう」

 

誰も強く反対しなかった。

 

戦時の名称に。

 

詩情は必要なかった。

 

---

 

会議終了後。

 

試験操縦士が。

 

格納庫へ戻った。

 

Taureauを見る。

 

隣には。

 

別のフランス人操縦士。

 

「Bréguetの方が速い」

 

「ああ」

 

「軽い」

 

「ああ」

 

「洗練されてる」

 

「ああ」

 

「なら」

 

Taureauを見る。

 

「これは?」

 

少し考える。

 

「残る方だ」

 

「何が」

 

「機体も」

 

「乗員も」

 

少し間。

 

「できれば両方欲しい」

 

相手が笑った。

 

「贅沢だな」

 

操縦士は。

 

笑わなかった。

 

「今は贅沢を言ってる場合じゃない」

 

---

 

夜。

 

生産主任になる男は。

 

企業一覧を広げていた。

 

発動機。

 

武装。

 

爆弾架。

 

無線。

 

計器。

 

車輪。

 

鋼材。

 

板金。

 

部品。

 

数字が増えていく。

 

父親が横から見る。

 

「多い」

 

息子:

 

「フランス空軍分です」

 

「こんなに」

 

「欲しいそうです」

 

「一機しか飛んでない」

 

「でも一機飛びました」

 

元ドイツ軍技術者:

 

「お前までそれを言うか」

 

「今飛べるかどうかが重要らしいので」

 

父親は黙った。

 

少しして。

 

「まあ」

 

紙を見る。

 

「分からんでもない」

 

---

 

別室。

 

元金持ちは。

 

会議録をまとめていた。

 

フランス空軍要求。

 

亡命ポーランド側要求。

 

生産拡大。

 

企業追加。

 

住宅。

 

整備員。

 

訓練。

 

部品。

 

また増えた。

 

少尉が横から覗く。

 

「大変ですね」

 

元金持ち:

 

「お前もだろ」

 

「私は軍人です」

 

「知ってる」

 

「今日は飛行部隊側から資料を」

 

「伝書鳩」

 

少尉:

 

「私は伝書鳩ではありません」

 

元金持ち:

 

「知ってる」

 

「なら言わないでください」

 

---

 

翌朝。

 

フランス空軍内部へ。

 

一枚の要求書が回る。

 

Taureau。

 

評価継続。

 

部隊配備検討。

 

フランス空軍向け生産枠要求。

 

増産協議開始。

 

昨日まで。

 

ポーランド人のために作られていた機体だった。

 

今日から。

 

フランス人も待つ機体になった。

 

世界最高だからではない。

 

最速だからでもない。

 

最も多く爆弾を積めるからでもない。

 

ただ。

 

飛ぶ。

 

撃てる。

 

爆弾を積める。

 

守られている。

 

直せる。

 

そして。

 

今。

 

作れる。

 

一九四〇年のフランス空軍にとって。

 

それは。

 

十分に欲しがる理由だった。

 

 

 

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