『一九四〇年初頭・Taureau試験評価会議抜粋』
当初目的。
亡命ポーランド航空部隊向け現地生産機。
試験結果。
飛行可能。
既存フランス製発動機搭載可能。
既存フランス製無線機搭載可能。
既存フランス製計器類使用可能。
既存フランス製武装搭載可能。
既存フランス規格爆弾搭載可能。
国内企業による主要部品供給可能。
問題。
フランス空軍からも要求あり。
備考。
「ポーランド向けの予定だった」
との発言に対し、
「分かっている」
「それでも必要だ」
との回答あり。
翌朝。
試験場。
Taureauはまた飛んでいた。
昨日より。
見ている人間が増えていた。
フランス空軍。
陸軍協同部隊。
航空省。
航空企業。
武装担当。
発動機担当。
そして。
現場の部隊から直接来た人間もいた。
元ドイツ軍技術者は。
格納庫の前で腕を組む。
「増えたな」
息子:
「評判が回りました」
ユダヤ人実業家:
「いいことです」
元ドイツ軍技術者:
「試験機だぞ」
実業家:
「だから皆さん見に来たんでしょう」
「見世物じゃない」
「今日は半分そうです」
息子が言った。
父親が見る。
「お前まで言うか」
「もう諦めました」
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最初に飛ぶフランス空軍操縦士は。
昨日とは別の男だった。
機体の周りを一周。
機首。
翼。
脚。
エンジン。
防弾板。
武装架。
爆弾架。
後方席。
じっと見る。
旧Bizon乗りが聞く。
「どうした」
フランス人操縦士:
「見ている」
「何を」
「普通に使えるかどうか」
旧乗り:
「普通?」
「うちには普通に使える機体が足りない」
元ドイツ軍技術者が少しだけ顔を向けた。
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フランス人操縦士は続けた。
「速い機体はある」
「新しい機体もある」
「良い機体もある」
旧乗り:
「ならいいじゃないか」
フランス人は首を振った。
「足りない」
一言。
それだけだった。
「新しい機体が、一つの部隊には来る」
「隣には来ない」
「改修済みの機体が来る」
「その次には古い仕様が来る」
「予備機は旧式」
「部品が違う」
「無線が違う」
「武装が違う」
少し機体を叩く。
「だから聞いている」
「これは普通に使えるか」
旧Bizon乗りは答える。
「飛ぶ」
「撃てる」
「爆弾も積める」
「被弾しても帰ってくる可能性は高い」
フランス人:
「それで十分だ」
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搭乗。
エンジン始動。
滑走。
離陸。
上昇。
低空飛行。
速度変化。
模擬攻撃。
機銃照準。
急な姿勢変更。
片発。
再加速。
着陸。
戻ってきた操縦士は。
降りるなり言った。
「速くはない」
元ドイツ軍技術者:
「知ってる」
「重い」
「知ってる」
「戦闘機には勝てない」
「戦わせるな」
「でも」
フランス人は機体を見る。
「使える」
元ドイツ軍技術者:
「何に」
「今必要なこと全部に」
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近くにいたフランス陸軍協同部隊の将校が口を挟む。
「全部とは」
操縦士:
「偵察の護衛」
「車列攻撃」
「砲兵陣地」
「燃料」
「通信」
「小規模爆撃」
「地上部隊支援」
少し考えて。
「少なくとも、何もできないよりはいい」
将校:
「評価が低いな」
操縦士:
「逆です」
「今はそれが高い評価です」
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二人目。
三人目。
また飛ぶ。
試験場は。
完全に見学会になっていた。
航空企業の人間が自社部品を探す。
「この計器はうちだ」
「発動機はこっち」
「車輪はうちの系列」
「無線もある」
元金持ちが横から見る。
「皆、自分の会社を探してますね」
ユダヤ人実業家:
「大事ですよ」
「何が」
「自分にも利益があると分かれば、協力は早い」
元金持ち:
「人間らしい」
実業家:
「会社らしい、です」
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一方。
現場のフランス人たちは。
別のものを見ていた。
整備口。
部品交換。
脚。
発動機ナセル。
武装交換。
爆弾架。
ある整備下士官が聞く。
「このパネル、外すのに何分」
WILK整備員:
「慣れれば」
数字。
相手が眉を上げる。
「本当に?」
「やってみます?」
「頼む」
その場で。
外す。
中を見る。
フランス人整備員が手を入れる。
「奥まで見える」
「そういう設計です」
「なぜ」
「現場で直すから」
フランス人は少し笑う。
「うちにも必要だ」
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別の整備員。
「このエンジン、専用品じゃないんだな」
「違います」
「計器も」
「フランス製」
「無線も」
「はい」
「車輪も」
「はい」
整備員は。
しばらく何も言わなかった。
そして。
「助かる」
それだけ言った。
WILK側の整備員が聞く。
「そんなに?」
相手は笑わなかった。
「部隊に違う機体が増えるたびに、必要な物も増える」
「予備部品」
「工具」
「説明書」
「癖」
「全部だ」
「だから」
機体を見る。
「知ってる物が入ってるだけで助かる」
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午後。
武装試験。
20ミリ。
7.5ミリ。
爆弾架。
フランス規格爆弾。
元ドイツ軍技術者:
「最大搭載量だけ見るな」
フランス軍人:
「何キロ積める」
「かなり」
「では最大は」
「やめろ」
「なぜ」
「飛ばなくなる」
「飛行機なのに?」
「飛行機だからだ」
旧Bizon乗りが笑う。
「昔からです」
フランス軍人:
「どれくらいが実用的だ」
元ドイツ軍技術者:
「任務による」
「車列攻撃」
「軽い爆弾を複数」
「倉庫」
「もう少し重く」
「橋」
「もっと重く」
「最大搭載は」
「書くだけなら書ける」
「使うな?」
「常用するな」
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陸軍側将校が。
爆弾架を見る。
「これなら襲撃機として使える」
別の将校:
「Bréguetがある」
少し空気が変わった。
誰も否定しない。
Bréguetは良い。
速い。
新しい。
襲撃機として洗練されている。
だからこそ。
現場の一人が言った。
「何機ある」
沈黙。
「全部隊へ足りるか」
誰も答えない。
別の人間が口を開く。
「足りない」
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さらに。
「新型戦闘機もある」
「足りない」
「新しい爆撃機もある」
「足りない」
「偵察機は」
「ある」
「十分か」
「任務による」
最後に。
一人が言った。
「我々には、優秀な機体がないわけじゃない」
少し間。
「必要な場所へ、必要な数がない」
それが。
現場側の不満だった。
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旧Bizon乗りがTaureauを見る。
「こいつも数はないぞ」
フランス人:
「だから増やす」
「簡単に言うな」
「簡単じゃない」
「なら」
「それでも増やす」
少し強い声だった。
「性能表を眺めている暇はない」
「春になったら戦争は待ってくれない」
元白軍将校はいなかった。
だが。
もし聞いていたら。
たぶん。
同じことを言った。
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午後の評価会議。
昨日より椅子が増えた。
軍。
政府。
企業。
亡命ポーランド側。
WILK。
元金持ちは。
紙を広げた。
昨日まで議題は。
「Taureauは使えるか」
だった。
今日は違う。
「何機作れるか」
になっていた。
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航空省関係者:
「試験結果」
元ドイツ軍技術者:
「まだ初期」
「飛行に重大な問題は」
「ない」
「武装」
「調整中」
「爆装」
「可能」
「片発」
「良好」
「整備」
「想定通り」
「国内部品」
息子:
「大部分使用可能」
「専用品は」
一覧。
少ない。
相手は紙を見る。
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フランス空軍側将校:
「ポーランド向けは何機」
数字。
「その後は」
ポーランド側:
「追加を希望しています」
「分かっている」
フランス側将校が言う。
「我々も欲しい」
元ドイツ軍技術者:
「昨日も聞いた」
「今日も言う」
「まだ試験中だ」
「だから試験しながら作れ」
「乱暴だな」
「現場はもっと乱暴だ」
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別のフランス人将校が。
少し疲れた声で言った。
「我々には機体がある」
「ただし」
「古いものも多い」
「新しいものは来る」
「ただし足りない」
「良い機体はある」
「ただし全員には渡らない」
机を指で叩く。
「だから聞いている」
「Taureauは」
「最高の機体か?」
元ドイツ軍技術者:
「違う」
「速いか」
「そこまで」
「爆弾を一番積めるか」
「違う」
「戦闘機に勝てるか」
「無理だ」
フランス将校:
「では」
少し笑った。
「今、作れるか」
息子:
「作れます」
「フランスの部品で」
「大部分」
「フランスの弾薬で」
「はい」
「フランスの爆弾で」
「はい」
「フランスの整備員が」
「教育すれば」
「なら」
一度。
部屋を見回す。
「寄越せ」
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元ドイツ軍技術者:
「簡単に言うな」
「簡単だから言っているんじゃない」
フランス将校は。
真顔だった。
「他に待てるなら待つ」
「より速い機体を」
「より軽い機体を」
「より優秀な機体を」
「でも」
机の資料を叩く。
「我々が欲しいのは」
「来年の完璧な機体じゃない」
「今年飛ぶ機体だ」
部屋が静かになった。
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ユダヤ人実業家が口を開く。
「では」
元ドイツ軍技術者:
「何だ」
「商談を」
「やっぱりそうなるのか」
「当然です」
「何機」
フランス側が数字を出す。
元ドイツ軍技術者:
「多い」
「必要だからだ」
「発動機が足りない」
別の担当:
「調整する」
「武装は」
「割当を増やす」
「計器」
「企業側と協議」
息子が次々書く。
元ドイツ軍技術者は。
頭を抱えた。
「昨日まで一機だったんだぞ」
息子:
「今日から増やすんでしょう」
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企業側も。
話に入る。
「うちの発動機を追加で出せる」
「この部品なら別工場へ回せる」
「板金は空きがある」
「車輪は増やせる」
「無線は優先順位次第」
ユダヤ人実業家:
「では皆さんに儲けてもらいましょう」
元金持ち:
「随分素直ですね」
「儲かる話は素直にするべきです」
企業側が笑う。
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ポーランド側将校が聞く。
「こちらの分は減りませんね」
実業家:
「減らしません」
「では」
「生産を増やす」
「その分」
「フランス企業にも注文が増える」
フランス企業側:
「異論なし」
元ドイツ軍技術者:
「お前ら急に仲がいいな」
実業家:
「共通の利益がありますから」
---
書類上。
区分が必要になった。
元金持ち:
「ポーランド向けとフランス向けを分けます?」
息子:
「装備差が出ます」
「なら」
紙に書く。
Taureau P。
Taureau F。
フランス側:
「P?」
「Polonais」
「Fは」
「Français」
元ドイツ軍技術者:
「安直」
元金持ち:
「分かりやすい方がいいでしょう」
誰も強く反対しなかった。
戦時の名称に。
詩情は必要なかった。
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会議終了後。
試験操縦士が。
格納庫へ戻った。
Taureauを見る。
隣には。
別のフランス人操縦士。
「Bréguetの方が速い」
「ああ」
「軽い」
「ああ」
「洗練されてる」
「ああ」
「なら」
Taureauを見る。
「これは?」
少し考える。
「残る方だ」
「何が」
「機体も」
「乗員も」
少し間。
「できれば両方欲しい」
相手が笑った。
「贅沢だな」
操縦士は。
笑わなかった。
「今は贅沢を言ってる場合じゃない」
---
夜。
生産主任になる男は。
企業一覧を広げていた。
発動機。
武装。
爆弾架。
無線。
計器。
車輪。
鋼材。
板金。
部品。
数字が増えていく。
父親が横から見る。
「多い」
息子:
「フランス空軍分です」
「こんなに」
「欲しいそうです」
「一機しか飛んでない」
「でも一機飛びました」
元ドイツ軍技術者:
「お前までそれを言うか」
「今飛べるかどうかが重要らしいので」
父親は黙った。
少しして。
「まあ」
紙を見る。
「分からんでもない」
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別室。
元金持ちは。
会議録をまとめていた。
フランス空軍要求。
亡命ポーランド側要求。
生産拡大。
企業追加。
住宅。
整備員。
訓練。
部品。
また増えた。
少尉が横から覗く。
「大変ですね」
元金持ち:
「お前もだろ」
「私は軍人です」
「知ってる」
「今日は飛行部隊側から資料を」
「伝書鳩」
少尉:
「私は伝書鳩ではありません」
元金持ち:
「知ってる」
「なら言わないでください」
---
翌朝。
フランス空軍内部へ。
一枚の要求書が回る。
Taureau。
評価継続。
部隊配備検討。
フランス空軍向け生産枠要求。
増産協議開始。
昨日まで。
ポーランド人のために作られていた機体だった。
今日から。
フランス人も待つ機体になった。
世界最高だからではない。
最速だからでもない。
最も多く爆弾を積めるからでもない。
ただ。
飛ぶ。
撃てる。
爆弾を積める。
守られている。
直せる。
そして。
今。
作れる。
一九四〇年のフランス空軍にとって。
それは。
十分に欲しがる理由だった。