WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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【WILK米州事業連絡記録 一九四〇年】

米国食品事業の拡大により、WILKは北米域内だけでは安定調達しにくい原料を必要とするようになった。

砂糖。

コーヒー。

カカオ。

熱帯果実。

香辛料。

これらについて、既存の中南米拠点へ照会が行われた。

しかし。

一九四〇年前後の中南米農業を、一つの市場として扱うことはできなかった。

ブラジルでは、世界恐慌後のコーヒー過剰が長く尾を引き、価格維持のため政府が余剰在庫を買い上げ、処分する政策さえ実施されていた。

キューバの砂糖は、自由に生産し自由に輸出できる商品ではなく、生産量、製糖所ごとの圧搾量、輸出先ごとの数量が厳しく管理されていた。

中米の熱帯作物地域では、大規模農園、外国資本、独立農家、小農、借地農家、集荷業者が複雑に混在し、作物が存在しても道路、集荷、保管、港湾が不足すれば市場へ出すことができなかった。

したがってWILKは、単純な最低価格調達を禁止した。

当時の米州事業部資料には、次の指示が残されている。

「安いから買うな」

「余っている理由を調べろ」

「来年も作ってもらえる相手から買え」

この方針は、後のWILK海外農業投資の基礎となった。

――WILK米州食品流通史より


第225話 安いから買うな

 

 

最初の電報はブラジルから届いた。

 

短かった。

 

『食品加工拡大の件。

 

コーヒーは要るか』

 

ユダヤ人実業家が読み上げる。

 

アイス部門が手を挙げた。

 

「要ります」

 

菓子部門。

 

「要ります」

 

飲料部門。

 

「欲しいです」

 

酒造部門。

 

「ぜひ」

 

元税務官が最後だけ見た。

 

「何に使うんです?」

 

「酒」

 

「聞かなければよかった」

 

老農夫は電報の紙を受け取った。

 

「余っとるのか」

 

米州担当者が答える。

 

「余っている、だけではありません」

 

資料が広げられた。

 

ブラジル。

 

巨大なコーヒー生産地。

 

長年。

 

世界へ大量に輸出してきた。

 

だが。

 

世界恐慌で需要が落ちる。

 

それでも木は実をつける。

 

畑は急には消えない。

 

収穫もある。

 

結果。

 

売れる量より。

 

作れる量の方が多くなった。

 

「政府が余った分を買うことまであります」

 

「ほう」

 

「市場へ出さないためです」

 

「倉に置くのか」

 

米州担当者は少し黙った。

 

「処分する場合もあります」

 

老人の眉が動いた。

 

「処分?」

 

「価格をこれ以上落とさないためです」

 

「飲めんのか」

 

「飲めます」

 

「腐っとる?」

 

「いいえ」

 

老人は電報を机へ戻した。

 

「なら買え」

 

元税務官がすぐ言う。

 

「待ってください」

 

老人が振り返った。

 

「またか」

 

「またです」

 

「飲めるんじゃぞ」

 

「飲めることと、誰から買っていいかは別です」

 

ユダヤ人実業家も頷いた。

 

「政府の価格維持政策へ勝手に入り込むわけにはいきません」

 

老農夫は嫌そうな顔をする。

 

「面倒じゃな」

 

「商売とはそういうものです」

 

「農業もじゃ」

 

「なら分かるでしょう」

 

老人は黙った。

 

少し悔しそうだった。

 

---

 

ブラジル支部へ追加照会。

 

政府在庫ではないこと。

 

輸出可能であること。

 

従来から取引関係のある商人。

 

加工業者。

 

農園。

 

共同出荷する中小生産者。

 

誰から。

 

どれだけ。

 

何月に。

 

どの港から。

 

何年続けられるか。

 

返事が来る。

 

元税務官が読む。

 

「この組合は?」

 

「複数農園の共同出荷です」

 

「所有者は?」

 

「別々です」

 

「契約主体は?」

 

「共同販売組織」

 

「債務責任は?」

 

米州担当者が黙った。

 

元税務官は紙を置いた。

 

「確認してください」

 

老農夫が横から覗く。

 

「お前、コーヒー買うだけでようそんなに聞けるな」

 

「あとで揉めるよりいいです!」

 

元金持ちが笑った。

 

「こいつに任せとけば、豆一粒にも責任者が付くぞ」

 

「あなたは黙ってください」

 

「褒めたんだが」

 

「余計です」

 

---

 

次は砂糖だった。

 

カリブ方面から届いた回答には。

 

最初から大きく注意書きが付いていた。

 

『自由買付ではない。

 

輸出割当確認必要。

 

製糖所割当確認必要。』

 

老農夫が読む。

 

「砂糖だぞ」

 

元税務官。

 

「砂糖だからです」

 

「甘いだけじゃないのか」

 

「法律上は全然甘くありません」

 

元金持ちが吹き出した。

 

元税務官は無視した。

 

キューバでは。

 

今年どれだけ砂糖を作るか。

 

どの製糖所がどれだけ搾るか。

 

国内へいくら残すか。

 

米国へいくら出すか。

 

その他の国へいくら出すか。

 

そこまで管理されている。

 

「つまり」

 

アイス部門が言った。

 

「金を持って行って、砂糖をください、では駄目?」

 

「駄目です」

 

菓子部門。

 

「もっと高く払えば?」

 

「駄目です」

 

果実加工。

 

「大量に買えば?」

 

「なお駄目です」

 

酒造部門。

 

「ラムなら?」

 

「今は砂糖の話をしています!」

 

「原料は同じです」

 

「だから余計ややこしいんです!」

 

老農夫が首を振った。

 

「農家も大変じゃな」

 

ユダヤ人実業家が言った。

 

「だから制度の中で買います」

 

既存の輸出商。

 

製糖所。

 

倉庫。

 

銀行。

 

海運会社。

 

WILK支部がすでに付き合っている者を使う。

 

割当を破らない。

 

横から買い占めない。

 

その代わり。

 

買える量については継続購入を約束する。

 

元金持ちが言った。

 

「今年だけ大量に買うより、来年も同じところから買う」

 

老農夫が頷く。

 

「そうせえ」

 

「値段が上がっても?」

 

「上がった理由を見ろ」

 

「安いところへ変えれば?」

 

老人が睨んだ。

 

「だから安いから買うなと言っとる!」

 

---

 

中米からは。

 

さらに違う話が来た。

 

果物はある。

 

バナナ。

 

柑橘。

 

パイナップル。

 

地域によってはカカオ。

 

だが。

 

報告書には。

 

作物の量より先に。

 

土地所有者。

 

労働者。

 

集荷業者。

 

港までの道。

 

鉄道。

 

倉庫。

 

外国企業。

 

そういう項目が並んでいた。

 

老農夫が眉をしかめる。

 

「農業報告に見えんな」

 

元金持ちが答える。

 

「これも農業だろ」

 

大規模農園がある。

 

その周辺には小農もいる。

 

既存住民もいる。

 

借りた土地で作る者もいる。

 

ある地域では。

 

大企業が港までの線路も。

 

倉庫も。

 

土地も。

 

労働者の住宅まで握っていた。

 

別の場所では。

 

小規模な生産者が作物を作れても。

 

輸送する手段がない。

 

大量に出荷できない。

 

傷みやすい果物は。

 

市場へ届く前に価値を失う。

 

中米支部からの電報。

 

『小農から購入可能。

 

ただし各戸から港までの集荷が成立しない。

 

共同集荷所必要。』

 

老農夫が即答した。

 

「作れ」

 

元金持ちが聞く。

 

「何を」

 

「集荷場」

 

「そこまでの道が悪い」

 

「直せ」

 

「雨季は?」

 

「考えろ」

 

「橋がない場所は?」

 

「架けろ」

 

元金持ちはしばらく老人を見た。

 

「お前、元白軍将校と話合うだろ」

 

「一緒にするな!」

 

即答だった。

 

---

 

元独立運動家が報告書を読んでいた。

 

「集荷所を作るなら」

 

元金持ちが嫌そうな顔をした。

 

始まった。

 

「人が集まります」

 

「そうだな」

 

「季節労働者も」

 

「そうだろう」

 

「水場が必要です」

 

「分かる」

 

「怪我をした場合の手当」

 

「まあ」

 

「宿泊場所」

 

「……」

 

「家族連れなら」

 

「待て」

 

元独立運動家は顔を上げた。

 

「何です?」

 

「学校と言う気だろ」

 

「必要なら」

 

老農夫が頷いた。

 

「要るじゃろ」

 

元金持ちは机へ突っ伏した。

 

元税務官が隣から言う。

 

「雇用契約も増えます」

 

元金持ちが顔を上げた。

 

「お前まで追い打ちするな」

 

「事実です」

 

---

 

買付方針が決まった。

 

ブラジル。

 

コーヒー。

 

ただし価格維持政策を無視して買わない。

 

既存商人、農園、共同出荷組織と継続契約。

 

カリブ。

 

砂糖。

 

輸出枠、製糖所割当、輸入規制を確認した上で購入。

 

中米。

 

果物。

 

カカオ。

 

その他熱帯作物。

 

大企業とだけ取引するのではなく。

 

既存小農からも買える集荷網を作る。

 

そして。

 

どの地域でも。

 

「土地を取ること」を取引条件にしない。

 

老農夫が最後に言った。

 

「向こうでも同じじゃ」

 

「何が?」

 

「根を張る」

 

地図を指した。

 

「買った作物だけ持って帰るな」

 

「では?」

 

「来年また買いに行け」

 

---

 

荷が届き始めた。

 

最初は試験量だった。

 

ブラジルのコーヒー。

 

砂糖。

 

カカオ。

 

果物。

 

香辛料。

 

倉庫に積まれる。

 

食品加工部門が集まった。

 

アイス部門。

 

菓子部門。

 

パン部門。

 

果汁部門。

 

酒造部門。

 

元税務官は。

 

なぜかそこにもいた。

 

「私は食品開発担当ではありません」

 

ユダヤ人実業家が言った。

 

「輸入契約担当です」

 

「それが嫌だと言ってるんです」

 

---

 

コーヒーを煎る。

 

香りが工場へ広がる。

 

粉にする。

 

牛乳。

 

砂糖。

 

混ぜる。

 

冷やす。

 

最初のコーヒーアイス。

 

老農夫が食べた。

 

黙る。

 

「どうです?」

 

アイス部門が聞く。

 

「苦い」

 

「減らします」

 

次。

 

カカオ。

 

牛乳。

 

砂糖。

 

チョコレートアイス。

 

老人。

 

「甘い」

 

「減らします」

 

次。

 

果物。

 

牛乳。

 

砂糖。

 

老人は一匙。

 

さらに一匙。

 

「どうです?」

 

「もう一つくれ」

 

「合格ですね」

 

「そんなこと言っとらん」

 

もう一つ受け取った。

 

---

 

Wolf Packにも。

 

当然。

 

被害が及んだ。

 

硬い内皿へ。

 

チョコレートアイス。

 

柔らかい外皮。

 

果実ソース。

 

巻く。

 

別の試作品。

 

コーヒーアイス。

 

少量のクリーム。

 

巻く。

 

菓子部門がカカオ入りの硬い内皿まで作った。

 

元税務官が言った。

 

「仕様を増やす前に商標分類を――」

 

誰も聞いていなかった。

 

パン部門は砂糖を減らした生地へ肉を載せた。

 

酒造部門は果実を酒へ入れた。

 

元税務官は諦めて紙へ書いた。

 

---

 

売れた。

 

米国の小売店。

 

アイス店。

 

喫茶店。

 

工場近くの軽食店。

 

Wolf Pack。

 

チョコレートアイス。

 

コーヒーアイス。

 

果物味。

 

安い。

 

毎週届く。

 

高級品ではない。

 

だが。

 

また買える。

 

老農夫は販売表を見た。

 

「甘い物は強いな」

 

実業家が答えた。

 

「少しの贅沢です」

 

「腹いっぱいにはならんぞ」

 

「だから毎日パンも売れます」

 

「なるほど」

 

老人は数字を見る。

 

農家。

 

加工場。

 

輸送。

 

小売店。

 

原料供給者。

 

全部へ金が流れている。

 

「これならええ」

 

---

 

大西洋の向こう。

 

英国。

 

元白軍将校の親族宅。

 

また役人が来た。

 

家主は。

 

もう追い返すのを半分諦めていた。

 

「今日は何だ」

 

英国政府の食料関係役人は資料を出した。

 

「増えた」

 

「何が」

 

「WILKの調達品目だ」

 

家主が見る。

 

牛乳。

 

小麦。

 

トウモロコシ。

 

そこまでは以前見た。

 

次。

 

コーヒー。

 

砂糖。

 

カカオ。

 

熱帯果実。

 

香辛料。

 

家主は黙った。

 

「……何をしているんだ、あいつらは」

 

役人が答える。

 

「食品会社らしい」

 

「航空機会社だったはずだ」

 

奥から声。

 

「今も作ってるぞ」

 

家主が叫んだ。

 

「なぜまたいる!」

 

元白軍将校が入ってくる。

 

「茶を飲みに来た」

 

「自分の家へ帰れ!」

 

---

 

役人は元白軍将校へ紙を渡した。

 

「この調達網」

 

「うん」

 

「ブラジル」

 

「あるな」

 

「カリブ」

 

「ある」

 

「中米」

 

「あるな」

 

「北米」

 

「当然だ」

 

役人は顔を上げた。

 

「どこまであるんだ」

 

元白軍将校は考えた。

 

「南米は他にもある」

 

家主が頭を抱えた。

 

「聞くんじゃなかった」

 

役人は逆だった。

 

目が輝いていた。

 

「砂糖を定期的に出せる?」

 

「契約次第だろう」

 

「コーヒーは」

 

「同じ」

 

「カカオ」

 

「同じ」

 

「果物加工品」

 

「アメリカで作ってる」

 

「アイルランドで再加工できる?」

 

「できるだろ」

 

家主が口を挟む。

 

「“だろ”で政府と話をするな」

 

「なら聞けばいい」

 

「誰に」

 

「向こうに」

 

家主はため息をついた。

 

「また会議か」

 

「たぶん」

 

---

 

英国役人は資料を閉じなかった。

 

むしろ。

 

食料の種類を分け始めた。

 

カロリーを支えるもの。

 

小麦。

 

脂肪。

 

乳製品。

 

肉。

 

そして。

 

それ以外。

 

砂糖。

 

コーヒー。

 

カカオ。

 

果物。

 

元白軍将校が言った。

 

「後ろのはなくても死なん」

 

役人が頷く。

 

「すぐにはな」

 

「なら何で欲しい」

 

「人間は生きているだけでは働かない」

 

元白軍将校が少し笑った。

 

「元独立運動家みたいなことを言う」

 

「誰だ」

 

「生活を増やす奴だ」

 

家主が言う。

 

「お前が増やした仕事を片付ける人間だろ」

 

「そうとも言う」

 

役人は続けた。

 

「工場の夜勤」

 

指。

 

「兵士」

 

指。

 

「病院」

 

指。

 

「子供」

 

指。

 

「配給生活」

 

そして。

 

砂糖の欄を指した。

 

「少し甘いものがあるだけでも違う」

 

元白軍将校が頷いた。

 

「なら送れる分を聞け」

 

役人はすぐ手帳へ書いた。

 

家主が言った。

 

「だからここを事務所にするな!」

 

---

 

英国から問い合わせが届いた。

 

アメリカへ。

 

アイルランドへ。

 

中南米各支部へ。

 

供給可能量。

 

契約期間。

 

価格。

 

輸送。

 

保険。

 

積替え。

 

加工。

 

再包装。

 

支払通貨。

 

戦争による不履行。

 

輸送船喪失時の責任。

 

港湾閉鎖時の代替。

 

輸出許可。

 

輸入許可。

 

税。

 

関税。

 

現地労働法。

 

特許。

 

商標。

 

Wolf Packのクロスライセンス契約。

 

元税務官の机へ。

 

紙が来た。

 

一枚。

 

十枚。

 

五十枚。

 

百枚。

 

さらに。

 

ブラジル。

 

キューバ。

 

中米。

 

米国。

 

アイルランド。

 

英国。

 

フランス。

 

別の国。

 

また別の国。

 

元税務官は。

 

しばらく。

 

何も言わなかった。

 

元金持ちが隣へ来た。

 

「飲むか?」

 

「その前に」

 

「何だ」

 

元税務官は立ち上がった。

 

---

 

ユダヤ人実業家の部屋。

 

扉が開く。

 

元税務官が入ってくる。

 

両腕に書類。

 

机へ置く。

 

どさり。

 

「人をください」

 

実業家が答えた。

 

「増やしましょう」

 

「違います」

 

「何人?」

 

「そういう意味でもありません」

 

元税務官は椅子へ座った。

 

珍しく。

 

かなり疲れた顔をしていた。

 

「私は税務官でした」

 

「知っています」

 

「銀行を任されました」

 

「ええ」

 

「契約も」

 

「ええ」

 

「証憑も」

 

「ええ」

 

「雇用も」

 

「増えましたね」

 

「特許まで来ました」

 

「Wolf Packですね」

 

「今度は外国法です!」

 

机を叩いた。

 

「アメリカ法!」

 

一枚。

 

「英国法!」

 

一枚。

 

「フランス!」

 

一枚。

 

「ブラジル!」

 

一枚。

 

「キューバ!」

 

一枚。

 

「中米!」

 

さらに一枚。

 

「税制が違う!」

 

一枚。

 

「契約法が違う!」

 

一枚。

 

「特許制度も違う!」

 

一枚。

 

「関税も輸出入規則も違う!」

 

最後。

 

「一人では無理です!」

 

静かになった。

 

ユダヤ人実業家は。

 

少しだけ考えた。

 

「分かりました」

 

元税務官も。

 

少しだけ落ち着いた。

 

「ありがとうございます」

 

「部門にしましょう」

 

元税務官が止まった。

 

「……はい?」

 

「法務部」

 

「そこまで言ってません」

 

「一人では無理なのでしょう?」

 

「そうですが」

 

「では一人増やしても同じです」

 

実業家は紙を取った。

 

「米国法に詳しい者」

 

一つ。

 

「英国」

 

二つ。

 

「フランス」

 

三つ。

 

「税務」

 

四つ。

 

「特許と商標」

 

五つ。

 

「輸出入と関税」

 

六つ。

 

「それぞれ外部の弁護士や会計士とも連絡できる事務員」

 

元税務官が見ている。

 

「全部社内で抱える必要はありません」

 

実業家は言った。

 

「どの国で、誰に聞けばいいかを分かる部署にしましょう」

 

元税務官は。

 

しばらく黙った。

 

そして。

 

「それなら」

 

頷いた。

 

「できます」

 

扉から顔が出た。

 

元金持ちだった。

 

「で、こういう抜け道があってな」

 

元税務官が立ち上がった。

 

「法務部最初の仕事!」

 

「何だ」

 

「あなたを止めることです!」

 

元金持ちは笑った。

 

「人増えてよかったな」

 

「増えた原因の一人でしょうが!」

 

---

 

後年。

 

WILK法務部は。

 

多国籍企業となったWILKを支える重要部門の一つとなった。

 

その起源について。

 

公式社史には。

 

こう記されている。

 

「海外事業拡大に伴う法務需要増加への対応として設置」

 

間違ってはいない。

 

ただ。

 

当時を知る者の記録には。

 

もう少し簡単に書かれていた。

 

「元税務官が限界を迎えた」

 

それも。

 

間違ってはいなかった。

 

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