一九二二年
契約残数、五機。
完成済み機体、五機。
搭載可能発動機、三基。
必要発動機、十基。
不足、七基。
製造側は、発動機以外の全工程が完了していると報告した。
軍側は、機体だけを納入できないか問い合わせた。
製造側は、
「飛行機として注文された物を、建物として納めることはできない」
と回答した。
軍側は、片側のみ発動機を搭載した八号機についても受領を提案した。
製造側は、
「双発機を片肺で受領しようとするな」
と回答した。
なお、同八号機は地上訓練用として軍関係者に多数利用されており、既に量産機中最多の搭乗者数を記録している。
「今日は来たぞ」
ポーランド軍将校が言った。
作業場の全員が振り返る。
元ドイツ帝国軍技師は工具を置いた。
元白軍将校は八号機の片側発動機覆いから顔を出した。
元独立運動家は半凍結果汁の杯を机へ置く。
実業家は帳簿を開いた。
「何基です」
「先に喜べ」
「数量が分からなければ喜べません」
「発動機だぞ」
「何基です」
軍将校は少し黙った。
「三基」
全員が動きを止めた。
実業家が確認する。
「三基」
「そうだ」
「三機分ではなく」
「三基だ」
「一機半」
元白軍将校が言った。
「半分の機体は飛ばない!」
軍将校が叫ぶ。
「知っている!」
◇
到着した三基は、輸送箱に入っていた。
軍の倉庫から送られた支給品。
書類上は同型。
箱には同じ型式名。
だがWILKの全員は、もう書類を信用していなかった。
「開ける」
元ドイツ技師が言う。
「先に受領印を」
軍の輸送兵が答えた。
「検査後だ」
「受け取らなければ開けられない」
「開けなければ受け取れない」
「規則では」
実業家が契約書の写しを取り出す。
「外観および型式確認後、仮受領。分解検査後、正式受領です」
輸送兵は紙を見る。
「こんな条件があるのか」
軍将校が答えた。
「この会社へ物を送る時は、ある」
「軍用品だぞ」
「前に油漏れした物が来た」
「曲がった物も」
元白軍将校が付け加えた。
「点火装置が違う物も」
元独立運動家が続ける。
「それで増えました」
実業家が微笑んだ。
輸送兵は諦めた。
◇
一基目。
箱を開ける。
防錆油。
木屑。
油紙。
発動機本体。
見た目はよい。
軸を回す。
圧縮。
点火装置。
補機。
「使用可能」
技師が言った。
軍将校が小さく拳を握る。
二基目。
箱を開ける。
同じ型式。
だが補機の位置が違う。
「またか」
軍将校が言う。
「初期型だ」
技師が答える。
「付くか」
「変換金具が必要」
「作れるか」
「作れる」
「飛べるか」
「飛べる」
「ならよい」
「配管も変える」
「よくない!」
三基目。
箱を開けた瞬間、元白軍将校が言った。
「落としたな」
発動機下部の木枠が割れている。
固定金具が一つ曲がっていた。
技師が詳しく見る。
「本体は」
「外観だけでは分からん」
「回るか」
「無理に回すな」
「使える可能性は」
「分解する」
軍将校は輸送兵を見る。
「どこで落とした」
「知らない」
「列車か」
「知らない」
「荷車?」
「知らない」
「誰かは知っているだろう!」
「私は受け取って運んだだけだ」
元独立運動家が言った。
「荷物は、途中で誰の物でもなくなるな」
実業家はすぐに記録した。
輸送責任区分、要契約追加。
「また契約書が厚くなる!」
◇
結論。
一基目、使用可能。
二基目、変換部品製作後に使用可能。
三基目、分解検査。
「八号機へ二基載せる」
軍将校が言った。
「一基は既に付いている」
技師が答える。
「なら到着した一基を反対へ」
「既存の一基は初期型だ」
「今日来た二基目も初期型では」
「補機位置が違う」
「初期型の中でも違うのか!」
「製造工場が別だ」
軍将校は天井を見た。
「同型とは何だ」
元白軍将校が答える。
「同じように使える」
「量産二十話で聞いたぞ、その言葉!」
◇
八号機は、長く片肺の姿で置かれていた。
左主翼に発動機。
右主翼は空。
飛べない。
だが地上訓練には使える。
操縦席手順。
後席操作。
装備換装。
脚操作。
燃料切替。
緊急脱出。
軍の新人たちが何度も乗り降りした。
元白軍将校は機体側面へ小さく書いた。
飛ばないが働いている
元ドイツ技師が見つけた。
「消せ」
「事実だ」
「軍用機へ落書きするな」
「まだ軍へ納めていない」
「会社の機体だ!」
軍将校が八号機を見る。
「飛んだ機体より搭乗者が多いな」
「百四十三名」
実業家が答える。
「数えていたのか」
「訓練費用請求のためです」
「乗っただけで金を取るのか」
「設備使用料です」
「飛ばない飛行機が稼いでいる!」
◇
八号機へ新しい右発動機を載せる作業が始まった。
まず発動機架。
寸法確認。
変換金具。
配管。
操作索。
計器線。
元ドイツ技師は、左右を見比べる。
「完全に揃っていない」
「同じ出力だろう」
軍将校が言う。
「公称は」
「実測は」
「回してみるまで分からん」
「また左右差か」
「調整する」
元白軍将校が言う。
「最初の郵便機と同じだ」
「今回は同型だ!」
「同型の違う型」
「言葉がおかしい!」
元独立運動家が笑った。
「WILKへ来る発動機は、皆、少しずつ違う」
「笑い事ではない」
「だが飛ばしてきた」
技師は答えなかった。
否定できなかった。
◇
右発動機搭載完了。
地上運転。
左始動。
次に右。
二基の音が重なる。
だが少し違う。
左は低い。
右は高い。
「回転数差」
技師が言う。
「右が高い」
「調整」
「油圧は」
「左右正常」
「温度」
「右が上がるのが早い」
軍将校が操縦席から叫ぶ。
「飛べるか!」
「まだ回している!」
「音が違うぞ!」
「耳で分かる!」
元白軍将校が地上で言った。
「右を少し絞れ」
「勝手に触るな!」
「聞けば分かる」
「計器を見ろ!」
「耳も計器だ」
「校正されていない!」
◇
発動機調整は一日かかった。
燃料混合。
点火時期。
プロペラ。
出力索。
左右を近づける。
完全には同じにならない。
「許容範囲内」
技師が言った。
軍将校が尋ねる。
「真っすぐ飛ぶか」
「方向舵で補える」
「操縦士が疲れる」
「補助板を調整する」
「左右同じ発動機なら不要だった?」
「完全に同じ発動機などない」
「量産とは」
「差を許容範囲へ収めることだ」
軍将校は少し黙った。
「昔なら、飛べばよいと言っただろう」
「今も飛ばす」
「違いは」
「次の機体でも同じように飛ばす」
◇
八号機の初飛行。
操縦士は軍将校。
後席は元ドイツ技師。
装備は最小限。
武装なし。
燃料半量。
工具。
砂袋。
試験計器。
「食品は」
軍将校が尋ねる。
「積んでいない」
技師が答える。
「本当に?」
「軍用納入試験だ」
「果汁缶も」
「ない」
「バターも」
「ない」
軍将校は貨物室を自分で確認した。
「信用がないな」
「前科が多い」
「誰の」
「会社全体だ!」
◇
八号機が滑走する。
長く地上に置かれていた機体。
百四十三名が訓練で乗った。
初めて自分の翼で走る。
左右の発動機音は、少し違う。
だが推力は十分。
尾が上がる。
大車輪が草を離れる。
「上がった」
軍将校が言う。
「当然だ」
技師が答える。
「片肺で長く置かれていた機体だぞ」
「今は二基ある」
「少しは感慨を」
「右へ取られる」
「もうか!」
◇
高度二百メートル。
水平飛行。
右の推力がやや強い。
方向舵補助板を地上で調整したが、まだ足りない。
「操縦力、大」
「右を少し絞る」
「速度が落ちる」
「左を上げる」
「温度が高い」
「では舵で」
「疲れる!」
技師が記録する。
「着陸後、補助板再調整」
「それで済むか」
「済ませる」
「左右を入れ替える?」
「配管を全部やり直す」
「やめよう」
片発模擬。
右を絞る。
左だけで飛ぶ。
「左一基、維持可能」
次に左を絞る。
右だけ。
「右一基、維持可能」
「どちらも帰れる」
「軽量状態なら」
「また条件付きか」
「空には必ず条件がある」
◇
脚作動。
正常。
旋回。
正常。
低速。
問題なし。
着陸。
少し右へ流れる。
修正。
接地。
停止。
八号機は初めて飛び、初めて帰った。
地上では、訓練でこの機体へ乗った若い兵たちが拍手していた。
一人が言う。
「ようやく飛んだ」
別の者が答える。
「俺たちより先に操縦席へ座った者は百人以上いるぞ」
「それでも最初に飛ばした者は二人だ」
「最初の一匙は」
「今日はないらしい」
「残念だな」
軍将校が機体から降りながら聞いた。
「なぜ軍の新人まで匙を知っている!」
◇
八号機は調整後、納入可能となった。
残る機体。
九号機。
十号機。
十一号機。
十二号機。
必要発動機、八基。
使用可能発動機、予備一基。
損傷疑い一基。
不足、六基以上。
「一機だけ納めるのか」
軍将校が尋ねる。
実業家が答える。
「七号機と八号機をまとめて二機納入できます」
「七号機はもう納めた」
「では八号機単独です」
「輸送費が高い」
「軍の受領操縦士を呼べば」
「一機のために?」
「発動機が来ないのは軍側です」
軍将校は反論できなかった。
◇
その日の午後。
航空部から新しい提案が届いた。
未完成機体四機について、発動機未搭載状態で先行受領する。
軍施設にて発動機到着後、搭載作業を行う。
元ドイツ技師は、一行目で首を振った。
「駄目だ」
軍将校が聞く。
「なぜ」
「軍施設に専用治具がない」
「送れば」
「工具も必要」
「送る」
「熟練工も」
「軍整備兵がいる」
「この型を組んだことがない」
「訓練する」
「発動機仕様が不明だ」
「届いてから合わせる」
元白軍将校が頷く。
「できる」
技師が振り返る。
「お前は黙っていろ」
「現場なら合わせる」
「量産機を現場合わせへ戻すな!」
実業家が提案書を見る。
「先行受領なら残金を」
「金の話は後だ!」
「重要です」
◇
軍側との会議。
航空部会計官。
整備部門。
地方部隊。
WILK側五人。
「機体は完成している」
会計官が言った。
「発動機だけがない」
「発動機がなければ飛行機ではない」
元ドイツ技師が答える。
「財産として受け取る」
「倉庫に置くのか」
「軍格納庫へ」
「湿度管理は」
「行う」
「木部点検は」
「行う」
「操縦索張力は」
「整備兵が」
「誰が教育する」
「WILKに頼む」
「その費用は」
実業家が尋ねた。
会計官の顔が曇った。
「別か」
「当然です」
軍将校が小声で言う。
「やはりそこへ行くな」
◇
整備部門の将校が言った。
「機体を先に受け取れば、発動機到着後すぐ搭載できる」
「すぐではない」
技師が答える。
「なぜ」
「発動機架、補機、配管、計器、プロペラ、重心確認、地上運転、飛行検査」
「軍施設でもできる」
「試験飛行は誰が」
「軍操縦士」
「不具合が出たら」
「軍整備兵」
「図面変更が必要なら」
「WILKへ連絡」
「機体を戻すのか」
「必要なら」
「最初からここで完成させた方が早い!」
地方部隊の指揮官が言った。
「だが機体だけでも先に欲しい」
「何に使う」
軍将校が尋ねる。
「地上訓練」
全員が八号機を見るような顔になった。
「飛ばない機体でも役に立つ」
指揮官は続けた。
「操縦手順、装備換装、燃料系統、救急搭載。飛ぶ前に人を育てられる」
元独立運動家が頷く。
「八号機でやった」
元白軍将校も言う。
「百四十三名」
実業家が訂正した。
「現在百五十一名です」
「増えている!」
◇
結論。
九号機だけを、地上訓練機として軍が仮受領する。
所有権は軍へ。
完成責任は発動機搭載までWILK。
機体はWILK工房に置く。
軍人が訓練に使用。
使用料は軍が支払う。
軍将校は契約書を読んだ。
「機体は軍の物」
「はい」
実業家が答える。
「置き場所はWILK」
「はい」
「整備もWILK」
「はい」
「軍が使用料を払う」
「はい」
「自分の物を使うのに?」
「施設、指導、保守の費用です」
「うまくやったな」
「双方に利益があります」
元ドイツ技師が言う。
「勝手に穴を開けない条件も入れろ」
「既にあります」
「塗装は」
「禁止」
白軍将校が不満そうにする。
「名前も?」
「付けるだけなら」
軍将校が止めた。
「許すな。絶対に機体へ書く」
◇
九号機は、飛ばないまま軍籍に入った。
操縦席には若い操縦士候補。
後席には観測員候補。
地上で手順を繰り返す。
「右発動機始動」
「発動機はない」
「手順を言え」
「燃料弁、開」
「点火、切」
「始動員へ合図」
「次」
「左発動機」
元白軍将校が横から言う。
「左右同時に回せば早い」
「訓練を壊すな!」
軍将校が叫ぶ。
「実際には同時に回さない」
技師が説明する。
「一基ずつ状態を確認する」
「火が出たら」
「燃料遮断」
「消火」
「反対側は」
「状況により始動中止」
「飛ばない機体で火災手順を覚える」
独立運動家が言った。
「安全だな」
「火は出すなよ」
◇
C型換装訓練。
担架二床。
医薬品箱。
衛生兵席。
負傷者役が運び込まれる。
「飛ばないのに担架へ載るのか」
兵士役が尋ねる。
軍医が答える。
「乗せ方を覚える」
「降ろすだけでは」
「狭い機内で固定する訓練だ」
元独立運動家が見ている。
「頭を先に」
「足からでは」
「降ろす時に回せない」
「担架金具へ当たる」
「少し上げろ」
何度か繰り返す。
最初は十分。
次は七分。
最後には四分台。
元ドイツ技師が記録した。
「飛行前から訓練できる」
軍将校が言う。
「軍の提案も悪くなかったな」
「限定的には」
「素直に認めろ」
「発動機搭載はここで行う」
「そこは譲らんか」
◇
B型換装訓練。
模擬爆弾。
弾薬箱。
機銃整備。
爆弾投下装置。
若い整備兵が、安全装置を確認する。
「一番、固定」
「二番、固定」
「投下索」
「接続」
「誤投下防止」
「確認」
元白軍将校が小声で言う。
「中身をクリームにすれば失敗しても食える」
軍将校が振り返る。
「訓練中だぞ!」
「模擬爆弾より重さが近い」
「砂を使え!」
「砂は食えない」
「食う必要がない!」
◇
九号機は、飛ばないまま役に立った。
搭乗訓練。
換装訓練。
救急訓練。
火災手順。
燃料切替。
緊急脱出。
夜間整備。
雨天時の覆い方。
雪の落とし方。
飛ぶ前に、壊さない方法を覚える。
飛ぶ前に、壊れた時の方法も覚える。
元独立運動家は、訓練を終えた若者たちへパンを配った。
「これも訓練か」
一人が尋ねる。
「食べる訓練だ」
「必要ですか」
「必要だ」
白軍将校が即答した。
「帰った後に食えなければ困る」
◇
八号機の納入日。
若い受領操縦士が来た。
機体を一周。
発動機。
脚。
装甲。
操縦面。
貨物室。
「左右の発動機音が少し違うと聞きました」
「許容範囲へ調整済み」
技師が答える。
「飛行中は」
「右へ取られない」
「片発では」
「両方試験済み」
「燃料消費差は」
「右がわずかに多い」
「記録は」
技師が分厚い冊子を渡す。
操縦士が重さに驚く。
「全部?」
「全部だ」
「飛行機より記録が重くなりそうですね」
軍将校が笑った。
「その冗談は技師の前で言うな」
「記録は機体を軽くする」
技師が答える。
「なぜ」
「同じ失敗を積まなくて済む」
誰も笑えなくなった。
少し格好よかったからである。
◇
離陸前。
独立運動家が操縦士へ小さな包みを渡した。
「パンとバターですか」
「今回は高度不足もある」
「酒では」
「着陸後に飲め」
「飛行前には?」
「水だ」
軍将校が感心する。
「そこはまともだな」
「帰還前に飲ませるわけがない」
実業家が小さな札を付けた。
八号機納入便
到着後開封
「食品まで封印するのか」
「誤使用防止です」
「部品管理が完全に移ったな」
◇
八号機は飛び立った。
二基の発動機。
わずかに違う音。
だが真っすぐ飛ぶ。
訓練で何度も回された座席。
百人以上が触った操縦桿。
初めて工房を離れ、軍の基地へ向かう。
軍将校は見送った。
「片肺だった期間の方が長かったな」
元白軍将校が答える。
「だが二つ揃った」
「次は九号機」
「発動機がない」
「訓練で働いている」
「十号機は」
「空いている」
実業家が言った。
「民間訓練用として貸し出せるかもしれません」
軍将校が振り返る。
「軍籍へ入っていない機体を?」
「地上教育です」
「誰に」
「郵便飛行士、整備士、救急要員」
「また稼ぐ気だな」
「止めておくよりは」
◇
その夕方。
損傷疑いの三基目が分解された。
曲がっていたのは外部固定部だけ。
内部軸。
歯車。
気筒。
重大な損傷なし。
「使える」
技師が言った。
「本当か」
軍将校が聞く。
「部品交換後に」
「何が必要」
「固定金具、油管、補機台」
「作れるか」
「作れる」
「何日」
「四日」
元白軍将校が言う。
「三日」
「検査込みで四日!」
「夜もやれば」
「人を壊すな」
元独立運動家が止めた。
実業家が帳簿を見る。
「四日後、一基」
「一基か」
軍将校が言う。
「九号機の片側へ」
全員が九号機を見る。
また片肺が一機。
「納められないぞ」
軍将校が言った。
「訓練には使える」
元白軍将校が答える。
「既に使っている」
「発動機始動訓練が片側だけできる」
技師は少し考えた。
「実機手順には役立つ」
軍将校が頭を抱える。
「片肺状態の価値を見つけるな」
◇
発動機不足は解決していなかった。
契約も終わっていない。
完成機は足りない。
軍は待っている。
WILKも待っている。
だが片肺の八号機は、飛ぶ前に百人以上を教えた。
発動機のない九号機も、救急兵と整備兵を育てている。
飛べなければ飛べないなりに、できる仕事があった。
元ドイツ技師は、修理する発動機の部品表を作る。
元白軍将校は、使える金具を選り分ける。
元独立運動家は、夜勤を増やさないよう交代表を組む。
実業家は、地上訓練費を軍へ請求する。
軍将校は、その全部へ署名する。
「飛行機を納める話だったはずだ」
実業家が答えた。
「飛ばすための人も必要です」
「それは軍が育てる」
「今、ここで育っています」
「軍の機体で」
「WILKの施設を使って」
「だから使用料か」
「はい」
軍将校は署名した。
「うまくできているな」
「機体も契約も、壊れにくい方がよいので」
◇
翌朝。
軍将校は、いつものように工房へ入った。
「発動機は」
実業家が答える。
「新規到着はありません」
「修理中の一基は」
「三日後」
「高度不足の次便は」
「午後です」
「そちらは順調だな!」
作業場の奥。
九号機の左主翼へ、修理予定の発動機を載せるための治具が置かれている。
右側は空。
また片肺になる。
だが今度は、誰もそれを未完成とだけは呼ばなかった。
飛べなくとも教えられる。
一基あれば始動を覚えられる。
二基揃えば飛べる。
飛べば帰る。
帰れば、最初の一匙が待っている。
野牛は、肺が片方しかない間にも、次に空へ上がる者を育てていた。