一九二二年
WILK航空製作所は、Tur A.1初期運用記録に基づき、後席区画、燃料系統、無線整備性および救急輸送設備を改良したTur A.2案を提出した。
会議出席者からは、
「改良量に対して重量増加が大きい」
「既存機で代用可能」
「後席の不便は訓練で補える」
との意見が出された。
製造側は、実物大後席模型への着席を求めた。
着席後、会計官一名、通信将校二名、軍医一名が従来案への支持を撤回した。
なお、爆撃部門代表は模型内で膝を打ち、
「これは設計上の問題ではなく、私の脚が長い」
と主張した。
同代表の身長は出席者中、平均以下であった。
「大きい」
航空部の会計官が言った。
会議室の中央には、Tur A.2の実物大後席模型が置かれていた。
胴体後部。
回転座席。
無線機。
写真機架。
地図台。
機銃架。
担架固定具。
床下収納。
すべて木と金属で、実機と同じ位置に作られている。
「飛ばないのに、これを運んできたのか」
「座っていただくためです」
実業家が答えた。
「図面で分かる」
元ドイツ帝国軍技師が即座に言う。
「分かっていないから持ってきた」
軍将校が横で小さく笑った。
「今日は遠慮がないな」
「三号機が帰ってきた」
「それと会計官は関係ない」
「帰ってきた記録を、数字だけで減らされては困る」
会計官の眉が動いた。
「誰が減らすと言った」
「重量増加への異議が出ています」
「当然だ。航空機は軽い方がよい」
元白軍将校が言う。
「人間も軽ければよい」
会計官が彼を見る。
「私に痩せろと?」
「機体から降りれば軽くなる」
「黙っていろ!」
軍将校が先に叫んだ。
◇
会議室には、各部門の代表がそろっていた。
偵察。
爆撃。
通信。
衛生。
整備。
地方航空隊。
会計。
さらにTurを実際に運用した操縦士と観測員。
机の上には資料。
油管の擦れた現物。
曲がった主脚。
破損した写真乾板。
後席模型。
そして、飛行バターの小箱。
会計官は最後の一つを指した。
「これは何だ」
軍将校が先に答える。
「食事だ」
「会議資料では」
「ない」
実業家が付け加える。
「ただし必要であれば、帰還慣習の説明に使えます」
「使わなくてよい」
「では休憩時に」
「最初から食わせる気だな!」
◇
元ドイツ技師が説明を始めた。
「Tur A.2案の変更点」
壁へ図面を掲げる。
「胴体後部を二十センチ延長」
「重量増加」
会計官が言う。
「構造重量、十九キロ」
「却下」
「まだ最初だ!」
軍将校が叫ぶ。
技師は続ける。
「後席座席位置を後方へ移動。無線機を左側面へ。写真機架を折り畳み式へ。担架固定具を床面へ埋め込む」
「追加重量」
「装備込みで七キロ」
「合計二十六」
「燃料搭載量を増加」
「さらに?」
「標準状態では十五キロ相当の燃料増」
「四十一」
「無線整備口拡大」
「重量は」
「二キロ未満」
「四十三」
「油管固定具改良」
「それは無償改修で入れた物だろう」
「A.2では標準化する」
「重量」
「左右合計三百六十グラム」
「四十三・三六」
元独立運動家が感心したように言う。
「よく足せるな」
「会計官ですから」
「褒めていない!」
◇
爆撃部門の代表が図面を見る。
「その二十センチが必要か」
「後席が狭い」
技師が答える。
「A.1でも任務はできている」
「できることと、続けられることは違う」
「観測員が我慢すればよい」
会議室の端にいた現役観測員が顔を上げた。
「何時間までですか」
「何が」
「我慢する時間です」
爆撃代表は少し詰まった。
「任務に必要な時間だ」
「三時間、後ろ向きで機銃を持ち、その後すぐ写真機を扱えますか」
「訓練すれば」
「では座ってください」
観測員が後席模型を指した。
爆撃代表は眉をひそめる。
「私は搭乗員ではない」
「設計へ意見を出しています」
軍将校が笑いを噛み殺した。
「座った方が早いぞ」
◇
爆撃代表が模型へ入る。
まず前向き。
地図台。
写真機。
無線機。
「狭くはない」
元ドイツ技師が言う。
「A.2模型だ」
「これは改良後か」
「そうだ」
「ではA.1は」
会議室の隅から、もう一つ小さな模型が運び込まれた。
旧型後席。
爆撃代表の顔が変わった。
「二つ持ってきたのか」
実業家が答える。
「比較用です」
「輸送費は」
「営業費です」
軍将校が小声で言う。
「そこは技術提案費ではないのか」
「会議後に調整します」
「帳簿を会議中に増やすな」
◇
爆撃代表はA.1模型へ入った。
前向き。
膝が無線機へ近い。
座席を回す。
右肩が機銃架へ当たる。
さらに回す。
左膝が無線機へぶつかった。
「痛っ」
会議室が静かになる。
「今のは」
爆撃代表が姿勢を直した。
「私の脚が長いだけだ」
地方航空隊の指揮官が彼を見る。
「私より低いだろう」
「座高の問題だ」
元白軍将校が言う。
「脚を切れば収まる」
「黙れ!」
◇
次に通信将校。
A.1模型へ座る。
無線機の覆いを開ける。
「整備口が狭い」
技師が言った。
「だからA.2では広げた」
「配線へ手が届かない」
「実機でも?」
運用部隊の通信兵が答える。
「手袋を外し、腕を奥まで入れる必要があります」
「飛行場でならできる」
通信将校が言う。
「冬の国境基地で?」
「灯りがあれば」
「吹雪の中で?」
「格納庫を使う」
「格納庫がない基地です」
地方指揮官が答えた。
「だから改善を求めた」
通信将校はA.2模型へ移る。
側面の大きな整備口を開く。
配線。
端子。
無線機固定具。
すべて見える。
「これなら」
会計官がすぐに聞く。
「これなら何だ」
「整備時間が減る」
「何分」
「故障による」
「平均は」
通信将校は運用記録を見る。
「一時間以上は減る」
実業家が即座に記録する。
「整備工数削減」
会計官が顔をしかめた。
「こちらを見るな」
「費用効果の計算に必要です」
「後で出せ!」
◇
軍医も座った。
A.1のC型配置。
担架二床。
折り畳み座席。
医薬品箱。
患者役の兵士も一人、担架へ横になる。
「頭側へ手が届かない」
軍医が言う。
「飛行中に何をする」
会計官が尋ねる。
「気道確認。出血確認。吐いた場合の処置」
軍将校が言う。
「前回出た容器もある」
会計官が嫌そうな顔をした。
「それも装備へ入れるのか」
「必要です」
軍医が答える。
「重量は」
技師が答える。
「容器と固定具で一・一キロ」
会計官がすぐ足す。
「四十四・四六」
「そこまで数えるか」
「一キロを笑うな」
元白軍将校が言う。
「患者の中身が減れば軽くなる」
軍医が彼を睨んだ。
「次に言ったらお前を担架へ載せる」
「健康だ」
「固定訓練に使う」
白軍将校は黙った。
◇
A.2模型では、衛生兵席が少し前へ移されている。
患者の頭側へ手が届く。
床金具は埋め込み式。
担架を出す時に引っかからない。
吐物容器の固定具もある。
「こちらなら処置できる」
軍医が言った。
「専用救急機ほどではないが」
「専用機は地方へ来ない」
地方指揮官が答える。
「Turなら来る」
会計官は資料を見る。
「胴体を延ばすだけで、そこまで変わるか」
技師が答える。
「二十センチは、人間にとって大きい」
「重量も大きい」
「死ぬ者が減るなら必要だ」
会議室が少し静かになった。
◇
偵察部門は燃料増加へ反対した。
「重くなる」
「航続距離が伸びる」
技師が答える。
「増加燃料を毎回満載する必要はない」
「なら標準にするな」
「搭載可能にする」
「構造強化が必要だ」
「既に計算した」
「速度は落ちる」
「長く飛べる」
「高高度性能は」
「わずかに低下」
「偵察機として不利だ」
運用部隊の操縦士が口を挟んだ。
「A.1で任務途中に燃料残量を気にして帰ったことがあります」
「予定を短くすれば」
「敵の配置は予定通りですか」
偵察代表は黙った。
「増加分を全部積まなくてもよい」
操縦士は続けた。
「だが選べることに意味があります」
元独立運動家が言う。
「余裕とは、必要な物を積むためにある」
軍将校が振り返る。
「昔、技師が言ったやつだな」
「覚えていたか」
「何度も聞いた!」
◇
整備部門からは、別の不満が出た。
「新型を増やすと部品が増える」
「A.1と可能な限り共通化する」
技師が答える。
「主翼は」
「基本共通」
「脚は」
「改良表示装置以外、共通」
「発動機架」
「共通」
「尾翼」
「面積を少し増やす案がある」
「共通ではない」
「胴体が伸びるため、安定性を補う」
「予備部品が増える」
「尾翼だけだ」
「後席外板も」
「当然違う」
「無線配線も」
「配置が違う」
整備将校は机を叩く。
「それを新型と言う!」
「だからA.2だ!」
軍将校が叫んだ。
「同じ機体だと言い張ると思ったのに、今日は認めるのだな」
実業家が答える。
「機体契約と装備契約を分ける必要がありますので」
「理由が商売だ!」
◇
会計官は資料を閉じた。
「結局、改良型一機あたり何キロ増える」
技師が答える。
「標準状態で約二十九キロ」
「さっき四十四キロ以上だったぞ」
「十五キロは追加燃料そのものだ。積まなければ増えない」
「では構造と装備で二十九」
「そのうち一部はA.1改修でも増える」
「新型固有分は」
「約二十四キロ」
会計官は考える。
「二十四キロで、後席、整備口、担架、燃料選択、油管、表示装置」
「そうだ」
「速度低下は」
「最高速度で数キロ毎時」
「上昇は」
「少し落ちる」
「またその言葉か」
軍将校が言う。
「重量単位としては禁止したはずだ」
「正式には禁止されていない」
◇
ここで実業家が、別の資料を出した。
A.1運用三か月間
後席起因の任務中断、一件。
無線機整備遅延、七件。
航続距離不足による任務短縮、五件。
担架搭載遅延、三件。
乾板破損、二件。
「これらの費用を計算しました」
会計官が嫌そうな顔をする。
「誰のために」
「あなたのためです」
「頼んでいない」
「重量増加による燃料費上昇と比較できます」
「見せろ」
軍将校が笑った。
「食いついたな」
◇
会計官は数字を追った。
追加燃料費。
整備工数。
任務中断。
再飛行。
交換部品。
患者輸送の遅延。
写真乾板の再撮影。
「二十四キロの増加費用より、不便による費用の方が大きい?」
実業家が答える。
「現在の運用頻度では」
「何年で逆転する」
「一年未満」
「条件は」
「月間飛行時間が現状の七割以上」
「地方部隊なら超える」
地方指揮官が言った。
「中央の予備部隊は下回るかもしれない」
「では全機A.2でなくてもよい」
会計官が言う。
軍将校が顔を上げる。
「採用を考え始めた?」
「数字の話だ」
「座る前は却下と言った」
「座ってはいない」
「では座れ」
◇
会計官は抵抗した。
「私は後席へ乗らない」
「意見は出した」
軍将校が答える。
「会計上の意見だ」
「後席改善費を削る意見だ」
「数字で判断する」
「数字が生まれる場所も見ろ」
地方指揮官がA.1模型の座席を指す。
「五分でよい」
会計官は周囲を見る。
味方はいない。
「五分だけだ」
◇
会計官がA.1模型へ入る。
前向き。
膝は収まる。
「問題ない」
「無線を操作してください」
通信将校が言う。
会計官が左へ手を伸ばす。
肩が座席枠へ当たる。
「写真機へ」
前へ屈む。
帽子が機銃架へ触れる。
「後方警戒」
座席を回す。
膝が無線機へぶつかる。
「痛っ」
会議室の何人かが視線を逸らした。
笑ってはいけない。
「今度は地図を落とさず、無線を送ってください」
「同時に?」
「実際の任務です」
「無理だ」
「記録します」
実業家が書いた。
「記録するな!」
◇
次にA.2模型。
座席を回す。
膝は当たらない。
無線機へ手が届く。
写真機架は折り畳める。
地図は留め具へ固定。
会計官は一周動いた。
「広い」
「二十センチです」
技師が答える。
「二十センチしか違わないのか」
「人間にとっては大きい」
会計官は模型から降りた。
「後席延長は認める」
軍将校が思わず笑った。
「早いな」
「数字と実地の両方で判断した」
「膝が判断したのでは」
「会計判断だ!」
◇
会議は昼を越えた。
休憩。
飛行バターの小箱が開けられる。
黒パン。
バター。
少量の高度不足。
「会議中に酒は」
会計官が言う。
「終了後です」
実業家が答える。
「まだ終わっていない」
「ではパンだけ」
軍将校が最初の一切れを取ろうとする。
元独立運動家が止めた。
「今日は飛んでいない」
「会議へ来た」
「危険を負っていない」
爆撃代表が膝をさする。
「私は負った」
全員が笑った。
◇
最初のパンは、三号機を片発で帰した操縦士へ渡された。
彼は会議の端に座っていた。
「なぜ私へ」
独立運動家が答える。
「この改良の始まりだからだ」
「油管故障は後席と関係ない」
「帰ってきた報告全部から作った」
操縦士はパンを受け取る。
一口。
「うまい」
会計官が尋ねる。
「それに品質検査上の意味はあるのか」
軍将校が答えた。
「もう誰もそこは気にしていない」
◇
午後。
採用条件の話へ進む。
「A.2を全面採用する予算はない」
会計官が言う。
「何機なら」
実業家が尋ねる。
「まだ購入を決めていない」
「試験機は必要です」
技師が言う。
「一機」
「少なすぎる」
「まず一機」
「発動機は軍で用意できるか」
会計官が整備部門を見る。
整備将校は首を振った。
「同系統の在庫は限られる」
軍将校が嫌な顔をする。
「また発動機か」
「民間で二基見つけています」
実業家が言った。
全員が彼を見る。
「いつ」
「昨日」
「なぜ先に言わない!」
「購入承認がなければ価格が上がる可能性があります」
「状態は」
技師が尋ねる。
「一基は完全品。一基は分解保管」
「またか」
「製造番号は近いです」
「近いだけ?」
「連続ではありません」
技師は資料を取った。
◇
会計官は考えた。
「試験機一機。WILKが機体を製作。軍は購入予約を行う」
実業家がすぐに尋ねる。
「前金は」
「半額」
「発動機購入費を含む?」
「上限を設ける」
「試験失敗時は」
「機体を軍が買い取る保証はしない」
「ではWILK側の危険が大きい」
「提案したのはそちらだ」
軍将校が二人の間に入る。
「試験に合格した場合、正式購入」
「一機だけ?」
「追加発注の優先交渉権」
実業家は考える。
「最低三機の追加購入予定を」
「予定は保証ではない」
「だから文書に」
「厚くするな!」
◇
交渉は一時間続いた。
最終条件。
Tur A.2試作一号機、一機。
WILKと軍が費用を分担。
軍は試験用装備、燃料、弾薬を提供。
WILKは機体、発動機調達、設計、製作を担当。
試験合格時、軍は試作機を正式購入。
さらに三機分について優先審査を行う。
不合格時、改修可能なら再試験。
回収不能事故時の責任は、原因調査後に決定。
元白軍将校が最後を読む。
「落ちた後で揉める」
「落とす前提で書くな」
軍将校が言う。
「回収して直す」
「まず落とすな!」
◇
型式名。
Tur A.2
軍の仮称。
改良多用途双発機
工房内での呼び名。
長い野牛
元ドイツ技師が聞いた瞬間、却下した。
「正式名称を使え」
元独立運動家が言う。
「胴体が長い」
「二十センチだ」
「長くなった」
「だからといって」
白軍将校が図面へ小さく書く。
長牛
軍将校が筆を奪った。
「漢字のような物を書くな!」
「記号だ」
「ポーランドの会社だぞ!」
◇
会議終了。
後席模型を荷車へ戻す。
油管。
曲がった主脚。
壊れた乾板。
資料。
全部を積む。
会計官が見送りに来た。
「模型は置いていかないのか」
実業家が尋ねる。
「必要ですか」
「次の予算会議で使う」
軍将校が笑った。
「また誰かを座らせる?」
「数字だけでは分からない者もいる」
元ドイツ技師が言う。
「最初から座れと言った」
「態度が悪いぞ」
「結果は出た」
「それも腹立たしい」
◇
帰路。
荷車は重かった。
後席模型二基。
故障部品。
資料。
空になったバター箱。
元白軍将校が馬を引く。
「試作一機」
「まずはな」
軍将校が答える。
「発動機二基」
技師が言う。
「一基は分解品」
実業家が付け加える。
「予備は」
白軍将校が尋ねる。
全員が黙った。
「ない」
軍将校が答えた。
「また一基壊れたら」
「試験中止」
「別型発動機がある」
「出力不足だ!」
元独立運動家が笑う。
「始まりはいつも同じだな」
「何が」
「機体を作る。発動機が足りない。人が集まる。何か別の物も飛ぶ」
軍将校が嫌な予感を覚えた。
「今回は食品を積むなよ」
実業家が答える。
「振動比較用の候補はあります」
「もうあるのか!」
◇
工房へ戻ると、作業員たちが待っていた。
「どうでした」
若い職人が尋ねる。
軍将校が答える。
「試作一機」
小さな歓声。
「正式採用は」
「試験後だ」
「発動機は」
「探す」
「また?」
「まただ!」
元ドイツ技師は図面を広げる。
「胴体治具を作り直す」
「A.1用は」
「残す」
「共通部分は」
「主翼中央部、脚、前部胴体」
「後席は」
「新規」
「尾翼は」
「拡大」
「装備は」
「可能な限り共通」
作業員たちは次々に持ち場を決め始めた。
誰かが工程表を出す。
誰かが材料在庫を見る。
誰かが工具荷車を空にする。
注文はまだ一機。
だが工房は、もう部隊のように動いていた。
◇
元独立運動家が夕食を配る。
「今日は何だ」
軍将校が尋ねる。
「乳清パン」
「バターは」
「会議で食べた」
「高度不足は」
「帰ってからだ」
元白軍将校が杯を持ち上げる。
「試作決定祝い」
元ドイツ技師が止める。
「図面確認が先だ」
「飲んでから」
「線が曲がる」
「定規を使え」
「お前は図面へ触るな!」
◇
夜。
Tur A.2の図面が、作業場の壁へ貼られた。
少し長い胴体。
少し大きな尾翼。
扱いやすくなった後席。
広い整備口。
大きな燃料切替弁。
埋め込み式担架金具。
帰ってきた十二機から集めた、小さな不便と故障の答え。
軍将校は図面を見上げた。
「性能表だけなら、二十四キロ重くなった機体だ」
実業家が答える。
「整備時間は減ります」
独立運動家が続ける。
「患者へ手が届く」
白軍将校が言う。
「長く飛べる」
技師は最後に答えた。
「戻ってきた記録を無駄にしない」
◇
机の上には、会議で使ったA.1後席模型の写真が残っていた。
膝をぶつけた爆撃将校。
無線機へ腕を突っ込む通信将校。
患者へ手が届かない軍医。
座る前には、皆が言った。
訓練で補える。
現行機で十分。
重量が増える。
座った後には、別の言葉が出た。
ここへ手が届かない。
これは回せない。
これでは患者を見られない。
この二十センチが要る。
WILKは、図面だけで新しい機体を売らなかった。
故障した物を見せた。
帰ってきた者を座らせた。
反対する者にも座らせた。
そして、身動きできなくなったところで尋ねた。
それでも、今のままでよいのかと。
Tur A.2は、空を飛ぶより先に、会議室で最初の勝利を得た。