一九二二年
本試験は、Tur A.2の増加燃料搭載時における航続性能、乗員疲労、後席作業性、無線通信および写真偵察能力を確認するものである。
予定飛行時間、四時間。
後席搭乗員は、飛行中に以下を実施する。
地図照合。
写真撮影。
無線送受信。
後方警戒。
模擬爆撃照準。
担架搭載時を想定した機内移動確認。
爆撃部門代表は、
「二十センチの延長が四時間の任務へ影響するとは考えにくい」
と意見した。
製造側は同代表へ、試験全時間の後席搭乗を求めた。
同代表は公務多忙を理由に辞退した。
製造側は、
「では三時間でよい」
と譲歩した。
同代表は、譲歩の意味が違うと抗議した。
「四時間飛ぶ」
ポーランド軍将校が言った。
作業場の空気が少し重くなった。
元独立運動家がパン切り包丁を止める。
元白軍将校は燃料槽を見た。
実業家は費用表を開く。
元ドイツ帝国軍技師だけが、当然のように答えた。
「必要だ」
「今までより長い」
「増加燃料を積んだ」
「だから試す」
「その通りだ」
軍将校は少し苛立った。
「お前は反対しないのか」
「私が設計した」
「だからこそ慎重になるかと」
「慎重に四時間飛ばす」
「言葉の意味が違う!」
◇
Tur A.2の主な改良点。
胴体後部、二十センチ延長。
後席改善。
燃料搭載量増加。
尾翼拡大。
無線整備性向上。
初飛行では、基本性能しか見ていない。
四十二分。
飛んだ。
曲がった。
片発でも維持した。
帰った。
だが、それだけでは改良の価値を証明できない。
「長く飛べる機体へした」
技師が図面を指した。
「なら長く飛ばす」
「四時間で足りるか」
元白軍将校が尋ねる。
「試験としては」
「六時間」
「燃料はある」
「では六時間」
「乗員が先に疲れる」
「そこを見る試験だろう」
軍将校が顔を上げた。
「六時間はやめろ」
「なぜ」
「私が乗るからだ!」
◇
搭乗者。
前席、軍将校。
後席、量産三号機を片発で帰還させた操縦士。
さらに、地上試験担当として爆撃部門代表。
「なぜ私まで」
爆撃代表が尋ねた。
「後席延長へ疑問を出した」
軍将校が答える。
「会議では既に認めた」
「膝をぶつけてな」
「あれは私の脚が」
「平均以下だ」
「誰が測った!」
実業家が帳簿から顔を上げる。
「会議出席者名簿の身体検査記録です」
「なぜ持っている!」
「軍提出資料にありました」
「使うな!」
◇
最終的に、爆撃代表は後席へ乗らないことになった。
その代わり、A.1後席模型で三時間の地上作業試験を行う。
同じ時間。
同じ姿勢変化。
地図。
無線。
写真機。
機銃操作。
「地上なら意味がない」
爆撃代表が言った。
「振動がない」
技師が答える。
「だからA.1に有利だ」
「何が」
「実機より楽だ」
「それでも三時間座れと?」
「疑問があるなら」
爆撃代表は旧型後席模型を見た。
狭い。
無線機が膝の横。
写真機架が前。
後方機銃架が肩の上。
「二時間では」
軍将校が言う。
「任務は四時間だ」
「三時間へ譲歩した」
「それを譲歩と呼ぶな!」
◇
長時間飛行試験の飛行経路。
WILK工房。
東へ。
川沿い。
国境監視線を模した巡回経路。
北へ。
軍演習場。
西へ。
鉄道線。
南へ。
工房へ帰還。
途中で三か所の写真撮影。
二回の無線報告。
一回の片発模擬。
一回の低速飛行。
「模擬爆撃は」
大尉が尋ねる。
「観測窓から照準だけ」
軍将校が答える。
「爆弾は積まない」
「なぜ」
「四時間も爆弾を抱えて飛びたくない」
元白軍将校が言う。
「実戦では抱える」
「今日は航続試験だ!」
「重量条件が違う」
技師が答える。
「砂袋を積む」
軍将校は額を押さえた。
「結局、同じ重さにするのか」
「試験だからな」
◇
搭載物。
増加燃料。
模擬弾薬重量。
模擬爆弾重量。
写真機。
無線機。
地図。
工具。
乗員二名。
緊急糧食。
飲料水。
「食品試験品は」
実業家が尋ねた。
「積まない」
軍将校が答える。
「長時間飛行なら、保存性比較が」
「積まない」
「少量でも」
「積まない!」
元独立運動家が包みを二つ持ってきた。
「これは乗員用」
「中身は」
「黒パン、塩漬け肉、飛行バター」
「飛行バターは試験品では」
「食事だ」
軍将校は少し考えた。
「それならよい」
実業家が小声で言う。
「搭載実績には残ります」
「記録するな!」
◇
飛行前。
燃料を入れる。
A.1より多い。
主槽。
補助槽。
左右。
量を測る。
漏れ。
弁。
配管。
元ドイツ技師は、給油口から目を離さない。
「満載に近い」
「重いな」
軍将校が答える。
「離陸距離が伸びる」
「滑走路は足りるか」
「乾いている」
全員が地面を見る。
前日、雨はない。
牛もいない。
柵も外されている。
「珍しく条件がよい」
元白軍将校が言った。
「言うな」
「何が」
「悪くなる気がする」
◇
離陸滑走。
長い。
A.2は重い。
発動機は二基とも安定。
大きな翼が速度を待つ。
「まだか」
軍将校が言う。
「速度不足」
後席の操縦士が計器を見る。
「あと少し」
滑走路端。
畑。
低い生け垣。
「今!」
操縦桿を引く。
A.2はゆっくり浮いた。
大車輪が生け垣の上を越える。
「重い」
「燃料だ」
「二十センチではない?」
「人間は重さを感じ分けられん!」
◇
高度を取る。
五百メートル。
七百。
巡航出力。
燃料切替。
まず主槽。
「補助槽は後」
「記録開始」
後席の操縦士は地図を開く。
A.1と違い、膝へ当たらない。
無線機へ手を伸ばす。
写真機架を展開する。
「どうだ」
軍将校が尋ねる。
「動ける」
「まだ十五分だ」
「三時間後に聞け」
「爆撃代表にも聞こう」
◇
地上。
爆撃代表はA.1後席模型へ座っていた。
前には大尉。
横には通信将校。
実業家は時間を記録。
「地図を開いてください」
大尉が言う。
「地上の地図?」
「飛行経路と同じものです」
「写真機を準備」
「模擬操作でよいだろう」
「実機と同じ手順です」
「無線報告」
「無線機は動かない」
「送信文を読み上げてください」
爆撃代表は地図を開く。
膝が無線機へ触れる。
「まだ問題ない」
実業家が記録した。
開始十五分。本人、問題なしと発言。
「そこまで書くな」
◇
飛行一時間。
第一撮影地点。
川と鉄道の交差部。
「右へ五度」
後席から指示。
「五度?」
「少し右」
「数字で言えと言っただろう」
「今言った!」
A.2が傾く。
写真機。
一枚。
二枚。
乾板交換。
無線。
「第一地点撮影完了」
雑音。
……第一……撮影……了解。
「聞こえた」
「A.1より雑音が少ない」
「配線位置を変えた」
「整備口だけではなかった?」
「配線も短くした」
「改良書へ書いてある」
「全部は覚えられん!」
◇
地上、一時間。
爆撃代表は座席を後ろへ回していた。
右膝が無線機へ当たる。
少し姿勢を変える。
機銃架へ肩。
「問題ないですか」
実業家が尋ねる。
「問題ない」
「姿勢を変えました」
「人間は姿勢を変える」
「変更理由は」
「自然な動作だ」
通信将校が言う。
「無線操作へ戻ってください」
「後方警戒中だ」
「敵機通過後を想定」
「今すぐ?」
「実戦では待ってくれません」
爆撃代表は座席を戻す。
地図が床へ落ちた。
会議室が静かになる。
「留め具が悪い」
大尉が答える。
「A.1標準留め具です」
「今日は古い物を使っている?」
「比較試験です」
実業家が記録した。
一時間七分。地図落下。
「嬉しそうに書くな!」
◇
飛行一時間半。
片発模擬。
左発動機を絞る。
右だけで維持。
燃料満載に近い。
高度は少しずつ落ちる。
「方向維持は」
「A.1より楽」
「尾翼効果」
「ただし重い」
「当然だ」
「片発で長く飛ぶのは嫌だな」
「帰れる場所を探す」
「最寄りの草地は」
「地図上、北西に二か所」
「後席が仕事をしている」
「誰が乗っていると思っている」
◇
二時間。
乗員は、まだ余裕がある。
軍将校は肩を回す。
後席の操縦士は、地図台を畳んで食事を取った。
「食べられるか」
「前より楽」
「A.1では」
「膝の上だった」
「今は」
「地図台を半分畳める」
「パン屑を無線へ落とすな」
「設計者みたいなことを言うな」
黒パン。
塩漬け肉。
バター。
機体は巡航を続ける。
「飛行中に飛行バターを食う」
軍将校が言った。
「二度飛んだことになる?」
「数えるな」
◇
地上、二時間。
爆撃代表は目に見えて不機嫌になっていた。
「まだ一時間あるのか」
「三時間の試験です」
実業家が答える。
「飛行は四時間だろう」
「譲歩しました」
「譲歩の顔をするな」
大尉が次の指示を出す。
「写真機操作」
「また?」
「第二撮影地点です」
「地上なのに」
「手順試験です」
爆撃代表は前へ屈む。
写真機架を開く。
帽子が機銃架へ当たる。
「外せばよい」
「飛行帽は外せません」
「今は帽子だ」
「条件を揃えています」
「誰がこんな試験を考えた!」
会議室の全員がWILK側を見る。
◇
飛行二時間半。
第二撮影地点。
演習場。
模擬陣地。
写真撮影。
次に観測窓。
模擬爆撃照準。
「目標確認」
「速度一定」
「左へ少し」
「何度」
「三度」
「細かいな」
「照準だからだ!」
観測員は前方下部を見る。
座席を少しずらす。
膝が当たらない。
体を戻す。
「どうだ」
「まだ動ける」
「A.1なら」
「二時間半で腰が固まる」
「二十センチは」
「必要だ」
「二人目の証言だ」
◇
地上、二時間半。
爆撃代表はA.1模型の中で、完全に動きが遅くなっていた。
「後方警戒」
大尉が言う。
「今?」
「敵機想定」
座席を回す。
膝が無線機へ。
肩が機銃架へ。
腰をひねる。
「痛っ」
実業家が筆を動かす。
「今のは記録するな」
「試験中の発言です」
「筋肉が固まっただけだ」
通信将校が答える。
「飛行中も固まります」
「振動があれば逆にほぐれるかもしれない」
「その理屈で実機へ乗りますか」
爆撃代表は黙った。
◇
三時間。
A.2は予定経路の北端を回った。
燃料残量。
十分。
主槽から補助槽へ。
大きな切替弁。
手袋越しでも分かる。
「補助槽」
「四角」
「切替」
「圧力安定」
「流量」
「正常」
後席の操縦士は、片手で無線を送りながら地図を押さえた。
「第三地点へ向かう」
……第三……了解。
「まだ声は出るか」
軍将校が尋ねる。
「蜂蜜水がある」
「食品部の?」
「乗員用だ」
「喉に効くな」
「認めた?」
「軍用飲料としては」
「実業家には言うな」
無線は地上へ全部流れていた。
◇
工房の受信室。
実業家が蜂蜜水の話を聞いた。
「記録しました」
軍将校の声。
記録するな。
受信室が笑いに包まれた。
◇
地上、三時間。
爆撃代表は試験終了を告げられた。
模型から出ようとする。
足がしびれている。
立つ。
少しよろける。
大尉が支える。
「問題ありませんか」
「問題ない」
「歩けますか」
「歩ける」
一歩。
二歩。
膝を伸ばす。
「A.2模型にも座りますか」
実業家が尋ねる。
「今から?」
「比較のため十五分」
「もう十分だ!」
「では従来後席三時間の所見を」
爆撃代表は旧型模型を見た。
「任務は可能だ」
「はい」
「だが連続使用では疲労が大きい」
「はい」
「二十センチは……」
全員が待つ。
「有用だ」
実業家が大きく書いた。
「そんなに大きく書くな!」
◇
飛行三時間半。
帰路。
軍将校にも疲れが出ていた。
操縦桿。
計器。
発動機音。
同じ姿勢。
「前席も広げるか」
後席から声。
「次の改良を増やすな」
「疲れている」
「操縦士は動けないのが普通だ」
「普通を改善しては」
「機体が大きくなる」
「二十センチ」
「どこへ入れる!」
「前へ」
「重心が変わる!」
後席から笑い声。
まだ余裕はある。
◇
最後の試験。
無線機の一部を飛行中に点検する。
もちろん分解はしない。
整備口を開く。
端子確認。
配線。
振動。
「見える」
「手は届くか」
「届く」
「A.1では」
「腕を奥まで入れる」
「飛行中は無理だな」
「A.2でも修理は無理」
「確認だけ?」
「それでよい。接触不良なら押さえられる」
直後、無線に雑音。
操縦士が端子を押さえる。
雑音が減る。
「本当に役に立った」
「偶然だ」
「設計したのは技師だ」
「なら必然か」
「帰って報告しよう」
◇
飛行四時間十二分。
WILK工房が見えた。
煙突。
北側作業棟。
草地。
待つ人々。
「帰った」
後席の操縦士が言う。
「まだ着陸していない」
「見えたからな」
「油断するな」
脚を下ろす。
左右固定。
燃料。
発動機。
風。
着陸進入。
A.2は重い。
だが燃料を使った分、離陸時より軽い。
大きな尾翼が低速で効く。
接地。
一度。
少し跳ねる。
二度目。
車輪が草地を掴む。
直進。
停止。
◇
発動機が止まる。
作業員たちが近づく。
元ドイツ技師は、機体より先に乗員を見る。
「異常は」
「腰」
軍将校が答える。
「機体は」
「後でよい」
技師が一瞬黙った。
元独立運動家が笑う。
「覚えたな」
「乗員報告を先に聞くと書いた」
「技術文書に?」
「軍将校が書いた」
軍将校は操縦席から降りる。
足が少し固い。
「四時間は長い」
「後席は」
技師が尋ねる。
担当操縦士が降りる。
肩を回す。
「疲れた」
「A.1と比べて」
「かなり楽だ」
「作業は」
「全部できた」
「膝は」
「当たらない」
「二十センチは」
「必要だ」
◇
元独立運動家がパンを渡す。
「最初の一口」
軍将校が受け取る。
「今日は長かった」
「その分、大きく切った」
「規則が雑だな」
「腹が減っている」
後席の操縦士にも。
黒パン。
バター。
蜂蜜水。
「高度不足は」
軍将校が尋ねる。
「今日はなし」
「なぜ」
「疲れている時に飲ませるなと軍医が」
「まともだ」
「代わりに温かいスープ」
作業場の外には鍋がある。
四時間飛んだ者。
三時間座った者。
待っていた者。
皆に配られる。
◇
爆撃代表も工房へ来ていた。
歩き方が少し硬い。
軍将校が見つける。
「三時間どうだった」
「地上試験としては不完全だ」
「所見は」
「A.1でも任務はできる」
「それは知っている」
「だがA.2の方がよい」
「二十センチは」
爆撃代表は軍将校を睨んだ。
「必要だ」
周囲から小さな拍手。
「拍手するな!」
◇
飛行後点検。
燃料消費。
計算値以内。
発動機。
正常。
油管。
接触なし。
後席床。
異常なし。
写真乾板。
破損なし。
無線機。
一時的な端子緩み。
「飛行中に押さえて改善」
技師が記録する。
「整備口拡大が役立った」
通信将校が答える。
「恒久対策は」
「端子留めへばね座金」
「重量は」
軍将校が反射的に聞く。
「全体で百グラム未満」
「なら付けろ」
「即決だな」
「四時間飛んだ後に無線が切れる方が困る!」
◇
写真。
第一地点。
良好。
第二地点。
わずかに傾き。
第三地点。
良好。
地図記録。
無線記録。
燃料切替。
片発模擬。
すべて合格。
唯一、操縦士から出た新しい不満。
前席座席の腰当てが硬い。
元ドイツ技師が軍将校を見る。
「いつから」
「二時間半くらい」
「なぜ飛行中に言わなかった」
「後席の試験だったからだ」
「前席も人間が座る」
「今気づいた」
元独立運動家が言う。
「詰め物を入れる」
「重量は」
軍将校が尋ねる。
「そこまで気にするか」
「習慣だ!」
◇
翌日。
航空部へ試験報告が送られた。
Tur A.2試作一号機、長時間飛行四時間十二分。
増加燃料系統、異常なし。
後席における地図、写真、無線、後方警戒および照準作業、継続可能。
A.1比、搭乗員疲労は明確に低減。
無線端子固定部に軽微な緩み。改修予定。
前席腰当て改善要求あり。
その下に、比較試験結果。
A.1後席模型三時間着席者、一名。
地図落下、一回。
機銃架接触、二回。
無線機接触、四回。
脚部しびれ、試験終了時に確認。
本人所見、
「A.2の二十センチ延長は有用」
軍将校が報告を読んだ。
「本人所見をそのまま入れたのか」
実業家が答える。
「重要な証言です」
「脚部しびれまで?」
「客観的結果です」
爆撃代表から電報が届いた。
脚部しびれは一時的。
過大評価するな。
技師はその電報も報告書へ添付した。
◇
三日後。
航空部から返信。
長時間飛行試験結果、概ね良好。
Tur A.2試作機を正式購入する。
追加三機について、予算審査を開始する。
後席延長効果は認める。
ただし重量増加抑制を継続せよ。
爆撃部門より、比較試験方法に心理的圧力があったとの異議あり。
軍将校は最後の一行を読む。
「心理的圧力?」
元白軍将校が答える。
「三時間座らせた」
「自分で疑問を出したのだろう」
元独立運動家が言う。
「座れば分かる」
実業家は追加三機の見積書を開いた。
「予算審査です」
「まだ注文ではないぞ」
「準備は必要です」
「前金は」
「まだです」
「なら動くな」
元ドイツ技師は既に図面を修正していた。
「端子留め。腰当て。後席換気」
「換気?」
軍将校が聞く。
「四時間では空気がこもる」
「また改良が増えた」
「戻ってきた報告だ」
誰も止められなかった。
◇
北側作業棟の壁に、説明用の木箱が掛けられた。
二百ミリメートル
その横に、新しい札。
四時間飛ぶ者へ、二十センチを惜しむな。
元ドイツ技師が見つけた。
「誰が書いた」
爆撃代表ではない。
軍将校でもない。
若い観測員たちだった。
「消すか」
軍将校が尋ねる。
技師は札を見た。
少し考える。
「測定値を付け足せ」
「何を」
「疲労低減率」
「数値化できるか」
「今後の試験で」
軍将校は笑った。
「消す気はないのだな」
◇
性能表の二十センチは、小さな数字だった。
全長の中では、見落とすほど。
重量表では、むしろ余計な二十四キロを生んだ変更。
だが三時間座った者には分かった。
四時間飛んだ者には、もっと分かった。
地図を落とさずに済む。
無線機へ膝をぶつけない。
写真を撮った後、そのまま後ろを向ける。
腰を曲げたまま任務を終えずに済む。
帰ってきた時、自分の足で機体から降りられる。
速さではない。
爆弾の数でもない。
機体の中にいる人間が、最後まで仕事を続けられる空間。
Tur A.2は、四時間の飛行でそれを証明した。
そしてWILKは、次の試験計画書を開いた。
不整地連続運用試験。
期間、七日間。
軍将校は紙を読んだ。
「今度は七日?」
元白軍将校が答える。
「三時間座るより長い」
「単位が違う!」
元独立運動家は食料一覧を作り始める。
実業家は試験場使用料を計算する。
元ドイツ技師は予備主脚を確認する。
軍将校だけが、まだ計画書の一行目を見ていた。
「七日間、どこで寝る気だ」
実業家が答える。
「機体の隣です」
「嫌な予感しかしない!」