一九二二年
試験期間、七日間。
使用飛行場、地方演習地内仮設草地。
格納庫、なし。
舗装滑走路、なし。
恒久整備設備、なし。
配置人員は、操縦士二名、観測員二名、整備兵八名、衛生兵一名、通信兵一名、製造側技術員三名、軍監督官一名とする。
試験期間中、Tur A.2は偵察、連絡、模擬攻撃、患者輸送、補給投下および夜間待機を実施する。
製造側は、
「工房へ戻さず、現地にある物だけで飛ばし続ける」
と説明した。
軍監督官は、重大故障時の帰投を認めるよう求めた。
製造側は、
「帰投した時点で試験終了」
と回答した。
軍監督官は、試験計画の標題を、
「七日間、壊すな」
へ変更するよう提案した。
採用されなかった。
「七日間、帰るな」
元ドイツ帝国軍技師が言った。
ポーランド軍将校は、しばらく彼を見た。
「誰が」
「機体が」
「人間は?」
「現地に残る」
「つまり全員帰らないのではないか!」
「試験期間中はな」
作業場の机には、七日分の計画書が広がっていた。
飛行予定。
整備予定。
換装予定。
燃料。
弾薬。
工具。
食料。
寝具。
予備部品。
元独立運動家は食料欄を見ている。
「人数が多い」
実業家が答える。
「軍側十二名。WILK側四名」
「軍監督官を含めて?」
「はい」
軍将校が顔を上げた。
「私も数に入っている?」
「監督官です」
「誰が決めた!」
大尉が目を逸らした。
「航空部です」
「なぜ私なのだ!」
「Turを一番知っている軍人だからです」
「褒められている気がしない!」
◇
試験地は、地方の演習場だった。
草地。
低い丘。
近くに森。
小川。
道路はあるが、雨が降れば泥になる。
格納庫はない。
整備小屋だけ。
屋根はある。
壁は半分しかない。
「よい場所だ」
元白軍将校が言った。
「どこが」
軍将校が尋ねる。
「壊れやすい」
「試験目的を壊すな!」
「壊れれば弱い所が分かる」
「七日間飛ばす試験だぞ」
「七日目に壊れれば成功」
「成功ではない!」
◇
Tur A.2試作一号機へ、必要物資が積まれた。
A型偵察装備。
B型攻撃装備。
C型救急装備。
全部を同時には積まない。
換装用の地上荷車へ分ける。
予備主脚一本。
予備尾輪。
操縦索。
油管。
燃料弁。
点火線。
無線端子。
布。
木材。
接着剤。
針金。
ボルト。
工具。
「予備発動機は」
軍将校が尋ねた。
「ない」
技師が答える。
「なぜ」
「現地で交換できる設備がない」
「発動機が壊れたら」
「片方で帰る」
「帰ったら試験終了では」
「重大故障なら仕方ない」
「最初に認めろ!」
元白軍将校が言う。
「分解して直す」
「七日間で?」
「寝なければ」
元独立運動家が即座に止めた。
「寝る」
「交代で」
「全員寝る」
「戦場では」
「今は試験だ」
「正しい」
技師が頷いた。
軍将校が驚く。
「お前も人を寝かせるのか」
「疲れた整備兵はボルトを落とす」
「理由が技術だ!」
◇
食料は、独立運動家が管理した。
黒パン。
干し肉。
豆。
玉葱。
じゃがいも。
塩。
蜂蜜。
バター。
高度不足。
「最後は酒だろう」
軍将校が言った。
「試験終了後用」
「七日分あるぞ」
「一日一杯なら」
「勤務中に飲ませるな」
「夜間待機後なら」
「駄目だ!」
実業家が別の箱を示す。
「飛行食品試験部から、保存食候補も届いています」
「何だ」
「乳清パン。果実入り硬焼きパン。蜂蜜塩水」
「蜂蜜塩水?」
「長時間作業者向け」
「軍用試験へ商品試験を混ぜるな」
「食事評価は別紙です」
「混ざっている!」
◇
試験地への移動は、二日かかった。
Tur A.2は空路。
人員と装備は鉄道と荷車。
先に到着した機体は、草地の端で待っていた。
機体覆い。
車輪止め。
主翼固定索。
夜露対策。
軍将校が到着すると、技師が機体の下に寝転がっていた。
「何をしている」
「油漏れ確認」
「到着直後から?」
「夜を越えた」
「異常は」
「ない」
「なら起きろ」
「脚固定部を見る」
「先に飯を食え!」
◇
一日目。
天候、晴れ。
地面、乾燥。
任務、写真偵察と無線連絡。
A型装備。
離陸。
草地は長い。
だが平坦ではない。
車輪が小さく跳ねる。
「振動大」
後席の観測員が言う。
「空へ上がれば減る」
軍将校が答える。
「脚は」
「まだ付いている!」
A.2は浮く。
低空。
丘と森。
写真撮影。
無線報告。
帰還。
着陸時、大車輪が窪みを越える。
機体が跳ねる。
「一度」
軍将校が叫ぶ。
「二度目の接地!」
今度は収まる。
停止。
◇
整備兵がすぐに集まる。
「左脚」
「異常なし」
「右脚」
「固定部、緩みなし」
「尾輪」
「泥が入っています」
「清掃」
技師が時間を測る。
「飛行後点検、二十三分」
「工房では?」
軍将校が尋ねる。
「十五分」
「遅い」
「地面が悪い」
「工具荷車は」
「大車輪にしてよかった」
元白軍将校が得意そうに言った。
技師は答えなかった。
「認めろ」
「役に立った」
「聞こえない」
「役に立った!」
◇
一日目午後。
A型からB型へ換装。
写真機を外す。
増加燃料を減らす。
模擬爆弾。
前方機銃弾薬。
後方機銃。
「換装時間」
技師が時計を見る。
「二時間十四分」
「工房より遅い」
整備班長が答える。
「草地です」
「工具を落とす」
「敷物を使う」
元独立運動家が古い帆布を広げた。
工具と部品。
泥へ落ちない。
「よい」
技師が記録する。
「現地換装用敷布」
実業家が価格を計算し始める。
軍将校が止めた。
「まだ試験中だ!」
◇
模擬地上攻撃。
木製陣地。
機銃掃射。
模擬爆弾投下。
命中率は悪くない。
A.2の操縦性はA.1より安定している。
だが重い。
引き起こしが少し鈍い。
「高度!」
後席から声。
「分かっている!」
「木に近い!」
「見えている!」
Turは樹冠の上を越える。
「二十センチ長い分、尾が遅れる」
「そんな感覚あるか!」
「今作った!」
◇
着陸後。
前方機銃架の固定具が少し緩んでいた。
「反動」
技師が言う。
「A.1でもあった」
「A.2で位置は変えていない」
「締付不足?」
「印は合っている」
「草地振動と射撃の組合せ」
元白軍将校が言う。
「もっと太いボルト」
「重くなる」
「必要な重さ」
軍将校が先に答えた。
「今日は言わせるな」
技師は固定方法を変えた。
二重ナット。
緩み止め板。
「百二十グラム」
「付けろ」
「判断が早い」
「初日から機銃が落ちる方が困る!」
◇
二日目。
朝から雨。
地面は柔らかい。
試験中止案が出た。
元白軍将校が首を振る。
「飛ぶ」
軍将校が答える。
「滑走路が泥だ」
「だから試験だ」
「本当に飛べるか」
技師が地面を歩く。
長靴が沈む。
「燃料を減らす」
「装備は」
「C型」
「患者輸送?」
「軽い」
軍医が言った。
「雨の日ほど患者は運ばれる」
軍将校は空を見る。
「一回だけだ」
◇
C型換装。
担架二床。
医薬品。
前方機銃一挺。
後方機銃なし。
燃料少なめ。
患者役二名。
一人は軍監督官が選ばれた。
「なぜ私が」
「実際に乗って評価してください」
軍医が答える。
「私は操縦する」
「今日は別の操縦士がいます」
大尉が笑っている。
「仕組んだな」
「座ってから決めろ、です」
「私はもう座ったことがある!」
「担架ではない」
◇
軍将校は上段担架へ載せられた。
「狭い」
「患者は動かない」
元白軍将校が前話の言葉を返す。
「それは私の台詞ではない!」
「吐物容器は」
軍医が尋ねる。
「要らん!」
「評価してください」
「使わない評価でよい!」
担架固定。
頭側。
足側。
ベルト。
「締めすぎだ」
「乱気流想定」
「まだ地上だ!」
◇
Tur A.2は泥の草地を走った。
車輪が沈む。
泥が跳ねる。
速度が上がらない。
前席の操縦士が出力を上げる。
発動機音。
大きな翼。
機体が重く揺れる。
担架の軍将校が叫んだ。
「まだか!」
軍医が答える。
「患者は静かに!」
「私は監督官だ!」
「今は患者役です!」
滑走路端。
A.2はようやく浮いた。
車輪から泥が落ちる。
「離陸」
軍医が言う。
「見えん!」
「患者は普通見えません」
「不安だな!」
「それを評価してください」
◇
飛行時間、三十七分。
担架上。
軍将校は天井を見る。
音。
振動。
旋回。
何もできない。
「患者は暇だな」
「重傷者は暇を気にしません」
軍医が答える。
「頭へ手が届くか」
「届きます」
「脈は」
「取れます」
「吐いたら」
「容器があります」
「もう聞かん」
着陸。
泥。
一度目の接地で左へ流れる。
操縦士が修正。
右車輪が深く沈む。
機体が傾く。
「右脚!」
「耐えています!」
減速。
停止。
◇
軍将校は担架のまま降ろされた。
「歩ける」
「訓練です」
「自分で降りる!」
「患者役を続けてください」
地上へ。
雨。
泥。
軍医が時間を測る。
「機体停止から救護所まで、三分五十秒」
「合格か」
「担架取り出しはA.1より早い」
「二十センチのおかげ?」
「床金具と通路です」
「二十四キロの価値は」
「患者としてはある」
実業家が記録する。
「その証言は消せ!」
◇
右主脚には泥が詰まっていた。
格納部。
固定爪。
車輪覆い。
「半引込式の弱点だ」
技師が言う。
「泥が入る」
「完全固定脚なら」
「抵抗が増える」
「完全引込なら」
「もっと泥に弱い」
「清掃口を増やす」
整備兵が提案した。
「ここから棒を入れれば」
「泥を落とせる」
「蓋を付ける」
「工具なしで開けたい」
「ばね留め」
軍将校が言う。
「また重量」
「左右合計八百グラム」
「必要だ」
「今日は何度目だ」
◇
三日目。
雨は止んだ。
地面は泥。
風が強い。
任務、連絡将校輸送と補給投下。
貨物。
命令書。
無線電池。
医薬品。
パン。
「パンは補給物資だ」
軍将校が先に言った。
実業家が驚く。
「認めましたね」
「兵士が食う!」
「飛行食品として」
「軍用糧食だ!」
元独立運動家は樽を一つ持ってきた。
「高度不足も」
「酒を投下するな」
「消毒用」
「飲む気だろう!」
◇
補給投下地点は丘の向こう。
風が強い。
箱へ落下傘。
低高度。
投下。
一箱目。
目標から十五メートル。
二箱目。
風で流れ、三十八メートル。
三箱目。
パン袋。
目標近く。
ただし地面へ落ちた後、袋が開いた。
黒パンが草地へ散る。
地上兵が走る。
「回収!」
「泥を払え!」
「まだ食える!」
軍将校は上空から見た。
「容器を改良しろ」
後席の観測員が答える。
「食品側へ?」
「軍用補給袋だ!」
◇
着陸後。
左発動機から油が一滴。
技師が即座に潜る。
「漏れ?」
「接合部に滲み」
「飛行停止か」
「締付確認」
配管。
金具。
油管固定改修部は無事。
別の接合部。
「振動で緩んだ」
「二重ナットは」
「ここにはない」
「付ける?」
「温度変化がある。座金を変える」
予備部品箱。
ない。
「工房ならある」
軍将校が言う。
「帰るか」
「帰らない」
技師が答える。
「現地で作る」
「何から」
元白軍将校が工具荷車を探る。
「薄いばね鋼板」
「あるのか」
「機銃架用予備」
「用途外使用だ」
「寸法を記録して加工する」
技師が答えた。
白軍将校が笑う。
「現場合わせ」
「図面を描いてからだ!」
◇
ばね座金を切る。
加熱。
曲げる。
冷やす。
測る。
取り付ける。
二時間。
地上運転。
漏れなし。
「修理成功」
軍将校が言う。
「仮修理だ」
「七日間持てば」
「帰還後に正式部品へ交換」
実業家が帳簿へ記録する。
「現地製造部品一個」
「価格を付けるな」
「工数記録です」
◇
四日目。
朝霧。
視界不良。
飛行は遅れた。
整備と地上訓練。
装備換装。
無線点検。
燃料抜き取り。
脚清掃。
布張り確認。
「飛ばない日も忙しい」
若い整備兵が言う。
元白軍将校が答える。
「飛ばすために忙しい」
元独立運動家は濡れた靴を乾かしている。
「人間も整備する」
「何を」
「靴下を替えろ」
整備兵たちは従った。
軍将校が言う。
「航空機の試験だぞ」
「足が腐れば整備できない」
「正しい」
技師が頷いた。
「お前の正しさの基準は作業継続か!」
◇
午後、霧が晴れる。
短距離偵察。
A型。
写真機。
無線。
離陸。
上空は晴れている。
地上には霧の名残。
写真は美しかった。
森。
川。
白い霧。
軍事情報としては使いにくい。
「見えない」
観測員が言う。
「地上部隊も見えない」
「敵も隠れる」
「写真を撮る?」
「霧の範囲を記録する」
帰還後、偵察将校は写真を見る。
「役に立つ」
「何が」
「見えない場所が分かる」
軍将校が言った。
「当たらなくても役に立つの次は、写らなくても役に立つか」
◇
五日目。
冷え込み。
夜露が凍る。
主翼上面に薄い霜。
「飛ばせない」
技師が言う。
「落とす」
白軍将校が布を持つ。
「削るな」
「布で拭く」
「温水は」
「再凍結する」
独立運動家が温めた布袋を持ってくる。
「直接水をかけない」
「よい」
主翼へ置く。
霜が緩む。
乾いた布で拭う。
「食品部の保温袋です」
実業家が言う。
「何に使っていた」
「パン生地」
「また食品が航空機を救った!」
◇
その日の任務は、砲兵観測。
寒い。
無線機の調子が悪い。
送信鍵が重い。
後席の観測員が手袋を外す。
「冷たい!」
「大きな弁は手袋で使える」
「無線鍵も大きくすべきだ」
「帰ったら提案しろ」
「今使えない!」
観測員は鉛筆へ布を巻いた。
太くする。
送信鍵を押しやすい。
「即席だな」
「記録する」
着陸後、技師が試す。
「冬季用拡張つまみ」
「交換式に」
実業家が言う。
「別売り?」
軍将校が睨む。
「標準装備です」
「学んだな」
◇
六日目。
強風。
飛行中止。
軍将校は試験計画を見る。
「七日中、二日も十分に飛べない」
技師が答える。
「それも運用だ」
「飛ばない試験?」
「待機と整備」
「性能表には出ない」
「現場では多い」
元白軍将校が主翼固定索を確認する。
「風で機体が動く」
「杭を追加」
「地面が柔らかい」
「長い杭」
「工具荷車の予備を」
「それは車輪軸だ!」
「太い」
「使うな!」
◇
夜。
風がさらに強まる。
機体覆いが鳴る。
固定索が張る。
全員が起きた。
「左主翼!」
「索が緩んだ!」
「杭が浮いている!」
雨上がりの地面。
強風。
機体が揺れる。
Tur A.2は飛んでいない。
だが空へ持っていかれようとしている。
「人を乗せる」
元白軍将校が言う。
「重しに?」
「機体を押さえる」
「危険だ」
技師が止める。
「追加索を荷車へ」
工具荷車。
燃料車。
食料荷車。
三方向へ固定。
「食品荷車まで使うのか」
軍将校が叫ぶ。
「重い!」
「中身は」
「パンとじゃがいも!」
「役に立つ!」
◇
風は夜明け前に弱まった。
機体は無事。
主翼固定点。
異常なし。
尾輪。
少し横荷重。
固定索。
二本交換。
「飛ばなくても壊れる」
軍将校が言った。
「だから夜間待機試験だ」
技師が答える。
「計画したのか」
「強風は計画していない」
「では偶然」
「現場では偶然も仕事になる」
実業家は食料荷車の損傷を見る。
「車輪が一つ曲がりました」
「航空試験費で直す?」
「食品部設備です」
「会社内で請求し合うな!」
◇
七日目。
晴れ。
風、弱い。
地面、まだ湿っている。
最後の任務。
全装備連続換装。
A型で偵察。
帰還後B型へ。
模擬攻撃。
さらにC型へ。
患者輸送。
「一日で全部?」
軍将校が尋ねる。
「七日目の総合試験」
技師が答える。
「整備兵が疲れている」
独立運動家が言う。
「交代を増やす」
「昨日ほとんど寝ていない」
「なら開始を遅らせる」
元白軍将校が反対する。
「日が暮れる」
「途中で終わってもよい」
技師が言った。
軍将校が驚く。
「完遂しない?」
「疲労で事故を起こすよりよい」
独立運動家が頷く。
「人間も試験条件だ」
◇
A型任務。
成功。
写真撮影。
無線報告。
帰還。
換装。
二時間三十一分。
初日より速い。
B型任務。
模擬攻撃。
機銃。
爆弾。
帰還。
機銃架固定具、異常なし。
換装。
C型。
三時間近い。
日が傾く。
「患者輸送は中止か」
軍将校が尋ねる。
軍医が空を見る。
「飛行時間は短い」
操縦士。
整備班。
全員へ確認。
「行けるか」
「行けます」
「無理なら言え」
「行けます」
独立運動家が一人ずつ顔を見る。
「本当に?」
整備班長が答える。
「あと一便なら」
◇
最後の患者役は二人。
一人は若い整備兵。
もう一人は実業家。
「なぜ私が」
実業家が尋ねる。
「帳簿では分からない」
軍将校が答えた。
「会計官方式?」
「座ってから決めろ」
「担架ですが」
「寝てから決めろ」
実業家は上段担架へ固定された。
「契約上の扱いは」
「患者役だ!」
◇
夕暮れの離陸。
短い飛行。
仮設救護所から基地側草地へ。
機内は暗くなり始める。
後席の軍医が地図灯を使う。
覆い。
眩しくない。
A.2の改良が役立つ。
「灯りは」
実業家が担架から尋ねる。
「問題なし」
「患者の顔は見える?」
「見えます」
「記録してください」
「寝ていろ!」
◇
着陸。
七日目。
最後の便。
接地。
停止。
発動機が止まる。
夕暮れの草地。
誰もすぐには歓声を上げなかった。
疲れていた。
ただ、全員が機体を見た。
主翼。
脚。
胴体。
二基の発動機。
七日間、工房へ戻らなかった。
雨。
泥。
霧。
霜。
強風。
油漏れ。
緩んだ機銃架。
詰まった主脚。
現地で作った座金。
食料荷車へ結んだ固定索。
それでも最後まで飛んだ。
◇
実業家が担架から降ろされる。
「どうでした」
軍医が尋ねる。
「狭くはない」
「処置は」
「手が届いていました」
「揺れは」
「帳簿を書けない程度」
「患者は帳簿を書かない」
「改善余地があります」
軍将校が言った。
「担架へ机を付けるなよ」
実業家は少し考えた。
「折り畳み式なら」
「考えるな!」
◇
七日間の結果。
飛行回数、十一回。
任務完遂、十回。
天候による中止、三件。
重大故障、なし。
現地修理、二件。
機銃架固定具。
発動機油管接合部。
主脚泥詰まり。
霜除去。
無線鍵。
強風固定。
細かな問題は多い。
だが工房へ戻る必要はなかった。
「合格か」
軍将校が尋ねる。
元ドイツ技師は記録を見る。
「不整地連続運用、合格」
皆が息を吐いた。
「今度は喜べ」
技師はTur A.2を見る。
「七日間、帰らなかった」
「帰れなかったのでは」
「帰る必要がなかった」
元独立運動家が笑う。
「それは強いな」
◇
試験終了の食事。
大鍋のスープ。
黒パン。
飛行バター。
高度不足。
今度は正式に開けられた。
「勤務終了」
軍将校が杯を持つ。
「七日間」
元白軍将校が言う。
「機体へ」
技師が言う。
「人間へ」
独立運動家が続ける。
「会社へ」
実業家が言った。
「全部だ」
軍将校がまとめた。
◇
最初の一匙。
今回は操縦士だけではなかった。
七日間、誰か一人が飛ばしたわけではない。
操縦士。
観測員。
整備兵。
通信兵。
軍医。
食事を作った者。
夜中に固定索を張った者。
現地で座金を切った者。
全員で機体を帰さなかった。
全員で、最後まで飛ばした。
元独立運動家は、大きなバター塊を人数分に分けた。
「今日は皆が最初だ」
軍将校が尋ねる。
「規則が壊れたか」
「増えた」
◇
翌朝。
Tur A.2は工房へ帰るため、草地を走った。
七日間帰るなと言われた機体。
試験を終え、ようやく帰れる。
二基の発動機が回る。
大車輪。
泥の跡。
主翼下の補修痕。
機体は浮く。
地上の者たちが見送る。
軍将校は前席から試験地を見た。
「もう来たくない」
後席の技師が答える。
「次の試験がある」
「何だ」
「冬季運用」
「今も冬だろう!」
「本格的な雪上だ」
軍将校は操縦桿を握ったまま、しばらく何も言わなかった。
「聞かなかったことにする」
「計画書はもうある」
「なぜだ!」
◇
WILKへ戻ると、航空部から電報が待っていた。
不整地連続運用試験の速報を受領。
Tur A.2追加三機の購入を内定する。
ただし、現地改修項目を量産仕様へ反映せよ。
また、冬季雪上運用試験を実施されたい。
軍将校は最後まで読んだ。
紙を置く。
「誰が漏らした」
実業家が答える。
「試験計画に次期候補として記載されています」
「お前か!」
技師は既に主脚の図面を広げていた。
「車輪へ雪が詰まる」
元白軍将校が言う。
「橇を付ける」
元独立運動家が食料表を取る。
「冬なら温かい物を増やす」
実業家は追加三機の見積書を開く。
軍将校だけが、七日分の泥が付いた靴を見ていた。
「せめて一日休ませろ」
独立運動家が答えた。
「もちろんだ」
「本当に?」
「人間は」
「機体は?」
元ドイツ技師が言った。
「点検する」
軍将校はため息をついた。
野牛は七日間、工房へ帰らなかった。
帰った翌日には、もう雪の中へ出される準備を始めていた。