一九二三年
発注数、三機。
標準型、二機。
冬季運用型、一機。
航空部は、冬季運用型について、着脱式雪上滑走具、発動機予熱設備、防寒覆い、燃料水分確認器、冬季用無線操作具を標準搭載するよう要求した。
製造側は、
「可能な限り三機を同一仕様とし、冬季装備は交換式とする」
と回答した。
航空部は、冬季型を一機だけ製造する方が安価ではないかと照会した。
製造側は、
「一機だけ違う物は、作る時だけ安く、使い始めてから高い」
と回答した。
会計課はこの説明を数字で示すよう要求した。
製造側は、十二頁の比較表を提出した。
会計課は、最初の一文で十分だったとの所見を残した。
「三機作る」
ポーランド軍将校が言った。
北側作業棟。
床には三機分の位置線。
左。
中央。
右。
Tur A.2追加生産一号機から三号機。
軍での番号は、既存のA.1に続ける予定だった。
「標準型二機」
実業家が答える。
「冬季型一機」
「そうだ」
「違う三機です」
「二機は同じだ」
「一機だけ違います」
「雪装備だけだろう」
元ドイツ帝国軍技師が顔を上げた。
「その言い方が危険だ」
軍将校は嫌そうな顔をした。
「始まったな」
◇
冬季型の追加装備。
橇取付金具。
発動機覆い固定点。
予熱器接続口。
燃料水分抜き取り口。
後席防寒覆い。
無線鍵拡張つまみ。
主翼上面の霜除去用足場位置。
「これだけだ」
軍将校が言った。
「これだけ違う」
技師が答える。
「標準型には不要だろう」
「橇は不要でも、取付金具は付けられる」
「重量が増える」
「一機あたり四・六キロ」
「不要な重さだ」
「将来、寒冷地へ送る可能性がある」
「送らないかもしれない」
「その時に改造すると、主脚を外し、金具を溶接し、再検査が必要」
「費用は」
実業家が別紙を出した。
「新造時取付費を一とすると、後日改修は四・三倍です」
「十二頁の表か」
「これは要約です」
「要約だけ出せ!」
◇
元白軍将校は、三機の脚図面を見比べた。
「全部、橇金具付き」
「そうする」
技師が答える。
「防寒覆い固定点も」
「全部」
「予熱器接続口も」
「全部」
「なら冬季型とは」
軍将校が尋ねる。
「装備を載せた状態」
「標準型は」
「装備を外した状態」
「同じ機体では?」
「だからそう言っている!」
軍将校は机を叩いた。
「最初からそう言え!」
実業家が静かに答える。
「会計上は装備区分が必要です」
「また帳簿だけ違うのか!」
◇
三機を同じように作る。
言うのは簡単だった。
だがA.2は、まだ試作一号機しかない。
量産用治具は新しい。
図面も修正が多い。
四時間飛行。
不整地七日間。
雪上試験。
そのたびに変更が入った。
機銃架二重ナット。
主脚清掃口。
燃料水分抜き取り。
無線端子ばね座金。
冬季用拡張つまみ。
前席腰当て。
後席換気口。
橇取付金具。
「変更点はいくつだ」
軍将校が尋ねる。
技師が一覧を見る。
「試作初飛行後、四十七」
「多いな」
「うち構造変更十一。装備配置十三。整備性九。寒冷地十四」
「全部、図面へ入った?」
「入れた」
「現場へ伝わった?」
技師が黙った。
「そこだな」
◇
図面説明会が開かれた。
木工班。
金工班。
布張り班。
配管班。
電装班。
縫製班。
整備教育班。
全員が集まる。
壁にはA.2改訂図面。
赤い印。
青い印。
黒い線。
「赤は試作後変更」
技師が説明する。
「青は冬季装備対応」
「黒は?」
「変更なし」
若い職人が尋ねる。
「赤と青が重なっているところは」
「両方」
「紫では」
「図面へ色を増やすな」
「分かりやすいです」
軍将校が言った。
「紫にしろ」
技師は彼を見る。
「技術規格へ勝手に色を足すな」
「現場が分かる方がよいだろう!」
実業家が記録する。
「改訂図面色分け規定」
「今決めるな!」
◇
最終的に。
黒。
既存仕様。
赤。
必須変更。
青。
交換装備取付部。
緑。
点検注意箇所。
「緑まで増えた」
軍将校が言う。
「油管固定部を目立たせる」
技師が答える。
「紫は」
「使わない」
若い職人たちは少し残念そうだった。
◇
最初の問題は、胴体枠だった。
三機分。
同じ形。
同じ寸法。
同じ穴。
同じ重量。
木工班が並べる。
一号機用。
二号機用。
三号機用。
技師が測る。
「三号機、上部幅が二ミリ広い」
木工職人が答える。
「木が戻った」
「乾燥不足?」
「含水率は規格内」
「治具から外した後に少し反った」
「使えるか」
軍将校が尋ねる。
「修正できる」
元白軍将校が言う。
「締めて置けば戻る」
「どれくらい」
「一晩」
「本当に?」
「木は言うことを聞く」
「人間より?」
「時々」
◇
枠を逆方向へわずかに押さえる。
一晩。
翌朝。
測定。
「規格内」
技師が言う。
「使える」
木工職人が胸を張る。
「木が覚えました」
「記録へは“矯正乾燥”と書け」
「木が覚えたでは駄目ですか」
「技術文書だ!」
◇
次は、橇取付金具。
三機すべてへ付ける。
左右で六組。
予備込み八組。
雪上試験で使った試作品を元に量産する。
「同じ物を八組」
軍将校が言う。
「簡単だな」
金工班の全員が彼を見る。
「何だ」
「言いましたね」
「何を」
「簡単だと」
元ドイツ技師が静かに答える。
「簡単かどうかは、八組目が一組目へ付くまで分からない」
軍将校は嫌な予感を覚えた。
◇
一組目。
試作図面通り。
二組目。
良好。
三組目。
前部反りが少し違う。
四組目。
車輪との隙間が狭い。
五組目。
革帯穴が一つずれる。
六組目。
鋼板底がねじれている。
軍将校は六組を見た。
「同じ物を作ったのでは」
金工班長が答える。
「同じように作りました」
「同じではない?」
「手で曲げています」
技師が言った。
「成形型を作る」
「橇一組のために?」
「八組だ」
「今後十四組もある」
実業家が付け加える。
「なら作れ」
◇
橇用成形型。
木と鋼。
前端の反り。
側面曲率。
車輪位置。
金具穴。
すべて固定。
「大きい」
軍将校が言う。
「橇そのものより大きい」
「同じ形を作るためだ」
「一号機の時は手で作った」
「一組だけだった」
「量産は道具を作るところからか」
元白軍将校が答える。
「道具を作る道具も要る」
「その次は」
「道具を測る道具」
「止まらないな!」
◇
成形型で作り直す。
一組目。
二組目。
三組目。
すべて同じ反り。
穴位置も一致。
試しに一号機用橇を二号機の車輪へ。
付く。
調整なし。
三号機へ。
付く。
「成功」
若い金工職人が言った。
元ドイツ技師は金具を外し、別の橇を持ってくる。
「次」
「まだ?」
「全部試す」
「八組全部?」
「左右も入れ替える」
軍将校が尋ねる。
「右用を左へ?」
「付かないことを確認する」
「何のために」
「誤装着防止が働くか」
右用は丸札。
左用は三角札。
金具穴も一か所だけ位置が違う。
「札だけでは駄目か」
「雪の中で札が見えない場合がある」
「物理的に付かなくする?」
「そうだ」
「少し不便では」
「間違えて飛ぶよりよい」
◇
縫製班では、機体覆いが作られていた。
A.2用。
主翼。
発動機。
操縦席。
後席機銃開口。
冬季仕様では隙間を減らす。
「布は同じ」
縫製班長が言う。
「紐位置が違う」
「全部共通にできないか」
軍将校が尋ねる。
「冬季用は裾が長い」
「標準型でも使える?」
「使えます」
「では全部冬季用で」
実業家が答える。
「布量が増えます」
「どれほど」
「一機分で三・二平方メートル」
「費用は」
「標準覆い比一割増」
「一割で寒冷地にも使えるなら」
技師が言う。
「全部冬季用に統一」
軍将校が満足そうに頷いた。
「今日は私の提案が通った」
「合理的だからだ」
「もっと褒めろ!」
◇
ただし冬季覆いには問題があった。
長い裾。
夏場の強風。
ばたつく。
紐が多い。
装着時間が増える。
「標準型には過剰だ」
縫製班長が言う。
「裾を折り上げられるように」
独立運動家が提案する。
「留め具を付ける」
「夏は短く。冬は下ろす」
「重量は」
軍将校が反射的に聞く。
「金具十二個で二百四十グラム」
「付けろ」
「最近、二百グラムに強くなったな」
「四十キロ単位を見た後だからな!」
◇
配管班。
燃料水分抜き取り口。
各発動機系統の低い場所へ、小さな弁を付ける。
「飛行前に少量抜く」
技師が説明する。
「透明瓶で確認」
元白軍将校が瓶を持つ。
「飲料試験用にも」
「言うと思った!」
軍将校が叫ぶ。
「燃料瓶へ赤い帯を巻け」
独立運動家が言う。
「食品用と間違えない」
「誰が間違える」
全員が白軍将校を見る。
「私は匂いで分かる」
「お前以外のためだ!」
◇
燃料確認瓶。
赤帯。
大きく、
燃料
飲むな
と書く。
実業家が言った。
「前回の乳脂肪缶と逆ですね」
「何が」
「以前は“生では飲むな”。今回は完全に飲むな」
「当たり前だ!」
「容器規定を分けます」
「そこまで帳簿化するのか」
「事故防止です」
軍将校は認めざるを得なかった。
◇
三機の前部胴体が並ぶ。
同じ。
主翼中央部。
同じ。
後部胴体。
同じ。
尾翼。
同じ。
橇取付金具。
同じ。
防寒覆い固定点。
同じ。
違うのは、納入時に何を積むかだけ。
「冬季型三号機へ」
軍将校が一覧を読む。
「橇一組。予熱器二基。機体覆い。長柄箒。燃料確認瓶。無線つまみ。C型防寒覆い」
「はい」
実業家が答える。
「標準型一号、二号には」
「取付部のみ」
「必要になれば装備を買う」
「はい」
「商売としてもよくできているな」
「技術上の共通化です」
「否定しないのだな」
◇
発動機問題は、今回は早めに来た。
軍支給。
六基。
三機分。
さらに予備一基を後送予定。
「六基全部ある」
軍将校が喜ぶ。
技師が答える。
「開けてから」
「今度こそ同型だ」
「書類上は」
「製造番号も近い」
「近いだけ」
軍将校は箱を見た。
「嫌な教育を受けたな、私は」
◇
一基目。
良好。
二基目。
良好。
三基目。
点火装置の蓋が違う。
「中身は同じ」
「付くか」
「付く」
四基目。
油圧弁の形式が新しい。
「改善型だ」
「他と混ぜてよい?」
「作動圧は同じ」
五基目。
良好。
六基目。
軸端に軽い錆。
「磨けば」
元白軍将校が言う。
「深さを測る」
技師が答える。
軍将校は頭を抱えなかった。
もう慣れていた。
「六基全部使える?」
「使える」
「予備は」
「まだ来ていない」
「いつ」
「未定」
「そこだけは変わらんな!」
◇
発動機を三機へ載せる。
ここで新しい問題。
どの発動機を、どの機体へ組み合わせるか。
公称は同じ。
実測出力に差。
油圧弁も一基違う。
「強い物同士を一機へ?」
軍将校が尋ねる。
「駄目だ」
技師が答える。
「なぜ」
「一機だけ速くなり、他が遅くなる」
「弱い物同士は」
「片発性能が落ちる」
「では」
「出力が近い物を組にする」
「平均的な三組」
「そうだ」
元白軍将校が言う。
「強い一基と弱い一基を組ませれば平均」
「左右差が大きい!」
「調整で」
「操縦士を疲れさせるな!」
◇
地上運転で出力を測る。
一番と二番。
近い。
三番と五番。
近い。
四番と六番。
少し差。
「四番は油圧弁が新しい」
技師が言う。
「六番は錆を処理した」
「冬季型へ四番と六番?」
軍将校が尋ねる。
「寒冷地で違いを見るには」
「量産機で試験するな」
「新しい油圧弁は寒さに強い可能性」
「可能性で一機だけ違わせるな!」
結局、四番の新型弁は旧型へ交換された。
新型弁は予備部品として別に試験する。
「新しい方がよいのでは」
「三機を揃える方が先」
技師が答える。
「進歩を止める?」
「量産中に勝手に混ぜない」
「二十話の教訓だな」
軍将校は少し誇らしかった。
◇
組立は順調に進んだ。
一号機。
標準型。
二号機。
標準型。
三号機。
冬季装備付き。
だが見た目はほとんど同じ。
元独立運動家が三機を見た。
「どれが冬季型だ」
「右端」
軍将校が答える。
「橇があるから?」
「今は外してある」
「覆いも箱の中」
「では分からない」
実業家が言った。
「機体番号で管理します」
元白軍将校が提案する。
「白い狼を描く」
「冬季型だけ?」
「雪の中で見えない」
「意味がない!」
◇
初飛行前検査。
三機を同じ順番で見る。
左発動機。
右発動機。
燃料。
脚。
操縦索。
尾翼。
後席。
無線。
換装金具。
「一号機、異常一件」
技師が言う。
「何」
「右燃料弁が少し重い」
「二号機」
「異常なし」
「三号機」
「後席覆い固定金具、一個向きが逆」
軍将校が驚く。
「向きだけ?」
「布を留める時に外れやすい」
「直す」
「一号機の弁も」
「削る?」
「分解して当たりを見る」
元白軍将校が残念そうに金槌を置いた。
◇
三機連続初飛行。
一日で行う。
同じ操縦士だけでは疲れる。
そこで三組。
軍将校。
量産三号機を帰還させた操縦士。
九号機で訓練を受けた若い操縦士。
「全員、A.2経験あり」
技師が言う。
「機体差を比べられる」
「後席は」
「観測員三名」
「食品は」
軍将校が自分で聞いてから顔をしかめた。
「最近、先に確認しますね」
実業家が言う。
「積んでいないな?」
「乗員用パンのみです」
「よし」
◇
一号機。
離陸。
脚。
旋回。
片発模擬。
着陸。
「右燃料弁」
「飛行中は問題なし」
「操縦力」
「試作機と同じ」
「後席」
「良好」
合格。
◇
二号機。
離陸。
少し左へ取られる。
「発動機差?」
「小さい」
「尾翼補助板」
「調整」
着陸。
合格保留。
「同じように作ったのに」
軍将校が言う。
「機体は同じでも、発動機は完全には同じでない」
技師が答える。
「調整で揃える」
◇
三号機。
冬季型。
ただし橇なし。
標準状態で飛ぶ。
離陸。
操縦。
脚。
燃料。
後席。
異常なし。
着陸。
「冬季装備を外せば標準型と同じ」
軍将校が言う。
「それが目的だ」
技師が答える。
「今度は分かりやすい」
◇
二号機の調整。
左へ取られる原因。
左発動機の推力がわずかに強い。
補助板。
出力索。
プロペラ角。
再飛行。
真っすぐ。
「三機とも合格」
技師が言った。
工房に歓声が上がる。
軍将校は三機を見る。
「一気に三機できたな」
「一気ではない」
実業家が答える。
「治具、金型、図面、教育、検査を含めて四か月です」
「今くらい勢いで言わせろ!」
◇
納入前。
三機の装備交換試験。
冬季装備一式を、一号機へ付ける。
橇。
覆い。
予熱器接続。
無線つまみ。
C型防寒覆い。
「付く」
「当然だ」
「三号機用装備なのに」
「機体は同じだ」
次に二号機へ。
付く。
調整なし。
最後に三号機の標準装備を一号機へ。
付く。
「交換できる」
軍将校が言う。
「冬季型は一機ではないな」
実業家が答える。
「冬季装備一式が一組あるだけです」
「最初からそう言っていたな」
「はい」
「私が理解するのに一話かかった」
◇
軍の受領検査。
会計官も来た。
三機。
同じ機体。
冬季装備一式。
予備部品。
橇。
覆い。
予熱器。
黒い工具敷布。
燃料確認瓶。
長柄箒。
会計官が一覧を見る。
「冬季型一機の発注では」
実業家が答える。
「契約上は三号機へ冬季装備を付属します」
「だが一号機にも付く」
「はい」
「二号機にも」
「はい」
「なら三機とも冬季型では」
「装備が一式しかありません」
「では一機だけ」
「同時には」
会計官は少し考えた。
「機体区分を分ける必要がなかったのでは」
軍将校が笑った。
「今そこへ来たか」
◇
実業家は十二頁の比較表を出した。
会計官が手で止める。
「要らない」
「数字を」
「最初の一文で分かった」
「記録上」
「同一機体、交換装備一式。それでよい」
元ドイツ技師が小さく頷いた。
「最初からそう言った」
会計官は彼を睨んだ。
「言い方が悪い」
「正しかった」
「それが腹立たしい」
◇
三機の納入日は雪だった。
薄い雪。
橇を使うほどではない。
大車輪で走れる。
一号機。
二号機。
三号機。
三機とも標準脚。
冬季装備は輸送荷車。
「冬季型が雪の日に橇なし」
軍将校が言う。
「雪が浅い」
技師が答える。
「必要ない物は付けない」
「柔軟だな」
「交換式だからだ」
◇
離陸前。
元独立運動家が包みを配る。
三機。
六人。
パン。
バター。
蜂蜜水。
「高度不足は」
軍将校が尋ねる。
「基地到着後」
「まともだ」
実業家が札を付ける。
到着後開封
三機同時納入記念
「食品にも量産番号を?」
「箱は一号から三号まで」
軍将校が見る。
本当に三箱。
同じ大きさ。
同じ中身。
「ここまで同じにするのか」
「一箱だけバターが少ないと揉めます」
元白軍将校が答えた。
「正しい」
◇
三機が滑走する。
一号機。
二号機。
三号機。
同じ翼。
同じ尾翼。
同じ発動機音。
完全には同じでない。
だが同じ手順で飛ぶ。
同じ部品で直る。
同じ装備を付けられる。
同じ工具荷車を使える。
雪が降れば、どの機体でも橇を履ける。
患者が出れば、どの機体でもC型にできる。
偵察ならA型。
攻撃ならB型。
違いは、工場で決められたのではない。
現場で必要な装備を選ぶことで生まれる。
◇
納入先の基地。
三機が到着。
冬季装備荷車も、少し遅れて着く。
基地指揮官は三号機を見た。
「これが冬季型か」
軍将校が答える。
「どれでも冬季型にできる」
「ではこれは」
「三号機だ」
「冬季型では」
「冬季装備が付属している契約上の機体」
「分かりにくい」
「私も四か月かかった」
基地指揮官は一号機を見る。
「これにも橇が付く?」
「付く」
二号機。
「これも?」
「付く」
「なら番号で区別する意味は」
「帳簿だ」
軍将校は少し疲れた顔で答えた。
◇
基地整備兵による装備交換。
三号機用として届いた橇を、一号機へ付ける。
初めて触る整備兵。
図解手順書。
丸札。
三角札。
黒い敷布。
工具荷車。
「右用」
「丸」
「左用」
「三角」
「金具位置」
「合う」
「締付」
「規定値」
一時間十二分。
「初回で?」
軍将校が尋ねる。
「工房では四十五分」
技師が答える。
「十分だ」
基地整備兵が言う。
「二回目なら縮められる」
「確認を削るな」
「聞いています」
「誰から」
「九号機で訓練を受けた者から」
手順も、人から人へ交換されていた。
◇
工房へ帰った夜。
三機分の床線が空いている。
だが今度は、すぐに次の機体図面が置かれなかった。
軍将校は空いた作業棟を見た。
「珍しいな」
「何が」
実業家が尋ねる。
「次の注文がない」
「橇十四組があります」
「機体ではない」
「A.1寒冷地改修も」
「修理だ」
「整備契約も」
「あるな」
元独立運動家が言う。
「人を減らす必要はない」
「食品部も増産中」
実業家が続ける。
「結局、空かないか」
◇
元ドイツ技師は、三機分の製造記録を壁へ掛けた。
総不適合件数。
三十一。
重大、二。
交換性、八。
文書、十二。
外観、九。
「前の十二機より減った」
軍将校が言う。
「治具がよくなった」
「職人も慣れた」
「図面も」
「色分けは?」
若い職人が尋ねる。
技師は少し黙った。
「有効だった」
「紫も使いますか」
「使わない」
軍将校が笑った。
◇
作業棟の壁には、新しい札が増えた。
三機なら、同じ三機を作れ。
違いが必要なら、装備で変えろ。
一機だけ違う物は、作る時より、使う時に高くつく。
その下に、誰かが小さく書いた。
ただし帳簿上は別である。
実業家が見つけた。
「正確です」
軍将校が言う。
「消せ」
「事実です」
「余韻が台無しだ!」
◇
Tur A.2は、三機増えた。
だが三種類には増えなかった。
標準型。
冬季型。
そう呼び分けながら、機体は同じだった。
雪が降れば橇を履く。
寒ければ覆いを下ろす。
燃料に水が疑われれば瓶へ抜く。
患者を運ぶなら担架を入れる。
任務が変わっても、機体まで別物にしない。
必要な違いだけを、必要な時に載せる。
それは十二機を作り、発動機を待ち、片肺を訓練に使い、雪と泥へ沈んで得た答えだった。
工房に残ったのは、三機分の空間ではない。
同じ物を、同じように作れる仕組みだった。