WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――WILK航空製作所・Tur A.2追加生産計画書
一九二三年

発注数、三機。

標準型、二機。
冬季運用型、一機。

航空部は、冬季運用型について、着脱式雪上滑走具、発動機予熱設備、防寒覆い、燃料水分確認器、冬季用無線操作具を標準搭載するよう要求した。

製造側は、

「可能な限り三機を同一仕様とし、冬季装備は交換式とする」

と回答した。

航空部は、冬季型を一機だけ製造する方が安価ではないかと照会した。

製造側は、

「一機だけ違う物は、作る時だけ安く、使い始めてから高い」

と回答した。

会計課はこの説明を数字で示すよう要求した。

製造側は、十二頁の比較表を提出した。

会計課は、最初の一文で十分だったとの所見を残した。


第32話 三機なら同じ三機を作れ

「三機作る」

 

 ポーランド軍将校が言った。

 

 北側作業棟。

 

 床には三機分の位置線。

 

 左。

 

 中央。

 

 右。

 

 Tur A.2追加生産一号機から三号機。

 

 軍での番号は、既存のA.1に続ける予定だった。

 

「標準型二機」

 

 実業家が答える。

 

「冬季型一機」

 

「そうだ」

 

「違う三機です」

 

「二機は同じだ」

 

「一機だけ違います」

 

「雪装備だけだろう」

 

 元ドイツ帝国軍技師が顔を上げた。

 

「その言い方が危険だ」

 

 軍将校は嫌そうな顔をした。

 

「始まったな」

 

     ◇

 

 冬季型の追加装備。

 

 橇取付金具。

 

 発動機覆い固定点。

 

 予熱器接続口。

 

 燃料水分抜き取り口。

 

 後席防寒覆い。

 

 無線鍵拡張つまみ。

 

 主翼上面の霜除去用足場位置。

 

「これだけだ」

 

 軍将校が言った。

 

「これだけ違う」

 

 技師が答える。

 

「標準型には不要だろう」

 

「橇は不要でも、取付金具は付けられる」

 

「重量が増える」

 

「一機あたり四・六キロ」

 

「不要な重さだ」

 

「将来、寒冷地へ送る可能性がある」

 

「送らないかもしれない」

 

「その時に改造すると、主脚を外し、金具を溶接し、再検査が必要」

 

「費用は」

 

 実業家が別紙を出した。

 

「新造時取付費を一とすると、後日改修は四・三倍です」

 

「十二頁の表か」

 

「これは要約です」

 

「要約だけ出せ!」

 

     ◇

 

 元白軍将校は、三機の脚図面を見比べた。

 

「全部、橇金具付き」

 

「そうする」

 

 技師が答える。

 

「防寒覆い固定点も」

 

「全部」

 

「予熱器接続口も」

 

「全部」

 

「なら冬季型とは」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「装備を載せた状態」

 

「標準型は」

 

「装備を外した状態」

 

「同じ機体では?」

 

「だからそう言っている!」

 

 軍将校は机を叩いた。

 

「最初からそう言え!」

 

 実業家が静かに答える。

 

「会計上は装備区分が必要です」

 

「また帳簿だけ違うのか!」

 

     ◇

 

 三機を同じように作る。

 

 言うのは簡単だった。

 

 だがA.2は、まだ試作一号機しかない。

 

 量産用治具は新しい。

 

 図面も修正が多い。

 

 四時間飛行。

 

 不整地七日間。

 

 雪上試験。

 

 そのたびに変更が入った。

 

 機銃架二重ナット。

 

 主脚清掃口。

 

 燃料水分抜き取り。

 

 無線端子ばね座金。

 

 冬季用拡張つまみ。

 

 前席腰当て。

 

 後席換気口。

 

 橇取付金具。

 

「変更点はいくつだ」

 

 軍将校が尋ねる。

 

 技師が一覧を見る。

 

「試作初飛行後、四十七」

 

「多いな」

 

「うち構造変更十一。装備配置十三。整備性九。寒冷地十四」

 

「全部、図面へ入った?」

 

「入れた」

 

「現場へ伝わった?」

 

 技師が黙った。

 

「そこだな」

 

     ◇

 

 図面説明会が開かれた。

 

 木工班。

 

 金工班。

 

 布張り班。

 

 配管班。

 

 電装班。

 

 縫製班。

 

 整備教育班。

 

 全員が集まる。

 

 壁にはA.2改訂図面。

 

 赤い印。

 

 青い印。

 

 黒い線。

 

「赤は試作後変更」

 

 技師が説明する。

 

「青は冬季装備対応」

 

「黒は?」

 

「変更なし」

 

 若い職人が尋ねる。

 

「赤と青が重なっているところは」

 

「両方」

 

「紫では」

 

「図面へ色を増やすな」

 

「分かりやすいです」

 

 軍将校が言った。

 

「紫にしろ」

 

 技師は彼を見る。

 

「技術規格へ勝手に色を足すな」

 

「現場が分かる方がよいだろう!」

 

 実業家が記録する。

 

「改訂図面色分け規定」

 

「今決めるな!」

 

     ◇

 

 最終的に。

 

 黒。

 

 既存仕様。

 

 赤。

 

 必須変更。

 

 青。

 

 交換装備取付部。

 

 緑。

 

 点検注意箇所。

 

「緑まで増えた」

 

 軍将校が言う。

 

「油管固定部を目立たせる」

 

 技師が答える。

 

「紫は」

 

「使わない」

 

 若い職人たちは少し残念そうだった。

 

     ◇

 

 最初の問題は、胴体枠だった。

 

 三機分。

 

 同じ形。

 

 同じ寸法。

 

 同じ穴。

 

 同じ重量。

 

 木工班が並べる。

 

 一号機用。

 

 二号機用。

 

 三号機用。

 

 技師が測る。

 

「三号機、上部幅が二ミリ広い」

 

 木工職人が答える。

 

「木が戻った」

 

「乾燥不足?」

 

「含水率は規格内」

 

「治具から外した後に少し反った」

 

「使えるか」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「修正できる」

 

 元白軍将校が言う。

 

「締めて置けば戻る」

 

「どれくらい」

 

「一晩」

 

「本当に?」

 

「木は言うことを聞く」

 

「人間より?」

 

「時々」

 

     ◇

 

 枠を逆方向へわずかに押さえる。

 

 一晩。

 

 翌朝。

 

 測定。

 

「規格内」

 

 技師が言う。

 

「使える」

 

 木工職人が胸を張る。

 

「木が覚えました」

 

「記録へは“矯正乾燥”と書け」

 

「木が覚えたでは駄目ですか」

 

「技術文書だ!」

 

     ◇

 

 次は、橇取付金具。

 

 三機すべてへ付ける。

 

 左右で六組。

 

 予備込み八組。

 

 雪上試験で使った試作品を元に量産する。

 

「同じ物を八組」

 

 軍将校が言う。

 

「簡単だな」

 

 金工班の全員が彼を見る。

 

「何だ」

 

「言いましたね」

 

「何を」

 

「簡単だと」

 

 元ドイツ技師が静かに答える。

 

「簡単かどうかは、八組目が一組目へ付くまで分からない」

 

 軍将校は嫌な予感を覚えた。

 

     ◇

 

 一組目。

 

 試作図面通り。

 

 二組目。

 

 良好。

 

 三組目。

 

 前部反りが少し違う。

 

 四組目。

 

 車輪との隙間が狭い。

 

 五組目。

 

 革帯穴が一つずれる。

 

 六組目。

 

 鋼板底がねじれている。

 

 軍将校は六組を見た。

 

「同じ物を作ったのでは」

 

 金工班長が答える。

 

「同じように作りました」

 

「同じではない?」

 

「手で曲げています」

 

 技師が言った。

 

「成形型を作る」

 

「橇一組のために?」

 

「八組だ」

 

「今後十四組もある」

 

 実業家が付け加える。

 

「なら作れ」

 

     ◇

 

 橇用成形型。

 

 木と鋼。

 

 前端の反り。

 

 側面曲率。

 

 車輪位置。

 

 金具穴。

 

 すべて固定。

 

「大きい」

 

 軍将校が言う。

 

「橇そのものより大きい」

 

「同じ形を作るためだ」

 

「一号機の時は手で作った」

 

「一組だけだった」

 

「量産は道具を作るところからか」

 

 元白軍将校が答える。

 

「道具を作る道具も要る」

 

「その次は」

 

「道具を測る道具」

 

「止まらないな!」

 

     ◇

 

 成形型で作り直す。

 

 一組目。

 

 二組目。

 

 三組目。

 

 すべて同じ反り。

 

 穴位置も一致。

 

 試しに一号機用橇を二号機の車輪へ。

 

 付く。

 

 調整なし。

 

 三号機へ。

 

 付く。

 

「成功」

 

 若い金工職人が言った。

 

 元ドイツ技師は金具を外し、別の橇を持ってくる。

 

「次」

 

「まだ?」

 

「全部試す」

 

「八組全部?」

 

「左右も入れ替える」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「右用を左へ?」

 

「付かないことを確認する」

 

「何のために」

 

「誤装着防止が働くか」

 

 右用は丸札。

 

 左用は三角札。

 

 金具穴も一か所だけ位置が違う。

 

「札だけでは駄目か」

 

「雪の中で札が見えない場合がある」

 

「物理的に付かなくする?」

 

「そうだ」

 

「少し不便では」

 

「間違えて飛ぶよりよい」

 

     ◇

 

 縫製班では、機体覆いが作られていた。

 

 A.2用。

 

 主翼。

 

 発動機。

 

 操縦席。

 

 後席機銃開口。

 

 冬季仕様では隙間を減らす。

 

「布は同じ」

 

 縫製班長が言う。

 

「紐位置が違う」

 

「全部共通にできないか」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「冬季用は裾が長い」

 

「標準型でも使える?」

 

「使えます」

 

「では全部冬季用で」

 

 実業家が答える。

 

「布量が増えます」

 

「どれほど」

 

「一機分で三・二平方メートル」

 

「費用は」

 

「標準覆い比一割増」

 

「一割で寒冷地にも使えるなら」

 

 技師が言う。

 

「全部冬季用に統一」

 

 軍将校が満足そうに頷いた。

 

「今日は私の提案が通った」

 

「合理的だからだ」

 

「もっと褒めろ!」

 

     ◇

 

 ただし冬季覆いには問題があった。

 

 長い裾。

 

 夏場の強風。

 

 ばたつく。

 

 紐が多い。

 

 装着時間が増える。

 

「標準型には過剰だ」

 

 縫製班長が言う。

 

「裾を折り上げられるように」

 

 独立運動家が提案する。

 

「留め具を付ける」

 

「夏は短く。冬は下ろす」

 

「重量は」

 

 軍将校が反射的に聞く。

 

「金具十二個で二百四十グラム」

 

「付けろ」

 

「最近、二百グラムに強くなったな」

 

「四十キロ単位を見た後だからな!」

 

     ◇

 

 配管班。

 

 燃料水分抜き取り口。

 

 各発動機系統の低い場所へ、小さな弁を付ける。

 

「飛行前に少量抜く」

 

 技師が説明する。

 

「透明瓶で確認」

 

 元白軍将校が瓶を持つ。

 

「飲料試験用にも」

 

「言うと思った!」

 

 軍将校が叫ぶ。

 

「燃料瓶へ赤い帯を巻け」

 

 独立運動家が言う。

 

「食品用と間違えない」

 

「誰が間違える」

 

 全員が白軍将校を見る。

 

「私は匂いで分かる」

 

「お前以外のためだ!」

 

     ◇

 

 燃料確認瓶。

 

 赤帯。

 

 大きく、

 

燃料

飲むな

 

 と書く。

 

 実業家が言った。

 

「前回の乳脂肪缶と逆ですね」

 

「何が」

 

「以前は“生では飲むな”。今回は完全に飲むな」

 

「当たり前だ!」

 

「容器規定を分けます」

 

「そこまで帳簿化するのか」

 

「事故防止です」

 

 軍将校は認めざるを得なかった。

 

     ◇

 

 三機の前部胴体が並ぶ。

 

 同じ。

 

 主翼中央部。

 

 同じ。

 

 後部胴体。

 

 同じ。

 

 尾翼。

 

 同じ。

 

 橇取付金具。

 

 同じ。

 

 防寒覆い固定点。

 

 同じ。

 

 違うのは、納入時に何を積むかだけ。

 

「冬季型三号機へ」

 

 軍将校が一覧を読む。

 

「橇一組。予熱器二基。機体覆い。長柄箒。燃料確認瓶。無線つまみ。C型防寒覆い」

 

「はい」

 

 実業家が答える。

 

「標準型一号、二号には」

 

「取付部のみ」

 

「必要になれば装備を買う」

 

「はい」

 

「商売としてもよくできているな」

 

「技術上の共通化です」

 

「否定しないのだな」

 

     ◇

 

 発動機問題は、今回は早めに来た。

 

 軍支給。

 

 六基。

 

 三機分。

 

 さらに予備一基を後送予定。

 

「六基全部ある」

 

 軍将校が喜ぶ。

 

 技師が答える。

 

「開けてから」

 

「今度こそ同型だ」

 

「書類上は」

 

「製造番号も近い」

 

「近いだけ」

 

 軍将校は箱を見た。

 

「嫌な教育を受けたな、私は」

 

     ◇

 

 一基目。

 

 良好。

 

 二基目。

 

 良好。

 

 三基目。

 

 点火装置の蓋が違う。

 

「中身は同じ」

 

「付くか」

 

「付く」

 

 四基目。

 

 油圧弁の形式が新しい。

 

「改善型だ」

 

「他と混ぜてよい?」

 

「作動圧は同じ」

 

 五基目。

 

 良好。

 

 六基目。

 

 軸端に軽い錆。

 

「磨けば」

 

 元白軍将校が言う。

 

「深さを測る」

 

 技師が答える。

 

 軍将校は頭を抱えなかった。

 

 もう慣れていた。

 

「六基全部使える?」

 

「使える」

 

「予備は」

 

「まだ来ていない」

 

「いつ」

 

「未定」

 

「そこだけは変わらんな!」

 

     ◇

 

 発動機を三機へ載せる。

 

 ここで新しい問題。

 

 どの発動機を、どの機体へ組み合わせるか。

 

 公称は同じ。

 

 実測出力に差。

 

 油圧弁も一基違う。

 

「強い物同士を一機へ?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「駄目だ」

 

 技師が答える。

 

「なぜ」

 

「一機だけ速くなり、他が遅くなる」

 

「弱い物同士は」

 

「片発性能が落ちる」

 

「では」

 

「出力が近い物を組にする」

 

「平均的な三組」

 

「そうだ」

 

 元白軍将校が言う。

 

「強い一基と弱い一基を組ませれば平均」

 

「左右差が大きい!」

 

「調整で」

 

「操縦士を疲れさせるな!」

 

     ◇

 

 地上運転で出力を測る。

 

 一番と二番。

 

 近い。

 

 三番と五番。

 

 近い。

 

 四番と六番。

 

 少し差。

 

「四番は油圧弁が新しい」

 

 技師が言う。

 

「六番は錆を処理した」

 

「冬季型へ四番と六番?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「寒冷地で違いを見るには」

 

「量産機で試験するな」

 

「新しい油圧弁は寒さに強い可能性」

 

「可能性で一機だけ違わせるな!」

 

 結局、四番の新型弁は旧型へ交換された。

 

 新型弁は予備部品として別に試験する。

 

「新しい方がよいのでは」

 

「三機を揃える方が先」

 

 技師が答える。

 

「進歩を止める?」

 

「量産中に勝手に混ぜない」

 

「二十話の教訓だな」

 

 軍将校は少し誇らしかった。

 

     ◇

 

 組立は順調に進んだ。

 

 一号機。

 

 標準型。

 

 二号機。

 

 標準型。

 

 三号機。

 

 冬季装備付き。

 

 だが見た目はほとんど同じ。

 

 元独立運動家が三機を見た。

 

「どれが冬季型だ」

 

「右端」

 

 軍将校が答える。

 

「橇があるから?」

 

「今は外してある」

 

「覆いも箱の中」

 

「では分からない」

 

 実業家が言った。

 

「機体番号で管理します」

 

 元白軍将校が提案する。

 

「白い狼を描く」

 

「冬季型だけ?」

 

「雪の中で見えない」

 

「意味がない!」

 

     ◇

 

 初飛行前検査。

 

 三機を同じ順番で見る。

 

 左発動機。

 

 右発動機。

 

 燃料。

 

 脚。

 

 操縦索。

 

 尾翼。

 

 後席。

 

 無線。

 

 換装金具。

 

「一号機、異常一件」

 

 技師が言う。

 

「何」

 

「右燃料弁が少し重い」

 

「二号機」

 

「異常なし」

 

「三号機」

 

「後席覆い固定金具、一個向きが逆」

 

 軍将校が驚く。

 

「向きだけ?」

 

「布を留める時に外れやすい」

 

「直す」

 

「一号機の弁も」

 

「削る?」

 

「分解して当たりを見る」

 

 元白軍将校が残念そうに金槌を置いた。

 

     ◇

 

 三機連続初飛行。

 

 一日で行う。

 

 同じ操縦士だけでは疲れる。

 

 そこで三組。

 

 軍将校。

 

 量産三号機を帰還させた操縦士。

 

 九号機で訓練を受けた若い操縦士。

 

「全員、A.2経験あり」

 

 技師が言う。

 

「機体差を比べられる」

 

「後席は」

 

「観測員三名」

 

「食品は」

 

 軍将校が自分で聞いてから顔をしかめた。

 

「最近、先に確認しますね」

 

 実業家が言う。

 

「積んでいないな?」

 

「乗員用パンのみです」

 

「よし」

 

     ◇

 

 一号機。

 

 離陸。

 

 脚。

 

 旋回。

 

 片発模擬。

 

 着陸。

 

「右燃料弁」

 

「飛行中は問題なし」

 

「操縦力」

 

「試作機と同じ」

 

「後席」

 

「良好」

 

 合格。

 

     ◇

 

 二号機。

 

 離陸。

 

 少し左へ取られる。

 

「発動機差?」

 

「小さい」

 

「尾翼補助板」

 

「調整」

 

 着陸。

 

 合格保留。

 

「同じように作ったのに」

 

 軍将校が言う。

 

「機体は同じでも、発動機は完全には同じでない」

 

 技師が答える。

 

「調整で揃える」

 

     ◇

 

 三号機。

 

 冬季型。

 

 ただし橇なし。

 

 標準状態で飛ぶ。

 

 離陸。

 

 操縦。

 

 脚。

 

 燃料。

 

 後席。

 

 異常なし。

 

 着陸。

 

「冬季装備を外せば標準型と同じ」

 

 軍将校が言う。

 

「それが目的だ」

 

 技師が答える。

 

「今度は分かりやすい」

 

     ◇

 

 二号機の調整。

 

 左へ取られる原因。

 

 左発動機の推力がわずかに強い。

 

 補助板。

 

 出力索。

 

 プロペラ角。

 

 再飛行。

 

 真っすぐ。

 

「三機とも合格」

 

 技師が言った。

 

 工房に歓声が上がる。

 

 軍将校は三機を見る。

 

「一気に三機できたな」

 

「一気ではない」

 

 実業家が答える。

 

「治具、金型、図面、教育、検査を含めて四か月です」

 

「今くらい勢いで言わせろ!」

 

     ◇

 

 納入前。

 

 三機の装備交換試験。

 

 冬季装備一式を、一号機へ付ける。

 

 橇。

 

 覆い。

 

 予熱器接続。

 

 無線つまみ。

 

 C型防寒覆い。

 

「付く」

 

「当然だ」

 

「三号機用装備なのに」

 

「機体は同じだ」

 

 次に二号機へ。

 

 付く。

 

 調整なし。

 

 最後に三号機の標準装備を一号機へ。

 

 付く。

 

「交換できる」

 

 軍将校が言う。

 

「冬季型は一機ではないな」

 

 実業家が答える。

 

「冬季装備一式が一組あるだけです」

 

「最初からそう言っていたな」

 

「はい」

 

「私が理解するのに一話かかった」

 

     ◇

 

 軍の受領検査。

 

 会計官も来た。

 

 三機。

 

 同じ機体。

 

 冬季装備一式。

 

 予備部品。

 

 橇。

 

 覆い。

 

 予熱器。

 

 黒い工具敷布。

 

 燃料確認瓶。

 

 長柄箒。

 

 会計官が一覧を見る。

 

「冬季型一機の発注では」

 

 実業家が答える。

 

「契約上は三号機へ冬季装備を付属します」

 

「だが一号機にも付く」

 

「はい」

 

「二号機にも」

 

「はい」

 

「なら三機とも冬季型では」

 

「装備が一式しかありません」

 

「では一機だけ」

 

「同時には」

 

 会計官は少し考えた。

 

「機体区分を分ける必要がなかったのでは」

 

 軍将校が笑った。

 

「今そこへ来たか」

 

     ◇

 

 実業家は十二頁の比較表を出した。

 

 会計官が手で止める。

 

「要らない」

 

「数字を」

 

「最初の一文で分かった」

 

「記録上」

 

「同一機体、交換装備一式。それでよい」

 

 元ドイツ技師が小さく頷いた。

 

「最初からそう言った」

 

 会計官は彼を睨んだ。

 

「言い方が悪い」

 

「正しかった」

 

「それが腹立たしい」

 

     ◇

 

 三機の納入日は雪だった。

 

 薄い雪。

 

 橇を使うほどではない。

 

 大車輪で走れる。

 

 一号機。

 

 二号機。

 

 三号機。

 

 三機とも標準脚。

 

 冬季装備は輸送荷車。

 

「冬季型が雪の日に橇なし」

 

 軍将校が言う。

 

「雪が浅い」

 

 技師が答える。

 

「必要ない物は付けない」

 

「柔軟だな」

 

「交換式だからだ」

 

     ◇

 

 離陸前。

 

 元独立運動家が包みを配る。

 

 三機。

 

 六人。

 

 パン。

 

 バター。

 

 蜂蜜水。

 

「高度不足は」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「基地到着後」

 

「まともだ」

 

 実業家が札を付ける。

 

到着後開封

三機同時納入記念

 

「食品にも量産番号を?」

 

「箱は一号から三号まで」

 

 軍将校が見る。

 

 本当に三箱。

 

 同じ大きさ。

 

 同じ中身。

 

「ここまで同じにするのか」

 

「一箱だけバターが少ないと揉めます」

 

 元白軍将校が答えた。

 

「正しい」

 

     ◇

 

 三機が滑走する。

 

 一号機。

 

 二号機。

 

 三号機。

 

 同じ翼。

 

 同じ尾翼。

 

 同じ発動機音。

 

 完全には同じでない。

 

 だが同じ手順で飛ぶ。

 

 同じ部品で直る。

 

 同じ装備を付けられる。

 

 同じ工具荷車を使える。

 

 雪が降れば、どの機体でも橇を履ける。

 

 患者が出れば、どの機体でもC型にできる。

 

 偵察ならA型。

 

 攻撃ならB型。

 

 違いは、工場で決められたのではない。

 

 現場で必要な装備を選ぶことで生まれる。

 

     ◇

 

 納入先の基地。

 

 三機が到着。

 

 冬季装備荷車も、少し遅れて着く。

 

 基地指揮官は三号機を見た。

 

「これが冬季型か」

 

 軍将校が答える。

 

「どれでも冬季型にできる」

 

「ではこれは」

 

「三号機だ」

 

「冬季型では」

 

「冬季装備が付属している契約上の機体」

 

「分かりにくい」

 

「私も四か月かかった」

 

 基地指揮官は一号機を見る。

 

「これにも橇が付く?」

 

「付く」

 

 二号機。

 

「これも?」

 

「付く」

 

「なら番号で区別する意味は」

 

「帳簿だ」

 

 軍将校は少し疲れた顔で答えた。

 

     ◇

 

 基地整備兵による装備交換。

 

 三号機用として届いた橇を、一号機へ付ける。

 

 初めて触る整備兵。

 

 図解手順書。

 

 丸札。

 

 三角札。

 

 黒い敷布。

 

 工具荷車。

 

「右用」

 

「丸」

 

「左用」

 

「三角」

 

「金具位置」

 

「合う」

 

「締付」

 

「規定値」

 

 一時間十二分。

 

「初回で?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「工房では四十五分」

 

 技師が答える。

 

「十分だ」

 

 基地整備兵が言う。

 

「二回目なら縮められる」

 

「確認を削るな」

 

「聞いています」

 

「誰から」

 

「九号機で訓練を受けた者から」

 

 手順も、人から人へ交換されていた。

 

     ◇

 

 工房へ帰った夜。

 

 三機分の床線が空いている。

 

 だが今度は、すぐに次の機体図面が置かれなかった。

 

 軍将校は空いた作業棟を見た。

 

「珍しいな」

 

「何が」

 

 実業家が尋ねる。

 

「次の注文がない」

 

「橇十四組があります」

 

「機体ではない」

 

「A.1寒冷地改修も」

 

「修理だ」

 

「整備契約も」

 

「あるな」

 

 元独立運動家が言う。

 

「人を減らす必要はない」

 

「食品部も増産中」

 

 実業家が続ける。

 

「結局、空かないか」

 

     ◇

 

 元ドイツ技師は、三機分の製造記録を壁へ掛けた。

 

 総不適合件数。

 

 三十一。

 

 重大、二。

 

 交換性、八。

 

 文書、十二。

 

 外観、九。

 

「前の十二機より減った」

 

 軍将校が言う。

 

「治具がよくなった」

 

「職人も慣れた」

 

「図面も」

 

「色分けは?」

 

 若い職人が尋ねる。

 

 技師は少し黙った。

 

「有効だった」

 

「紫も使いますか」

 

「使わない」

 

 軍将校が笑った。

 

     ◇

 

 作業棟の壁には、新しい札が増えた。

 

三機なら、同じ三機を作れ。

 

違いが必要なら、装備で変えろ。

 

一機だけ違う物は、作る時より、使う時に高くつく。

 

 その下に、誰かが小さく書いた。

 

ただし帳簿上は別である。

 

 実業家が見つけた。

 

「正確です」

 

 軍将校が言う。

 

「消せ」

 

「事実です」

 

「余韻が台無しだ!」

 

     ◇

 

 Tur A.2は、三機増えた。

 

 だが三種類には増えなかった。

 

 標準型。

 

 冬季型。

 

 そう呼び分けながら、機体は同じだった。

 

 雪が降れば橇を履く。

 

 寒ければ覆いを下ろす。

 

 燃料に水が疑われれば瓶へ抜く。

 

 患者を運ぶなら担架を入れる。

 

 任務が変わっても、機体まで別物にしない。

 

 必要な違いだけを、必要な時に載せる。

 

 それは十二機を作り、発動機を待ち、片肺を訓練に使い、雪と泥へ沈んで得た答えだった。

 

 工房に残ったのは、三機分の空間ではない。

 

 同じ物を、同じように作れる仕組みだった。

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