一九二三年
Tur A.1六機、Tur A.2三機を混成運用した。
演習三日目、A.1一機が不整地着陸により左主脚を損傷。
同日、A.2一機は発動機点火装置の故障により飛行不能となった。
現地整備班は、A.2の予備点火装置をA.1へ転用し、飛行可能状態へ復帰させた。
また、飛行不能となったA.2から左主脚車輪および制動部品を取り外し、損傷したA.1へ装着した。
二機の故障機から一機を復帰させた結果、翌朝の偵察任務は予定通り実施された。
製造側は、
「共食いではなく、一時的部品融通である」
と説明した。
現地部隊は、
「飛べるなら呼び方は何でもよい」
と回答した。
なお、部品を提供したA.2は翌々日、補給部品到着後に復帰している。
「九機集める」
ポーランド軍将校が言った。
WILKの会議室。
机の上には、地方航空隊合同演習の計画書。
「A.1六機」
実業家が読む。
「A.2三機」
「そうだ」
「全部Turですね」
「そうだ」
「装備は」
「A型四機、B型三機、C型二機」
「機体そのものは」
「任務前に換装する」
「工具荷車は」
「共通」
「予備部品は」
「共通」
元ドイツ帝国軍技師が計画書を取った。
「発動機仕様が完全にはそろっていない」
軍将校の顔が曇る。
「そこからか」
「A.1初期機には補機配置が異なる物がある」
「変換金具を付けた」
「ある」
「なら共通では」
「共通に使えるようにした。最初から同一ではない」
「演習前に言葉の戦争を始めるな!」
◇
演習目的。
軍団規模の移動支援。
敵役部隊の発見。
砲兵観測。
地上攻撃。
連絡将校輸送。
負傷者後送。
補給投下。
九機を一つの航空隊として動かす。
「これまでは一機ずつの試験が多かった」
軍将校が言う。
「今度は部隊運用だ」
「九機分の燃料」
実業家が計算する。
「九機分の弾薬」
「九機分の整備」
元独立運動家が食料表を見る。
「九機分の乗員と地上員」
元白軍将校が言う。
「壊れる数も増える」
「演習前に縁起でもないことを言うな」
「九機あれば、何かは壊れる」
元ドイツ技師も頷く。
「正しい」
「お前まで!」
◇
WILKから派遣されるのは四名。
元ドイツ技師。
元白軍将校。
若い技術員二名。
軍将校は監督官として同行。
元独立運動家は工房に残る。
「なぜ来ない」
軍将校が尋ねる。
「食堂と宿舎を回す」
「演習地にも必要だろう」
「そちらには軍の炊事班がいる」
実業家が言った。
「弊社から保存食評価員を一名」
「何だ、その肩書は」
「飛行食品試験部から」
「また混ざるのか!」
保存食評価員として選ばれたのは、乳業組合から移ってきた女性職人だった。
バターの水分と塩分を、技師より厳しく見る人物である。
軍将校は彼女を見た。
「航空演習だぞ」
「兵士は食べます」
「正しいが!」
◇
演習地。
広い平原。
草地飛行場が二つ。
前進飛行場。
後方飛行場。
九機は二か所へ分かれる。
前進飛行場に五機。
後方に四機。
「予備部品は」
整備隊長が尋ねる。
元ドイツ技師が答える。
「前方六割、後方四割」
「なぜ均等でない」
「前方の飛行回数が多い」
「重大部品は」
「主脚一本、尾輪二個、操縦索三組、燃料弁四個、点火装置二組」
「発動機は」
「予備一基。後方」
軍将校が眉をひそめる。
「前方で発動機が壊れたら」
「片発で後方へ戻る」
「戻れない場合は」
元白軍将校が答える。
「前方で直す」
「設備は」
「作る」
「演習開始前から現地工房を建てるな!」
◇
前進飛行場の整備設備。
工具荷車二台。
黒い敷布。
発動機予熱器。
脚清掃具。
交換部品棚。
無線修理台。
燃料確認瓶。
長柄箒。
機体覆い。
冬は終わりかけていたが、朝霜は残る。
「雪橇は」
整備隊長が尋ねる。
「一組だけ」
「雪はない」
「ぬかるみで使えるかもしれない」
元白軍将校が答えた。
「使うな」
元ドイツ技師が止める。
「雪面用だ」
「泥でも沈まない」
「排雪口へ泥が詰まる」
「掃除する」
「試験していない!」
軍将校が言った。
「演習中に新しい試験を始めるな!」
◇
一日目。
A型三機が早朝偵察。
B型二機が待機。
C型は後方。
連絡機一機が前進と後方を往復。
九機が同じ空域へ入るため、時間表が作られた。
「一号機、六時」
「二号機、六時十分」
「三号機、六時二十分」
「十分快隔か」
軍将校が尋ねる。
「離陸は」
「空域では別経路」
「無線は」
「周波数を二つに分ける」
「混線は」
「起きる」
通信兵が答えた。
「起きるのか」
「九機ですから」
「対策は」
「短い符号」
実業家がいないため、符号に商品名は使われなかった。
軍将校は少し安心した。
◇
最初の三機が飛ぶ。
Tur A.1二機。
A.2一機。
見た目は似ている。
A.2は胴体が少し長い。
尾翼が少し大きい。
遠くからでは、ほとんど分からない。
「混ざっても問題ないな」
軍将校が言う。
「部品表は分けろ」
技師が答える。
「後部胴体と尾翼は違う」
「前部は」
「共通」
「脚は」
「共通」
「発動機架も」
「共通」
「では大半は」
「可能な限り共通だ」
元白軍将校が言った。
「壊れたら隣から持ってこられる」
「勝手に外すな!」
◇
偵察任務。
一号機は敵役部隊の車列を発見。
二号機は偽装陣地を撮影。
三号機は何も見つけなかった。
帰還後。
三号機の観測員が不満そうに言う。
「何もいなかった」
軍将校が答える。
「いないと確認した」
「写真は草原だけです」
「敵がいない草原の写真だ」
「価値がありますか」
元ドイツ技師が言った。
「写らなくても役に立つ」
「前にも聞いた」
「事実は繰り返す」
◇
午前十時。
B型二機が出撃。
模擬爆弾。
機銃。
地上部隊への圧力。
敵役の砲兵陣地を攻撃する。
命中率は高くない。
だが砲兵は散開。
射撃中断。
「停止時間、五分三十二秒」
観測員が報告する。
軍将校が言う。
「前より長い」
「二機ですから」
「一機当たりは」
「計算しないでください」
「なぜ」
「砲兵は二機を別々に怖がりません」
軍将校は少し笑った。
「部隊らしくなったな」
◇
二日目。
前進飛行場へ、実際の負傷者が運ばれてきた。
演習中の荷車事故。
脚の骨折。
頭部打撲。
演習は模擬でも、怪我は本物だった。
「C型を」
軍医が言う。
「後方飛行場にいる」
「呼べ」
無線。
C型一機が離陸。
三十分後に到着。
担架二床。
医薬品。
後席防寒覆い。
「春だぞ」
軍将校が言う。
「頭部打撲で体温が落ちる」
軍医が答える。
「付けていて正解」
交換式装備は、季節で完全に無用になるわけではなかった。
◇
患者搭載。
三分二十秒。
A.2ではなく、A.1のC型。
担架金具は旧式。
床へ少し出ている。
一度、担架が引っかかる。
「遅い」
軍医が言う。
「A.2なら」
「早い」
「A.1改修は」
技師が答える。
「可能だが床を外す必要がある」
軍将校が聞く。
「全機へ?」
「整備時に順次」
「費用は」
「軍へ提案する」
「また増えるな」
「患者は待たない」
それで話は終わった。
◇
三日目。
朝から風。
敵役部隊が前進。
偵察機を急いで上げる。
A.1四号機。
離陸。
写真。
無線。
帰還。
着陸時、横風。
機体が右へ流れる。
操縦士が修正。
左車輪が草地の深い溝へ落ちた。
衝撃。
機体が傾く。
主翼端が草を擦る。
発動機を止める。
停止。
「乗員は!」
軍将校が走る。
「無事!」
操縦士が操縦席から手を上げる。
「観測員も!」
「無事です!」
元ドイツ技師は、まず二人が自力で降りるのを確認した。
その後で脚を見る。
「左主脚、曲がり」
「交換か」
「脚柱は予備がある」
「車輪は」
「制動部が割れている」
「予備は」
整備隊長が部品棚を見る。
「後方飛行場です」
「いつ届く」
「夕方」
軍将校が空を見る。
「次の偵察は明朝だ」
「間に合うか」
「交換作業を夜に」
元独立運動家はいない。
だが軍将校は、彼なら何と言うか分かっていた。
「交代でやれ。寝かせろ」
整備隊長が頷いた。
◇
同じ日の午後。
今度はA.2二号機が飛行前点検で止まった。
右発動機が始動しない。
一度。
二度。
三度。
「点火していない」
通信ではなく、発動機班が集まる。
点火線。
磁石式点火装置。
接点。
「内部断線」
技師が言う。
「予備は」
「前進飛行場に一組あったはず」
部品棚。
空。
「今朝、一号機の点検へ使った」
整備兵が答える。
「戻していない?」
「一号機の旧部品が不安定で、そのまま交換しました」
「記録は」
「あります」
「予備がなくなったことは」
「補給要求を出しました」
「到着は」
「明日午後」
軍将校は二機を見る。
脚を壊したA.1。
点火装置のないA.2。
「二機とも飛べない」
◇
元白軍将校が、A.2を指した。
「脚は無事だ」
「当然だ」
技師が答える。
「A.1へ移す」
「点火装置は壊れている」
「だからA.2は飛べない」
「車輪を外すのか」
「左だけ」
「脚柱ごと?」
「車輪と制動部だけで足りる」
軍将校が二機を見比べた。
「付くのか」
技師が答える。
「A.1とA.2の主脚は共通だ」
「本当に無加工で?」
「そのために同じにした」
元白軍将校が笑った。
「壊れたら隣から持ってこい」
「一時的だ!」
◇
さらに技師は考えた。
「A.2の左点火装置は正常だ」
「左右で同じ?」
「同じ」
「A.1へ使える?」
「変換金具を介せば」
「変換金具は」
「工具荷車にある」
軍将校が言った。
「では、A.2から車輪と点火装置を取ってA.1を飛ばす」
「そうだ」
「A.2は完全に飛べなくなる」
「今も飛べない」
「部品を戻せば」
「補給到着後に」
「共食いでは」
元白軍将校が答える。
「部品融通」
「言い換えただけだ!」
◇
決定。
A.2二号機。
左主脚車輪と制動部を取り外す。
左発動機点火装置も取り外す。
A.1四号機へ装着。
ただし作業は急がない。
工程表。
担当班。
検査班。
部品札。
「A.2二号機から外した部品には青札」
技師が言う。
「なぜ」
「借用品」
「A.1の元部品は」
「赤札。損傷品」
「新品到着後は」
「青札をA.2へ戻す」
軍将校が感心する。
「色分けが増えたな」
「紫は使わない」
若い整備兵が小さく笑った。
◇
車輪交換。
A.2を持ち上げる。
支持台。
左車輪を外す。
A.1の損傷車輪を外す。
軸寸法。
同じ。
制動管接続。
同じ。
取付穴。
同じ。
A.2の車輪がA.1へ入る。
「調整なし」
軍将校が言う。
「当然だ」
技師が答える。
「前なら削っていた」
「今は削らない」
元白軍将校が工具を置く。
「少し寂しい」
「何がだ!」
◇
点火装置。
A.2左発動機から外す。
A.1右発動機へ。
「左右をまたぐのか」
軍将校が尋ねる。
「装置自体は同じ」
「回転方向は」
「発動機側で決まる」
「配線位置は」
「変換金具で合わせる」
「重量は」
「三・六キロの例の金具だ」
「必要な重さ」
技師が先に言った。
「今日は許す!」
◇
作業終了。
夜十一時。
A.1四号機。
左主脚交換済み。
右発動機点火装置交換済み。
地上運転。
右始動。
左始動。
油圧。
回転。
制動。
「異常なし」
技師が言う。
「試験走行」
低速。
制動。
真っすぐ停止。
「飛べる」
軍将校が時計を見る。
「明朝まで整備員を寝かせろ」
「あと記録を」
「担当二人だけ。残りは寝ろ」
元白軍将校が言った。
「私も」
「お前もだ」
「まだ働ける」
「寝ろ」
白軍将校は不満そうだったが、従った。
◇
翌朝。
A.1四号機は偵察任務へ出た。
借りた車輪。
借りた点火装置。
元の機体とは、少し違う部品。
だが操縦士にとっては同じ手順。
離陸。
旋回。
写真。
無線。
敵役部隊の側面移動を発見。
「重大情報」
観測員が送る。
砲兵と地上部隊が配置を変える。
演習全体の流れが動いた。
軍将校は上空の機体を見る。
「二機を止めて一機を飛ばした」
技師が答える。
「一機飛べれば任務は続く」
「残ったA.2は」
「今日の午後、部品が来る」
「来なければ」
「待つ」
「食品でも作るか」
「ここでは作らない」
◇
だが保存食評価員は、別のところで仕事をしていた。
前進飛行場の食事。
黒パン。
干し肉。
豆。
飛行バター。
果実入り硬焼きパン。
「硬い」
整備兵が言う。
「保存用です」
「歯が折れる」
「スープへ浸してください」
「最初から柔らかく」
「柔らかいと傷みます」
元白軍将校がパンを発動機覆いの上へ置いた。
「温める」
評価員が即座に取り上げる。
「油が付きます」
「紙を敷く」
「排気もあります」
「予熱器なら」
「食品用と分けます」
軍将校が言う。
「この二人を同じ場所へ置くな!」
◇
午後。
補給部品到着。
点火装置二組。
A.1用制動部。
車輪一個。
「珍しく全部ある」
軍将校が言う。
技師が箱を開ける。
「点火装置、一組は型が違う」
「やはり!」
「変換金具で使える」
「もう驚かんぞ」
「車輪は」
「同じ」
「制動部は」
「新型だ」
「混ぜるな」
軍将校が即答した。
技師が彼を見る。
「新型は予備試験へ回す」
「量産中に勝手に混ぜない」
「よく覚えた」
「誰のせいだ!」
◇
A.2二号機へ部品を戻す。
借りた左車輪。
借りた点火装置。
A.1から外す。
新品をA.1へ。
青札部品はA.2へ戻る。
「同じ部品を二度付けた」
若い整備兵が言う。
「時間の無駄では」
軍将校が尋ねる。
「任務を一日早く飛ばせた」
技師が答える。
「なら無駄ではない」
元白軍将校が言った。
「部品も出張する」
「人間のように言うな」
「隣の機体へ働きに行った」
元独立運動家がいれば笑っただろう。
◇
四日目。
九機すべてが飛行可能。
混成編隊。
A.1四機。
A.2三機。
残り二機は予備と救急待機。
大規模偵察。
地上攻撃。
連絡。
補給。
無線が飛び交う。
前進飛行場へ機体が戻る。
燃料。
弾薬。
写真乾板。
操縦士交代。
整備。
また離陸。
「一日で何回」
軍将校が尋ねる。
「九機合計二十二出撃」
整備隊長が答える。
「多い」
「専門機より準備が早いわけではない」
技師が言う。
「だが任務を変えられる」
「A型が戻ってB型へ」
「C型は待機」
「予備機が代わりに出る」
「全部Turだから?」
「乗員も整備員も手順を知っている」
◇
敵役部隊の航空観察班は、Turの運用を記録していた。
双発多用途機。
速度、低い。
上昇性能、平凡。
攻撃精度、中程度。
ただし、一度帰還した機体が短時間で別任務へ再出撃する。
損傷機発生後も、同型機の稼働数低下が予想より少ない。
地上整備設備は簡易だが、予備部品および工具配置が整理されている。
機体個別の性能より、部隊全体の出撃継続能力を重視していると考えられる。
観察班の将校は、双眼鏡を下ろした。
「遅い」
部下が答える。
「はい」
「だが、何度も来る」
「壊れた機体も翌日には飛びました」
「別の機体では」
「番号を確認しました。同じです」
将校は記録へ一行加えた。
撃墜できない場合、損傷させるだけでは不十分。
◇
五日目。
最終総合演習。
敵役部隊は、Turの飛行場を攻撃目標に指定した。
もちろん模擬。
騎兵隊が前進飛行場へ接近する。
地上部隊から警報。
「機体を逃がす」
軍将校が言う。
「飛べる物は全機離陸」
「整備中は」
「二機」
「一機は無線配線」
「もう一機は脚清掃中」
元白軍将校が言う。
「引く」
「どこへ」
「林の影」
「間に合うか」
工具荷車。
燃料車。
人員。
全員が動く。
◇
飛べる七機が次々に離陸する。
A型。
B型。
C型。
装備はそのまま。
空へ逃げることが先。
整備中二機は、人力と小型牽引車で草地端へ。
機体覆い。
枝。
布。
偽装。
「狼印が見える」
整備兵が言う。
「泥を塗る」
元白軍将校が答える。
「塗装が」
技師が止めかける。
敵役騎兵の姿が見える。
「後で洗う!」
◇
騎兵隊が飛行場へ突入した。
模擬爆薬。
煙。
格納設備へ印。
燃料集積へ印。
工具荷車一台が「破壊」と判定。
だが機体は見つからない。
林の影。
覆い。
泥。
騎兵隊の一人が枝をめくる。
その下にA.2の主翼。
「見つけた!」
判定官が時計を見る。
「攻撃可能時間終了」
「あと少しだった!」
元白軍将校が機体の陰で笑う。
「遅い」
軍将校が言った。
「飛行機に隠れるな!」
◇
空へ逃げた七機は、後方飛行場へ着陸した。
装備も人員も分散。
前進飛行場が攻撃されても、航空隊は消えない。
「工具荷車が一台失われた判定」
軍将校が報告を受ける。
「予備は」
「後方に一台」
「前方機の整備は」
「工具を分ける」
「一式失っても続けられる?」
「効率は落ちる」
「止まらない」
技師が答えた。
「一つ壊れても、残った物で帰る」
「機体だけの話ではなくなったな」
◇
演習終了。
九機。
実損傷二機。
一時飛行不能二機。
演習上破壊判定、工具荷車一台、燃料集積一か所、仮設通信所一棟。
乗員負傷、なし。
整備兵一名、指を軽く挟む。
炊事班一名、熱い鍋で手を火傷。
「最後の方が現実的だな」
軍将校が言う。
保存食評価員が答える。
「鍋つかみを増やします」
「航空演習報告へ?」
「負傷者は負傷者です」
軍医が頷いた。
「正しい」
◇
講評会。
地方航空隊指揮官。
各部門。
WILK側。
敵役観察班。
「Turは速くない」
敵役将校が言った。
「知っている」
軍将校が答える。
「攻撃精度も特別高くない」
「知っている」
「高度性能も平凡」
「知っている!」
「だが困った」
会議室が静かになる。
「一機を損傷させても、別の機体から部品を移して翌朝飛んだ」
「同じ型だからです」
技師が答える。
「飛行場を攻撃しても、七機が逃げた」
「警報があった」
「整備中二機も隠された」
「泥を落とすのが大変です」
元白軍将校が言った。
「そこではない」
◇
敵役将校は報告書を閉じた。
「一機ずつなら、怖くない」
「では何が」
軍将校が尋ねる。
「部隊として止まりにくい」
技師は何も言わなかった。
指揮官が続ける。
「専門機なら、専門装備か専門部品を壊せば任務を止められる。Turは偵察機を壊しても、攻撃装備を外して偵察へ回せる」
「全部が完璧ではない」
「だが全部が少しずつできる」
「それは評価か」
「敵役としては悪評だ」
軍将校は笑った。
「最高の褒め言葉だな」
◇
演習後。
A.1四号機の借用記録が正式にまとめられた。
A.2二号機より以下を一時転用。
左主車輪一式。
制動部。
磁石式点火装置一基。
転用時間、十三時間四十分。
転用中、A.1四号機は偵察任務一回を実施。
同任務により敵役部隊の側面移動を発見。
作戦価値、部品価格を大きく上回る。
実業家が記録を読んだ。
「最後の一行は誰が」
軍将校が答える。
「会計官だ」
「会計官が?」
「演習へ来ていた」
実業家は満足そうに頷いた。
「成長しましたね」
「本人に言うなよ」
◇
WILKへ戻った機体には、演習の跡が残っていた。
泥。
草。
擦り傷。
部品札。
A.2二号機の車輪には、青い札の紐跡。
元独立運動家がそれを見る。
「隣へ働きに行ったのか」
元白軍将校が答える。
「よく働いた」
「戻ってきた?」
「全部」
技師が確認する。
「番号も一致」
「一つくらい違っても」
「駄目だ」
「厳しいな」
「次に必要な時、場所が分からなくなる」
◇
演習参加者への夕食。
黒パン。
豆の煮込み。
肉。
飛行バター。
高度不足。
保存食評価員が、硬焼きパンの改良版を出す。
「前より柔らかい」
軍将校が言う。
「保存期間は少し短くなりました」
「交換条件か」
「食品も同じです」
技師が一口食べる。
「歯は折れない」
「技術評価として記録します」
「食感評価だ!」
◇
壁には、演習で使った青札が掛けられた。
他機より一時借用
使用後、必ず返却
その横へ新しい札。
壊れたら、隣から持ってこい。
ただし、番号を記録してから。
軍将校が見つけた。
「最後がWILKらしいな」
実業家が答える。
「返却管理は重要です」
元白軍将校が言う。
「戦場では返せないこともある」
元ドイツ技師は少し考えた。
「その場合は、残った機体を飛ばせ」
◇
九機は、九つの別々の飛行機ではなかった。
一機の脚が壊れた。
一機の発動機が動かなかった。
それでも、使える物を集めれば一機が空へ戻った。
工具も。
部品も。
装備も。
手順も。
人間の経験も。
機体の境を越えて使えた。
同じ物を作るということは、見た目をそろえることではない。
一機の残った力を、別の一機へ渡せるようにすることだった。
速くはない。
強くもない。
一番でもない。
だが、止めたはずの機体が翌朝また飛んでくる。
敵役の観察報告には、最後にこう記されていた。
Turを行動不能にする場合、機体一機のみを損傷させても効果は限定的である。
整備設備、予備部品、回収能力を同時に失わせる必要がある。
特に、損傷機を回収させてはならない。
それは、野牛が初めて敵から受け取った、正式な恐れだった。