一九二三年
合同演習において、Tur系列機は機体間の部品融通により高い稼働率を維持した。
敵役観察班は対策として、
「損傷機を回収させてはならない」
との所見を提出した。
これを受け、航空部はWILK航空製作所へ損傷機回収手順の作成を依頼した。
製造側は、以下を回答した。
一、飛べるなら飛ばして帰す。
二、片発で帰れるなら片発で帰す。
三、走れるなら走らせる。
四、走れないなら分解して運ぶ。
五、分解できない場合は、運べる物をすべて持ち帰る。
六、敵前に残す場合は、再使用不能化する。
航空部は、第五項の「すべて」の範囲を照会した。
製造側は、
「外せる物すべて」
と回答した。
元白軍将校は、
「外れない物も切って持ち帰る」
と補足した。
この補足は正式文書から削除された。
「敵が言った」
ポーランド軍将校は、敵役観察報告書を机へ置いた。
「損傷機を回収させるな」
元白軍将校が頷く。
「正しい」
「敵の意見だぞ」
「だから正しい」
「味方として反対しろ」
「こちらも同じことをする」
元ドイツ帝国軍技師が報告書を読む。
「機体一機を壊すだけでは足りない。回収設備と予備部品も狙う」
「厄介だな」
「当然の対策だ」
「こちらの機体が評価された結果、敵の仕事が増えた」
実業家が言った。
「評価は市場を作ります」
軍将校が彼を見る。
「敵対策を商機にするな」
「回収装備の発注が見込めます」
「もう商機にした!」
◇
Turは丈夫だった。
だが不死身ではない。
脚が折れる。
主翼を傷める。
発動機が止まる。
操縦索が切れる。
不時着する。
飛行場まで帰れないこともある。
これまでは、そのたびに荷車と人を集めた。
主翼を外す。
尾翼を外す。
胴体を載せる。
発動機を別にする。
鉄道駅まで引く。
「毎回やり方が違う」
元ドイツ技師が言う。
「場所が違う」
軍将校が答える。
「だから共通手順が要る」
「回収まで標準化?」
「壊れた時ほど必要だ」
元白軍将校が言った。
「戦場で初めて分解方法を考えるな」
「第十七話と同じだな」
「撃たれてから考えるな」
「落ちてから考えるな、か」
◇
航空部から来た最初の要求は簡単だった。
Tur一機を、道路上で運搬可能な状態へ六時間以内に分解せよ。
「六時間」
軍将校が言う。
「可能か」
元ドイツ技師は答えなかった。
代わりに作業記録を持ってくる。
「A.1量産機の主翼取り外し、工房設備使用で四時間二十分」
「主翼だけで?」
「左右両方」
「尾翼は」
「一時間十七分」
「発動機は」
「一基三時間前後」
「全部で六時間を超えるな」
「同時作業なら」
元白軍将校が答えた。
「人を増やす」
「何人」
「多いほど早い」
「答えになっていない」
元独立運動家が言う。
「多すぎると邪魔になる」
「では班を分ける」
「誰が指揮する」
「私」
軍将校が即座に言った。
「嫌だ」
◇
回収試験には、飛べない機体が必要だった。
「どれを使う」
軍将校が尋ねる。
工房に完成機はない。
軍へ納入済み。
修理中の機体もない。
元白軍将校が言った。
「試験用に落とす」
「落とすな!」
「古い郵便機」
「まだ民間便で使っている」
「では木製模型」
「実機と違う」
実業家が帳簿を見る。
「軍からA.1一機を借りられます」
「飛行可能機を分解するのか」
「整備教育を兼ねる条件で」
「貸してくれる?」
「既に了承があります」
軍将校は彼を見た。
「いつ頼んだ」
「敵役報告が届いた翌日です」
「私が読む前に動くな!」
◇
借りてきたのは、量産十号機だった。
飛行時間は少ない。
状態良好。
操縦士は不安そうだった。
「本当に戻りますか」
元ドイツ技師が答える。
「戻す」
「分解するのでしょう」
「組み直す」
「同じように飛びますか」
「その確認までが試験だ」
元白軍将校が機体側面を叩く。
「一度ばらした方が、よく分かる」
「叩かないでください」
「大丈夫だ」
「あなたの大丈夫は信用されていません」
軍将校が笑った。
「軍でも知られているぞ」
◇
試験条件。
草地。
工房から十五キロ。
仮想不時着地点。
道路まで五百メートル。
大型荷車二台。
馬六頭。
工具荷車一台。
作業員十二名。
軍整備兵八名。
監督官一名。
「二十一人」
元独立運動家が数える。
「食事は二十五人分」
軍将校が尋ねる。
「なぜ増える」
「荷車の御者。炊事。衛生兵」
「回収試験なのに小隊規模だな」
「飛行機一機は大きい」
元白軍将校が答えた。
◇
十号機は、自力で草地へ着陸した。
そこから動けないという想定。
右主脚破損。
左発動機故障。
胴体は無事。
「本当に脚を壊す?」
軍将校が尋ねる。
「壊さない」
技師が答える。
「右脚を外して、支持台へ載せる」
「発動機は」
「点火装置を外して始動不能にする」
「模擬故障か」
元白軍将校が残念そうに言う。
「実際に曲げればよい」
「借り物だ!」
◇
試験開始。
午前六時。
「まず乗員救出」
軍医が言う。
「今日は負傷者なし」
「想定でも確認する」
操縦士と観測員が降りる。
燃料遮断。
点火切。
弾薬なし。
写真乾板回収。
無線暗号表回収。
郵便袋回収。
軍将校が最後を見る。
「また郵便がある」
「空荷では不自然なので」
「偵察機想定だろう」
「帰りに預かった想定です」
「想定の中でも郵便を運ぶのか!」
◇
次に機体保全。
燃料を抜く。
油を抜く。
発動機覆いを外す。
プロペラを外す。
主翼支柱へ番号札。
操縦索へ札。
配線へ札。
配管へ札。
「外した物を混ぜるな」
技師が言う。
「右は丸」
「左は三角」
「中央は」
若い整備兵が尋ねる。
「四角」
「冬季弁と同じでは」
「部品区分が違う」
「色も使う?」
「青は借用品」
「今回は全部借用品では」
軍将校が言った。
「機体ごと軍から借りた」
技師は少し考えた。
「青札は使わない」
「危なかったな」
◇
主翼取り外し。
左右同時。
支柱。
燃料配管。
操縦索。
電線。
取付ボルト。
「右側、外れない」
整備兵が叫ぶ。
「どこだ」
「後部取付ボルト」
元白軍将校が金槌を持つ。
技師が止める。
「曲がっているか確認」
「抜けないなら叩く」
「荷重が残っている」
主翼支持を少し上げる。
ボルトが軽くなる。
手で抜けた。
「叩かなくても抜けた」
軍将校が言う。
白軍将校は金槌を戻した。
「今回は」
「毎回そうしろ!」
◇
二時間十五分。
左右主翼が外れた。
地面へ直接置かない。
布と木枠。
前縁を守る。
翼端も。
「軽く見える」
軍将校が言う。
「持ってみろ」
元独立運動家が答える。
八人で運ぶ。
「重い!」
「大きいからな」
「翼だけでこれか」
「必要な」
「今日は言わなくてよい!」
◇
尾翼。
水平尾翼。
方向舵。
昇降舵。
操縦索。
取り外し。
小さい分、早い。
四十五分。
「工房より速い」
技師が記録する。
「工具配置がよい」
「人が慣れた」
「敷布も」
元白軍将校が言う。
「地面が見える」
「布は部品を守るためだ」
「寝るにも使える」
「寝るな!」
◇
発動機を外すかどうか。
ここで意見が割れた。
「胴体と主翼を分ければ道路を通れる」
軍将校が言う。
「発動機は付けたままでよいのでは」
「荷車の耐荷重」
技師が答える。
「胴体前部が重い」
「左右に発動機がある」
「主翼と一緒に外れている?」
「発動機は主翼側だ」
軍将校は一瞬黙った。
「そうだった」
全員が彼を見る。
「何だ」
「長く付き合っていて、今確認するのか」
「分かっている! 言葉の整理だ!」
Turの発動機は左右の主翼側へ付いている。
主翼を外せば、発動機も機体から離れる。
「つまり主翼が重い理由は」
「発動機付きだからだ」
「先ほど八人で重いと思った!」
◇
発動機付き主翼を、そのまま運ぶのは危険だった。
重い。
重心が偏る。
架台も大きくなる。
「発動機を主翼から外す」
技師が決める。
「時間は」
「左右同時」
「あと何時間」
「二時間以内」
「六時間に間に合うか」
時計。
開始から三時間十二分。
「残り二時間四十八分」
元白軍将校が袖をまくる。
「急ぐ」
元独立運動家が止める。
「食べてから」
「時間がない」
「手が震える」
「パンだけ」
全員へ黒パンとバター。
軍将校が言う。
「回収試験中に最初の一匙は」
「飛んだ者が先に食べた」
「いつ」
「着陸後」
操縦士は既に食べていた。
「手際がよいな!」
◇
左右発動機取り外し。
プロペラは既に外れている。
配管。
操作索。
固定ボルト。
吊り具。
滑車。
現地には天井梁がない。
代わりに三脚式吊り具を使う。
太い木柱三本。
頂点に滑車。
「現地回収用?」
軍将校が尋ねる。
「試作した」
実業家が答える。
「いつ」
「回収要領依頼の翌日です」
「また私より早い!」
◇
左発動機。
外れる。
木枠へ。
右。
固定ボルト一本が固い。
「錆?」
「締めすぎ」
「工房で?」
「納入後の整備」
元白軍将校が長い柄を持ってくる。
「力を増やす」
「ボルト頭を壊すな」
「ゆっくり」
二人。
三人。
動かない。
「加熱」
「燃料を抜いた後でも周囲に油がある」
「危険だ」
「切る?」
軍将校が聞く。
技師が首を振る。
「潤滑油を入れ、振動を与える」
白軍将校が金槌を持つ。
「ようやく」
「直接叩くな。木を当てろ」
軽く。
何度か。
油。
再び力をかける。
ボルトが動いた。
「金槌が役に立った」
白軍将校が得意そうに言う。
「正しく使えばな!」
◇
五時間四十六分。
分解完了。
胴体。
左右主翼。
左右発動機。
尾翼。
プロペラ。
脚部品。
装備。
工具。
「六時間以内」
軍将校が言う。
「十四分余った」
元白軍将校が答える。
「もう一回できる」
「しない!」
元ドイツ技師は作業表を見る。
「初回としてはよい」
「改善点は」
「多い」
「成功を喜べ」
「積載が残っている」
「まだ終わっていないのか!」
◇
大型荷車二台。
一台目。
胴体。
尾翼。
小物。
二台目。
左右主翼。
発動機。
プロペラ。
「載らない」
軍将校が言う。
主翼が長い。
道路幅を超える。
「斜めに」
「木へ当たる」
「縦に立てる」
「風を受ける」
元白軍将校が言う。
「翼端を外す」
技師が振り返る。
「外せない構造だ」
「切る?」
「借り物だ!」
元独立運動家が道路を見る。
「荷車を二台縦に並べ、主翼を渡す」
「長物運搬?」
「前後で支える」
「曲がり道は」
「後ろの荷車が遅れて曲がる」
「誰が合わせる」
「御者二人」
元白軍将校が笑う。
「砲身運搬と同じだ」
◇
主翼運搬用連結梁。
現地の木材。
荷車二台の間へ渡す。
主翼を左右別々に載せる。
発動機は外したため、かなり軽い。
「これなら」
技師が確認する。
「道路を通れる」
「最初から四台必要だったな」
軍将校が言う。
実業家が答える。
「次回は回収専用荷車を」
「売る気だ」
「必要です」
◇
仮想回収地点から道路まで五百メートル。
草地。
少しぬかるむ。
胴体荷車が沈む。
「車輪が細い」
元白軍将校が言う。
「大きくする」
軍将校が答える。
「工具荷車と同じ流れだな」
「学んだ」
「橇を履かせる?」
「泥用は試験していない」
技師が即座に止める。
「今日は新しいことを始めない」
軍将校は感動した。
「やっと覚えたか」
「次回試験する」
「覚えていない!」
◇
馬六頭で引く。
胴体荷車。
主翼荷車。
発動機荷車。
小物。
ゆっくり進む。
五百メートル。
一時間。
「飛行機なら一分もかからない」
軍将校が言う。
「飛べないから運ぶ」
「分かっている」
元独立運動家が御者へ水を渡す。
「馬にも」
「豆と干し草」
「人間より食うな」
「働いている」
◇
道路へ出る。
そこから仮設整備地まで十五キロ。
日没が近い。
「夜間運搬?」
「危険だ」
技師が言う。
「今日はここで止める」
「試験時間は」
「分解完了まで六時間。輸送は別」
軍将校が計画書を見る。
「本当に別だ」
実業家が答える。
「契約上も別工程です」
「都合よく分けたな」
「安全上です」
◇
夜。
分解されたTur十号機は、道路脇に並んでいた。
翼のない胴体。
外された主翼。
発動機。
尾翼。
覆いをかける。
警戒兵。
灯火は最小限。
「敵前なら」
軍将校が尋ねる。
「警戒部隊が必要」
元白軍将校が答える。
「回収班だけでは無理だ」
「空から狙われたら」
「覆いと分散」
「主翼を林へ」
「胴体は」
「道の影」
「発動機は別々に」
技師が記録する。
「一か所にまとめない」
「回収物まで分散?」
「一発で全部失わない」
軍将校は笑った。
「機体だけでなく、壊れた後まで同じ思想だな」
◇
翌朝。
輸送開始。
道は狭い。
村を通る。
子供たちが出てくる。
「飛行機だ!」
「翼が外れてる!」
「壊れたの?」
操縦士が答える。
「試験だ」
「飛ぶ?」
「また飛ぶ」
「本当に?」
「そのために持って帰る」
元独立運動家は、子供たちへ硬焼きパンを配ろうとした。
保存食評価員がいないため、軍将校が止めた。
「軍用備蓄だ」
「余りがある」
「帳簿は」
実業家が即座に言う。
「試食配布として記録できます」
「なら二つまでだ!」
◇
仮設整備地へ到着。
輸送時間。
四時間二十八分。
「分解六時間。輸送四時間半」
軍将校が言う。
「組立は」
技師が答える。
「明日から」
「今日では」
「作業員を休ませる」
「正しい」
「驚くな」
◇
組立試験。
分解の逆。
だが逆にやればよいわけではない。
まず胴体支持。
尾翼。
操縦索。
主翼。
発動機。
配管。
配線。
プロペラ。
燃料。
油。
調整。
「分解より時間がかかる」
軍将校が言う。
「当然だ」
「何時間」
「目標十二時間」
「一日」
「二班交代」
元白軍将校が言う。
「八時間」
「確認を削るな」
「分かっている」
「最近、素直だな」
「別班に見つかる」
「検査制度が人を変えた!」
◇
組立一日目。
主翼装着。
左右。
取付ボルト。
燃料配管。
操縦索。
一か所、索張力が合わない。
「分解前より強い」
技師が言う。
「何が違う」
「主翼支持高さ」
「調整」
索を張り直す。
記録。
次に発動機。
左右。
吊り具。
固定。
配管。
点火。
日没。
「ここまで」
軍将校が言う。
「あと少し」
白軍将校が答える。
「疲れている」
「まだ」
「手が油で滑っている」
元独立運動家が布を渡す。
「終わりだ」
◇
二日目。
配線。
プロペラ。
油。
燃料。
地上運転。
右。
左。
二基の音。
「油圧」
「正常」
「温度」
「正常」
「振動」
「左やや大」
「プロペラ?」
「釣り合い確認」
分解輸送中に、左プロペラ先端の保護材が少しずれていた。
小さな傷。
「使えるか」
「磨いて重量を合わせる」
「交換は」
「予備なし」
元白軍将校が言う。
「左右の反対側も同じだけ削る」
「必要な分だけだ!」
◇
組立完了。
十四時間三十五分。
「目標超過」
軍将校が言う。
「初回だ」
「改善できる?」
「作業順を変える」
技師が一覧へ書く。
「尾翼を後に。発動機架の配管札を増やす。主翼支持台へ目盛り。プロペラ保護箱を改良」
「回収装備が増える」
「必要だ」
「今回は言わせる」
◇
再飛行。
操縦士は、借りてきた時と同じ男。
「本当に飛ぶのですね」
「飛ぶ」
技師が答える。
「違和感があればすぐ戻れ」
軍将校が言う。
「片発試験は」
「今日はしない」
「珍しい」
「一度ばらした後だ。基本確認が先」
元独立運動家が包みを渡す。
「着陸後に」
「最初の一匙?」
「二度目の初飛行だからな」
軍将校が言う。
「初飛行は一度だけだろう」
「一度ばらばらになった」
「では再生飛行?」
実業家が記録した。
再組立後初飛行
「それでよい!」
◇
十号機は滑走した。
翼。
発動機。
尾翼。
脚。
一度すべて外された。
馬に引かれた。
村の道を通った。
夜露を受けた。
もう一度組み直された。
それでも二基の発動機は、同じ方向へ機体を引いた。
速度。
尾が上がる。
離陸。
「上がった」
軍将校が言う。
技師は双眼鏡を上げたまま答えた。
「姿勢、正常」
「喜べ」
「着陸後だ」
「相変わらずだな!」
◇
飛行時間、三十八分。
直進。
旋回。
脚。
無線。
燃料系統。
操縦力。
異常なし。
着陸。
真っすぐ。
停止。
操縦士が降りる。
「どうだ」
軍将校が尋ねる。
「前と同じです」
技師が初めて笑った。
「それが一番よい」
◇
航空部への報告。
Tur A.1一機を、仮想不時着地点にて分解。
六時間以内に道路運搬可能状態へ移行。
翌日、十五キロ先の仮設整備地へ輸送。
再組立後、試験飛行に成功。
機体性能および操縦性に異常なし。
その下に改善要求。
回収用主翼荷車。
発動機運搬枠。
三脚吊り具。
主翼支持台目盛り。
防水覆い。
長物運搬時の前後荷車連絡手段。
夜間警戒要員。
作業員用食料および寝具。
軍将校が最後を見る。
「食料と寝具も回収装備?」
元独立運動家が答える。
「二日かかる」
「機体より人間が先に動けなくなる?」
「そうだ」
技師も頷いた。
「必要だ」
軍将校は反論しなかった。
◇
航空部は、回収装備一式を三組発注した。
大型荷車。
主翼運搬梁。
発動機枠。
三脚吊り具。
工具。
札。
敷布。
覆い。
寝具。
炊事箱。
「炊事箱まで正式装備になった」
軍将校が言う。
実業家が答える。
「長時間作業用です」
「飛行食品試験部が作る?」
「容器設計だけ」
「中身は軍?」
「希望があれば弊社が」
「分かった。もう聞かん」
◇
元白軍将校は、回収要領書の表紙へ書いた。
落ちた機体を置いてくるな。
技師が見つける。
「正式名称ではない」
「分かりやすい」
「敵前で回収不能な場合もある」
「なら部品だけでも」
「それも無理なら」
白軍将校は少し黙った。
「敵に使わせるな」
軍将校が尋ねる。
「壊すのか」
「必要なら」
作業場の空気が静かになる。
今までWILKは、壊れた物を持ち帰ってきた。
翼も。
発動機も。
曲がった脚も。
擦れた油管も。
帰ってきた物は、次を良くした。
だが戦場では、持ち帰れない日もある。
◇
元ドイツ技師は、正式要領書の最後へ一項を加えた。
回収不能かつ敵による再使用が確実な場合、重要装備、無線機、照準器、写真機、点火装置および交換可能部品を優先して撤去する。
撤去不能な場合は、指揮官の判断により再使用不能化する。
軍将校が読む。
「機体全体を燃やすとは書かないのか」
「状況による」
「爆破は」
「最後だ」
「なぜ」
技師は答えた。
「戻れる可能性が残っている物を、先に壊すな」
◇
壁には、新しい札が掛けられた。
飛べるなら飛ばして帰せ。
飛べないなら、運んで帰せ。
運べないなら、外して帰せ。
それでも無理なら、次に使える物だけでも帰せ。
その下に、元白軍将校が小さく書き足した。
人間を最初に。
元ドイツ技師は、それだけは消さなかった。
◇
敵は、損傷機を回収させるなと言った。
WILKは、それを正しいと認めた。
だから回収する方法を作った。
分解する順番。
吊るす道具。
運ぶ荷車。
守る覆い。
番号札。
食事。
寝床。
機体が落ちた後にも、会社と部隊が動き続ける仕組み。
Turは、飛んでいる時だけ航空機ではなかった。
地面へ降りた後も。
翼を外された後も。
馬に引かれている間も。
もう一度空へ戻るための途中にいた。
そして敵は、次の演習計画へ新しい命令を書き加えた。
損傷機のみならず、回収班を妨害せよ。
軍将校はその一文を読んだ。
「今度は人まで狙うのか」
元白軍将校が答える。
「戦争なら当然だ」
元独立運動家は、回収班用の医療箱を増やした。
実業家は、荷車へ予備の馬を加えた。
元ドイツ技師は、分解時間をさらに短くする図面を開いた。
軍将校だけが、額を押さえた。
「敵が賢くなるたび、こちらの荷物が増えるな」
誰も否定しなかった。