WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――WILK航空製作所・十一粍級航空機銃再整備および翼下搭載試験記録
一九二三年

取得銃、八挺。

受領時判定。

即時使用可能、二挺。
整備後使用可能、四挺。
部品交換を要するもの、二挺。

取得設備の据付完了前であったため、初期整備は仮設作業場にて実施された。

二挺を左右翼下へ各一挺搭載し、既存七・九二粍固定機銃二挺と併用した。

射撃試験結果。

軽車両模擬標的、機関部貫通。
木造掩体、複数箇所破砕。
石積み壁、表面損壊。

機体側では、左翼下取付部に許容値を超える振動を確認。

軍監督官は、

「威力は足りた」

と報告した。

製造側は、

「機体が足りていない」

と訂正した。


第39話 大きい弾ほど素直ではない

機関銃工場は、まだ工場ではなかった。

 

 倉庫だった。

 

 広い。

 

 屋根はある。

 

 壁もある。

 

 床もある。

 

 だが精密機械を置くには、床が柔らかい。

 

 窓は多すぎる。

 

 冬は寒い。

 

 電力も足りない。

 

「六週間」

 

 元ドイツ帝国軍技師が言った。

 

「最短で」

 

 ポーランド軍将校は倉庫の中を見回した。

 

「六週間後には銃が作れる?」

 

「設備が正しく動く」

 

「同じでは」

 

「違う」

 

「どう違う」

 

「機械が動くことと、規格内の部品が作れることは違う」

 

「では銃は」

 

「さらに後」

 

 軍将校は天井を見た。

 

「火力が遠い」

 

     ◇

 

 最初に必要なのは、基礎だった。

 

 旋盤。

 

 フライス盤。

 

 銃身加工機。

 

 弾帯製造機。

 

 どれも床へ置くだけでは使えない。

 

 振動する。

 

 傾く。

 

 精度が狂う。

 

「穴を掘る」

 

 元白軍将校が言った。

 

「ここに」

 

「機械ごとに独立基礎」

 

 技師が答える。

 

「深さは」

 

「地盤を見る」

 

「掘れば分かる」

 

「掘る前に測る」

 

「掘った方が早い」

 

「後で埋め直す方が遅い!」

 

     ◇

 

 建設班。

 

 元工兵。

 

 煉瓦職人。

 

 大工。

 

 新しく来た機関銃工場の職人。

 

 古参WILK職人。

 

 全員が床を剥がす。

 

 最初の一メートル。

 

 土。

 

 次。

 

 少し湿っている。

 

「地下水?」

 

「雨水が回っている」

 

「排水が必要」

 

 軍将校が言う。

 

「機関銃工場を作る前に排水溝か」

 

 元独立運動家が答えた。

 

「水が入れば全部錆びる」

 

「分かっている」

 

「なら先に水を出す」

 

「最近、何を作るにも地面からだな」

 

     ◇

 

 解体して持ってきた煉瓦が使われた。

 

 フランスの古い工場の壁。

 

 ポーランドの新しい工場の基礎。

 

「壁だった物を床へ」

 

 軍将校が言う。

 

「使える」

 

 実業家が答える。

 

「輸送費を払って瓦礫を運んだ理由が、ようやく分かった」

 

「瓦礫ではありません」

 

「煉瓦だな」

 

「資産です」

 

「そこまで言うか」

 

     ◇

 

 最大旋盤。

 

 重量。

 

 水平。

 

 基礎ボルト。

 

 据付。

 

 古参銃身工が水準器を見る。

 

「右が低い」

 

 建設班が木片を入れようとする。

 

「木は駄目」

 

 技師が止める。

 

「金属薄板」

 

「何枚」

 

「測る」

 

「一枚で」

 

「一枚では足りない」

 

「二枚」

 

「測る!」

 

 軍将校が笑った。

 

「お前たち、銃を作る前から戦っているな」

 

 銃身工が答えた。

 

「水平でない旋盤は、銃身を曲げます」

 

「銃身が曲がれば」

 

「弾がどこへ行くか分からない」

 

「よし、測れ」

 

     ◇

 

 機械は、輸送でわずかに狂っていた。

 

 主軸。

 

 送りねじ。

 

 刃物台。

 

 軸受。

 

 一台は良好。

 

 一台は調整可能。

 

 一台は主軸の摩耗が大きい。

 

「使えない?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「高精度部品には」

 

「なら捨てる?」

 

 実業家が言う。

 

「何に使えますか」

 

 銃身工が答える。

 

「粗加工。治具。運搬具。大きな部品」

 

「航空部門へ」

 

 技師が言う。

 

「主脚部品の前加工に使える」

 

 軍将校がため息をついた。

 

「機関銃工場の壊れた旋盤が、航空機部門へ就職した」

 

「壊れてはいない」

 

「役目が変わっただけか」

 

     ◇

 

 弾帯製造機。

 

 一基は正常。

 

 一基は歯車が欠けている。

 

 新しく来た機械工が歯車を見た。

 

「同じ物を作れる」

 

「材料は」

 

「ある」

 

「熱処理は」

 

「炉がまだ動かない」

 

「外注」

 

 実業家が言う。

 

 軍将校が尋ねる。

 

「どこへ」

 

「近隣の鉄道工場」

 

「話は通る?」

 

「以前の取引先です」

 

「ポーランド国内にもいるのか!」

 

「市場は国内にもあります」

 

「市場という言葉で知人を隠すな!」

 

     ◇

 

 工場再建と同時に、銃そのものも開けられた。

 

 八挺。

 

 油紙。

 

 木箱。

 

 古い防錆油。

 

 銃身。

 

 機関部。

 

 給弾機構。

 

 引き金。

 

「二挺は即時使用可能」

 

 技師が言う。

 

「本当に?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「地上試射後に」

 

「即時ではない」

 

「整備上の分類だ」

 

「言葉が厳しい!」

 

     ◇

 

 一挺目。

 

 銃身良好。

 

 閉鎖機良好。

 

 撃針。

 

 ばね。

 

 給弾爪。

 

 問題なし。

 

 二挺目。

 

 同じ。

 

 三挺目。

 

 撃針摩耗。

 

 四挺目。

 

 給弾爪に欠け。

 

 五挺目。

 

 銃身内面に軽い錆。

 

 六挺目。

 

 復座ばね弱化。

 

 七挺目。

 

 部品不足。

 

 八挺目。

 

 機関部に別型部品が混ざっている。

 

 軍将校が八挺目を見る。

 

「同じ銃では」

 

 古参検査員が答える。

 

「戦争中に修理されました」

 

「別型部品で?」

 

「動けば使いました」

 

 元白軍将校が頷く。

 

「正しい」

 

 技師が首を振る。

 

「今後は区別する」

 

「戦場なら」

 

「戦場で困らないために今分ける」

 

 軍将校が言う。

 

「両方正しいから困る」

 

     ◇

 

 11ミリ級航空機銃。

 

 7.92ミリ機銃より長い。

 

 重い。

 

 銃身も太い。

 

 弾薬も大きい。

 

 軍将校は弾を手に取った。

 

「これなら壊せる」

 

 技師が答える。

 

「何を」

 

「軽車両」

 

「当たれば」

 

「当てる」

 

「前回は砲へ三発だった」

 

「その三発が重くなる」

 

「弾数は減る」

 

 元白軍将校が言う。

 

「一発で二発分」

 

「算術が雑だ!」

 

     ◇

 

 問題は給弾だった。

 

 取得銃は、戦時中の航空用途に合わせたベルト給弾。

 

 だが弾帯は古い。

 

 布が湿気を吸う。

 

 金具が錆びる。

 

 弾の保持力にも差がある。

 

「全部検査」

 

 技師が言う。

 

「何本」

 

「あるだけ」

 

「数千発分」

 

「全部」

 

 軍将校が顔をしかめる。

 

「弾帯だけで一週間かかるぞ」

 

 古参弾帯工が答えた。

 

「撃って詰まるより短い」

 

「正しい」

 

     ◇

 

 新しく来た家族の中から、弾帯検査を手伝える者が集められた。

 

 戦時中、工場で働いていた妻たち。

 

 娘たち。

 

 年齢で退職した者。

 

 縫製経験者。

 

「職工名簿にない」

 

 軍将校が言う。

 

 実業家が答える。

 

「家族欄に職歴を書いてもらいました」

 

「最初から?」

 

「移住後の雇用希望確認です」

 

「家族まで採用候補として見ていたのか」

 

「働きたい者だけです」

 

 弾帯工の妻が、古い布帯を指で曲げる。

 

「これは駄目」

 

「なぜ」

 

「折れ目が戻らない」

 

「乾かせば」

 

「繊維が切れています」

 

 技師が確認する。

 

「廃棄」

 

 軍将校は感心した。

 

「見ただけで?」

 

「戦争中に一日千本見ました」

 

「採用」

 

 実業家が即座に言った。

 

     ◇

 

 仮設試射場。

 

 工場据付を待てない軍将校のため、即時使用可能二挺を地上で撃つ。

 

「待てないのではない」

 

 軍将校が言う。

 

「必要だ」

 

「同じ意味だ」

 

 技師が答える。

 

 銃は一挺ずつ。

 

 固定架。

 

 土盛り。

 

 標的。

 

 通常弾。

 

 曳光弾。

 

「焼夷弾は」

 

「古い」

 

「使えない?」

 

「品質確認後」

 

「一種類ずつ増えるな」

 

     ◇

 

 一挺目。

 

 装填。

 

 発射。

 

 音が違った。

 

 7.92ミリより低い。

 

 重い。

 

 一発ごとの衝撃が、試験架を叩く。

 

 十発。

 

 二十発。

 

 三十発。

 

 停止。

 

「正常」

 

 技師が言う。

 

 軍将校は標的を見る。

 

 厚い木板。

 

 穴。

 

 裏側は大きく裂けている。

 

「威力はある」

 

「銃架も動いている」

 

「固定が弱い?」

 

「反動が大きい」

 

 元白軍将校が架台を見る。

 

「もっと重く」

 

「地上架は」

 

「機体では重くできない」

 

 軍将校が言った。

 

「翼が受ける」

 

 技師が答える。

 

「翼へ返る」

 

「丈夫だ」

 

「丈夫とは、何でも吊って撃ってよいという意味ではない」

 

「前にも聞いた!」

 

     ◇

 

 二挺目。

 

 最初の十五発。

 

 正常。

 

 十六発目。

 

 不発。

 

 停止。

 

「弾か」

 

「撃針か」

 

 開ける。

 

 雷管に浅い打痕。

 

「撃針?」

 

「油が固い」

 

「古い防錆油」

 

「洗浄不足」

 

 古参検査員が首を振る。

 

「低温ならもっと悪い」

 

 技師が言う。

 

「全機関部を洗浄。油を変更」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「即時使用可能二挺では」

 

「一挺に訂正」

 

「即時が消えそうだな」

 

     ◇

 

 重ガンポッド設計。

 

 7.92ミリ用は二挺入り。

 

 11ミリ級は一基一挺。

 

 左右翼下へ各一基。

 

 固定7.92ミリ二挺と合わせて四挺。

 

「数が減った」

 

 軍将校が言う。

 

「一発は重い」

 

「弾数も減る」

 

「一挺あたり百八十発」

 

「少ない」

 

「機銃本体と弾薬が重い」

 

「二百五十発」

 

「離陸距離」

 

「二百二十」

 

「発熱」

 

「二百」

 

「百九十」

 

「値切る物ではない!」

 

     ◇

 

 一基の構成。

 

 機銃一挺。

 

 弾薬箱。

 

 給弾案内。

 

 発射索。

 

 薬莢排出口。

 

 前方覆い。

 

 冷却気流入口。

 

 大型点検蓋。

 

 翼下取付架。

 

「完全に覆う?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「前部と側面」

 

「銃身は」

 

「気流へ出す」

 

「雨は」

 

「前方覆い」

 

「泥は」

 

「飛行中に泥は少ない」

 

「離着陸時」

 

「防塵蓋」

 

 元白軍将校が言う。

 

「離陸前に外す」

 

「外し忘れる」

 

「赤い帯を付ける」

 

「冬季覆いと同じか」

 

 技師が頷く。

 

「赤帯が操縦席から見える位置」

 

     ◇

 

 左右共通化。

 

 これが難しかった。

 

 銃の給弾方向。

 

 薬莢排出方向。

 

 発射索の位置。

 

「左右別型」

 

 古参銃工が言う。

 

 技師が首を振る。

 

「共通化する」

 

「銃そのものを改造?」

 

「給弾部品交換で左右対応」

 

「工場設備がまだ」

 

「手加工で試作」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「銃を変えるのか」

 

「二挺だけ」

 

「正式装備では」

 

「購入品だ」

 

「軍がまだ正式採用していないから勝手に?」

 

「試験用」

 

 実業家が静かに記録する。

 

左右給弾転換式十一粍航空機銃改修案

 

 軍将校が見た。

 

「型式名を付けるな」

 

「図面管理上必要です」

 

     ◇

 

 最初の試作では、銃そのものを左右別にした。

 

 左ポッド。

 

 右給弾。

 

 右ポッド。

 

 左給弾。

 

 弾薬箱は機体中心側。

 

 給弾路を短くする。

 

 薬莢は外側下方へ。

 

「なぜ外側」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「胴体と尾翼へ当てない」

 

「翼には」

 

「排出口角度を後外方へ」

 

「急降下では」

 

「試験する」

 

「また飛ばしてから分かるのか」

 

「地上だけでは分からない」

 

     ◇

 

 ポッド単体重量。

 

 機銃。

 

 架台。

 

 覆い。

 

 百八十発。

 

 合計。

 

 一基百十キロを少し超えた。

 

「7.92ミリ二挺ポッドより重い?」

 

「弾薬数が少なくても」

 

「左右で二百二十キロ以上」

 

「A.2で試す?」

 

 技師が答える。

 

「まず地上反動試験」

 

「翼へ付けて?」

 

「翼桁模擬架」

 

「実物翼では」

 

「壊したくない」

 

 元白軍将校が言う。

 

「古い翼を」

 

「飛行可能部品だ」

 

「試験後も使う?」

 

「使う」

 

「なら模型」

 

     ◇

 

 主翼桁模擬架。

 

 A.2と同じ取付構造。

 

 荷重計。

 

 振動記録針。

 

 ポッド一基。

 

「撃て」

 

 十一ミリが吠える。

 

 十発。

 

 架台が揺れる。

 

 記録針が紙へ大きな波を書く。

 

 二十発。

 

 三十発。

 

「停止」

 

 取付部。

 

 異常なし。

 

 だが振動が予想より大きい。

 

「翼側へ伝わる」

 

 技師が言う。

 

「補強」

 

 軍将校が答える。

 

「重くなる」

 

「どれほど」

 

「片側七キロ」

 

「必要な」

 

「待て」

 

「何だ」

 

「補強する場所を変える」

 

     ◇

 

 機体側を厚くするのではなく、ポッド架台へ反動受けを追加。

 

 前後二点へ反動を分散。

 

 ゴムは使わない。

 

 油で劣化する。

 

 ばねも使いすぎない。

 

 共振する。

 

 鋼板と積層木材を組み合わせた緩衝座。

 

「木?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「機体も木を使っている」

 

「機銃架に」

 

「圧縮へ強い積層材」

 

 新しく来たプロペラ職人が試験片を持ってきた。

 

「木目を交差させる」

 

「割れない?」

 

「割れても目で分かる」

 

 技師が頷く。

 

「金属疲労より見つけやすい」

 

 元白軍将校が言った。

 

「交換もできる」

 

「採用」

 

     ◇

 

 二回目の地上試験。

 

 振動値。

 

 前回より低下。

 

 だが一か所、積層材が沈む。

 

「締付が弱い?」

 

「初期なじみ」

 

「増し締め」

 

「飛行前、射撃後に点検」

 

 軍将校が言う。

 

「現場の仕事が増える」

 

「火力も増える」

 

「毎回それで押すな」

 

     ◇

 

 飛行試験には、またA.2試作機が使われた。

 

 左右へ単装11ミリポッド。

 

 固定銃二挺。

 

 爆弾なし。

 

 燃料は試験量。

 

 弾薬は一挺百二十発に減らす。

 

「百八十では」

 

「初回飛行」

 

「足りない」

 

「射撃は短連射」

 

「何回」

 

「左右同時、一秒を八回程度」

 

「少ないな」

 

「一秒でも十発以上出る」

 

「目標を選べ」

 

「大きい物へ撃つ」

 

     ◇

 

 操縦士は翼下を見た。

 

 7.92ミリ二連装箱より、短く太い。

 

 銃身が一本ずつ。

 

「名前は」

 

「正式名称を」

 

「操縦士の呼び方」

 

 元白軍将校が答える。

 

「大牙」

 

「一基で?」

 

「左右で二本」

 

「固定銃もある」

 

「小牙二、大牙二」

 

 軍将校が言う。

 

「四牙」

 

 技師が嫌そうな顔をする。

 

「正式名称を使え」

 

「飛んでから決める」

 

     ◇

 

 離陸。

 

 7.92ミリ六挺仕様より、総重量は少し重い。

 

 だがポッド形状は細い。

 

 空気抵抗は少し小さい。

 

 加速。

 

 滑走。

 

 離陸距離。

 

 標準A.2より百三十五メートル増。

 

「六本角より少し長い」

 

 軍将校が言う。

 

「重量が大きい」

 

「速度低下は」

 

「巡航で十三キロ程度」

 

「六本角よりまし」

 

「弾数は少ない」

 

「何度も言うな」

 

     ◇

 

 上空。

 

 操縦性。

 

 左右対称。

 

 大きな問題なし。

 

 旋回。

 

 やや鈍い。

 

 片側だけ射撃する模擬操作。

 

「発射は左右別にできる?」

 

 軍将校が無線で尋ねる。

 

「できる」

 

「通常は同時」

 

「反動差を避けるため」

 

「片方故障時は」

 

「残りだけ使う」

 

「機首は振れる?」

 

「試す」

 

「今日は故障していないぞ」

 

「地上で片側のみ発射命令を出す」

 

     ◇

 

 最初の射撃。

 

 高高度。

 

 安全区域。

 

 左右同時。

 

 一秒。

 

 操縦士が発射索を引く。

 

 重い連続音。

 

 機体全体が短く震えた。

 

 機首がわずかに下がる。

 

「反動」

 

「押される」

 

「操縦できる?」

 

「できる」

 

「もう一度」

 

 二秒。

 

 左右。

 

 震動。

 

 左翼下面の覆いから、薬莢が後外方へ流れる。

 

 右も。

 

 いくつかが主翼下面へ当たる。

 

「音がした」

 

 観測員が報告。

 

「薬莢接触」

 

「損傷は」

 

「見えない」

 

「着陸後確認」

 

     ◇

 

 片側射撃。

 

 左のみ。

 

 一秒。

 

 機首が右へわずかに振れる。

 

 操縦士が補助翼と方向舵で押さえる。

 

「使用可能」

 

「長く撃つと」

 

「疲れる」

 

「故障時だけ」

 

「了解」

 

 右のみ。

 

 同じ。

 

 ただし右射撃時、発射索の戻りが少し重い。

 

「記録」

 

     ◇

 

 地上標的。

 

 古い貨車の側板。

 

 木造掩体。

 

 石積み壁。

 

 軽車両模擬標的。

 

 軍将校は双眼鏡を握る。

 

「第一進入。固定7.92ミリ」

 

 小銃弾級二挺。

 

 貨車側板へ穴。

 

 木材へ多数命中。

 

「第二進入。十一ミリ左右」

 

 Turが低く入る。

 

 二本の大きな銃身。

 

 短い連射。

 

 貨車側板へ、大きな穴が続く。

 

 裏側の木箱が砕ける。

 

「もう一度」

 

 二回目。

 

 軽車両模型の前部。

 

 弾着。

 

 模擬発動機の鋼板覆いがへこみ、一部を貫く。

 

「命中」

 

 軍将校が言う。

 

「二発貫通」

 

「何発撃った」

 

「二十数発」

 

「前よりましだ」

 

     ◇

 

 木造掩体。

 

 十一ミリ弾が板を破り、内部の標的板へ届く。

 

 石積み壁。

 

 表面が欠ける。

 

 完全には抜けない。

 

「石壁は無理」

 

 技師が言う。

 

「爆弾だな」

 

 軍将校が答える。

 

「ようやく使い分けた」

 

「軽車両には」

 

「大牙」

 

「歩兵には」

 

「六本角」

 

「堅固な陣地には」

 

「爆弾」

 

「よい」

 

     ◇

 

 着陸。

 

 機体が止まる。

 

 技師と整備員が翼下へ走る。

 

 薬莢接触。

 

 左主翼下面に浅いへこみ二つ。

 

 塗膜剥離。

 

「排出口角度」

 

「さらに外へ」

 

「抵抗が増える」

 

「小さい」

 

 右ポッド。

 

 発射索戻りが重い。

 

 索案内部で摩擦。

 

「曲率を緩く」

 

「配線位置を変更」

 

 左取付部。

 

 振動記録板。

 

 許容値を超えている。

 

「地上試験より大きい」

 

 軍将校が尋ねる。

 

「翼がたわむ」

 

「危険か」

 

「継続射撃では」

 

「今日は何秒」

 

「合計十数秒」

 

「それで超えた?」

 

「共振した可能性」

 

「補強」

 

「先に原因を探す」

 

     ◇

 

 翼下取付部へ、細い粉が付いていた。

 

 積層緩衝座。

 

 一部が擦れている。

 

「締付不足?」

 

「飛行中の翼たわみ」

 

「座が動いた」

 

「反動周期と翼の振動が重なった」

 

 軍将校が言う。

 

「何をすれば」

 

「取付位置を少し変える」

 

「何センチ」

 

「前方へ七センチ」

 

「それだけで?」

 

「振動の節から外す」

 

 元白軍将校が尋ねる。

 

「もっと前へ」

 

「主桁から離れる」

 

「では七センチ」

 

「なぜ分かる」

 

「測った」

 

「便利だな、測定」

 

「今まで何だと思っていた!」

 

     ◇

 

 試験二回目。

 

 取付位置を前へ七センチ。

 

 緩衝座を少し広く。

 

 排莢口を外側へ。

 

 発射索案内を緩く。

 

 同じA.2。

 

 同じ弾数。

 

 離陸。

 

 射撃。

 

 振動。

 

 着陸。

 

「許容内」

 

 技師が言った。

 

「本当に?」

 

 軍将校が記録を見る。

 

「前回の六割」

 

「使える」

 

「採用?」

 

「耐久試験が必要」

 

「何発」

 

「一基千発以上」

 

「弾が減る」

 

「銃身寿命も見る」

 

「工場はまだ」

 

「仮設でも整備できる」

 

     ◇

 

 耐久試験。

 

 一日で撃たない。

 

 銃身を冷やす。

 

 機体を点検。

 

 弾帯を交換。

 

 給弾不良を記録。

 

 最初の三百発。

 

 異常なし。

 

 四百二十発。

 

 右銃で一度給弾不良。

 

「弾帯」

 

「縫製間隔が狭い」

 

 新しい弾帯検査班が確認する。

 

「旧在庫の一部」

 

「新製帯なら」

 

「問題なし」

 

「弾帯工場を買った意味が出たな」

 

 軍将校が言う。

 

「まだ一基しか動いていません」

 

「動いているならよい」

 

     ◇

 

 六百発。

 

 左銃の銃身温度が高い。

 

「左右差」

 

「左ポッドの冷却入口が少し狭い」

 

「図面は同じ」

 

「手仕上げ差」

 

 技師の顔が険しくなる。

 

「型を作る」

 

「覆いまで治具?」

 

「左右同じ気流を得る」

 

「機関銃工場の薄板職人は」

 

「航空機覆い経験がない」

 

「教える?」

 

「WILK薄板班と組ませる」

 

 部門が混ざる。

 

     ◇

 

 八百発。

 

 取付部、異常なし。

 

 九百。

 

 固定具一個に緩み。

 

 二重ナット。

 

 座金。

 

「既存規格へ」

 

「ガンポッド専用?」

 

「同じでよい」

 

「千発」

 

 最後の短連射。

 

 銃は止まらない。

 

 翼も持った。

 

 着陸。

 

 分解。

 

 銃身摩耗。

 

 機関部。

 

 給弾部。

 

 架台。

 

 緩衝座。

 

「合格?」

 

 軍将校が尋ねる。

 

 技師は一覧を見る。

 

「試験装備として」

 

「正式採用は」

 

「軍が決める」

 

「では軍として――」

 

 会計官が口を挟んだ。

 

「価格を見てから」

 

 軍将校が机を叩いた。

 

「今日くらい撃たせろ!」

 

     ◇

 

 兵装の区分が決まった。

 

六本角装備

 

固定七・九二粍二挺。

翼下二連装七・九二粍ポッド二基。

合計六挺。

 

用途、歩兵、砲兵、非装甲車両への面制圧。

 

大牙装備

 

固定七・九二粍二挺。

翼下単装十一粍ポッド二基。

合計四挺。

 

用途、軽車両、鉄道設備、木造陣地、駐機航空機および小型舟艇への攻撃。

 

爆装

 

固定七・九二粍二挺。

翼下ポッドなし。

爆弾搭載量を優先。

 

「正式文書に六本角と大牙?」

 

 技師が嫌そうに言う。

 

 軍将校が答えた。

 

「括弧書きだ」

 

「消せ」

 

「現場で通じる」

 

「正式名称も」

 

「長い」

 

 会計官が言う。

 

「予算書では略称が便利です」

 

 技師は一人になった。

 

     ◇

 

 機関銃工場も、ようやく形になり始めた。

 

 旋盤据付。

 

 電力。

 

 排水。

 

 熱処理炉修理。

 

 弾帯機一基稼働。

 

 検査室。

 

 銃保管庫。

 

 火薬と弾薬は別区画。

 

「兵装部門」

 

 実業家が新しい看板を用意した。

 

WILK精密機械・航空兵装部

 

 軍将校が読む。

 

「機関銃工場と書かないのか」

 

「政治的に柔らかく」

 

「弾が出るぞ」

 

「製品の一部です」

 

「一部が人を撃つ!」

 

     ◇

 

 新しい職人たちは、WILKのやり方へ慣れ始めた。

 

 部品番号。

 

 右は丸。

 

 左は三角。

 

 借用品は青札。

 

 損傷品は赤札。

 

 失敗品も捨てない。

 

 作業前に食べる。

 

 疲れたら交代する。

 

 最初は奇妙に見えた。

 

「戦争中は、止まれば怒鳴られた」

 

 古参銃工が言う。

 

 元独立運動家が答えた。

 

「ここでは壊したら怒鳴られる」

 

「人を?」

 

「機械も、人も」

 

「どちらが高い」

 

「同じ物を作れない方」

 

 銃工は少し考えた。

 

「人か」

 

「そうだ」

 

     ◇

 

 工場食堂。

 

 新しい家族も加わり、昼食は三交代になった。

 

 フランス風の煮込み。

 

 ポーランドの黒パン。

 

 飛行バター。

 

 豆。

 

 子供用の薄いスープ。

 

「味が違う」

 

 軍将校が言う。

 

 新しい料理人が不安そうに見る。

 

「悪いですか」

 

「いや」

 

 元独立運動家が尋ねる。

 

「塩は」

 

「少し強い」

 

「働く者向け」

 

「寒い地域では」

 

「もっと?」

 

 食品部門の職人が記録する。

 

 軍将校が叫ぶ。

 

「食事中に新製品開発を始めるな!」

 

     ◇

 

 試験終了祝い。

 

 十一ミリ重ガンポッド。

 

 大牙。

 

 最初の一匙を誰へ渡すか。

 

「操縦士」

 

「銃工」

 

「ポッド職人」

 

「弾帯検査班」

 

「機体補強班」

 

「軍将校」

 

 最後に全員が軍将校を見る。

 

「なぜ私だ」

 

 元白軍将校が答える。

 

「火力が欲しいと言った」

 

「原因だから?」

 

「始まりだ」

 

 バターを塗ったパンが渡される。

 

 軍将校は一口食べた。

 

「どうだ」

 

「威力がある」

 

「食べ物の感想を言え!」

 

     ◇

 

 その夜。

 

 実業家の机へ、手紙が届いた。

 

 一通。

 

 二通。

 

 十通。

 

 国外から。

 

 機関銃工場の職人たちが、昔の同僚へ送った手紙への返事。

 

ポーランドで航空職人を雇うというのは本当か。

 

木製主翼の経験がある。

 

羽布張りを十三年行った。

 

発動機整備工だが、工場が閉じる。

 

妻は縫製工、兄は鉄道工、息子は見習いである。

 

家族も移住できるか。

 

 実業家は一通ずつ開いた。

 

 軍将校が通りかかる。

 

「何だ」

 

「雇用希望です」

 

「何人」

 

「まだ数えていません」

 

「見せろ」

 

 手紙の束。

 

 軍将校の顔が引きつる。

 

「誰が募集した」

 

「募集はしていません」

 

「ではなぜ来る!」

 

「噂です」

 

「何の」

 

「仕事があり、家族も来られる会社だと」

 

 軍将校は椅子へ座った。

 

「断れ」

 

「技能を確認してから」

 

「増やす気だな」

 

「必要な者だけです」

 

「どこへ置く」

 

「住宅を増やします」

 

「工場は」

 

「航空部門も拡張できます」

 

「注文は!」

 

 実業家は微笑んだ。

 

「市場拡大のチャンスです」

 

「国外へ出すな。今後こいつを一人で国外へ出すな!」

 

     ◇

 

 十一ミリの一発は、確かに重かった。

 

 七・九二ミリでは穴を開けるだけだった板を割り、木を裂き、軽車両の内部へ届いた。

 

 軍が欲しがった火力は、手に入った。

 

 だが大きい弾は、ただ大きな銃を吊れば撃てるものではなかった。

 

 強い取付部。

 

 正しい弾帯。

 

 整備できる機械。

 

 測れるゲージ。

 

 銃身を削る手。

 

 翼の振動を知る者。

 

 ポッドを覆う薄板職人。

 

 そのすべてが必要だった。

 

 そして工場が動き始めたという噂は、弾丸より速く国境を越えた。

 

 WILKが次に受け取ったのは、軍からの注文書ではない。

 

 仕事を失った職人と、その家族からの手紙だった。

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