一九二四年
国外より採用した航空機製造経験者の配置に伴い、Tur A.3量産工程の再編成を実施した。
主な変更。
部品番号の統一。
製造工程票の導入。
検査用限界ゲージの整備。
左右部品の識別方法統一。
作業班ごとの責任範囲明確化。
不良および修正履歴の保存。
再編成後、機体構造の月間完成数は従来の約二倍となった。
同期間に軍より納入された発動機は、予定十二基に対し五基であった。
軍監督官は、
「飛行機が増えたのではなかったか」
と照会した。
製造側は、
「飛べない飛行機は増えました」
と回答した
「全部」
英国から来た生産管理者が言った。
古参職人たちが顔を上げる。
「何が全部だ」
「改善できます」
机の上には、WILKの製造記録が積まれていた。
木材受入表。
鋼管加工表。
部品棚一覧。
機体別修正記録。
飛行試験報告。
部品番号表。
ただし、部門ごとに書式が違う。
「この主翼金具」
生産管理者が図面を指した。
「部品番号はW―17」
「そうだ」
「こちらの在庫表では金具十七号」
「同じ物だ」
「組立班では右前方金具」
「見れば分かる」
「国外から来た職人には分かりません」
古参職人が腕を組む。
「教えればよい」
「何人へ」
「必要なだけ」
「五十四人へ?」
古参職人は黙った。
◇
現在のWILKには、ポーランド語だけでなく、
ドイツ語。
フランス語。
ロシア語。
英語。
その他、地方ごとの訛りまで飛び交っていた。
一つの金具へ、五つの呼び方がある。
一つの工具へ、六つの名前がある。
一人が右と言い、別の一人が機体内側と言い、第三の一人が操縦席から見て左と言う。
「事故が起きる」
生産管理者が言った。
「起きていない」
古参職人が答える。
「昨日、左用金具が右側棚へ入りました」
「見つけた」
「見つけなければ?」
「見つける」
「誰が」
「私が」
「あなたが病気になったら?」
古参職人は、さらに黙った。
◇
元独立運動家が会議へ呼ばれた。
「なぜ私だ」
元ドイツ技師が答える。
「言葉と部門の調整」
「また調整か」
「新職人が増えた」
「誰が連れてきた」
全員が実業家を見た。
実業家は書類を読んでいた。
「見ても人数は減らんぞ」
「分かっています」
「次の出張は禁止だ」
「同行者が」
「その話は後だ!」
◇
最初に、部品番号を統一した。
機体。
主翼。
尾翼。
操縦系統。
燃料系統。
兵装。
医療装備。
輸送器具。
食品設備まで。
「食品部門も?」
軍将校が尋ねる。
「同じ会社です」
生産管理者が答えた。
「バター容器と機銃架へ似た番号を付けるな」
「区分記号を分けます」
「ではよい」
元ドイツ技師が一覧を示す。
A 機体構造
B 操縦・動力関連
C 兵装
D 整備・地上器材
E 医療・救難
F 食品・生活用品
元白軍将校が尋ねる。
「爆弾は」
「C」
「爆弾運搬車は」
「D」
「爆弾箱を食卓へ使う場合は」
「使うな」
◇
次に、左右部品。
以前からWILKは、右へ丸、左へ三角を刻んでいた。
だが新しい職人の中には、
「部品から見た右か」
「機体から見た右か」
「操縦士から見た右か」
で混乱する者がいた。
生産管理者は決めた。
すべて操縦士が前方を向いた時の左右とする。
「当然では」
軍将校が言う。
「全員が当然だと思う内容が違うので書きました」
「なるほど」
「右は丸。左は三角。中央共通は四角」
元白軍将校が尋ねる。
「上下は」
「矢印」
「前後は」
「矢印の先が前」
「裏返した場合は」
「文字も刻む」
「多いな」
「間違えるより軽い」
元ドイツ技師が即答した。
◇
工程票。
一つの部品が、どこから来て、誰が加工し、誰が検査し、どの機体へ付いたか。
紙へ記録する。
古参職人たちは嫌がった。
「毎回書くのか」
「はい」
「削るたび?」
「工程が終わるたび」
「仕事が遅くなる」
「最初は」
「紙は飛行機を作らない」
生産管理者は、机の上へ二本の操縦索金具を置いた。
「これはどの機体用ですか」
「A.3」
「何号機」
「……分からん」
「誰が作った?」
「腕を見れば」
「腕は残っていません」
「では記録を」
古参職人は金具を見た。
「書く」
◇
工程票の初日は、混乱した。
署名欄が小さい。
鉛筆が足りない。
油で紙が汚れる。
手袋をしたまま書けない。
外国人職人が姓を省略する。
同じ姓が四人いる。
「番号を付けるのか」
元独立運動家が尋ねた。
「従業員番号です」
「人間を番号だけで呼ぶな」
「呼びません。記録上です」
「なら名前も残せ」
「両方書きます」
◇
作業場には、木製の記録箱が置かれた。
開始前。
作業中。
検査待ち。
修正。
合格。
赤い札。
青い札。
黄色い札。
「色が多い」
軍将校が言う。
「言葉が違っても分かる」
元独立運動家が答えた。
「赤は」
「使用禁止」
「青は」
「借用品」
「黄色は」
「検査待ち」
「緑は」
「合格」
元白軍将校が赤札を一枚取り、軍将校の書類鞄へ付けた。
「使用禁止」
「外せ!」
◇
新しい計器工たちは、限界ゲージを作った。
穴の直径。
軸の太さ。
金具の厚さ。
ねじの深さ。
寸法を一つずつ測らなくても、通る側と通らない側で判断する。
「入ればよい?」
若い職人が尋ねる。
「こちらは入る」
計器工が答える。
「こちらは入ってはいけない」
「両方入れば」
「削りすぎ」
「両方入らなければ」
「削り足りない」
「分かりやすい」
古参職人は少し不満そうだった。
「腕で分かる」
「新人にも分からせるためです」
「腕を軽く見るな」
「腕を検査へ使わず、難しい加工へ使ってください」
古参職人はゲージを受け取った。
「……悪くない」
◇
ただし、ゲージを作るにも問題があった。
基準寸法。
気温。
材質。
測定器の差。
フランスから来た測定器。
ドイツ式の測定器。
英国式の目盛。
ポーランドで使う単位。
「同じ長さではないのか」
軍将校が尋ねる。
「同じ長さを違う数字で書いています」
「統一しろ」
「そのために換算表を」
「最初から同じにできないか」
「各国へ言ってください」
「戦争より難しそうだな」
◇
元独立運動家は通訳班を増やした。
だが通訳だけでは足りない。
航空用語。
機械用語。
地方訛り。
図面記号。
普通の通訳では分からない。
「通訳へ技術を教える」
元ドイツ技師が言った。
「職人へ言葉を教える」
元独立運動家が答えた。
「どちらが早い」
「両方」
「また仕事が増えた」
◇
夜間教室が始まった。
ポーランド語。
ドイツ語。
フランス語。
基本的な技術用語。
数字。
左右。
前後。
危険。
停止。
火災。
「最初に覚える言葉が物騒だな」
軍将校が言う。
教師が答えた。
「工場で必要です」
「食堂では」
「パン、スープ、塩」
「平和だ」
「熱い、も」
「危険が戻った」
◇
生産管理者は、Tur A.3の製造工程を分けた。
以前。
一つの班が、胴体を最初から最後まで組む。
一つの班が、主翼を一本ずつ仕上げる。
部品が合わなければ、その場で削る。
穴がずれていれば広げる。
金具が足りなければ、作る。
完成はする。
だが同じ物は二つない。
「これでは修理部品が合いません」
生産管理者が言った。
古参職人は反論する。
「機体ごとに合わせればよい」
「前線で?」
「整備兵が」
「敵に撃たれている時に、金具を削るのですか」
「……交換できた方がよい」
「だから同じにします」
◇
新工程。
木材切出班。
翼桁加工班。
肋材班。
金具班。
胴体骨組班。
羽布班。
塗装班。
配管班。
電気・計器班。
兵装班。
最終組立班。
検査班。
「分けすぎでは」
軍将校が尋ねる。
「同時に作れます」
「一人が全体を知らなくなる」
元ドイツ技師が答えた。
「班長は全体を学ぶ」
「職人は」
「隣工程も交代で経験させる」
「なぜ」
「自分の作業が次へどう影響するか知らないと、不良を送る」
「よい」
◇
古参職人と新職人が衝突した。
新しい木工職人は、翼桁を薄くできると言った。
「太すぎる」
WILK古参が答える。
「撃たれて帰るためだ」
「重すぎれば敵に追いつかれる」
「追いつく機体ではない」
「では逃げる?」
「帰る」
「同じでは」
「違う」
元ドイツ技師が両方の試験片を作らせた。
従来型。
軽量型。
中間型。
曲げる。
圧す。
振動させる。
穴を開ける。
「弾痕模擬まで?」
新職人が尋ねる。
「撃たれて帰るためだ」
古参職人が誇らしげに言った。
「その言葉は分かった」
◇
試験結果。
軽量型。
通常荷重には十分。
損傷後に弱い。
従来型。
損傷後にも強い。
だが重い。
中間型。
接合部を工夫すれば、重量を減らしつつ損傷後強度を保てる。
「両方採用」
技師が言った。
「どちらが勝った」
軍将校が尋ねる。
「機体が軽くなり、丈夫さは残った」
「ではWILKが勝った」
「便利なまとめ方だ」
◇
鋼管溶接でも衝突した。
WILK古参は大きな継手板を使う。
新しい溶接工は、小さくできると言う。
「熱を入れすぎる」
「大きい方が丈夫だ」
「周囲が弱くなる」
「では試す」
引張試験。
曲げ試験。
振動試験。
古い方式は、継手そのものは強い。
だが周辺へひびが出た。
新方式は軽い。
ただし作業者の腕による差が大きい。
「治具と検査を増やす」
生産管理者が言う。
「腕が足りない者は」
「訓練」
「時間がかかる」
「継手板を半分にするだけでも重量が減る」
軍将校が尋ねる。
「その分、機銃を増やせる?」
「すぐ火力へ換算するな!」
◇
最初の一か月。
書類が増えた。
会議が増えた。
検査が増えた。
完成機は減った。
軍将校が生産表を見て怒鳴る。
「職人を増やしたのに、なぜ減った!」
生産管理者は平然としていた。
「工程を止めて直しています」
「注文は待たん」
「今直さなければ、後でもっと止まります」
「いつ増える」
「二か月後」
「本当に?」
「記録上は」
「記録以外では」
「人間が働くので多少ずれます」
「急に現実的だな!」
◇
二か月目。
部品の滞留が減った。
右主翼用金具が、左棚へ入らなくなった。
穴位置がそろった。
交換用昇降舵が、別の機体へそのまま付いた。
「削らなくてよい?」
軍整備兵が驚いた。
「付けてみろ」
ボルト。
穴。
入る。
調整。
わずか。
「本当に付いた」
古参職人が腕を組んで見る。
「前も付いた」
「三時間削って」
「今は」
「二十分」
古参職人は黙って工程票へ署名した。
◇
三か月目。
胴体骨組が二機分、同時に並んだ。
主翼が四枚。
尾翼が二組。
部品棚から必要数が、決めた順番で出てくる。
生産管理者は時計を持って歩く。
「急がせるのか」
元独立運動家が尋ねた。
「時間を知るためです」
「遅い者を切る?」
「遅い理由を探します」
「人か」
「工具か、配置か、材料か、図面か」
「人だった場合は」
「訓練か配置換え」
「首ではない?」
「技能者を捨てるほど余っていません」
元独立運動家は少しだけ安心した。
◇
一人の若い職人が遅かった。
肋材加工。
他の者より三割遅い。
だが不良はない。
「急げない?」
班長が尋ねる。
「寸法を見るのに時間が」
計器工が作業を見る。
測定器が右側にある。
職人は左利きだった。
毎回、材木を持ち替えている。
「机を反転」
「それだけ?」
「試す」
翌日。
速度は他の者と同じになった。
軍将校が聞いた。
「人を直さなかったのか」
生産管理者が答える。
「机を直しました」
「本人が怠けている場合は」
「その時は本人と話します」
「すぐ怒鳴らない?」
「怒鳴ると理由が聞こえません」
軍将校は少し傷ついた顔をした。
◇
製造数は増え始めた。
胴体。
主翼。
尾翼。
着陸装置。
操縦席。
配管。
計器。
機関銃架。
部品の山が、機体の形になっていく。
「月六機」
軍将校が表を見る。
「以前は三機から四機」
「増えた」
「来月は」
「八機を目標」
「よい」
「ただし」
技師が言った。
「発動機がない」
◇
軍からの発動機納入予定。
十二基。
実際に来たのは五基。
そのうち一基は油漏れ。
一基は点火装置不良。
一基は付属品不足。
「使えるのは」
新しく来た発動機整備工が答える。
「二基」
「五基来て二基?」
「三基も直せます」
「いつ」
「部品が来れば」
「部品は」
「軍へ請求済み」
「いつ来る」
「軍へ聞いてください」
軍将校が黙った。
◇
発動機は、WILKの工場で作れない。
主軸。
シリンダー。
ピストン。
軸受。
気化器。
点火装置。
高温と高回転へ耐える材料。
加工精度。
試験設備。
航空機の機体を作る工場とは、別の世界だった。
「工場を買う?」
元白軍将校が言った。
軍将校が実業家を見る。
「見るな」
「まだ何も言っていません」
「顔が買う顔だ」
「候補はあります」
「あるのか!」
元ドイツ技師が資料を取った。
古い発動機工場。
設備。
人員。
価格。
三分ほど見る。
「買わない」
全員が彼を見る。
「珍しい」
実業家が言った。
「設備が古い。材料供給契約がない。試験台が壊れている。熟練技師も半数以上いない」
「直せば」
軍将校が尋ねる。
「発動機工場を直すために、別の発動機工場が要る」
会議室が静かになった。
「買わない」
軍将校がもう一度言った。
「工場は」
実業家が付け加える。
「人材は?」
「そこだ!」
◇
結局、発動機工場は買わなかった。
だが、
検査員二名。
気化器整備工三名。
点火装置技師一名。
試験運転員二名。
は採用候補になった。
「増えている」
軍将校が言う。
「工場より軽い」
実業家が答える。
「人を重量で比較するな」
元独立運動家が言った。
「家族は」
「確認中です」
「先に確認しろ!」
◇
WILKは、発動機そのものではなく、その周囲を作ることにした。
発動機架。
防火壁。
覆い。
排気管。
油配管。
燃料配管。
予熱器。
冷却導風板。
操作索。
点検台。
運搬架。
受領検査器具。
「全部作るのでは」
軍将校が尋ねる。
「中身は作らない」
技師が答える。
「外側は全部?」
「機体へ載せるために必要だ」
「発動機が変わったら」
「取付枠を交換する」
「交換式?」
「WILKだぞ」
◇
軍から届く発動機は、同じ型式でも少しずつ違った。
点火装置。
油配管取出口。
気化器。
始動装置。
付属品。
「本当に同じ型式か」
軍将校が尋ねる。
「製造時期が違います」
整備工が答えた。
「部品は共通?」
「一部」
「一部では困る」
「だから受領時に分類します」
発動機へ札が付いた。
甲型。
乙型。
乙改。
甲後期。
「同じ発動機が四種類に増えた」
「最初から違いました」
「知らない方が幸せだった」
◇
変換金具が作られた。
配管接手。
操作索端部。
補機取付板。
一つの機体へ、複数仕様の発動機を載せられるようにする。
「完全共通ではない」
技師が言う。
「だが機体側を切り直さなくて済む」
「前線でも交換できる?」
「同じ区分なら」
「違う区分は」
「変換部品があれば」
「変換部品は」
「機体と一緒に送る」
生産管理者が即座に記録へ加えた。
発動機適合部品箱・機体付属品
軍将校が尋ねる。
「また箱か」
「箱は重要です」
◇
機体は完成した。
一機。
二機。
三機。
胴体。
翼。
尾翼。
脚。
操縦席。
計器。
兵装配線。
だが機首だけが空いている。
発動機がない。
格納庫の端へ並べる。
「完成機数へ入れる?」
会計担当が尋ねる。
「入れない」
技師が答える。
「機体構造完成数」
生産管理者が言う。
「飛行可能機数はゼロ」
軍将校が頭を抱えた。
「飛行機工場で飛べない物が増えていく」
◇
職人たちは、発動機のない機体へ名前を付けた。
「首なし牛」
「鼻なし」
「眠るTur」
「まだ起きない牛」
元白軍将校は、機首の空洞へ顔を入れた。
「機関銃を置ける」
「置くな」
「大砲なら」
「発動機を置く場所だ!」
◇
発動機がなくても、できることはあった。
操縦索の調整。
脚の出し入れ。
燃料タンク漏れ試験。
計器配線。
無線機搭載。
ガンポッド取付確認。
救難担架の搬入。
工具箱配置。
整備教育。
地上訓練。
「飛ばなくても訓練に使える」
軍将校が言う。
「操縦士は」
「操縦席配置を覚える」
「整備兵は」
「分解手順」
「銃手は」
「射界と操作」
「なら完成数へ」
「入れない」
◇
軍の視察団が来た。
格納庫へ並ぶ六機。
外見はほぼ完成。
「六機も」
視察官が驚く。
「いつ飛ぶ」
軍将校が答えた。
「発動機が来れば」
「発動機は」
「軍が送る」
視察官は軍将校を見る。
「送っていないのか」
「私は製造担当では」
「軍だろう」
「軍にも部署がある!」
元独立運動家が小声で言う。
「役所と同じだな」
「言うな」
◇
視察官は機体を一周した。
交換式翼。
共通金具。
部品番号。
工程票。
検査札。
「以前より整っている」
「職人が増えました」
「生産数も」
「機体は」
「発動機が」
「分かった」
視察官は報告書へ書いた。
発動機納入遅延により、完成機引渡しに支障。
軍将校が覗く。
「もっと強く」
「何と」
「至急納入を要す」
「書く」
「最優先とも」
「書く」
「責任部署名も」
「そこまで書くと揉める」
「揉めろ!」
◇
数週間後。
発動機が三基届いた。
WILK駅。
木箱。
油染み。
輸送札。
発動機整備工が蓋を開ける。
「一基目」
点検。
「良好」
「二基目」
「点火配線不足」
「箱の中は」
「ない」
「三基目」
整備工が黙った。
「どうした」
「別型です」
「注文と違う?」
「出力は同じ」
「載る?」
「変換金具を使えば」
軍将校が笑った。
「作っておいてよかった」
技師が答える。
「間違いを予想して作ったわけではない」
「使えればよい!」
◇
三機へ発動機を載せる。
吊上げ。
位置合わせ。
発動機架。
ボルト。
配管。
操作索。
排気管。
防火壁。
覆い。
一機目。
順調。
二機目。
点火配線を製作。
三機目。
変換金具。
油配管が少し長い。
「切る?」
「専用品を作る」
「時間は」
「半日」
「以前なら」
「機体側を改造して二日」
「進歩だな」
◇
発動機始動。
一機目。
燃料。
点火。
始動。
回る。
白い煙。
油圧。
回転数。
「正常」
二機目。
始動。
片側点火が不安定。
「配線」
修正。
再始動。
「正常」
三機目。
始動。
回る。
振動が少し大きい。
「取付?」
「発動機本体」
「使える?」
「回転数を変えて測る」
軍将校は待った。
以前なら、すぐ飛ばせと言っていた。
今は聞く。
「危険か」
「調整すれば」
「では調整」
技師が少しだけ驚いて見た。
「何だ」
「待てるようになった」
「私は最初から待てる!」
◇
三機が飛んだ。
同じA.3。
同じ主翼。
同じ尾翼。
同じ操縦系統。
部品は、ほぼ交換可能。
発動機だけが少しずつ違う。
一機ずつ離陸。
上空へ。
編隊。
職人たちは滑走路脇で見上げた。
フランス人木工職人。
ベルギー人測定工。
ドイツ系溶接工。
ポーランドの古参。
全員が、自分の作った部分を探す。
「あの主翼」
「肋材を作った」
「あの脚」
「溶接した」
「あの覆い」
「型を直した」
「あの発動機」
「私は待った」
軍将校が言った。
「それも仕事だ」
◇
着陸後。
飛行試験記録。
一号機。
良好。
二号機。
油温高め。
三号機。
振動あり。再調整。
「同じように作っても違う」
生産管理者が言った。
技師が答える。
「発動機が違う」
「機体側は?」
「差が減った」
「完全には」
「木も人も完全には同じにならない」
「では標準化は無駄?」
「違う」
技師は三機を見る。
「違いがどこから来たか分かるようになった」
◇
生産記録。
以前、不具合が出れば、
機体か。
部品か。
職人か。
材料か。
発動機か。
分からなかった。
今は工程票がある。
検査記録がある。
材料番号がある。
発動機分類がある。
「三号機の振動」
整備工が調べる。
「発動機側です」
「根拠は」
「同じ機体架へ別発動機を仮載せした試験記録」
「では軍へ返す?」
「調整できる」
「直す?」
「直す」
WILKは発動機を作れない。
だが悪い発動機を、そのまま空へ送らないことはできた。
◇
その月。
機体構造完成、八機。
発動機受領、五基。
飛行可能完成、四機。
残り四機。
格納庫で待つ。
軍将校が月報を見る。
「増えたのに、余る」
「発動機が足りません」
「軍へ催促した」
「返答は」
「輸入交渉中」
実業家が言った。
「供給元を増やします」
「何社」
「三社」
「工場を買うより怖いと言ったな」
「一社が止まっても、残りから来ます」
「仕様が増える」
技師が言う。
「変換金具も増える」
「整備教育も」
生産管理者が言う。
「帳票も」
元独立運動家が言う。
「申請も」
実業家は頷いた。
「市場拡大のチャンスです」
「全員で止めろ!」
◇
その夜。
格納庫。
発動機のない四機が並ぶ。
機首は空。
翼はある。
脚もある。
銃も積める。
だが飛ばない。
新しく来た子供たちが、柵の外から見ていた。
「壊れている?」
一人が尋ねた。
古参職人が答える。
「待っている」
「何を」
「心臓を」
「来たら飛ぶ?」
「来れば」
「いつ」
職人は少し考えた。
「軍へ聞け」
◇
元独立運動家の机には、また書類が積まれていた。
新しい住宅。
夜間学校。
通訳班。
工場増築。
発動機整備工の追加採用。
そして、実業家の国外出張申請。
目的。
発動機用補機、軸受および点火装置の調達。
同行者。
元独立運動家、一名。
本人は紙を見た。
実業家を見る。
「なぜ私だ」
「単独出張は禁止されました」
「私が書いた」
「したがっています」
「私を同行させればよいという意味ではない!」
「役所との交渉もあります」
「私は住宅申請で忙しい」
「現地で職人家族が増えた場合も安心です」
「増やす前提か!」
◇
翌日。
二人分の旅券申請が役場へ提出された。
書類は完全だった。
地方役人は中身を確認し、印を押した。
「行ってこい」
元独立運動家は苦い顔をした。
「一人を監視するために、なぜ私まで国外へ行く」
役人が答えた。
「お前以外に止められるのか」
「止められん」
「では、増えた時に申請できる者が要る」
「お前まで実業家の側へ付くな!」
◇
WILKは、以前より速く飛行機を作れるようになった。
同じ部品を作り、
別の機体へ取り付け、
失敗の原因を記録し、
言葉の違う職人が同じ図面を読めるようになった。
会社は大きくなった。
工場も増えた。
作れる物も増えた。
だが発動機だけは、届くのを待つしかなかった。
だからWILKは、待つ間にできるすべてを行った。
機体を作った。
発動機架を作った。
変換金具を作った。
整備工を育てた。
受領検査を厳しくした。
飛べない機体で教育をした。
そして、発動機が来た瞬間に飛べるよう、準備した。
格納庫には、四機の首なしTurが並んでいた。
何もしていないように見えた。
だがその四機は、ただ止まっていたのではない。
飛ぶ順番を待っていた。