WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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ポーランド陸軍航空部・Tur爆撃適性試験中間報告より抜粋

一、Turは近距離任務において、多数の小型爆弾を搭載可能である。

二、最大搭載量については、試験条件下で一〇〇〇キログラムを確認した。

三、搭載能力と命中能力は、別個の性能として評価する必要がある。

四、現行の目測投下では、橋梁、車両、建物等の小目標に対する命中率は低い。

五、飛行場、鉄道駅、野営地その他の広域目標に対しては、一定の効果が期待できる。

六、命中精度向上のため、照準装置、投下手順及び乗員教育を改良する。

追記。
試験用の小麦粉袋を食品部門から無断で持ち出した件について、航空部は関知しない。


第47話 爆弾は目標を見て落ちない

一トン積めることが分かった。

 

次に問題となったのは、当たらないことだった。

 

軍から送られてきた試験要求書には、短くこう書かれていた。

 

小型爆弾多数搭載時の投下試験を実施せよ。

橋梁、車列及び鉄道施設を想定した目標に対する精度を確認すること。

 

ポーランド軍将校は書類を読み終え、元ドイツ帝国軍技師へ渡した。

 

技師は一度読んだ。

 

「目標の大きさは」

 

「別紙だ」

 

別紙には、白布で作る模擬目標の寸法が書かれていた。

 

橋梁を想定した細長い目標。

 

車列を想定した複数の長方形。

 

鉄道駅を想定した広い区画。

 

元白軍将校が図面を見た。

 

「橋が細すぎる」

 

「実際の橋だ」

 

「もっと太い橋を攻撃すればよい」

 

軍将校が顔を上げる。

 

「敵へ橋を太く作れと頼むのか」

 

「細い橋は近くから落とす」

 

「対空射撃を受ける」

 

「速く通る」

 

「Turはそれほど速くない」

 

「装甲を付ける」

 

「また重くする気か!」

 

元ドイツ技師は、二人の会話を無視して試験記録を開いた。

 

最大搭載試験で落とした模擬弾の着弾位置。

 

投下高度。

 

飛行速度。

 

風向。

 

風速。

 

機体姿勢。

 

左右発動機の回転数。

 

すべて記録されている。

 

だが照準方法の欄には、

 

操縦士及び投下員の目測

 

としか書かれていなかった。

 

「これでは当たらない」

 

技師が言った。

 

軍将校が聞く。

 

「照準器を作れるか」

 

「作れる」

 

「どのくらいで」

 

「何を要求するかによる」

 

「橋へ当てる」

 

「橋の幅は」

 

「別紙にある」

 

「高度は」

 

「敵の射撃を避けられる高さ」

 

「風は」

 

「現地による」

 

「速度は」

 

「任務による」

 

技師は書類を机へ戻した。

 

「条件を決めろ」

 

「戦場で条件を選べると思うか」

 

「選べないから、条件ごとの表を作る」

 

元白軍将校が言った。

 

「橋が見えたら落とせばよい」

 

技師は彼を見た。

 

「爆弾は目標を見て落ちない」

 

「落とす者が見る」

 

「落としてから地面へ届くまでに、機体も爆弾も進む」

 

「前へ落とす」

 

「どれだけ前だ」

 

元白軍将校は少し考えた。

 

「よいところで」

 

「それを数字にする!」

 

 

試験用爆弾が足りなかった。

 

正確には、何度も投下して回収できる模擬弾が足りなかった。

 

砂を詰めた鉄製模擬弾は、地面へ落とすと変形する。

 

木製のものは壊れる。

 

水を入れた容器は、着弾位置が分かりにくい。

 

そこで元独立運動家が言った。

 

「小麦粉を使う」

 

軍将校が聞き返す。

 

「何を作る気だ」

 

「袋へ入れて落とす」

 

「爆弾試験だぞ」

 

「落ちれば白く広がる。位置が分かる」

 

元ドイツ技師が考える。

 

「重量を揃えれば使える」

 

軍将校が嫌な予感を覚えた。

 

「小麦粉はどこから持ってくる」

 

全員が食品部門の建物を見た。

 

「駄目だ」

 

軍将校が先に言った。

 

「まだ何も言っていない」

 

元独立運動家が答える。

 

「顔が小麦粉を借りる顔だ!」

 

食品部門の責任者は当然、拒否した。

 

「遠征パンの製造分です」

 

「一部だけだ」

 

元独立運動家が言う。

 

「一袋二十五キログラム。試験で二十袋必要です」

 

「五百キログラムではありませんか!」

 

実業家が横から帳簿を覗いた。

 

「軍へ請求できます」

 

軍将校が叫ぶ。

 

「また軍の借金を増やすな!」

 

食品部門の責任者は腕を組んだ。

 

「落とした小麦粉は回収できません」

 

元白軍将校が言う。

 

「畑へ落とせば肥料になる」

 

「なりません」

 

「鳥が食う」

 

「だから何です!」

 

結局、古くなって製パンに向かない小麦粉と、掃除の際に集められた粉を混ぜて使うことになった。

 

ただし食品部門は条件を付けた。

 

食用品と明確に区分すること。

袋へ「食用不可」と記すこと。

食品倉庫へ戻さないこと。

 

元白軍将校が袋へ文字を書いた。

 

食うな。

 

食品部門の責任者が書き直した。

 

試験用・食用不可。

 

「同じ意味だ」

 

「正式に書いてください」

 

「前線なら短い方がよい」

 

「ここは前線ではありません!」

 

 

最初の試験は、高度三百メートル。

 

速度を一定に保ち、目標の手前に設けた目印を通過した時点で、小麦粉袋を落とす。

 

目標は、草地へ敷いた白布だった。

 

白い目標へ白い粉を落とすことについて、誰も事前に疑問を持たなかった。

 

Turが上空を通過する。

 

投下員が袋を押し出す。

 

袋は回転しながら落ちた。

 

地面へ当たる。

 

破裂。

 

白い粉が広がった。

 

観測員が双眼鏡を覗く。

 

「どこだ」

 

軍将校が聞く。

 

「目標の近くです」

 

「どのくらい近い」

 

「白くて分かりません」

 

軍将校は目標布を見る。

 

小麦粉も白い。

 

「なぜ白い目標へ白い粉を落とした!」

 

元独立運動家が答える。

 

「目標は軍が用意した」

 

「粉はお前だ!」

 

次の試験では、目標布を黒く塗った。

 

ところが飛行中の操縦士には、地面の黒布が影と区別しにくかった。

 

三回目は赤布。

 

今度はよく見えた。

 

だが小麦粉袋は目標から六十メートル先へ落ちた。

 

「通り過ぎている」

 

元ドイツ技師が言う。

 

元白軍将校が答える。

 

「早く落とせばよい」

 

「どれだけ早く」

 

「六十メートル分」

 

「それを飛行時間と速度へ直す!」

 

 

照準器の原型は、木の板と金属環から始まった。

 

投下員席の床へ、下方を見られる小窓があった。

 

元々は写真撮影や地上確認のためのものだった。

 

そこへ透明板を取り付ける。

 

透明板へ複数の線を引く。

 

機体速度と高度に応じて、どの線で目標を捉えた時に投下するかを決める。

 

「風はどうする」

 

軍将校が尋ねる。

 

「横風なら左右へ補正する」

 

「どれだけ」

 

「測る」

 

「飛行中に?」

 

「地上で風を測る。上空との差は飛行中に煙や旗を見る」

 

元白軍将校が言う。

 

「煙がなければ火を付ける」

 

「敵地へ煙を出すな」

 

「地上部隊へ頼む」

 

「攻撃前に合図を出させるのか!」

 

元独立運動家が、紐の先へ小さな重りを付けた。

 

「傾きを見れば機体の横滑りが分かる」

 

技師が受け取る。

 

「振動する」

 

「油へ入れる」

 

「油が漏れる」

 

「蓋をする」

 

「温度で粘度が変わる」

 

「面倒だな」

 

技師が睨んだ。

 

「機械とはそういうものだ」

 

最終的に、透明板、目盛り付き金属環、水平器、簡単な振り子、速度・高度別の投下表が作られた。

 

それほど精密ではない。

 

だが目測だけよりはましだった。

 

装置を見た実業家が尋ねる。

 

「民間用途はありますか」

 

軍将校が先回りする。

 

「ない」

 

元ドイツ技師が答える。

 

「物資投下に使える」

 

実業家が頷く。

 

「災害時の食料投下ですね」

 

「爆撃照準器を食品配送へ使うな!」

 

元独立運動家が言った。

 

「包囲部隊への樽投下にも使えた」

 

軍将校は黙った。

 

それは否定できなかった。

 

 

二度目の試験。

 

高度三百メートル。

 

速度を指定範囲へ維持。

 

投下員は透明板越しに目標を見る。

 

赤い布が第一線へ入る。

 

次の線へ近づく。

 

「まだ」

 

操縦士が速度を維持する。

 

「まだ」

 

元白軍将校が後ろから覗き込む。

 

「もうよい」

 

「黙ってください!」

 

投下員が叫ぶ。

 

目標が指定線へ入る。

 

「投下!」

 

小麦粉袋が落ちた。

 

目標の手前、十五メートル。

 

前回より近い。

 

二袋目。

 

横風を補正。

 

目標から右へ二十メートル。

 

三袋目。

 

赤布の端へ落ちた。

 

袋が破裂する。

 

白い粉が布の半分を覆った。

 

地上班から歓声が上がる。

 

軍将校も頷いた。

 

「当たった」

 

元ドイツ技師は記録へ書く。

 

目標布端部へ命中。

投下条件の再現を要する。

 

元白軍将校が言う。

 

「一度当たればよい」

 

「一度では偶然だ」

 

「戦場では一度当てれば壊れる」

 

「外した時の爆弾は戻ってこない!」

 

「だから多く積む」

 

軍将校が二人の間へ入った。

 

「その結論へ戻るな!」

 

 

試験は繰り返された。

 

高度二百メートル。

 

三百メートル。

 

五百メートル。

 

速度も変えた。

 

風向も変わった。

 

朝と午後で空気の状態が違う。

 

同じ条件のつもりでも、着弾位置はずれた。

 

照準器を使っても、小さな橋へ確実に当てるのは難しい。

 

元ドイツ技師は、結果を黒板へまとめた。

 

橋梁型目標。

 

低い命中率。

 

車列型目標。

 

複数投下なら、いくつかが範囲内へ入る。

 

鉄道駅型目標。

 

十分な数を投下すれば、かなりの割合が目標区域へ落ちる。

 

「結論は」

 

軍将校が尋ねる。

 

技師が答える。

 

「Turは精密爆撃機ではない」

 

元白軍将校が肩をすくめる。

 

「知っていた」

 

「なら最初から言え」

 

「多く積めるとは言った」

 

「当たるとは言っていない?」

 

「落とせばどこかへ当たる」

 

軍将校が机を叩く。

 

「敵のどこかではなく、目標へ当てろ!」

 

技師は続けた。

 

「小さな目標には、低高度で接近するか、複数機で繰り返す必要がある。ただし損害が増える」

 

「広い目標なら」

 

「飛行場、鉄道駅、物資集積所、野営地。そういう場所なら使える」

 

「橋は」

 

「専用の訓練を受けた乗員と、好条件が必要だ」

 

「できないとは言わないのか」

 

「できることと、毎回できることは違う」

 

軍将校はその言葉を報告書へ書き留めた。

 

 

ところが、照準試験で最も成果を上げたのは爆撃隊ではなかった。

 

写真偵察班だった。

 

透明板の目盛り。

 

機体姿勢の記録。

 

一定速度での直線飛行。

 

目標上空を正確に通過する訓練。

 

すべて航空写真の撮影にも役立った。

 

写真班の主任が、試験記録を見て言った。

 

「この投下経路を使えば、同じ区域を規則的に撮影できます」

 

軍将校が尋ねる。

 

「爆撃照準器だぞ」

 

「目標を一定位置へ捉える装置です」

 

「写真機を載せるのか」

 

「既に載っています」

 

Turは元々、偵察と航空写真撮影を行っていた。

 

これまでは操縦士と写真員の経験で、撮影線を保っていた。

 

新しい目盛りと速度表を使えば、隣り合う写真の重なりを揃えやすい。

 

地図作成。

 

鉄道調査。

 

森林測量。

 

河川観測。

 

軍事偵察。

 

爆弾を当てるために作った装置が、地面を正確に写す道具へ変わった。

 

実業家が当然のように言う。

 

「測量会社へ販売できます」

 

軍将校が怒鳴る。

 

「軍の照準器だ!」

 

写真班主任が答える。

 

「民間測量でも使えます」

 

「軍人が反論しろ!」

 

元独立運動家も図面を見る。

 

「洪水後の被害調査に便利だ」

 

「自治体まで来るな!」

 

元ドイツ技師だけは少し満足そうだった。

 

「同じ装置で用途が増えるなら、悪くない」

 

軍将校が彼を見る。

 

「爆撃精度は十分ではないぞ」

 

「改良する」

 

「写真用と爆撃用を分けるか」

 

「共通部品を残す」

 

「また同じ機体へ全部載せる気だな」

 

「必要な物だけ載せ替える」

 

軍将校は答えを聞く前から分かっていた。

 

Turである。

 

 

最終試験では、小麦粉袋ではなく、水へ色を付けた薄い金属容器を使用した。

 

着地すると潰れ、赤や青の水が地面へ広がる。

 

小麦粉より着弾位置が分かりやすい。

 

食品部門から苦情も来ない。

 

ただし元白軍将校が容器を持ち上げて言った。

 

「果汁でもよいのでは」

 

「駄目だ」

 

軍将校が即答した。

 

「色が付いている」

 

「食品を爆撃試験へ使うな!」

 

試験機は十六個の小型容器を積んだ。

 

一度の進入で、二個ずつ連続投下する。

 

目標は車列を想定した八枚の黒布。

 

Turが低空で進入する。

 

投下員が照準器を覗く。

 

速度。

 

高度。

 

横風。

 

目標線。

 

「投下開始!」

 

容器が次々と落ちた。

 

赤。

 

青。

 

赤。

 

青。

 

地面へ色が広がる。

 

黒布の周囲へ点々と着弾。

 

八枚のうち三枚へ直接命中。

 

二枚の近くへ落下。

 

残る三枚からは離れた。

 

地上班が測定する。

 

軍将校は結果を見た。

 

「戦場なら?」

 

元白軍将校が答える。

 

「三両は壊れる。二両はたぶん壊れる。三両は逃げる」

 

技師が訂正する。

 

「爆弾の種類による」

 

「小型破片爆弾なら」

 

「車両本体より、人員とタイヤと積荷へ効果がある」

 

「燃料車なら」

 

「燃える可能性がある」

 

「弾薬車なら」

 

「近くへ落ちても危険だ」

 

軍将校は少し黙った。

 

Turは橋を一本だけ正確に壊す機体ではない。

 

だが道路へ並んだ輸送車両へ、小型爆弾を大量に撒くことはできる。

 

速度も高度も、後の専門爆撃機には及ばない。

 

命中精度も高くない。

 

それでも、補給列、野営地、駅、飛行場のような広い目標へは十分な脅威になる。

 

「軍へ報告する」

 

軍将校が言った。

 

「何と書く」

 

元ドイツ技師が答えた。

 

「精密目標には不適。広域目標及び縦列目標には有効性あり」

 

元白軍将校が付け加える。

 

「低く飛べばもっと当たる」

 

「損害増加の恐れあり、と併記する」

 

「装甲を――」

 

「今は言うな」

 

 

その日の午後。

 

写真偵察班が同じTurへカメラを積んだ。

 

模擬爆弾架を外し、撮影用の目盛り板を取り付ける。

 

午前中は車列を爆撃した機体が、午後には河川改修予定地を撮影する。

 

元独立運動家が地図を広げた。

 

「ここの堤防を写してくれ」

 

軍将校が聞く。

 

「軍の試験機だぞ」

 

「洪水で崩れかけている」

 

「地方政府から依頼があったのか」

 

「昨日出した」

 

「もう許可された?」

 

「今朝だ」

 

実業家が言う。

 

「写真代は徴収します」

 

「軍の燃料を使うな」

 

「試験飛行の経路上です」

 

「だから何でも同じ飛行で済ませるな!」

 

元ドイツ技師は飛行計画を見る。

 

「経路変更は三分以内だ」

 

軍将校は絶句した。

 

また全員が共犯だった。

 

Turは離陸した。

 

一定高度。

 

一定速度。

 

川沿いを真っ直ぐ飛ぶ。

 

写真員が目盛りを見ながら、規則的に撮影する。

 

一枚。

 

次。

 

さらに次。

 

写真は少しずつ重なり、堤防、村、畑、橋を連続して捉えた。

 

帰還後、現像された写真を並べる。

 

川の形が一本につながった。

 

元独立運動家は崩れかけた場所へ印を付ける。

 

「ここへ石材を入れる」

 

軍将校が写真を見る。

 

「爆弾照準器だったはずだ」

 

写真班主任が答えた。

 

「目標へ正確に近づくための装置です」

 

「今日は川を撮った」

 

「川が目標です」

 

「爆弾は」

 

「積んでいません」

 

「それなら偵察機では?」

 

元白軍将校が言った。

 

「今日はな」

 

 

照準器は正式採用された。

 

ただし名称を巡って揉めた。

 

軍は「簡易投下照準器」と呼びたがった。

 

写真班は「航路基準観測器」を主張した。

 

測量部門は「連続撮影誘導器」を提案した。

 

食品部門は関与していなかった。

 

にもかかわらず実業家が、

 

「多用途地上目標観測器」

 

と名付けようとした。

 

軍将校が止めた。

 

「売る気だろう」

 

「民間型をです」

 

「まず軍用型を完成させろ!」

 

元ドイツ技師が最終的に決めた。

 

WILK地上基準照準器一型

 

投下にも使える。

 

撮影にも使える。

 

物資投下にも使える。

 

後には救難物資、郵便袋、医薬品箱、食料樽を狙った場所へ落とすためにも使われた。

 

軍将校は採用書類を読みながら言った。

 

「爆弾を当てるために作った」

 

元独立運動家が答える。

 

「必要な場所へ物を落とす装置だ」

 

「敵へも、味方へも?」

 

「中身が違うだけだ」

 

元白軍将校が頷く。

 

「爆弾か、パンか」

 

軍将校は彼を睨んだ。

 

「その二択で航空戦術を語るな」

 

 

夕方。

 

試験用の小麦粉袋が一つ残っていた。

 

側面には、

 

試験用・食用不可

 

と書かれている。

 

元白軍将校が持ち上げる。

 

「どうする」

 

「捨てる」

 

食品部門の責任者が答えた。

 

「もったいない」

 

「食べられません」

 

「投下するか」

 

「試験は終わりました」

 

元独立運動家が袋を受け取った。

 

「訓練用に残す」

 

「何の」

 

「新人投下員の練習だ」

 

軍将校が眉を寄せた。

 

「また落とすのか」

 

「爆弾より安い」

 

元ドイツ技師が言う。

 

「着弾位置も見える」

 

実業家が加える。

 

「廃棄費用も減ります」

 

軍将校は袋を見た。

 

次に照準器を見た。

 

そして訓練予定表を見た。

 

「分かった。ただし食品部門の小麦粉を勝手に持ち出すな」

 

「承知した」

 

三人が答えた。

 

翌朝。

 

食品部門から、古くなった小麦粉袋が三十個届いた。

 

添付された紙には、こう書かれていた。

 

爆撃訓練用として譲渡する。

食用不可。

 

なお、空になった袋は返却されたい。

 

軍将校は紙を読んだ。

 

「食品部門が軍需供給を始めたぞ」

 

元独立運動家が答えた。

 

「廃棄物の有効利用だ」

 

「兵器ではない」

 

「だが爆撃訓練に使う」

 

「では軍需品なのか」

 

実業家が帳簿を開いた。

 

「分類を新設します」

 

「新しい部門を作るな!」

 

こうしてWILKでは、爆撃照準器が完成した。

 

その精度は、後の専門爆撃機用装置には及ばなかった。

 

橋へ必ず当てられるわけでもなかった。

 

だが広い目標へ近づき、爆弾をまとめて落とし、地上を規則的に撮影し、必要な場所へ物資を投下するには十分だった。

 

そして最初の訓練弾として大量に消費されたのは、火薬でも鉄でもなかった。

 

遠征パンに使えなくなった、小麦粉だった。

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