WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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ポーランド陸軍航空部・大型爆撃機代替可能性比較試験記録より抜粋

比較対象。

Farman F.68 Goliath。
Tur A.3量産標準型。

試験目的。

Tur A.3が、現用大型爆撃機の任務を代行し得るか確認する。

試験前の航空部内意見。

「爆弾搭載量が近いなら、より新しく、整備しやすい方を増やせばよい」

WILK技術担当者の回答。

「同じ重さを積めることと、同じ任務ができることは違う」

試験担当参謀の追記。

「前回も同じ説明を受けた気がする」

WILK技術担当者の再回答。

「理解されていないため、もう一度説明する」


第53話 巨人ゴリアテと荷車

Farman F.68 Goliathは、格納庫の前へ出されると、その名の通り大きかった。

 

二基の発動機。

 

厚い主翼。

 

長い胴体。

 

複数の乗員席。

 

爆弾を運び、遠くの目標へ向かい、敵の上空で落とすための機体。

 

古い。

 

遅い。

 

見た目も、新しい時代の航空機というより、前の戦争からそのまま歩いてきた巨人に近かった。

 

だが大型爆撃機だった。

 

その横へTur A.3が並べられた。

 

こちらも双発。

 

単葉。

 

大きな主翼。

 

半ばまでしか引き込まれない主脚。

 

太い胴体。

 

貨物扉。

 

各種任務装備を吊るす共通基部。

 

Farmanより新しい。

 

部品の規格も揃っている。

 

整備教本もある。

 

五十機の量産実績もある。

 

外見だけなら、比較すること自体は不自然ではなかった。

 

実際、航空部の一部は本気だった。

 

「Farmanは旧式化している」

 

作戦参謀が言った。

 

「部品の供給にも不安がある。稼働率も高くない。対してTurは五十機を量産し、部品共通性も確認された」

 

兵站参謀が資料をめくる。

 

「予備品管理はTurが圧倒的に容易です」

 

「爆弾搭載量も、最大値では大きく違わない」

 

「ならば」

 

作戦参謀は二機を見比べた。

 

「次の大型爆撃機を買うまで、Turで代替できるのではないか」

 

元ドイツ帝国軍技師は、すぐに答えた。

 

「できない」

 

「まだ試験をしていない」

 

「する前から分かる」

 

「軍の評価は試験結果で決める」

 

「なら試せ」

 

元白軍将校が楽しそうに笑った。

 

「同じ重さを積んで飛ばせばよい」

 

技師が横を見る。

 

「お前は説明を聞いていたか」

 

「聞いた。だから飛ばす」

 

「理解したのか」

 

「飛ばせば全員が理解する」

 

ポーランド軍将校が額を押さえた。

 

「そのための試験だ」

 

 

第一試験。

 

同一爆装。

 

FarmanとTurへ、同じ重量の模擬爆弾を搭載する。

 

八百キログラム。

 

Turの試験最大値よりは軽い。

 

しかし通常運用としては、十分に重い。

 

Farmanでは機体内と懸吊部へ、爆撃任務として整理して搭載された。

 

投下順序。

 

信管管理。

 

爆撃手の操作。

 

機体重心。

 

防御火器との干渉。

 

長距離飛行時の安全余裕。

 

すべて、爆撃機として考えられている。

 

Turでは、翼下と胴体下の共通懸吊基部へ模擬爆弾を取り付けた。

 

積める。

 

固定できる。

 

投下もできる。

 

だが元ドイツ技師は、機体の横へ立ったまま言った。

 

「燃料を入れろ」

 

試験担当官が振り返る。

 

「入っている」

 

「試験空域を一周する分だけだ」

 

「本日の試験には足りる」

 

「Farmanと同じ任務距離を飛ぶ分を入れろ」

 

作戦参謀が言う。

 

「今日は搭載試験だ」

 

「大型爆撃機の代替試験だろう」

 

「まず同じ量を積めるか確認する」

 

「積めることは既に分かっている」

 

元白軍将校がTurの主脚を蹴らない程度に叩いた。

 

「離陸させよう」

 

技師が睨む。

 

「お前は黙っていろ」

 

「飛ばすのは私だ」

 

「なお悪い」

 

 

先にFarmanが離陸した。

 

滑走。

 

機体がゆっくり浮く。

 

大きい。

 

鈍い。

 

だが動きに無理がない。

 

爆弾と燃料を載せた状態で、それを行うために作られている。

 

次にTur。

 

両発動機を全開。

 

大きな車輪が草地を転がる。

 

速度が上がる。

 

尾部が浮く。

 

機体は滑走路の終わりへ近づき、ようやく地面を離れた。

 

低い。

 

上昇が鈍い。

 

半引き込み式主脚を操作する。

 

車輪の下部を外へ残したまま、脚が収まる。

 

抵抗は減る。

 

だがFarmanより軽快というほどではない。

 

地上の参謀が双眼鏡を下ろした。

 

「飛んだな」

 

技師が答える。

 

「飛ぶ」

 

「同じ八百キログラムだ」

 

「そうだ」

 

「なら、何が違う」

 

「燃料」

 

「またそれか」

 

「爆撃は飛行場の上で行わない」

 

二機は試験空域を周回した。

 

Farmanは一定の高度まで上がり、重いまま安定した。

 

Turはそこまで達するのに時間がかかった。

 

それでも飛んだ。

 

模擬爆弾も落とせた。

 

着陸もした。

 

作戦参謀は記録係へ言った。

 

「同一爆装で離着陸可能」

 

元ドイツ技師が付け加える。

 

「短距離、良好な天候、長い滑走路、軽い燃料搭載で」

 

「注記へ入れる」

 

「本文へ入れろ」

 

「注記で十分だ」

 

「その注記を読まない者が、八百キログラムを積んで短い飛行場から飛ばす」

 

元独立運動家が静かに言った。

 

「本文へ入れた方がよい」

 

ポーランド軍将校も頷いた。

 

「大きく書け」

 

作戦参謀は嫌そうな顔をした。

 

だが書かせた。

 

 

第二試験。

 

同一距離。

 

目標は、飛行場から約三百五十キロメートル先に設定された模擬工業地帯。

 

往復。

 

予備燃料を含む。

 

同じ八百キログラムを積む。

 

Farmanは準備を続けた。

 

Tur側では、重量計算の途中で元ドイツ技師が紙を置いた。

 

「無理だ」

 

試験担当官が聞く。

 

「離陸できないのか」

 

「離陸はできるかもしれない」

 

「なら」

 

「帰還時の燃料余裕がない」

 

「風が良ければ」

 

「風は契約書へ署名しない」

 

「爆弾を減らせ」

 

「同一爆装試験では」

 

「では燃料を減らす」

 

「代替試験だろう」

 

参謀たちが黙った。

 

元白軍将校が重量表を覗く。

 

「六百キログラムなら」

 

「飛べる」

 

「五百なら安全か」

 

「天候と飛行場条件次第だが、現実的になる」

 

作戦参謀が尋ねる。

 

「Farmanは八百で行けるのか」

 

大型爆撃隊の整備将校が答えた。

 

「行けます」

 

「予備燃料込みで?」

 

「はい」

 

「防御銃手も乗せて?」

 

「はい」

 

「Turは」

 

元ドイツ技師が答えた。

 

「爆弾を減らすか、距離を縮めろ」

 

作戦参謀は二機を見た。

 

「同じ八百キログラムではないな」

 

「爆弾は同じだ」

 

「任務が違う」

 

「ようやく理解したか」

 

「今それを言うな」

 

 

試験条件が変更された。

 

Farmanは八百キログラム。

 

Turは五百キログラム。

 

目的地は同じ。

 

距離も同じ。

 

Farmanは大型爆撃機としての標準的な任務形態。

 

Turは長距離寄りの実用爆装。

 

二機は朝、離陸した。

 

Farmanは鈍重だった。

 

Turも鈍重だった。

 

速度だけなら、機体状態と積載条件によってはTurが大きく負けるとは限らない。

 

だが高度差が出た。

 

Farmanは爆撃任務に必要な高さへ、ゆっくりながら上がっていく。

 

Turは燃料と爆弾を抱え、上昇余裕が小さい。

 

操縦士が無線で報告する。

 

Tur、予定高度への到達遅延。

発動機温度上昇。

上昇率維持のため速度調整。

 

地上の試験官が時間を測る。

 

「Farmanは既に巡航高度だ」

 

「Turは」

 

「まだ上昇中です」

 

元白軍将校が言った。

 

「目標へ着く頃には上がる」

 

元ドイツ技師が答える。

 

「上昇を終えた直後に爆撃航程へ入る気か」

 

「時間を無駄にしない」

 

「乗員を殺す考え方だ」

 

 

模擬工業地帯上空。

 

Farmanは爆撃航程へ入った。

 

爆撃手は所定位置につく。

 

前下方の目標を確認する。

 

操縦士へ修正を伝える。

 

「右へ二度」

 

機体がわずかに修正。

 

「そのまま」

 

速度維持。

 

高度維持。

 

風向修正。

 

投下。

 

模擬爆弾は、工場棟と倉庫群の周辺へ比較的まとまって落ちた。

 

完璧ではない。

 

当時の水平爆撃である。

 

だが、爆撃機としての手順が整っている。

 

Turも進入した。

 

簡易地上基準照準器。

 

写真撮影や物資投下にも使える装置。

 

広い区域を狙うには役立つ。

 

しかし爆撃手の視界はFarmanほどよくない。

 

「目標確認」

 

「どこだ」

 

「機首の下へ入る」

 

「左へ振る」

 

「爆撃航程中だ!」

 

「見えなければ落とせん!」

 

「機体を傾ければ弾着が散る!」

 

「この機体を作った者を連れてこい!」

 

操縦士が叫ぶ。

 

「爆撃機として作っていない!」

 

投下。

 

五百キログラム分の模擬爆弾は、工業地帯へ広く散った。

 

工場棟への直接命中判定は少ない。

 

だが倉庫。

 

引込線。

 

野積み資材。

 

模擬車両。

 

周辺設備。

 

広い範囲が損害判定となった。

 

地上判定員は報告書へ書いた。

 

Farman隊は、指定された主要建築物へ効果を集中させた。

 

Tur隊は、指定区域の周辺機能へ広範な損害を与えた。

 

前者は爆撃。

後者は事故の多発した工業地帯に近い。

 

その表現は後で削除された。

 

元白軍将校が気に入ったため、手帳には残った。

 

 

帰路。

 

Farmanは予定された燃料余裕を保っていた。

 

Turも帰還可能だった。

 

ただし向かい風が強くなれば、途中飛行場への着陸を検討する必要があった。

 

試験飛行場へ戻った時、両機とも無事だった。

 

作戦参謀が尋ねる。

 

「任務は達成したな」

 

判定官が答える。

 

「両機とも目標区域を攻撃し、帰還しました」

 

「なら代替可能か」

 

「同じ結果ではありません」

 

「Farmanは八百キログラム。Turは五百」

 

「はい」

 

「Turへ八百積めば」

 

「この距離では安全余裕を失います」

 

「前進飛行場を使えば」

 

元白軍将校が反応した。

 

「それだ」

 

技師が顔をしかめる。

 

「話を複雑にするな」

 

「前へ出せばよい。目標から百キロの飛行場へTurを置く。そこから八百積んで殴る」

 

作戦参謀が考える。

 

「大型爆撃機は後方基地から飛ぶ。Turは前進基地から飛ぶ」

 

「同じ目標を攻撃できる」

 

「燃料と爆弾を前進基地へ運ぶ必要がある」

 

元白軍将校はTurを指した。

 

「Turで運べばよい」

 

軍将校が怒鳴った。

 

「爆撃するTurのために、別のTurで爆弾を運ぶのか!」

 

「合理的だ」

 

「飛行機が増える!」

 

実業家が小声で言った。

 

「追加発注の理由になります」

 

「お前は黙っていろ!」

 

 

第三試験は、爆撃精度と防御配置だった。

 

Farmanには、爆撃機として複数の乗員位置がある。

 

操縦。

 

爆撃。

 

観測。

 

防御火器。

 

死角はある。

 

古い機体でも、敵地上空へ行くことを前提に役割が置かれている。

 

Turにも銃を付けられる。

 

既に前方銃や大型口径火器の試験も行われている。

 

側面や後方の防御火器を追加することも不可能ではない。

 

だが付ければ重量が増える。

 

弾薬も要る。

 

銃手も乗る。

 

爆弾か燃料を減らす必要がある。

 

「Farmanと同じ防御火器を付けろ」

 

作戦参謀が言った。

 

元ドイツ技師が答える。

 

「同じ位置には付かない」

 

「同程度でよい」

 

「重量が増える」

 

「爆弾を減らせ」

 

「比較条件が変わる」

 

「では燃料を」

 

「帰れなくなる」

 

参謀は机を叩いた。

 

「この機体は、何かを増やすたびに何かが減るのか!」

 

技師は真顔で答えた。

 

「すべての飛行機がそうだ」

 

元白軍将校も頷いた。

 

「だから大きくすればよい」

 

「お前は黙れ」

 

 

四日間の比較試験が計画された。

 

一日目。

 

搭載量。

 

二日目。

 

長距離爆撃。

 

三日目。

 

反復出撃。

 

四日目。

 

部隊運用。

 

一日目と二日目は、Farmanが大型爆撃機としての能力を示した。

 

三日目の朝。

 

Farman一機の主脚取付部に異常が見つかった。

 

着陸時の衝撃によるものか。

 

以前からの疲労か。

 

分解点検が必要。

 

もう一機は発動機の点火系統に不具合。

 

予備部品は保管されていた。

 

だが、該当機へそのままは付かなかった。

 

「同じFarman用だろう」

 

作戦参謀が聞く。

 

整備兵が答える。

 

「製造時期が違います」

 

「加工すれば」

 

「後方修理所の設備が必要です」

 

「試験は今日だぞ」

 

「機械は日付を読みません」

 

四機参加予定だったFarmanは、出撃可能二機となった。

 

Turは五機参加予定。

 

前日、一機で燃料弁の漏れ。

 

もう一機で貨物扉表示の不調。

 

燃料弁は予備箱から交換。

 

貨物扉接点も交換。

 

作業記録。

 

試運転。

 

五機とも出撃可能。

 

作戦参謀は、Turの列を見た。

 

「またか」

 

兵站参謀が答える。

 

「またです」

 

「Turも二機壊れた」

 

「はい」

 

「Farmanも二機壊れた」

 

「はい」

 

「なぜ片方だけ全機飛ぶ」

 

「部品が合うからです」

 

作戦参謀は帽子を取り、頭を掻いた。

 

「大型爆撃機との比較でも、その話になるのか」

 

兵站参謀は真顔だった。

 

「航空機の比較では、最後は必ずその話になります」

 

 

反復出撃試験。

 

目標は百キロメートル先の模擬鉄道集積地。

 

近距離。

 

Farman二機。

 

Tur五機。

 

一回目。

 

Farmanは一機あたり多くの爆弾を載せ、比較的まとまった投下。

 

Turは広く散布。

 

一回の攻撃効果ではFarmanが上。

 

二回目。

 

Farmanは給油と再爆装に時間がかかった。

 

大型。

 

爆弾搭載位置。

 

点検箇所。

 

必要な整備員数。

 

Turは共通懸吊基部へ、同じ作業班が同じ手順で模擬爆弾を取り付ける。

 

再出撃。

 

三回目。

 

Farman一機で発動機温度上昇。

 

点検のため離脱。

 

残り一機。

 

Turは一機で主脚表示ずれ。

 

表示装置を点検。

 

機械的には脚固定正常。

 

接点調整。

 

再出撃。

 

試験終了時。

 

一機一出撃あたりの投下量。

 

Farmanが上。

 

一機一出撃あたりの命中精度。

 

Farmanが上。

 

一日当たりの総出撃回数。

 

Turが上。

 

一日当たりの総投下量。

 

両隊が近い。

 

模擬目標区域へ与えた総損害。

 

評価方法によって結論が変わった。

 

作戦参謀が報告書を読んだ。

 

「Farmanの方が優秀だ」

 

兵站参謀が言う。

 

「一機なら」

 

「大型爆撃機の試験だ。機体性能を比べる」

 

「戦争では部隊が飛ぶ」

 

「Tur五機とFarman二機では不公平だ」

 

「朝は四機でした」

 

「故障は偶然だ」

 

「戦争中の故障も、すべて偶然として扱いますか」

 

作戦参謀は答えなかった。

 

 

四日目。

 

部隊運用試験。

 

Farman隊へ模擬命令が出た。

 

三百キロ先の鉄道拠点を攻撃。

 

二日間連続。

 

Tur隊にも同じ目標。

 

ただし任務方式は自由。

 

Farman隊は後方飛行場から直接攻撃する。

 

爆弾。

 

燃料。

 

整備。

 

全部、既存基地で準備。

 

一日目。

 

二機出撃。

 

目標到達。

 

投下。

 

帰還。

 

二日目。

 

一機が整備から復帰。

 

三機出撃。

 

長距離爆撃部隊として、普通の戦い方だった。

 

Tur隊は、目標から約百二十キロメートルの前進飛行場を選んだ。

 

草地。

 

短い滑走路。

 

燃料設備は小さい。

 

爆弾庫もない。

 

元白軍将校が計画書を広げる。

 

「先に輸送型Tur三機で運ぶ」

 

「何を」

 

「爆弾、燃料ポンプ、整備員、工具、天幕、食料」

 

軍将校が聞く。

 

「攻撃機は」

 

「後から五機」

 

「八機使うのか」

 

「Farmanは後方基地の補給列車と倉庫と整備所を使っている」

 

「数え方が違う!」

 

「仕組みを比べている」

 

前進飛行場へ物資が運ばれた。

 

整備員。

 

燃料。

 

模擬爆弾。

 

無線機。

 

簡易照明。

 

炊事道具。

 

パン樽。

 

軍将校がパン樽を見つけた。

 

「なぜある」

 

元独立運動家が答える。

 

「二日間、現地にいます」

 

「普通の食料袋でよいだろう」

 

「雨が降ります」

 

「だから樽か」

 

「壊れにくい」

 

「また屋根を抜くなよ」

 

 

Tur隊は前進飛行場から出撃した。

 

距離が短い。

 

燃料を減らせる。

 

爆弾を増やせる。

 

八百キログラム近い近距離爆装。

 

離陸。

 

低高度で進出。

 

目標区域へ大量の小型模擬弾を投下。

 

帰還。

 

燃料補給。

 

再爆装。

 

再出撃。

 

大型爆撃機のように、遠方の安全な基地から敵の奥深くへ届くわけではない。

 

前進飛行場が必要。

 

爆弾も燃料も整備員も前へ運ばなければならない。

 

前進飛行場が雨で泥になれば、運用は難しくなる。

 

敵に発見されれば攻撃される。

 

補給路を切られれば止まる。

 

だが条件が整えば、Turは短距離を何度も往復した。

 

二日目の朝。

 

雨。

 

草地が軟らかくなった。

 

Farmanなら運用を避けたくなる状態。

 

Turの半引き込み式主脚と大きな車輪は、泥を跳ね上げながらも機体を支えた。

 

一機が離陸滑走中に大きく跳ねた。

 

脚に衝撃。

 

点検。

 

変形なし。

 

再出撃。

 

別の一機で発動機の点火不良。

 

共通部品交換。

 

三十七分後、再出撃。

 

試験終了時。

 

Farman隊は遠距離へ、より正確に爆弾を届けた。

 

Tur隊は前進飛行場を作り、短距離を何度も飛び、多数を投下した。

 

同じ目標を攻撃した。

 

だが同じ爆撃ではなかった。

 

判定官は最終所見へ書いた。

 

Farmanは基地から目標へ届く。

 

Turは基地を目標へ近づける必要がある。

 

前者は大型爆撃機の能力である。

後者は航空輸送と前進運用を組み合わせた能力である。

 

両者を単純に代替関係として扱うべきではない。

 

 

比較試験の後、大型爆撃隊長とWILKの五人が格納庫で顔を合わせた。

 

Farmanの巨体が奥にある。

 

横ではTurが補給物資を下ろしていた。

 

大型爆撃隊長が言った。

 

「TurをFarmanの代わりにするな」

 

作戦参謀が尋ねる。

 

「やはり能力不足か」

 

「大型爆撃機としてはな」

 

「では爆撃隊への配備は不要か」

 

「誰が返すと言った」

 

「何に使う」

 

隊長は指を折った。

 

「爆弾を運ばせる」

 

一本。

 

「交換部品を運ばせる」

 

二本。

 

「整備員を運ばせる」

 

三本。

 

「不時着した乗員を拾わせる」

 

四本。

 

「負傷者を病院へ送る」

 

五本。

 

「前進飛行場があるなら、近距離爆撃にも出す」

 

元白軍将校が笑う。

 

「結局、爆弾を落とす」

 

「手が空いているならな」

 

元ドイツ技師がFarmanを見る。

 

「大型爆撃機を飛ばすためにTurを使う」

 

隊長は頷いた。

 

「Farmanは遠くを殴る。だが、遠くを殴るためには後ろで多くの者が働く」

 

Turの貨物扉から、木箱が下ろされた。

 

発動機部品。

 

点火栓。

 

工具。

 

油。

 

無線機の予備。

 

「Turは後ろの仕事を空へ持ち上げる」

 

隊長は続けた。

 

「Farman一機を増やすより、Turを一機付けた方が、飛べるFarmanが増える日もある」

 

兵站参謀が満足そうに頷く。

 

作戦参謀は不満そうだった。

 

「爆撃機の比較試験で、補給機として評価されるのか」

 

元白軍将校が答える。

 

「何に使っても役に立つなら、よい機体だ」

 

元ドイツ技師は首を振った。

 

「何にでも使うから壊れる」

 

「直せる」

 

「壊す前提で話すな」

 

「部品は合う」

 

技師は何も言わなかった。

 

否定できなかった。

 

 

正式評価書は、TurをFarman F.68の代替と認めなかった。

 

Tur A.3は、最大搭載条件においてFarman F.68に近い爆弾重量を搭載し得る。

 

しかし、同一爆装時の航続距離、上昇余裕、爆撃手視界、防御火器配置及び長距離任務における安全性において、Farman F.68へ及ばない。

 

特にTur A.3の最大搭載値は、限定された条件下における積載能力であり、大型爆撃機の標準爆装能力と同一視してはならない。

 

よって、Tur A.3をFarman F.68の直接代替機として扱わない。

 

そこで一度、文章が切られた。

 

次の頁。

 

一方、Tur A.3は大型爆撃隊に対し、以下の支援能力を有する。

 

爆弾及び弾薬輸送。

燃料及び整備資材輸送。

整備員及び交代乗員輸送。

不時着機乗員の捜索救助。

負傷者後送。

前進飛行場からの補助爆撃。

写真偵察及び爆撃効果確認。

 

また、部品交換性及び短時間修理能力により、高い反復出撃能力を示した。

 

したがって、Tur A.3は大型爆撃機の代替ではなく、大型爆撃部隊の継続運用を補助する機体として配備する価値がある。

 

その評価書を読んだ大型爆撃隊の整備兵は、短くまとめた。

 

「巨人の代わりにはならない」

 

「だが巨人の飯を運んでくる」

 

 

WILK本社へ、新しい要求書が届いた。

 

大型爆撃隊支援用Tur。

 

必要装備。

 

大型爆弾輸送用固定具。

 

発動機部品運搬架。

 

整備工具棚。

 

乗員捜索用無線機。

 

救難装備。

 

燃料容器。

 

夜間着陸支援具。

 

写真偵察装置。

 

補助爆装設備。

 

元白軍将校が読んだ。

 

「全部付ければよい」

 

元ドイツ技師が答える。

 

「任務ごとに交換する」

 

「全部あれば交換しなくてよい」

 

「重くなる」

 

「強い発動機を」

 

実業家が紙を出した。

 

「候補の外国製発動機について、価格回答が来ました」

 

軍将校が嫌な顔をする。

 

「高いのか」

 

「非常に」

 

元独立運動家は別の紙を広げた。

 

「整備員を増やすなら、学校の増築が必要だ」

 

「先に機体だ」

 

「先に教える者だ」

 

「先に契約です」

 

「先に設計だ」

 

四人が同時に話し始めた。

 

軍将校は机の上を探した。

 

教本がない。

 

比較試験へ持ち出したままだった。

 

代わりに、FarmanとTurの比較評価書があった。

 

厚い。

 

彼はそれを持ち上げた。

 

どん。

 

全員が止まった。

 

「これも使えるな」

 

元白軍将校が言った。

 

軍将校は自分の手元を見た。

 

「本来の用途ではない」

 

元ドイツ技師が静かに答えた。

 

「WILKではよくあることだ」

 

 

Farman F.68 Goliathは、遠くへ爆弾を運ぶための巨人だった。

 

その身体は古くとも、大型爆撃機として作られていた。

 

燃料を積み。

 

爆弾を積み。

 

乗員を乗せ。

 

遠方の目標へ向かい。

 

敵地上空で仕事を終え。

 

帰還する。

 

Turはそこまで遠くへ届かなかった。

 

同じ重量を積めても、同じ距離は飛べなかった。

 

同じ高度へ、同じ余裕では上がれなかった。

 

爆撃手の視界も、防御火器の配置も、大型爆撃機には及ばなかった。

 

巨人の代わりにはならなかった。

 

だが巨人が食べる爆弾を運んだ。

 

巨人を治す部品を運んだ。

 

巨人を整備する人間を運んだ。

 

巨人が地上へ落とした乗員を拾った。

 

巨人が飛べない日には、近くの敵へ自分の爆弾を落とした。

 

Farmanは巨人だった。

 

Turは荷車だった。

 

巨人は遠くを殴った。

 

荷車は、巨人が殴り続けられるように、その足元を走り回った。

 

どちらが優れているかという問いは、比較試験の終わりには消えていた。

 

必要なのは、巨人か荷車かではない。

 

巨人を戦わせるための荷車だった。

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