一九二七年
新型空冷発動機の搭載により、以下の性能向上が確認された。
離陸距離の短縮。
上昇率の改善。
高温時の運用余裕増加。
片発停止時の高度維持能力改善。
満載時の操縦性改善。
よって、増加した余裕を有効活用するため、以下の追加装備を検討されたい。
追加爆弾。
追加機関銃。
追加装甲。
追加燃料。
追加無線機。
追加乗員。
WILK側回答。
余裕は、空いている棚ではない。
新型空冷発動機を搭載したTurは、明らかによく飛んだ。
速くなった。
上昇もよくなった。
離陸距離も短くなった。
満載状態で地面を離れた後、従来型のように樹木の先を睨みながら、操縦桿を引きすぎないよう祈る必要も減った。
片方の発動機を絞っても、以前より機首が落ちにくい。
飛行場の者たちは喜んだ。
操縦士も喜んだ。
整備員は、まだ喜ばなかった。
新しい発動機は、まだ新しい故障を見せていなかったからである。
軍は大いに喜んだ。
そして、最初の試験飛行から三日後には、追加装備の一覧を持ってきた。
「余裕ができた」
ポーランド軍将校が言った。
元ドイツ帝国軍技師は、渡された紙を最後まで読まなかった。
「返す」
「まだ何も答えていないぞ」
「答えは書いてある」
技師は紙の一行目を指した。
追加爆弾二百キログラム。
「載せられるだろう」
「載る」
「なら問題はない」
「前にも聞いた」
軍将校は咳払いした。
「今回は発動機が強い」
「だから余裕が増えた」
「その余裕を使う」
「使わない」
「なぜだ!」
技師は新型機の性能表を机へ広げた。
「この余裕は、従来型が苦しかった条件で安全に飛ぶためのものだ」
高温。
高地。
ぬかるんだ飛行場。
短い滑走路。
向かい風が弱い日。
片発停止。
疲労した操縦士。
整備状態が完全でない機体。
計算より重い貨物。
地図に載っていない樹木。
「最後の二つは性能表に書けんだろう」
軍将校が言った。
「だから余裕が要る」
元白軍将校が表を覗き込んだ。
「爆弾二百キログラムくらいなら載る」
「お前は黙れ」
「なぜだ」
「載ることと、載せるべきことを区別しないからだ」
「必要なら載せる」
「必要の意味を軍に決めさせると、全部載せることになる」
ポーランド軍将校が紙を取り返した。
「全部は載せん」
技師が一覧を指さした。
爆弾。
機関銃。
装甲。
燃料。
無線機。
乗員。
「全部書いてある」
「検討項目だ」
「軍の検討項目は、三か月後には要求事項になる」
「偏見だ」
「経験だ」
◇
議論を終わらせるため、比較試験が行われることになった。
新型発動機搭載機を三機用意する。
第一機。
従来と同じ搭載量。
第二機。
追加爆弾二百キログラム。
第三機。
追加燃料、追加無線機、腹部装甲、後方機銃弾薬増加。
軍が欲しがったものを、一部ずつ積んだ。
元白軍将校は第三機を見た。
「全部載せてもよかったのでは」
「黙れ」
技師だけでなく、軍将校まで同時に言った。
三機は同じ朝、同じ滑走路へ並べられた。
風向は弱い。
気温は高い。
前夜の雨で、草地は少し柔らかかった。
軍将校が空を見た。
「もっと条件のよい日に試せないのか」
技師は答えた。
「条件がよい日にだけ飛ぶ軍用機なら、安く作れる」
第一機が先に走った。
新型発動機の力で、機体は短い距離で浮いた。
上昇も安定している。
第二機が続く。
離陸距離は伸びた。
浮いた後も、速度が乗るまで地面近くを走る。
それでも従来型よりは余裕があった。
第三機はさらに重かった。
尾部が持ち上がるまで時間がかかった。
機体は滑走路の終端近くでようやく浮いた。
車輪が草を離れた直後、左へ大きく傾いた。
操縦士が修正する。
低い高度のまま、ゆっくりと速度を稼いだ。
見ていた軍将校の顔から笑みが消えた。
「飛んだな」
元白軍将校が言った。
「今のを見て、最初に出る言葉がそれか」
「飛ばなかったとは言えん」
「だからお前を試験責任者にしたくない!」
◇
三機は高度を上げた。
定められた地点で、片方の発動機を絞る。
第一機。
高度は少しずつ落ちた。
だが操縦士は進路を保ち、旋回し、飛行場へ戻る余裕があった。
第二機。
高度低下は大きい。
爆弾を投棄すれば帰還可能。
投棄しなければ、平地の飛行場までなら戻れるが、途中に丘陵があれば厳しい。
第三機。
片発になった瞬間、機首が下がった。
操縦士は速度を保つため降下を始めた。
高度維持はできない。
装備の一部を捨てることもできない。
装甲は外れない。
無線機も飛行中には降ろせない。
増槽だけは切り離せたが、満タンの燃料を捨てるわけにはいかなかった。
「投棄しろ」
地上無線から命令が飛んだ。
「何をです」
操縦士が返す。
軍将校は言葉に詰まった。
爆弾なら落とせる。
貨物なら、場合によっては捨てられる。
だが装甲も無線機も乗員も、空中では捨てられない。
元ドイツ技師が軍将校を見た。
「追加装備には、捨てられない重量がある」
第三機は緩やかに降下しながら、飛行場へ戻った。
滑走路へ届くまで、高度はほとんど残らなかった。
着陸後、操縦士は機体を降りるなり言った。
「飛べます」
軍将校が頷く。
「やはり」
「ただし、飛んだ後に何か一つ悪くなれば、帰れません」
軍将校の頷きが止まった。
◇
午後には、離陸条件を変えた試験が続いた。
乾いた滑走路。
湿った滑走路。
向かい風。
横風。
外気温の違い。
貨物の重心位置。
一機は、貨物を少し後方へ積んだ。
重量は規定内だった。
だが離陸時、機首が上がりやすくなり、操縦士は早すぎる浮揚を抑えなければならなかった。
別の機体は、同じ重量を前方へ寄せた。
尾部がなかなか上がらず、滑走距離が伸びた。
元独立運動家が荷役員たちの作業を見ていた。
「重さだけ合っていても駄目なのか」
「位置が違えば別の機体になる」
技師が答えた。
「荷役員全員が計算できる必要があるか」
「計算は表にする」
「読めない者もいる」
「絵にしろ」
「言葉が違う者もいる」
「色を使え」
「夜は見えにくい」
「形も変えろ」
元独立運動家は頷いた。
「では、貨物区画ごとに番号と形を付ける」
技師が顔を上げる。
「何をする気だ」
「床へ表示する。前方は三角、中部は四角、後方は丸。貨物札にも同じ印を入れる」
「荷物の重量は」
「色帯で分ける」
「色だけに頼るな」
「だから形も付ける」
技師は少し考えた。
「試せ」
その日のうちに、倉庫記録係となった市場巡回の家族の娘が呼ばれた。
彼女は案を一度見ただけで言った。
「この色は暗い倉庫では同じに見えます」
元独立運動家が聞いた。
「では何を変える」
「線の本数を変えます。一本、二本、三本。触っても分かるよう、札の端も切ります」
「なぜ触る必要がある」
「夜に灯りが消えたら、見えません」
技師が彼女を見た。
「経験があるのか」
「市場では、夜明け前に荷を分けます」
「飛行機は扱ったことがないな」
「荷物はあります」
技師は頷いた。
「ならよい」
こうして、搭載表に新しい表示方法が加わった。
三角。
四角。
丸。
一本線。
二本線。
三本線。
文字が読めなくても、薄暗くても、手袋をしていても、積載位置と重量区分を間違えにくい。
後に陸軍はこれを、WILK独自の高度な航空貨物管理方式として報告した。
考えた本人は、市場で小麦袋を間違えない方法を応用しただけだった。
◇
一週間後。
新型発動機搭載型の運用会議が開かれた。
軍将校は、追加装備要求書を机へ置いた。
その紙には、赤い線が何本も引かれている。
追加爆弾。
条件付き。
追加燃料。
任務別。
追加無線機。
標準装備化を再検討。
装甲。
局部のみ。
機関銃。
弾薬搭載量を制限。
追加乗員。
原則不可。
元白軍将校が紙を見た。
「減ったな」
「試験を見たからだ」
「それでも爆弾は増やすのか」
「短距離任務なら可能だ」
技師が口を挟む。
「飛行場、気温、標高、燃料、帰還経路を指定する」
「分かっている」
「片発時の投棄手順も」
「分かっている」
「爆弾を捨てられない場所では」
「搭載しない」
技師は軍将校を見た。
「本当に分かったのか」
軍将校は机を叩いた。
「貴様が一週間言い続けたことを、そのまま書いたのだ!」
「なら読める」
「最初から読め!」
実業家が帳面をめくりながら言った。
「会議開始から十二分です。前回より早く合意しました」
「記録するな!」
「もう記録しました」
◇
結論として、新型空冷発動機搭載型は、単純な重武装型にはならなかった。
増えた出力は、まず安全へ使われた。
満載時の離陸余裕。
暑い日の上昇。
短い草地からの運用。
片発停止時の帰還可能性。
操縦士の小さな誤り。
整備状態のばらつき。
予定より重くなった貨物。
それらを受け止めた後、まだ残る分だけが、任務装備へ回された。
軍は不満だった。
しかし、試験で地面すれすれを飛んだ第三機を見た者は、強く反対できなかった。
新型には正式な型式名が与えられた。
Tur A.4。
外見上の違いは、太くなった発動機覆いと、大きなプロペラだった。
だが本当の違いは、性能表の余白に書かれていた。
高温時補正。
滑走路状態補正。
標高補正。
片発時搭載限界。
投棄可能重量。
投棄不能重量。
重心位置。
帰還可能経路。
操縦士がそれをすべて覚える必要はない。
整備員も、荷役員も、指揮官も、それぞれ必要な部分を知ればよい。
その代わり、誰か一人だけが全部を決めることは禁止された。
操縦士は飛べるかを判断する。
整備員は機体が飛ばせる状態かを判断する。
荷役員は正しく積まれているかを判断する。
指揮官は任務が必要かを判断する。
そして、どれか一つが否なら飛ばさない。
「戦争中にも守られると思うか」
元白軍将校が尋ねた。
軍将校は答えた。
「守られないこともある」
「なら意味がない」
「違う」
技師が言った。
「破る規則が書かれていれば、何を危険にしたか分かる」
「破った後では遅い」
「破る前に分かる方がましだ」
実業家はその会話も帳面へ書いた。
◇
初めて前線部隊へ送られたTur A.4には、追加爆弾は積まれていなかった。
積まれていたのは、交換用発動機部品。
医薬品。
無線機用蓄電池。
二人の整備員。
パン生地樽が一つ。
軍将校が積荷表を見た。
「新型機の最初の任務が、また補給か」
元白軍将校が笑う。
「何でも運べる機体だからな」
「爆撃試験も予定されている」
「帰ってからでよい」
Tur A.4は短い草地から離陸した。
従来型より早く高度を取り、雲の下へ入っていく。
技師は見送らなかった。
既に次の機体の発動機架を確認していた。
実業家も見送らなかった。
帳面の中で、空冷発動機の予備部品価格が上がっていた。
元独立運動家は、新しい貨物札を荷役員へ配っていた。
軍将校だけが、遠ざかる機体を見ていた。
強い発動機を載せた。
爆弾を増やすこともできた。
装甲を厚くすることもできた。
だが最初に増えたのは、帰ってこられる可能性だった。
軍人としては、少し物足りない。
創業者としては、それでよかった。
余裕とは、何かを追加するための空白ではない。
何かが予定どおりにいかなかった時、それでも帰るために残しておく場所だった。