一九二七年
対象。
創業期軽郵便機。
同改造機。
Tur A.1。
Tur A.2。
その他、型式分類不能機。
右記について、現状、残存数、整備状態、今後の用途および処分方針を報告されたい。
備考。
「整理」とは、必ずしも廃棄を意味しない。
WILK側追記。
その一文を最初に書かれたい。
「旧型機を整理する」
ポーランド軍将校が命令書を読み上げた。
元白軍将校が立ち上がった。
「捨てんぞ」
「まだ捨てるとは言っていない」
「軍が整理と言う時は、たいてい捨てる時だ」
「備考を読め」
「備考に書かなければならない時点で怪しい」
元ドイツ帝国軍技師は、命令書を横から取った。
「対象機の範囲が曖昧だ」
「旧型WILK機とTur A.1、A.2だ」
「旧型WILK機とは何だ」
「Tur以前の機体だ」
「どの仕様を指す」
「全部だ」
「全部を一つの型式として扱うな」
軍将校が額を押さえた。
「だから現状を調べるのだ!」
元独立運動家は、別の箇所を見ていた。
「配置換えになる整備員は何人だ」
「まだ決まっていない」
「学校へ回す機体が増えれば、教官と宿舎も要る」
「先に機体を数えさせろ」
実業家は帳面を開いた。
「軍所有、WILK所有、共同所有、貸与中、払い下げ済み、所有関係不明の六区分でよろしいですか」
軍将校が止まった。
「所有関係不明?」
「創業期の機体です」
「軍が発注したはずだ」
「完成後払いでした」
「払っただろう」
「一部は」
「一部?」
実業家は別の帳面を出した。
軍将校が即座に手を上げる。
「分かった。そこは後で調べる」
「では利息も後で」
「なぜ利息が生きている!」
五人は、旧型機の所在確認へ出ることになった。
命令書には「書面で報告」とあった。
だが書面だけでは、飛行機がまだ飛べるかどうかは分からない。
そしてWILKでは、飛べる機体を帳簿だけで廃棄することを、元白軍将校が許さなかった。
◇
最初に確認したのは、WILK工場の端に置かれた創業期機だった。
格納庫とは呼びにくい木造小屋。
屋根は一度張り直されている。
扉は相変わらず、押すのか引くのか分かりにくい。
「引け」
軍将校が言った。
元白軍将校が押した。
「昔から変わらんな」
「お前が覚えないだけだ」
扉の向こうに、一機の双発機があった。
左右で形が違う。
左側には細長い液冷発動機の覆い。
右側には太い空冷発動機。
左右のプロペラ直径も違う。
発動機架の形も違う。
尾翼は後から継ぎ足した跡がある。
胴体外板には、修理のたびに増えた補強板が並んでいた。
学生たちが、その周囲に集まっている。
一人が左側の配管を追い、別の者が右側の点火系統を調べていた。
教官が黒板へ書いている。
同じ機体に異なる発動機を搭載した場合に生じる問題を挙げよ。
学生の答えは多かった。
重量差。
推力差。
振動差。
燃料の違い。
冷却方式の違い。
操縦系統の違い。
予備部品の増加。
工具の増加。
整備教育の複雑化。
発動機交換不能。
重心偏り。
片発時操縦性の不均衡。
元白軍将校が満足そうに聞いていた。
「よく分かっている」
教官が振り向く。
「悪い例が目の前にありますので」
「飛んだぞ」
「だから悪い例として価値があります」
学生の一人が、五人を見た。
「これを作った方々ですか」
教官が答える前に、元白軍将校が胸を張った。
「そうだ」
元ドイツ技師は顔をしかめた。
「私は、これを作りたかったわけではない」
軍将校も続ける。
「私も、左右別発動機を要求したわけではない」
実業家は帳面を開いた。
「私は同一発動機を二基買えませんでした」
元独立運動家が最後に言った。
「私は足りない部品を町中から集めた」
学生は五人を順に見た。
「では、誰がこれを作ろうと言ったのです」
全員の視線が元白軍将校へ集まった。
「飛行機が必要だった」
「同じ発動機は?」
「なかった」
「それで左右別に?」
「二基あれば双発になる」
学生たちが静かになった。
教官が黒板へ一行追加した。
不足している物を、存在するものとして計画してはならない。
元白軍将校は不満そうだった。
「飛んだのだがな」
元ドイツ技師が機体を指した。
「だから残している」
創業機は、もう通常飛行には使われていなかった。
発動機を始動させることはある。
操縦系統も動く。
学生は配管を外し、組み、左右の違いを比較する。
壊れた箇所。
直した箇所。
直したことで別の箇所へ負担が移った例。
すべてを実物で学べる。
軍将校が状態表へ記入した。
創業期軽郵便機第一号。
飛行任務より除外。
地上教材として保存。
廃棄不可。
「不可まで書くのか」
実業家が尋ねた。
軍将校は機体を見た。
「書かなければ、誰かが部品取りにする」
元ドイツ技師が即答した。
「既に二個なくなっている」
全員が教官を見た。
教官は視線を逸らした。
「教材として外しました」
「戻せ」
「学生が実習中です」
「終わったら戻せ」
創業機は、飛ばなくなってもなお、部品を失い続けていた。
◇
次に訪れたのは、WILK双発航空機学校だった。
いつの間にか、正式名称が長くなっていた。
設立当初は航空技術学校。
次に双発機転換課程が増えた。
さらに多発機整備課程、航法課程、無線課程、写真偵察課程、荷役主任課程が付いた。
校門の看板には、すべて書き切れなかった。
そのため現在は、単にこう書かれている。
WILK航空学校
校内の駐機場には、Tur A.1が並んでいた。
塗装は褪せている。
胴体には何度も塗り直した国籍標識。
翼端や貨物扉には、学生が付けた小さな傷。
半引き込み式主脚の下半分だけが、相変わらず外へ出ている。
一機が着陸してきた。
接地。
跳ねる。
再び接地。
少し蛇行。
ようやく停止。
元白軍将校が顔をしかめた。
「操縦が固い」
教官が答えた。
「第三週です」
「三週なら、もう少しましに降りられる」
「あなたの三週目と比較しないでください」
「私は三週目には実戦で飛んでいた」
「教育制度がなかったからでしょう」
「飛べたぞ」
「生き残った方だけが、そう言います」
着陸したA.1から、学生が二人降りてきた。
一人は操縦学生。
もう一人は教官。
操縦学生は、機体を振り返って言った。
「鈍いです」
元白軍将校が近づく。
「何が」
「上昇も遅い。操舵も重い。A.3の方が素直です」
「だから、お前はA.1へ乗っている」
「なぜです」
「A.3は、お前の間違いを機体が助ける」
「A.1は?」
「間違えたと分からせる」
学生は嫌そうな顔をした。
教官が補足する。
「ただし、考える時間はあります」
A.1は遅かった。
出力も低い。
満載では、上昇に忍耐が必要だった。
だが双発機の基礎を学ぶには、都合がよかった。
片方の出力を絞れば、機首がゆっくり振られる。
学生は何が起きたか理解できる。
速度が落ちる。
高度が下がる。
それでも、すぐには破綻しない。
教官が順番に指示できる。
飛行姿勢。
作動側発動機。
故障側プロペラ。
速度。
高度。
帰還経路。
「片方を止めるのですか」
軍将校が聞いた。
教官は当然のように答えた。
「毎週」
「学生相手に?」
「双発課程ですから」
「危険ではないか」
元白軍将校が笑った。
「止めたことのない発動機が、実戦で初めて止まる方が危険だ」
別のA.1では、整備学生が半引き込み脚を分解していた。
一人が油まみれになっている。
「戻りません」
教官が聞く。
「なぜだ」
「泥が噛んでいます」
「どこに」
「見えません」
「なら見えるまで外せ」
「全部ですか」
「飛行場で全部外す前に、学校で外せ」
A.1は操縦学生だけの教材ではなかった。
整備員。
航法員。
無線員。
写真員。
荷役員。
全員が使う。
一機の飛行時間より、地上で触られる時間の方が長い機体もある。
軍将校は駐機場を見回した。
「何機ある」
学校長が答えた。
「飛行可能十一機。短期整備中三機。地上教材四機。部品供給用二機です」
「多すぎないか」
「学生が増えています」
元独立運動家が学生宿舎を見た。
窓から洗濯物がはみ出している。
「宿舎が足りない」
「来月、重爆部隊候補が四十名来ます」
軍将校が振り向いた。
「四十?」
「双発基礎課程です」
「重爆部隊に配属する者を、ここで全部教える気か」
学校長が書類を出した。
「軍の教育部からです」
そこには、こう書かれていた。
重爆操縦要員候補は、WILK双発課程修了者を優先すること。
軍将校が紙を読んだ。
「優先?」
学校長は別の紙を出した。
翌年度案だった。
重爆操縦要員候補は、原則としてWILK双発課程修了者より選抜する。
「原則?」
さらに次の草案があった。
WILK双発課程未修了者については、重爆部隊配属前に同等課程を修了させること。
軍将校は紙を重ねた。
「全部ここへ来るではないか」
「そのようです」
「誰が決めた」
「軍です」
「私は聞いていない!」
学校長は肩をすくめた。
「教育部門同士で決まったそうです」
実業家が帳面を開いた。
「授業料は」
軍将校が睨む。
「軍内部の話だぞ」
「学校はWILKです」
「軍人を育てるのだぞ」
「食事と燃料は無料になりません」
元独立運動家は既に別の計算をしていた。
「四十人なら宿舎一棟、食堂増築、教官最低六人。家族帯同者は?」
「新人ですから少ないでしょう」
「少ないとゼロは違う」
元ドイツ技師はA.1の整備記録を見ていた。
「発動機予備が足りない」
元白軍将校だけが嬉しそうだった。
「四十人か。飛ばしがいがある」
学校長が小声で言った。
「教官全員が、あなたの担当にはしないでほしいと言っています」
◇
Tur A.2は、地方航空隊にいた。
中央の部隊から見ると旧式。
地方から見ると現役。
朝は軍用郵便。
昼は航空写真。
午後は負傷兵の後送。
翌日は国境線の偵察。
その次の日には、洪水地域へ毛布を投下する。
一機の胴体には写真機用の窓。
別の機体には担架固定具。
三機目には小型爆弾架。
同じA.2でも、細部はかなり違っていた。
地方隊の整備主任が言った。
「A.3ほど部品は合いません」
元ドイツ技師が聞く。
「どの程度だ」
「同じ部品番号でも、初期機は削る必要があります。後期機はだいたい入ります」
「だいたい、とは」
「十個に八個ほど」
技師の顔が険しくなる。
「低い」
整備主任は慌てて付け加えた。
「他社機よりは高いです」
「他社と比べるな。図面と比べろ」
地方隊長はA.2を擁護した。
「よく働いています」
「性能の話ではない」
「A.4を回してもらえるなら、交換しますが」
軍将校が尋ねた。
「何に使う」
地方隊長は即答した。
「新しいので」
「却下」
「まだ理由を」
「今言った」
「速度も上昇力も高い」
「この飛行場から何を運ぶ」
「郵便、写真機、患者、たまに豚です」
軍将校は止まった。
「豚?」
「農業試験場の種豚です」
「A.4が必要か」
地方隊長はA.2を見た。
「必要ではありません」
「ならA.2を使え」
「新型が欲しいだけです」
「正直なのは評価する。却下だ」
A.2は、前線の花形ではなかった。
だが地方では、代わりがなかった。
A.1より力がある。
A.3ほど取り合いにならない。
任務装備が既に付いている。
操縦士も整備員も慣れている。
何より、今日飛べる。
元白軍将校が一機の外板を叩いた。
「まだ使える」
元ドイツ技師は修理跡を確認する。
「疲労検査が必要だ」
「飛んでいる」
「飛んでいるから調べる」
後期生産のA.2には、A.3規格へ近づけられる機体もあった。
貨物固定具。
配線。
計器板。
部品番号。
発動機架の接続部。
ただし完全には同じにならない。
軍将校は改修案を読んだ。
「性能はA.3に近くなる」
「A.3ではない」
技師が答えた。
「操縦士には区別がつかん」
「整備員にはつく」
「書類上だけでもA.3として」
「駄目だ」
「A.2改では書類が増える」
「偽って減らすな」
実業家が口を挟んだ。
「中古機の価値としても、改修型であることを明記した方が高く売れます」
軍将校が振り向く。
「売るのか」
「一部は」
地方隊長がA.2の前へ立った。
「まだ必要です」
「全部は売りません」
「どれを」
「状態のよい初期機を民間へ。軍では部品負担が大きいですが、単独運用なら問題が少ない」
技師が頷いた。
「改造履歴を渡せ」
「当然です」
「重大故障報告を義務づけろ」
「契約に入れます」
地方隊長が呆れた。
「払い下げた後まで報告させるのか」
技師は答えた。
「重力は民間でも同じだ」
◇
民間へ移ったA.1とA.2にも仕事があった。
郵便会社。
新聞社。
測量会社。
地方病院。
農業団体。
飛行倶楽部。
一機のA.1は、山間部へ医師を運んでいた。
貨物室には診療箱。
帰路には患者を乗せる。
別のA.2は、河川測量に使われた。
写真機を積み、洪水後の流路を撮影する。
新聞社へ渡った機体は、都市間で原稿と写真乾板を運ぶ。
農業団体の機体は、種子、工具、獣医、時には家畜まで載せた。
実業家は、それらを単純に売却しなかった。
一部は長期貸与。
一部は分割払い。
一部は整備契約付き。
飛行時間に応じて料金を取る契約まであった。
軍将校が帳面を見た。
「古い機体で、まだ稼ぐのか」
「まだ働きますから」
「売り切った方が早い」
「売れば一度だけです」
「貸せば?」
「長く入ります」
元独立運動家が付け加えた。
「地方に整備員の仕事も残る」
学校を卒業したばかりの若い整備員が、民間運用地へ派遣される。
家族も移る。
そこへ小さな整備所ができる。
燃料倉庫。
郵便取扱所。
診療所。
宿。
旧型機一機が、地方へ小さな仕事のまとまりを作っていた。
「飛行機を貸しただけでは」
軍将校が言った。
元独立運動家は首を振る。
「飛行機だけが移動することはない」
操縦士。
整備員。
荷役員。
燃料。
郵便。
患者。
家族。
食料。
全部が後を追う。
実業家は帳面へ、その人数まで記録していた。
◇
調査の最後に、部品供給用として保管された機体を見た。
翼を外されたA.1。
尾翼のないA.2。
胴体だけの旧型郵便機。
一見すれば、廃棄物だった。
だが部品棚には、それぞれの機体から外された物が並んでいる。
操縦索。
座席。
貨物扉。
脚部部品。
計器。
窓枠。
発動機架。
番号札が付いていた。
元白軍将校が胴体を見た。
「直せば飛ぶ」
技師が即答する。
「飛ばさない」
「翼を付ければ」
「主構造に亀裂がある」
「補強すれば」
「重量が増える」
「軽い仕事なら」
「部品として五機を飛ばす方がよい」
元白軍将校は黙った。
飛ばせるかどうかだけなら、工夫次第で飛ばせる。
だが一機を無理に戻すために、飛行中の五機から予備部品を奪うことになる。
「五機か」
「少なくとも」
「なら、そちらへ使え」
技師は少し意外そうに見た。
「諦めるのか」
「違う」
元白軍将校は、翼のない胴体を軽く叩いた。
「こいつが五機を飛ばす」
部品供給機は、飛ばない。
だが仕事を失ったわけではなかった。
◇
WILKへ戻ると、五人は整理報告書をまとめた。
創業期機。
保存、地上教材、試験用。
Tur A.1。
双発初等訓練、整備教育、航法、郵便、測量、医療、民間貸与。
Tur A.2。
地方軍務、予備、偵察、写真、輸送、災害対応、民間転用。
状態不良機。
部品供給、構造教材、破壊試験。
歴史的価値を持つ機体。
廃棄禁止。
軍将校が最後の項目を見た。
「歴史的価値は誰が判断する」
実業家が答えた。
「我々では利益相反になります」
「では軍か」
元ドイツ技師が首を振る。
「軍は倉庫が狭くなれば捨てる」
元白軍将校も言う。
「学校へ置け」
元独立運動家が付け加える。
「学生に説明させればよい。説明できる機体は残す」
「説明できなければ?」
「まだ意味を理解していない可能性がある」
結局、保存機の選定には、軍、WILK、学校、整備現場から一人ずつ参加することになった。
実業家は帳面を閉じた。
「では、資産整理は完了です」
軍将校が報告書を見た。
「一機も単純廃棄になっていないぞ」
「壊れた布と腐食した配管は廃棄します」
「機体の話だ」
技師が答えた。
「機体も分ければ部品になる」
元白軍将校が続ける。
「飛べれば仕事がある」
元独立運動家も言う。
「飛べなくても教えられる」
実業家が最後に言った。
「教えられなくても、記録には残せます」
軍将校は四人を見た。
「捨てるという選択肢はないのか」
四人は少し考えた。
「危険な物は捨てる」
技師が答えた。
「使えない物は売らない」
実業家が言った。
「人を危険にする物は飛ばさない」
元独立運動家が続けた。
元白軍将校は、最後まで迷った。
「本当に何にも使えなければ捨てる」
「お前が一番甘いな」
軍将校が言った。
◇
翌春。
ポーランド重爆部隊へ、新人操縦士たちが配属された。
古参飛行隊長は、名簿を読んだ。
一人目。
WILK双発航空学校、第六期修了。
二人目。
WILK双発航空学校、第六期修了。
三人目。
WILK双発航空学校、第七期修了。
四人目。
同じ。
五人目。
同じ。
飛行隊長は人事将校を見た。
「全員WILKか」
「双発機経験者を選びました」
「ほかの学校にはいないのか」
「操縦士はいます」
「ならなぜ」
「片発飛行、乗員協同、重量管理、双発整備との連携まで修了している者が、ほぼWILK卒だけです」
新人たちは、飛行場に並ぶ重爆撃機を見上げていた。
Turより大きい。
重い。
乗員も多い。
爆弾も多い。
発動機の音も違う。
だが、最初に確認したことは同じだった。
左右の発動機。
燃料系統。
片発時の速度。
投棄可能重量。
帰還飛行場。
整備記録。
古参飛行隊長が一人へ聞いた。
「WILKでは、何に乗っていた」
「A.1です」
「旧式だな」
「はい」
「これとは違うぞ」
新人は重爆撃機を見た。
「大きさは違います」
「ほかは」
「片方が止まれば、機首が振れます」
飛行隊長は少し笑った。
「それだけか」
「まず飛行機を飛ばします。故障を直すのは、着陸してからです」
飛行隊長の笑みが止まった。
それは、昔から重爆部隊でも言われてきたことだった。
ただし新人が、配属初日に口にする言葉ではなかった。
「誰に教わった」
「元白軍将校です」
「まだ教えているのか、あの男は」
「毎週、片方を止めました」
飛行隊長は人事将校を見た。
「来年もWILK卒を寄越せ」
それが始まりだった。
新型機が前線へ送られる。
旧型機が学校へ移る。
学校で学生が育つ。
育った学生が、新しい部隊へ送られる。
A.1は重爆撃機にはなれなかった。
A.2も、大型爆撃機ほど遠くへは飛べなかった。
創業期機など、もう地面を離れることすらなかった。
それでも彼らは、重爆部隊を飛ばしていた。
翼を渡したのではない。
発動機を渡したのでもない。
片方が止まっても、帰る方法を知っている人間を送り出していた。
新型機が来れば、旧型機は危険な仕事を譲る。
だが、空から退くとは限らない。
古い飛行機にも仕事がある。
飛ぶ仕事。
運ぶ仕事。
教える仕事。
ほかの機体を飛ばす仕事。
そして駐機場には、WILKの歴史が並び続けた。