一九二八年
単発戦闘・偵察部隊と、双発輸送・爆撃・連絡部隊との共同運用を実施した。
確認された主な相違。
単発機部隊は、発進判断が速い。
双発機部隊は、発進前の協議が長い。
単発機操縦士は、自機の状態を操縦感覚から判断する傾向が強い。
双発機操縦士は、整備員、航法員、荷役員および機上乗員の報告を求める傾向が強い。
単発機部隊からの所見。
双発機乗りは話が長い。
双発機部隊からの回答。
空中で話せないことを、地上で話している。
ヤン・ノヴァク中尉は、双発機乗りが嫌いだった。
正確には、最近急に増え始めたWILK航空学校卒業者が嫌いだった。
飛ぶ前に集まる。
紙を広げる。
重量を量る。
燃料を計る。
整備員を呼ぶ。
無線員を呼ぶ。
航法員を呼ぶ。
貨物を積むだけなのに、荷役員まで口を出す。
それから全員で機体の周りを回る。
一周では終わらない。
二周する。
機体によっては三周する。
ようやく操縦席へ乗ったかと思えば、今度は左右の発動機を別々に確認する。
「飛行機は飛ばせば分かる」
ヤンが言うと、隣にいた単発偵察機の操縦士が頷いた。
「発動機が二つあるから、心配も二倍なんだろう」
「いや、紙が四倍だ」
二人は笑った。
その向こうでは、Tur A.3の乗員たちが離陸前協議を続けていた。
操縦士。
副操縦士。
航法員。
無線員。
整備軍曹。
荷役主任。
六人が一枚の積載表を囲んでいる。
「右前方区画、二百二十キログラム」
荷役主任が言った。
「予定は二百だ」
操縦士が答える。
「木箱が湿っています」
「中身は」
「無線機用蓄電池。個数は同じです」
「後方の医薬品箱を二十キログラム前へ移せるか」
「温度箱なので固定架を変える必要があります」
整備軍曹が口を挟んだ。
「右後方へ移すなら、点検口を塞ぐ」
「では左中央」
「そこは担架」
「担架患者は?」
「演習用の砂袋です」
「砂袋なら後ろへ」
ヤンは鼻で笑った。
「砂袋一つ運ぶのに会議か」
Turの操縦士が顔を上げた。
若い男だった。
見覚えがある。
昨年、重爆部隊へ配属されたWILK第七期の卒業者だ。
「砂袋だから動かせます」
「人間なら?」
「動かす前に聞きます」
「飛んでから考えればよい」
「飛んでから重心は直せません」
ヤンは肩をすくめた。
「操縦で押さえればよい」
若い操縦士は反論しなかった。
積載表へ数字を書き直した。
それがまた気に入らなかった。
◇
共同演習は、国境付近の飛行場から始まった。
単発偵察機が先行する。
敵役部隊の位置を確認。
Turが無線機材、模擬爆弾、連絡将校を運ぶ。
大型爆撃機部隊は後方から進出。
戦闘機隊は護衛と迎撃。
ヤンの任務は、偵察と連絡だった。
単発機なら一人で済む。
地図。
時計。
双眼鏡。
拳銃。
それだけあれば飛べる。
燃料を入れる。
発動機を回す。
翼を一度見る。
操縦席へ乗る。
「出るぞ」
整備兵へ声をかける。
整備兵が片手を上げた。
それでよい。
後ろでは、双発機乗りたちがまだ話していた。
ヤンは先に離陸した。
単発機は軽かった。
草地を短く走り、すぐに浮く。
機首を上げる。
速度が乗る。
風を受ける。
地上の人間も書類も、たちまち小さくなる。
これが飛行だ。
一人で決める。
一人で飛ばす。
間違えれば自分で直す。
直せなければ自分で降りる。
余計な相談など要らない。
ヤンはそう思っていた。
◇
演習区域へ向かう途中、発動機が一度咳き込んだ。
ヤンは計器を見た。
回転数が一瞬落ち、戻る。
燃料圧は正常。
油圧も正常。
異音はない。
「機嫌が悪いだけだ」
独り言を言った。
単発機には、よくあることだった。
古い発動機は、たまに咳をする。
寒い。
暑い。
燃料に水が混じる。
点火栓が汚れる。
高度が変わる。
理由はいくらでもある。
回っているなら飛ぶ。
ヤンは任務を続けた。
地上の鉄道線を確認。
敵役部隊の車列を発見。
地図へ印を付ける。
無線で報告。
その帰路だった。
発動機が、今度は大きく咳き込んだ。
回転が落ちた。
黒煙。
振動。
ヤンは混合気を調整した。
燃料切替。
点火切替。
反応なし。
回転はさらに落ちた。
「さっき言え」
発動機へ怒鳴った。
発動機は答えず、止まった。
単発機で発動機が止まる。
それは故障ではない。
飛行方式の変更である。
動力飛行から滑空へ。
ヤンは即座に機首を下げた。
速度を保つ。
周囲を見る。
森。
畑。
小さな川。
道路は細い。
前方に広い牧草地がある。
家畜はいない。
傾斜も少ない。
風向を確認。
旋回。
高度を失いすぎない。
脚を下ろす。
固定を確認。
最後の進入。
草地の端を越える。
接地。
一度跳ねる。
右主脚が穴へ入った。
激しい衝撃。
機体が右へ振られる。
ヤンは左を踏んだ。
間に合わない。
右主脚が折れた。
翼端が地面を擦る。
機体は半回転して止まった。
静かになった。
焦げた油の匂いがした。
ヤンは数秒、操縦席に座っていた。
指を動かす。
脚を動かす。
血は出ていない。
火も出ていない。
「上出来だ」
自分へ言った。
機体を降りる。
右主脚は根元から歪んでいた。
プロペラ先端が地面へ触れ、曲がっている。
右翼端の外板も破れている。
しかし胴体と主翼桁は生きていた。
尾翼も無事。
操縦索も動く。
ヤンは機体を一周した。
「歩いて帰るか」
演習飛行場までは遠い。
だが近くに村が見える。
電話があれば連絡できる。
機体は後で回収されるだろう。
発動機と機銃、計器類を外す。
翼を分解する。
荷車かトラックで運ぶ。
一週間。
運が悪ければ一か月。
それが普通だった。
◇
連絡は昼過ぎに届いた。
午後三時前、空から双発機の音がした。
ヤンは草地へ出た。
Tur A.2だった。
低空を一度通過する。
不時着機を見る。
地面を見る。
風を見る。
二度目に、さらに低く通る。
三度目に着陸した。
「三周も必要か」
ヤンは呟いた。
Turは草地の端へ停止した。
貨物扉が開く。
最初に整備員が二人降りた。
次に軍医。
工具箱。
木材。
予備車輪。
巻かれたワイヤー。
滑車。
布。
折り畳み式の支柱。
最後に、あの若いWILK卒操縦士が降りてきた。
ヤンは顔をしかめた。
「人間一人を拾うには、大荷物だな」
「人間は歩けますか」
軍医が聞いた。
「見れば分かる」
「では後で診ます」
「診なくてよい」
「診ます」
軍医は譲らなかった。
若い操縦士は不時着機へ近づき、一周した。
整備員も続く。
一周目。
二周目。
翼端を触る。
主脚を見る。
尾翼を動かす。
操縦席へ入り、舵を確認する。
ヤンは腕を組んだ。
「部品を外すのか」
「確認しています」
「発動機は駄目だ」
「発動機は使いません」
「では何を確認している」
若い操縦士が答えた。
「飛べるかどうかです」
ヤンは壊れたプロペラを見た。
折れた主脚を見る。
それから若い男を見た。
「飛べないから、ここにいる」
「自力では」
嫌な言葉だった。
◇
整備員たちは作業を始めた。
曲がったプロペラを外す。
燃料を抜く。
弾薬も降ろす。
無線機、予備品、不要な装備を外して軽くする。
右翼端の破れへ補修布を当てる。
折れた主脚は、完全には直さない。
歪んだ部分を切り離し、持参した木材と金具で簡易脚を組む。
車輪は小さかった。
長時間の地上走行には耐えない。
だが離陸滑走と着陸一回なら使える。
ヤンは作業を見ながら尋ねた。
「基地まで転がす気か」
「道がありません」
「なら分解するしかない」
「分解すると三日かかります」
「組み直しも要る」
「ですから、そのまま持ち帰ります」
整備員が胴体下面へ金具を取り付けた。
「何だ、それは」
「曳航金具です」
「この機体にそんな物はない」
「今付けました」
「図面もないだろう」
「構造部材の位置は確認しました」
「確認しただけで付けるのか」
「荷重を限定します」
若い操縦士がTurから長い索を出した。
ヤンはようやく理解した。
理解したくなかった。
「まさか」
「基地まで曳きます」
「空を?」
「地上では遠いので」
「壊れた飛行機だぞ」
「滑空はできます」
「脚は今作った木だぞ」
「早く浮かせます」
「理屈がおかしい!」
若い操縦士は、少し考えた。
「不時着した時より、条件はよいです」
「どこがだ!」
「発動機が止まる心配がありません。最初から止まっています」
ヤンは初めて、WILK学校の教育に深刻な問題があると思った。
◇
当然、その場で飛ばしたわけではない。
まず無線で基地へ連絡する。
機体の型式。
推定重量。
構造損傷。
操縦系統。
草地の長さ。
風向。
地面状態。
曳航距離。
途中の地形。
気象。
基地側は、すぐには許可しなかった。
質問が返ってくる。
主翼桁の変形は。
なし。
尾翼取付部は。
異常なし。
方向舵、昇降舵、補助翼。
全作動。
曳航金具の取付位置。
前部胴体主構造へ分散固定。
簡易脚の荷重試験。
地上で実施予定。
曳航索切断装置。
操縦席から手動切断可能。
被曳航機操縦士の経験。
ヤン・ノヴァク中尉。単発偵察飛行六百三十二時間。
滑空着陸経験。
実戦二回、訓練多数。
ヤンは無線員の横で聞いていた。
「実戦二回とは何だ」
無線員が答える。
「過去の不時着です」
「不時着は経験欄に入るのか」
若い操縦士が言った。
「今回は役に立ちます」
基地から最終回答が来た。
日没前の実施は認めない。
翌朝、風速確認後に実施判断。
曳航速度を制限。
旋回は最小限。
基地到着前に十分な高度で離脱。
異常時は即時切断。
さらに一行。
元白軍将校を現地指揮へ参加させないこと。
ヤンは首を傾げた。
「なぜだ」
WILK卒は答えなかった。
◇
その夜、五人は草地の近くにある農家へ泊まった。
ヤン。
WILK卒操縦士。
整備員二人。
無線員。
軍医はTurで負傷していないことを確認した後、基地へ戻った。
農家の納屋で、整備員たちは索と金具を何度も確認した。
ヤンは干し草の上で横になっていた。
「お前たちは、いつもこうなのか」
若い操縦士が帳票を書きながら答えた。
「何がです」
「飛行機一機へ、人間が多すぎる」
「今日は少ない方です」
「私なら一人で飛ばせる」
「今日は飛ばせませんでした」
「発動機が止まったからだ」
「はい」
「それは腕の問題ではない」
「そうです」
否定しない。
それが腹立たしい。
「単発機は、一人で判断できる」
「そうですね」
「双発機乗りは何でも相談する」
「相談できる人がいるので」
「一人では決められないのか」
若い操縦士は帳票から顔を上げた。
「一人で決めることもあります」
「では、なぜ飛ぶ前にあれほど話す」
「空中で相談できないことが多いからです」
「無線がある」
「整備員は地上です。荷役員も地上です。燃料を積み直すこともできません」
「操縦士が全部分かっていればよい」
「全部分かる操縦士は、たいてい何かを見落とします」
ヤンは鼻で笑った。
「学校でそう習ったのか」
「元白軍将校は、自分で決めろと言いました」
「なら同じではないか」
「元ドイツ技師は、自分だけで決めたと思うなと言いました」
「どちらが正しい」
「両方です」
「ずるい答えだ」
「飛行機が落ちなければよい答えです」
ヤンは返す言葉を失った。
◇
翌朝。
風は弱かった。
草地は乾いている。
索を伸ばす。
Tur A.2が前。
その後方に、ヤンの単発偵察機。
間隔は長い。
ヤンは自機の操縦席へ乗った。
発動機はない。
正確には、あるが回らない。
プロペラも外されている。
前方のTurが、妙に遠く見える。
整備員が簡易脚を最終確認する。
曳航金具。
索。
切断取手。
舵。
全部確認。
若い操縦士がTurへ乗る前、ヤンのところへ来た。
「浮いた直後は、こちらの真後ろより少し上へ」
「分かっている」
「後流へ入りすぎたら」
「横へ逃げる」
「大きく動かさないでください」
「私を学生扱いするな」
「曳航されるのは初めてでしょう」
「……そうだ」
「私も飛行機を曳くのは二回目です」
ヤンが振り向いた。
「二回目?」
「一回目は練習用滑空機でした」
「壊れた飛行機は」
「初めてです」
「今それを言うな!」
若い操縦士はTurへ走っていった。
地上員が退避する。
Turの発動機音が上がる。
左右二基。
索が伸びる。
弛みが消える。
不時着機が前へ引かれた。
簡易脚が草地を転がる。
振動。
ヤンは舵を押さえる。
速度が上がる。
前方のTurの尾が少し浮く。
自機の尾も上がる。
簡易脚が跳ねる。
「持て、持て」
ヤンは独り言を言った。
Turが浮いた。
索が上へ引く。
ヤンは操縦桿を少し引く。
単発機も地面を離れた。
発動機音は前方からしか聞こえない。
自分の機体は静かだった。
風の音。
索の振動。
操縦索の感触。
それだけ。
地面が離れる。
草地が小さくなる。
本当に飛んでいた。
「馬鹿どもめ」
ヤンは笑った。
◇
曳航飛行は遅かった。
Turは速度を抑えている。
損傷機へ余計な負担をかけないためだ。
旋回も大きい。
高度も必要以上に上げない。
前方のTurは、普段より慎重に飛んでいた。
ヤンは索の角度を見ながら姿勢を保つ。
少し上。
少し下。
左右へ振れない。
自力で飛んでいる時とは違う。
速く行くこともできない。
好きに旋回もできない。
前の機体を信じなければならない。
同時に、前の機体も自分を信じている。
乱暴に動けば、Turまで引かれる。
一機の失敗が二機を危険にする。
ヤンはようやく分かった。
双発機乗りが飛行前に長く話す理由。
一人の判断で済まないのではない。
一人の判断が、ほかの人間へ届くようにしている。
途中、風が少し強くなった。
単発機が横へ流される。
ヤンは修正した。
Turもわずかに進路を変える。
無線はない。
合図もない。
だが互いの動きで分かる。
基地が見えた。
飛行場上空へ入る。
離脱地点。
ヤンは切断取手へ手をかけた。
前方のTurが翼を振る。
一度。
二度。
離せ。
ヤンは索を切った。
前方のTurが離れていく。
突然、自機だけになる。
発動機はない。
高度は十分。
風向。
滑走路。
速度。
いつもの滑空着陸だ。
ただし脚は応急品。
一度しか使えない。
進入。
機首を下げる。
速度を保つ。
滑走路端を越える。
引き起こす。
接地。
簡易脚が激しく震える。
右へ寄る。
ヤンは方向舵を踏む。
木製脚が折れた。
右翼が少し下がる。
地面を擦る。
機体は止まった。
二度目の不時着だった。
ただし今度は、基地の中だった。
整備員たちが走ってくる。
Turも別方向から着陸する。
ヤンは操縦席を降りた。
格納庫が近い。
工具もある。
交換部品もある。
自分の機体は、帰ってきた。
◇
「置いていくと思っていた」
ヤンは、降りてきたWILK卒操縦士へ言った。
「構造が無事でしたから」
「飛べなかったぞ」
「一人では」
昨日と同じ言葉だった。
今度は腹が立たなかった。
ヤンはTurを見た。
太い翼。
大きな胴体。
半引き込み式主脚。
速くはない。
美しくもない。
だが、人と工具と予備部品を運び、壊れた一機まで連れて帰った。
「お前たちは遅い」
「はい」
「話も長い」
「はい」
「一機飛ばすのに、人間が多い」
「そうですね」
「だが、置いていかないのだな」
若い操縦士は少し考えた。
「帰せるものは帰します」
「帰せないなら」
「人を帰します」
「人も無理なら」
「記録を持ち帰ります」
ヤンは眉をひそめた。
「最後は誰に習った」
「WILKの実業家です」
「飛行学校で何を教えているんだ」
「いろいろです」
その日の夕方。
ヤンは単発機部隊の食堂で、空中曳航の話をした。
同僚たちは笑った。
「双発機に引かれて帰ったのか」
「情けない」
「自分で飛べなかったからな」
ヤンは食器を置いた。
以前なら、一緒に笑っただろう。
「お前の機体が平地へ降りたら、置いてこい」
「何だ、急に」
「あいつらには知らせるな」
「なぜだ」
「持って帰られるぞ」
全員が笑った。
ヤンも笑った。
ただし、意味は少し違っていた。
◇
空中曳航回収の報告は、陸軍航空部へ送られた。
成功。
損傷増加は軽微。
地上分解輸送と比べ、推定七日を短縮。
必要条件。
平坦かつ十分な長さの離陸地。
操縦系統に重大損傷がないこと。
主翼および尾翼の構造が健全であること。
良好な天候。
昼間。
曳航経験者。
被曳航機に滑空着陸能力のある操縦士。
元ドイツ技師は報告書へ、さらに条件を書き足した。
軍将校が読んだ。
「条件が多い」
「少ないくらいだ」
「成功したのだろう」
「一度だ」
元白軍将校が横から言った。
「二回目はもっと上手くできる」
「二回目を前提にするな」
「回収できる機体は、まだある」
「探すな」
実業家は費用欄を見ていた。
「地上輸送より安いですね」
軍将校が警戒する。
「制度化する気か」
「限定的なら」
「限定という言葉を、お前たちは広げる」
元独立運動家は、回収班の勤務時間を見ていた。
「現地宿泊用の装備が要る」
軍将校は頭を抱えた。
一度成功すると、必要な物が増える。
工具。
曳航金具。
索。
教育。
資格。
規程。
宿泊用品。
保険。
実業家の帳面。
WILKでは、新しい仕事が必ず一つの部署を連れてきた。
◇
その会議の途中、扉が開いた。
空挺部隊の将校が入ってきた。
背後には、細長い木箱を持つ部下が二人。
軍将校が嫌な顔をした。
「何の用だ」
「損傷単発機の空中曳航に成功したと聞いた」
「限定的な試験だ」
「飛行機を曳いた」
「壊れた小型機を一機だけだ」
「我々の滑空機は、最初から曳かれるよう設計されている」
元ドイツ技師が顔を上げた。
「重量は」
空挺将校は書類を出した。
「空虚重量、最大搭載重量、必要離陸速度、想定乗員数」
軍将校が書類を奪った。
「なぜ用意してある!」
「申請に来たからだ」
「何を申請する」
「Turによる輸送滑空機曳航試験」
元白軍将校が身を乗り出した。
「何人乗る」
「当初は十二名」
「当初?」
軍将校が最後の欄を見た。
成功時には人員、武器および物資を段階的に増加する。
赤鉛筆を取った。
最後の一行を二重線で消す。
「増やすな」
空挺将校が言った。
「成功すれば増やすのが普通だ」
元ドイツ技師が書類を読む。
「滑空機はどこが作った」
空挺将校は国内の別企業名を答えた。
「WILKへ改造依頼も検討している」
「曳航金具だけだ」
「大型扉や脚部についても意見を」
「意見は出す。作らない」
「なぜだ。飛行機を作っているだろう」
「滑空機の経験がない」
「発動機がない分、簡単では」
技師の顔が変わった。
工場内の者たちが、一歩ずつ離れた。
「発動機がないから簡単だと、二度と言うな」
「しかし構造は――」
「着陸衝撃。曳航安定。低速操縦。人員集中荷重。大型扉。着地後の脱出。木製接着。索切断。後流。全部別だ」
空挺将校は少しひるんだ。
「では作らないのか」
「作らない」
「曳くのは」
技師は書類へ目を落とした。
「試験してから決める」
軍将校が机を叩いた。
「決めるな!」
実業家は既に帳面を開いていた。
「試験費用は空挺部隊負担ですか」
「計算するな!」
元独立運動家は別のことを聞いた。
「滑空機操縦士はどこへ泊める」
「まだ泊めるな!」
元白軍将校は笑っていた。
「十二人なら軽い」
「お前は黙れ!」
会議は一時間延びた。
結論。
WILKは空挺用滑空機を製造しない。
既存滑空機について、曳航可能性の試験のみ行う。
曳航金具、索切断装置、手順および操縦教育については、試験結果に応じて協力する。
搭載人員は最初から十二名とせず、重しから始める。
元白軍将校を初回試験の滑空機側操縦席へ乗せない。
最後の条件には、全員が賛成した。
◇
単発機部隊では、その後も双発機乗りへの悪口が消えなかった。
空飛ぶ委員会。
帳票乗り。
二基あるのに慎重な連中。
一人で決められない操縦士。
だが不時着の報告が入ると、誰かが必ず言うようになった。
「地面は平らか」
「翼は生きているか」
「WILKへ知らせたか」
それは期待であり、恐れでもあった。
知らせれば、彼らは来る。
操縦士だけではない。
軍医。
整備員。
工具。
部品。
食料。
索。
帳票。
必要なら、別の飛行機まで持ってくる。
そして人だけ回収して終わろうとすると、壊れた機体を一周し始める。
一周。
二周。
時には三周。
単発機乗りは、自分の腕で一機を飛ばす。
失敗も成功も、自分のものだった。
双発機乗りは、一機を多くの人間で飛ばす。
飛行中の判断は操縦士がする。
だが、その判断を支える物を、地上の人間が先に用意していた。
どちらが優れているという話ではない。
速く飛ぶ者が必要な時もある。
一人で即座に動く者が必要な時もある。
ただ、空に急激に増え始めたWILK卒業者たちは、発動機が二つあるから双発機乗りなのではなかった。
誰かの力を借りることを、腕の不足だと思わない。
一機で足りなければ、二機で帰す。
一人で足りなければ、人を集める。
飛べない物があれば、飛べる物の力を貸す。
彼らは、一人で飛ばないことを弱さだと思わない者たちだった。