WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――ポーランド陸軍空挺部隊・輸送滑空機曳航試験申請書
一九二八年

目的。

既存輸送滑空機をTur系列機によって曳航し、空挺兵および装備を敵後方へ輸送する可能性を確認する。

第一段階。

無人状態による曳航。

第二段階。

操縦士一名による曳航。

第三段階。

空挺兵十二名および個人装備を搭載。

第四段階。

分隊火器、弾薬、無線機、医療品を追加。

第五段階。

必要に応じ、搭載量をさらに増加。

WILK側訂正。

第一段階以外を、まだ段階と呼ぶな。


第59話 十二人乗せるな

空挺部隊は、滑空機を持ってきた。

 

朝早く。

 

予告した時刻より二時間早く。

 

しかも一機ではなかった。

 

WILK飛行場の監視員が最初に見つけたのは、道路を進んでくる長い翼だった。

 

左右に兵士が付き、木製の翼端を持ち上げている。

 

その後ろから胴体。

 

さらにもう一組の翼。

 

箱。

 

索。

 

工具。

 

兵士。

 

兵士。

 

また兵士。

 

最後に馬車が三台。

 

門番はしばらく眺めてから、事務所へ電話した。

 

「空挺部隊が来ました」

 

元独立運動家が受話器を取った。

 

「何人だ」

 

「数えていません」

 

「数えろ」

 

「動いています」

 

「兵士は普通、動く」

 

「滑空機も動いています」

 

元独立運動家は電話を切った。

 

そして宿舎担当者を呼んだ。

 

「何人泊められる」

 

「誰をです」

 

「まだ分からん。とにかく空けろ」

 

一方、工場側では元ドイツ帝国軍技師が別の報告を受けていた。

 

「滑空機が二機到着しました」

 

「申請は一機だった」

 

「予備だそうです」

 

「なぜ予備が要る」

 

「一機壊れた場合に」

 

技師は手を止めた。

 

「試験前から壊すつもりか」

 

実業家は帳面を開いた。

 

「輸送費は二機分請求できますか」

 

ポーランド軍将校が怒鳴った。

 

「最初に聞くことがそれか!」

 

「最初に払わせなければ、後では払われません」

 

元白軍将校だけが嬉しそうだった。

 

「二機あるなら、二機曳けるな」

 

技師と軍将校が同時に振り向いた。

 

「曳かない」

 

「まだ何もしていないぞ」

 

「今後もしない」

 

「試験すれば分かる」

 

「試験しなくても分かることがある!」

 

その間にも、空挺部隊は飛行場へ入り続けていた。

 

     ◇

 

持ち込まれた滑空機は、木と布でできていた。

 

細長い胴体。

 

高い位置に取り付けられた翼。

 

前方に操縦席。

 

後方に兵員室。

 

側面には人員用扉。

 

下部には簡素な脚と橇。

 

発動機はない。

 

当然である。

 

それでも元ドイツ技師は、機体を一周しただけで顔をしかめた。

 

「重い」

 

空挺部隊の将校が答えた。

 

「発動機がないので軽い」

 

「発動機がない割に重い」

 

「十二名乗せる」

 

「まだ乗せない」

 

「試験が成功すれば乗せる」

 

「成功の意味を勝手に決めるな」

 

技師は扉を開けた。

 

狭い。

 

空挺兵が一人ずつ入るには足りる。

 

だが装備を背負い、前の者が倒れた状態では詰まる。

 

「扉を広げろ」

 

「WILKは改造しないのでは」

 

「作らないと言った。危険な箇所を黙って見過ごすとは言っていない」

 

「広げると構造が弱くなる」

 

「だから製造会社へ戻せ」

 

「時間がかかる」

 

「事故より短い」

 

次に脚を見る。

 

「弱い」

 

「使い捨て滑空機です」

 

「搭乗者も使い捨てか」

 

「そういう意味ではない」

 

「なら脚を強くしろ」

 

「重くなる」

 

「壊れるよりましだ」

 

空挺将校は早くも後悔し始めていた。

 

WILKへ持ち込めば、すぐ引いてくれると思っていた。

 

実際には、曳航索を付ける前に滑空機そのものが検査されている。

 

主翼取付部。

 

操縦索。

 

曳航金具。

 

尾翼。

 

座席。

 

荷物固定具。

 

脱出経路。

 

元白軍将校も胴体へ入った。

 

「十二人なら入る」

 

技師が外から尋ねる。

 

「全員、装備込みでか」

 

「詰めれば」

 

「詰めるな」

 

「戦場では詰める」

 

「着地後に出られなくなる」

 

元白軍将校は扉から顔を出した。

 

「後ろにも穴を開ければよい」

 

空挺将校が食いついた。

 

「後部扉か」

 

技師が二人を見た。

 

「勝手に設計を始めるな」

 

WILKは滑空機を作らない。

 

その方針は、到着から三十分で二度確認された。

 

     ◇

 

初日の試験は、曳航金具の荷重確認だけになった。

 

空挺部隊は不満だった。

 

兵士十二名は、既に装備を整えて待っている。

 

落下傘まで背負っていた。

 

軍将校が彼らを見た。

 

「なぜ落下傘を背負っている」

 

空挺将校が答えた。

 

「万一の場合です」

 

「滑空機から飛び降りるのか」

 

「扉から」

 

元ドイツ技師が扉を見た。

 

「装備を背負ったまま、あそこから?」

 

「訓練しています」

 

「地上でか」

 

「はい」

 

「飛行中は」

 

「まだです」

 

「降ろせ」

 

空挺兵たちの肩から、落下傘が外された。

 

次に個人装備。

 

小銃。

 

弾薬。

 

背嚢。

 

水筒。

 

折り畳み式の工具。

 

無線機。

 

医療箱。

 

すべて降ろされた。

 

兵士たちは次第に軽くなった。

 

最後には制服だけになった。

 

空挺将校が抗議する。

 

「これでは実戦状態ではない」

 

「今日は人間も乗せない」

 

「では、彼らは何のために来た」

 

元独立運動家が答えた。

 

「荷物を運ぶためだろう」

 

兵士たちは、砂袋を滑空機へ積まされた。

 

一袋二十五キログラム。

 

床面に描かれた区画へ、均等に配置する。

 

前方。

 

中央。

 

後方。

 

左右。

 

WILK式の荷重札も付けられた。

 

空挺兵の一人が言った。

 

「我々が乗る場所へ砂を置くのか」

 

荷役主任が答えた。

 

「砂袋は動かない」

 

「我々も座る」

 

「着陸したら動く」

 

「兵士だから動ける」

 

「だから重心が変わる」

 

空挺兵は納得していなかった。

 

だが袋を運んだ。

 

空挺部隊が初めてWILK式輸送管理に触れた瞬間だった。

 

     ◇

 

曳航索にも問題があった。

 

空挺部隊が持参した索は太かった。

 

強い。

 

だが重い。

 

地面を引きずると草や泥を拾う。

 

巻き癖も強い。

 

WILK側の索は軽かった。

 

ただし不時着機回収用で、長時間の曳航や重量滑空機には余裕が少ない。

 

「二本つなげればよい」

 

元白軍将校が言った。

 

技師は即答した。

 

「継ぎ目が弱点になる」

 

「太い方を使う」

 

「重すぎる」

 

「細い方を二本並べる」

 

「荷重が均等に分かれない」

 

「なら三本」

 

「増やすな!」

 

索一本を決めるだけで午前中が終わった。

 

実業家は空挺部隊の将校へ確認した。

 

「本日の試験費用は、予定どおり請求します」

 

「飛んでいないぞ」

 

「工員と技師は働いています」

 

「曳航試験ではない」

 

「曳航試験を安全に始めるための試験です」

 

「言葉遊びだ」

 

「契約書には準備作業を含むとあります」

 

空挺将校は契約書を読んだ。

 

本当に書いてあった。

 

小さな文字だった。

 

「いつ入れた」

 

「署名前です」

 

実業家は帳面へ記録した。

 

空挺部隊は初日、三度敗北した。

 

技術。

 

積載。

 

契約。

 

     ◇

 

翌日。

 

無人曳航試験が行われた。

 

滑空機には砂袋。

 

操縦席には、人間の代わりに固定された操縦装置。

 

ただし完全な無人では危険なため、最初は地上滑走のみ。

 

Tur A.2が前方へ位置する。

 

索を接続。

 

滑空機側の地上員が翼端を支える。

 

Turがゆっくり前進する。

 

索が張る。

 

滑空機が動く。

 

最初の問題は、発進から二秒で起きた。

 

滑空機が左へ曲がった。

 

翼端を支えていた兵士が走る。

 

追いつけない。

 

操縦装置を固定したままなので修正できない。

 

Tur側が停止する。

 

滑空機も止まった。

 

空挺将校が叫んだ。

 

「地面が傾いている!」

 

元ドイツ技師が足元を見る。

 

「わずかに」

 

「なら別の場所で」

 

「実戦の滑走地は完全に平らか」

 

「そうとは限らない」

 

「なら地上方向保持を改善しろ」

 

「滑空機操縦士が修正する」

 

「今日はいない」

 

「無人試験だからだ」

 

「だから分かった」

 

技師は記録票へ書いた。

 

地上滑走中の方向安定不足。

操縦者による修正を前提としすぎている。

 

空挺将校は、まだ飛んでもいないのに欠陥を増やされた。

 

二回目。

 

今度は操縦索へ簡易保持装置を付けた。

 

滑走開始。

 

まっすぐ進む。

 

速度が上がる。

 

滑空機の尾が浮く。

 

翼も安定。

 

Turの尾輪が地面を離れた。

 

軍将校が手を上げた。

 

「止めろ!」

 

両機が停止した。

 

空挺将校が抗議する。

 

「今、浮くところだった!」

 

「操縦士がいない」

 

「無人試験だ」

 

「浮かせるとは聞いていない!」

 

元白軍将校が言った。

 

「浮いたかどうかだけ見ればよかった」

 

「落ちたら誰が止める」

 

「地面だ」

 

全員が彼を見た。

 

元白軍将校は黙った。

 

初日の無人試験は、地上滑走成功で終了した。

 

空挺部隊は、また不満だった。

 

WILK側は満足していた。

 

壊れなかったからである。

 

     ◇

 

三日目。

 

滑空機操縦士一名を乗せた曳航試験。

 

兵士も装備も積まない。

 

搭載するのは操縦士と、重量調整用砂袋だけ。

 

空挺部隊側は、最も経験のある滑空機操縦士を出した。

 

若い大尉だった。

 

落ち着いている。

 

WILK式の事前協議にも文句を言わない。

 

元白軍将校が彼へ尋ねた。

 

「曳航経験は」

 

「軽滑空機で百二十七回」

 

「大型は」

 

「十八回」

 

「着陸失敗は」

 

「三回」

 

「少ないな」

 

「多いです」

 

「生きているなら少ない」

 

元ドイツ技師が割り込んだ。

 

「その教え方をするな」

 

曳航側はTur A.3。

 

A.2より余裕がある。

 

発動機状態。

 

燃料。

 

索。

 

切断装置。

 

滑空機の重心。

 

風。

 

雲底。

 

代替着陸地。

 

確認が続く。

 

単発機部隊から見物人が集まっていた。

 

ヤン・ノヴァク中尉もいる。

 

以前、自分の機体を曳かれた男である。

 

隣の操縦士が言った。

 

「また空飛ぶ委員会を始めたぞ」

 

ヤンは答えた。

 

「今回は中身が十二人になる予定だ。話くらいさせろ」

 

「お前、変わったな」

 

「一度曳かれてみろ」

 

「断る」

 

「平地へ降りるなよ」

 

曳航開始。

 

Turが前進する。

 

滑空機が続く。

 

索が張る。

 

速度が上がる。

 

滑空機側操縦士が方向を保つ。

 

先にTurが浮く。

 

少し遅れて滑空機も浮いた。

 

飛行場から、歓声が上がった。

 

元ドイツ技師だけは計器を見ていた。

 

「上昇が鈍い」

 

軍将校が答える。

 

「飛んでいる」

 

「砂袋だけだ」

 

「人を乗せれば重くなる」

 

「分かっているなら喜ぶな」

 

Turは大きく旋回した。

 

滑空機は外側へ膨らむ。

 

索に荷重がかかる。

 

操縦士が位置を修正。

 

高度三百メートル。

 

指定地点で離脱。

 

滑空機がTurから離れる。

 

静かに旋回。

 

飛行場へ戻る。

 

着陸。

 

接地。

 

脚が跳ねる。

 

二度目の接地。

 

橇が草を削る。

 

停止。

 

無事だった。

 

空挺部隊は歓声を上げた。

 

元白軍将校も拍手した。

 

元ドイツ技師は着陸地点まで歩き、脚部を調べた。

 

「金具が曲がっている」

 

空挺将校の歓声が止まった。

 

「着陸できた」

 

「一回で曲がった」

 

「使い捨てだ」

 

「二回目の訓練はどうする」

 

「直す」

 

「なら最初から直しやすく作れ」

 

WILKは滑空機を作らない。

 

ただし製造会社へ送る改善要求は、既に七項目になっていた。

 

     ◇

 

「次は十二名だ」

 

空挺将校が言った。

 

「次は四名だ」

 

元ドイツ技師が答えた。

 

「申請では十二名」

 

「試験結果では四名」

 

「なぜ四名」

 

「重量を段階的に増やす」

 

「砂袋で成功した」

 

「砂袋は恐怖で立ち上がらない」

 

「空挺兵も立たない」

 

「誰かが吐けば動く」

 

「吐かん」

 

元白軍将校が言った。

 

「吐く者はいる」

 

空挺兵たちが一斉に彼を見た。

 

「飛行機酔いは勇気と関係ない」

 

「我々は空挺兵です」

 

「まだ飛んでいない」

 

軍将校が間へ入った。

 

「四名で行う」

 

空挺将校は不満そうだった。

 

「分隊にならない」

 

「試験だ」

 

「実戦性がない」

 

「実戦前に死なないための試験だ」

 

四人が選ばれた。

 

最軽量の兵士ではない。

 

平均的な体格。

 

個人装備は最低限。

 

武器は木製模擬銃。

 

背嚢なし。

 

弾薬なし。

 

空挺兵の一人が言った。

 

「砂袋と変わらないでは」

 

荷役主任が答えた。

 

「砂袋より動く」

 

「動かない」

 

「では、動かないでください」

 

「命令か」

 

「積載条件です」

 

四人は滑空機へ乗り込んだ。

 

狭い。

 

膝が触れる。

 

向かい合って座る。

 

床には足位置の印。

 

座席ベルト。

 

装備固定帯。

 

「こんなに締めるのか」

 

「着陸時に飛びます」

 

「我々は飛ぶために来た」

 

「機内を飛ばないでください」

 

扉が閉じられた。

 

外から留める。

 

中から開く。

 

一度開ける。

 

もう一度閉める。

 

脱出時間を測る。

 

四人全員が外へ出るまで十九秒。

 

元ドイツ技師が言った。

 

「遅い」

 

空挺将校が反論する。

 

「十分だ」

 

「機首側が塞がれた場合は」

 

「後ろへ出る」

 

「後部扉はない」

 

全員が滑空機を見た。

 

元白軍将校が小さく言った。

 

「やはり穴を――」

 

「言うな」

 

技師が止めた。

 

     ◇

 

四名搭載試験。

 

離陸。

 

成功。

 

上昇。

 

遅いが可能。

 

旋回。

 

索荷重増加。

 

許容内。

 

離脱。

 

成功。

 

着陸。

 

一度跳ねた。

 

一人が悲鳴を上げた。

 

着陸後、扉が開く。

 

四人が降りる。

 

三人は平然としていた。

 

一人だけ青い顔をしている。

 

元白軍将校が水筒を渡した。

 

「吐くなと言った者か」

 

青い兵士が頷いた。

 

「勇気とは関係ない」

 

兵士は返事の代わりに、飛行場の端へ走った。

 

荷役主任が記録する。

 

人員一名、着陸後に大きく移動。

飛行中の移動なし。

 

空挺将校が怒る。

 

「そこまで書くな」

 

「次回の配置に必要です」

 

「個人の名誉は」

 

「氏名は書いていません」

 

実業家が帳面を覗いた。

 

「食事量との関係も確認した方がよいでしょう」

 

青い兵士が遠くから叫んだ。

 

「書くな!」

 

     ◇

 

空挺部隊は、翌日に八名搭載を求めた。

 

WILKは拒否した。

 

脚部金具が再び曲がっていた。

 

座席固定部にも緩みがある。

 

扉の留め具は、着陸衝撃で少し歪んでいた。

 

「修理すれば飛べる」

 

空挺将校が言った。

 

元ドイツ技師が答える。

 

「修理する」

 

「なら八名を」

 

「修理後に四名でもう一度」

 

「同じ試験を繰り返すのか」

 

「同じに直せたか確認する」

 

「時間がかかる」

 

「十二人を早く壊すよりよい」

 

空挺部隊の兵士たちは、その間にWILK学校の食堂へ通うようになった。

 

学生たちと同じ遠征パン。

 

豆の煮込み。

 

バター。

 

薄いスープ。

 

最初は不満を言っていた。

 

三日目にはおかわりした。

 

元独立運動家が宿舎名簿を見た。

 

「予定より十七人多い」

 

空挺将校が答えた。

 

「整備員と索具員を追加した」

 

「申請にない」

 

「試験に必要だ」

 

「寝台がない」

 

「床で寝る」

 

「床は教室だ」

 

「教室で寝る」

 

「朝に授業がある」

 

「その前に起きる」

 

「毛布は」

 

「持ってきた」

 

元独立運動家は少し考えた。

 

「なら教室を貸す。ただし机を壊すな」

 

翌朝。

 

机が一つ壊れていた。

 

空挺兵が寝返りを打ち、倒したためだった。

 

実業家は請求書へ追加した。

 

     ◇

 

滑空機の製造会社から技師が呼ばれた。

 

彼は到着すると、曲がった金具を見て言った。

 

「許容範囲です」

 

元ドイツ技師が聞く。

 

「何回まで」

 

「本機は戦時一回使用を想定しています」

 

「訓練では」

 

「何度か使います」

 

「何度だ」

 

「状況によります」

 

「数字で言え」

 

「五回程度」

 

「二回で曲がった」

 

「着陸が荒かったのでしょう」

 

滑空機操縦士が言った。

 

「規定速度でした」

 

「地面が悪い」

 

軍将校が飛行場を見る。

 

WILKが普段使う草地である。

 

特別良くはない。

 

だが軍用飛行場としては普通だった。

 

製造会社の技師は続けた。

 

「使い捨て機ですから、重量を抑える必要があります」

 

元ドイツ技師が曲がった金具を机へ置いた。

 

「使い捨てという言葉で、壊れ方を考えなくてよい理由にはならない」

 

「着陸後に再使用しないのです」

 

「着陸中に壊れている」

 

「乗員は無事でした」

 

「今回は四人だ。十二人と装備なら荷重が違う」

 

二人の技師は、その後三時間議論した。

 

空挺将校は待った。

 

軍将校も待った。

 

元白軍将校は滑空機へ入り、座席配置を勝手に変えようとした。

 

空挺兵に止められた。

 

実業家は製造会社の技師にも食事代を請求した。

 

元独立運動家は、さらに一つ寝台を探した。

 

結局、製造会社は脚部金具と扉留め具を改修することになった。

 

WILKは作らない。

 

図面も引かない。

 

ただし試験記録と荷重条件を渡す。

 

製造会社が改修し、再び持ち込む。

 

責任範囲を混ぜない。

 

それが技師の条件だった。

 

     ◇

 

二週間後。

 

改修された滑空機が戻った。

 

脚部金具。

 

座席固定。

 

扉留め具。

 

操縦索案内。

 

曳航金具周辺。

 

すべて少しずつ変わっていた。

 

重量も増えた。

 

空挺将校が不満そうに言う。

 

「重くなった」

 

元ドイツ技師は答えた。

 

「人が減るほどではない」

 

「装備が減る」

 

「壊れれば全部失う」

 

今度は四名。

 

次に八名。

 

さらに十名。

 

毎回、重量と重心を変えて試す。

 

空挺兵は次第に慣れた。

 

飛行機酔いする者も事前に分かるようになった。

 

扉から出る順番も決まった。

 

着陸後、最も扉に近い者が開放。

 

二番目が外へ出て安全確認。

 

三番目以降が装備を持ち出す。

 

操縦士は最後。

 

「操縦士が最初ではないのか」

 

空挺将校が尋ねる。

 

滑空機操縦士が答えた。

 

「前部が潰れていなければ最後です」

 

「潰れていれば」

 

「出られる場所から出ます」

 

元ドイツ技師が頷いた。

 

「初めから、その場合も決めておけ」

 

十二名搭載試験は、最初の申請から一か月後に行われた。

 

空挺兵十二名。

 

個人装備。

 

模擬小銃。

 

弾薬相当の砂袋。

 

無線機一台。

 

医療箱。

 

分隊火器はまだ積まない。

 

空挺将校は不満だった。

 

「戦闘分隊として不完全だ」

 

軍将校が言った。

 

「今日無事に降りれば、次に考える」

 

「また次か」

 

「段階的に増やすと申請したのはお前だ」

 

「もっと早い段階を想定していた」

 

「想定が甘い」

 

曳航機はTur A.4。

 

出力に余裕がある。

 

ただし軍は追加武装を積ませなかった。

 

燃料も必要量だけ。

 

WILK整備員。

 

空挺部隊索具員。

 

滑空機製造会社技師。

 

軍監督官。

 

全員が確認した。

 

離陸。

 

Tur A.4が走る。

 

滑空機が続く。

 

重い。

 

四名の時とは明らかに違う。

 

滑走距離が伸びる。

 

Turの尾が上がる。

 

滑空機の脚が草地を叩く。

 

一度。

 

二度。

 

まだ浮かない。

 

飛行場終端が近づく。

 

軍将校の手が上がりかける。

 

その直前、Turが浮いた。

 

数秒遅れて滑空機も浮く。

 

地上の全員が息を止めた。

 

上昇は遅い。

 

木々を越える。

 

高度を少しずつ稼ぐ。

 

誰も歓声を上げなかった。

 

まだ帰っていないからだ。

 

元白軍将校だけが、小さく言った。

 

「引ける」

 

技師が答える。

 

「今日はな」

 

     ◇

 

十二名搭載試験は成功した。

 

大きな旋回。

 

一定高度。

 

離脱。

 

滑空。

 

着陸。

 

脚は持った。

 

扉も開いた。

 

十二名が順番に外へ出る。

 

所要時間、四十一秒。

 

全員無事。

 

一人だけ地面へ座り込んだ。

 

前回吐いた兵士だった。

 

今回は吐かなかった。

 

彼は空挺将校へ言った。

 

「慣れました」

 

荷役主任が記録する。

 

人員一名、着陸後に自主的に着座。

嘔吐なし。

 

「書くのか」

 

「改善記録です」

 

空挺部隊は歓声を上げた。

 

軍将校もようやく笑った。

 

実業家は費用を計算した。

 

元独立運動家は、壊れた教室机の弁償が含まれているか確認した。

 

元ドイツ技師は脚部を調べた。

 

元白軍将校は空挺将校へ尋ねた。

 

「次は分隊火器か」

 

軍将校が振り向く。

 

「増やすなと言っただろう!」

 

空挺将校は申請書を差し出した。

 

既に用意されていた。

 

次段階試験。

空挺兵十二名。

分隊火器一式。

弾薬。

無線機。

工兵器材。

医療品。

折り畳み式自転車二台。

 

軍将校は最後の一行を見た。

 

「自転車?」

 

「着地後の機動用だ」

 

「どこに積む」

 

「これから検討する」

 

元ドイツ技師が申請書を取った。

 

「床荷重を出せ」

 

実業家が帳面を開いた。

 

「追加試験費用を」

 

元独立運動家が聞いた。

 

「また泊まるのか」

 

元白軍将校は滑空機の後部を見た。

 

「自転車なら、外へ吊れる」

 

全員が彼へ怒鳴った。

 

「吊るすな!」

 

     ◇

 

試験の正式結論は、慎重なものになった。

 

Tur A.4は、指定された輸送滑空機を曳航可能。

 

ただし搭載重量、気温、飛行場長、地面状態、風、航続距離による制限あり。

 

滑空機は製造会社の責任で改修。

 

WILKは滑空機を製造しない。

 

曳航金具、索、切断装置、曳航手順、操縦教育については協力する。

 

元白軍将校を、無許可の複数機曳航試験へ参加させない。

 

最後の一文は、試験結果ではなく予防措置だった。

 

WILK航空学校には、新しい課程が加わった。

 

滑空機曳航操縦課程。

 

ただし滑空機操縦士の本格教育は、空挺部隊と製造会社が担当する。

 

WILKは、自分たちが引き受ける範囲を限定した。

 

曳く。

 

索を切る。

 

安全に離脱させる。

 

故障時に帰る。

 

それ以上は、専門家へ任せる。

 

校門の看板へ課程名を追加しようとしたが、空きがなかった。

 

元独立運動家が言った。

 

「看板を大きくするか」

 

実業家が答えた。

 

「費用がかかります」

 

軍将校が言った。

 

「書かなくてよい」

 

元白軍将校が提案した。

 

「何でも飛ばす学校、と書けば短い」

 

元ドイツ技師は即座に拒否した。

 

「何でも、ではない」

 

「人も飛行機も滑空機も引いた」

 

「条件付きだ」

 

「条件付きで何でも飛ばす学校」

 

「さらに悪い」

 

結局、看板は変わらなかった。

 

WILK航空学校。

 

その短い名前の中へ、また一つ仕事が増えただけだった。

 

空挺部隊は滑空機を持ち込んだ。

 

WILKは滑空機を作らなかった。

 

ただし、安全に曳くための規則を作った。

 

兵士を増やしたがる空挺部隊。

 

条件を増やしたがるWILK。

 

両者の会議は、その後も長く続いた。

 

空挺部隊は、敵地へ兵を一度に送りたかった。

 

WILKは、その兵を目的地まで生きたまま運びたかった。

 

似ているようで、少し違う。

 

だから試験は進んだ。

 

遅く。

 

騒がしく。

 

帳票を増やしながら。

 

そして最初の十二名は、全員無事に地面へ降りた。

 

それだけで、その日の試験には十分な意味があった。

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