一九二八年
フランス共和国駐在武官
ポーランド重爆部隊の規模は、現状では脅威と呼ぶほどではない。
機体性能にも、特筆すべき点は少ない。
ただし新人操縦士の多くが、同一の双発航空学校を修了している。
乗員間の意思疎通、片発時の処置、代替飛行場への転進は、部隊経験に比して良好であった。
機体よりも、教育制度へ注意を要する。
イギリス帝国駐在武官
輸送滑空機の曳航は、試験的運用の域を出ない。
曳航速度は低く、搭載量も限定される。
しかし曳航機、滑空機、地上誘導員、索具員および荷役員の役割が明確に分けられていた。
彼らは滑空機を新兵器としてではなく、輸送作業の一部として扱っている。
この差は小さく見えて、長期的には大きい。
ドイツ駐在武官
Tur系列機は重く、遅く、空力的洗練に欠ける。
にもかかわらず、演習中の稼働率は高かった。
機体ごとの性能差が小さく、部品交換および任務変更が迅速である。
注目すべきは航空機ではない。
製造、教育、整備および運用が、同一の思想で接続されている点である。
イタリア王国駐在武官
飛行展示としては退屈であった。
高速飛行なし。
急旋回なし。
編隊による華麗な通過なし。
故障機一機が帰還し、別の一機が部品を運び、古い一機が命令書を届けた。
観衆は拍手しなかった。
しかし演習終了時、離陸した機体の大半が飛行場へ戻っていた。
軍事的には、こちらの方が不愉快である。
ソビエト連邦駐在武官
WILKは航空機製造会社として評価すべきではない。
同社は操縦士、整備員、無線員、荷役員、教官および地方飛行場を同時に増加させている。
その航空機は突出して優秀ではない。
だが損失後の回復が早い。
一機を撃墜することより、同社が供給する運用体系を破壊する方が困難である可能性がある。
アメリカ合衆国駐在武官
質問。
この演習の指揮は、WILK社が行っていたのか。
ポーランド側回答。
否。
質問。
ではなぜ、故障報告、貨物表示、整備記録および代替飛行場への転進手順が、各部隊でほぼ共通していたのか。
回答。
WILK航空学校の修了者が多いためである。
追記。
同社の売上高、学校規模および食品供給能力について追加調査を要する。
某国駐在武官・私的覚書
演習で最も優れた飛行機が、どれであったかは判断できない。
最も速い機体は別にあった。
最も多く爆弾を積む機体も別にあった。
最も美しい機体も別にあった。
しかし演習が崩れ始めた後、最も多く飛んでいたのはWILK機であり、最も多く働いていたのはWILKで学んだ者たちだった。
彼らは勝つための航空機を作っているのではない。
負け始めても飛び続ける航空隊を作っている。
「今回は、WILK機の試験ではない」
演習開始前日の会議で、ポーランド軍将校は言った。
五人の前には、大きな演習地図が広げられている。
青軍。
赤軍。
重爆部隊。
単発偵察隊。
戦闘機隊。
輸送部隊。
空挺部隊。
前進飛行場。
予備飛行場。
燃料集積所。
仮設通信所。
そして地図の余白には、各国駐在武官の観覧席まで書かれていた。
「承知している」
元ドイツ帝国軍技師が答えた。
「勝手な実験をするな」
「承知している」
「新しい装備を持ち込むな」
「承知している」
「演習中に新しい運用法を思いついても試すな」
元白軍将校が視線を逸らした。
軍将校が指差す。
「今、なぜ目を逸らした」
「窓の外を見た」
「窓は反対側だ」
実業家は帳面を閉じた。
「臨時契約の締結も禁止ですか」
「なぜ演習中に契約が必要になる」
「何が必要になるか分かりませんので」
「結ぶな」
元独立運動家が尋ねた。
「仮設食堂の増築は」
「既に建てただろう」
「観戦武官の随員が予定より多い」
「軍の食堂を使わせろ」
「軍の食堂では昼食が一種類です」
「演習に来ているのだ。食事会ではない」
「腹が減れば報告書が悪くなる」
軍将校はしばらく黙った。
それから五人を順番に見た。
「今回は、軍の演習だ」
「分かっている」
四人が答えた。
元白軍将校だけが、机の下へ何かを押し込んだ。
軍将校は見逃さなかった。
「それは何だ」
「何でもない」
「出せ」
机の下から、巻かれた曳航索が出てきた。
「なぜ会議へ曳航索を持ってきた!」
「空挺側が忘れた時のためだ」
「忘れさせろ!」
◇
演習には、ポーランド陸軍航空部が保有する機体のうち、実に多くの種類が参加した。
単発戦闘機。
単発偵察機。
大型重爆撃機。
輸送滑空機。
Tur A.2。
Tur A.3。
Tur A.4。
そして旧式となったTur A.1。
飛行場の端には、飛ばない創業機まで運ばれていた。
左右で異なる発動機を載せた、あの最初期機である。
「なぜ持ってきた」
軍将校が聞いた。
航空学校の教官が答えた。
「展示教材です」
「演習に必要か」
「各国武官から、WILKの最初の機体を見たいと要望がありました」
軍将校は創業機を見た。
左は液冷。
右は空冷。
左右で発動機覆いの形が違う。
補修板。
継ぎ足された尾翼。
異なるプロペラ。
見れば見るほど、よく飛ばしたと思う。
「隠した方がよくないか」
実業家が答えた。
「今さら隠しても、軍の記録に残っています」
元白軍将校が機体の横へ立った。
「よく飛んだぞ」
元ドイツ技師は言った。
「飛んだことを誇るな。落ちなかったことに感謝しろ」
そこへフランス武官が近づいた。
通訳を伴っている。
「これは試験機ですか」
軍将校は答えに詰まった。
元白軍将校が答えた。
「郵便機だ」
通訳が言葉を確認した。
「実際に郵便を運んだ、と?」
「軍用郵便も」
フランス武官は左右の発動機を見比べた。
「なぜ同一発動機を使わなかったのです」
実業家が答えた。
「二基買えなかったためです」
「では、なぜ飛ばした」
元白軍将校が言った。
「飛行機が必要だった」
フランス武官は手帳へ何かを書いた。
軍将校は、その内容を見たくなかった。
◇
大演習の第一日は、晴天だった。
風も弱い。
地面も乾いている。
見物には理想的な日である。
各国武官は観覧席に並んだ。
双眼鏡。
地図。
手帳。
通訳。
一部の者は小型写真機まで持っている。
最初に飛び立ったのは単発偵察隊だった。
軽い機体。
短い滑走。
次々と空へ上がる。
観覧席から拍手が起こった。
続いて戦闘機隊。
低空通過。
急上昇。
旋回。
翼を翻し、青空へ上がる。
今度はさらに大きな拍手。
イタリア武官は満足そうだった。
「これこそ航空だ」
隣にいたイギリス武官が言う。
「まだ演習は始まったばかりです」
「飛行は見せるものでもある」
「戦争では見せない方がよい場合もあります」
その後、Tur部隊が離陸を始めた。
遅い。
滑走も長い。
A.2。
A.3。
A.4。
順番に上がる。
大きな貨物扉。
半分だけ格納された主脚。
太い翼。
観覧席の拍手は少なかった。
イタリア武官が双眼鏡を下ろした。
「農業機械のようだ」
ドイツ武官は答えた。
「農業機械は毎日動く」
「美しくない」
「動くなら、それでよい場合もある」
「航空機は美しくあるべきだ」
「工場は、そうは考えない」
二人の会話を聞いていたアメリカ武官は、Turの後方を見ていた。
一機。
二機。
三機。
発進間隔がほぼ同じ。
地上員の配置も同じ。
荷役班の動きも同じ。
故障で列から外れる機体がない。
「同じように遅いな」
彼は言った。
通訳が意味を取り違えたのかと思った。
だが武官は続けた。
「それは悪いことではない」
◇
最初の偵察報告は、予定より早く届いた。
単発偵察機が敵役部隊の車列を発見。
写真乾板を撮影。
前進飛行場へ着陸。
そこからTur A.2が、写真員と乾板を司令部へ運ぶ。
「偵察機が直接戻ればよいのでは」
フランス武官が尋ねた。
ポーランド側の案内将校が答える。
「偵察機は前進飛行場から再出撃します」
「写真だけを別機で?」
「写真員もです」
「なぜ」
「現像と判読を早めるためです」
観覧席の前をA.2が通過する。
中には写真員。
乾板箱。
予備無線機。
途中で拾った連絡将校。
余った空間には郵便袋まで積まれていた。
イタリア武官が言った。
「一つの任務へ集中していない」
ドイツ武官は答えた。
「集中しなくても運べるのだろう」
「非効率だ」
「空席で飛ばす方が効率的か」
イタリア武官は返事をしなかった。
◇
重爆部隊の発進は、予定より遅れた。
原因は、WILK航空学校卒の新人たちだった。
正確には、彼らが離陸前確認を省かなかったためである。
燃料。
爆弾。
信管。
無線。
航法。
気象。
代替飛行場。
片発時の投棄重量。
帰還可能距離。
乗員全員が確認する。
古参飛行隊長が時計を見た。
「あと五分で発進時刻だ」
新人機長が答えた。
「右外側爆弾架の固定が終わっていません」
「演習用だ」
「落ちれば演習中でも壊れます」
「一本外せ」
「左右重量が変わります」
「操縦で押さえろ」
新人機長は飛行隊長を見た。
「押さえられます。ただし片発時の余裕が減ります」
「片発になる前提で飛ぶな」
「片発にならない前提で重量を決めないよう習いました」
飛行隊長の顔が引きつる。
「誰に」
「WILK航空学校です」
「知っている!」
結局、固定具を交換した。
発進は三分遅れた。
観覧席では、フランス武官が時計を見ていた。
「遅れましたな」
案内将校が頷く。
「三分です」
「軍隊では三分が問題になる」
「はい」
「だが、止めなかった」
「何をです」
「確認を」
案内将校は答えなかった。
重爆機は、三分遅れて全機離陸した。
◇
空挺部隊の滑空機には、十二名の兵士が乗った。
個人装備。
無線機。
医療箱。
工兵器材。
模擬弾薬。
そして折り畳み自転車一台。
元ドイツ技師が積載表を見た。
「一台だな」
空挺将校が答える。
「一台だ」
「昨日は二台だった」
「一台降ろした」
「なぜ」
「重量制限だ」
技師は少し意外そうに空挺将校を見た。
「理解したのか」
「理解は最初からしている」
「なら二台持ってくるな」
「交渉のためだ」
「重量は交渉で減らない」
元白軍将校が自転車を見た。
「翼下へ吊れば二台――」
三人が同時に言った。
「吊るすな」
曳航機はTur A.4。
索具員が接続を確認。
滑空機側操縦士が切断装置を確認。
荷役主任が搭載区画を確認。
空挺兵の一人が、席から立ち上がろうとした。
「何をしている」
「水筒が背中に当たる」
「離陸後に立つな」
「今直している」
「今ならよい」
元白軍将校が小声で言った。
「空中で直せば――」
技師は無言で彼を見た。
元白軍将校は黙った。
滑空機は、ゆっくり引かれ始めた。
Tur A.4の二基の発動機が唸る。
索が張る。
滑空機が動く。
長い滑走。
曳航機が浮く。
数秒遅れて滑空機も浮く。
観覧席から、今度は拍手が起こった。
派手ではない。
速くもない。
だが発動機を持たない機体が、十二人と自転車を載せて空へ上がった。
イギリス武官は、滑空機より地上を見ていた。
索具班。
誘導員。
予備索。
救急車。
回収班。
「ずいぶん人が多い」
アメリカ武官が言った。
「一機を上げるためです」
「一機ではない」
「二機ですな」
「それも違う」
イギリス武官は地上員を指した。
「あれ全部で飛ばしている」
◇
午前中の演習は、おおむね計画どおりだった。
偵察隊は敵役部隊を発見。
重爆部隊は模擬目標へ進出。
空挺部隊は予定降下地域へ向かう。
Tur部隊は物資と人員を運ぶ。
観戦武官たちは、それぞれの評価を書き始めた。
その時、風が変わった。
西から雲が増える。
気温が下がる。
地上では旗が強くなびき始めた。
前進飛行場から無線が入る。
西側飛行場、地表軟化。
大型機着陸困難。
南側草地へ転進準備中。
演習司令部が慌ただしくなる。
地図上の予定線が消される。
代替飛行場が指定される。
空挺部隊の予定着陸地にも横風が入り始めた。
滑空機には発動機がない。
一度離脱すれば、やり直せない。
空挺将校が無線台へ身を寄せた。
「降下地点を変更する」
「どこへ」
「東側草地」
「目標から四キロ離れる」
「滑空機を壊すより近い」
「空挺部隊が歩くことになる」
「自転車が一台ある」
全員が空挺将校を見た。
「一人しか乗れんぞ」
軍将校が言った。
「伝令に使う」
「二台積みたかった理由はそれか」
「だから二台必要だった!」
技師が割り込んだ。
「次回の話をするな。今の重心を確認しろ」
曳航中のA.4へ、降下地点変更が送られた。
WILK卒の操縦士は、すぐには旋回しなかった。
滑空機側へ信号。
了解を確認。
風向。
高度。
新地点までの距離。
離脱後の滑空余裕。
順番に確認する。
司令部では空挺将校が苛立った。
「早く曲がれ」
軍将校が答える。
「索でつながっている」
「分かっている」
「なら待て」
A.4は大きく、ゆっくり旋回した。
滑空機が外へ膨らむ。
索が張る。
だが姿勢は崩れない。
数分後、二機は東側草地へ向かった。
観覧席のイギリス武官は、その動きを最後まで追っていた。
「予定変更に慣れている」
案内将校が答える。
「学校で教えています」
「滑空機曳航を?」
「予定どおりにならないことをです」
◇
重爆部隊では、一機の右発動機に異常が出た。
油温上昇。
振動。
回転数のばらつき。
まだ飛べる。
任務目標までも遠くない。
古参の機長なら、続行したかもしれない。
だがその機の新人機長は、乗員全員へ確認した。
「右発動機、継続使用可能時間は」
機関員が答える。
「不明。油圧は保っているが、温度上昇中」
「現在位置から目標まで」
航法員が答える。
「十五分」
「目標から代替飛行場まで」
「二十六分」
「今から代替飛行場まで」
「十八分」
爆撃員が言った。
「模擬爆弾を投棄すれば軽くなる」
「演習目標へ行けるか」
「行ける」
副操縦士が尋ねた。
「帰れるか」
誰も即答しなかった。
新人機長は決めた。
「任務中止。模擬爆弾を指定投棄区画へ投棄。南側予備飛行場へ向かう」
古参の爆撃員が言った。
「まだ飛べるぞ」
「はい」
「なら続けられる」
「まだ帰れるうちに帰ります」
「演習だぞ」
「発動機は演習だと知りません」
機体は編隊を離れた。
観覧席では、フランス武官が双眼鏡を下ろした。
「一機脱落」
案内将校が答える。
「発動機不調です」
「任務失敗ですな」
「はい」
「しかし事故ではない」
「まだ着陸していません」
重爆機は片発を絞りながら、予備飛行場へ向かった。
同時に無線報告が入る。
故障内容。
必要工具。
予想交換部品。
搭載一式の型式番号。
近くにいたTur A.3へ、整備員と予備部品の輸送命令が出た。
アメリカ武官が尋ねた。
「故障機はまだ空中だろう」
「はい」
「もう部品を送るのか」
「着陸後に調べ始めれば遅れます」
「原因が違ったら」
「使わなかった部品を持ち帰ります」
「無駄では」
「時間より安い場合があります」
アメリカ武官は手帳へ太い線を引いた。
◇
午後になると、演習計画はさらに崩れた。
南側予備飛行場へ向かっていた重爆機は、無事に着陸した。
ただし右発動機は停止寸前。
到着したA.3から整備員が降りる。
工具箱。
交換配管。
点火系部品。
予備計器。
そして食料箱。
機長が尋ねた。
「なぜパンまで」
荷役員が答えた。
「修理が夕方までかかる可能性があるためです」
「そこまで報告したか」
「していません」
「では誰が」
「WILK学校の整備主任が、修理班は腹が減ると言いました」
一方、前進飛行場はぬかるみ始めた。
大型機は降りられない。
だがA.1なら使えた。
旧式。
低出力。
遅い。
軽い。
軍司令部から前線部隊へ送る命令書が、無線混信で届かない。
そこでA.1が飛んだ。
操縦士一人。
連絡将校一人。
命令書。
地図。
小さな郵便袋。
観覧席の前を、低くゆっくり通過する。
イタリア武官は言った。
「なぜ、あれほど古い機体を演習へ出す」
案内将校が答える。
「軽いので、ぬかるんだ飛行場へ降りられます」
「新型は」
「重い」
「なら新型の意味は」
「別の仕事をします」
「旧型を残す意味は」
「この仕事をします」
イタリア武官は、しばらくA.1を見ていた。
「美しくはない」
案内将校は答えた。
「命令書は届きます」
◇
空挺部隊の滑空機は、変更された草地へ無事着陸した。
予定地点から四キロ東。
演習上は減点。
だが機体は壊れていない。
兵士十二名も無傷。
無線機も動く。
医療箱も無事。
自転車も一台残っている。
空挺将校が現地へ到着すると、部隊長が報告した。
「予定地点から四・一キロ」
「任務継続は」
「可能です」
「自転車は」
「伝令へ使用中」
「役に立ったか」
「一台では足りません」
空挺将校は満足そうに頷いた。
同行していた元ドイツ技師が言った。
「二台積むという意味ではない」
「まだ何も言っていない」
「顔で分かる」
兵士たちは歩いて演習目標へ向かった。
装備を背負い。
無線機を担ぎ。
工兵器材を持ち。
四キロ余計に歩く。
その後方で、滑空機整備員が機体を調べた。
脚部金具。
扉。
座席。
曳航金具。
すべて記録する。
空挺部隊は任務へ向かい、整備員は機体へ残る。
それを見たイギリス武官は、案内将校へ尋ねた。
「滑空機は使い捨てでは」
「戦場では回収できない場合もあります」
「今日は回収する?」
「可能なら」
「なぜ」
「次の訓練に使います」
「一度きりの兵器を、繰り返し訓練するのか」
「一度きりだからこそ、失敗しないよう何度も訓練します」
イギリス武官は帽子を押さえた。
風が強くなっていた。
◇
午後三時。
単発偵察機一機が、前線近くの草地へ不時着した。
操縦士は無事。
脚部損傷。
翼は健全。
連絡を受けた単発部隊の隊長は、最初に言った。
「地面は平らか」
参謀が答えた。
「比較的」
「翼は」
「無事です」
「WILKへ知らせろ」
それを聞いたヤン・ノヴァク中尉が笑った。
「持って帰られるぞ」
隊長は彼を見た。
「お前の時のようにか」
「それより条件はよい」
「今日中にできるか」
「天候次第だ」
WILK側は、すぐに空中曳航を選ばなかった。
風が強い。
日没も近い。
現地へA.2を送り、整備員と索だけ運ぶ。
機体を固定。
操縦士を回収。
曳航は翌朝。
単発部隊の若い操縦士が言った。
「今日中に持ち帰らないのですか」
ヤンが答えた。
「帰せる時に帰す。無理に帰して壊す連中ではない」
「ずいぶん詳しいですね」
「一度曳かれた」
「機体が?」
「私もだ」
若い操縦士は少し距離を取った。
◇
演習司令部では、報告が重なっていた。
重爆一機、任務中止。
滑空機、予定地点逸脱。
前進飛行場、使用制限。
偵察機一機、不時着。
無線混信。
命令伝達遅延。
本来なら、演習失敗と判定されてもおかしくない。
ところが部隊は止まっていなかった。
重爆機は予備飛行場で修理中。
滑空機部隊は徒歩で目標へ向かう。
A.1が紙の命令書を届ける。
A.2が不時着操縦士と整備班を運ぶ。
A.3が重爆機の部品を運ぶ。
A.4は曳航を終え、今度は無線機材を別の飛行場へ輸送する。
地上では荷役班が積荷を組み替える。
三角印。
四角印。
丸印。
暗所でも分かる切り込み札。
どの箱を先に降ろすか。
どの飛行場へ送るか。
誰に渡すか。
学生時代に同じ方法を学んだ者たちが、部隊を越えて同じように動く。
整備員は部品番号を読む。
無線員は同じ報告形式を使う。
操縦士は代替飛行場を確認する。
荷役主任は重心表を書き直す。
教官経験者が、初対面の人員をその場で組ませる。
外国武官たちは、次第に飛行機ではなく地上を見るようになった。
ドイツ武官が言った。
「どの部隊が指揮している」
案内将校が答える。
「演習司令部です」
「現場の手順は誰が決めた」
「各部隊です」
「同じに見える」
「WILK航空学校の卒業者が多いためでしょう」
「何人いる」
案内将校は名簿を調べた。
飛行要員。
整備員。
無線員。
航法員。
荷役主任。
教官。
合計すると、演習参加航空要員の三分の一を超えていた。
地方飛行場の支援員まで含めれば、さらに増える。
ドイツ武官は、もう一度尋ねた。
「この演習をWILKが指揮しているのではないか」
「していません」
「ではなぜ、WILKのように動く」
案内将校は答えに困った。
その時、近くで整備員が叫んだ。
「A.3用燃料ホース、南側へ!」
別の部隊の荷役員が即座に返す。
「三角二本、赤札! 右列二番!」
通じた。
所属は違う。
制服の汚れ方も違う。
だが言葉は同じだった。
案内将校はようやく答えた。
「同じ場所で習ったからです」
◇
各国武官の間で、評価は割れた。
フランス武官は教育体系を見た。
「新人の割に、乗員間連携がよい」
イギリス武官は地上運用を見た。
「役割分担が細かい。誰か一人が優秀でなくても動く」
ドイツ武官は部品と記録を見た。
「機体性能より、ばらつきの少なさが重要だ」
イタリア武官は最後まで華麗さを認めなかった。
「飛行展示としては退屈だ」
しかし、演習終了予定時刻になっても空を見ていた。
ソビエト武官は何も言わず、学校と工場の規模を調べていた。
アメリカ武官は食堂へ行った。
理由は、WILKが前進飛行場へパンとスープまで送っていたからである。
彼は大鍋を見た。
「これは軍の補給ですか」
食堂主任が答えた。
「WILKの臨時食堂です」
「なぜ航空演習に食堂が」
「人が来たからです」
「料金は」
実業家が背後から答えた。
「軍へ請求します」
「利益は出る?」
「大量に作れば」
アメリカ武官は帳面へ書いた。
航空機。
学校。
整備。
輸送。
食料。
宿舎。
彼は途中で鉛筆を止めた。
「何の会社ですか」
実業家は少し考えた。
「今日は航空会社です」
「普段は」
「日によります」
◇
夕方。
演習終了の合図が出た。
勝敗判定は、すぐには決まらなかった。
青軍は予定時間までに全目標を達成できなかった。
赤軍も、航空部隊の継続運用を阻止できなかった。
空挺部隊は予定地点から外れたが、任務を続行した。
重爆隊は一機を失ったが、機体そのものは失われていない。
偵察報告は遅れたが、紙の命令書と写真乾板は届いた。
飛行場が一つ使えなくなったが、別の飛行場へ移った。
演習本部で、上級将校が報告書を見た。
「計画どおりには進んでいない」
ポーランド軍将校が答えた。
「はい」
「重爆一機は任務を中止した」
「はい」
「空挺は四キロ外れた」
「はい」
「偵察機も一機、不時着」
「はい」
「では失敗か」
軍将校は少し考えた。
元ドイツ技師が先に答えた。
「計画の試験なら失敗です」
上級将校は彼を見る。
「軍隊の試験なら?」
元白軍将校が言った。
「まだ飛んでいる」
「答えになっていない」
「部隊が止まっていない」
元独立運動家が付け加えた。
「負傷者役も全員回収されました」
実業家は帳面を確認する。
「放棄機はありません。明朝回収予定の偵察機一機を除きます」
「それは放棄では」
「場所と状態を把握し、回収班を送っているものは、放棄ではありません」
上級将校は報告書を閉じた。
「成功とは言いにくい」
軍将校が頷く。
「はい」
「失敗とも言いにくい」
「はい」
「面倒な結果だな」
五人は黙っていた。
それはWILKにとって、かなり良い評価だった。
◇
演習が終わった飛行場には、さまざまな機体が並んでいた。
単発機。
重爆撃機。
滑空機。
Tur A.1。
A.2。
A.3。
A.4。
格納庫の脇には、飛ばない創業機。
土と油に汚れた整備員。
眠そうな無線員。
帳票を抱えた荷役員。
遠征パンを食べる空挺兵。
自転車を押して戻ってきた伝令。
若い操縦士。
古い教官。
外国武官。
軍将校は、その光景を見た。
「我々は、何を作っているのだろうな」
実業家が答えた。
「会社です」
元独立運動家は首を振った。
「町だ」
元白軍将校は飛行場を見渡した。
「飛行隊だ」
元ドイツ技師は、しばらく何も言わなかった。
修理を待つ重爆機。
翌朝回収される偵察機。
泥の飛行場へ命令書を届けたA.1。
写真を運んだA.2。
部品を運んだA.3。
滑空機を曳いたA.4。
そして、そのどれにも乗らず、地上で働いた人々。
「帰る方法だ」
技師は言った。
軍将校が聞き返した。
「何だ」
「我々が作っているものだ」
元白軍将校が笑った。
「飛行機ではないのか」
「飛行機だけでは帰れない」
技師は答えた。
「操縦士だけでもない。整備員だけでもない。部品だけでも、飛行場だけでもない」
「全部か」
「つながっていればな」
実業家が帳面へ、その言葉を書いた。
元独立運動家は、遠くの仮設食堂を見た。
「帰った後に食べる物も要る」
技師は少し考えた。
「それも含む」
実業家が言った。
「では、食堂代も必要経費です」
軍将校が振り向いた。
「今、その話をするな」
◇
翌朝。
不時着した単発偵察機は、Turに曳かれて基地へ戻った。
重爆機の右発動機も、搭載一式の一部交換によって再始動した。
空挺部隊は滑空機を分解せず、地上牽引で近くの道路まで運んだ。
A.1は泥を落とされ、次の郵便任務へ回った。
外国武官たちは、それぞれの国へ報告書を送った。
誰も同じ評価をしなかった。
遅い。
重い。
地味。
慎重すぎる。
帳票が多い。
人が多い。
だが、稼働率は高い。
回復が早い。
教育が共通している。
損失を一機だけの問題として扱わない。
最も速い機体は、WILK製ではなかった。
最も高く飛ぶ機体も違った。
最も多く爆弾を積んだのは重爆撃機だった。
最も華麗に飛んだのは単発戦闘機だった。
それでも、予定が崩れた後に最も多く空を往復していたのは、Tur系列機だった。
そして、その空を支えていたのはWILK製航空機だけではない。
WILKで学んだ操縦士。
WILKで学んだ整備員。
WILKで学んだ無線員。
WILK式の積載札を使う荷役員。
WILKの教本を読んだ教官。
WILKの食堂で腹を満たした兵士。
WILKは、ポーランドで最も優れた一機を作ってはいなかった。
その代わりに、一機が故障しても止まらない仕組みを作り始めていた。
五人が最初に作ったものは、一機の飛行機だった。
左右で発動機が違い。
資金もなく。
部品もなく。
正式な会社名すらなかった。
それでも五人は、その一機を飛ばした。
六十話目の空を飛んでいたものは、もう一機ではなかった。
製造。
教育。
整備。
輸送。
記録。
食料。
そして、帰るという判断。
それらが互いにつながり、一つの航空隊として動いていた。
一国分の、帰るための仕組みが飛んでいた。