WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――WILK社・新型双発機主降着装置第一次試験報告
一九三〇年

試験対象。

新型双発軍用機Bizon仮称機に搭載予定の、後方格納・前方展開式主降着装置。

確認項目。

一、通常油圧による格納および展開。
二、手動操作による非常展開。
三、未整地走行時の耐久性。
四、収納固定具損傷時の挙動。
五、展開支柱による自動展開および保持。
六、空気式圧縮制動器による展開速度の抑制。
七、主脚展開不能状態での緊急着陸。
八、緊急着陸後の機体回収。

軍技術部からは、七および八について、

「新型機の開発段階で、胴体着陸後の回収まで試験する必要があるのか」

との照会があった。

WILK社は、

「着陸してから必要になる試験を、着陸前に済ませる」

と回答した。

軍技術部は、それ以上質問しなかった。


第79話 脚を隠しきるな

完全引込脚。

 

軍の要求書には、そう書かれていた。

 

元ドイツ軍技術者は、その文字へ二本線を引いた。

 

削除ではない。

 

疑問を示す線だった。

 

「完全とは、どこまでだ」

 

軍から派遣された若い降着装置技術者は答えた。

 

「主脚および車輪の全体を、飛行中は機体内部へ収納します」

 

「なぜだ」

 

「空気抵抗を減らすためです」

 

「固定脚よりどれだけ減る」

 

若い技術者は資料を開いた。

 

脚柱。

車輪。

支柱。

泥除け。

 

それぞれが生む抵抗の計算値が並んでいる。

 

元ドイツ軍技術者は数字を見た。

 

「隠せば速くなる」

 

「はい」

 

「車輪を小さくしても速くなる」

 

「はい」

 

「脚柱を細くしても速くなる」

 

「その通りです」

 

元白軍将校が言った。

 

「滑走路を舗装しても速くなるな」

 

若い技術者は頷いた。

 

「離陸抵抗は減ります」

 

「なら敵にも舗装を頼め」

 

若い技術者は黙った。

 

ポーランド軍将校が机を叩いた。

 

「牧場の話をするなとは言わん。だが最初から飛行場が全部破壊される前提で話すな」

 

元白軍将校は真面目な顔をした。

 

「破壊されないのか」

 

「されるだろう」

 

「なら牧場だ」

 

「順番の話だ!」

 

元独立運動家は、新工場予定地の図面を見ながら言った。

 

「牧場を潰して工場を建て、完成した機体は別の牧場へ降りるのか」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「牧場は国外にもあります」

 

「輸出の話ではない」

 

「輸出にも有利です」

 

ポーランド軍将校は再び机を叩いた。

 

「脚の話へ戻れ!」

 

最初に作られた主脚模型は、実物の三分の一だった。

 

発動機ナセルを模した箱の下面へ、大きな車輪が収まっている。

 

正確には、収まりきっていなかった。

 

車輪の下面が、箱の外へ露出している。

 

若い技術者は模型を見るなり眉を寄せた。

 

「隠れていません」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「脚柱は入っている」

 

「車輪が出ています」

 

「全部ではない」

 

「一部でも出ています」

 

「固定脚より少ない」

 

「完全引込脚の要求です」

 

「脚は完全に引き込まれている」

 

「車輪は脚の一部です」

 

元白軍将校が模型を横から覗き込んだ。

 

「丸見えだな」

 

「お前はどちらの味方だ」

 

「車輪の味方だ」

 

「黙れ」

 

若い技術者は模型の横へ定規を当てた。

 

車輪の幅は、想定発動機の直径に近かった。

 

横から見ると、発動機の後ろへもう一つ丸い塊が埋まっているように見える。

 

「太すぎます」

 

「牧草地で沈まない」

 

「大径にするにしても、幅は減らせます」

 

「柔らかい地面で沈む」

 

「空気圧を下げれば」

 

「側壁が潰れる」

 

「補強すれば重くなります」

 

「だから太くした」

 

若い技術者は口を閉じた。

 

元ドイツ軍技術者は続けた。

 

「細い高圧タイヤにするか、太い低圧タイヤにするか。今回は後者だ」

 

「なぜです」

 

「穴のある牧場でも走る」

 

「穴まで想定するのですか」

 

元白軍将校が答えた。

 

「敵は穴を作るのが好きだ」

 

ポーランド軍将校は止めなかった。

 

止めても同じだった。

 

模型の主脚は、発動機後部に設けられた太い軸を中心に、後方へ畳まれていた。

 

展開時には、車輪が後ろから前へ振り下ろされる。

 

若い技術者が言った。

 

「前方展開ですか」

 

「そうだ」

 

「飛行中の風圧へ逆らいます」

 

「そうだ」

 

「展開には大きな力が必要です」

 

「格納時には風圧が手伝う」

 

「展開時の方が重要です」

 

「出した後の方がもっと重要だ」

 

若い技術者は脚の支点を見た。

 

「この配置では、着陸荷重が発動機ナセル後部へ入ります」

 

「ナセル後部の隔壁から主翼主桁へ流す」

 

「主翼が重くなります」

 

「脚だけで受けるより単純だ」

 

「翼への負荷が大きすぎます」

 

「脚へ入った荷重は、どこかへ流さなければならない」

 

元ドイツ軍技術者は模型の翼付け根を叩いた。

 

「ここは元から強い」

 

「飛ぶための構造です」

 

「着陸するための構造でもある」

 

元白軍将校が頷いた。

 

「飛んだ後は降りる」

 

「お前が言うと何でも雑になる」

 

実物大の片脚試験台が完成したのは、二週間後だった。

 

工場の一角に、主翼内側と発動機ナセルを模した巨大な骨組みが据えられた。

 

その下へ、発動機ほどの幅を持つ大径車輪がぶら下がっている。

 

新工場の建設作業員たちは、休憩のたびに見物へ来た。

 

「飛行機の車輪か」

 

「荷車だろう」

 

「荷車にしては上に翼がある」

 

「翼にしては下が太い」

 

誰も正しく説明できなかった。

 

元独立運動家は、見物人が増えすぎたため周囲へ柵を設けさせた。

 

元白軍将校は柵の内側にいた。

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

「なぜ入っている」

 

「試験を見る」

 

「技術者ではない」

 

「脚を使う側だ」

 

「今日は飛ばない」

 

「着陸する時に使う」

 

「今日は着陸もしない!」

 

元ドイツ軍技術者が油圧係へ合図した。

 

収納固定具が外された。

 

その瞬間、主脚がわずかに動いた。

 

若い技術者が顔を上げた。

 

油圧ポンプは、まだ動いていない。

 

後方へ畳まれた主脚の内側で、折り畳み式の補助支柱が開こうとしていた。

 

支柱は二本折れだった。

 

車軸付近からナセル側へ伸び、中央に関節を持つ。

 

その内部には強い発条が組み込まれていた。

 

発条は収納中から圧縮され、支柱を常に伸ばそうとしている。

 

「発条が脚を展開させるのですか」

 

若い技術者が尋ねた。

 

「そうだ」

 

「油圧ではなく?」

 

「油圧も使う」

 

「どちらが主です」

 

「出すのは発条だ。油圧は動きを制御する」

 

「格納時には発条へ逆らうことになります」

 

「脚が上がらなくても飛べる」

 

「下がらなければ」

 

「降りられない」

 

元白軍将校が頷いた。

 

「なら下がる方へ力を掛けろ」

 

元ドイツ軍技術者は一瞬だけ黙った。

 

「珍しく正しい」

 

「いつも正しい」

 

「そこは違う」

 

油圧係が弁を開いた。

 

主脚が前下方へ振り出され始める。

 

折り畳まれていた支柱が伸びる。

 

発条が関節を押し開き、車軸を前へ押す。

 

だが巨大な車輪は、勢いよく飛び出さなかった。

 

発条支柱の先には、小さな空気筒が接続されていた。

 

支柱が開くと、筒の内部でピストンが動く。

 

押し込まれた空気は、細い絞り穴を通ってしか逃げられない。

 

脚が速く動こうとすれば、筒内の圧力が上がり、強く抵抗する。

 

ゆっくり動けば、空気は少しずつ抜ける。

 

発条は展開させようとする。

 

空気筒は、展開を止めずに速度だけを抑える。

 

主脚は、重い扉が開くように前下方へ降りていった。

 

最後に支柱がほぼ一直線となる。

 

関節が死点を越えた。

 

ガンッ。

 

試験台全体が揺れた。

 

発条は展開位置でも力を残し、支柱を伸び切った側へ押し続けていた。

 

若い技術者は空気筒へ近づいた。

 

「空気式の制動器ですか」

 

「そうだ」

 

「発条と直列ですか」

 

「並列だ」

 

若い技術者は支柱を覗き込んだ。

 

発条が脚を開く系統と、空気筒が動きを抑える系統は、別々に取り付けられている。

 

「空気筒が固着しても、発条は働く」

 

「安全弁が開く」

 

「安全弁も開かなければ」

 

「破断板が抜ける」

 

「制動器が壊れます」

 

「脚は出る」

 

「勢いよく出ます」

 

「出ないよりよい」

 

若い技術者はしばらく考えた。

 

「発条が壊れれば」

 

「油圧と手動で出す」

 

「油圧が壊れれば」

 

「発条で出す」

 

「空気筒が壊れれば」

 

「速く出る」

 

「支柱が開けば」

 

「死点を越えて保持する」

 

元白軍将校が言った。

 

「全部壊れれば?」

 

元ドイツ軍技術者は答えた。

 

「胴体着陸だ」

 

「そこまで考えてあるか」

 

「これから試す」

 

若い技術者は顔を上げた。

 

「本当に試すのですか」

 

「項目にある」

 

「書いたのはそちらでしょう」

 

「だから試す」

 

次は荷重試験だった。

 

車輪下へ油圧式の押し上げ台を置く。

 

通常着陸。

 

強い着陸。

 

片輪接地。

 

横滑りを残した接地。

 

牧草地の穴へ片輪を落とした状態。

 

軍技術者団は最後の項目へ反対した。

 

元白軍将校が工場の床へ穴を掘ろうとした。

 

ポーランド軍将校が怒鳴った。

 

「誰が掘れと言った!」

 

「試験項目にある」

 

「床ではなく試験台へ作れ!」

 

段差付きの支持台が追加された。

 

主脚は何度も突き上げられた。

 

ガン。

 

ガン。

 

ガン。

 

太い脚柱から入った荷重が、ナセル後部の強化隔壁へ伝わる。

 

そこから主翼主桁を模した骨組みへ流れていく。

 

発条支柱は脚の角度を保ち、関節は死点を越えたまま動かない。

 

空気筒は展開時にだけ働き、着陸荷重そのものは受けていなかった。

 

若い技術者は計測器を見た。

 

「翼側への負荷が大きい」

 

元ドイツ軍技術者は答えた。

 

「想定内だ」

 

「補強重量が増えます」

 

「重ガンポッドも同じ主桁へ吊るす」

 

兵装担当者が資料を覗き込んだ。

 

「懸架部もまとめられます」

 

若い技術者が振り向いた。

 

「着陸荷重と機銃の反動を同じ場所へ入れるのですか」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「着陸しながら撃たなければ問題ない」

 

元白軍将校が口を開いた。

 

全員が彼を見た。

 

「何も言っていない」

 

「言うな」

 

通常試験が終わると、収納固定具の試験へ移った。

 

飛行中、主脚は後方へ畳まれ、ナセル内部の固定具で保持される。

 

元ドイツ軍技術者は、固定具の試作品を二つ並べた。

 

一つは太い。

 

一つは少し細い。

 

若い技術者が言った。

 

「太い方が安全です」

 

「飛行中に脚を保持するだけならな」

 

「細い方は大きな衝撃で破断します」

 

「その時、主脚と翼を壊すか。固定具を壊すか」

 

若い技術者は細い固定具を見た。

 

「意図的に破断させるのですか」

 

「壊れる順番を決める」

 

「脚が勝手に展開します」

 

「失うよりよい」

 

「空気抵抗が増えます」

 

「着陸はできる」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「言い方がおかしい」

 

細い固定具が取り付けられた。

 

衝撃装置が作動する。

 

一度目。

 

固定具は耐えた。

 

二度目。

 

わずかに歪んだ。

 

三度目。

 

固定ピンが破断した。

 

支えを失った主脚が動く。

 

圧縮されていた発条が補助支柱を押し開く。

 

車輪が前下方へ振り出される。

 

空気筒が圧縮され、急激な展開を抑える。

 

主脚はゆっくりと下がり、最後に支柱が死点を越えた。

 

ガンッ。

 

脚は完全展開位置へ入った。

 

油圧は使われていなかった。

 

工場内が静かになった。

 

元白軍将校が言った。

 

「撃たれると脚が生える」

 

「その呼び方をするな」

 

「分かりやすい」

 

記録係は用紙へ書いた。

 

収納固定具破損時、発条式展開支柱により主脚は自動展開。

空気式圧縮制動器は正常作動。

油圧系統を使用せず完全展開および保持を確認。

 

ポーランド軍将校が記録用紙を確認した。

 

「撃たれると脚が生える、とは書いていないな」

 

「書いていません」

 

元白軍将校が覗き込んだ。

 

「欄外が空いている」

 

「近づくな」

 

問題は、固定具が破断せず、歪んだ場合だった。

 

二つ目の試験では、固定ピンへ斜めから衝撃を入れた。

 

ピンは折れなかった。

 

曲がった。

 

発条は主脚を展開しようとする。

 

しかし固定具が噛み、脚は動かない。

 

油圧を加えても動かない。

 

手動ポンプを使っても、脚庫が軋むだけだった。

 

若い技術者が言った。

 

「これが最悪です」

 

元ドイツ軍技術者は頷いた。

 

「壊れた方がましだ」

 

「固定具をもっと細くしますか」

 

「通常飛行で壊れる」

 

「二重化を」

 

「二本とも歪む」

 

「防弾板を付ける」

 

「重くなる」

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

「では、どうする」

 

元白軍将校が答えた。

 

「叩く」

 

誰もすぐには反論しなかった。

 

それが一番嫌だった。

 

元ドイツ軍技術者は試験台を見た。

 

「翼へ荷重を入れる」

 

若い技術者が振り向いた。

 

「意図的に?」

 

「飛行中なら、浅い横滑り。左右へ機体を振る。脚と車輪の慣性で固定具を外す」

 

「翼へ衝撃が入ります」

 

「翼は着陸衝撃を受ける」

 

「飛行中の荷重は別です」

 

「主桁は同じだ」

 

「操縦士が強く振りすぎれば」

 

「そのために試験する」

 

元白軍将校が満足そうに言った。

 

「やはり叩く」

 

「機体を叩くな。荷重を入れる」

 

「大きな機械は同じだ」

 

「同じにするな」

 

脚庫を模した骨組み全体を左右へ揺らす装置が追加された。

 

ユダヤ人実業家は費用書類を見た。

 

「これは何の設備ですか」

 

ポーランド軍将校が答えた。

 

「脚を出すために翼を揺する設備だ」

 

ユダヤ人実業家は一度目を閉じた。

 

「会計上は?」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「動的構造試験装置」

 

「それなら通ります」

 

ポーランド軍将校は何か言おうとした。

 

やめた。

 

歪んだ固定ピンを取り付けたまま、試験台を揺らす。

 

一度。

 

外れない。

 

二度。

 

金属音。

 

三度。

 

曲がったピンが受け金具から抜けた。

 

その瞬間、発条が支柱を開いた。

 

主脚が前下方へ動く。

 

空気筒が展開速度を抑える。

 

ガンッ。

 

主脚は自力で立った。

 

若い技術者は計測値を見た。

 

「翼への瞬間荷重は大きい」

 

「壊れたか」

 

「いいえ」

 

「一割増やす」

 

「なぜです」

 

「操縦士は試験値どおりには振らない」

 

元白軍将校が言った。

 

「二割だ」

 

「お前は黙れ」

 

次は、空気式圧縮制動器の故障試験だった。

 

空気筒の絞り穴を塞ぐ。

 

収納固定具を外す。

 

発条が展開しようとする。

 

しかし空気筒内部の圧力が上がり、主脚は途中で止まった。

 

若い技術者が言った。

 

「固着しました」

 

圧力はさらに上がる。

 

安全弁が開いた。

 

鋭い音とともに空気が抜ける。

 

主脚が再び動き始めた。

 

「安全弁が開かなければ」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「次を見ろ」

 

安全弁を意図的に固定した。

 

再び収納固定具を外す。

 

圧力が上がる。

 

空気筒側面の薄い破断板が割れた。

 

空気が一気に抜ける。

 

主脚が勢いよく前へ振り出された。

 

試験台が大きく揺れた。

 

支柱は死点を越えた。

 

脚は立った。

 

若い技術者は言った。

 

「制動器が壊れました」

 

「脚は出た」

 

「展開衝撃が大きすぎます」

 

「出なければ着陸衝撃はもっと大きい」

 

「破断板は交換が必要です」

 

ユダヤ人実業家が横から尋ねた。

 

「いくらですか」

 

若い技術者が答える前に、元ドイツ軍技術者が言った。

 

「安い」

 

「なら予備を積みます」

 

ポーランド軍将校が聞いた。

 

「機体ごとか?」

 

「整備車ごとです」

 

「ならよい」

 

試験はそこで終わらなかった。

 

元ドイツ軍技術者は、主脚を収納状態へ戻させた。

 

「次は着陸後だ」

 

若い技術者が尋ねた。

 

「着陸後?」

 

「脚が出なかった場合」

 

「胴体着陸試験をするのですか」

 

「片側ナセルだけだ」

 

試験台の下へ、土と草を詰めた長い箱が運び込まれた。

 

荷重を掛けたナセル模型を前方へ滑らせる。

 

収納状態の車輪は、一部が外へ露出している。

 

軍技術者たちは、その意味を理解した。

 

「このために車輪を隠さなかったのですか」

 

若い技術者が尋ねた。

 

「これだけではない」

 

「完全に収納すれば空気抵抗を減らせます」

 

「脚が出なければ、ナセル外板から地面へ当たる」

 

「胴体着陸は例外です」

 

「例外で機体を失う」

 

最初の滑走試験。

 

ナセル模型が土の上を進む。

 

露出したタイヤが最初に接地した。

 

タイヤが潰れ、回転する。

 

土を巻き上げる。

 

ナセル下面も地面へ触れたが、露出車輪が最初の衝撃と摩擦を受けたため、直接叩きつけられるより明らかに穏やかだった。

 

二度目。

 

収納固定具を歪ませ、脚を固着させた。

 

ナセル模型が滑る。

 

露出車輪が地面へ当たる。

 

衝撃が脚柱へ伝わる。

 

歪んだ固定ピンが外れた。

 

発条が支柱を開く。

 

車輪が前へ振り出される。

 

空気筒が急激な展開を抑える。

 

脚は完全展開までは届かなかった。

 

だが途中まで出た車輪が、ナセルを押し上げた。

 

模型は地面を削りながら停止した。

 

工場内が静かになった。

 

元白軍将校が最初に言った。

 

「着陸しながら脚が出た」

 

元ドイツ軍技術者は模型へ近づいた。

 

脚柱。

 

発条支柱。

 

空気筒。

 

外板。

 

固定具。

 

それぞれの損傷を確認する。

 

「空気の抜けを少し早くする」

 

若い技術者が尋ねた。

 

「展開速度が上がります」

 

「接地中は、途中で止まる方が危険だ」

 

「通常展開では速くなりすぎます」

 

「速度で弁を切り替える」

 

「また部品が増えます」

 

「地上接触時だけ開く機械弁なら簡単だ」

 

「どこで検知します」

 

元白軍将校が露出車輪を指差した。

 

「車輪が地面へ当たる」

 

若い技術者は黙った。

 

元ドイツ軍技術者も黙った。

 

ポーランド軍将校が元白軍将校を見た。

 

「また正しいのか」

 

「いつも正しい」

 

「二度続いただけだ」

 

最後の試験は、着陸後の回収だった。

 

脚が出ないまま停止したナセル模型。

 

固定具は歪んでいる。

 

作業員が点検口から工具を差し込んだ。

 

固定ピンは抜けない。

 

切断具を使う。

 

金属音。

 

ピンが落ちた。

 

その瞬間、圧縮されていた発条が支柱を開き始めた。

 

空気筒が動きを抑える。

 

主脚は、整備員を弾き飛ばすことなく、ゆっくりと前下方へ伸びていった。

 

支柱が死点を越える。

 

ガンッ。

 

主脚が立った。

 

ナセル模型の下面が地面から持ち上がった。

 

元独立運動家が尋ねた。

 

「機体なら、左右の脚を出せば主翼が上がるな」

 

「そうだ」

 

「機首は」

 

「ジャッキか滑車で持ち上げる」

 

元白軍将校が言った。

 

「車輪があるなら引ける」

 

若い技術者が反論した。

 

「胴体着陸後です。主翼、発動機架、胴体下面の検査が必要です」

 

「飛ばすとは言っていない」

 

「どこへ引くのです」

 

「修理できる場所だ」

 

「大型機を?」

 

「車輪がある」

 

元独立運動家が言った。

 

「トラクターなら村にある」

 

元白軍将校が続けた。

 

「馬もいる」

 

若い技術者は、最新鋭の全金属双発機が農耕馬に引かれていく姿を想像したらしい。

 

しばらく何も言わなかった。

 

ユダヤ人実業家は、既に別のことを考えていた。

 

「回収用工具を標準化します」

 

ポーランド軍将校が振り向いた。

 

「機体ごとか?」

 

「中隊ごとです。固定ピン切断具、手動支柱、牽引索、機首支持台、予備破断板」

 

「重量は」

 

「地上装備です」

 

「ならよい」

 

元白軍将校が言った。

 

「予備プロペラも置け」

 

若い技術者が顔を上げた。

 

「胴体着陸すれば、プロペラは折れます」

 

「交換すればよい」

 

「脚の格納機構も損傷しています」

 

「出したまま飛べる」

 

「空気抵抗が大きい」

 

「後方飛行場まで飛べればよい」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「主翼と発動機架の検査はする」

 

「もちろんだ」

 

「お前が素直だと不安になる」

 

「飛ばす前に調べるのは当然だ」

 

「ならよい」

 

元ドイツ軍技術者が補足した。

 

「プロペラ軸、発動機架、主桁に異常がなく、下面損傷が限定的なら、脚下げ状態での回送飛行は可能だ」

 

若い技術者が尋ねた。

 

「胴体着陸した機体を、翌日に飛ばすつもりですか」

 

元白軍将校が答えた。

 

「翌日とは限らない」

 

「そこですか」

 

「プロペラが届けばだ」

 

その日の夕方、主脚設計会議が行われた。

 

Bizonの主脚には、以下の構造が採用された。

 

発動機ナセル後部を支点とする、後方格納・前方展開方式。

 

発動機幅に近い大径低圧タイヤ。

 

車輪の一部を露出させた半密閉脚庫。

 

主脚荷重をナセル後部隔壁から主翼主桁へ流す構造。

 

収納中から常に展開方向へ力を掛ける発条式折り畳み支柱。

 

発条とは別系統で取り付けられた空気式圧縮制動器。

 

絞り穴、逆止弁、安全弁および破断板。

 

オーバーセンターによる展開位置保持。

 

通常油圧、手動ポンプによる補助操作。

 

主構造より先に破断する収納固定具。

 

歪んだ固定具を機動荷重で解除できる構造余裕。

 

露出車輪の接地により固定具が外れた場合、脚が自動展開する構造。

 

胴体着陸後、収納固定具を切断して主脚を展開可能な点検口。

 

回収後、機首のみを持ち上げて牽引可能な車輪配置。

 

軍から派遣された若い技術者は、最終図面を見た。

 

「完全引込脚ではありません」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「脚柱は完全に格納される」

 

「車輪が見えます」

 

「少しだ」

 

「空気抵抗になります」

 

「固定脚より速い」

 

「同時代の完全密閉式より遅い」

 

「牧場ではこちらが速い」

 

「比較条件がおかしい」

 

ポーランド軍将校が要求書を開いた。

 

二番。

 

完全引込式降着装置。

 

九番。

 

未整地飛行場からの運用。

 

同じ紙に書かれている。

 

若い技術者は要求書を見た。

 

最終図面を見た。

 

再び要求書を見た。

 

やがて静かに言った。

 

「軍が悪いですね」

 

ポーランド軍将校は答えた。

 

「私に言うな」

 

元白軍将校が完成予想図を眺めた。

 

発動機の後ろ。

 

太いナセル。

 

下面から見える大きな車輪。

 

内部で押し広がろうとする発条。

 

その動きを抑える空気筒。

 

「よい脚だ」

 

元ドイツ軍技術者が尋ねた。

 

「何がよい」

 

「固定を壊せば、自分で立つ」

 

元独立運動家が言った。

 

「倒れてからでも立てる」

 

ユダヤ人実業家は、輸出用説明書の草案へ一文を書き足した。

 

不整地における高い運用性と、緊急着陸後の優れた自立回収性を有する。

 

ポーランド軍将校が覗き込んだ。

 

「まだ飛んでいない」

 

「脚は立ちました」

 

「機体の話だ!」

 

新型機は、まだ翼すら完成していなかった。

 

だがその脚は既に、

 

飛行中に固定具を撃たれれば自ら開き、

急に開こうとすれば空気で速度を殺し、

着陸時に出なければ露出車輪で衝撃を受け、

地面へ当たって固定が外れれば途中からでも立ち上がり、

倒れた後でもピンを切れば再び脚を伸ばし、

車輪が残っていれば引かれて帰り、

プロペラを交換できれば脚を出したまま飛び去ることを求められていた。

 

翌日、試験場の入口には新しい注意書きが掲げられた。

 

主脚試験中。固定具を外すな。勝手に開く。

 

その下に、別の筆跡で一行追加されていた。

 

開けば正常。

 

元ドイツ軍技術者は、元白軍将校を三十分追い回した。

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