一九三一年
審議項目。
翼面積。
翼型。
主翼構造。
燃料搭載量。
燃料槽区画。
主脚収納部。
発動機架。
固定武装。
翼下懸架装置。
装甲配置。
各担当部署は、会議開始前に、
「担当部分の設計は、ほぼ完了している」
と報告した。
それらを一枚の図面へ重ねた結果、
燃料槽と主脚が同じ場所にあり、
十一ミリ機銃と主桁が交差し、
懸架装置が脚庫の扉を塞ぎ、
装甲板が点検口を覆い、
発動機架の補強材が弾薬箱を貫通した。
合同設計会議は、予定を一日延長した。
二日目の朝、まだ一つも解決していなかった。
Bizonの主翼原寸図は、会議室の壁一面を占領していた。
胴体中央。
左右の発動機ナセル。
太い主桁。
大きな翼面積。
翼根へ置かれる十一ミリ機銃。
ナセル後部に収まる巨大な主脚。
その周囲へ分けられた燃料槽。
翼下の懸架点。
各所へ貼られた装甲板。
さらに、赤、青、黒、緑の線が何十本も引かれている。
赤は燃料配管。
青は油圧。
黒は操縦索。
緑は電気配線。
若い軍技術者は図面を見上げた。
「何も通りません」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「通す」
「どこへ」
「空いている場所へ」
「空いている場所がありません」
元白軍将校が壁の端を指した。
「翼を広げればよい」
「配管のために翼を広げるな」
「燃料も増える」
「重量も増える」
「さらに翼を広げればよい」
「その考えを止めろ」
ポーランド軍将校が席へ着いた。
「順番に決める。まず翼面積だ」
翼担当者が立ち上がった。
机の上へ三枚の平面図を並べる。
第一案。
小さな翼。
高速重視。
第二案。
中程度の翼。
軍要求への妥協。
第三案。
大きな翼。
未整地離着陸、片発飛行、重量増加への余裕を優先。
元白軍将校は迷わず第三案を指した。
「これだ」
ポーランド軍将校が言った。
「まだ説明を聞いていない」
「大きい」
「それは見れば分かる」
翼担当者は第一案を示した。
「第一案は最高速度に有利です。ただし現在の想定重量では、離陸距離が長くなります」
「どれほどだ」
「舗装飛行場なら許容範囲です」
元白軍将校が言った。
「牧場では」
翼担当者は答えなかった。
ポーランド軍将校が顔を覆った。
「質問に答えろ」
「離陸できる地面が限られます」
元白軍将校が第三案をもう一度指した。
「これだ」
若い軍技術者は第二案を示した。
「中間案なら速度と離陸性能を両立できます」
翼担当者が答えた。
「現在の重量なら」
「まだ増えるのですか」
会議室の全員が装甲担当者を見た。
装甲担当者は資料を閉じた。
「なぜ私を見るのです」
元ドイツ軍技術者が言った。
「増やすからだ」
「必要な装甲です」
「昨日も増えた」
「燃料槽下面が無防備でした」
「今日はどこだ」
「後部銃手の側面です」
若い軍技術者が重量表へ数字を書き足した。
翼担当者は第三案を指した。
「こちらなら、多少の重量増加を吸収できます」
ポーランド軍将校が尋ねた。
「速度低下は」
「あります」
「どの程度だ」
「発動機が決まらなければ正確には出ません」
「発動機は決まっているはずだ」
発動機担当者が小さく手を上げた。
「現行型を前提としています」
「前提?」
「機体重量が増えています」
「だから何だ」
「不足する可能性があります」
会議室が静かになった。
ポーランド軍将校は言った。
「後で聞く」
発動機担当者は手を下ろした。
少し安心した顔をしていた。
翼面積については、第三案を基礎とすることになった。
ただし翼端は少し切り詰められた。
翼根は厚くする。
外翼は軽くする。
低速性能を得るため、翼全体を無闇に広げるのではなく、内翼で大きな揚力と構造強度を持たせる。
元ドイツ軍技術者は図面へ線を引いた。
「ここから内側は機械だ」
若い軍技術者が尋ねた。
「翼ではなく?」
「飛ぶための機械だ」
「外側は」
「翼だ」
元白軍将校が言った。
「全部翼だろう」
「お前は黙れ」
内翼には、発動機、主脚、燃料、機銃、懸架装置、装甲、配管が集まる。
外翼には、補助翼、軽い燃料区画、翼端灯、最低限の構造。
被弾や事故で外翼を損傷した場合、交換しやすいよう接合部も整理された。
若い軍技術者は眉をひそめた。
「翼端を交換部品にするのですか」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「翼端は当たる」
「何に」
元白軍将校が言った。
「木、地面、格納庫」
ポーランド軍将校が振り向いた。
「最後は操縦士の責任だ」
元白軍将校は言った。
「だから交換しやすくする」
誰も反論できなかった。
次は燃料だった。
燃料担当者は、主翼図面の上へ透明な紙を重ねた。
四つの区画が描かれている。
左右の前部内翼槽。
左右の後部内翼槽。
さらに外翼側へ小型の補助槽。
ナセル内部にも、発動機直後の小区画。
若い軍技術者が数えた。
「多すぎませんか」
燃料担当者が答えた。
「一つを撃たれても全部失わないためです」
「弁が増えます」
「遮断できます」
「配管が増えます」
「迂回できます」
「点検箇所が増えます」
「漏れた場所を見つけやすい」
元白軍将校が図面を見た。
「全部つなげれば多く積める」
「容量は変わらない」
「移せる」
「移送管はある」
「ならよい」
若い軍技術者は赤い配管線を追った。
前部槽から左右発動機。
後部槽から前部槽。
左右間移送。
非常遮断。
増槽接続。
燃料投棄。
手動ポンプ。
電動ポンプ。
重力供給。
線が翼内で交差している。
「複雑です」
元ドイツ軍技術者が言った。
「壊れた時に切り離せる」
「操縦席の弁が増えます」
「色を分ける」
「夜間は」
「形を変える」
「誤操作したら」
元白軍将校が答えた。
「発動機が止まる」
「だからあなたは黙ってください!」
燃料担当者は、弁の取っ手を模型で示した。
丸。
三角。
四角。
長い棒。
短い棒。
手袋をしたままでも触れば区別できる。
前部槽。
後部槽。
左右移送。
非常遮断。
元白軍将校は目を閉じ、触って当てた。
「これは右前」
燃料担当者が頷いた。
「正解です」
若い軍技術者が驚いた。
「なぜ分かるのです」
「見れば分かる」
「目を閉じていました」
「触れば分かる」
元ドイツ軍技術者が言った。
「試験員にするな」
燃料搭載量は最後まで揉めた。
軍側は航続距離を求めた。
偵察担当は、遠くまで行って戻りたい。
爆撃担当は、爆弾を積んだまま遠くへ行きたい。
輸送担当は、貨物を積んだまま遠くへ行きたい。
元白軍将校は、全部積んで遠くへ行きたい。
元ドイツ軍技術者は、重量表を机へ置いた。
「全部は飛ばない」
元白軍将校が尋ねた。
「滑走路を長くすれば」
「飛ぶかもしれない」
「なら飛ぶ」
「通常運用にするな」
ポーランド軍将校が言った。
「任務ごとに搭載基準を分ける」
爆撃任務。
偵察任務。
重武装任務。
輸送任務。
救急搬送任務。
長距離回送。
それぞれに、
燃料。
爆弾。
弾薬。
乗員。
装甲。
貨物。
増槽。
の上限を設定する。
元白軍将校は表を見た。
「全部載せる欄がない」
「ない」
「非常時は」
「離陸するな」
「戦争中に非常時しかない場合は」
ポーランド軍将校が言った。
「機長判断だ」
元ドイツ軍技術者が顔を上げた。
「書くな」
「書かねば現場が勝手にやる」
「書けば正式にやる」
「どちらでもやる」
全員が黙った。
最終的に、搭載表の欄外へ、
規定外搭載は部隊指揮官および機長の責任において実施する。
と書かれた。
元白軍将校は満足した。
元ドイツ軍技術者は満足しなかった。
翼下懸架装置の設計は、比較的進んでいた。
Turで長年使われた規格があった。
七・九二ミリ二連装ガンポッド。
十一ミリ単装ガンポッド。
小型爆弾架。
貨物筒。
医療物資容器。
補助燃料槽。
投下索。
電気点火。
燃料接続。
完全に同じではない。
だが基本の取り付け思想は共通化されていた。
Bizonでは、それを大型化する。
兵装担当者が図面へ四つの印を付けた。
左右の内側重懸架点。
左右の外側軽懸架点。
「内側は主桁直下です」
若い軍技術者が尋ねた。
「何を吊るします」
「大型爆弾、増槽、重ガンポッド、貨物容器」
「外側は」
「小型爆弾、照明弾、煙幕器材、軽量容器」
元白軍将校が言った。
「全部機銃でもよい」
兵装担当者は答えた。
「可能です」
若い軍技術者が振り向いた。
「可能なのですか」
「規格上は」
「何門になります」
兵装担当者は計算した。
標準固定武装。
操縦席横、十一ミリ二門。
左右翼根、十一ミリ各一門。
合計四門。
内側重懸架点へ、十一ミリ二連装ガンポッドを左右一基ずつ。
合計四門追加。
前方十一ミリ、八門。
元白軍将校は頷いた。
「よい」
ポーランド軍将校が言った。
「爆弾は」
「積めなくなります」
「航続距離は」
「増槽も積めません」
「重量は」
「重いです」
「何に使う」
元白軍将校が答えた。
「前にいるものを止める」
兵装担当者は真面目に付け加えた。
「特殊任務用です」
若い軍技術者は図面へ注意書きを追加した。
十一ミリ八門装備時、爆弾搭載量および航続距離を制限する。
元白軍将校が覗いた。
「弾薬を増やせばよい」
「重量が増える!」
翼下懸架装置そのものは、主桁へ直接荷重を渡す構造となった。
主脚の着陸荷重。
発動機の重量と振動。
固定機銃の反動。
翼下懸架物の重量。
すべてが主桁周辺へ集まる。
若い軍技術者は図面を見て言った。
「何でも同じ場所へ載せすぎです」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「強い場所だからだ」
「一か所を損傷すれば全部に影響します」
「主桁を壊された機体は帰れない」
「だから守る必要があります」
装甲担当者が顔を上げた。
「主桁周辺へ装甲を――」
全員が言った。
「増やすな!」
装甲担当者は黙った。
少し傷ついた顔をしていた。
翼根の十一ミリ機銃も問題になった。
銃身。
弾薬箱。
給弾路。
排莢。
点検口。
発射反動。
発動機との距離。
プロペラ円との干渉。
脚庫との干渉。
燃料槽との距離。
兵装担当者は、翼根へ置くのが最善だと主張した。
「反動を主桁へ直接流せます」
燃料担当者が答えた。
「前部燃料槽があります」
「少し外へ移してください」
「脚庫があります」
「少し前へ」
「発動機架があります」
「少し下へ」
「懸架装置があります」
若い軍技術者が言った。
「機銃を胴体へ戻せませんか」
兵装担当者は操縦席横の二門を指した。
「既に二門あります」
「四門とも胴体へ」
「弾薬箱が操縦席を圧迫します」
元白軍将校が言った。
「操縦席を後ろへ動かせ」
操縦席担当者が答えた。
「視界が悪くなる」
「機首を短くする」
爆弾担当者が言った。
「爆撃照準位置がなくなる」
元白軍将校は考えた。
「機銃を外へ出せ」
兵装担当者が頷いた。
「だから翼根です」
会議は元の場所へ戻った。
最終的に、翼根機銃は主桁前方、発動機ナセル内側へ置かれた。
燃料槽との間に隔壁。
弾薬箱は機銃後方。
外側から大きな点検扉を開けて交換できる。
排莢は下面へ。
不発弾薬の排出経路も設ける。
若い軍技術者は言った。
「点検扉が大きすぎます」
兵装担当者が答えた。
「機銃を外す」
「外板強度が落ちます」
構造担当者が言った。
「扉枠を主桁補助材へつなぐ」
「重くなります」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「整備できない機銃は、飛んでいる鉄だ」
元白軍将校が言った。
「鉄も盾にはなる」
「黙れ」
昼を過ぎても、装甲会議は終わっていなかった。
正確には、数週間前から終わっていなかった。
装甲担当者の最初の案は、操縦席、発動機、燃料槽、弾薬箱、無線機、後部銃座、主桁、油圧装置の大部分を装甲で囲っていた。
重量表には、
装甲重量――許容値を大幅に超過
と書かれた。
二案目は少し削った。
それでも重かった。
三案目では発動機後部装甲を減らした。
四案目では燃料槽側面を部分化した。
五案目では後部銃手の足元が消えた。
後部銃手担当者が抗議した。
六案目では足元が戻り、無線手の側面が消えた。
無線担当者が抗議した。
七案目では全員を少しずつ守った。
全員が少しずつ不満を持った。
ポーランド軍将校は、七案目を見た。
「これでよいのではないか」
装甲担当者が答えた。
「前方からの防御が不足します」
元ドイツ軍技術者が言った。
「敵は前にいる」
元白軍将校が言った。
「後ろにも来る」
「横からも撃たれます」
若い軍技術者が付け加えた。
「下からも」
装甲担当者は頷いた。
「だから全面を――」
「飛ばない!」
会議室の声が揃った。
装甲担当者は資料を抱えて席へ戻った。
主翼会議は、三日目へ入った。
翼面積は決まった。
燃料区画も決まった。
懸架点も決まった。
翼根機銃も、どうにか収まった。
残る大きな問題は、各構造を一つの翼へ統合した時の重量だった。
構造担当者が表を読み上げる。
主翼主構造。
発動機架。
主脚と脚庫。
燃料槽および配管。
固定機銃と弾薬。
懸架装置。
油圧装置。
電気配線。
防火隔壁。
外板。
装甲。
合計。
若い軍技術者が数字を見た。
「重い」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「知っている」
「第三案の翼面積でも、想定翼面荷重を超えます」
「どれを削る」
全員が他の担当者を見た。
燃料担当者は言った。
「燃料を削れば航続距離が落ちます」
兵装担当者は言った。
「弾薬を削れば四門の意味が減ります」
懸架担当者は言った。
「懸架点を減らせば任務の幅が狭くなります」
脚担当者は言った。
「車輪を小さくすれば牧場で沈みます」
構造担当者は言った。
「主桁を削れば折れます」
装甲担当者は何も言わなかった。
全員が見た。
「なぜ私を見るのです」
ポーランド軍将校が答えた。
「削れるからだ」
「人が死にます」
元ドイツ軍技術者が言った。
「飛ばなくても死ぬ」
装甲担当者は最終案を机へ置いた。
「では、これを見てください」
誰もすぐには手を伸ばさなかった。
過去七案の記憶があった。
若い軍技術者が慎重に図面を開いた。
第八案。
装甲板は、以前より明らかに少なかった。
操縦席前面。
操縦士および観測員の座席背面。
操縦席側面の一部。
発動機前方の重要部。
発動機後部防火隔壁周辺。
前部燃料槽の下面と前面の一部。
弾薬箱周辺。
後部銃座の小型防盾。
無線機そのものではなく、無線手背面。
主桁全体ではなく、胴体接合部周辺。
装甲担当者は説明した。
「全面防御は諦めます」
元白軍将校が言った。
「諦めるのか」
「優先順位を付けます」
「どこを守る」
「前から撃たれやすい場所。下から撃たれやすい場所。損傷した場合に即座に機体を失う場所。乗員が避けられない場所」
元ドイツ軍技術者は図面を見た。
「側面は」
「座席と弾薬箱だけです」
「燃料槽は」
「防漏構造と区画分けを優先します。全面装甲はしません」
「発動機は」
「前面の一部と、燃料・油系統の集まる場所だけです」
「主桁は」
「胴体接合部だけです。外側は構造強度で耐えます」
若い軍技術者は重量表を確認した。
一度。
二度。
計算尺を動かす。
もう一度加算する。
会議室が静かになった。
「許容重量内です」
ポーランド軍将校が聞き返した。
「本当にか」
「はい」
「燃料を減らしたか」
「減らしていません」
燃料担当者が頷いた。
「規定量を維持しています」
「爆弾搭載量は」
爆弾担当者が答えた。
「維持しています」
「四門の十一ミリ機銃は」
兵装担当者が答えた。
「入っています」
「翼下懸架装置は」
「内外四点、維持しています」
「主脚は」
脚担当者が答えた。
「入ります」
「貨物床は」
胴体担当者が答えた。
「残っています」
「担架は」
「入ります」
「写真機は」
「入ります」
「無線は」
無線担当者が答えた。
「装甲は減りましたが、入っています」
ポーランド軍将校は椅子へ深く座った。
「では、合意する」
装甲担当者が言った。
「まだ一か所だけ――」
元白軍将校が口を開いた。
「なら余った重量で――」
会議室全員が叫んだ。
「黙れ!」
二人とも黙った。
装甲配置は、ようやく合意された。
会議記録には、決定事項が並んだ。
主翼面積――大翼面積案を基礎として決定。
内翼――発動機、主脚、燃料、武装、懸架装置を集中配置。
外翼――軽量化し、交換容易な構造とする。
燃料槽――複数区画へ分割。左右移送および非常遮断可能。
翼下懸架装置――左右内側重懸架点、左右外側軽懸架点。
固定武装――十一ミリ機銃四門。胴体側二門、翼根二門。
主脚――ナセル後部収納、前方展開。
装甲――重要部限定配置。全面防御は行わない。
全項目、重量許容範囲内。
ポーランド軍将校は最後まで読んだ。
「終わったな」
若い軍技術者は答えなかった。
記録用紙の下部に、未解決項目が一つ残っていた。
発動機出力。
ポーランド軍将校は顔を上げた。
「これは何だ」
発動機担当者が、三日前から抱えていた資料を開いた。
「現行発動機二基では、離陸は可能です」
元白軍将校が言った。
「ならよい」
「満載時の上昇力が不足します」
「軽くしろ」
全員が装甲担当者を見た。
装甲担当者は最終図面を胸へ抱いた。
「もう削りません」
発動機担当者は続けた。
「片発時の上昇は困難です」
元ドイツ軍技術者が尋ねた。
「高度維持は」
「条件次第です」
「どの条件だ」
「爆弾投棄。外装品投棄。燃料消費後。低高度。気温が低い場合」
元白軍将校が言った。
「全部捨てれば帰れる」
ポーランド軍将校が机を叩いた。
「最初から捨てる前提で作るな!」
発動機担当者は静かに言った。
「より強い発動機が必要です」
会議室が再び静かになった。
主翼は決まった。
燃料も決まった。
武装も決まった。
脚も決まった。
懸架装置も決まった。
装甲配置は、数週間の議論の末にようやく合意された。
そのすべてを載せた結果、発動機が足りなくなった。
元ドイツ軍技術者は図面を見た。
「現行発動機で試作機を飛ばす」
若い軍技術者が言った。
「性能要求を満たしません」
「飛行特性を見る」
「軍は完成機を求めています」
「最初から完成して飛ぶ機体はない」
元白軍将校が頷いた。
「飛んでから強い発動機へ替えればよい」
発動機担当者が答えた。
「簡単に言わないでください」
「Turは何度も替えた」
「Bizonはもっと重い」
「発動機も大きくすればよい」
「ナセルを作り直します」
元ドイツ軍技術者が主翼図面の発動機架を見た。
「交換できるようにする」
若い軍技術者が目を閉じた。
「また共通架ですか」
「発動機は変わる」
「軍は採用型を決めます」
「決めても供給されないことがある」
ポーランド軍将校は反論しようとした。
しなかった。
WILKが発動機不足から始まった会社であることを思い出したからだった。
元ドイツ軍技術者は、発動機架の線を太く引き直した。
「試作一号機は現行発動機」
「二号機は」
「手に入る中で強いもの」
「量産型は」
「飛んでから決める」
若い軍技術者は言った。
「順番が逆です」
元白軍将校が答えた。
「飛ばない機体の発動機を決めても意味がない」
全員が彼を見た。
ポーランド軍将校が小さく言った。
「今日は三度目か」
元ドイツ軍技術者は答えた。
「数えるな」
会議が終わった頃には、窓の外が暗くなっていた。
壁には、ようやく一つへまとめられたBizonの主翼図面が残っていた。
広い翼。
太い内翼。
左右に分かれた燃料槽。
主桁へつながる巨大な脚。
翼根の十一ミリ機銃。
内外の懸架点。
重要部だけを守る装甲板。
何も載っていない場所は、ほとんどなかった。
若い軍技術者は図面を見上げた。
「これは爆撃機の翼ですか」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「爆弾を吊れる」
「戦闘機の翼ですか」
「機銃を撃てる」
「偵察機の翼ですか」
「燃料と写真機を運べる」
「輸送機の翼ですか」
「貨物を積んで飛べる」
「では、何の翼なのです」
元白軍将校が答えた。
「Bizonの翼だ」
誰も訂正しなかった。
翌朝。
組立棟では、完成した主翼中央部材の加工が始まった。
その隣では、発動機架の図面が早くも描き直されていた。
装甲担当者は最終装甲図を金庫へ入れ、自分で鍵を掛けた。
鍵には札が付けられた。
合意済み。削るな。増やすな。
昼前。
札の裏側に、別の筆跡で一言追加されていた。
発動機が強くなれば増やせる。
装甲担当者は、元白軍将校を探しに行った。