WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――ポーランド陸軍航空部・Bizon試作機性能要求再整理会議
一九三一年

必須事項。

離陸できること。
必要な物資を運べること。
地上目標を攻撃できること。
偵察および地上部隊との連絡を行えること。
被弾後も帰還できる可能性を持つこと。

希望事項。

高速であること。
上昇力に優れること。
長大な航続距離を持つこと。
最大搭載状態でも短距離離陸できること。
片側発動機停止時にも上昇できること。
戦闘機の攻撃を振り切れること。
重爆撃機に匹敵する爆弾を搭載できること。

会議開始後、必須事項と希望事項の区別について議論が行われた。

三時間後。

希望事項は二つ増えていた。

必須事項は一つも減っていなかった。


第83話 全部満たしてから飛ばすな

Bizonの発動機架だけが、主翼図面から浮いていた。

 

翼面積は決まった。

 

燃料槽も分割された。

 

主脚はナセル後部へ収まった。

 

十一ミリ機銃四門の位置も決まった。

 

翼下には、左右二か所ずつ懸架装置がある。

 

装甲配置も、数週間の会議を経てようやく合意された。

 

だが左右の発動機位置には、まだ円だけが描かれている。

 

その円の内側に、

 

現行発動機

 

と書かれていた。

 

若い軍技術者が尋ねた。

 

「正式名称を書かないのですか」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「決まっていない」

 

「ジュピターを使うのでしょう」

 

「一号機にはな」

 

「ならジュピターと書けばよい」

 

「二号機でも使うとは限らん」

 

「同じ試作機で発動機を変えるのですか」

 

元白軍将校が言った。

 

「強いものが手に入れば替える」

 

若い軍技術者は元ドイツ軍技術者を見た。

 

「まさか、この意見を採用したのですか」

 

「発動機についてだけは正しい」

 

元白軍将校は少し誇らしげだった。

 

「何度目だ」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「数えるな。増長する」

 

ユダヤ人実業家は机の端で発動機供給資料を開いていた。

 

国内で入手可能なもの。

 

国外から購入できるもの。

 

将来、ライセンス生産される可能性のあるもの。

 

既に別の軍用機へ優先供給されているもの。

 

価格。

 

納期。

 

予備部品。

 

整備工具。

 

整備教育。

 

発動機そのものより、その後ろに続く紙の方が多かった。

 

「一号機用として、ジュピター二基は確保できます」

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

「いつだ」

 

「一基はすぐに。もう一基は整備後に引き渡し可能です」

 

「新品ではないのか」

 

「新品を待つ場合、試作日程が延びます」

 

「どの程度」

 

「明確な回答はありません」

 

元白軍将校が言った。

 

「なら中古でよい」

 

若い軍技術者が反論した。

 

「新型機の性能試験ですよ」

 

「回るなら同じだ」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「同じではない」

 

「では新品を待つか」

 

「待たん」

 

「結局、中古でよいのだろう」

 

「分解して測る。摩耗を記録する。左右の差を合わせる。試験結果へ補正を入れる」

 

元白軍将校は頷いた。

 

「つまり中古でよい」

 

「お前の言い方では採用しない」

 

発動機担当者が、ジュピター二基を使った場合の性能予測を読み上げた。

 

標準燃料。

 

乗員四名。

 

固定武装四門。

 

通常弾薬。

 

装甲装着。

 

爆弾なし。

 

翼下懸架物なし。

 

その状態なら、離陸できる。

 

上昇できる。

 

巡航できる。

 

片側発動機停止後も、条件がよければ高度を維持できる可能性がある。

 

次。

 

標準燃料。

 

通常弾薬。

 

爆弾搭載。

 

翼下小型爆弾。

 

装甲装着。

 

離陸できる。

 

上昇力は低下する。

 

片側発動機停止時には、爆弾投棄が必要。

 

次。

 

長距離偵察状態。

 

爆弾を減らす。

 

弾薬を減らす。

 

増槽を装着する。

 

写真機、無線機、観測員を搭載する。

 

離陸できる。

 

巡航できる。

 

航続距離は要求を満たす可能性がある。

 

片側発動機停止時は、増槽投棄または燃料移送が必要。

 

次。

 

重掃射状態。

 

十一ミリ四門。

 

内側懸架点へ十一ミリ二連装ガンポッド二基。

 

弾薬増加。

 

爆弾なし。

 

増槽なし。

 

離陸できる。

 

上昇は遅い。

 

航続距離は短い。

 

片側発動機停止時の飛行継続は困難。

 

元白軍将校が尋ねた。

 

「困難とは、落ちるのか」

 

発動機担当者が答えた。

 

「直ちには落ちません」

 

「なら帰れる」

 

「高度を失います」

 

「前へ進めるか」

 

「進めます」

 

「なら帰れる」

 

若い軍技術者が言った。

 

「途中に山や森林があります」

 

「避けろ」

 

「敵地の低空を片発で飛ぶのですよ」

 

「撃たれた後なら、既に敵地だ」

 

「そういう問題ではありません!」

 

元ドイツ軍技術者は性能表を見た。

 

「重掃射状態で片発になったら、ガンポッドを捨てる」

 

兵装担当者が顔を上げた。

 

「投棄式にするのですか」

 

「非常時だけだ」

 

「固定金具を投棄式へ変えると重量が増えます」

 

「全部ではない。重懸架点だけだ」

 

「高価な機銃も落ちます」

 

元白軍将校が言った。

 

「機体と乗員より安い」

 

ユダヤ人実業家が即座に答えた。

 

「その通りです」

 

兵装担当者は、二人を交互に見た。

 

「会計と白軍が同意すると怖いですね」

 

ポーランド軍将校も同意した。

 

爆撃担当者が資料を出した。

 

「爆弾搭載量を減らす案には反対です」

 

発動機担当者が答えた。

 

「最大搭載状態では上昇力が不足します」

 

「攻撃機として爆弾が少なければ意味がありません」

 

偵察担当者が口を挟んだ。

 

「偵察任務では必要ありません」

 

「偵察部門の話ではない」

 

「同じ機体です」

 

「だから困っている!」

 

輸送担当者も資料を開いた。

 

「貨物を積む場合、爆弾架は使いません」

 

爆撃担当者が振り返る。

 

「今は貨物の話でもない!」

 

「同じ床を使います」

 

「それも困っている!」

 

元独立運動家は、会議机の上へ木箱を置いた。

 

軍用食料箱。

 

医薬品箱。

 

十一ミリ弾薬箱。

 

三種類だった。

 

「同じ重量でも、中身は違う」

 

若い軍技術者が言った。

 

「当然です」

 

「必要な時に必要な物を積めばよい」

 

爆撃担当者が首を振った。

 

「爆撃機は爆弾を積むものです」

 

「Bizonは爆撃機だけではない」

 

「軍用機は任務を明確にすべきです」

 

元白軍将校が尋ねた。

 

「敵が攻めてきた日に、爆弾がなければどうする」

 

「補給を待ちます」

 

「弾薬箱を運ぶ」

 

「それは輸送任務です」

 

「帰りに負傷者を積む」

 

「救急搬送です」

 

「途中で敵の車列を見つけたら」

 

「偵察報告します」

 

「機銃で撃つ」

 

「攻撃任務です!」

 

元白軍将校は頷いた。

 

「全部できるな」

 

爆撃担当者は返事をしなかった。

 

ポーランド軍将校が机を叩いた。

 

「任務ごとに搭載を分ける」

 

全員が静かになった。

 

軍将校は黒板へ書いた。

 

攻撃。

 

防御。

 

偵察。

 

砲兵観測。

 

輸送。

 

救急搬送。

 

長距離回送。

 

「Bizon一機へ、全任務の最大搭載を同時に要求しない」

 

元白軍将校が言った。

 

「必要なら積めるようにはする」

 

「通常搭載にはしない」

 

「非常時は」

 

「機長および部隊指揮官の判断だ」

 

「ならよい」

 

「お前を機長にしないことが最初の安全対策だ」

 

元白軍将校は不満そうだった。

 

発動機担当者は、任務ごとの重量表を作り始めた。

 

攻撃任務。

 

燃料は中程度。

 

爆弾を搭載。

 

弾薬は標準。

 

必要に応じて翼下爆弾。

 

偵察任務。

 

爆弾は小型のみ、または搭載しない。

 

燃料を増やす。

 

写真機と無線機を搭載。

 

観測員を乗せる。

 

地上掃射任務。

 

爆弾を減らす。

 

弾薬を増やす。

 

必要なら重ガンポッド。

 

防御任務。

 

航続距離より即応性を優先。

 

小型爆弾。

 

標準弾薬。

 

短時間で繰り返し出撃。

 

輸送任務。

 

爆弾と外装武装を外す。

 

貨物を積む。

 

必要なら固定機銃だけ残す。

 

救急搬送。

 

担架。

 

衛生兵。

 

医薬品。

 

帰路の重量を考え、往路の貨物を制限する。

 

元独立運動家が言った。

 

「往路で弾薬を運び、帰りに負傷者を積める」

 

輸送担当者が頷いた。

 

「重量配分としてもよい」

 

若い軍技術者が尋ねた。

 

「前線飛行場で装備変更できますか」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「できるように作る」

 

「専用設備なしで?」

 

「脚立、手押し揚重機、工具箱があればよい」

 

「爆弾架も」

 

「共通金具だ」

 

「ガンポッドも」

 

「同じ重懸架点へ付く」

 

「増槽も」

 

「配管接続を加える」

 

若い軍技術者は重量表の横へ、新しい欄を書いた。

 

装備変更所要時間。

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「熟練者の最短時間を書くな」

 

「なぜです」

 

「普通の整備員が、雨の中で行った時間を書け」

 

「性能試験なら最良条件を――」

 

「戦争が最良条件で来ると思うか」

 

若い技術者は欄名を書き直した。

 

野外標準変更時間。

 

偵察担当者は、Bizonの平面図を広げた。

 

「偵察性能は、速度だけで評価しないでください」

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

「何を見る」

 

「滞空時間。低速安定性。観測員の視界。写真機の振動。無線通信。被弾後の帰還性です」

 

発動機担当者が言った。

 

「高速偵察機には追いつけません」

 

「敵から逃げ切る用途ではありません」

 

「なら敵戦闘機に捕まります」

 

兵装担当者が、前方四門と後部銃座を指した。

 

「追ってきたことを後悔させます」

 

若い軍技術者が言った。

 

「戦闘機と空戦する機体ではありません」

 

「逃げながら撃つだけです」

 

「前方四門は後ろへ撃てません」

 

元白軍将校が答えた。

 

「一度向き直ればよい」

 

「空戦する気ではありませんか!」

 

偵察担当者は議論を戻した。

 

「Bizonの利点は、発見後すぐに行動できることです」

 

「行動とは」

 

「無線報告。写真撮影。砲兵射撃修正。必要なら小型爆弾投下または地上掃射」

 

爆撃担当者が眉を寄せた。

 

「偵察員の判断で爆弾を落とすのか」

 

「攻撃許可がある任務なら」

 

「目標選定は」

 

「車列、橋、砲兵陣地、燃料集積所などです」

 

「爆撃照準員なしで?」

 

「低高度の阻止攻撃です。精密爆撃ではありません」

 

元白軍将校が言った。

 

「見つける。知らせる。邪魔をする」

 

偵察担当者は少し考えた。

 

「大まかには」

 

若い軍技術者が記録した。

 

偵察任務において、発見した目標への限定的即応攻撃を可能とする。

 

ポーランド軍将校が文面を確認した。

 

「“邪魔をする”とは書くな」

 

「書いていません」

 

防御任務については、地上軍側から来た少佐が説明した。

 

「敵の突破地点へ爆撃機を呼んでも、間に合わないことがあります」

 

爆撃担当者が言った。

 

「待機機を用意すれば」

 

「専用爆撃機は遠方目標へ出ています」

 

「戦闘機は」

 

「爆弾搭載量が少ない」

 

「砲兵は」

 

「移動中か、既に射撃位置が知られている場合があります」

 

少佐はBizonの搭載表を指した。

 

「前線近くに一機あればよい」

 

小型爆弾。

 

十一ミリ四門。

 

無線。

 

観測員。

 

「敵車列の先頭へ爆弾を落とす」

 

一つ。

 

「後続を十一ミリで掃射する」

 

二つ。

 

「位置を砲兵へ送る」

 

三つ。

 

「自軍が後退するなら上空から援護する」

 

四つ。

 

「帰りに負傷者を運ぶ」

 

五つ。

 

爆撃担当者が言った。

 

「どれも専用機の方が上手くできます」

 

少佐は頷いた。

 

「全ての専用機が、その場所にいれば」

 

会議室が静かになった。

 

元独立運動家が言った。

 

「いないからBizonを作る」

 

地上軍少佐は、初めてWILK側へ好意的な顔をした。

 

発動機担当者は、再び性能表へ戻った。

 

「ジュピター二基で、これらの任務は可能です」

 

若い軍技術者が尋ねた。

 

「要求性能を満たすのですか」

 

「任務は可能です」

 

「質問への答えになっていません」

 

「最大速度は不足します」

 

一つ。

 

「満載時上昇力も不足します」

 

二つ。

 

「高温時、未整地からの最大搭載離陸には制限が必要です」

 

三つ。

 

「片発状態での上昇は、軽量時を除いて期待できません」

 

四つ。

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

「では何ができる」

 

発動機担当者は別の紙を出した。

 

「離陸できます」

 

一つ。

 

「標準搭載で必要地点まで飛行できます」

 

二つ。

 

「爆弾を運べます」

 

三つ。

 

「固定機銃四門を発射できます」

 

四つ。

 

「偵察機材と無線機を運べます」

 

五つ。

 

「装甲を付けた状態で飛べます」

 

六つ。

 

「主脚を格納できます」

 

七つ。

 

「片発時も、搭載物を投棄すれば飛行継続の可能性があります」

 

八つ。

 

元白軍将校が言った。

 

「十分だ」

 

若い軍技術者は反論した。

 

「軍用機としては不足です」

 

「何と戦う」

 

「敵です」

 

「戦闘機と速さを競うのか」

 

「追撃されます」

 

「後ろへ撃つ」

 

「爆撃機と搭載量を競うのか」

 

「攻撃力が必要です」

 

「十一ミリと爆弾がある」

 

「偵察機と航続距離を競うのか」

 

「遠くを見る必要があります」

 

「爆弾を減らして燃料を積む」

 

「専用機ほど優れていません」

 

元白軍将校は性能表を指した。

 

「だが全部できる」

 

「全部が中途半端です」

 

元独立運動家が言った。

 

「中途半端な仕事しか残っていない日もある」

 

若い軍技術者は黙った。

 

前線は、いつも一種類の問題だけを用意してくれるわけではない。

 

ポーランド軍将校は、必須事項の紙を取り上げた。

 

「合格基準を決める」

 

第一。

 

標準搭載状態で安全に離陸し、帰投できること。

 

第二。

 

爆弾搭載状態で攻撃目標へ到達できること。

 

第三。

 

固定十一ミリ機銃四門の発射によって、操縦困難となる振動または姿勢変化を生じないこと。

 

第四。

 

偵察装備および無線装備を搭載し、観測飛行を行えること。

 

第五。

 

貨物または担架を搭載できること。

 

第六。

 

規定範囲の損傷を受けた場合にも、飛行または不時着の選択肢を残すこと。

 

第七。

 

未整地で運用できること。

 

第八。

 

より高出力の発動機へ換装できること。

 

若い軍技術者が尋ねた。

 

「速度要求は」

 

「試験する」

 

「合格基準には」

 

「量産型までに改善する」

 

「上昇力は」

 

「同じだ」

 

「片発上昇は」

 

ポーランド軍将校は少し考えた。

 

「片発状態で直ちに墜落しないこと」

 

発動機担当者が言った。

 

「技術文書として曖昧です」

 

元白軍将校は頷いた。

 

「よい基準だ」

 

「あなたに同意されると不安になります」

 

元ドイツ軍技術者が文面を直した。

 

片発停止時、搭載物投棄および燃料系統操作を行うことで、制御飛行を継続できること。

 

若い軍技術者が読んだ。

 

「上昇とは書かないのですか」

 

「今の発動機では無理だ」

 

「高度維持は」

 

「条件による」

 

「では降下する」

 

「墜落せずに降りる」

 

「それを性能と呼びますか」

 

元ドイツ軍技術者は答えた。

 

「帰還する時間を買う性能だ」

 

装甲担当者が、合格基準の紙を覗いた。

 

「規定範囲の損傷とは、どこまでです」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「燃料槽一区画の漏れ」

 

「はい」

 

「油圧喪失」

 

「はい」

 

「主脚収納固定具片側破損」

 

「はい」

 

「操縦索一本損傷」

 

「予備経路があります」

 

「発動機一基停止」

 

発動機担当者が顔をしかめた。

 

「試験では完全停止まで行うのですか」

 

「段階的にな」

 

装甲担当者が続けた。

 

「装甲板への実射は」

 

「地上で行う」

 

「搭載状態での被弾模擬は」

 

若い軍技術者が尋ねた。

 

「どう再現します」

 

元白軍将校が言った。

 

「撃てばよい」

 

全員が振り向いた。

 

「無人で固定する」

 

兵装担当者が言った。

 

「地上試験機へ射撃する案ですか」

 

「飛行中に撃つより安全だ」

 

ポーランド軍将校が額を押さえた。

 

「当たり前だ!」

 

装甲担当者は真面目に考えた。

 

「燃料槽へは水を入れます」

 

燃料担当者が続けた。

 

「色を付ければ漏洩経路も確認できます」

 

構造担当者。

 

「被弾後に荷重試験を行う」

 

元ドイツ軍技術者。

 

「修理時間も測る」

 

若い軍技術者は、新しい試験項目を書いた。

 

被弾模擬後の機能維持および野外修理性。

 

元白軍将校は満足そうだった。

 

「撃てば分かる」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「お前には銃を渡さない」

 

「なぜだ」

 

「必要以上に撃つ」

 

「弱い場所を探すには必要だ」

 

「だから渡さない!」

 

会議の後半では、発動機架が議題となった。

 

元ドイツ軍技術者は、新しい図面を広げた。

 

機体側の環状隔壁。

 

そこへ取り付ける中間架。

 

発動機ごとに交換する取付部。

 

燃料管。

 

油管。

 

操縦連結。

 

排気管。

 

覆い。

 

全てを分割する。

 

若い軍技術者が言った。

 

「専用架より重いです」

 

「少しな」

 

「抵抗も増えます」

 

「覆いで整える」

 

「発動機交換時にナセル全体を作り直す方が軽くできます」

 

「そのたびに飛行試験を最初からやるのか」

 

「必要な部分だけです」

 

「配管を切り、隔壁を削り、脚庫との間隔を調整し、燃料槽を動かす。その間、機体は飛ばない」

 

元白軍将校が言った。

 

「なら交換式でよい」

 

若い軍技術者は図面の余白を見た。

 

そこには、将来使う可能性のある発動機寸法が、複数の円で描かれていた。

 

現在のジュピター。

 

少し小径で高出力の候補。

 

より大型の将来候補。

 

「まだ存在しない発動機まで描いていますね」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「存在してからでは遅い」

 

「性能も寸法も分からないのに」

 

「全てには対応できん。対応できる範囲を作る」

 

「大きすぎれば」

 

「載せない」

 

「重すぎれば」

 

「載せない」

 

「形が違えば」

 

「中間架を作る」

 

「簡単に言いますね」

 

元白軍将校が笑った。

 

「私と同じだ」

 

元ドイツ軍技術者の顔が険しくなった。

 

「構造計算をしてから言っている」

 

「結果は同じだ」

 

「過程が違う!」

 

ユダヤ人実業家は、供給契約の草案を机へ置いた。

 

ジュピター五基。

 

一号機用二基。

 

二号機用二基。

 

予備一基。

 

交換部品。

 

専用工具。

 

整備講習。

 

故障記録の共有。

 

将来型発動機に関する供給照会。

 

ポーランド軍将校が数えた。

 

「予備は一基だけか」

 

「追加すれば試作費が増えます」

 

「左右二基使う機体だぞ」

 

「一度に二基壊す試験は予定していません」

 

元白軍将校が言った。

 

「戦争では壊れる」

 

ユダヤ人実業家は頷いた。

 

「量産契約時には予備率を増やします」

 

「今も要る」

 

「誰が払います」

 

元白軍将校はポーランド軍将校を見た。

 

ポーランド軍将校はユダヤ人実業家を見た。

 

ユダヤ人実業家は契約書を見た。

 

元独立運動家が言った。

 

「使わない時はTurへ載せられないか」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「型によるが、改修すれば使える」

 

ユダヤ人実業家は新しい欄を書いた。

 

予備発動機の他機種共用可能性。

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「書くと増えるぞ」

 

「遊ばせるより安いです」

 

「結局、何基買う」

 

「六基なら単価が下がります」

 

「増えた!」

 

「一基は教育用です」

 

「なぜ教育用が必要だ」

 

「整備員が必要です」

 

「既存の整備員がいる」

 

「Bizon部隊へ全員移せません」

 

「では講習しろ」

 

「分解教育用発動機が要ります」

 

ポーランド軍将校は黙った。

 

自分で増やしたことに気づいたからだった。

 

契約は六基になった。

 

夕方。

 

会議室の壁へ、最終決定が貼られた。

 

Bizon一号機は、現行ジュピター系発動機二基を搭載する。

 

現行発動機による性能不足は認識する。

 

ただし、初飛行および基本任務試験を延期する理由とはしない。

 

量産型発動機は、一号機の試験結果および将来の供給状況を踏まえて決定する。

 

発動機架は交換式中間架を採用する。

 

Bizonの合格は、単一性能の最大値によって判断しない。

 

飛行。

輸送。

地上攻撃。

爆撃。

偵察。

通信。

損傷時飛行継続。

未整地運用。

 

以上の任務を、規定搭載状態で実施可能であることを確認する。

 

若い軍技術者は最後まで読み、尋ねた。

 

「つまり、どの性能が最も重要なのですか」

 

ポーランド軍将校が答えようとした。

 

速度。

 

航続距離。

 

爆弾搭載量。

 

上昇力。

 

どれも必要だった。

 

どれか一つだけを選べば、Bizonではなくなる。

 

元独立運動家が先に言った。

 

「必要な日に飛べることだ」

 

元白軍将校が続けた。

 

「必要な場所まで行く」

 

元ドイツ軍技術者。

 

「必要な物を載せる」

 

ユダヤ人実業家。

 

「そして、機体と乗員を戻す」

 

ポーランド軍将校は決定書へ署名した。

 

「それを数字で証明しろ」

 

若い軍技術者は頷いた。

 

署名から二日後。

 

発動機を積んだ貨車が、WILKの引込線へ入った。

 

一基目。

 

整備済みジュピター。

 

二基目。

 

同じ系列。

 

ただし製造時期が違う。

 

付属品も少し違う。

 

箱を開けた元ドイツ軍技術者は、左右を見比べた。

 

「同じではない」

 

ポーランド軍将校が記録を確認した。

 

「同型だ」

 

「点火装置が違う」

 

「性能は」

 

「ほぼ同じ」

 

「なら使える」

 

「配管位置も違う」

 

「中間架がある」

 

「中間架は発動機を支える。配管までは合わせない」

 

元白軍将校が言った。

 

「管を曲げろ」

 

元ドイツ軍技術者は彼を見た。

 

「今回は半分正しい」

 

「今日は多いな」

 

「規定半径を守って曲げる」

 

「曲げることは同じだ」

 

「お前は二度と配管へ触るな」

 

工員たちが発動機を吊り上げる。

 

左ナセルへ一基。

 

右ナセルへ一基。

 

Bizonの大きな翼へ、ようやく力が載り始めた。

 

まだ飛ばない。

 

まだ運ばない。

 

まだ撃たない。

 

まだ爆弾も落とさない。

 

だが少なくとも、何をもってこの機体を合格とするかは決まった。

 

完璧な発動機を待たない。

 

完璧な速度も待たない。

 

全部の希望を満たす日も待たない。

 

まず、今ある力で飛ばす。

 

飛べば、運ぶ。

 

運べば、撃つ。

 

撃てば、耐える。

 

耐えれば、帰す。

 

それができた後で、もっと速くする。

 

Bizon一号機の発動機架へ、最初のボルトが差し込まれた。

 

工場の壁には、新しい試験予定表が貼られた。

 

第一段階――発動機地上運転。

 

第二段階――低速走行。

 

第三段階――高速走行。

 

第四段階――初飛行。

 

その下に、元白軍将校の筆跡で一行追加されていた。

 

飛べたら爆弾を積む。

 

ポーランド軍将校が線を引いて消した。

 

さらにその下へ、別の筆跡で書き直された。

 

飛んでから考える。

 

今度は誰も消さなかった。

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