一九三一年
搭載武装。
十一ミリ固定機銃、四門。
配置。
操縦席左右、各一門。
左右主翼根、各一門。
第一試験。
地上固定状態における一門発射。
第二試験。
左右二門同時発射。
第三試験。
四門同時発射。
第四試験。
飛行中単発射撃。
第五試験。
飛行中四門同時射撃。
禁止事項。
試験順序を変更しないこと。
規定弾数を超えて発射しないこと。
地上要員が射線内へ入らないこと。
元白軍将校を発射操作位置へ座らせないこと。
元白軍将校から訂正要求が提出された。
最後の一項は技術的要件ではない。
試験責任者回答。
安全上の要件である。
Bizon一号機は、滑走路の端ではなく、工場から離れた射撃試験場へ運ばれた。
機首は土塁へ向けられている。
土塁の前には、木板。
その後ろに砂袋。
さらに古い鉄板。
そのさらに後ろに、誰が置いたのか分からない壊れた荷車が一台。
ポーランド軍将校は荷車を見た。
「誰が置いた」
元白軍将校が答えた。
「撃った後を見やすい」
「許可は」
「持ち主はいない」
「どこから持ってきた」
「廃材置場だ」
元独立運動家が荷車の車輪を見た。
「片方はまだ使える」
元ドイツ軍技術者が言った。
「射撃後に見ろ」
「撃つ前なら使える」
「今は標的だ」
ユダヤ人実業家が帳簿へ書いた。
「試験用廃材、一台」
ポーランド軍将校が振り向いた。
「購入扱いにするな」
「会社資産を試験で消費します」
「誰の資産だ」
「確認中です」
「確認してから撃て!」
射撃試験は三十分遅れた。
荷車は、工場の古い運搬具だった。
既に廃棄承認済みだった。
元白軍将校は満足した。
ポーランド軍将校は、なぜ自分が射撃前に荷車の所有権を調べているのか分からなくなった。
最初に撃つのは、操縦席左側の一門だった。
十一ミリ機銃。
WILKのフランス工場で製造された、旧式ヴィッカース系統を基礎とする航空機銃。
Turでは単装ガンポッドとして使われている。
Bizonでは固定武装として、機体内部へ収められた。
弾薬箱。
給弾路。
排莢口。
点検扉。
発射索。
照準器。
一つずつ確認する。
兵装担当者が機銃の覆いを閉じた。
「十発だけです」
元白軍将校が尋ねた。
「十発で何が分かる」
「動くか分かります」
「壊れるかは」
「次に分かります」
「百発撃てば一度で分かる」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「十発で壊れるものを百発撃つな」
「壊れなければ百発撃てる」
「順番にやれ」
元白軍将校は、少し離れた観測位置へ移された。
そこには椅子が一つ用意されていた。
椅子の脚は地面へ固定されていた。
「私を縛る気か」
ポーランド軍将校が答えた。
「椅子だけだ」
「なぜ固定した」
「お前が射撃位置へ歩かないようにするためだ」
「椅子ごと行ける」
「だから重くした」
椅子の座面下には、鉄板が二枚取り付けられていた。
元白軍将校は座らなかった。
その横に立った。
発動機は止めたまま。
機体は輪止めと固定索で押さえられている。
射撃操作は、操縦席に座った兵装試験員が行う。
安全解除。
機銃選択。
左胴体銃。
発射。
十一ミリ機銃が鳴った。
一発。
二発。
三発。
短い連続音。
機体前部が細かく震える。
排莢口から薬莢が落ちる。
十発。
停止。
少し遅れて、土塁から土煙が上がった。
全員が機体を見る。
煙。
火。
燃料漏れ。
外板の緩み。
機銃架の変形。
ない。
兵装担当者が点検扉を開けた。
銃身。
給弾部。
発射索。
取付部。
問題なし。
若い軍技術者が記録した。
「機体振動、軽微」
元ドイツ軍技術者が機銃架へ手を当てた。
「熱は」
「許容範囲です」
元白軍将校が土塁を見た。
「当たっている」
兵装担当者が答えた。
「固定機銃ですから」
「なら次は四門だ」
「次は右側一門です」
「同じだろう」
「取り付け位置が違います」
「銃は同じだ」
「機体が違います」
元白軍将校は、Bizon全体を見た。
「同じ機体だ」
兵装担当者は一瞬、言葉を失った。
元ドイツ軍技術者が助けた。
「左右で配管も架構も違う」
「なら最初からそう言え」
「最初から言っている!」
右胴体銃。
正常。
左翼根銃。
発射直後、翼根の点検扉が細かく震えた。
留め具は外れなかった。
だが塗られていた確認線が、わずかにずれた。
元ドイツ軍技術者が発射を止めた。
「留め具を変える」
若い軍技術者が言った。
「規定弾数はまだ半分です」
「半分でずれた」
「外れてはいません」
「外れるまで撃つ必要はない」
元白軍将校が言った。
「外れた時に何発目か分かる」
「分からなくてよい!」
留め具は、回転式から二重固定式へ変更された。
外側から目視できる安全線も追加された。
再試験。
二十発。
ずれなし。
右翼根銃。
正常。
一門ずつの試験だけで、午前が終わった。
元白軍将校は昼食の黒パンを食べながら言った。
「四門撃つだけで一日かかるな」
ポーランド軍将校が答えた。
「四門を一門ずつ確認している」
「四門同時なら一度だ」
「一度壊れたら、どこが原因か分からん」
「全部直せばよい」
元ドイツ軍技術者が言った。
「原因が分からなければ同じ壊れ方をする」
元白軍将校はパンをちぎった。
「二度目で分かる」
「一度目で止めろ」
午後。
左右胴体銃、二門同時。
二十発ずつ。
機首が震える。
単装時より明確だった。
だが操縦席そのものが大きく揺さぶられるほどではない。
機銃架の反動は、前部隔壁から胴体構造へ流れた。
照準器の支持部だけが、少し動いた。
兵装担当者は照準器を覗いた。
「ずれています」
若い軍技術者が尋ねた。
「機銃ですか」
「照準器です」
元白軍将校が言った。
「銃身を見て撃て」
試験操縦士が答えた。
「飛行中に銃身は見えません」
「弾着を見ろ」
「最初の弾はどこへ撃つのです」
「敵の近く」
ポーランド軍将校が言った。
「敵の近くではなく、敵へ当てろ」
照準器支持部へ補強が追加された。
ただし単純に厚くはしなかった。
厚くすれば振動が別の場所へ移る。
支持点を一つ増やし、細い緩衝材を挟む。
再試験。
ずれは減った。
元ドイツ軍技術者が言った。
「飛行中に確認する」
若い軍技術者が尋ねた。
「地上では合格ですか」
「地上ではな」
左右翼根銃、二門同時。
発射。
主翼中央部へ、低く重い振動が伝わる。
胴体銃より操縦席への衝撃は小さい。
だが主翼下の懸架金具が細かく鳴った。
空の懸架金具だった。
若い軍技術者が下へ潜り込む。
「外側軽懸架点です」
懸架担当者が固定部を確認した。
「破損なし」
「鳴っています」
「遊びがある」
「規定内です」
元ドイツ軍技術者が言った。
「爆弾を吊った時に鳴らなければよい」
「吊った方が安定するのですか」
「質量が増える。振動の出方が変わる」
元白軍将校が言った。
「なら爆弾を吊って撃て」
爆撃担当者が答えた。
「まだ投下試験前です」
「落とさなければよい」
「暴発したら」
「そのための土塁だ」
ポーランド軍将校が叫んだ。
「実爆弾を地上射撃試験へ持ち込むな!」
代わりに、同重量の砂入り模擬爆弾が吊られた。
再射撃。
懸架金具の音は減った。
ただし内側重懸架点の支持部へ、別の細かな振動が出た。
懸架担当者は頭を抱えた。
「何も吊らなくても鳴る。吊っても鳴る」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「違う場所がな」
「全部固定すれば」
「荷重を逃がせなくなる」
「ではどうします」
「壊れない音なら許す」
若い軍技術者が言った。
「技術的な表現ではありません」
元白軍将校が顔を上げた。
「悪い音と、悪くない音がある」
元ドイツ軍技術者は少し黙った。
「今回は正しい」
若い軍技術者は、二人を見比べた。
「音の基準を数値にしてください」
振動計が追加された。
夕方。
四門同時発射。
予定弾数。
各十発。
合計四十発。
試験員が操縦席へ座る。
機銃選択。
四門。
安全解除。
元白軍将校が少し前へ出た。
ポーランド軍将校が襟を掴んで戻した。
「見えん」
「双眼鏡を使え」
「音を聞く」
「後ろでも聞こえる」
「前の方がよく聞こえる」
「弾もよく飛んでくる」
元白軍将校は観測線の後ろへ戻された。
発射。
四門の十一ミリ機銃が同時に鳴った。
一門ずつとは違う。
音が重なった。
短い砲撃のような衝撃が空気を押す。
Bizonの機首と翼根が一度に震える。
薬莢が左右から落ちる。
地面へ跳ねる。
土塁に四本の弾道が集中する。
木板が裂ける。
砂袋が破れる。
後方の鉄板へ穴と深い傷が並ぶ。
最後に、古い荷車の側板が吹き飛んだ。
十発ずつ。
停止。
土煙が風に流れる。
Bizonは固定位置に残っていた。
機銃も残っていた。
点検扉も閉じている。
照準器も落ちていない。
元白軍将校が言った。
「よい」
若い軍技術者が記録を見た。
「機首振動、予測範囲内」
兵装担当者。
「四門とも給弾正常」
翼担当者。
「主翼構造、異常なし」
懸架担当者。
「懸架金具、異常なし」
元ドイツ軍技術者は、各取付部を順番に見た。
ボルト。
確認線。
外板。
弾薬箱。
排莢口。
最後に土塁を見る。
「散っている」
兵装担当者が答えた。
「各銃の照準線が揃っていません」
元白軍将校が言った。
「広く当たる」
「狙った場所へ集めます」
「歩兵は広くいる」
「車両も撃ちます」
「車列も長い」
「狙うのです!」
照準線をどう合わせるかで、次の会議が始まった。
遠距離で一点へ収束させる案。
一定距離で二組ずつ交差させる案。
四門をほぼ平行にする案。
兵装担当者は収束を主張した。
「一定距離で弾着を集中できます」
地上軍少佐が尋ねた。
「どの距離だ」
「三百メートル」
「掃射開始は」
「状況によります」
「四百メートルなら」
「まだ収束前です」
「二百メートルなら」
「収束後に広がります」
元白軍将校が言った。
「平行でよい」
兵装担当者は首を振った。
「一点への破壊力が下がります」
「地上は面だ」
「車両は点です」
「車列は線だ」
「機関銃座は点です」
「周囲も撃て」
若い軍技術者が言った。
「弾薬を無駄にします」
元白軍将校は四門の配置図を見た。
「内側二門は少し集める。外側二門は広げる」
会議室が静かになった。
兵装担当者が図面へ線を引いた。
胴体側二門。
翼根二門。
胴体銃は遠方で狭く交差。
翼根銃は、ほぼ平行。
「近距離では四門とも一定範囲へ入る」
若い軍技術者が計算する。
「遠距離では胴体二門が集中し、翼根二門が左右を覆います」
地上軍少佐が頷いた。
「車両先頭を胴体銃で狙い、周辺を翼根銃で抑えられる」
兵装担当者は不満そうだった。
「射撃教範が複雑になります」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「照準器には中央だけ出せ」
「外側二門の弾着は」
「射手が覚える」
「熟練が必要です」
「完全な一点収束でも距離判断が要る」
ポーランド軍将校が決定した。
「試す」
元白軍将校が言った。
「最初からそう言った」
元ドイツ軍技術者は顔をしかめた。
「たまたま使える意見だった」
二日後。
飛行射撃試験。
Bizon一号機は四門全てへ弾薬を積んだ。
爆弾なし。
翼下懸架物なし。
燃料は標準以下。
操縦士。
機関担当。
兵装観測員。
後部銃手席には、今回も砂袋。
元白軍将校は搭乗を申請した。
理由。
地上からでは弾着が見えにくい。
却下。
再申請。
後部からなら射線外である。
却下。
第三申請。
砂袋より軽い。
測定された。
元白軍将校の方が重かった。
申請理由が一つ減った。
標的は、長い布を敷いた地上区画だった。
白い布。
黒い円。
左右には古い車体と木箱。
実弾射撃区画の周囲は閉鎖されている。
Bizonが離陸する。
上昇。
旋回。
射撃進入。
高度を下げる。
速度を整える。
操縦士は機首を標的へ向けた。
大きな翼。
低い進入速度。
Bizonは急降下というより、地面へ向けて重く滑り込む。
兵装観測員が距離を読む。
四百。
三百五十。
三百。
操縦士が一門だけ発射した。
胴体左銃。
短い連射。
機体がわずかに右へ押される。
操縦士が修正する。
離脱。
地上観測班が弾着を記録する。
標的の少し左。
二度目。
左右胴体銃。
発射。
機首へ細かな振動。
姿勢変化は小さい。
弾着は中央へ寄った。
三度目。
四門。
発射。
重い連続音。
操縦桿へ振動が伝わる。
だが照準線は大きく跳ねない。
布の中央。
その左右。
弾着が長い帯を作る。
操縦士は短く撃ち、すぐ機首を上げた。
地面が下へ流れる。
Bizonは低空から離脱した。
無線が入る。
四門発射、操縦可能。
照準器振動、許容。
機首上げ遅れなし。
地上軍少佐は弾着帯を見た。
中央の黒円には胴体銃の弾が集中している。
左右の木箱と車体には、翼根銃の弾が散っていた。
「よい」
兵装担当者が尋ねた。
「一点へ集めた方が破壊力は上です」
「一点の隣で伏せている兵も、動けなくなる」
「弾薬消費が増えます」
「撃破しなくても止めればよい」
ポーランド軍将校が言った。
「前線阻止用としては合格だ」
元白軍将校が言った。
「だから広く撃てと言った」
兵装担当者は聞こえないふりをした。
射撃試験後。
Bizonは着陸した。
点検。
四門とも正常。
右翼根銃の給弾路に、軽い擦過痕。
胴体右銃の排莢口へ薬莢が一つ引っ掛かっていた。
発射停止には至らない。
照準器のずれは小さい。
発動機架異常なし。
翼構造異常なし。
ただし、操縦席右側の窓へ火薬の煤が付着していた。
操縦士が言った。
「視界が悪くなる」
兵装担当者が排煙経路を見る。
「胴体右銃からです」
元ドイツ軍技術者が言った。
「排莢口と排気口を分けろ」
「外板へ穴が増えます」
「煤で見えなくなるよりよい」
元白軍将校が窓を指で拭いた。
「布を置け」
操縦士が答えた。
「掃射中に拭けと?」
「終わってからだ」
「次の進入までに間に合いません」
元独立運動家が言った。
「風で吸い出せないか」
導風板が追加された。
飛行中の気流で、機銃室の煙を下面へ引き出す。
小さな部品だった。
初飛行前には誰も必要だと思わなかった。
四門撃って初めて必要になった。
次は爆弾投下だった。
最初は模擬弾。
砂と鉄片を入れた投下試験体。
胴体爆弾倉へ四発。
翼下内側懸架点へ二発。
合計六発。
爆撃担当者は投下順序を説明した。
胴体内一発。
次に二発。
全弾一斉。
翼下一発。
左右同時。
最後に、胴体と翼下の複合投下。
元白軍将校が言った。
「全部一度に落とせば早い」
ポーランド軍将校が答えた。
「また始まった」
「落ちるかを見るのだろう」
爆撃担当者が言った。
「一発落ちなかった時、どの系統が悪いか確認します」
「全部落ちなければ全部直す」
「順番にやります」
元白軍将校は、既に射撃試験で何度も聞いた言葉に不満そうだった。
地上投下試験。
Bizonを台座へ載せる。
爆弾倉下へ砂場。
投下操作。
一発目。
落ちた。
砂へ半分埋まる。
二発目。
落ちた。
三発目。
落ちない。
爆撃担当者が操作を戻す。
もう一度。
落ちない。
元白軍将校が下から見た。
「蹴れば落ちる」
「下へ入らないでください」
「安全装置は掛かっている」
「落ちない爆弾の下へ立つな!」
原因は、投下金具と模擬弾側の吊環の寸法差だった。
どちらも規定範囲。
組み合わせると、斜め荷重で引っ掛かる。
元ドイツ軍技術者は吊環を見た。
「角を落とす」
若い軍技術者が言った。
「爆弾側の規格を変えますか」
「機体側を広く受ける」
「旧式爆弾も使うためですか」
「軍倉庫には古いものが残る」
ポーランド軍将校は反論しなかった。
実際、残っていた。
投下金具の受け面が修正された。
三発目は落ちた。
四発目も。
翼下懸架点。
左右とも正常。
非常投棄。
電気系統を切る。
手動索を引く。
六発全て落ちた。
元白軍将校が言った。
「今度こそ全部一度だった」
爆撃担当者は答えなかった。
飛行投下試験。
一号機が模擬弾六発を積んで離陸する。
初飛行より明らかに重い。
滑走距離が伸びる。
上昇も遅い。
だが飛ぶ。
地上の発動機担当者は記録を見た。
「予測範囲内です」
若い軍技術者が尋ねた。
「余裕は」
「多くありません」
元白軍将校が言った。
「空へ上がった」
「上がるだけでは足りません」
「目標まで行く」
「今日は近いです」
「遠い時は燃料を積む」
「その分さらに重い!」
Bizonは投下区画へ進入した。
高度。
速度。
風。
爆撃担当者が地上から観測する。
一発投下。
模擬弾が胴体下から離れる。
落下。
地面へ当たり、土煙。
機体姿勢の変化は小さい。
二発同時。
左右差なし。
全弾一斉。
爆弾倉から連続して落ちる。
一号機が少し軽くなる。
機首がわずかに上がる。
操縦士が抑える。
翼下左右同時。
模擬弾が離れた瞬間、翼の荷重が変わる。
左右均等。
大きな傾きなし。
最後。
胴体と翼下の複合投下。
六発。
一斉。
Bizonの下が空になる。
機体が明らかに軽くなる。
上昇率が増した。
無線が入る。
投下正常。
姿勢変化、許容。
離脱容易。
元白軍将校が言った。
「爆弾を落とせばよく上がる」
発動機担当者が答えた。
「当たり前です」
「片発になったら落とせ」
「そのための非常投棄です」
「最初からそう言っている」
「あなたが言うと、敵へ落とさず捨てるように聞こえます」
一号機は着陸せず、そのまま次の試験へ入った。
偵察写真。
機体下面の写真機が作動する。
模擬爆撃目標。
道路。
橋。
貨車。
射撃標的。
低速で直線飛行。
次に浅い旋回。
観測員は側面窓から地上を見る。
無線で座標を送る。
地上の砲兵観測班が受信する。
道路上、車両三。
橋東側、模擬砲陣地。
射撃標的周辺、土煙残存。
砲兵側から修正要求。
目標位置を再確認せよ。
Bizonが旋回する。
もう一度見る。
写真を撮る。
無線で修正。
先の報告を訂正。橋東側ではなく南東。距離約二百。
地上軍少佐が頷いた。
「これでよい」
爆撃担当者が尋ねた。
「何がです」
「見て、知らせて、必要ならそのまま攻撃できる」
「爆弾はもうありません」
「今日は試験だからだ」
元白軍将校が言った。
「一発残せばよかった」
ポーランド軍将校は答えた。
「模擬弾だぞ」
「落とす場所を変えればよい」
「試験項目を勝手に増やすな」
着陸後、写真乾板が現像された。
道路。
橋。
貨車。
模擬陣地。
どれも写っている。
ただし、右側写真の一部に細かなぶれ。
写真担当者が言った。
「右翼根機銃を撃った後の支持部が緩んだ可能性があります」
若い軍技術者が驚いた。
「機銃と写真機は離れています」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「主桁でつながっている」
「射撃後も振動が残るのですか」
「残らん。固定部が動いた」
写真機支持具を確認する。
一本のボルトが、規定範囲内で緩んでいた。
落ちてはいない。
写真も撮れた。
だが、鮮明度が少し下がった。
元ドイツ軍技術者は支持具を外した。
「締め付けだけに頼るな」
「どうします」
「位置決め突起を加える」
若い軍技術者が言った。
「部品が増えます」
「写真がぶれるより軽い」
元白軍将校が乾板を覗いた。
「見える」
写真担当者は答えた。
「砲の種類までは分かりません」
「砲があることは分かる」
「偵察では種類も重要です」
「ならもう一度近くを飛べ」
「撃たれます」
「装甲がある」
「だからといって近づきたくはありません!」
その日の試験報告。
固定十一ミリ機銃四門――発射可能。
四門同時発射時の操縦性――許容。
照準方式――胴体銃集中、翼根銃準平行配置を採用。
地上掃射能力――良好。
模擬爆弾投下――正常。
投下後姿勢変化――許容。
非常投棄――正常。
写真偵察――可能。支持部改善を要する。
無線による地上観測報告――可能。
爆弾搭載時上昇性能――不足。
発動機出力――引き続き改善を要する。
ポーランド軍将校は最後の二行を見た。
「結局、発動機だな」
発動機担当者が答えた。
「はい」
元白軍将校が言った。
「だが今日は飛んだ。撃った。落とした。見た」
若い軍技術者が付け加えた。
「戻りました」
「ならよい」
「貨物はまだです」
元独立運動家が言った。
「次に運ぶ」
「担架も」
「人を載せる」
「片発試験も」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「軽い状態から始める」
「未整地は」
脚担当者が言った。
「牧場を選んだ」
ポーランド軍将校が振り向いた。
「本当に牧場なのか」
「平らです」
「牛は」
「別の区画へ移す」
元白軍将校が尋ねた。
「野牛を入れるのに牛を出すのか」
誰も答えなかった。
翌朝。
射撃標的として置かれた古い荷車が、工場へ戻された。
側板は砕けていた。
鉄輪には十一ミリ弾の跡がある。
車軸は無事だった。
元独立運動家が見た。
「車輪は使える」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「言っただろう」
元白軍将校は車軸を持ち上げた。
「試験標的にもなり、部品も残った」
ユダヤ人実業家は帳簿へ書いた。
試験用荷車。
側板廃棄。
車輪二個回収。
車軸一組回収。
金具、再検査後に農機具工場へ移送。
ポーランド軍将校が帳簿を覗いた。
「十一ミリで撃った荷車まで再利用するのか」
元白軍将校が答えた。
「壊れていない」
「標的だったのだぞ」
「標的だったことと、使えることは別だ」
滑走路の向こうでは、Bizon一号機へ木箱が積み込まれていた。
食料。
弾薬。
医薬品。
無線部品。
そして、空の担架二床。
次の試験は、破壊する力ではなかった。
必要な物を運び、
必要な者を連れ帰る力だった。