一九三一年
試験機は未整地着陸時、右主脚格納留め具および後方発動機架の一部を損傷した。
同機は現地において応急固定を受け、脚を展開したまま原飛行場へ帰投した。
帰投後、製造所は損傷部を交換した。
交換作業時間、十一時間四十二分。
使用した主要部品は以下の通り。
右主脚格納留め具。
後方発動機架補強板。
油圧管一本。
点検蓋二枚。
木製作業板一枚。
交換後、同機は再度飛行試験を実施した。
軍検査官は修理済み箇所の覆いを閉じるよう求めたが、製造所側はこれを拒否した。
理由。
「壊れた場所が見えなければ、次に壊れる場所も分からない」
軍検査官は、完成機の外板を開いたまま引き渡すことは認められないと回答した。
製造所側は、
「では検査が終わってから閉じる」
と回答した。
Bizonの右発動機ナセルには、大きな穴が開いていた。
正確には壊れて開いた穴ではない。
点検蓋と外板を外し、内部を見えるようにした結果である。
主脚。
格納支柱。
後方発動機架。
油圧配管。
補強隔壁。
泥を洗い落とされた構造材が、格納庫の灯りの下へむき出しになっていた。
その前で、軍から来た検査官が腕を組んでいた。
「閉じろ」
元ドイツ軍技術者は、内部へ頭を突っ込んだまま答えた。
「まだだ」
「修理は終わったと聞いた」
「修理は終わった」
「なら閉じろ」
「検査が終わっていない」
「私が検査する」
「だから開けている」
検査官は一度黙った。
「完成機とは、外板が付いているものだ」
元ドイツ軍技術者が顔を出した。
額に油が付いている。
「外板を付ければ、中が見えない」
「外板とはそういうものだ」
「見えなくするために付けているのではない。空気を流すために付ける」
「軍へ引き渡す機体だぞ」
「軍へ引き渡すから見せている」
ポーランド軍将校が二人の間へ入った。
「双方、少し落ち着け」
元白軍将校が開口部を覗いた。
「前より板が厚い」
「厚くした」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「壊れたからか」
「壊れた場所だけを厚くしたのではない。力の流れを変えた」
元独立運動家も覗き込む。
「また壊れたら」
「同じ留め具が先に曲がる」
「交換できるか」
「できる」
「ならよい」
検査官が振り返った。
「よくない。最初から曲がる部品を付けるな」
ユダヤ人実業家が帳簿を閉じた。
「曲がらない部品を付ければ、次は主翼が曲がります」
「主翼を強くしろ」
「費用と重量が増えます」
「軍用機だぞ」
「飛ばなければ軍用にもなりません」
検査官はBizonを見上げた。
大きい。
太い。
美しくはない。
外板を外された右ナセルは、さらに不格好だった。
「では、この留め具は壊れるためにあるのか」
元ドイツ軍技術者は首を振った。
「壊れるためではない。ほかを壊さないためにある」
作業台の上には、取り外された旧留め具が置かれていた。
厚い鋼板の一部が、目に見えて曲がっている。
折れてはいない。
亀裂も小さい。
だが再使用はできない。
元白軍将校が手に取った。
「重い」
「落とすな」
元ドイツ軍技術者が言った。
「曲がっている」
「知っている」
「叩けば戻る」
「戻すな」
元白軍将校が金槌へ手を伸ばした。
元ドイツ軍技術者が先に金槌を奪った。
「なぜだ」
「一度曲がった金属を、見た目だけ戻して再使用するな」
「後方なら使える」
「使えない」
「荷車には」
元独立運動家が言った。
「使えるかもしれない」
「使うな!」
ユダヤ人実業家が曲がった留め具を見た。
「試験資料として保管します」
元白軍将校が尋ねた。
「売れんのか」
「売りません」
「鉄だぞ」
「この曲がり方には価値があります」
ポーランド軍将校が検査官へ説明した。
「損傷品は、以後の製造標準を決める資料になる」
検査官は留め具を持ち上げた。
「ただ曲がった鉄に見える」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「どこから曲がり始めたかを見ろ」
留め具の根元。
固定穴の周囲。
わずかな伸び。
表面の擦れ。
泥が入り込んだ跡。
「右脚が轍へ落ちた時、後方へ力が加わった。留め具はここから変形した」
指でなぞる。
「固定穴が少し楕円になり、その後で板全体が曲がった。だから急に折れなかった」
「最初からそうなるよう設計したのか」
「半分は」
「残り半分は」
「実際に落として分かった」
検査官は留め具を作業台へ戻した。
「軍の試験機を落として調べるな」
元白軍将校が答えた。
「落としたのではない。降りた」
「轍に落ちた!」
「脚だけだ」
ポーランド軍将校が額を押さえた。
「言葉を選べ!」
修理手順の再現が始まった。
試験機はすでに直っている。
だが軍は、製造所の熟練工ではなく、部隊整備員でも同じ作業ができるか確かめることを求めた。
格納庫へ連れてこられたのは、軍の若い整備兵四名だった。
彼らの前には交換部品、工具箱、小型ジャッキ、作業板、手順書が置かれている。
元ドイツ軍技術者が言った。
「右脚格納留め具を交換する」
若い整備兵の一人が機体を見た。
「すでに新品が付いています」
「外して、また付けろ」
「壊してよいのですか」
「壊すな」
「外した新品を、そのまま付け直すのですか」
「そうだ」
「何のために」
ポーランド軍将校が答えた。
「部隊で交換できるか確認するためだ」
整備兵は手順書を開いた。
一頁目。
一、機体を平坦な場所へ置く。
周囲を見る。
格納庫の床は平坦だった。
二頁目。
二、該当脚の荷重を抜く。
整備兵は小型ジャッキを運んだ。
Bizonの重量をすべて持ち上げるような大型器具ではない。
脚柱近くの指定点へ当て、留め具にかかる力だけを抜くためのものだった。
板を床へ置く。
その上へジャッキを載せる。
元独立運動家が満足そうに頷いた。
「板が要る」
ユダヤ人実業家も頷いた。
「二枚搭載します」
ポーランド軍将校が振り返った。
「一枚ではなかったのか」
「一枚は前回切りました」
「毎回切る前提にするな」
元白軍将校が言った。
「二枚なら一枚切れる」
「切るな!」
整備兵たちはジャッキで荷重を抜いた。
固定ピンを外す。
だが抜けない。
一人が金槌を持った。
元ドイツ軍技術者が止める。
「何をする」
「叩きます」
「なぜ抜けないか先に見ろ」
ピンにはわずかに荷重が残っていた。
ジャッキを少し上げる。
ピンが軽く動いた。
「力で抜くな。位置を合わせて抜け」
整備兵は頷いた。
ピンを外す。
留め具を取り外す。
油圧管を傷付けないよう横へ逃がす。
新しい留め具を差し込む。
穴が合わない。
「不良品です」
整備兵が言った。
元ドイツ軍技術者は何も答えず、脚柱を指した。
泥を模した粘土が薄く塗られていた。
整備兵が布で拭く。
接触面に小石が一つ挟まっていた。
取り除く。
穴が合った。
「現場では、部品より先に泥を疑え」
元白軍将校が言った。
「人も同じだ」
全員が彼を見た。
「何だ」
「今は脚の話です」
ポーランド軍将校が答えた。
交換作業には三時間かかった。
製造所の熟練工なら一時間半で終える。
若い整備兵は倍かかった。
それでも交換できた。
特殊な工作機械は使っていない。
必要だったのは、
小型ジャッキ。
ピン抜き。
金槌。
布。
油。
板。
そして手順書。
検査官は時計を見た。
「三時間だ」
ポーランド軍将校が答える。
「初回だからな」
「戦場で三時間は長い」
元ドイツ軍技術者が言った。
「主翼交換より短い」
「比較対象がおかしい」
「脚を失えば機体を動かせない。三時間で動くなら短い」
検査官は整備兵へ尋ねた。
「もう一度やれば、どれくらいでできる」
整備兵は少し考えた。
「二時間」
元ドイツ軍技術者が言った。
「一時間半だ」
「無理です」
「泥を拭く時間を忘れるな」
整備兵は手順書の余白へ書き足した。
交換前に接触面を清掃すること。
元ドイツ軍技術者がそれを見た。
「印刷する」
ポーランド軍将校が驚いた。
「正式手順書へ入れるのか」
「必要だった」
「そんな当たり前のことまで書くのか」
元白軍将校が答えた。
「当たり前のことを忘れて、三時間かかった」
整備兵は申し訳なさそうに俯いた。
元白軍将校は続けた。
「次の者が忘れなければよい」
叱責ではなかった。
そのため、整備兵は余計に姿勢を正した。
午後、修理済みBizonの確認飛行が行われた。
搭載物は少ない。
整備兵四名。
工具箱。
二輪台車。
板二枚。
空の麻袋。
検査官。
そして五人。
ポーランド軍将校は搭乗前に尋ねた。
「検査官まで乗るのか」
検査官が答えた。
「修理箇所を確認する」
「飛行中に見えるのか」
元ドイツ軍技術者が右ナセルの点検蓋を指した。
「小窓を付けた」
検査官が動きを止めた。
「何を付けた」
ナセル側面の点検蓋には、小さな透明板がはめ込まれていた。
内部の表示金具と油漏れの有無を、外から確認できる。
「不要だ」
検査官が言った。
「飛行中、誰が見る」
元独立運動家が答えた。
「着陸後すぐ見られる」
「蓋を開ければよい」
「熱い」
「冷えるまで待て」
元白軍将校が言った。
「敵も待つか」
検査官は小窓を睨んだ。
「割れたら」
元ドイツ軍技術者が即答した。
「小さな金属板へ交換する」
「最初から金属板でよい」
「見えなくなる」
「軍用機の脚は、普通は見えなくてもよい!」
ユダヤ人実業家が尋ねた。
「小窓を外す場合、価格は下がります」
検査官が彼を見る。
「いくらだ」
ユダヤ人実業家が金額を告げた。
検査官は少し考えた。
「付けろ」
ポーランド軍将校が顔を覆った。
Bizonは離陸した。
両発動機は正常。
脚を引き込む。
右脚が後方へ畳まれ、ナセル後部へ収まる。
大きなタイヤの一部だけが外へ残る。
表示灯が点く。
右脚格納。
左脚格納。
副操縦士が確認した。
「左右、格納」
元ドイツ軍技術者は小窓から内部を見た。
新しい留め具は動いていない。
油圧管から漏れもない。
「問題なし」
検査官が横から覗く。
「確かに見える」
元独立運動家が言った。
「便利だ」
「認めてはいない」
「付けると言った」
「価格を確認しただけだ」
ユダヤ人実業家が帳簿へ書いた。
「採用」
「書くな!」
高度千メートル。
旋回。
低速飛行。
脚の展開。
再格納。
もう一度展開。
右脚は毎回、ばねに押されて前下方へ出た。
空気圧式ダンパーが速度を抑える。
支柱が伸びる。
オーバーセンター位置を越えて固定。
引き込み時には油圧がばねへ逆らい、脚を後ろへ戻す。
交換した留め具は、正常に働いた。
検査官は記録へ署名した。
「修理箇所、異常なし」
ポーランド軍将校が息を吐いた。
「これで閉じられるな」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「地上へ戻ってもう一度見る」
「飛行中に見ただろう」
「荷重が抜けた後も見る」
「いつ終わるんだ」
「問題がなくなった時だ」
元白軍将校が言った。
「問題がなくなることはない」
元ドイツ軍技術者は少し考えた。
「なら、見つけられる間は終わらない」
着陸後。
点検蓋は再び外された。
留め具。
ピン。
油圧管。
隔壁。
すべて正常。
軍の整備兵たちも確認した。
自分たちが外し、自分たちが取り付けた部品が、飛行後も正しい位置にある。
一人が小さく笑った。
「飛びました」
元白軍将校が答えた。
「飛行機だからな」
「私たちが直しました」
「なら次も直せる」
整備兵は、むき出しの構造を見た。
「壊れない方がよいです」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「当然だ」
「でも壊れます」
「当然だ」
「では、何を信じればよいのですか」
元ドイツ軍技術者は少し黙った。
主脚を指す。
「壊れないという説明ではない」
次に交換部品を指す。
「壊れた時、どこを見ればよいか分かることだ」
工具箱。
小型ジャッキ。
板。
手順書。
「直せることだ」
最後に、飛行記録を指した。
「直した後、隠さず確かめることだ」
整備兵は頷いた。
夕方。
軍検査官は最終確認書へ署名した。
ただし、備考欄には長い文章が加えられた。
本機は、損傷を受けない機体ではない。
本機は、損傷箇所を発見しやすく、交換可能な部品へ被害を誘導し、部隊整備による復旧を企図した機体である。
この思想が実戦において有効であるかは、今後の部隊運用を待つ必要がある。
ポーランド軍将校がそれを読んだ。
「褒めているのか」
検査官が答えた。
「判断を保留している」
元白軍将校が言った。
「軍はよく保留する」
「慎重と言え」
ユダヤ人実業家は確認書の写しを受け取った。
「発注は」
検査官は鞄を閉じた。
「試験結果がすべて提出された後だ」
「あと何が残っています」
「総合運用試験」
ポーランド軍将校が眉をひそめた。
「まだあるのか」
検査官はBizonを見上げた。
「飛んだ」
「運んだ」
「撃った」
「爆弾を落とした」
「片方を止めた」
「草地へ降りた」
「壊れた」
「直した」
指を折って数える。
「だが、それを一度にやっていない」
格納庫が静かになった。
元白軍将校が最初に口を開いた。
「全部やるのか」
検査官は答えた。
「軍用機なら」
元ドイツ軍技術者が手帳を開いた。
元独立運動家は貨物表を取った。
ユダヤ人実業家は帳簿を開いた。
ポーランド軍将校だけが、その場で動かなかった。
「待て」
四人が彼を見る。
「何だ」
元白軍将校が尋ねた。
ポーランド軍将校は検査官を指した。
「今のは試験を増やせという意味ではない」
検査官が答えた。
「増やせという意味だ」
四人は一斉に動き始めた。
「待て!」
その夜、Bizon試験項目表の最後に新しい一行が加えられた。
総合運用試験。
未整地飛行場への物資輸送。
地上射撃。
偵察および無線連絡。
模擬爆撃。
負傷者収容。
片発状態での帰投判断。
現地整備。
再出発。
その横へ、元白軍将校が書いた。
戦争を一日分やる。
ポーランド軍将校は線を引いて消した。
元独立運動家が、その下へ書き直した。
一日で必要なことを全部やる。
今度は消されなかった。
Bizonは、完成したから試験されていたのではない。
何ができないかを見つけるために、飛ばされていた。
壊れた場所は隠されなかった。
失敗した手順も消されなかった。
曲がった留め具も捨てられなかった。
それらはすべて、次に飛ぶ機体の部品になった。
鉄としてではない。
記録として。