WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――WILK雇用・製造部門再編記録
一九三一年十一月

Bizon少数量産開始に伴い、製造所は新規作業者の募集を行った。

募集職種は以下の通り。

航空機組立工。
発動機整備工。
金属加工工。
木工。
縫製。
染色。
製缶。
荷車製造。
食品加工。
冷蔵設備据付。
倉庫作業。
運送。
検査。
炊事。

応募者のうち、航空機製造経験者は一割に満たなかった。

製造所は募集職種を増やした。

理由。

「飛行機を作れる者だけを雇っていては、飛行機を作る者まで食えなくなる」

経営部は、この説明を標語として掲示することを拒否した。

長すぎたためである。


第91話 飛行機だけを作るな

WILKの門前には、朝から人が並んでいた。

 

最初は二十人だった。

 

門が開く頃には五十人になった。

 

昼前には百人を超えた。

 

工場労働者。

 

鉄道工員。

 

製材所の職人。

 

仕立屋。

 

荷馬車の車輪を作っていた者。

 

製粉所で袋を縫っていた者。

 

農閑期の農民。

 

帳場から放り出された事務員。

 

工場が潰れたのではない。

 

注文が減り、一班削られた者もいる。

 

週六日だった仕事が三日になった者。

 

賃金を一割、二割と下げられ、家族を養えなくなった者。

 

店はまだ開いている。

 

パンも売っている。

 

だが、昨日まで買えた量を買えない。

 

その程度の困窮が、門前へ人を並ばせていた。

 

守衛は門の外へ出ると、何度目か分からない説明を繰り返した。

 

「航空機工場だ。全員が飛行機を作れるわけではない」

 

列の中から声が上がった。

 

「木箱を作れる!」

 

「革を縫える!」

 

「旋盤なら使える!」

 

「牛を搾れる!」

 

守衛は最後の男を見た。

 

「なぜ航空機工場へ来た」

 

男は答えた。

 

「求人票に乳業とあった」

 

守衛は門柱に貼られた紙を見た。

 

確かに書いてある。

 

航空機組立工募集。

 

整備工募集。

 

木工募集。

 

縫製工募集。

 

製缶工募集。

 

乳製品加工経験者募集。

 

守衛は紙を剥がしかけた。

 

その手を元独立運動家が止めた。

 

「剥がすな」

 

「列が増えています」

 

「募集したからだ」

 

「航空機工場の門前に牛乳搾りが並んでいます」

 

「必要だ」

 

「何に」

 

「牛乳に」

 

守衛は空を見上げた。

 

Bizonの試験機が、格納庫前で発動機を回していた。

 

「飛行機は牛乳を出しません」

 

元独立運動家は答えた。

 

「人も飛行機だけでは食えない」

 

事務棟の会議室には、応募者の一覧が積まれていた。

 

ユダヤ人実業家は一枚ずつ分類していた。

 

金属加工。

 

木工。

 

繊維。

 

農業。

 

食品。

 

運送。

 

事務。

 

分類不能。

 

元白軍将校が最後の束を取った。

 

「分類不能とは何だ」

 

「前職が多すぎる者です」

 

「何をしていた」

 

「鉱山、鉄道、食肉処理、煉瓦製造、荷役、兵役」

 

元白軍将校は紙を見た。

 

「何でもできる」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「何も長続きしていないとも言える」

 

「仕事がなくなったのだろう」

 

「技能の確認が要る」

 

ポーランド軍将校は部屋の隅に積まれた採用予定表を見た。

 

「待て。軍が発注したBizonは少数だ」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「承知しています」

 

「これほど雇えば、機体の製造が終わった後に仕事がなくなる」

 

「だから機体以外へ回します」

 

「機体以外とは」

 

ユダヤ人実業家は別の一覧を開いた。

 

麻袋。

 

染色。

 

機銃運搬台車。

 

木箱。

 

牛乳缶。

 

冷蔵庫。

 

製パン設備。

 

農村向け小型冷却機。

 

発動機輸送架。

 

工具箱。

 

簡易担架。

 

「なぜBizonの発注からパン焼き窯まで増えている」

 

元独立運動家が答えた。

 

「必要だからだ」

 

「誰に」

 

「人に」

 

「範囲が広すぎる!」

 

元白軍将校が採用予定表をめくった。

 

「雇わなければどうなる」

 

ポーランド軍将校は門の方角を見た。

 

窓からは、並んでいる人々の帽子だけが見えた。

 

「別の仕事を探す」

 

ユダヤ人実業家が言った。

 

「別の仕事があれば、ここへ来ていません」

 

部屋が静かになった。

 

外から、Bizonの発動機音が響く。

 

二基の星形発動機。

 

まだ力不足だった。

 

それでも今は、少数ながら軍が買う。

 

だが、その注文だけでは門前の全員を雇えない。

 

元ドイツ軍技術者は採用予定表へ指を置いた。

 

「航空機の作業へ未経験者を入れすぎるな」

 

「分けます」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「精密加工、構造組立、最終検査は経験者中心」

 

「ほかは」

 

「木箱、台車、袋、缶、倉庫、食品設備」

 

元独立運動家が続けた。

 

「飛行機を作れる者には飛行機を作らせる」

 

元白軍将校も言った。

 

「飛行機を作れない者には、飛行機を作る者が使う物を作らせる」

 

ポーランド軍将校は一覧を見た。

 

「牛乳は」

 

元白軍将校が答えた。

 

「飛行機を作る者が飲む」

 

「パンは」

 

「食う」

 

「海外支社へ送る冷蔵設備は」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「売ります」

 

「軍用機会社の会議とは思えん」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「軍用機だけを作っていた会社から、いくつ潰れたと思う」

 

誰も答えなかった。

 

採用試験は、その日の午後から始まった。

 

最初の部屋には金属片と工具が置かれた。

 

穴を開ける。

 

寸法を測る。

 

曲げる。

 

留める。

 

次の部屋には木材。

 

箱を組む。

 

板を切る。

 

割れを見つける。

 

別の部屋には麻布と縄。

 

袋を縫う。

 

口を補強する。

 

縄を通す。

 

色札を付ける。

 

さらに奥では、牛乳缶の蓋を閉め、水を入れて漏れを確かめていた。

 

ポーランド軍将校は一連の試験を見て回った。

 

「これで何を判定する」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「今できることです」

 

「履歴書では分からないのか」

 

「失業者の履歴書は、会社名より閉鎖年月の方が長い」

 

一人の男が木箱を組んでいた。

 

元は家具職人だった。

 

工房の注文が途絶え、親方が二人だけを残して全員を解雇した。

 

男の作る箱は美しかった。

 

角は正確で、蓋は隙間なく閉じた。

 

元独立運動家が箱を持ち上げた。

 

「丈夫だ」

 

元ドイツ軍技術者は蓋を開け閉めした。

 

「時間がかかりすぎる」

 

家具職人の男は俯いた。

 

「すみません」

 

元ドイツ軍技術者は箱の角を指した。

 

「ここまで磨く必要はない」

 

「商品ですから」

 

「発動機部品を運ぶ箱だ。中身が壊れなければよい」

 

男は箱を見た。

 

「粗く作れということですか」

 

「違う」

 

元ドイツ軍技術者は別の板を持ってきた。

 

「必要な場所だけ丁寧に作れ」

 

底板。

 

角。

 

把手。

 

蓋の留め具。

 

荷重と水がかかる場所。

 

「見えないところを雑にしろとは言わん。壊れないために必要なところへ時間を使え」

 

男は新しい板を受け取った。

 

二つ目の箱は、一つ目より早く完成した。

 

美しさは減った。

 

代わりに、底が厚くなった。

 

「採用」

 

元独立運動家が言った。

 

元ドイツ軍技術者が振り向く。

 

「まだ試験中だ」

 

「一つ目より良くなった」

 

「そうだが」

 

「なら教えればもっと良くなる」

 

家具職人の男は、二人の顔を交互に見た。

 

「飛行機を作るのですか」

 

元独立運動家が答えた。

 

「箱を作る」

 

男は少し困った顔をした。

 

「航空機工場で」

 

元白軍将校が横から言った。

 

「飛行機は箱に入れた部品からできる」

 

家具職人は採用票を受け取った。

 

縫製試験には、仕立屋と製粉所の袋縫いが同じ机へ座っていた。

 

仕立屋は針目が細かい。

 

袋縫いは速い。

 

仕立屋が一枚縫う間に、袋縫いは三枚を仕上げた。

 

ただし袋縫いの縫い目は不揃いだった。

 

元ドイツ軍技術者は二枚へ同じ重さの鉄片を入れた。

 

仕立屋の袋は形を保った。

 

袋縫いの方は少し歪んだ。

 

だが破れない。

 

次に水を掛けた。

 

仕立屋の袋は内張りの端から水を吸った。

 

袋縫いの方は、折り返しが大きいため浸水が遅かった。

 

元独立運動家が言った。

 

「両方雇う」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「一人は速い。一人は正確だ」

 

「一緒に作らせる」

 

「それでよい」

 

仕立屋が尋ねた。

 

「軍服ですか」

 

「麻袋だ」

 

元独立運動家が答えた。

 

仕立屋は机上の緑色の袋を見た。

 

「これを」

 

「赤と黄色もある」

 

「服は」

 

「作らない」

 

仕立屋は少し落胆した。

 

ユダヤ人実業家が別の紙を見せた。

 

「作業着の修繕部門もあります」

 

「そちらへ行けますか」

 

「まず袋を作ってください」

 

「なぜです」

 

「注文があるからです」

 

製粉所の袋縫いが笑った。

 

「服より袋の方が売れるらしい」

 

仕立屋も、少し遅れて笑った。

 

以前なら腹を立てたかもしれない。

 

今は仕事があることの方が大きかった。

 

染色部門は、さらに雑だった。

 

大釜。

 

湯。

 

染料。

 

棒。

 

乾燥用の縄。

 

緑。

 

赤。

 

黄色。

 

色の統一を求めた元ドイツ軍技術者に対し、染色職人は首を横に振った。

 

「同じ色にはなりません」

 

「規格品だ」

 

「麻の質が違います」

 

「染料の量を揃えろ」

 

「水も違います」

 

「温度を測れ」

 

「外気で変わります」

 

「時間を決めろ」

 

「布が古ければ変わります」

 

元ドイツ軍技術者の眉間に皺が増えた。

 

元独立運動家は干されている袋を見た。

 

薄い緑。

 

濃い緑。

 

茶色に近い緑。

 

「全部、緑だ」

 

「違う!」

 

元ドイツ軍技術者が叫んだ。

 

染色職人は袋を並べた。

 

「弾薬袋だと分かればよいのでしょう」

 

「同じ部隊で色が違えば混乱する」

 

「赤と間違えますか」

 

「間違えない」

 

「黄色とは」

 

「間違えない」

 

「なら緑です」

 

元白軍将校が頷いた。

 

「正しい」

 

元ドイツ軍技術者は五秒ほど黙った。

 

「最低色と最高色を決める」

 

「間は」

 

「緑ならよい」

 

元独立運動家が笑った。

 

「最初からそう言った」

 

「規格を作ったのだ!」

 

緑の袋は一番多く作られた。

 

弾薬の消費が多いからである。

 

前線で撃ち切れば、袋は空になる。

 

回収できる時は回収する。

 

できない時は置いていく。

 

目立つ赤や黄色ではなく、草や土や軍服へ紛れやすい緑にしたのは、そのためだった。

 

高価な専用布は使わない。

 

農家や製粉所が普段使う麻布。

 

穴が開けば縫う。

 

縄が切れれば交換する。

 

留め具だけ持ち帰れば、弾種識別具として再利用できる。

 

雑だった。

 

だが大量に作れた。

 

二輪台車の製造班には、荷馬車職人が集められた。

 

車輪職人。

 

鍛冶屋。

 

荷台を作る木工。

 

革の軸受覆いを作る職人。

 

彼らの前へ置かれた見本は、十一粍航空機銃を載せた機銃運搬台車だった。

 

一人の老職人が車輪を回した。

 

「小さい」

 

「飛行機へ載せる」

 

元独立運動家が答えた。

 

別の職人が折り畳み脚を開いた。

 

「荷車ではないな」

 

「元は機銃を運ぶ台車だ」

 

元白軍将校が言った。

 

「元は?」

 

「今もだ」

 

「脚がある」

 

「撃つ時に使う」

 

職人たちは台車を囲んだ。

 

機銃受けは交換式。

 

七・九二粍。

 

十一粍。

 

銃を外せば板を載せられる。

 

板には箱。

 

袋。

 

工具。

 

担架。

 

使い方を説明するほど、職人たちの顔が怪しくなった。

 

老職人が尋ねた。

 

「これは結局、何だ」

 

ポーランド軍将校が答えようとした。

 

機銃運搬用二輪台車。

 

臨時射撃架。

 

貨物運搬台車。

 

患者搬送具。

 

どれも正しい。

 

元独立運動家が先に答えた。

 

「車輪が二つある物だ」

 

老職人は頷いた。

 

「なら作れる」

 

ポーランド軍将校は頭を抱えた。

 

「軍需品の定義をそれで済ませるな」

 

荷馬車職人たちは、元の台車へすぐ不満を言い始めた。

 

車輪の幅が狭い。

 

泥へ沈む。

 

把手が短い。

 

人が二人並んで引きにくい。

 

板を載せると重心が高い。

 

駐鋤が石の多い土地では刺さらない。

 

元ドイツ軍技術者は一つずつ記録した。

 

「直せるか」

 

老職人は答えた。

 

「荷馬車より簡単だ」

 

「飛行機へ載る寸法は変えるな」

 

「車輪を少し太くする」

 

「重量が増える」

 

「泥へ沈めば人手が増える」

 

ユダヤ人実業家が計算した。

 

車輪重量の増加。

 

必要人員の減少。

 

輸送時間。

 

製造費。

 

「太くしましょう」

 

元ドイツ軍技術者が彼を見る。

 

「計算が早い」

 

「人件費も費用です」

 

元白軍将校は太く描き直された車輪を見た。

 

「壊れにくいか」

 

老職人が答えた。

 

「壊れたら、村の車輪職人が直せる」

 

「よい」

 

専用の軍需工場でなければ修理できない台車より、村の荷馬車職人が直せる台車。

 

軽くはない。

 

洗練もされていない。

 

だが中小国には、それでよかった。

 

食品部門の採用試験は、工場から少し離れた乳製品棟で行われた。

 

牛乳を受け入れる。

 

量る。

 

濾す。

 

加熱する。

 

冷やす。

 

バターを作る。

 

チーズを仕込む。

 

乳清を捨てずに加工する。

 

パンへ混ぜる。

 

家畜飼料へ回す。

 

冷却設備を洗う。

 

衛生基準を守る。

 

航空機工場へ来たはずの応募者たちは、白い湯気の中で桶を洗っていた。

 

ポーランド軍将校は現場を見て、五人へ尋ねた。

 

「ここはいつからこれほど大きくなった」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「小さく始めました」

 

「それは知っている」

 

「売れたので増やしました」

 

「誰に」

 

「工員。学校。病院。鉄道。海外支社」

 

「海外へ牛乳を送るのか」

 

「バター、チーズ、粉乳です」

 

元独立運動家が木箱を指した。

 

中には小さな缶が詰められている。

 

「保存できる」

 

元白軍将校はパンを一つ取った。

 

「食える」

 

ポーランド軍将校が取り上げた。

 

「試作品だ!」

 

「味を確かめた」

 

「担当者がやる!」

 

食品担当者が別のパンを差し出した。

 

「こちらもお願いします」

 

元白軍将校は受け取った。

 

ポーランド軍将校は何も言えなくなった。

 

元ドイツ軍技術者は冷却装置の配管を調べていた。

 

「この継ぎ目は航空機と同じ規格にするな」

 

若い技師が驚く。

 

「共通化した方が」

 

「牛乳設備の油漏れと航空機の油漏れを同じ倉庫で扱うな」

 

「配管部品は同じです」

 

「洗浄基準が違う」

 

ユダヤ人実業家が帳簿へ書いた。

 

「食品用部品へ別の刻印を入れます」

 

「色も変えろ」

 

「何色に」

 

「航空用と間違えなければ何でもよい」

 

元独立運動家が黄色い麻袋を指した。

 

「黄色」

 

ポーランド軍将校が叫んだ。

 

「何でも袋の色へ合わせるな!」

 

夕方、採用者の名前が掲示された。

 

全員ではない。

 

工場には限界があった。

 

設備。

 

注文。

 

材料。

 

給料。

 

食堂。

 

寮。

 

一度に抱えられる人数には限りがある。

 

採用された者は、掲示板の前で何度も自分の名前を確かめた。

 

採用されなかった者は、紙を見たまま動かなかった。

 

ユダヤ人実業家は、二枚目の紙を隣へ貼った。

 

次回募集予定。

 

麻袋縫製。

木箱製造。

冷蔵設備据付補助。

食品運送。

農産物集荷。

工員食堂炊事。

 

希望者は技能登録を行うこと。

 

採用されなかった者たちが、登録机へ移動し始めた。

 

ポーランド軍将校はその様子を見ていた。

 

「仕事がないのに登録させるのか」

 

「今はありません」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「来月にはあるのか」

 

「作ります」

 

「注文がなければ」

 

「売れる物を探します」

 

「見つからなければ」

 

ユダヤ人実業家は門前の人々を見た。

 

「見つけるまで、今ある仕事を分けます」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「分けすぎれば効率が落ちる」

 

「失業者を抱えれば費用が増える」

 

「会社が失業者全員を養うことはできない」

 

「承知しています」

 

元白軍将校が登録机を見た。

 

「だが、誰が何をできるか知っていれば、仕事が来た時に呼べる」

 

元独立運動家も頷いた。

 

「名前のない者を雇うな。だが名前を知っている者なら呼べる」

 

ポーランド軍将校は、以前の議論を思い出した。

 

身元のない者を雇わない。

 

過去を問い詰めるためではない。

 

賃金を渡し、怪我を知らせ、家族へ届け、次に呼ぶため。

 

登録机では、一人ずつ名前と住所と技能が書かれていた。

 

家具職人。

 

袋縫い。

 

牛乳搾り。

 

荷車職人。

 

帳場係。

 

彼らは航空機技師ではない。

 

だが航空機会社の仕事を支える者になり得た。

 

その日の夜。

 

五人は事務棟に残っていた。

 

机の上には、Bizonの少数量産計画。

 

麻袋の発注数。

 

台車の製造予定。

 

冷蔵設備の注文。

 

食品部門の売上。

 

海外支社から届いた手紙。

 

そして新規採用者の賃金表が並んでいる。

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「これ以上広げれば、航空機製造所ではなくなる」

 

元独立運動家が答えた。

 

「飛行機を作っている」

 

「牛乳も作っている」

 

「人が飲む」

 

「麻袋も作っている」

 

「弾を運ぶ」

 

「パンも焼いている」

 

「人が食う」

 

「台車も作っている」

 

「機銃を運ぶ」

 

「板を載せれば豆も運ぶだろう!」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「豆も売れます」

 

ポーランド軍将校は机へ突っ伏した。

 

元ドイツ軍技術者はBizonの改修一覧を見ていた。

 

発動機交換架。

 

方向舵補助タブ。

 

主脚留め具。

 

点検窓。

 

貨物固定具。

 

弾薬袋の底板。

 

まだ直す箇所は多い。

 

「Bizonの改善は続ける」

 

「当然だ」

 

元白軍将校が答えた。

 

「だが軍の注文だけを待つな」

 

「分かっている」

 

「飛行機が売れなければ」

 

元独立運動家が言った。

 

「食料を売る」

 

「食料も売れなければ」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「冷蔵設備を売ります」

 

「それも売れなければ」

 

「修理します」

 

「修理もなければ」

 

部屋が少し静かになった。

 

外では夜勤の鐘が鳴った。

 

格納庫から金属を叩く音。

 

縫製棟からミシンの音。

 

乳製品棟から缶を洗う音。

 

木工棟から鋸の音。

 

一つの工場から出ているとは思えない音だった。

 

ユダヤ人実業家は窓を開けた。

 

冷たい風が入る。

 

門前には、もう人はいない。

 

登録を終えた者たちは帰った。

 

明日から働く者もいる。

 

次の連絡を待つ者もいる。

 

「仕事がなければ」

 

ユダヤ人実業家は言った。

 

「仕事にできる物を探します」

 

元白軍将校が尋ねた。

 

「なぜそこまで広げる」

 

ユダヤ人実業家は、机上の採用者一覧を指した。

 

「飛行機を作る会社を残すためです」

 

ポーランド軍将校が顔を上げた。

 

「飛行機から離れているように見えるが」

 

「飛行機を作る者が、冬に食べられなければ離れます」

 

元ドイツ軍技術者が続けた。

 

「職人が一度散れば、次の注文が来ても戻らない」

 

元独立運動家も言った。

 

「家族が食えなければ、職人だけ残せない」

 

元白軍将校は頷いた。

 

「なら人を残せ」

 

それで決まった。

 

翌朝。

 

格納庫では最初の量産型Bizonの主翼が組まれていた。

 

隣の建物では、家具職人が発動機部品用の木箱を作っていた。

 

縫製棟では、仕立屋と袋縫いが同じ緑袋を両側から見て、どこを速く縫い、どこを丁寧に縫うか言い争っていた。

 

荷車職人は二輪台車の車輪を太くした。

 

乳製品棟では、新しく雇われた男が牛乳缶の蓋を閉じた。

 

どれもBizonではなかった。

 

だが、どれもBizonを作る工場を残していた。

 

一九三一年の終わりが近づいていた。

 

世界の注文は減っていた。

 

銀行は貸し渋った。

 

港へ入る船は少なくなった。

 

各国の工場は、稼働日を削り始めていた。

 

WILKは逆に、作る物を増やした。

 

豊かだったからではない。

 

一つの物だけに頼っていられるほど、豊かではなかったからである。

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