一九三二年一月
前年末に提出された各部門の翌年度計画について、経営部は以下を承認した。
Bizon量産型の改修継続。
Tur既存機の整備および改修。
航空機部品の修理受託拡大。
乳製品生産設備の増設。
製パン部門の夜間操業。
小型冷蔵設備の国外販売。
海外支社における食品倉庫の増設。
木箱、麻袋および二輪台車の民間販売。
同時に、以下を禁止した。
工場稼働率を広告へ記載すること。
新規雇用者数を宣伝へ使用すること。
他社の閉鎖工場を背景に写真を撮影すること。
「不況下でも成長」と書くこと。
営業部は理由を求めた。
経営部は、
「動いている工場は、それだけで目立つ」
と回答した。
営業部は、
「目立たなければ商品が売れない」
と再回答した。
会議は二時間延長された。
一九三二年最初の朝。
WILKの煙突から、白い煙が上がっていた。
航空機組立棟。
製パン棟。
乳製品棟。
染色棟。
鍛造棟。
暖房用の煙も混じっている。
町の外から見れば、どの煙突が何を作っているのかまでは分からない。
ただ、工場が動いていることだけは分かった。
その隣。
前年まで農業機械を作っていた工場の煙突からは、何も出ていない。
門は閉じられていた。
窓には板が打ち付けられ、雪の上に人の足跡もない。
さらに先の製材所は週三日だけ動く。
鉄道修理工場は一班を解散した。
製粉所は夜勤をやめた。
町全体が止まったわけではない。
止まった場所が増えただけだった。
WILKの守衛は、門前に集まった人々へ札を掲げた。
本日の新規採用受付はありません。
技能登録のみ受け付けます。
札を読んでも、列は消えなかった。
一人が尋ねた。
「いつ雇う」
守衛は答えた。
「仕事が増えた時だ」
「いつ増える」
「分からん」
「去年は増えた」
「去年の話だ」
「今年も煙が出ている」
守衛は振り返った。
工場の煙突。
雪の中では、いつもより煙がよく見えた。
「暖房だ」
「全部か」
守衛は答えなかった。
組立棟では、一号量産型Bizonの主翼が胴体へ取り付けられていた。
試作機と比べ、外見上の違いは少ない。
大きな翼。
太い胴体。
左右の発動機ナセル。
格納しても一部が露出する大きな主輪。
美しくはない。
だが、試験で見つかった改修点は各所へ反映されている。
方向舵には補助タブ。
発動機ナセルには点検小窓。
主脚格納留め具は交換しやすい形。
油圧管の継ぎ目には検査印。
貨物床には積載位置の表示。
壁面には赤、黄、緑の麻袋を固定する共通輪。
機銃運搬用二輪台車は、機内レールへそのまま留められる。
元ドイツ軍技術者は、右発動機架の周囲を何度も測っていた。
元白軍将校が背後から覗いた。
「また発動機を外すのか」
「まだ付けていない」
「なら早く付けろ」
「先に架台を確認する」
「前と同じ発動機だろう」
「前と同じ発動機を、後で違う発動機へ替えられるように付ける」
元白軍将校は発動機架を見た。
機体側の固定点。
中間架。
防火隔壁。
配管接続。
操作索。
すべてが一体ではない。
現在の発動機に合わせた中間部分だけを交換できるようになっている。
「新しい発動機はあるのか」
「ない」
「注文したか」
「価格を聞いている」
「買えるのか」
「分からん」
「なら今の物を付けろ」
元ドイツ軍技術者は測定具を置いた。
「今の物を直接付ければ、後で機体を切ることになる」
「切ればよい」
「量産機全部をか」
元白軍将校は少し考えた。
「架台を替える方がよい」
「最初からそう言っている」
元独立運動家が、隣から交換用の配管束を持ってきた。
「これも外れる」
「何だ」
「燃料管、油管、計器管。一本ずつ外すと時間がかかる」
配管の端は一か所へまとめられ、識別札が付いている。
左側は丸。
右側は角。
燃料は一本線。
油は二本線。
計器は三本線。
暗くても、触れば分かる。
元ドイツ軍技術者が確認した。
「まとめすぎるな。一つ漏れた時に全部外すことになる」
「束は同じだが、管は別だ」
「固定具だけ共通か」
「そうだ」
元白軍将校が頷いた。
「よい」
元ドイツ軍技術者は彼を見た。
「今日は素直だな」
「前に一度、説明された」
「覚えていたのか」
「必要なことは覚える」
「なら、試験手順も覚えろ」
「必要になれば覚える」
元ドイツ軍技術者は再び測定を始めた。
ポーランド軍将校は量産型の改修一覧を持ってきた。
紙は三枚あった。
「軍から追加要求だ」
元ドイツ軍技術者は手を止めなかった。
「読むな。置け」
「今聞け」
「作業中だ」
「軍の要求だぞ」
「作業も軍の機体だ」
ポーランド軍将校は勝手に読み始めた。
「第一。冬季始動性の改善」
「発動機側の問題だ」
「機体側でもできることを行え」
「保温覆い。温油装置。始動前加熱」
「付けられるか」
「付けられる。重くなる」
「第二。後方防御火力の検討」
元白軍将校が顔を上げた。
「後ろにも十一粍を載せろ」
「重い!」
元ドイツ軍技術者が即答した。
ポーランド軍将校は続けた。
「搭載位置、射界、操作人数を検討せよ。正式搭載を命じたわけではない」
元独立運動家が胴体後部を見た。
「担架とぶつかる」
「だから検討だ」
「貨物扉ともぶつかる」
「検討しろ」
「台車を積めなくなる」
「全部同時に使う前提にするな!」
元白軍将校が言った。
「後ろから敵が来た時、負傷者を降ろすのか」
「降ろさない!」
「なら銃は負傷者の上を通す」
「撃つな!」
「後ろから敵が来ている」
「まだ来ていない!」
ユダヤ人実業家が会議室から顔を出した。
「後方銃座を追加する場合、機体価格は上がりますか」
ポーランド軍将校が振り向く。
「まだ設計もしていない!」
「見積りの準備です」
元ドイツ軍技術者は胴体図面を広げた。
「後部へ常設するのではなく、交換式の架台にする」
ポーランド軍将校が彼を見る。
「できるのか」
「写真機、無線席、担架、後方銃座。全部同じ場所を取り合う」
元独立運動家が答えた。
「なら床レールへ載せる」
「射撃反動を床レールだけで受けるな」
「隔壁へ支柱を出す」
「組立に時間がかかる」
元白軍将校が言った。
「敵が来る前に付けろ」
「その判断ができるならな」
また一つ、量産型完成後の改修項目が増えた。
ポーランド軍将校は三枚目を読んだ。
「第三。航続距離延長の検討」
元ドイツ軍技術者が顔を上げた。
「重量を増やして、後方銃を積み、冬季装備を付け、さらに燃料を増やせと」
「検討だ」
「軍は検討という言葉で重量を増やす」
「全部採用しろとは言っていない」
元白軍将校が言った。
「全部要る時もある」
元ドイツ軍技術者は図面を丸めた。
「その時は何かを降ろせ」
Bizonの量産型は、万能機ではなかった。
全部を同時に満たすことはできない。
だから任務ごとに載せ替える。
その考えは変わらなかった。
飛行機に余裕がないのではない。
国に余裕がなかった。
一機を一つの仕事だけへ縛り付けられないのである。
食堂では、昼食のパンが少し小さくなっていた。
元白軍将校は、配膳されたパンを持ち上げた。
「小さい」
ポーランド軍将校が答えた。
「お前が食いすぎる」
「前より小さい」
食堂担当者が近づいてきた。
「重さは一割減っています」
「なぜだ」
「小麦粉価格ではありません」
「では何だ」
「持ち帰る者が増えました」
食堂の隅。
工員の一人が、パンを半分布へ包んでいた。
別の者はチーズを少し残している。
夕食にするため。
子供へ持ち帰るため。
家で食べる人数が増えたため。
失業した兄弟。
仕事を減らされた父親。
工場を解雇された下宿人。
WILKで働く一人の賃金が、以前より多くの口を支えるようになっていた。
食堂担当者は続けた。
「一人分を大きくすると、持ち帰りが増えて午後に腹を空かせます」
「だから小さくしたのか」
「パンを二つにしました」
元白軍将校は配膳盆を見る。
小さなパンが二つ。
合計重量は以前とほぼ同じ。
一つは昼に食べる。
一つは持ち帰れる。
「減っていない」
「形を変えました」
ユダヤ人実業家が小さなパンを一つ取った。
「焼成時間は」
「少し短くなります。数が増えるので並べる手間は増えます」
「包装は」
「持ち帰り分だけ紙です」
元独立運動家が言った。
「麻袋に入れろ」
食堂担当者が首を振った。
「パンに麻の匂いが付きます」
元ドイツ軍技術者が頷いた。
「用途を増やしすぎるな」
ポーランド軍将校は意外そうに彼を見た。
「お前が止めるのか」
「食料へ機械油の付いた袋を使うな」
元白軍将校はパンを一つ食べ、もう一つを外套へ入れた。
ポーランド軍将校が指を差す。
「持ち帰るのか」
「夜に食う」
「お前もか!」
乳製品棟では、さらに小さな包みの商品が増えていた。
バター。
チーズ。
粉乳。
一度に買う金額を抑えるため、一包みを小さくする。
以前なら家族で一週間使う量を買っていた者が、二日分だけ買う。
大箱を買った商店が、小箱を求める。
上等なチーズは売れにくい。
安く、日持ちし、腹を満たす品が動く。
食品担当者は、新しい商品を五人へ見せた。
「乳清入りパンです」
元白軍将校が手を伸ばした。
ポーランド軍将校は止めなかった。
もう諦めていた。
一口食べる。
「柔らかい」
「乳清を捨てずに使えます」
「甘い」
「砂糖は増やしていません」
元独立運動家も食べた。
「日持ちは」
「普通のパンより少し長いです」
ユダヤ人実業家が原価表を見た。
「小麦粉を減らせますか」
「少しだけ」
「売価は」
「同じにすると売れません」
「少し下げる」
「利益が減ります」
「量が出れば」
食品担当者は首を傾げた。
「出ますか」
ユダヤ人実業家は窓の外を見た。
工場門前の技能登録者。
食堂からパンを持ち帰る工員。
小さな包みを求める商店。
「出ます」
豊かな者が増えたからではない。
一度の買い物へ使える金が減った者が増えたからだった。
元ドイツ軍技術者は乳清入りパンの断面を見た。
「海外へ送れるか」
「パンのままでは難しいです」
「粉にしろ」
食品担当者が考える。
「乾燥させて、現地で水を加える」
「粉乳設備が使える」
ユダヤ人実業家が帳簿を開いた。
ポーランド軍将校が警戒した。
「今度は何を始める」
「保存パン用混合粉です」
「航空機会議の途中だぞ!」
元白軍将校がパンをもう一つ取った。
「兵にも使える」
ポーランド軍将校の動きが止まった。
「軍用糧食としてか」
「水を入れて焼けばよい」
食品担当者が答えた。
「窯が要ります」
元独立運動家が言った。
「小さな窯を作れ」
元ドイツ軍技術者が続けた。
「冷蔵設備部門の板金を使える」
ユダヤ人実業家が書き込む。
「海外支社でも販売できます」
ポーランド軍将校は机を叩いた。
「なぜパン一つから設備一式が増える!」
誰も答えなかった。
既に増やすための相談へ移っていたからである。
その日の午後、フランス支社から電報が届いた。
航空機用機銃工場を引き継いだ後、WILKは現地に小規模な整備・販売拠点を維持している。
当初の仕事は航空機銃と予備部品だった。
今では冷蔵設備、バター、チーズ、粉乳も扱う。
電報には短く書かれていた。
航空機部品注文、延期。
冷蔵庫二十基、見積り要請。
粉乳追加。
現地倉庫、狭小。
ポーランド軍将校が読んだ。
「航空機部品は売れていない」
ユダヤ人実業家が答えた。
「延期です」
「いつまで」
「書いてありません」
「冷蔵庫は売れる」
「はい」
「粉乳も」
「はい」
「倉庫を増やすのか」
「必要です」
「外国で工場まで作る気ではないだろうな」
ユダヤ人実業家は少し黙った。
ポーランド軍将校が目を細めた。
「考えているな」
「現地雇用を使えば、輸送費を減らせます」
「航空機支社だぞ」
「現在、一番売れている商品を保管する場所です」
元独立運動家が地図を広げた。
「倉庫の隣に修理場がある」
「冷蔵庫も直せる」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「航空機用工具を食品設備に使うな。洗浄区画を分けろ」
「分ければできるのか」
「できる」
元白軍将校が言った。
「ならやれ」
ポーランド軍将校が立ち上がった。
「簡単に国外事業を決めるな!」
ユダヤ人実業家は電報の裏へ数字を書き始めていた。
建物賃料。
現地人員。
輸送費。
関税。
冷蔵庫二十基。
粉乳。
修理契約。
「支社を広げる方が安いです」
「まだ計算途中だろう」
「概算です」
「概算で国外拠点を増築するな!」
元白軍将校が言った。
「屋根と壁があればよい」
元ドイツ軍技術者が反論した。
「冷蔵倉庫には断熱が要る」
「では断熱も付けろ」
「話を大きくするな!」
WILKの海外支社は、飛行機を売るために作られた。
だが飛行機が売れない時代にも、支社を閉じるわけにはいかない。
閉じれば人が散る。
倉庫がなくなる。
整備設備が失われる。
次に航空機の注文が戻ってきても、何も残っていない。
なら、今売れる物を扱う。
食料。
冷蔵設備。
修理。
木箱。
麻袋。
飛行機から離れているように見えて、すべては飛行機を売る場所を残すためだった。
夕方、営業部が新しい広告案を持ってきた。
中央にはBizon。
その周囲に、牛乳缶、冷蔵庫、麻袋、二輪台車、パン。
見出し。
WILKは不況下でも前進する。
ユダヤ人実業家は広告を一目見て、机へ伏せた。
「没です」
営業担当者が驚いた。
「なぜです」
「見出し」
「事実です」
「だから駄目です」
「事実を広告にしてはいけないのですか」
「時と場合によります」
ポーランド軍将校が広告を見た。
「飛行機会社の広告にパンを載せるな」
元独立運動家が言った。
「売っている」
「冷蔵庫も」
「売っている」
「台車も」
「売る」
「まだ民間型は試作中だ!」
営業担当者が尋ねた。
「では、何を書けば」
ユダヤ人実業家はしばらく考えた。
修理します。
運びます。
冷やします。
食べられる形にします。
飛べる物も作ります。
ポーランド軍将校が読み上げた。
「最後だけ扱いが軽くないか」
元白軍将校が答えた。
「飛行機は飛べば分かる」
元ドイツ軍技術者は広告のBizonを指した。
「試作機の写真を使うな。量産型は点検窓の位置が違う」
営業担当者は顔をしかめた。
「外からほとんど見えません」
「違う」
「買う人に分かりますか」
「整備する者には分かる」
ユダヤ人実業家は最終的に、広告そのものを延期した。
商品を売る必要はある。
だが、他の工場が止まっていく中で、
我々だけは成長している。
と声高に言う必要はなかった。
それは客だけに届く言葉ではない。
夜。
五人は事務棟の窓から、町を見ていた。
雪はやんでいる。
工場の明かり。
駅の明かり。
商店の明かり。
遠くの住宅。
以前より暗い家が増えた。
電気代を節約している。
石炭を節約している。
寝る時間を早くしている。
飢えてはいない。
だが、これまで当然だった生活を、一つずつ減らしている。
元白軍将校が窓辺へ置かれた小さなパンを取った。
「また小さくなった」
ポーランド軍将校が言った。
「二つある」
「一つは持ち帰る」
「誰にだ」
元白軍将校は答えなかった。
工場の門近く。
守衛小屋の外に、一人の男が立っていた。
昼間の技能登録に間に合わなかったらしい。
守衛が何かを話し、紙を渡した。
男は紙を受け取り、工場を見上げた。
煙突。
明かり。
動いている人影。
やがて帽子を被り直し、町の方へ歩いていった。
ユダヤ人実業家が言った。
「明日も来るでしょう」
元独立運動家が答えた。
「登録する」
「仕事は」
ポーランド軍将校が尋ねた。
「今はない」
「なら、なぜ登録させる」
元白軍将校が答えた。
「仕事ができた時、呼ぶためだ」
元ドイツ軍技術者は窓から離れた。
「できなければ」
誰もすぐには答えなかった。
工場の外では仕事が減っている。
工場の中では、仕事にできる物を探し続けている。
その差は、まだ希望として見られていた。
だが、希望は遠くから見れば、
自分だけが持っていない物にも見える。
翌朝。
門の外壁に、炭で文字が書かれていた。
ここには仕事がある。
ただ、それだけだった。
非難でもない。
脅迫でもない。
求人を求める言葉なのか、
羨望なのか、
皮肉なのかも分からない。
守衛が濡れた布で消そうとした。
元独立運動家が止めた。
「なぜ消す」
「落書きです」
「間違っていない」
ポーランド軍将校が言った。
「残せば人が集まる」
ユダヤ人実業家は文字を見た。
「消しましょう」
元白軍将校が尋ねた。
「なぜだ」
「仕事があることと、仕事を渡せることは違います」
守衛は文字を消した。
黒い炭は伸び、灰色の汚れになった。
完全には消えなかった。
WILKの煙突からは、その朝も煙が上がった。
前年までは、それを見た者は、
工場が動いていると思った。
今年からは、
なぜあそこだけ動いているのかと考える者が、少しずつ増え始めていた。