【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
気が付けば時計の針は午後十時を回っていた。
楽しい時間というものは、本当にあっという間だった。
悠真は時計を見上げ、小さく微笑む。
「もうこんな時間ですか」
「そろそろ私は失礼します」
そう言って立ち上がろうとした、その時だった。
「先生ぇ……」
ルビーが寂しそうな声を漏らし、そのまま悠真へ抱きついた。
「もう帰っちゃうの?」
「もっとお話ししたい……」
その様子に悠真は苦笑する。
「ありがとうございます。ですが、またどこかで会えますから」
するとアクアが立ち上がり、ルビーの肩へそっと手を置いた。
「ルビー」
「先生も忙しいんだから、引き留めたらだめだ」
「……うぅ」
「でも……」
ルビーは名残惜しそうに悠真を見上げる。
アクアは優しく続けた。
「先生は俺たちのために時間を作って来てくれたんだ」
「これ以上困らせちゃだめだ」
その言葉にルビーは小さく頷いた。
「……うん」
アイはその様子を見ながら苦笑する。
「ルビーがごめんね、先生」
「いえ」
悠真は優しく首を横に振った。
「そう思っていただけるだけで十分嬉しいですよ」
するとアイは何かを思い出したように手を叩いた。
「あっ、そうだ!」
「先生!」
「連絡先交換しようよ!」
「もう医者と患者の関係じゃないんだから、いいでしょ?」
その言葉に悠真は思わず目を丸くした。
「……だから」
「あなたは芸能人でしょう」
「気軽に連絡先を交換するべきではありません」
真面目な口調でそう返す。
しかしアイは全く気にしていない様子だった。
「いいじゃん!」
「もう友達みたいなものでしょ?」
「アクアとルビーも先生のこと大好きだし」
そう言ってスマートフォンを差し出してくる。
悠真は困ったように額へ手を当てた。
「本当に……危機感がありませんね」
少し考えたあと、小さくため息をつく。
「……まあ」
「LINEくらいでしたら」
「やった!」
アイは嬉しそうに笑う。
二人はスマートフォンを操作し、お互いのLINEを交換した。
交換が終わると、悠真は真剣な表情でアイを見る。
「いいですか、アイさん」
「他の方と気軽に連絡先を交換してはいけません」
「あなたは多くの方から注目される立場です」
「悪意を持って近付いてくる人もいます。ですから、十分注意してください」
アイは少し笑いながら答えた。
「先生だけだよ。交換したの」
その言葉に悠真は少し安心したように頷く。
「それなら良いのですが」
しかし、その空気を一瞬で吹き飛ばす爆弾発言が飛び出した。
「もう先生とお母さん、結婚すればいいのに!」
ルビーだった。
部屋の空気が一瞬止まる。
そして次の瞬間、
「何言ってるの、ルビー!」
「何を言っているんですか、ルビーちゃん!」
二人の声が見事に重なった。
ルビーは目を輝かせる。
「ほら!」
「息ぴったり!」
アイは一瞬で顔を真っ赤にした。
「る、ルビー!」
「もう!」
両手で顔を隠し、恥ずかしそうにもじもじしている。
一方、悠真は咳払いを一つすると、真面目な表情のまま話し始めた。
「ルビーちゃん」
「そのような冗談は、あまり言わない方がいいですよ」
「アイさんは私の元患者さんです」
「医師にとって、患者さんや元患者さんと恋愛関係になることは、ご法度です」
「自意識過剰かもしれませんが」
「アイさん、こういった冗談も、決して鵜呑みにしないようお願いします」
「医師として一線は守らなければなりません」
その真剣な言葉に、アイも赤い顔のまま小さく頷いた。
「……うん…分かった」
ルビーは頬を膨らませる。
「えーつまらないなー」
するとアクアが静かにルビーを見る。
「先生の言う通りだ。その辺にしておけ、ルビー」
「はーい……」
ルビーは少しだけ不満そうに返事をした。
そんな妹を見てアクアは苦笑し、悠真とアイも思わず顔を見合わせる。
先ほどまでの緊張した空気は、自然と穏やかな笑いへと変わっていった。