【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
そして迎えた撮影当日、都内にある映画スタジオ。
まだ朝早いにもかかわらず、撮影現場には多くのスタッフが集まっていた。
「おはようございます!」
アイに連れられ、アクアとルビーもスタジオへ入る。
すると、ヘアメイク担当が二人を出迎えた。
「よろしくね。今日は役に合わせて髪色を変えるから」
「はーい!」
ルビーは元気よく返事をする。
今回演じるのは、主人公の少年時代と、その幼馴染。
目立つアクアとルビーの髪の色では役のイメージに合わないため、撮影用のウィッグで二人とも黒髪になった。
「おお……」
鏡を見たルビーが驚く。
「なんか別人!」
アクアも鏡を見る。
「悪くないな」
黒髪になった二人は、まるで本当の普通の兄妹……いや、幼馴染のような雰囲気になっていた。
その姿を見たスタッフも思わず頷く。
「似合ってる」
「これなら役のイメージそのままだ」
そんな二人の登場に、出演者たちも自然と視線を向ける。
「おっ」
「あの子たちか」
「今話題の天才双子だよな」
「全国一位になった子たち」
「演技もできるって本当なのかな」
現場では期待半分、不安半分といった空気が流れていた。
その時、一人の男性が笑顔で近付いてくる。
今回の映画で主人公を演じる俳優だった。
「君がアクア君か!」
アクアの肩を軽く叩きながら笑う。
「俺の子供時代、かっこよく演じてくれよ!」
親指を立て、ぐっとサインを送る。
「はい」
アクアは落ち着いて頷いた。
続いて主人公の相手役の女優もルビーへ微笑む。
「緊張しなくて大丈夫だよ」
「私たちも最初はみんなそうだったから」
「困ったことがあったら何でも聞いてね」
ルビーは少し緊張した表情だったが、その言葉に笑顔になる。
「ありがとうございます!」
現場の空気はとても温かかった。
スタッフも演者も、初めて映画へ出演する二人を自然と受け入れてくれていた。
そして――
撮影開始。
今回の映画は、幼馴染だった少年と少女の物語。
幸せな日々を過ごしていた二人だったが、ある日突然、家庭の事情で離ればなれになってしまう。
当時は連絡手段もなく、二人は再会を約束することすらできなかった。
だからこそ、別れ際に一つだけ合言葉を決める。
「いつかまた会えたら、この言葉を言おう」
それだけを胸に、それぞれ別々の人生を歩み始める。
そして十五年後――。
大人になった主人公は、ふと思い出したように、その合言葉をインターネットで検索する。
すると、一件のブログへ辿り着く。
そこから、たった一つの言葉を手掛かりに幼馴染を探し始める――。
そんな感動作品だった。
つまり、この映画が観客の涙を誘えるかどうか。
その鍵を握るのは、幼少期を演じるアクアとルビーだった。
「よーい……」
「スタート!」
カチンコが鳴る。
アクアは一瞬で主人公へ変わった。
自然な表情。
細かな目線。
感情を抑えた台詞回し。
幼い主人公そのものだった。
「さすが……」
スタッフが思わず息を呑む。
一方のルビーは――
最初こそ少し緊張していた。
感情が上手く乗らず、一度だけNG。
「ご、ごめんなさい……」
申し訳なさそうに頭を下げる。
しかし、五反田監督は笑った。
「大丈夫。深呼吸して、いつも通りでいい」
周囲の演者たちも優しく声を掛ける。
「焦らなくていいよ」
「一回目なんて誰でも緊張するから」
「楽しんで演じよう」
その言葉にルビーは大きく息を吸った。
「……はい!」
二回目。
カチンコが鳴る。
その瞬間だった。
まるで別人のように、ルビーの表情が変わる。
笑顔。
泣き顔。
幼馴染を大切に思う優しい眼差し。
すべてが自然だった。
その後は一度も止まることなく、最後まで演じ切った。
しかも、二人とも、台詞を一語たりとも間違えない。
ルビーの最初のNGも、台詞を間違えたわけではない。
ただ、緊張で感情が少し硬くなっていただけだった。
それ以降は完璧だった。
撮影が進むにつれ、現場の空気が変わっていく。
スタッフは仕事の手を止める。
演者たちもモニターへ釘付けになる。
兄妹だからこそ生まれる自然な距離感。
息の合った掛け合い。
互いを本当に大切に思っていることが伝わる演技。
それは演技というより、本当にそこに生きている幼馴染そのものだった。
気付けば、モニターを見ていた女優が目元を押さえていた。
「……ダメ」
「もう泣きそう」
別の俳優も鼻をすすりながら笑う。
「まだ子供時代なのに、もう感動してるんだけど」
撮影が終わる頃には、涙を流している者まで現れていた。
五反田監督は腕を組み、満足そうに大きく頷く。
「素晴らしい」
「アクアはもちろんだが……ルビーも予想以上だ」
「兄妹だからというのもあるんだろう」
「だが、それを差し引いても、この二人は本物だ」
「こんな完璧な演技をする子役は見たことがない」
現場は静まり返る。
やがて一人の俳優が、小さく呟いた。
「……本物の天才が出てきたな」
その言葉に、周囲の演者たちも静かに頷く。
誰一人として異論はなかった。
この日……映画業界は、新たな二人の天才子役の誕生を目の当たりにしたのだった。