その時またまた歴史が動いた。 作:dwwyakata@2024
フェザーン特区に降り立ったアンネは、文通をしていた相手を見つけて手を振る。今では帝国と同盟は友好条約を結んでおり、戦争はずっと起きていない。それぞれ別方向に開発を進めていて、人類はそれぞれが好む国家に所属していれば良かった。まだ銀河系は三分の二も残っているし。それ以外にも近隣には銀河がいくつでもあるのだから。
アンネに駆け寄ってきたのは、十歳も年下の文通相手である。リィナという。十歳年下だが、あのヤン=ウェンリーの孫娘だからか、ものすごい天才児として知られているようで。
星間ネットで知り合った時は、同年代だと思っていた。
ちなみにフェザーン特区にある合同大学にこれから通うので、リィナは先輩になる。
ちょっと生意気で、古くで言うならメスガキとかいうらしいが。
流石に本人にそれを言うと怒るので、言うことはない。
フェザーンを歩きながら話す。
「三十年も前に戦争が終わって、それからずっと平和なんだってね」
「正確には三十二年前です。 同盟と帝国で総力戦をやって、それでキルヒアイス提督がラインハルト帝に進言したそうです。 既に両者の実力は伯仲、これ以上は得るものなし。 ゴールデンバウム朝は倒れ、同盟も平和と安定を求めている。 だから、これ以上は止めようと」
「キルヒアイスさんか……」
見上げた先にあるのは、キルヒアイスを従えたラインハルト帝と。
ヤン=ウェンリーが握手している銅像。
ただし、本人達の希望で、等身大で作られているそうだ。
帝国皇帝であるラインハルトと、同盟軍統合作戦本部長兼イゼルローン方面艦隊司令官である二人の死闘は激烈を極めたが、結局決着はつかず。
今ではその死闘は語り草となって、研究本がダース単位で出版されている。
アンネの前の前の世代くらいまでは、帝国には農奴という酷い扱いを受けている人達もいたが。
ラインハルト帝がそれらは全て解放して。
今では帝国と同盟では生活水準も医療技術も変わらないし、なんなら積極的に人々が行き来までしている。
同じ大学に両国の生徒が通うなんて、昔だったら考えられなかったらしい。
少し前にラインハルト帝は亡くなったが、孫達に囲まれての大往生だったらしくて。
アンネも国葬で特に年寄りがおいおい泣いているのを見た。
だけれどもアンネにはあまり関係がない話だ。
昔はとにかく酷かったらしいのだけれども。アンネの生きた時代には、まともな待遇が当たり前になっていた。
偉大な皇帝として尊敬はしているけれど。
それはそれとして、その業績は、どうしても肌では感じにくいのだ。
大学に案内して貰って、中を見て回る。
最新の設備が整っていて素晴らしい。
最近では帝国同盟合同で、銀河系中心部の超巨大ブラックホールの調査などもしているらしい。
アンネの目的は生物学研究で。
それによるテラフォーミングだが。
リィナの目的は、宇宙物理学の発展で。
なんでもアンドロメダに先遣隊を送る時に、その面子に加わることなのだとか。
授業を一緒に受けた後、学食で軽く話す。
「それにしても150年も戦争していたのに、良くうまくやれるようになったよね」
「帝国側が約二十年間、同盟に手を出せなくなったのが大きいと言われています」
「そういえば、空白安定期って言われる時期があったんだっけ」
「はい。 酷い内乱の後、国力の回復のために帝国はラインハルト帝主導で国を立て直しました。 その間に同盟でも国力を蓄え、空白安定期が終わった後、双方の国力は完全に互角になっていたそうです」
その結果、勝負がつかなくなった。
偉大な英雄は、自国を立て直し、ゴールデンバウム朝を屠るので精一杯。
同盟は血の気が多い主戦派を掣肘して、国内の立て直しに必死。
それが終わった後、人類統一をもくろむラインハルト帝が大動員を発令したが。意外にも、側近からさえ反対意見が出たのだとか。
「オリオン腕とペルセウス腕に別れた人類社会は、既に互角の実力を持つ国家に分割され、更には世代も変わろうとしている。 その状態で、今更また戦争を起こすよりも、それぞれが外側の領域を開発して、人類の生存領域を増やすべきだ。 そういう意見を、最側近であるオーベルシュタインさんが提示。 それに普段は反対しがちなヒルダ皇妃も同意したのだとか」
「あー、皇妃殿下も意見が同じだったんだ」
「それでもラインハルト帝は出征したものの、やはり兵士の士気は低く、イゼルローンの守りは鉄壁で。 激しい戦いの後、決着もつかず。 キルヒアイスさんの意見もあって、停戦になったそうだよ」
「……ラインハルト帝。民衆を慈しむ逸話が多いもんね。 兵士達が誰も戦争を望んでいないって、気づけたのかな」
そうかも知れないと、リィナは言う。
結果、和平の後は、それぞれが銀河の未踏破領域に進出を開始した。
更に遠くへ。
ゴールデンバウム朝の前の時代も、人類はそんな風だったらしいけれど。いずれにしても、今回はそれぞれで生き方を選べるし。過去の失敗を知っている。
前よりはきっとましになると信じたい。
午後からも同じ授業に出る。
リィナは話していて、ギフテッドである事が一発で分かる。頭の回転が遅い相手にあわせるしゃべり方を理解しているのだ。
それでいて生意気だけれど不愉快ではないのは。
今はギフテッドに対する教育システムが完備しているから、かもしれない。
ラインハルト帝もとんでもないギフテッドだったらしく、幼い頃は周りからはずっと敵視されていたそうだし。
そういった前例から、少しでも学ぶようにしたのだろう。
いずれにしてもアンネは平和な時代に生きている。
大学を終えたら、帝国に戻って、進出した星系でのテラフォーミングに従事する予定だ。
勿論たまに宇宙海賊とかも出るらしいけれど、それらの退治は軍の仕事。
生き方がいくつもあって、自由に選べる。
平和な時代の証拠だ。
アンネはそんな時代に。
今希望を持って生きていた。
(終)
帝国と同盟の完全な拮抗。
その結果、訪れた平和の時。
ラインハルトも子供が出来て丸くなった、ということもあります。それを素直に受け入れることが出来ました。
かくして帝国と同盟は和平を結び、それぞれ未開発の宇宙へ進むこととなりました。
これはそういう歴史のifの物語なのです。
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