主人公は、目覚まし時計が鳴らずにデートの約束に遅刻する。 同じ時間に寝癖をつけてやってきた彼女と、穏やかな時間を過ごすのだった。

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ストーカー彼女と気づかない彼氏君

 彼女との初デートに、寝坊してしまった。

 セットしたはずの目覚ましが鳴らなくて、目覚めたら待ち合わせまであと少し。

 

 当然ご飯は抜く。歯磨きをして顔を洗って、服だけ着替えて、財布とスマホだけを持って玄関から飛び出した。

 走りながら、遅れるかもってメッセージだけ送る。後は、ずっと走り続ける。時計を見ている時間すら惜しかった。

 

 待ち合わせ場所の公園について、彼女を探す。すぐには見当たらない。

 パタパタという足音が聞こえて、振り向いた。

 

「お、遅れちゃいました……」

 

 僕と同じように肩で息をしながら、寝癖だらけの彼女がやってきた。跳ねた髪を適当にくくっただけみたい。寝起きそのもので、普段のふわふわな髪とは大違い。真新しい白のワンピースも、いつもならもっと似合ったんだろうな。

 真っ赤な顔で頭に手を置いて舌を出す姿も、それはそれで可愛いけどね。

 

「見ての通り、僕も遅れたからお互い様かな……」

「えへへ、お揃いですね……なんて、言ってみたりして」

「連絡しておけば、お互いもっとゆっくり来られたね……」

「忘れちゃってました……。早く、あなたに会いたくて……」

 

 相変わらず顔は赤いまま、モジモジしている。そこまで想われているのなら、悪い気はしないけど。

 それに、謝罪合戦を繰り返していてもね。お互い急いでまで来たんだから、しっかりと楽しまないと。楽しみにしてくれていた証なんだし。

 

「じゃあ、できるだけ楽しめるデートにしないとね」

「楽しみです……。今日のために、ずっと準備をしてきたんですから」

「そういえば、新しい服だよね。とっても可愛いよ」

 

 僕の好みにピッタリ。ふわふわしたワンピース、最高だよね。彼女のゆるっとした印象も相まって、箱から取り出したばかりの人形みたい。

 

「ありがとうございます。頑張って選んで、良かったです」

 

 ふわりと笑う姿には、つい見とれそうになった。ちょっと口を開けちゃっていたので、引き締める。

 

「今日はどこに行こうか? 候補はいくつか考えてるけど、どうする?」

「服屋なんて、どうでしょうか。もうすぐ衣替えですし、あなたのを選んでみたいです」

 

 なるほど。僕は水族館と遊園地とスポーツ施設を考えていたんだけど、着替えられるし効率がいいかも。

 

「良いね。僕も、君のを選んでも良かったりするかな?」

「もちろんです。好みに合わせられるように、頑張りますね」

 

 言うが早いか、彼女は僕の手を取った。柔らかさと温かさが伝わってきて、ちょっとだけ背筋が伸びる。

 彼女は僕より先に歩き出したので、合わせながら歩く。そこまで意識しなくても、ペースは同じくらいだった。繋いでいるのは僕の右手だし、ちょうどいいかな。

 

 細い道を通ったり、歩道橋を越えたり。ちょっと遠くまで歩いていった。

 少しも迷わずに店にたどり着いて、一緒に入る。なんだかいっぱい服が並んでいるという、あまりにも単純な感想が浮かんでしまった。

 

「まずは、あなたの服を選びたいです。ちょっとだけ、ここで待っててくださいね」

 

 試着室の前で、彼女は去っていく。スマホでも見ようかと思っていたら、ブラウザを開いてすぐに帰ってきた。

 手渡された服を着ると、確かに良い感じに思える。なんというか、大人っぽい感じ。落ち着いた色合いだよね。

 サイズもちょうどいいし、とりあえずこれは買って良いかも。まあ、彼女の意見も聞いてからだけど。

 

 カーテンを開けると、穏やかな笑顔で胸の前に手を合わせていた。

 

「やっぱり、とっても似合ってますね。ふふ、自信がついてきそうです」

「なら、決まりだね。君のセンスに任せておけば、良いものが買えそうだよ」

「じゃあ、もういくつか持ってきますね。すぐに帰ってくるので、待っていてください」

 

 次もすぐに帰ってきて、今度はカゴにたくさんの服を入れていた。ひとつひとつ着ていったけど、どれもバッチリ。

 財布の中身を心配するくらいに買った。これからデートを繰り返すと思えば、服の種類が多いのは便利かな。

 

「じゃあ、今度は僕が選ばせてもらうよ。君なら、なんでも似合うとは思うけどね」

「はい、楽しみです。あなたの色に染めてください。なんて」

 

 彼女の言葉に意気込んではみたものの、僕の選んだ組み合わせを彼女が着たら、思ったほどでもない。いや、もちろん彼女は可愛いんだけど、その可愛さに服が釣り合ってないみたいな。

 

 服とにらめっこして選んだけれど、結局ダメ。五回くらい繰り返して、僕は諦めることになった。

 ため息をついていると、彼女は何枚かの服を抱きしめる。

 

「ちょっと、待っていてください」

 

 そう言って、服を選びにいった。

 試着室の前で、僕はスマホを見ながら時間つぶし。ふたつくらいミニゲームを終わらせたところで、彼女が戻ってくる。

 

 すぐに試着室に入って着替えた彼女は、すごく可愛かった。上着は僕の選んだものなのに、雑誌で見るモデルさんも顔負けってくらい。ふわふわな白い服が映えていて、本当にすごい。

 彼女が選んだスカートが優しいピンクなのが、お互いを引き立てているみたいだ。

 

 数秒ほど黙り込んでしまって、彼女が首を傾げる。すぐに、僕は褒めていく。

 

「すっごく似合ってるよ。素敵な彼女がいるんだって、誰にでも自慢できそうなくらい」

「それは嬉しいです……。いつでも、自慢できる話を用意しますからね」

「無理はしなくていいからね。お互いに楽しむのが、一番だと思うから」

「ふふ、そうですね。じゃあ、次のデートではこれを着てきますね」

 

 笑う彼女の顔を見れただけで、今回のデートに来た価値はあったと思う。それくらいの笑顔だった。

 会計を終えて、荷物を持つ。すると、隣から少し高い乾いた音が聞こえてきた。そちらを見ると、彼女はまた顔を赤くしていた。お腹を抑えているし、そういうことだよね。

 

「そろそろ良い時間だし、何か食べに行こうか。候補はいくつか考えてるけど……」

「ハンバーグとか、どうですか? 美味しいお店を知っているんですよ」

「良いね。僕も好物なんだよね。話してたら、お腹空いてきたな……」

「じゃあ行きましょう。ふふ、きっと喜んでもらえますから」

 

 彼女に手を引かれるままに、ハンバーグ屋さんへと向かう。デートプランを色々と考えはしたけれど、エスコートするどころかされるばかり。ちょっと情けないような気がする。けど、彼女は鼻歌まで歌っている。楽しんでくれているのなら、十分かな。

 

 少し入り組んだ裏道に、目的のハンバーグ屋さんはあった。そこまで混んでおらず、穴場って感じ。

 中に入ると、とても良い匂いが漂ってくる。肉の焼ける音も聞こえる。思わず、つばを飲んだ。

 

 席について、まず彼女が注文する。待たせないように、僕もすぐに選んだ。たぶん、彼女も朝を食べてないし。

 食事を待つ彼女はとてもニコニコしていて、見ているだけで満足できそう。

 

 ハンバーグがやってくると、鉄板に乗ってジュージュー言っている。よく焼かれていて、かなり良い感じ。付け合わせもニンジンとじゃがいもで、まさに僕好みで完璧。

 彼女が手を合わせていて、僕も手を合わせる。彼女は僕をじっと見ていたので、箸を手に取った。先に食べてくれてよかったけど、押し問答をする方が待たせちゃうし。

 一口運ぶと、暴力的な旨味が襲いかかってくる。あっさりと噛み切れるのに、ボリューミー。白ご飯をかっこむ手が止まらなかった。

 

 食べ終えて、ハッとして彼女を見る。一口ずつ唇を緩めて食べていたので、のんびりと待つことにした。

 彼女の美味しそうな顔を見ているだけで、笑顔になれちゃう。

 

 最初は半分ほど残っていたけれど、気づいたら食べ終わっていた。時計を見たら、20分くらい経っていた。

 満足そうに息をこぼす彼女を見ながら、レシートを手に取る。支払いに向かうと、彼女が先にお金を取り出した。

 

「今日は、私が払いますね」

 

 反論しようかなとも思ったけれど、店員さんを待たせるのもあれだし。とりあえず、後で必要な分を渡せばいいかな。そう考えて、頷いた。

 彼女が出した金額ピッタリの値段が告げられて、レシートをよく見ていたんだなって。そういうところも素敵だよね。

 

 店から出て、財布を取り出そうとする。その前に、手が抑えられてしまった。

 

「ふふ、楽しい時間のお礼です。財布が厳しい時に、無理はしないでください。お互いが楽しむのが、一番なんでしょう?」

 

 僕の言ったこと、そのままだ。これは、完敗だな。本当に、最高の彼女と出会えたみたいだよ。初めてのデートだけど、もう確信できている。きっと、もう二度と彼女以上の人とは出会えないって。

 そんな気持ちを込めて、僕は彼女の手を取ったんだ。

 

「そっか。そうだね。君が問題ないのなら、ありがたく受け取らせてもらうよ」

「はい、そうしてください。デート代を出されるよりも、いっぱいデートをできる方が嬉しいですから」

 

 そう言って、はにかんでくれる。とても僕との関係を大事にしてくれているって、何よりも雄弁に伝わってくる。

 

「なら、そうさせてもらおうかな。とは言っても、ちょっと情けない気もするけれど……」

「アルバイトを増やしたら、肝心のデート時間が減っちゃいます! それこそ、本末転倒ですから!」

 

 勢いよく近寄ってきて、強弁される。僕はすぐに頷いた。

 

「確かに、そっちの方が情けないか……。僕のカッコつけで君を悲しませたら、それこそ大惨事だ」

「はい。やっぱり、あなたは優しいですね。こうして車道側を歩いてくれますし、歩道橋では一段下を歩いてくれましたし」

 

 なんて、穏やかな声で言われたりもした。

 意識するまでもない当たり前のことだとは思うけど、褒め言葉は素直に受け取っておこう。反論なんてしたら、悲しませちゃう。

 

「なら、良かった。次も、また次も良い時間になるように、頑張るよ」

「次のことも考えてくれているんですね……。じゃあ、今日はここまでにしましょうか。荷物、重いでしょう?」

 

 ウインクをしながら問いかけられて、うなずく。たぶん、否定したら彼女が持っちゃう。

 お家デートも憧れるけど、初デートでは気が早いし。なら、ここらでお別れが妥当かな。

 今日はほとんどエスコートされちゃったし、今度はもっと良いプランを考えないと。お互いが、楽しめるように。

 

「そうだね。名残惜しいけど……。また、次の機会に楽しめば良いんだよね」

「はい。でも、もう少しだけ……」

 

 彼女はおずおずと手を差し出してくるので、しっかりと握る。少しだけ、街を眺めながら歩いていった。

 

「おふたりとも、デートに歌はどうですか? いま、ドリンクが一杯無料ですよ!」

「彼、明日は朝早いので……。また、機会があれば……」

 

 僕が前に出ようとしたら、その前に彼女がキャッチを追い払った。堂々としている姿は、ふわふわした可愛さとはまた違う。カッコいい一面を見れたのも、良かったな。

 なんて、本当は僕が断るべきだったんだろうけど。反応が遅れちゃった。

 

 でも、暗い気分になっちゃダメだ。沈んだ顔をしていたら、心配させちゃう。

 

「そういえば、僕が明日早いってよく分かったね」

「追い払えれば、なんでも良かったんです」

 

 確かにね。僕が困っているとでっち上げた方が良い。女の人には押し切ろうとするキャッチもいるし。

 機転が利くところも、素敵だな。ほんと、僕にはもったいなさすぎる。だからって、身を引いたりはしないけど。それが一番悲しませるって、僕でも分かるから。

 

 手の温もりが伝わってくる中で、ゆっくりと歩く。すると、待ち合わせ場所の公園に戻ってきた。

 パッと、彼女の手が離れていく。少しだけ、自分の手のひらを眺めてしまった。

 彼女の顔を見ると、いたずらっぽくウインクをしてきた。そういうこともするんだな。

 

「では、また次の金曜日に。今度は夜で、どうですか?」

「良いかも。夜だと、きっと雰囲気も変わるよね」

「それは、良かったです。次のデートも、楽しみにしていますね。では、また」

 

 手を振って、彼女は去っていく。しばらく背中を見つめた後、僕も家に戻る。

 

 家について、ちょうど通知が届く。いくつかのスタンプが送られてきていた。

 同じようにスタンプをいくつか返して、服を片付けていく。

 

 次も楽しくなるように、今度こそ良いデートプランを考えないと。選んでくれた服を着ていったら、喜んでくれるはず。

 

 最高の彼女と付き合えて、本当に良かった。次は、ちゃんと目覚ましをセットしておかないと。

 消しそこねちゃったみたいだし、明日の時間になってるし。もっと、しっかりしないとね。


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