その時歴史がまたまた動かなかった 作:dwwyakata@2024
マリアンヌがオーディンの自宅に戻ったのは、ラインハルトが皇帝に即位した三年後である。そしてもうラインハルト帝は既に亡くなっていた。
既に帝国はローエングラム朝に変わっており、皇母ヒルダによる親政、更には憲法の設立と議会の設立が始まっている。
それらは新首都のフェザーンで行われており。
議会の設立には、自由惑星同盟の議員だったホワン=ルイらが声を掛けられて呼ばれており。顧問となっているようだった。
オーディンは既に辺境の惑星となっており。
馬鹿でかいばかりで不便なことで知られた新無憂宮はほとんどが閉鎖。今では博物館になっている。
そして父の屋敷は。
取り壊されていなかった。
何人かの旧部下と見上げる。
オーディンに残った父の旧部下は、抵抗せず屋敷をラインハルト帝の兵士達に引き渡した。それもあって、乱暴はされなかったようだ。
屋敷は貴族のものとしては「内装が巨大すぎる」事を除けば質素であり。多くの貴族の邸宅が別の目的の建物……病院やホテル、国有の施設、孤児院などに変わっている中。父の邸宅は博物館に改装されていた。
帝国末期の猛将の自宅、というのもあるが。
内部に展示されていた猛獣の剥製が、処分するのも勿体ないと言うことで、一般公開されたのである。
今ではそれなりの人間が見に来ているようだ。
他の貴族の邸宅では絵画や彫刻が多く、それらは今では博物館にまとめられているらしい。
この屋敷の剥製は、他とは趣が違う事もある。
ほとんどは残されていた。
ただ、流石に絨毯に関しては、壁にかけ直されていたが。
巨大なソファなども、柵が作られて展示されている。
一緒に父と座ったな。
そう思いながら、マリアンヌは目を細めて見守る。
フェザーンで八歳の時、部下達と一緒にラインハルト帝の兵士に拘束された。マリアンヌは部下達に逆らわないように言うと、自分でラインハルト帝のところに。そして、父が無礼を働いたこと。だがそれは、父は言わなかっただろうが戦術だったこと。責任は自分が取るので、フェザーンに疎開した部下達は助けてほしいことを頼んだ。
女児に頭を下げられて、ラインハルト帝はしばらく無言だったが。
まだ幼い子供に罪を問わせるつもりはないと言って、以降は監視付きで解放してくれた。
元々フェザーンで小さな農場をやっていたのだ。
帝国に物資を提供することも約束して、それで認めて貰った。
ただマリアンヌが八歳の時は、まだ色々状況が混乱しており。
地球教徒の跋扈などもあって、危険で農場から出ることは出来なかった。
それから数年が経過して、ラインハルト帝が若すぎる最後を遂げて。
何もかも時代が変わって。
オーディンは戦略的に全く重要でも何でもない星になって。
更には真面目に監視下でおとなしく過ごしたこともあって。
やっと帰ってくることが出来たのだ。
母の位牌は持っている。
父の亡骸は欠片も帰ってこなかった。
ただ。去年、父が使っていたトマホークだけは戻ってきた。せめてもの遺品と言うことだったのだろう。
フェザーンにある農場で今は飾っている。
此処には持ってこられなかった。
じっと、父が仕留めた虎の剥製を見上げる。
素手でも父なら虎に勝てたかも知れない。
そう思いながら。
父の部下達で、マリアンヌと同行したのは、戦傷が酷くなっていたり。高齢になっていた者達だ。
今では、ほとんどが兵士として戦場には立てない。
だからこそ。
もはや無害と、見過ごされてもいる。
しばし邸宅を見て回って。
そして、部下達とともに、父のサファリパークに出向く。父がどんな猛獣を仕留めてきたと、マリアンヌに大喜びで説明してくれた場所。
取り潰すのも無意味と思ったのだろう。
今では普通の動物園となり。
猛獣たちも、狩られる恐怖から解放され。
リラックスした姿を見ることが出来た。
マリアンヌが出向くと、小さな動物たちが飼われているコーナーがあった。そうだ。父が帰った後、マリアンヌのために作ると言ってくれていたっけ。
そう思うと、少しだけ涙が出た。
限りない人を殺して出世した。
恐ろしい言動で回りの誰からも怖がられたし誤解された。
だが母は父をずっと愛していたようだし。
マリアンヌだって。
もはや「平民」という身分すらなくなって、子供達が楽しそうに小さな動物たちと接している。
勿論力加減が分からなくて動物に危害を加えてしまう子供もいるので、監視員が見ているが。
マリアンヌも兎を抱かせて貰う。
温かくて、気持ちが良かった。
見て回った。
もう此処は。
父の場所じゃない。
父が亡くなったガイエスブルグ宇宙要塞は、同盟との戦いで文字通り塵になって消し飛んでしまった。
父は今は。
マリアンヌの胸の中にだけいる。
いや、部下達も、父の姿を心に共有しているかも知れない。
帰ろう。
部下達に言う。
フェザーンにある農場に、父のトマホークがある。
いずれ持ち上げてみたい。
マリアンヌはぐんぐん背が伸びていて、いずれは持てるようになるかも知れない。
もし持てたとしても。
戦いに使う事はないだろう。
父の戦いは決して無駄ではなかった。
そう思いたい。
父はただ獰猛なだけの化け物ではなかった。
それをただ、知っている人間がいる。
それだけでマリアンヌは良かった。
(終)
オフレッサー上級大将の物語、如何だったでしょうか。
獰猛で凶暴な石器時代の勇者であるオフレッサー上級大将ですが、それでも家庭もあり、心もあり、部下を大事にする一面もあった。
ゴールデンバウム朝銀河帝国に対する忠誠心も本当だった。
そして娘にその不器用な優しさは伝わっていた。
これはそういう物語です。
感想評価などよろしくお願いします。励みになります。