群馬県 渋川市にある県立高校
太陽が照り付ける夏真っ盛りの中、高校の屋上では3人の男子生徒がたたずんでいた。
その中の一人『武内樹』が、中古車のカタログ雑誌を眺めている。
「91年式で130万かぁ……高っけぇなぁ……S13は……それに、新しい86は中古でも200万かよぉ……」
雑誌の中古車の価格を見ては嘆く樹。
「よし!やっぱハチロクだな!ハチロクなら現実にあるよ、取り合えず車はFRじゃなきゃな~……ん?おい拓海聞いてるのかよ?」
樹の問いに、ボーっとした顔でフェンスに寄り掛かっていた『藤原拓海』は気怠そうに返事をした。
「聞いてるよイツキ。そのハチロクってのはいくらするんだ?」
「今のところ、30万がある。……車検なしだけど」
「それは止めといた方がいいぞ樹」
拓海の横に並び、フェンスに寄り掛かっていた『大和翔太朗』は樹に注意をした。
「そうなのか?翔太朗」
「あぁ、整備に検査で10万以上は確実に飛ぶぞ」
その言葉に肩を落とす樹。
「あ~!手っ取り早くドカンって稼げるバイトねぇかな!!今やってるGSのバイトじゃ、いいとこ12万だよ……」
「諦めろ。俺達は高校生なんだ」
「そーだぞ。車は逃げないから頑張ればいいじゃん」
その時、不意に翔太朗の携帯電話が着信音を響かせた。
「あ、電話だ。わりぃ、ちょっと出るわ」
「おう」
そう言って二人から少し離れ、反対側のフェンスにもたれかかると、携帯を開けて電話に出た。
「はい、もしもし」
『翔くん。久しぶり』
「小春か!!ひっさしぶりだな!」
『来週の土曜ね、そっちに帰ることになったの』
「急だな!!……で、どのくらいいるんだ?」
『えっとね~、日曜まで』
その時、学校のスピーカーからチャイムが鳴り響いた。
「わり、授業があるから切るな」
『わかった』
「じゃ」
そういって携帯を畳むと、樹たちと合流し教室に向けて駆け出した。
そして放課後、拓海達がバイトに向かう中で樹がこんな事を言い出した。
「なー拓海、翔太朗、3人で共同でハチロク買わねーか?3人のバイト代を合わせればローン払えるじゃん」
「やだよー、んでそんなに無理してまで車が欲しいんだよ、お前ん家にも車ぐらいあるだろうが。それ借りれば良いじゃん」
拓海はそういって少し嫌そうな顔をする。
樹は不満げな顔で口を尖らせた。
「ダメだよ親父の車なんて。FFでオートマでオマケにディーゼルなんだぜ。サイテーだよ、あんなの車じゃねぇよ……この頑固に何とかいってくれよ翔太朗!」
いきなり話を振られた翔太朗はびっくりしながら、頬をポリポリと掻く。
「あはは……」
そうして、青信号になった横断歩道を渡ると、翔太朗は拓海達とは逆の方向に曲がった。
「あれ、バイト行かねーのか?」
「バイトには行くよ。父さんの呼び出しが終わったらな」
そういって三人は分かれた。
「ただいま~」
「おう、おかえり」
翔太朗は家に帰ると、玄関前で待っていた『大和総一郎』に挨拶した。
家の横のガレージには、青に輝く2代目セリカXXと86が並んでいる。
「ほい」
「うぉっと?」
総一郎から何かを投げ渡された翔太朗。
手を開けると、その中にはキーが入っていた。
「あの86はお前のだ、足もそのままにしてある」
翔太朗は手の中のキーに目を落とし、ゆっくりとガレージの青い86へ視線を向けた。
夏の日差しを受けたギャラクシーブルーシリカのボディが、静かに輝いている。
「俺の?……ありがと父さん!!」
「おう。楽しめよ」
そういって総一郎は玄関を開けて、家の中に入った。
翔太朗はにんまりとした顔で、キーのボタンを押す。
86のドアロックが静かに解除される。まるで新しいオーナーを迎えるようだった。
翔太朗はドアを開け、静かに乗り込む。
バケットシートが体を包み、ホールドしてくれる。
そして、エンジンスタートボタンを押した。
キュルルル……ボゥン。
元気よくFA20が目覚め、ナビやETCが起動していく。
「これから、よろしくな」
翔太朗はそういうとサイドを下ろし、クラッチを踏んでギアを入れると、初めて自分だけの愛車を走らせた。