背中に太陽のぬくもりを感じながら今日も今日とて主人の膝を寝床にしている。
これがいわゆる“とくとーせき”なるものであろう、なんとも特別感のある響きである。
そのようなことを考えならが目元を擦っていると、聞きなれぬ声が聞こえてくる。
『……私のミスでした』
はて、何事であろうか。
うら若き淑女の声で聞こえてくる言葉に吾輩は思考を巡らせる。
ミス、失態であるか。
吾輩も幼い頃は多くの過ちを犯しそのたびに主人から注意を受けたものである。
特に主人の棚に上った時にはひときわ真剣な顔であった、今でも鮮明に思い出せるほどである。
目は魚のように大きく開かれ、ぶるーはわい?のかき氷なる氷菓子のような顔色で話された時はなにごとかと思ったものよ。
『私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況』
ぬ、過ぎた思い出話であったな。
主人曰く人間族においてはこのようなことを確か……「すきあらばじぶんがたり」?と言い忌避されるものであるそうだ。
頭上に輪っかが浮かんでいるとはいえ目の前の淑女も人間族であろうから、これは素直に謝罪せねばならぬ。
――ニャー(すまぬ)
『結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……』
……ふむ、そうであった。
人間族との意思の疎通は困難である。
言語の壁というものは難儀なものよな。
して、話しかけられている主人の顔を見上げながら吾輩は体をくねらせる。
何の話かは知らぬが、恐らく大切な話なのであろう。
『……今更図々しいですが、お願いします』
『先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません』
『何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……』
はて?何かしたのは主人よ。
吾輩は主人の手を前脚でつつきまわしながら問いかける。
……そうだ、伝わらないのであった。
ほうほう、忘れてしまうとはこういうことであるか……なんとも興味深く、そして難儀なものである。
『ですから……大事なのは経験ではなく、選択』
『あたなにしかできない選択の数カス』
ほう、なんとも深い言葉である。
どうやら煮干しはどこからやってくるかよりもどう食べるかを考えるのは人間族も同じらしい。
つまり主人は煮干しの秘伝の食べ方を習得しておるということか、ぜひ教わりたいものである。
ぬ?……主人よ、なんだその目は。
『責任を負う者について、話したことがありましたね』
『あの時の私にはわかりませんでしたが……今なら理解できます』
『大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択』
『それが意味する心延えも』
主人よ、うら若き淑女と話しているのであろう。
ちらちら見てくるでない、失礼に当たるであろう。
『……ですから、先生』
『私が信じられる大人である、あたなになら』
ほら呼ばれておるぞ主人よ。
『この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……』
『そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです』
『だから先生、どうか……』
ぬ、急な眠気……が……
三日後》
“スゥーーーーーーーー”
……吾輩は何をされているのであろうか。