## 第一章:異世界の交差点と究極のメロンパン
「うっわ……また森かよ……」
緑豊かな樹海を抜け、平坦な街道へ出たところで、ムコーダ(向田剛志)は盛大なため息をついた。
隣には巨躯を誇る伝説の魔獣・フェンリルのフェル。その背には愛らしい姿をしたピクシードラゴンのドラちゃんが飛び回り、ムコーダの鞄の中ではプルプルと青いスライムのスイが揺れている。
いつもの異世界放浪の道中――のはずだった。
「あるじー、おなかへったー!」
「む、スイの言う通りだ。ムコーダ、そろそろ昼飯にしろ。肉だ、肉!」
『俺も肉がいい! 今日はがっつり食いたい気分なんだよ!』
従魔たちの食欲旺盛な催促に苦笑しつつ、ムコーダは「はいはい」とネットスーパーの画面を展開しようとした。
その時である。
――ガチャリ、ガチャリ。
街道の向こうから、一際豪華で意匠の凝らされた馬車が差し掛かってきた。護衛の騎士を従えたその馬車は、巨大なフェルを目撃するや否や、急停止した。
「ひっ……フェンリル!? なぜこんな街道に最高位の魔獣が!?」
護衛たちが一斉に剣を抜く。フェルが不快そうに「ぐぅ……」と低く唸りを上げた。
「待てフェル、刺激するな! すみません、うちの従魔なんです! 害はありませんから!」
ムコーダが慌てて両手を挙げて前に出ると、馬車の扉が開き、一人の少女が降りてきた。
縦ロールに巻かれた綺麗な金髪、凛とした青い瞳。一目で貴族の令嬢とわかる気品と美しさを纏った少女――クレア・フランソワである。
「従魔……? これほどの魔獣を従えているというのですか……?」
クレアが信じられないといった様子で呟く。そのすぐ後ろから、茶髪のショートヘアに親しみやすい雰囲気をまとった少女がひょっこりと顔を出した。レイ・テイラーだ。
「ちょっとクレア様、危ないですよ……って、え? ムコーダさん……!?」
レイの口から出たその名前に、ムコーダは思わず目を丸くした。
「えっ、君……なんで俺の名前を? っていうか、もしかして……日本人?」
「やっぱり! その服装、それにどことなく漂う社畜オーラ! 私、レイ・テイラーです! 前世は橋本れい子っていう普通の日本のオタクでした!」
「レイ!? なんですか急に親しげに! ぜんせい? おたく? また訳の分からないことを……!」
困惑するクレアを余所に、レイとムコーダは一気に打ち解けた。
何でもここはバウアー王国。クレアとレイたちが過酷な革命や事件を乗り越え、ひとつの平穏を迎えてからちょうど1ヶ月ほどが経った頃だという。
「へぇ……異世界転生か。俺は召喚なんだけどね。いやあ、日本語が通じる人に会えるなんて思わなかったよ」
「私もですよー! ああ、日本の味が恋しい……! コンビニ弁当とか、ファミコンのゲームとか……」
懐かしさに悶えるレイを見て、ムコーダはふとポケット……ならぬ、ネットスーパーの購入履歴を思い出した。
「そういえばレイちゃん、これ食べる? ちょうど昨日、ネットスーパーの特設フェアで手に入れたんだけど」
ムコーダが取り出したのは、丁寧に包装されたひとつのパンだった。
「これね、『道の駅さかい』の究極のメロンパンっていうんだ。茨城の名物でさ、幻のメロンパンなんて言われてて――」
「き、究極の……メロンパン……!?」
レイの目がカッと見開かれた。
高級感あふれるパッケージを開けた瞬間、あたり一面に芳醇すぎるメロンの香りと、発酵バターの甘く香ばしい香りが爆発的に広がった。
『ぬ……!? 何だその心地よい香りは!』
『あるじー、スイもそれたべたい!』
『おいムコーダ! 俺の分もあるんだろうな!?』
従魔たちが一斉に騒ぎ出すが、レイはすでに正気を失いかけていた。
「これ……本物の、日本の特産品メロンパン……!? いただきまーーーす!!」
ガブッ! とレイが豪快にかぶりつく。
カリッとしたクッキー生地の香ばしさ、続いて溢れ出す生クリームと、まるで本物のメロン果肉をそのまま煮詰めたかのような濃密な果汁感が、レイの口内でハーモニーを奏でた。
「んんんんんーーーーっ!? 美味しいいぃぃぃ!! 何これ!? メロンよりメロン! 外はサクサク、中はふわっふわでクリームがとろける……! 異世界のパティシエが束になっても勝てない美味しさですよこれぇぇ!!」
レイの叫び声と、あまりにも美味しそうな香りに、馬車の傍らで控えていたクレアの喉が「くゆ」と鳴った。
「レ、レイ……! あなたという人は、身元も確かでない方からいただいた食べ物をそんな風に……! だ、だいたい何なのですかその破格の香りは……!」
「クレア様! これヤバいです! ちょっと食べてみてください!」
レイが一切れ小さくちぎり、クレアの口元へ差し出す。クレアは「わ、私はそんな意地汚く……」と言いつつも、香りの誘惑に勝てず、意を決して小さな口を開けた。
「……ん……っ!?」
次の瞬間、クレアの青い瞳が大きく見開かれた。
「な……なんですの……この滑らかな舌触りは……!? 表面の砂糖の食感と、中の生地の柔らかさ、そしてこの果実の芳香……! 王室御用達の菓子職人でも、このようなパンは作れませんわ……!」
「でしょう!? ムコーダさん、これどうやって手に入れたんですか!?」
「あ、いや……俺の固有スキルで『ネットスーパー』っていうのがあってね。元の世界の品物を買い寄せることができるんだよ」
「元の世界の品を……自由自在に!?」
クレアの瞳に、強い光が宿った。
「ムコーダ様とおっしゃいましたわね。……あなた、我がフランソワ公爵邸へいらっしゃいませ!」
「えっ? いや、俺はただの放浪者で……」
「いいえ、断らせませんわ! その『ネットスーパー』という奇跡の力……そしてその料理の腕前! 私たちには今、あなたの力がどうしても必要なのです!」
クレアの真剣な眼差しに押され、ムコーダはタジタジになった。
「え、えーっと……どういうことですか?」
「話せば長くなりますわ。ですが……私たちの、そしてフランソワ家の危機なのです!」
こうして、ムコーダ一行は、クレアの強烈なスカウト(半ば強引)により、バウアー王国のフランソワ公爵邸へと向かうことになったのだった。
## 第二章:公爵邸の危機と豪華すぎる面々
「うわぁ……めちゃくちゃデカい屋敷だな……」
フランソワ公爵邸の応接室に通されたムコーダは、豪奢な調度品に囲まれて冷や汗をかいていた。
ソファには巨大なフェルが横たわり、スイは絨毯の上でポヨンポヨンと跳ね、ドラちゃんは豪華なシャンデリアの周りを興味深そうに飛び回っている。
「申し訳ありません、ムコーダ様。無礼な連行のような形になってしまって」
お茶を運んできたのは、メイド服を着た心優しそうな女性――レーネ・オークソーだった。隣には、冷静な眼差しを持つミシャ・ユールが控えている。
「いえいえ……それより、危機って一体何なんです?」
ムコーダが尋ねると、応接室の扉が開き、ぞろぞろと豪華なメンバーが入ってきた。
「やあ、君がレイの言っていた異世界の旅人かい?」
爽やかな笑顔を見せるのは、バウアー王国第一王子ロッド・バウアー。
その隣で静かな圧を放つ第二王子セイン・バウアーと、柔和な笑みを浮かべる第三王子ユー・バウアー。
さらに、気品ある少年少女ロレッタとピピ、そして異国風の艶やかな魅力を放つマナリア・スースまでが揃っていた。
「うわ、なんかすごいメンツが集まってきたぞ……」
ムコーダが気圧されていると、クレアとレイが正面に座った。クレアの表情は極めて深刻だ。
「単刀直入に申し上げますわ。……実はあと三日後、私の両親――フランソワ公爵夫妻の『結婚記念日パーティー』が開催されるのです」
「はあ、おめでたいことじゃないですか」
「問題はその『中身』なのです!」
クレアが机をバンと叩いた。
「今回のパーティは、先日の動乱を乗り越え、バウアー王国の結束を国内外に示すための非常に重要な宴。王族の方々をはじめ、各国の要人が集まります。……ですが! 1ヶ月前の事件の影響で、我が家の厨房を仕切っていた専属料理長が怪我で辞職し、厨房の人手が圧倒的に不足しているのです!」
「ええっ!?」
「さらに悪いことに、宴で使うはずだった最高級の食材の輸送船が、悪天候により立ち往生……! 今から用意できる食材では、王族や要人の方々を満足させる『最高峰の晩餐』など到底作れませんわ!」
ミシャが淡々と補足する。
「要するに、食材なし、料理人不足、時間なしの三拍子が揃った状態です。クレア様はご両親のために最高の記念日にしたいと意気込んでおられましたが……万策尽きました」
「そんな……」
ムコーダが眉をひそめると、レイが身を乗り出してきた。
「そこでムコーダさん! あなたの出番なんです!」
「俺!? いやいや、俺はただの素人料理好きのおっさんだよ!? 王宮のパーティの料理なんて無理無理!」
「何をおっしゃいますか!」
レイが熱弁を振るう。
「さっきのメロンパンもそうですが、ムコーダさんの『ネットスーパー』なら、この世界には存在しない調味料、最高の和牛、フレッシュな野菜、そしてプロ顔負けの時短調味料やレトルト……あ、いや、ムコーダさんの手料理が再現できるじゃないですか! さらに、ムコーダさんが普段作っている魔獣の肉だって、この世界じゃ超高級食材ですよ!」
『む! ムコーダの料理をバカにするなよ! ヤツの作る飯は、どんな王宮の料理より美味いぞ!』
フェルがドヤ顔で割り込んできた。
『そうだよー! あるじのごはん、とってもおいしいよー!』
スイもピョンピョン跳ねて同意する。
『俺もムコーダの肉料理が一番好きだぜ!』
ドラちゃんも同調した。
「ほら! 伝説の魔獣たちが保証してます!」
レイが目を輝かせる。
クレアがゆっくりと立ち上がり、ドレスの裾をつまんで美しく礼(カーテシー)をした。その表情には、普段の高飛車さとは裏腹な、切実な真摯さが宿っていた。
「ムコーダ様。不躾なお願いであることは百も承知です。ですが……両親に、そしてこの国に、希望となるような素晴らしい宴を贈りたいのです。どうか……あなたの『ネットスーパー』の力と料理の腕を、フランソワ家に貸していただけないでしょうか?」
「クレア様……」
さらに、バウアー三兄弟やマナリアたちも深々と頷く。
「僕からも頼むよ、ムコーダ殿。この国の復興の象徴としても、素晴らしいパーティーにしたいんだ」(ロッド)
「……頼む」(セイン)
「ボクたちも手伝うからさ、ね?」(ユー)
「む、ムコーダさん……!」
全員からの熱い視線が、ムコーダ一人に集まる。
(うわあああ……断りにくい雰囲気が凄まじい! でも……まあ、困っている女の子を放っておくのも後味が悪いしな。それに……)
ムコーダはチラリとネットスーパーの画面(自分にしか見えないウィンドウ)をチラ見した。
(ネットスーパーの豊富な在庫と、俺の『従魔たちを満足させてきた時短ガッツリ料理』のノウハウがあれば……なんとかなるか?)
「……はぁ、分かりました。引き受けますよ」
「本当ですか!?」
クレアの顔がパッと華やぐ。
「ただし! 条件があります。料理の下ごしらえや当日の運搬、配膳は、レイちゃんたちや屋敷の皆さんにもフル回転で手伝ってもらいますよ! 俺一人じゃ宴会の人数分なんて作れませんからね!」
「勿論ですわ! フランソワ家の名にかけて、全力を尽くします!」
「よーし! そうと決まれば作戦会議です! ムコーダさん、メニューはどうします!?」
レイが興奮気味に身を乗り出す。
ムコーダはニヤリと笑い、腕を組んだ。
「フフッ……パーティーだからって、気取ったフレンチやコース料理にこだわる必要はないんだよ。要は『美味しくて、誰もが笑顔になって、お腹いっぱいになれる料理』ならいいんだろ? 俺のネットスーパーの真骨頂……【日本の究極バイキング&和牛フルコース】で見返してやろうじゃないか!」
## 第三章:開幕! 異世界の究極ブッフェ作戦
それからの三日間は、怒涛の準備期間となった。
ムコーダの指導のもと、フランソワ邸の厨房は戦場と化した。
ネットスーパーから次々と呼び出される大量の食材――「A5ランク黒毛和牛のサーロイン」「特選黒豚のロース」「国産鶏もも肉」、そして各種「万能タレ」「固形カレールー」「各種ドレッシング」「高級生クリーム」などなど。
「な、なんですのこのお肉の霜降りは……!? まるで宝石のようですわ!」
クレアがA5和牛のパックを見て目を丸くする。
「クレア様、これが日本の至宝『和牛』ですよ……! ムコーダさん、タレは!? タレは何を使うんですか!?」
「フフッ、これだよレイちゃん。『エバラ黄金の味(中辛)』と『創味のつゆ』、そして『生姜焼きのタレ』だ!」
「出たーーー! 日本の科学と歴史の結晶!!」
ミシャとレーネは野菜の仕込みを担当し、ロッドやセイン、ユーの三兄弟はなんと薪割りや重い鍋の運搬といった力仕事を自ら買って出た。マナリアは魔法で厨房の火加減を完璧にコントロールし、スイは持ち前の酸で食材の洗浄や器具の殺菌(マイルドな酸)を完璧にこなした。
『スイ、おそうじ上手でしょー!』
「ああ、スイはえらいなぁ! すごい助かるよ!」
そして宴の当日――。
フランソワ公爵邸の大広間には、着飾った貴族たちや要人が続々と集まっていた。
中央に据えられた長テーブルには、ムコーダとレイたちが仕込みに仕込んだ「異世界の常識を覆す料理」がズラリと並べられている。
クレアの父・バウアー王国最高幹部のフランソワ公爵が、不思議そうに料理を見渡した。
「クレア……これは一体どういう料理なのだ? 通常のコース料理とはまるで形式が異なるようだが……」
クレアは誇らしげに胸を張った。
「お父様、お母様! これこそが、本日みなさまにご提供する『ブッフェスタイル』の宴です! 好きなものを、好きなだけ、召し上がってくださいませ!」
「ほう……好きなものを好きなだけ、とな?」
ざわめく貴族たちを前に、レイが給仕として進み出た。
「では皆様! まずは温かい前菜、そしてメインの『和牛の特製タレ焼き』『特製唐揚げ』、そして『異世界の至高のカレールウ仕立て』をお楽しみください!」
大皿から立ち上る湯気とともに、香ばしいニンニク醤油の香り、甘辛いタレの焦げた香り、そしてスパイスが複雑に絡み合うカレーの香りが大広間全体に爆発的に広がった。
「な……なんという香りだ……! 胃袋が直接掴まれるような……!」
「お、おい、あの肉の柔らかさはどうだ!? ナイフがすんなりと入っていくぞ!」
最初に口にした貴族の一人が、目を見開いて叫んだ。
「う、美味い……! なんだこの肉は!? 噛んだ瞬間に上質な脂が溶け出し、甘辛いタレが肉汁と混ざり合って、口の中でとろける!! 異国の調味料か!? 止まらん、手が止まらんぞ!」
「こちらの黄色いドレッシング(シーザー)がかかった野菜も素晴らしいわ! シャキシャキとした食感にコクのあるチーズの風味が……!」
「この『からあげ』という鶏料理はなんだ!? 外はカリッとしているのに、中は肉汁の洪水だ!!」
会場は一瞬で熱狂の渦に包まれた。
気取っていた貴族たちが、争うように皿へ料理を盛り、口いっぱいに頬張っている。
「ふふん、見ましたかクレア様! ムコーダさんの『タレ』の力です!」
「ええ、凄まじいですわね……! でもレイ、私たちが感動するのはまだ早いですわ!」
クレアが合図を送ると、大広間の奥からムコーダが巨大な特注の大鍋を押して現れた。
「さあみなさん! 本日のメインディッシュ……『A5ランク和牛と黒豚の極上スパイスカレー』です!」
「か、カレー……!?」
深いコクと芳醇なスパイスの香りが広間を包み込む。ネットスーパーの固形ルー(ジャワカレーとバーモントカレーのブレンド)に、和牛のスジ肉と野菜をトロトロになるまで煮込んだ究極の一品だ。
公爵夫妻が一口パクリと食べた。
「……ッ!!」
公爵は言葉を失い、震える手で二口目、三口目を運んだ。
「な、なんだこの深みは……! 最初はまろやかな甘みが広がり、後から心地よい辛味とスパイスの刺激が追いかけてくる……! 煮込まれた肉は口の中で解け、ルーと一体となって体に染み渡るようだ……!」
「素晴らしいわ……! こんなに心が躍る美味しいお料理、生まれて初めてです……!」
公爵夫人の目には、うっすらと感動の涙すら浮かんでいた。
会場全体から、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
「ブラボー!」「フランソワ公爵夫妻、結婚記念日おめでとう!」「この料理人に称賛を!」
厨房の陰で様子を見ていたムコーダは、ホッと深く息をついた。
「ふぅ……なんとか大成功みたいだな」
「ムコーダさん! すごいです! 大盛況ですよ!」
レイが弾けるような笑顔で駆け寄ってくる。クレアもまた、頬を少し赤くしながら歩み寄ってきた。
「ムコーダ様……本当に、本当にありがとうございました。お父様もお母様も、あんなに嬉しそうな顔をして……あなたのおかげですわ」
「いやいや、クレアちゃんやレイちゃん、それにみんなが仕込みを手伝ってくれたからだよ。俺一人じゃ絶対に無理だった」
『ふん、当たり前だ。ムコーダの飯が不評なはずがなかろう!』
フェルが誇らしげに鼻を鳴らす。
『スイもいっぱいおてつだいしたよー! お肉たべたいー!』
『俺もがんばったんだから、後でたっぷり肉食わせろよな!』
「はいはい、従魔のみんなにも後で特大の和牛ステーキを焼いてあげるからね」
会場の熱気は最高潮に達し、パーティーは誰もが笑顔になる最高の結婚記念日となったのだった。
## 第四章:宴の終わりに届いた『一通の手紙』
パーティーが無事に終了し、夜も更けた頃。
静まり返ったフランソワ邸の応接室で、ムコーダは従魔たちに約束の「特大和牛ステーキ」を振る舞っていた。
『うむ! やはりこの脂の乗りと塩コショウの塩梅、最高だな!』
『うまーい! スイ、このお肉だーいすき!』
『やっぱり肉は厚切りに限るぜ!』
ガツガツと食べる従魔たちを満足そうに見つめていると、部屋の扉がノックされ、クレアとレイ、そしてロッド王子が入ってきた。
「ムコーダ様、遅い時間に申し訳ありませんわ」
「ムコーダさん、従魔ちゃんたちも宴会の陰の立役者でしたね! お疲れ様です!」
「いえいえ、みんな大満足みたいで良かったです。……それで、何かありましたか?」
ムコーダが尋ねると、ロッド王子が少し固い表情で、羊皮紙の手紙を取り出した。
「実はね、ムコーダ殿。今日のパーティーの最中……王宮の密偵から、君宛てに『緊急の連絡』が入ったんだ」
「俺宛て……? 俺、この国の人間じゃないのに?」
疑問に思いながら手紙を受け取ろうとした瞬間、部屋の温度がスッと下がったような錯覚を覚えた。
クレアが険しい表情で口を開く。
「ムコーダ様。あなたがネットスーパーで取り出した『異世界の食材』と『驚異的な効果を持つ調味料(ステータス微増効果や疲労回復効果)』……そして何より、伝説の魔獣フェンリルを従えているという噂が、すでに一部の不穏な勢力の耳に届いてしまったようなのです」
「えっ……!?」
ロッド王子が手紙を開いて読み上げた。
「『バウアー王国に現れた謎の旅人ムコーダ。彼の持つ“無限に物資を生み出す秘術”と“魔獣を操る力”を、我が陣営のために差し出せ。拒否するならば、その存在ごと消し去るまで』……差出人は、隣国の軍閥組織……そして、かつてこの国で暗躍していた裏の組織の残党です」
「な……なんだってー!?」
ムコーダは思わず叫んだ。
(またかよ! 召喚された時も嫌になって逃げ出したのに、なんでどこに行ってもこういう物騒な奴らに目を付けられるんだよ~!?)
「安心してください、ムコーダさん!」
レイがポンと胸を叩いた。
「ムコーダさんは私たちの恩人です! クレア様も、私も、バウアー王国の騎士団も、全力でムコーダさんを守りますから!」
「ええ。我がフランソワ家の総力を挙げて、あなたを害する者たちを返り討ちにして見せますわ!」
クレアも力強く頷く。
『ぬ……? ムコーダを脅す不届き者がおるのか?』
ステーキを平らげたフェルが、ギラリと鋭い目を光らせた。
『ムコーダをいじめるやつは、スイが溶かしてあげるー!』
ポヨンポヨンと跳ねるスイの体が、心なしか怒りで赤く発光している。
『へっ、返り討ちにしてやるぜ! 俺のブレスで黒こげにしてやる!』
「み、みんな……頼もしいけど物騒すぎるよ……!」
ムコーダは頭を抱えた。
平穏な放浪の旅を楽しんでいたはずが、いつの間にか「悪役令嬢」や「元日本のオタク少女」、そして「王国の王子たち」とともに、巨大な陰謀の渦中に巻き込まれてしまったムコーダ。
異世界の最高の料理が生み出した絆と、迫りくる新たな脅威――。
「……ハァ。分かったよ。こうなったら毒喰わば皿までだ。ネットスーパーの近代兵器(?)と、俺たちの料理の力で、その不審者どもを返り討ちにしてやる!」
「ふふ、頼もしいですわムコーダ様! では明日から、対・刺客用の『特製陣中食』の開発に入りましょう!」
「おー! ガッツリスタミナ弁当ですね!」
こうして、ムコーダたちの新たな大騒動の幕が開けるのだった――!
## 第五章:一瞬の決着と、哀しき首謀者
夜の静寂を破り、フランソワ公爵邸の広大な庭園に暗雲が立ち込めていた。
バウアー王国に混乱をもたらさんとし、ムコーダの「ネットスーパー」という秘術と魔獣の力を奪おうと画策した暗殺ギルドの精鋭部隊。身の丈ほどもある大剣を構えた重戦士、全身を漆黒の暗器で固めた忍び、そして怪しい呪文を詠唱する高位の黒魔導士たち――総勢三十名を超える影の軍勢が、息を潜めて屋敷を取り囲んでいた。
首謀者である男は、高台の木の上から冷酷な笑みを浮かべて見下ろしていた。
「フフフ……いくら伝説の魔獣フェンリルとはいえ、我が組織が誇る『麻薬漬けの特攻狂戦士』と『魔導封じの結界』を前には無力。ムコーダという男を捕らえ、その異能を我が血肉としてくれるわ!」
その時である。
『……おいムコーダ。外で羽虫どもが羽音を立てておるぞ。うるさくて眠れん』
離れの客室のベッドで横になっていたフェルが、鬱陶しそうに片目を開けた。
「え? 羽虫……? いや、フェル、それ絶対刺客だよ! どうしよう、レイちゃんたち呼ぶ!?」
ムコーダがパニックになりかけると、すかさずドラちゃんが空中へ飛び出した。
『ヒッヒッヒ! 俺に任せろって! 最近ちょっと体が鈍ってたんだ、いい運動になるぜ!』
『スイもいくー! あるじをおどかすわるいやつ、やっつけるー!』
ポヨンと跳ねたスイが、ムコーダの鞄から勢いよく飛び出していく。
「あ、ちょっとみんな! 庭を荒らさないでね!? 公爵邸なんだから――」
ムコーダの制止も虚しく、夜の庭園で「それ」は始まった。
――シュバッ!!
「な、なんだこの速い生き物は――ぐわぁぁぁ!?」
真っ先に突撃したドラちゃんが、音速を超えるスピードで暗殺者たちの眉間を次々と叩きのめしていく。極小の体に秘められた竜の腕力は、鉄兜ごと頭骨を揺さぶる威力を秘めていた。
「ひいっ! た、助け――」
慌てて魔導結界を展開しようとした黒魔導士たちに、スイが上空から容赦なく「酸の雨」を降らせる。
『スイのビーム、えーい!』
――チュドッ! チュドドドドン!!
「ギャアアアア!? 結界が、金属の鎧が溶けるぅぅぅ!? なんだこのスライムはアアア!!」
スイの酸は金属のみならず、地面の石畳すら一瞬でドロドロに溶かしていく。極悪非道な暗殺者たちが、逃げ惑う哀れな虫のように叫び声を上げた。
そして、最後に動き出したのは「異世界の生態系の頂点」であった。
『ぬんッ!!』
フェルが軽く一息吐き出すと、凄まじい風圧の衝撃波(エアスラッシュ)が庭園を駆け抜けた。
――ドゴォォォォン!!!
「「「ぐわあああぁぁぁぁッッ!!!???」」」
ものの十秒。
重装甲の戦士も、影の忍びも、黒魔導士も、何一つ対策を講じる間もなく全滅した。庭園には、意識を失って転がる刺客たちの山が築かれていた。
「ヒッ……!? な、なんなのだあのバケモノどもは……!? 話が違う、フェンリルだけではないのか……!?」
木の上で震えていた首謀者の男は、腰を抜かして落っこちそうになっていた。慌てて背を向けて逃げ出そうとした、その瞬間――。
――ズシン。
背後に、圧倒的な威圧感を持つ巨躯が降り立った。
『逃がすとでも思ったか? 小小(ちいさき)者よ』
「ひっ……あ、悪魔……!」
男は恐怖のあまり半狂乱になり、隠し持っていた毒塗りの短剣をフェルの鼻先へ突き出そうとした。
『鬱陶しいわ』
――ガブッ!!!
「ギャアアアアアアアアッッッ!!!???」
フェルが手加減して軽く(……フェル基準で軽く)噛みついた瞬間、鈍い骨の砕ける音が夜空に響き渡った。
「あぐっ……腰が……腰の感覚が……!? た、助け……骨が……!」
首謀者の腰骨と脊髄は、フェルの強靭な顎によって完璧に粉砕されていた。下半身の感覚を完全に失い、地面に這いつくばる首謀者。
そこに、騒ぎを聞きつけたクレアやレイ、バウアー三兄弟たちが武器を手に駆けつけてきた。
「ムコーダ様、ご無事ですか!?」
「刺客の襲撃だと聞いて……って、えぇぇぇ!?」
レイたちが目にしたのは、手出しする隙すらなく全滅させられた暗殺ギルドと、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして這いずる首謀者の姿だった。
「ひぐっ……こんなはずでは……! 我がギルドの精鋭が……我が野望が……こんな、スライムと小竜とイヌに……こんなはずではあああぁぁぁ……!!」
大嘆きする首謀者を見下ろし、クレアは扇子で口元を覆いながら呆れ果てた溜息をついた。
「……まったく、我が国の平和を脅かそうとするにしては、あまりにも無謀で哀れな方々ですわね」
「まあ、フェルたちを敵に回した時点で詰んでましたね……」
レイが引きつった苦笑いを浮かべる。
「あ~あ……庭の芝生、ちょっと焦げちゃったな。後で直しておかないと……」
ムコーダだけが、明日のパーティー会場となる庭園の心配をして頭を抱えていたのだった。
## 第六章:開宴! コストコ・バーベキューの衝撃
刺客の騒動も一夜明ければ過去のこと。
首謀者とその一味はバウアー王国の騎士団によって速やかに引き立てられ、事件は完全に収束した。
そして、やってきたのはバウアー王国の記念式典当日。
晴れ渡る青空の下、フランソワ公爵邸の広大な庭園には、見事に修復された緑の芝生が広がっていた。そこに集まったのは、バウアー王室の面々をはじめ、各国の王族、気高い貴族たち、そして外交を担う国賓たち。
誰もが豪華なドレスや正装に身を包み、優雅に談笑している。
「本日はバウアー王国の再出発を祝う良き日。ですが……クレア、本日の宴はどのような趣向なのだ?」
王国の要人が尋ねると、クレアは優美な微笑みを浮かべて中央の特設会場を指さした。
そこには、漆黒の鉄板が備え付けられた巨大な炭火グリルと、見たこともない巨大な調理器具の数々。そして、白いコックコート(ネットスーパーで購入)を身に纏ったムコーダと、エプロン姿のレイたちが並んでいた。
「皆様! 本日の記念式典の宴は……異世界の最新鋭食文化『コストコ・スタイル』を盛り込んだ、至高のバーベキューフルコースでございます!」
「ばーべきゅー……? 兵士が野営で食べるような肉焼きのことか?」
貴族たちが困惑の声をあげる。
しかし、ムコーダはニヤリと笑った。
(ふふふ……ただのBBQだと思うなよ? 日本のコストコで手に入る『アメリカンサイズ×日本の繊細な旬食材』のハイブリッドコースだ! 腹を空かせて腰を抜かすがいい!)
「それでは皆様、第一の一皿(前菜)から参ります!」
### 【前菜】チリ産サーモンと北海道男爵いもの鉄板揚焼きフィッシュアンドチップス
「まずは前菜です!」
ムコーダが豪快に鉄板へ投入したのは、コストコ名物の鮮度抜群な「チリ産刺身用サーモン」の分厚い切り身と、ホクホクに蒸された北海道産男爵いも。
ジューッ!! という凄まじい音とともに、香ばしい油の香りが庭園全体に爆風のように広がった。
「な、なんだこの音と香りは……!? 胃袋が直接刺激される!」
鉄板上で表面をカリッと揚焼きにされたサーモンは、外はサクサク、中はレア状態の綺麗なピンク色。そこに、絶妙な塩加減の男爵いもポテトが添えられ、特製の具だくさんタルタルソースがたっぷりとかけられた。
「どうぞ、お召し上がりください!」
国賓の一人が、フォークでサーモンを口に運ぶ。
――サクッ……ふわっ……。
「〜〜〜〜〜ッ!!???」
国賓の目が飛び出さんばかりに見開かれた!
「な、なんだこの食感は!! 表面の衣服(衣)は心地よい音を立てて弾け、直後に訪れるサーモンの濃厚な脂の旨味! まったく生臭みがなく、まるで上質なバターのように口の中で解けていく!」
「この黄色いお芋(男爵いも)も凄いわ! ホクホクとして甘みがあり、この甘酸っぱい白いソース(タルタル)との相性が悪魔的ですわ!」
「前菜からこんなパンチの効いたものが来るとは……! 止まらん、白ワインが止まらんぞ!」
一瞬で会場の気取りが吹き飛んだ。
### 【スープ】船橋産ホンビノス貝のボストンクラムチャウダー・八丁味噌の隠し味
続いて運ばれてきたのは、深みのある大きなお椀。
「お次はスープです。『船橋産ホンビノス貝のボストンクラムチャウダー』。隠し味に日本の伝統調味料、八丁味噌を効かせてあります」
蓋を開けた瞬間、濃厚な生クリームと貝の濃厚な出汁、そしてどこか懐かしく深いコクを感じさせる香りが立ち上った。
ロッド王子がスプーンですくい、口へ運ぶ。
「……! 旨味が……旨味が濃厚すぎる……!」
ロッド王子は思わず声を震わせた。
「ホンビノス貝の強烈な出汁が、滑らかなミルクとジャガイモに溶け込んでいる。そして……この後味の深みは何だ!? 単なるミルクのスープではない、コクの深層へと引きずり込まれるような感覚……これが『八丁味噌』の力なのか!?」
「ええ、洋風のクラムチャウダーに日本の熟成味噌をほんの少し加えることで、深みと切れ味を出しているんです」
ムコーダが誇らしげに説明する。
クレアもスープを味わい、うっとりと頬を緩ませた。
「まあ……体の中に温かい幸福が広がっていくようですわ。お父様、お母様、いかがですか?」
「うむ……素晴らしい。文句のつけようがないスープだ……」
フランソワ公爵も目元を緩めて頷いていた。
### 【魚】シカゴ風サバの炭火焼き・おろしポン酢添え
「どんどん行きますよ! お次は魚料理、『シカゴ風サバの炭火焼き』です!」
炭火の上で、コストコ特製の肉厚な脂の乗ったサバが豪快に焼かれていく。皮目がバチバチと音を立て、余分な脂が落ちて炭に触れ、香ばしい煙が立ち上る。
「サバ……? 大衆魚ではないのか?」と首を傾げる貴族たち。
だが、ムコーダが皿に盛り付け、大根おろしと特製ポン酢を回しかけて差し出すと、その疑問は一瞬で打ち砕かれた。
「ふ、ふはっ……! 皮がパリッパリだ!」
一口食べた要人が叫ぶ。
「炭火の香ばしさを纏った皮を破ると、中からあふれ出すのはジューシーすぎるサバの旨味! シカゴ風の力強い塩焼きの香ばしさに、この『おろしポン酢』というサッパリしたタレが完璧に合致している!」
「脂っこさを微塵も感じさせない! 魚料理の概念が変わってしまうわ……!」
レイが横からドヤ顔で口を挟む。
「ふふん、日本の『ポン酢』と『大根おろし』の組み合わせは世界最強なんですよ!」
### 【サラダ】彩り夏野菜の鉄板焼きサラダ・ニューヨーク風
魚料理で盛り上がった口内をリセットするように出されたのは、色鮮やかなサラダだった。
「お口直しも兼ねた『彩り夏野菜の鉄板焼きサラダ・ニューヨーク風』です!」
パプリカ、ズッキーニ、アスパラガス、そして甘みの強いスイートコーンが鉄板でサッと焼き上げられ、バルサミコ酢とオリーブオイル、特製ハーブ塩でシンプルにドレスされている。
「温かい野菜のサラダ……? ほう、野菜本来の甘みが極限まで引き出されている!」
「ズッキーニのみずみずしさと、パプリカのフルーティーな甘み! 焼き目(グリルマーク)の香ばしさが最高のアクセントですわ!」
貴族たちは野菜の美味しさに開眼し、もりもりと皿を空にしていった。
## 第七章:クライマックス! 圧巻の肉と締めの至高
会場の熱気が最高潮に達しようとしていたその時、ムコーダが炭火グリルの蓋を開けた。
――ゴオォォォッ!!
重厚な炭火の熱気とともに、今日一番の圧倒的な肉の香りが広場を支配した。
「さあみなさん……本日のメインディッシュです!!」
### 【メイン】テキサス風オーガスト74の炭火焼きガーリックステーキと奥久慈しゃものフレンチローストの盛り合わせ〜シュラスコ風燻製醤油ソース添え〜
大皿に鎮座していたのは、コストコが誇る最高峰の赤身肉「オーガスト74ブランド」の極厚ガーリックステーキ。そして、日本の名鶏「奥久慈しゃも」をフレンチの技術でパリッと香ばしくローストした逸品。
そこに、シュラスコ風の薫製醤油ソースが回しかけられている。
『ぬおおおっ! ついに肉か!! ムコーダ、俺の分を早くよこせ!!』
フェルが我慢できずに身を乗り出す。
『わーい! おにく! おにくー!』
スイとドラちゃんも目を輝かせて大騒ぎだ。
「はいはい、従魔の分は特大サイズで用意してあるからね!」
ムコーダが国賓や王族たちに切り分けた肉を配ると、大広場は静寂に包まれた。
あまりの肉の迫力と香りに、誰もが言葉を失っていたのだ。
セイン王子が、震える手でナイフとフォークを動かす。
切り分けられたステーキの断面は、美しいローズピンク。一口口に運ぶと――
「……ッっっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」
セイン王子が、普段のクールさを完全に忘れて目を見開いた!
「柔らかい……! なんだこの肉の弾力と、噛むたびにあふれ出す濃厚な赤身の旨味は!? テキサス風のニンニクのパンチが効いているのに、この『燻製醤油ソース』の深みが全体を極上の和風高級料理へと昇華させている!」
「こちらの『奥久慈しゃも』も凄まじいぞ!」
ロッド王子が叫ぶ。
「皮はパリッとフレンチローストされ、身は引き締まっていて噛めば噛むほど鶏本来の濃厚な味が溢れ出てくる! 炭火の香ばしさと燻製の香りが口の中で弾けるようだ!」
「美味い……美味すぎる……! 私は今まで何を食べていたのだ!?」
「おかわり! おかわりをくれ!!」
各国の要人たちが、もはや身分も忘れて肉に群がり、争うように喰らいついた。
かつてこれほどまでに熱狂的で、誰もが笑顔になる宴があっただろうか!
### 【締めの一皿】鉄板焼海鮮あんかけ焼きそば・ナンプラーの香りと共に
肉の熱狂が冷めやらぬ中、ムコーダは大きな鉄板で麺を焼き始めた。
「さあ、宴の最後を締めくくる一皿です!『鉄板焼海鮮あんかけ焼きそば・ナンプラーの香りと共に』!」
カリッと香ばしく焼き付けられた中華麺の上に、海老、イカ、ホタテ、そしてシャキシャキの野菜がたっぷり入ったアツアツの「海鮮あん」が回しかけられる。仕上げにエスニックなナンプラーの香りをフワッと効かせた一品だ。
「めん……? 締めにかた焼きそばだと?」
ズズッ……と麺をすすったマナリアが、艶やかな瞳をさらに輝かせた。
「あら……これは危険な味ね。カリッと香ばしい麺の食感と、トロトロの海鮮あんが絡み合って……ナンプラーのエスニックな香りが食欲を無限に刺激するわ。お腹がいっぱいのはずなのに、いくらでも入ってしまう……!」
「ほんとだ……! 餡の旨味が麺に染み込んで、最後の一粒まで美味しい……!」
ミシャやレーネ、ロレッタやピピまでもが、無心で麺を頬張っていた。
### 【デザート兼ドリンク】ハーフカットメロンクリームソーダ〜器のメロンも頂きます〜
「そして最後! お口直しのデザート兼ドリンクです!」
ムコーダが運んできたのは、見た目にも眩しいインパクト抜群のデザートだった。
高級メロンを贅沢に半分にカットし、種をくり抜いた中央に冷たい炭酸のクリームソーダを注ぎ込み、頂点に大盛りのバニラアイスとチェリーを添えた「ハーフカットメロンクリームソーダ」!
「きゃあぁぁぁぁ!! かわいいいぃぃぃ!!」
レイが歓声をあげる。クレアもまた、目をキラキラと輝かせた。
「な、なんて贅沢で愛らしいデザートなのですか……!」
ストローでソーダを吸うと、爽快なシュワシュワ感とメロンの芳醇な果汁が口いっぱいに広がり、バニラアイスが滑らかに溶けていく。さらにスプーンでくり抜く本物のメロン果肉の贅沢さ!
「爽やか……! こってりとしたバーベキューの後に、この冷たさとシュワシュワ感は甘美すぎる完璧な締めくくりですわ……!」
クレアがうっとりと吐息をついた。
大広場からは、この日一番の盛大な拍手が巻き起こった。
「素晴らしい! 異世界の料理人ムコーダに栄光あれ!」
「バウアー王国万歳! フランソワ公爵夫妻万歳!」
パーティーは大・大・大成功のうちに幕を閉じたのだった。
## 第八章:別れと、新たなる放浪の空へ
宴が終わり、夕暮れ時の赤金色の光がフランソワ邸の庭園を包み込んでいた。
片付けを終えたムコーダたちの前には、クレア、レイ、そしてバウアー王国の面々が揃っていた。
「ムコーダ様。本当に……言葉では言い尽くせないほど感謝しておりますわ」
クレアが深々と頭を下げた。
「あなたの料理のおかげで、我が家の記念日は最高の思い出となり、この国の絆もより一層深まりました。……どうでしょう、このままバウアー王国の『筆頭王宮料理長』として我が家にとどまる気はありませんか? 報酬は望むままにお支払いしますわ!」
「えっ!? いやいやいや! 金貨の山を出されても無理ですよ!」
ムコーダは慌てて手を振った。
「俺は性に合わない格式ばった生活より、気ままに旅をする方が向いてるんです。従魔のみんなも、広い世界を旅する方が好きですしね」
『む、当たり前だ。私はムコーダの作る飯を食べながら、各地の強い魔物を狩るのが生き甲斐なのだからな』
フェルが胸を張る。
『スイも、あるじといっぱい旅するのー!』
『俺も街に閉じこもるなんて真っ平御免だぜ!』
従魔たちの言葉に、レイがクスッと笑った。
「ふふ、ムコーダさんらしいですね。……でも、寂しくなります」
「レイちゃん。同じ元日本人に会えて嬉しかったよ。この世界でクレアちゃんたちと仲良く、元気に暮らしてね」
ムコーダが優しく微笑むと、レイは嬉しそうに頷いた。
「はい! 私、クレア様の推し活とこの世界での生活、全力で楽しんでいきます! ……あ、ムコーダさん、最後にネットスーパーで『日本のポテトチップス(コンソメパンチ)』と『缶チューハイ』買いだめさせてもらってもいいですか!?」
「こらレイ! あなたという人は最後まで……!」
クレアがいつもの縦ロールを揺らして怒り、レイが「キャー!」と逃げ回る。
その賑やかなやり取りを見て、ムコーダやバウアー三兄弟、ミシャたちも思わず爆笑した。
「じゃあ、みんな。お世話になりました!」
ムコーダはリュックを背負い直し、フェル、スイ、ドラちゃんとともに、夕暮れの道を歩き出した。
「さあて……次はどの街を目指そうか?」
『ぬ? どこでもよいが、夕飯はまたあの“こすとこ”の肉にしろよ、ムコーダ!』
『スイも、あまいめろんのソーダまたのみたいー!』
『俺はガッツリニンニクの効いたステーキな!』
「はいはい、分かった分かった。またネットスーパーでポイント貯めなきゃなぁ……」
異世界の風が心地よく吹き抜ける。
トラブルと美食、そして温かい出会いを残して――とんでもスキルを持つ男と伝説の従魔たちの放浪旅は、これからもどこまでも続いていくのだった。