「!………驚いた。こんな所に女がいるとはな」
──ここは【ライセン大峡谷】の奥深く。【ライセン大迷宮】の更に奥に行った先にある峡谷の中心とも言える程、奥に行った場所。
そんな場所に空間があり、更には他の存在が居るなどとは思っていなかったカイドウが僅かに目を見開いて驚く。
そんなカイドウの顔を見た紫髪の少女は、忌々しげな表情で溜め息を吐きながら口を開いた。
「───ハァ。ボクだって、好きでこんな所に何万年も居るわけじゃないよ」
「…何だ?
「……何で君にそんな事を教えなきゃいけないのさ──って言ってもいいけど、数万年振りの話し相手だし暇つぶしに教えて上げる」
カイドウに何故こんな所に居るのかを聞かれた紫髪の少女は、忌々しげな表情から少し表情を柔らかくし、微笑を浮かべながら語り始める。
紫髪の少女は悪魔族であり、原初の悪魔の七柱。
そんな少女の願いを契約とし、代価としてその少女の肉体を受肉する為の依代として求めた。復讐を果たしてくれるなら構わないと、少女は承諾した為契約をした。そして、霊体であるヴィオレが現世で長く活動するには肉体が必要な為、先に少女の肉体を用いての受肉をしたが、そこで問題が生じたらしい。
その少女の事をかねてから監視していたエヒトがその状況に介入し、受肉中のヴィオレを神の創った石板の中に封じ込め、更に魔法が一切使えない峡谷の最奥にその石板を置いた。
石板自体を壊せば解放される。そしてヴィオレ自身、長い時をかけて封印を弱めていき、ようやく行動出来るようになったので、破壊しようと行動する事は出来た。しかし、石板自体がこの世界最高硬度のアザンチウム鉱石で創られ、更に神によって防御の魔法が何重にもかけられている。対してヴィオレは、この場所は身体強化魔法に至るまでの全ての魔法が使えないのだ。
勿論、ヴィオレ自身の素の身体能力もすこぶる高いのだが、悪魔族は魔法に優れた種族であり、物理的に石板を壊すには、長い時間がかかるだろうと悩んでいたところへ、カイドウが壁をぶち破って現れ、今に至るということだった。
「って言う訳で今ボク、凄く困ってるんだよねぇ〜。ここから出て、あのエヒトとかいうクソ野郎を殺してやりたいんだけど」
普通の者なら困っているじゃ済まないと思うが、一応時間をかければいつかは完全に封印を解ける為、ヴィオレにとっては困っているの範疇を出ない。解ける時期が定まらない程先の話だが、悪魔族に寿命はない為それも問題にはならない。しかし退屈ではある為、こうして頭を悩ませているのだ。
後半は言葉にしていなかったが、ヴィオレの表情から退屈そうだと理解したカイドウは、ある決断をして問い掛けた。
「──おれの名はカイドウ。──いずれ最強生物になる男だ!」
「何?急に」
「……お前…ここを出て
「──ハァ?君ボクの話聞いてたよね?魔法が使えないから、あれをすぐには壊せないって──」
「おれなら今壊せる!いや……、おれにしか壊せねぇ!!」
「───!」
カイドウの口から発せられた自身の作る界賊団への勧誘。それに呆れたように指摘するヴィオレの言葉を遮って放たれたカイドウの言葉には、おれならやれるという絶対の自信があった。
その自信満々な顔のカイドウに目を見開いて驚くヴィオレ。そんなヴィオレの表情を見たカイドウは、ニヤリと笑って勧誘を続ける。
「──フッ。……だから今選択しろ!ヴィオレ!!ここでつまらねぇ石板と睨めっこする退屈な日々を過ごすか!?それともおれの右腕として、最強の界賊団を作るか!?」
「…………それ本気?ボクと最強の界賊団を──ってさ」
「当然だ!!おれが船長、お前が副船長!お前が殺したいってんなら、この世界の神エヒトとかいう奴をぶち殺してもいい!!──
カイドウの語った選択肢は後者の方がいい、と言うより惹かれるものがあった。少なくともヴィオレはそう思ったが、同時におかしくもあり問い返した。
そんなヴィオレの疑問に対してカイドウは、悩む素振りもなく即答で当然だと肯定し、更に続けられた誘い文句はヴィオレにとって、最高に魅力的に感じられた。よって、ヴィオレの中では凡その答えが出た。
「──フン//そこまで言うなら、壊してみせてよ。それが出来たら、ボクを好きにしなよ」
青龍状態のカイドウから話された最高に魅力的な誘い文句。それを言った時のカイドウの自信満々の顔。その堂々としたカッコよさに、頬を赤らめながら鼻を鳴らしヴィオレはツンとしているように見えるが、その内容は承諾したということだ。
「ウォロロロ。お前可愛いところあるな」
「なっ////」
「それじゃァ試し撃ちだ。──“
ヴィオレの魅せた俗に言うツンデレ。そんなヴィオレを見て可愛いと言うカイドウの言葉に更に頬を赤くするヴィオレ。しかしそんなヴィオレをスルーして、石板の破壊に取り掛かるカイドウは、開いた口に収束させた炎のブレスを放つ。
そのブレスは、石板の周りに展開された障壁魔法を消し飛ばしていき、その威力にヴィオレも驚いた。
「───凄いね。こんな規模の技は早々ないよ」
「──ウォロロ、だろ〜?」
「けど、まだ一枚障壁があるね。しかもあれ、さっき迄のとは比べられないくらい硬そうだよ?いける?」
「勿論だ!……とはいえ、たかが石の板切れ風情がこのおれに何度も攻撃させんのは癪だな…!次で終わらせてやる……!!」
感嘆するヴィオレに得意気に笑うカイドウ。だが、石板は健在で周りの壁が消し飛んだ事で床に転がっており、石板の障壁は最後の一枚の一番硬い障壁が残っている。その事を指摘するヴィオレに微塵も悩まず答えるカイドウだったが、次の瞬間には石板如きに二度も攻撃させられるのが気に食わず苛立ちを顕にし、三つ目の形態─人獣型に変化する。
「へぇ〜、面白いねカイドウ!その姿になったら、圧が増したよ!!」
「まァ、この姿が現状一番強ェ形態だからな。それじゃァ……往くぜ!!」
先程から絶大な覇気を身に纏い、炎を吹いたり形態を変化させたりするカイドウに興味津々なヴィオレ。そんなヴィオレに今の自分の最強形態だと答えたカイドウは、頭上に金棒を掲げてグルグルと回転させ、その勢いを殺さず真下の石板に振り降ろした。
「降三世──引奈落ッ!!!!」
ドゴオォォォッ!!!!
金棒が石板に叩き付けられ、凄まじい轟音が響くが、最後の障壁はやはり硬くほんの少しずつ罅が入っていくだけだ。それだけであれば、もう一、二発攻撃しなければならないところだが、カイドウの金棒の一撃には流桜が使用されている。
つまりどれだけ硬い障壁であろうとも、一枚程度であれば覇気を内部に通して石板を直接破壊する事が出来るのだ。
「──ッ!石板が……っ!!」
──バキッ!バキバキバキィ──!!と、中心から大きく亀裂が入っていき砕け散った。その事に喜色を浮かべてヴィオレが次に取った行動は、部屋の外に出られるかどうかの確認だった。
「ウォロロロ、出られたな!」
「────フフッ!そうだね。ありがとう」
「あァ、それじゃァ行くぞ。もうこんな所にゃァ用はねェ」
「うん、そうだね!早く行こう!!」
ヴィオレが出られた事に笑いながら声をかけるカイドウに、嬉しそうに微笑みながら礼を言うヴィオレ。そして最早この場所の用がなくなった二人は、カイドウの開けた穴を歩いて登っていく。
「そう言えばさぁ、ボクのヴィオレって言う呼び名は正式な名前って訳じゃないんだよね」
「そうなのか?…って事は、あだ名みてぇなもんか」
「そういう事!だからさ、ボクをここから出してくれた。ボクの大切なカイドウにボクの名前をつけてほしいんだ」
「………なるほどな」
歩いて登っている途中、思い出したかのように自身の呼び名が本名ではないと明かすヴィオレ。その為、自分をここから連れ出してくれたカイドウに名前を付けて欲しいと言うヴィオレは、期待の眼差しでカイドウを見上げる。それに納得したカイドウは、合う名前をと考え始め、割とすぐに答えを出す。
(名前か…。ONEPIECE原作の傾向から取ってトランプ競技のウルティにするか─?いや、それだと少々味気ない。……それにこいつァ、今思いだしたが転スラのヴィオレだよな。それなら、二つの要素を足した名前。……結局原作と同じだが、決まりだな)
「ウルティマ。今日からお前の名前はウルティマだ!」
「──
「そうだ…!ずっとおれの影にいろよ、ウルティマ。誰にも渡さねぇ……今日からお前はおれの右腕だァ……!!!ウォロロロロロォ!!!」
肩越しに振り返ったカイドウの告げたウルティマという己の新たな名前。その名前を咀嚼するかのように呟くヴィオレ──否、ウルティマ。そんなウルティマに、誰にも渡さないと宣言するカイドウの堂々とした立ち姿を見たウルティマは思わず見惚れてしまう。
「////──バカ」
「?何か言ったか?」
「……何でもないよ──っと、どうやら進化が始まったね」
そんなカイドウに、思わずバカと小さな声で呟くウルティマ。それを聞き取れなかったカイドウが問い掛けるが、ウルティマが笑顔で何でもないと返していると、ウルティマの名付けによる進化が始まるり、カイドウの魔力がごっそりと抜ける。
その間は立ち止まらざるをえないので、カイドウはその間にウルティマに渡す悪魔の実を生成していた。そうしている内にウルティマの進化が終わり、見た目は一切変わっていないウルティマが姿を現す。
「オウ、終わったか」
「うん、ちゃんと進化成功だよ。種族は
基軸世界から離れ、受肉したまま数万年も封印されていた影響でスキルは無くなり、魂もこの肉体に完全に定着したのだろうとウルティマは言う。しかし、ウルティマは精神生命体でなくなろうとも死ななければいいという考えをしており、スキルは元々使用していない。よって、問題視していないのだ。
「まァ…お前がそれでいいんならそれでいい……。それよりも…これをやるよ」
「?………これは?」
「悪魔の実だ!食ってみろよ…確実に強くなれるし、お前も喜ぶ能力の筈だぜ?」
「……分かった」
カイドウもウルティマが気にしないならというスタンスなので、そこでその話を終わらせ、ウルティマに悪魔の実を渡す。
当然、突如渡された不思議な模様の樹の実には疑問符を浮かべるウルティマに、簡潔な説明とウルティマが喜ぶ筈だと伝える。その確信を持ったカイドウの表情を見て少し考えたウルティマは、最終的に齧り付いた。
「──うっ!不味っ!!」
「ウォロロロ、確かにな。…だが、飲み込め!一口でいい」
悪魔の実のあまりの不味さに顔を顰めるウルティマ。それに笑いながら同意するカイドウは、それでも一口飲み込ませる。
「──!これは……っ!!」
「ウォロロロ、良い能力だろ?」
「それは確かにそうだけどさぁ〜。この能力、ボクに向いてるかなぁ?」
食べた後、能力者となったウルティマはどんな能力かを大体理解し、良い能力ということには同意するが、魔法主体の自分には向いてないとも考えるが、カイドウはそうは思っていない。
「そうか?……案外お前は体術もいけると思ってんだがな。…それに……敵をぶん殴ったり突き刺したりするのは楽しいぞ?」
「そっか〜。じゃあ今度、教えてよ!!エヒトを殴って刺して、殺してやりたいかも!!」
「あァ、いいぜ」
こうして出会った二人は、封印の間から堂々とした足取りで立ち去っていき、互いを唯一無二の相棒として、界賊人生の第一歩を踏み出すのだった。
「!!!」
カイドウとウルティマが迷宮まで戻ってくると、既に壁が修復されていた為、カイドウが壁を蹴破って、ガラガラガラ──とブロックが崩れていくのを背後に中に入る。
「……え〜。まだ外じゃないの?」
「悪ィな。ちょっと寄るとこがあんだ」
まだ外に出られない事に不満を口にするウルティマに、謝りながらも自分の用がある場所に行くため、浮遊ブロックを足場に跳んで進もうと、二人で飛び乗った。すると、浮遊ブロックが勝手に動き始めて壁まで進み、発光している壁がくり抜かれ、その先へと進んでいく。
「楽でいいね、これ」
「そうだな……」
そうして進んだ先には、紋様の刻まれた扉の前に辿り着き、扉がスライドして開いてそのまま奥へと進んで行くと……
「君!遅過ぎだよ!こんなに人を待たせて──って、あれれ?そんな可愛い娘さっきまでいなかったよね?」
小さいミレディ・ゴーレムが居た。
そのミレディは、カイドウに不満をぶつけようとするが、見覚えのない少女への興味が勝ったらしく、聞いてくる。
「こいつァ、ウルティマだ。さっき会って、おれの相棒になった。詳しく言うのも面倒だから、名前だけ覚えとけ」
「よろしく〜」
「いやめちゃくちゃ気になるんだけど!?」
さらっと名前だけで済ませようとする二人に、気になるからと執拗に聞くミレディだったが、二人共が無視したので本題に入る事にした。
「そ、それじゃあ私の神大魔法である重力魔法をあげるから、カイドウくんだけそこの魔法陣に乗ってくれるかな?」
「分かった」
「うんうん。神大魔法が何か気になるよねぇ〜って、えぇっ!?受け取る前に色々聞かないの!?」
「長ったらしい説明は良い。おれが勝者なんだ。……貰えるもんは全て貰ってく。……それだけだ」
「ボクもあんまり興味ない」
「辛辣!?……まぁもういいや。じゃあ、授けるよ〜」
神大魔法が何かを知らない筈のカイドウが何も聞いてこない事に突っ込むミレディだったが、カイドウもウルティマも関心が薄く、さらっとスルーしてしまう。
もう気にしても仕方ないと思ったミレディは、さっさと済ませようとカイドウに重力魔法を授けつつ、神大魔法とは何かをカイドウ達に教える。
「はい!終わり〜。それと、ウルティマちゃんは今回は無理だからね〜?」
「分かってる。また今度攻略すりゃァいい。……それよりも、他にはねェのか?」
「あとはこれだね〜、攻略者の証!それから、珍しい鉱石とかなんだけど〜、いる?」
ウルティマは迷宮攻略をした訳ではない為、魔法は授けられない。それをミレディに言われても、想定内だったカイドウはさして気にした様子はない。
それから他にはとカイドウに聞かれたミレディは、攻略者の証と鉱石類を取り出す。その内の証を受け取ったカイドウは、鉱石をどうするか考え、ウルティマにも意見を聞く。
「鉱石か……。俺達には加工技術がないが、自分専用の金棒を特注で造らせたいしな…。アザンチウムがあればってとこだな…。お前はどうだ?ウルティマ」
「ボクは宝石鉱石興味ないなぁ〜。だからいいや」
「ウォロロ、そうか。そういう訳だ、アザンチウムを」
「オッケー♪はい、じゃあこれ!」
結局受け取った鉱石類は、カイドウの金棒を新調する為のアザンチウム鉱石のみ。ウルティマは必要なしとした為、アザンチウム鉱石をカイドウに渡すミレディ。
そこでカイドウは、今突然思い出した事を尋ねた。
「あぁ…思い出したんだが、オルクスとハルツィナとグリューエン以外の大迷宮の場所を教えろ…。現代にはもう伝わってないようだからな……」
「………そっか。それだけ長い時が経ったんだね…。シュネー雪原、神山、大陸東側の海だよ〜」
「そうか。……これでもう──ここに用はなくなった」
場所が分からなくなっている大迷宮の場所を尋ねたカイドウに、ミレディが答える。そしてここに用事がなくなったカイドウ達を地上に出すために天井から吊るされた紐を引っ張ろうとする。
「それじゃあ、二人を地上に出すから──」
「大量の水でトイレに流そうとしたら殺すぞ?」
「!─ハァ?こいつそんな事しようとしたの?」
「──って、何で分かったの!?」
ミレディが紐を引く寸前、未来視を使ったカイドウが自分のやろうとしていたことを言い当てられた事で驚いた。それを聞いたウルティマも加わり、カイドウとウルティマの視線が本気で殺る気だったので、大人しく紐を引っ込めた。
「わっ、分かったからそんな目はやめて〜!殺さないでぇ〜」
実はカイドウのブレスを実際に喰らっているミレディば、割と本気でカイドウを恐れており、強行して流すということは出来なかったのだ。
「なら早くして」
「分かったよ!じゃあ、あの魔法陣に乗ってね〜」
ミレディの命乞いにジト目を向けたウルティマはミレディを急かし、ミレディは魔法陣に乗るよう二人に言う。
そして二人が乗ったのを確認して、ミレディが魔法陣を起動させていると、振り返ったカイドウとウルティマが口を開いた。
「こいつが神エヒトとかいう奴を殺したいっていうからな。……奴はおれたちが殺す!期待して待ってろ。ウォロロロロ」
「うんうん!ボクらが殺すよ…!!必ずね」
「!──そっか〜。それは楽しみだね」
「それじゃ!ボクはもう一回来るだろうから、またね〜」
光る魔法陣の中。何処までも自信に満ち溢れた二人が神エヒトを殺すと宣言する。それを聞いたミレディは、その時が心底楽しみだと思いながら、転移していく二人を見送るのだった。
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