鋼鉄の灯火は深淵を照らす—超古代の厄災と、メカオタクの生存戦略——   作:カノープス・ギア

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鋼鉄の灯火は深淵を照らす

第41話 鋼鉄の灯火は深淵を照らす

 

 

 巨大な手が、落下する《白鷺》を受け止めていた。

 

 翼ではない。

 

 暴風救助のあとに補強した、胴体中央の主フレーム。

 

 機体を壊さず支えられる場所を知っているかのように、光の巨人は白い機体を掌へ載せていた。

 

 操縦席の正面に、銀と紫の顔がある。

 

 額の結晶。

 

 光を宿した両目。

 

 胸の中央で輝く灯。

 

 前世では、画面の向こうから何度も見た。

 

 この世界では、3000万年前の壁画と記録の中で追い続けた。

 

 その存在が、いま、俺を見ていた。

 

「ウルトラマン……ティガ」

 

 名前を呼んでも、巨人は答えない。

 

 それでも、視線が重なった。

 

 ほんの一瞬。

 

 俺には、ティガが《白鷺》の傷を見たように思えた。

 

 焼けた尾部。

 

 固定された可変翼。

 

 裂けた外板。

 

 人間が、光の目覚める数秒を稼ぐために払った代償。

 

 ティガは、掌をゆっくりと地面へ下ろした。

 

 山腹から少し離れた、岩の少ない河川敷。

 

 《白鷺》の着陸装置が地面へ触れる。

 

 巨人の手が離れた。

 

「……ありがとう」

 

 聞こえるはずのない声で言った。

 

 ティガは顔を上げる。

 

 ゴルザが咆哮した。

 

 裂けた左翼を引きずるように、メルバも旋回してくる。

 

 光の巨人は、2体の怪獣へ向き直った。

 

 

『鈴木さん!』

 

 通信へ、奏の声が飛び込んだ。

 

『返事をしてください!』

 

「生きています」

 

『状態は?』

 

「意識清明。視界、手足、呼吸に異常なし。《白鷺》は——」

 

 計器を確認する。

 

 主推進器、停止。

 

 右尾部制御、応答なし。

 

 可変翼、固定。

 

 独立帰還制御、通信断。

 

 補助電源と、生体監視だけが生きている。

 

「飛行不能です」

 

『脱出してください』

 

 黒木さんの指示だった。

 

『戦闘はティガとGUTSへ任せろ。灯は機体を離れ、指定避難地点へ移動』

 

 目の前では、ティガとゴルザが組み合っている。

 

 メルバが上空から光弾を撃ち込む。

 

 ティガはゴルザの腕を受けながら、身体をひねって避けた。

 

 1対2。

 

 目覚めたばかりの光の巨人へ、2体の怪獣が襲いかかっている。

 

 残りたい。

 

 まだ何かできるはずだ。

 

 そう思った瞬間。

 

 谷の向こうから、黒煙が上がった。

 

「GUTS機が落ちた……?」

 

 メルバに追われていたガッツウイング2号。

 

 緊急着陸には成功していた。

 

 だが、地殻変動で斜面が崩れ、機体の一部が土砂に埋まっている。

 

 脱出を示す信号が、点滅していた。

 

『救難信号を確認』

 

 遠野さんの声。

 

『搭乗員2名。1名は自力移動が困難です』

 

 ティガの戦いへ戻ることはできない。

 

 だが、助けを待っている人がいる。

 

「黒木さん」

 

『聞いている』

 

「《白鷺》を離脱します。EX-ギアでGUTS機の救助へ向かいます」

 

 一瞬の間。

 

『許可する。ただし、怪獣へ近づくな。救助後は北側の退避地点へ』

 

「了解」

 

『鈴木さん』

 

 奏の声。

 

『あなたも救助対象に含まれています』

 

「忘れていません」

 

 キャノピーを開いた。

 

 

◇◇◇

 

 

 戦場の空気は、砂と熱で濁っていた。

 

 EX-ギアを座席から切り離し、地面へ降りる。

 

 遠くでゴルザの足が落ちるたび、河川敷が揺れた。

 

 身体の何十倍もある岩が、斜面から転がり落ちてくる。

 

 飛んでいたときとは違う。

 

 地上では、怪獣の大きさを逃げ場のなさとして感じる。

 

 俺は、倒れた木と岩を避けながらガッツウイングへ走った。

 

【技能適用:『インファイト Lv.1』】

 

 EX-ギアが脚と腰を補助する。

 

 壊れた斜面でも、身体の軸が崩れない。

 

 機体へ着く。

 

 ガッツウイング2号は、左翼を土砂へ埋めていた。

 

 キャノピーは開かない。

 

 内部から、拳で叩く音が聞こえる。

 

「白鷺班です! 聞こえますか!」

 

『聞こえる! 後席が負傷している!』

 

「いま開けます!」

 

 緊急開放レバーへ手を伸ばす。

 

 動かない。

 

 機体が歪み、固定具へ横方向の力がかかっている。

 

 EX-ギアの補助を最大にする。

 

 両足を踏ん張り、レバーを引いた。

 

 金属が軋む。

 

 それでも開かない。

 

『灯、右側の固定具が変形している』

 

 澄人が、GUTS機の設計資料と外部映像を照合している。

 

『正面から引くな。右へ押しながら、上へ』

 

「了解」

 

 俺1人の力ではない。

 

 見えない場所を、仲間が見ている。

 

 右へ押す。

 

 上へ引く。

 

 固定具が外れ、キャノピーが数cm浮いた。

 

 指を差し込み、さらに持ち上げる。

 

「開いた!」

 

 前席の隊員が、自分で這い出した。

 

 額から血を流しているが、意識はある。

 

 後席の隊員は、右脚を座席と計器盤の間へ挟まれていた。

 

「動かさないでください」

 

 計器盤が変形し、脚の上へ食い込んでいる。

 

 無理に引けば、傷を広げる。

 

『画像を送ってください』

 

 真壁先生の声。

 

 ヘルメットカメラを負傷箇所へ向ける。

 

『出血は抑えられています。足先の色を確認』

 

「血色あり。本人も感覚があると」

 

『挟まれている部分を動かさず、計器盤側を広げてください』

 

 ゴウが通信へ入る。

 

『灯。座席左の整備パネルを外せ。中に手動の支持解除がある』

 

「場所は?」

 

『赤い把手。配線の奥だ』

 

 パネルを外す。

 

 束になった配線の向こうへ、指を入れる。

 

 あった。

 

 把手を引く。

 

 計器盤を支えていた一部が外れ、数cmだけ浮いた。

 

「いまです。ゆっくり脚を抜いて!」

 

 前席の隊員と2人で、負傷者を引き出す。

 

 右脚は動かさず、担架へ固定する。

 

 そのとき。

 

 空が赤く光った。

 

 メルバの光弾が、近くの山腹へ命中する。

 

 爆発。

 

 土砂と岩が、こちらへ降ってくる。

 

「伏せて!」

 

 俺は、2人へ覆いかぶさった。

 

 ピンポイントバリアは使えない。

 

 《白鷺》の試作核は、岩塊を逸らした時点で停止している。

 

 EX-ギアの装甲だけでは、巨大な岩を防げない。

 

 頭上へ影が落ちた。

 

 銀色の腕。

 

 ティガが、俺たちと崩落の間へ片腕を差し入れていた。

 

 岩が巨人の腕と肩へ当たり、砕ける。

 

 ティガはゴルザへ背を向けていた。

 

 その隙を狙い、ゴルザの腕が背中へ叩き込まれる。

 

 巨人の身体が大きく揺れた。

 

「ティガ……!」

 

 俺たちを守ったせいで、攻撃を受けた。

 

 ティガは振り返らない。

 

 崩落が収まるまで、腕を動かさなかった。

 

 そして、俺たちが安全な場所へ移動したのを確かめるように、一度だけ顔を向ける。

 

 それから、再び2体の怪獣へ向かった。

 

「運びます」

 

 負傷者の担架を、EX-ギアの背部支持へ固定する。

 

 もう1人の隊員には、俺の肩へつかまってもらう。

 

 3人で、北側の退避地点へ向かう。

 

『あと400mです』

 

 遠野さんが道を示す。

 

『右側は地割れ。左の旧道へ』

 

 地面が揺れる。

 

 足元に亀裂が走る。

 

 負傷者を落とさないよう、速度を抑える。

 

 早く。

 

 だが、急ぎすぎない。

 

 飛行試験と同じだった。

 

 帰るための余裕を、自分で捨てない。

 

 旧道の先に、黒木さんと救難車両が見えた。

 

「こちらです!」

 

 隊員を引き渡す。

 

 真壁先生が負傷者の状態を確認する。

 

「右脚の循環は保たれています。搬送します」

 

 前席の隊員が、俺へ頭を下げた。

 

「助かった。ありがとう」

 

 その言葉へ答える前に、空から苦しげな音が響いた。

 

 ティガの胸の光が、赤く点滅していた。

 

 

◇◇◇

 

 

 ティガは、2体の怪獣に押されていた。

 

 ゴルザの腕を受け止めれば、背後からメルバの光弾が飛ぶ。

 

 メルバへ向き直れば、ゴルザが距離を詰める。

 

 光の巨人であっても、1人で2体を相手にすれば余裕はない。

 

「灯」

 

 黒木さんが俺の肩を掴んだ。

 

「行くな」

 

「まだ何も言ってません」

 

「顔に書いてある」

 

 《白鷺》を見る。

 

 河川敷へ下ろされた白い機体。

 

 飛行不能。

 

 そう判断した。

 

 けれど、機体を詳しく見ると、左側の補助推力器は生きている。

 

 翼は固定されたままだが、主構造そのものは折れていない。

 

「澄人。《白鷺》の状態を再確認してください」

 

『主推進器は再始動不能。右尾部制御も停止。補助推力は左のみ』

 

「滑空なら?」

 

 通信が静かになる。

 

『高所からなら、1回だけ』

 

「着陸は」

 

『無理だ』

 

 ゴウが答えた。

 

『右主脚も変形してる。飛ばせても、もう降ろせねぇ』

 

「飛行時間は?」

 

『補助推力の残量だけなら、90秒』

 

「駄目だ」

 

 黒木さんが言った。

 

「救助は終わった。白鷺班の担当区域も退避完了だ」

 

「ティガが、俺たちを守って攻撃を受けました」

 

「借りを返すために死ぬのか」

 

「違います」

 

 ティガの胸の光が、さらに速く点滅する。

 

 メルバは、左翼を傷つけられている。

 

 速度は落ちている。

 

 ゴルザも、ティガへ意識を集中している。

 

「俺たちが入れば、2対2にできます」

 

「白鷺は戦える状態じゃない」

 

「戦いません」

 

 残っている装備を確認する。

 

 20mm機関砲、残弾7発。

 

 ミサイル、なし。

 

 局所力場、停止。

 

 R-01の電源は生きている。

 

 緊急通信機と発煙標識。

 

「メルバの視線を外します。7発撃ったら離脱。それ以上はしない」

 

「離脱したあと、どこへ降りる」

 

 答えられなかった。

 

 着陸できない。

 

 海までも届かない。

 

 それでも、飛びたい気持ちがある。

 

 ここまで来て。

 

 光の巨人の隣へ立てる場所まで来て。

 

 最後の一歩を、逃したくない。

 

 その願いを。

 

 奏の声が止めた。

 

『鈴木さん』

 

「はい」

 

『飛ばないでください』

 

 胸が痛んだ。

 

 だが、約束している。

 

「理由を聞く前に、従います」

 

『……ありがとうございます』

 

 奏の声が、かすかに震えた。

 

『いま《白鷺》を飛ばせば、戻れません。あなたが戦場に加わっても、ティガがあなたを助けることになります』

 

 そのとおりだった。

 

 さっきも、ティガは俺たちを守って攻撃を受けた。

 

 光の隣に立つつもりで、光の足を引っ張っては意味がない。

 

『でも』

 

 奏が続ける。

 

『機体へ戻ってください』

 

「飛ばないのに?」

 

『R-01と、機体の通信機は生きています。空へ上がらなくても、できることがあります』

 

 俺は、《白鷺》を見た。

 

 戦うための牙だけが、力ではない。

 

 

 操縦席へ戻る。

 

 主電源は入らない。

 

 補助電源から、R-01と外部通信だけを起動する。

 

 救助バスケットに搭載していた、高光度発煙標識。

 

 本来は、地上から航空救難隊へ位置を知らせるための装備。

 

「澄人。メルバの飛行経路を予測」

 

『左翼損傷で、右旋回が大きくなっている。次にティガの背後へ回るなら、北西から』

 

「遠野さん。GUTSへ情報共有」

 

『送ります』

 

「ゴウ。R-01の射出角度を、30度上へ」

 

『救助装備で怪獣を狙うのか』

 

「当てない。目の前で光らせるだけだ」

 

 R-01のウインチを、射出用の張力へ変更する。

 

 発煙標識をバスケット固定具へ取り付ける。

 

 救助装備の本来の使い方ではない。

 

 それでも、人を助けるための道具で、光の巨人を助ける。

 

「メルバ、北西から接近!」

 

 澄人の声。

 

 ティガはゴルザと組み合っている。

 

 背後が見えていない。

 

「3秒後、射出」

 

 照準は、飛行中より遥かに粗い。

 

 機体も傾いている。

 

 それでも、何度も救助バスケットを降ろした経験がある。

 

「3」

 

 メルバが翼を畳む。

 

「2」

 

 嘴に光が集まる。

 

「1」

 

「R-01、射出!」

 

 黄色い救助バスケットが、ワイヤーに引かれて空へ跳ね上がった。

 

 同時に、高光度標識が点火する。

 

 メルバの正面で、白い閃光と赤い煙が爆ぜた。

 

 怪鳥が怯み、首を振る。

 

 光弾の照準が逸れた。

 

 ティガが振り返る。

 

 俺と、目が合った気がした。

 

 銀と紫の身体が変化する。

 

 紫の比率が増え、巨人の姿が空を駆ける形へ変わった。

 

 ティガが飛ぶ。

 

 速度を落としていたメルバへ、一瞬で追いつく。

 

 空中で交差。

 

 光の刃が、俺たちの傷つけた左翼を断ち切った。

 

 メルバが悲鳴を上げる。

 

 体勢を立て直す前に、ティガの光が胸を貫いた。

 

 怪鳥の巨体が光へ包まれ、空中で消滅した。

 

「……やった」

 

 俺たちの機関砲も、ミサイルも、怪獣を倒せなかった。

 

 けれど、翼へ残した傷が。

 

 地上から放った救助装備の光が。

 

 ティガの一撃へつながった。

 

 

 地上では、ゴルザが形勢の変化を察していた。

 

 ティガが着地する。

 

 ゴルザは一歩下がる。

 

 額へ光を集める。

 

 ティガも構えた。

 

 正面から、光と怪獣の力がぶつかる。

 

 谷全体が白く染まった。

 

 土煙が晴れたとき。

 

 ゴルザは、地面へ両腕を突き立てていた。

 

 地割れ。

 

 巨大な身体が、土の中へ沈んでいく。

 

 ティガが追おうとする。

 

 だが、胸の光が激しく点滅した。

 

 数秒後。

 

 ゴルザは完全に地中へ消えた。

 

 倒せなかった。

 

 逃がした。

 

 それでも、避難区域へ戻ることなく、この場から退いた。

 

 最初の戦いとしては、それで十分だった。

 

 

 ティガが、こちらを向いた。

 

 戦いを終えた巨人の胸は、まだ赤く明滅している。

 

 俺は壊れた操縦席から、手を上げた。

 

 ティガも、ほんの少しだけ腕を上げたように見えた。

 

 言葉はない。

 

 名前も、正体も分からない。

 

 それでも。

 

 同じ方向を向いて戦った。

 

 3000万年前。

 

 光を持たない者たちは、鉄を選び、巨人の隣へ立った。

 

 その記録を読んだときから、ずっと夢見ていた。

 

 変身しない。

 

 人間のまま。

 

 自分たちで作った機械で。

 

 ウルトラマンと肩を並べる。

 

 空を飛ぶことはできなかった。

 

 《白鷺》は地上へ落ちたままだ。

 

 それでも、光の一撃へ人間の手をつなぐことはできた。

 

 それが、俺たちの最初の共闘だった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ティガは光となり、空へ消えた。

 

 戦場には、怪獣が残した巨大な足跡と、壊れた山腹。

 

 そして、傷だらけの《白鷺》が残った。

 

 

「鈴木さん」

 

 キャノピーの外から、奏の声がした。

 

 操縦席を降りる。

 

 彼女は息を切らしていた。

 

 医療車両から、ここまで走ってきたらしい。

 

「ただいま」

 

「……おかえりなさい」

 

 いつもの言葉。

 

 それだけで、身体から力が抜けた。

 

 奏は俺の腕と顔を確認する。

 

「頭痛は?」

 

「ありません」

 

「吐き気」

 

「ありません」

 

「手足の痺れ」

 

「なし」

 

「嘘は?」

 

「ありません」

 

 奏は、大きく息を吐いた。

 

「飛ばないでと言ったとき、従ってくれましたね」

 

「約束したので」

 

「本当は、飛びたかったですか」

 

「すごく」

 

「正直ですね」

 

「でも、飛ばなくてよかった」

 

 ティガが、俺たちを守って攻撃を受けた姿を思い出す。

 

「飛ぶことだけが、隣に立つ方法じゃなかった」

 

 奏は、壊れた《白鷺》を見る。

 

「救助装備で、怪獣を驚かせる人は、鈴木さんくらいだと思います」

 

「設計上は、推奨されません」

 

「当然です」

 

「記録には残します」

 

「遠野さんが、もう残しています」

 

 少し笑った。

 

 笑える。

 

 全員、生きている。

 

 白鷺班の10人。

 

 救助したGUTS隊員2名。

 

 俺たちの担当した避難区域の63名。

 

 負傷者はいる。

 

 街も山も傷ついた。

 

 完全な勝利ではない。

 

 それでも、帰ってこられた。

 

 

「鈴木さん」

 

 奏が、俺を見上げる。

 

「帰ってから話すと言いましたよね」

 

 逃げられない。

 

 いや。

 

 逃げるつもりはなかった。

 

「はい」

 

「聞いています」

 

 戦闘の直後。

 

 傷だらけの機体。

 

 周囲では、救難隊と整備班が動いている。

 

 告白に向いた場所ではない。

 

 けれど、また先送りにしたら。

 

 俺は次も、「帰ってから」と言う気がした。

 

「白石さん」

 

「はい」

 

「俺は、あなたが好きです」

 

 言葉にすると、驚くほど短かった。

 

「俺が無茶をしたとき、止めてくれるからだけじゃない。俺の過去を全部知らなくても、逃げずに見ていてくれた。あなたが待っていると思うと、帰ろうと思えます」

 

 奏の目に、涙が浮かぶ。

 

「だから」

 

 一度、息を吸った。

 

「俺と、付き合ってください」

 

 奏は、しばらく何も言わなかった。

 

 怪獣と戦うより、長く感じる沈黙だった。

 

「……はい」

 

 小さな返事。

 

 それから、少し困ったように笑う。

 

「ただし、1つ修正があります」

 

「修正?」

 

「私は、鈴木さんが帰る場所にいるだけでは嫌です」

 

 奏は、俺の手を取った。

 

「私も、白鷺班の一員です。一緒に行って、一緒に帰ります」

 

 温かい手だった。

 

「はい」

 

「それから、交際しても医療判断は甘くしません」

 

「覚悟しています」

 

「本当に?」

 

「たぶん」

 

「そこは、はいと言ってください」

 

「はい」

 

 奏が笑った。

 

 今度は、はっきりと。

 

 俺も笑った。

 

 

 少し離れた場所から、ゴウの声が飛んできた。

 

「終わったかー!」

 

「何がだ!」

 

「大事な話!」

 

「聞いてたのか!」

 

「聞いてねぇよ! 遠野さんに近づくなって止められてた!」

 

 遠野さんが、無言でゴウの肩を押さえている。

 

 澄人は目を逸らしながら、通信端末を操作していた。

 

 美園さんは、壊れた機体の部品番号をすでに記録している。

 

 健三さんは翼の亀裂を見て、頭を抱えていた。

 

「こいつ、直すのに何か月かかると思ってんだ」

 

「直せますか」

 

 俺が訊くと、健三さんは顔を上げた。

 

「誰に訊いてる」

 

 傷ついた白い翼を叩く。

 

「飛んで帰ってこなかったのは気に食わん。だが、真ん中の骨は生きてる。なら直す」

 

 ゴウが笑う。

 

「次は、もっと強くなるな」

 

「強くする前に、壊れにくくします」

 

 美園さんの訂正が入る。

 

「両方やればいい」

 

 教授が、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

 

 丸眼鏡の奥で、目が潤んでいる。

 

「私は、兄が見たものを追って、30年以上歩いてきた」

 

 空を見上げる。

 

 ティガの光は、もう見えない。

 

「今日、ようやく分かったよ。兄が見たかったのは、滅びの記録だけではなかった」

 

「教授」

 

「光と、人の作った鉄が、同じ方向へ立つ未来だ」

 

 教授は、《白鷺》へ手を触れた。

 

「間に合ったな」

 

 その一言に。

 

 前世で届かなかった声。

 

 6畳一間で数えた150 SP。

 

 黒岩鉱山。

 

 樽内の湖底。

 

 相沢製作所。

 

 遠心加速度装置。

 

 海底の母炉。

 

 無人機の墜落。

 

 暴風の屋上。

 

 今日までのすべてが、胸へ押し寄せた。

 

「はい」

 

 今度は、迷わず答えた。

 

「間に合いました」

 

 

 その夜。

 

 白鷺班の詰所で、青い画面が開いた。

 

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【長期目標・第1段階達成】

 

光の巨人だけに、地球を護らせない

 

達成項目:

▶ 人間の手による航空機の完成

▶ 怪獣災害下での民間人避難支援

▶ GUTS隊員2名の救助

▶ 光の巨人との共同防衛

▶ 白鷺班10名、全員帰還

 

報酬:

▶ +7,000 SP

▶ チーム記録《鉄の灯火》を登録

▶ 次段階への移行条件を開放

 

▶ 所持ポイント:17,675 SP

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 次段階。

 

 画面の奥には、新しい技術と、まだ見たことのない可能性が並んでいる。

 

 ダイナ。

 

 さらに先の技術。

 

 母炉の深部。

 

 別の鉄。

 

 この世界で、やるべきことはまだ無数にある。

 

 だが。

 

 そのすべてを、いま語る必要はない。

 

 俺たちは、最初の光へ間に合った。

 

 人間のまま。

 

 自分たちの翼で。

 

 光の巨人へ、ほんの一瞬でも手を届かせた。

 

 

 数週間後。

 

 格納庫では、《白鷺》の再建が始まっていた。

 

 外された翼。

 

 新しい中央フレーム。

 

 交換予定の熱核タービン。

 

 壁には、10人で撮った最初の集合写真が貼られている。

 

 世間のニュースは、光の巨人を《ウルトラマンティガ》と呼び始めた。

 

 GUTSは、次の怪獣災害へ備えている。

 

 白鷺班の名は、公表されていない。

 

 それでいい。

 

 誰かに称えられるために、鉄を削ったわけではない。

 

「灯」

 

 ゴウが、作業台の向こうから声をかける。

 

「次の翼、持ってくれ!」

 

「ああ!」

 

 奏が、俺の隣で設計変更表を確認している。

 

「右側の脱出経路、また狭くなっています」

 

「3cmだけです」

 

「高G状態では、その3cmが問題です」

 

「直します」

 

「お願いします」

 

 俺たちは、また図面へ向かう。

 

 勝って終わりではない。

 

 救って終わりでもない。

 

 帰ったから、次を作れる。

 

 壊れたから、もっとよい帰り方を考えられる。

 

 

 光は、深淵を照らす。

 

 けれど。

 

 光が届くまでの暗闇を。

 

 人が歩けない場所を。

 

 誰かが帰るために残した道を。

 

 照らす小さな灯火も、きっと必要だ。

 

 

 俺たちは、光の巨人にはなれない。

 

 だから。

 

 人間のまま、鉄を選ぶ。

 

 何度壊れても、仲間と直す。

 

 何度でも飛び。

 

 何度でも、帰ってくる。

 

 

 鋼鉄の灯火は。

 

 これからも、この世界の深淵を照らし続ける。

 

 

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【最終ステータス・スキル情報】

[BASE STATUS]

┣ 演算処理能力:C

┣ 空間認識力:C

┣ 反応速度:C

┗ G耐性/肉体:D(EX-ギア装着時:B相当)

 

[ACQUIRED SKILLS & KNOWLEDGE]

┣【超古代言語理解 Lv.2】

┣【マクロス初代・統合技術パック】(翻訳作業:継続中)

┣【可変荷重フレーム設計(基礎)】

┣【高出力推進・熱管理統合(基礎)】

┣【ピンポイントバリア(基礎)】

┣【EX-ギア(操縦統合型)】

┣【OVER DRIVE】(初使用完了)

┣【インファイト Lv.1】

┗【SPアップ Lv.2】

 

[SYSTEM DATA]

┣ 所持ポイント:17,675 SP

┣ 残機数:3 / 3

┣ 《白鷺》:大破/再建開始

┣ 救助:民間人63名の避難支援/GUTS隊員2名

┣ 戦果:メルバ撃破を支援/ゴルザを撤退させる

┣ 白鷺班:10名全員帰還

┣ 長期目標・第1段階:達成

┗ チーム記録:《鉄の灯火》

=========================================

 

 

鋼鉄の灯火は深淵を照らす 完

 




# 最終話 後書き

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

この作品は、正直なところ、かなり見切り発車に近い形で始めた作品でした。

書き進めていく中で、皆様からいただいた感想やご指摘から気づかされたことも多く、当初考えていた構成から変わっていった部分や、私自身が本当に描きたかったものとのズレが少しずつ大きくなってしまった部分もあります。

特に終盤については、かなり展開を圧縮する形となりました。

ここまで読んでくださった皆様には、唐突に感じられる部分もあったかと思います。その点については申し訳なく思っています。

途中で構想とのズレに気づいたときには、このまま続けるべきか悩んだこともありました。

ですが、お気に入りに登録してくださった方、評価してくださった方、感想やご意見を届けてくださった方がいる中で、「自分がうまくいかなくなったから」という理由だけで途中で投げ出してしまうのは、読んでくださっている皆様に対して誠実ではないと思いました。

そのため、最後は駆け足になってしまいましたが、灯たちの物語を自分なりに最後まで書かせていただきました。

また、この作品を書き始めた理由の一つに、

**「ウルトラマンにならない人間が、自分たちの作った鉄で怪獣へ立ち向かう物語を書いてみたい」**

という思いがありました。

『ウルトラマンティガ』の二次創作そのものが決して多くない中で、主人公自身がウルトラマンとなる作品を目にすることも多く、それなら自分は逆に、人間のまま、ロボットや機械を作り上げて戦う物語を描いてみたいと思ったのが、この作品の出発点の一つです。

本来であれば、3式機龍のようなメカゴジラ系の機体や、ガンダム、スーパーロボットなど、自分が好きなさまざまなロボット作品の要素も描いてみたいと考えていました。

ただ、それらをすべて入れていくと、今以上に物語が広がりすぎてしまうこともあり、今回はマクロス系の要素を中心に絞る形となりました。

描き切れなかったことへの心残りはあります。

ですが同時に、この作品を書いたことで、

**「自分はやっぱり、人間が知恵と技術を積み重ねて、巨大なものへ挑んでいく物語が好きなんだ」**

と、改めて気づくこともできました。

そして本作では、AIの力も借りながら、文章や構成を組み立て、投稿を続けてきました。

その中でお気に入りや感想、そして評価までいただけたことは、本当に嬉しかったです。

自分が最初に思い描いていたものを、すべて満足のいく形で書き切れたとは思っていません。

それでも、一つの物語を最後まで完結させることができたことには、少しだけ達成感を感じています。

今回うまくできなかったことも、いただいた感想やご指摘も、書いている中で学んだことも、すべて次へ持っていきたいと思っています。

そして現在、新しい小説も準備を進めています。

タイトルは、

**『異世界廻 ―星環のアステリオン―』**

近日中に公開予定です。

今作とはまた違い、さまざまな世界を巡りながら、一人の主人公が出会いや経験を重ねていく物語を予定しています。

今回描けなかったものや、もっと描いてみたいと思ったものも、今度は最初からしっかり構成を考えながら、一つずつ形にしていければと思っています。

もちろん、物語は思いどおりにいかないことも多いので、今回の経験を忘れず、焦らず頑張っていきます。

もし公開した際に少しでも興味を持っていただけましたら、そちらも覗いていただけると嬉しいです。

最後になりますが。

ここまで灯たちの物語を読んでくださった皆様。

お気に入りに登録してくださった皆様。

評価や感想、ご意見を届けてくださった皆様。

本当に、本当にありがとうございました。
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