反逆の王子は実力至上主義の世界で優しい世界を望む   作:evejanjan

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恐怖の地図

 高円寺を候補から外した日の夕方。

 

 Cクラスの教室には、普段より多くの生徒が残されていた。

 

 机は前へ向けられていない。

 

 龍園の机を中心に、半円を描くように並べ直されている。

 

 その内側には、石崎と伊吹。

 

 少し離れた壁際に、アルベルト。

 

 向かい側には、龍園から呼び出された生徒が一人ずつ座らされていた。

 

 誰と話したか。

 

 何を頼まれたか。

 

 その後、誰を避けるようになったか。

 

 以前は繰り返していたのに、途中から止めた行動はないか。

 

 龍園が聞いているのは、試験の結果ではなかった。

 

 人間の動きが、どこで変わったかだった。

 

「次」

 

 短い声で、一人が席を立つ。

 

 入れ替わるように真鍋志保が座った。

 

 真鍋は椅子の背へ身体を預けず、両手を膝の上へ置いている。

 

「何?」

 

「お前が急にやめたことを話せ」

 

「意味分かんない」

 

「なら、こっちから聞く」

 

 龍園は端末へ表示した記録を指で送る。

 

 船上試験。

 

 兎グループ。

 

 軽井沢恵。

 

 真鍋の表情が、ほんの僅かに固くなった。

 

「軽井沢へ何度も絡んでたな」

 

「昔の知り合いのことで話があっただけ」

 

「それが、船を降りてから急に止まった」

 

「話すことがなくなったから」

 

「嘘をつくなら、もう少し準備してこい」

 

 真鍋は黙った。

 

 伊吹が腕を組む。

 

「別に隠すほどのことじゃないでしょ。あんたたち、軽井沢のこと嫌ってたじゃん」

 

「今は関係ない」

 

「関係あるから呼ばれてるんだけど」

 

「伊吹」

 

 龍園が名前を呼ぶ。

 

 伊吹は口を閉じた。

 

 龍園は真鍋だけを見る。

 

「最初に、軽井沢が一人になる場所をどうやって知った?」

 

「たまたま」

 

「船の中で、会合が終わった直後に、人気のない非常階段へ行く時間までか?」

 

 真鍋の指先が動いた。

 

 膝の上で、片方の手がもう片方を握る。

 

「誰から連絡が来た」

 

「知らない」

 

「連絡が来たことは否定しねえんだな」

 

 真鍋が顔を上げる。

 

 言い返そうとして、やめた。

 

 龍園は端末を机へ置いた。

 

「名前を聞いてるんじゃねえ。何が届いた」

 

「……場所と時間」

 

「誰の?」

 

「軽井沢の」

 

「送り主は」

 

「知らないって言ってるでしょ」

 

 声が強くなる。

 

 だが、怒りだけではなかった。

 

 龍園は、真鍋の反応を見ていた。

 

 少なくとも龍園には、真鍋が恐れているのは自分への反抗より、ここで話した内容が別の誰かへ伝わることのように見えた。

 

「連絡先は残ってるか?」

 

「残ってない」

 

「お前が消したのか」

 

「……怖くなって、すぐ消した」

 

「文面は覚えてるか」

 

「軽井沢が一人になる場所と時間。それだけ」

 

「それを信じて、三人で行った」

 

「……あいつには、言いたいことがあったから」

 

 龍園は否定しない。

 

 軽井沢へ向けた感情があったから、真鍋たちは動いた。

 

 匿名の相手が作ったのは、感情ではない。

 

 それを使える場所だった。

 

「そこで何をした」

 

「話しただけ」

 

「それだけで、船を降りる前に急に黙る理由にはならねえ」

 

 真鍋は答えない。

 

 龍園は真鍋から視線を外さなかった。

 

「何か届いたんだろ」

 

 沈黙が続く。

 

 教室の外から、部活動へ向かう生徒の声が通り過ぎた。

 

 足音が遠ざかると、真鍋が小さく息を吐く。

 

「船を降りる前に、動画が届いた」

 

 石崎の眉が上がる。

 

「動画?」

 

「全部じゃない。私が軽井沢の腕を掴んでるところだけ」

 

「送り主は最初と同じか?」

 

「分からない」

 

「表示は」

 

「違ったと思う。でも、最初の連絡は消しちゃったから、確かじゃない」

 

「何て書いてあった」

 

「次に軽井沢へ近づけば、残りも学校へ送るって」

 

「残りには何が映ってる」

 

「知らない」

 

「見てねえのか」

 

「送られてないから!」

 

 真鍋の声が教室へ響いた。

 

 アルベルトが扉の方を見る。

 

 外に人が立ち止まった気配はない。

 

 真鍋は一度唇を噛み、声を落とした。

 

「でも、あの場所にいたなら、全部見られてた」

 

「姿は?」

 

「見てない」

 

「足音は」

 

「途中で誰かが来た。だから私たちは離れた。でも、それが撮った人かは分からない」

 

「軽井沢は誰かを呼んだか?」

 

「知らない。声は大きくしてたけど、名前は呼んでない」

 

「その後、軽井沢と話したか」

 

「必要なことだけ」

 

「必要なこと?」

 

「グループの試験についてとか。普通の話」

 

「脅したり、過去を持ち出したりはしてねえ」

 

「してない」

 

「映像を送った奴から、別の指示は?」

 

 真鍋はすぐに答えなかった。

 

 その間だけで、答えは十分だった。

 

「何をさせられた」

 

「何も」

 

「今の間で信じろと?」

 

「本当に、今は何もされてない」

 

「今は、か」

 

 真鍋が目を逸らす。

 

 龍園は追及を止めた。

 

 ここで全てを吐かせる必要はない。

 

 確認できたことはある。

 

 軽井沢を一人にした匿名の連絡。

 

 その場を見ていた何者か。

 

 真鍋たちを止めるために使われた映像。

 

 軽井沢本人が、送り主の名前を呼ばなかったこと。

 

 見えない介入が、軽井沢の周囲で複数回起きている。

 

 ただし、それらの介入者が同一人物か、録音送信者や問題変更要求者と同じかは分からない。

 

「最後に一つだ」

 

 龍園は尋ねる。

 

「映像がなければ、今も軽井沢へ手を出してたか?」

 

 真鍋は答えなかった。

 

 否定もしない。

 

 龍園は椅子の背へ身体を預けた。

 

「もういい。出ろ」

 

 真鍋は立ち上がる。

 

 扉へ向かう途中、足を止めた。

 

「軽井沢に、何するつもり?」

 

「決めてねえ」

 

「関係ないなら、放っておいて」

 

 少なくとも龍園には、真鍋が軽井沢を案じているというより、映像を持つ相手から自分へ何かが返ることを恐れているように見えた。

 

 龍園は笑った。

 

「お前が今それを言うなら、調べる価値はあるな」

 

 真鍋は何も返さず、教室を出た。

 

     ◇

 

「軽井沢がXを知ってるってことか?」

 

 扉が閉じると、石崎が聞いた。

 

「まだ違う」

 

 龍園は即座に否定する。

 

「真鍋を止めた奴が、Xかどうかも分からねえ」

 

「じゃあ、何が分かったのよ」

 

 伊吹が机へ腰を預ける。

 

「軽井沢の周りで、姿を見せねえ奴が動いた」

 

「それだけ?」

 

「今までよりましだ」

 

 匿名録音は、堀北への要求を止めた。

 

 問題変更要求は、Dクラスの誰かが切られる前に届いた。

 

 船上試験では、軽井沢へ圧力をかけた真鍋たちが、匿名の映像で止められている。

 

 三件が同じ人物とは限らない。

 

 だが、Dクラスの誰かが追い詰められる直前か直後に、見えない介入が起きている。

 

「軽井沢を守った奴がいる」

 

 石崎が言う。

 

「守っただけかは分からねえ」

 

「どういう意味?」

 

「最初に真鍋へ場所を教えた奴と、後から止めた奴が同じなら、最初から軽井沢を危険へ置いてる」

 

 伊吹の表情が険しくなる。

 

「最低じゃん」

 

「善人を探してるわけじゃねえ」

 

 最初の連絡と後から届いた映像が同じ人物によるものなら、必要に応じて他人を危険へ置き、その後で結果を支配する人間が捜索対象になる。

 

 軽井沢を助けたかったのか。

 

 利用するために守ったのか。

 

 何かを確認するために真鍋たちを動かしたのか。

 

 そもそも同じ人物の行動なのか。

 

 今はどれも決められない。

 

「でも、軽井沢へ何かすれば、そいつがまた出てくるかもしれねえ」

 

 石崎の言葉に、龍園は答えなかった。

 

 否定しないことが答えになった。

 

「本当にやる気?」

 

 伊吹が聞く。

 

「時期は決めてねえ」

 

「軽井沢が何も知らなかったら?」

 

「その時は線を一本消すだけだ」

 

「相変わらず最悪」

 

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 龍園は新しい記録を開いた。

 

 軽井沢恵。

 

 その名前はまだ書かない。

 

 真鍋の証言だけでは足りない。

 

 誰が軽井沢を庇うか。

 

 軽井沢が誰へ助けを求めるか。

 

 別の場面でも、同じ線が動くか。

 

 確認する材料は、まだDクラスの中に残っていた。

 

     ◇

 

 翌日の昼休み。

 

 Dクラスの教室では、平田が新しい用紙を掲示板へ貼っていた。

 

 昨日までの安全手順へ、連絡欄が追加されている。

 

 呼び止められた時刻。

 

 相手の名前。

 

 聞かれた内容。

 

 その場にいた生徒。

 

 誰へ連絡したか。

 

 会話が終わった場所。

 

「ここまで書く必要あるのか?」

 

 池が用紙を見上げる。

 

「昨日から、同じ人が別々の場所で質問されてる」

 

 平田が答えた。

 

「一つだけなら雑談に見えても、重なれば意図が分かるかもしれないから」

 

「でも、毎回書くの面倒じゃん」

 

「全部を長く書かなくていいよ。名前と場所だけでも残してほしい」

 

 堀北が横から補足する。

 

「これは、誰かを疑うための記録ではないわ。Cクラス側の接触方法を確認するためのものよ」

 

「俺たちの交友関係を調べてるって話か?」

 

 須藤が聞く。

 

「可能性は高い」

 

 ルルーシュが答えた。

 

「ただし、誰を探しているかまでは確定していない」

 

「龍園だろ? 高円寺の次は、また別の奴を囲むんじゃねえのか」

 

「だから一人で応じない手順を更新した」

 

 堀北は用紙の下段を指す。

 

 一人で移動しない。

 

 人の少ない場所を指定された場合は断る。

 

 断れない事情がある場合は、事前に平田か堀北へ連絡する。

 

 会話は可能な限り、人目のある場所で行う。

 

 暴力や脅迫があれば教員へつなぐ。

 

「櫛田さんについては別よ」

 

 堀北が声を落とした。

 

 近くにいたルルーシュと平田にだけ聞こえる音量だった。

 

「彼女には、すでに別の条件がある。今回の手順へ混ぜない」

 

「報告は来たのか」

 

 ルルーシュが聞く。

 

「昨日、Cクラスの生徒から連絡を受けたと申告してきたわ。内容は、Dクラスで最近相談を受けた相手について」

 

「答えた?」

 

 平田の問いに、堀北は首を横へ振る。

 

「何も渡していない。約束を破った場合の結果を理解しているだけよ」

 

 櫛田が龍園との関係を断ったわけではない。

 

 Dクラスのために心を入れ替えたわけでもない。

 

 今は、情報を渡す利益より、決められた条件へ触れる不利益の方が大きい。

 

 その計算が、行動を止めている。

 

「なら、一般の手順とは分けるべきだ」

 

 ルルーシュが言った。

 

「ええ。クラス全体へ、彼女の条件まで知らせる必要はないわ」

 

 堀北は用紙へ視線を戻した。

 

 全員に必要なのは、誰でも使える安全手順。

 

 櫛田に必要なのは、再び情報を流した場合に作動する停止条件。

 

 同じ問題として扱えば、どちらも曖昧になる。

 

     ◇

 

 その日の放課後。

 

「飲み物買ってくる」

 

 そう平田へ告げてから、池は一人で自動販売機へ向かっていた。

 

 部活動の生徒が校舎を出始める時間で、廊下にはまだ人がいる。

 

 それでも、階段横の短い通路へ入ると、前後からCクラスの生徒が近づいてきた。

 

「池だよな」

 

「そうだけど」

 

「ちょっと聞きたいことがある」

 

 前に立ったのは石崎だった。

 

 後ろには、名前を知らないCクラスの男子が二人いる。

 

「何?」

 

「お前、クラスでよく相談する奴って誰だ?」

 

「は?」

 

「困った時に助けてくれる奴。平田か? 堀北か? ランペルージか?」

 

「何でそんなこと聞くんだよ」

 

「いいから答えろって」

 

 石崎が一歩近づく。

 

 池も一歩下がった。

 

 背中側には別の生徒がいる。

 

 殴られるとは限らない。

 

 ただの質問だと言われれば、それまでだった。

 

 それでも、逃げ道を塞がれた状態で続けられる会話ではない。

 

 池は端末へ手を伸ばす。

 

「連絡する必要はないだろ」

 

 後ろの生徒が言った。

 

「話すだけだ」

 

「だったら、人のいる場所で話そう」

 

 別の声が通路へ入る。

 

 スザクが階段側から歩いてきた。

 

 走ってはいない。

 

 石崎たちを押し退けることもなく、池の横まで進む。

 

「枢木か」

 

「その質問は、ここでしかできないのか?」

 

「お前には関係ねえ」

 

「池が一人で答える必要もない」

 

「助けを呼んだ覚えないけど」

 

 池が小さく言う。

 

「呼ばれてないよ」

 

 スザクは池を見る。

 

「ただ、教室を出る時に平田から、自動販売機へ行ったまま戻っていないと聞いた」

 

「まだそんなに経ってなくない?」

 

「だから様子を見に来ただけだ」

 

 石崎が舌打ちする。

 

「邪魔すんなら帰れ」

 

「質問を続けたいなら、食堂まで移ろう。まだ人がいる」

 

「何で俺たちがお前に決められなきゃならねえんだ」

 

「決めてない。ここで池を囲んだまま続けるか、人のいる場所へ移るか、どちらかだ」

 

 スザクは構えない。

 

 声も荒げない。

 

 ただ、池と通路の出口を結ぶ位置に立っている。

 

 石崎が手を出せば、止めるつもりなのは分かる。

 

 同時に、先に殴るつもりがないことも分かった。

 

「食堂なら答えると思ってんのか?」

 

「答えるかどうかは池が決める」

 

「じゃあ意味ねえだろ」

 

「無理に答えさせるための質問なら、最初から会話じゃない」

 

 数秒、石崎はスザクを睨んだ。

 

 やがて身体を横へずらす。

 

「もういい。行け」

 

「池」

 

「う、うん」

 

 スザクは池の肩を掴まない。

 

 先に歩かせることもせず、横に並んだ。

 

 二人は通路を出て、人の多い昇降口側へ向かう。

 

 石崎たちは追わなかった。

 

     ◇

 

「殴られた?」

 

 教室へ戻ると、平田が池へ駆け寄った。

 

「何もされてない。囲まれて質問されただけ」

 

「何を聞かれたの」

 

「困った時、誰に相談するかって」

 

 池は掲示板の用紙へ向かう。

 

 時刻。

 

 場所。

 

 石崎の名前。

 

 他に男子二人。

 

 質問内容。

 

 途中からスザクが来たこと。

 

 昇降口まで一緒に移動したこと。

 

 短く書き込む。

 

 ルルーシュは少し離れた場所から、その記録を見ていた。

 

 高円寺へは、能力と匿名介入について直接聞いた。

 

 池へは、誰へ相談するかを聞いた。

 

 別の生徒には、帰宅時に誰と行動するか。

 

 また別の生徒には、試験中に誰の指示を優先したか。

 

 質問の形は違う。

 

 だが、集めている情報は同じだった。

 

「反応を見られた」

 

 スザクが言う。

 

「池の?」

 

「池だけじゃない。誰が来るかも」

 

 平田が顔を上げる。

 

「僕が池君を探したことも?」

 

「Cクラスがどこまで見ていたかは分からない。ただ、池が戻らないことに誰が気づき、誰が探しに出るかは確認材料になる」

 

「じゃあ、助けに行かない方がよかった?」

 

「違う」

 

 ルルーシュが否定する。

 

「助けないことを選べば、龍園へ情報を与えない代わりに、池を一人で残すことになる。順序が逆だ」

 

「情報を隠すために、危険を放置するべきじゃない」

 

 スザクも続ける。

 

「ただ、助けた後に何を見られたかは考える必要がある」

 

 ルルーシュは掲示板へ近づく。

 

 記録された名前と場所を、端末へ移していく。

 

 池。

 

 高円寺。

 

 須藤。

 

 佐藤。

 

 平田。

 

 直接質問された者。

 

 途中で会話へ入った者。

 

 連絡を受けた者。

 

 探しに出た者。

 

 一つずつなら、ただの接触だった。

 

 線で結べば、誰が誰へ反応するかが見える。

 

「龍園は、候補者の名簿を作っているんじゃない」

 

 堀北が近くまで来る。

 

「どういうこと?」

 

「誰かを呼び止める。別の誰かが動く。その反応を記録する」

 

 ルルーシュは端末上の名前を線で結んだ。

 

「誰が誰を庇うか。誰が誰の不在へ気づくか。誰が誰のためなら危険へ入るか」

 

 線が増えていく。

 

 平田から池。

 

 スザクから池。

 

 堀北から須藤。

 

 複数の生徒から平田。

 

 クラスの中心にいる人間だけではない。

 

 表では関係が薄く見える組み合わせにも、接触を重ねれば反応が出る。

 

「人間関係を調べている」

 

 平田が言った。

 

「それだけじゃない」

 

 ルルーシュは画面を見る。

 

「平時の関係なら、普段の観察で足りる。龍園が欲しいのは、圧力がかかった時にだけ現れる線だ」

 

「恐怖へ反応する関係……」

 

 スザクの言葉に、ルルーシュは頷く。

 

「誰が誰を庇うかを、地図にしている」

 

 堀北は画面へ並んだ線を見る。

 

「その地図から、匿名の介入者を見つけるつもり?」

 

「本人を直接見つける必要はない。強く反応する相手が分かれば、そこへ圧力をかけられる」

 

「止める方法は」

 

「接触自体を完全には止められない。だが、孤立させないことはできる」

 

 ルルーシュは更新された用紙を指した。

 

「記録を残す。一人で行かない。人目のある場所へ移す。誰かが遅れていれば確認する」

 

「それでも、本人が黙って呼び出しに応じたら?」

 

 スザクが聞く。

 

 ルルーシュはすぐには答えなかった。

 

 安全手順は、使われて初めて機能する。

 

 本人が事情を隠し、連絡を拒めば、全てを追えるわけではない。

 

「その場合まで防げるとは言わない」

 

 ルルーシュは答えた。

 

「だから、誰かの様子が変わった時に、周囲が気づける状態を作る」

 

 万能な監視網ではない。

 

 全員の秘密を暴く仕組みでもない。

 

 ただ、一人が消えた時に、消えたことだけは分かるようにする。

 

 それが今できる範囲だった。

 

     ◇

 

 同じ頃。

 

 Cクラスの教室では、龍園が真鍋の証言を一つずつ整理していた。

 

 石崎からは、池へ質問を重ねた結果、スザクが現れたと報告が入っている。

 

 圧力をかければ、普段は見えない線が動く。

 

 方法は使える。

 

 匿名の連絡。

 

 船内の非常階段。

 

 軽井沢を囲んだ三人。

 

 隠れた場所から撮られた映像。

 

 その映像が届いた後、止まった接触。

 

 送り主は不明。

 

 軽井沢本人も名前を口にしていない。

 

 Xとの関係も不明。

 

 それでも、他の記録より線は濃かった。

 

 見えない誰かが、軽井沢の周囲で動いた。

 

 偶然にしては、準備されすぎている。

 

 無関係と切るには、行動の変化が大きすぎる。

 

 龍園は、真鍋の証言記録を開く。

 

 画面の下に、新しい項目を作った。

 

 Xへつながる可能性のある人物。

 

 その欄へ、一つの名前を書き加える。

 

 軽井沢恵。

 

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